説明

横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版

【課題】鋼床版等を構成する横リブとデッキプレートからなる板状部材との溶接部において、止端部とルート部との両方に作用する発生応力を低減することができる耐疲労性向上構造を提供する。
【解決手段】複数の横リブ3と、これら横リブ3に交差して支持される複数の開断面の開断面リブ(縦リブ)4と、これらの横リブ3および開断面リブ(縦リブ)4の上側に溶接固定されるデッキプレート5とを備えた鋼床版に使用され、横リブ3には、上下に延びるウェブ3Aを有し、ウェブ3Aには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠き凹部3Cが形成されてなり、切り欠き凹部3Cの一方の側端面には、半円切欠部31が形成されるとともに、半円切欠部31の上方で切り欠き凹部3Cの上縁端に開先部32を設けることで、耐疲労性向上構造を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの溶接構造に用いられる横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路橋等に用いられる鋼床版の構造として、横リブ(横桁)に切り欠きを設け、この切り欠きに縦リブを挿通して横リブと縦リブとを交差させ、この交差部において切り欠きに沿って横リブと縦リブとを溶接接合するとともに、横リブと縦リブの上側にデッキプレートを溶接固定したものがある(例えば、特許文献献1参照)。
このような鋼床版に用いられる縦リブとしては、断面U字形のUリブなどの閉断面リブと、上下に延びる平板状の平板リブや、上下に延びる板状の下端部に拡大部を有した断面形状のバルブプレートリブ(バルブリブ)などの開断面リブと、が知られている。そして、これらの縦リブの断面形状に応じて横リブの切り欠き形状および溶接位置が規定されている。
【0003】
すなわち、縦リブがUリブの場合には、Uリブの左右側面に沿った一対の側端縁およびUリブの下面に沿った下端縁がスカラップで連続した切り欠き形状とされ、この切り欠きの一対の側端縁部分とUリブの左右側面とが片面隅肉溶接で接合されるようになっている。一方、平板リブやバルブリブの場合には、上下に延びて下端部にスカラップを有し縦溝状で、かつ平板リブの平板部やバルブリブの拡大部が挿通可能な幅寸法を有した切り欠き形状とされ、この切り欠きの一方の側端縁部分と平板リブやバルブリブの平板部側面とが片面隅肉溶接で接合されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−280753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の開断面リブを備えた鋼床版では、以下のような問題があった。
すなわち、デッキプレートの上を走行する車両の車輪の位置、すなわちデッキプレートに作用する動荷重の位置により、繰返し応力作用が生じている。そのため、デッキプレートと横リブとの溶接部、および縦リブと横リブとが交差する位置の溶接部におけるルート部から疲労き裂が発生する可能性が高くなっている。
横リブと縦リブとの接合部における発生応力を低減させる方法としては、横リブの間隔を狭くすることが行われている。通常の鋼床版は横リブの間隔を2.5mまで広げることが許されているが、それを1.25m間隔まで狭くして発生応力を低減しても、十分な疲労防止効果は得られていない。さらに、この間隔を狭くするほど溶接接合箇所が増加し、製作コストが増加する。ただし、この場合、デッキプレートと横リブとの溶接部の応力を低減させるまでには至らない。
【0006】
ところで、鋼床版を持つ橋梁の主桁の鉛直リブの疲労性能を向上させる工法として、半円切り欠き工法が知られている。この半円切り欠きは、鉛直リブの上端部分に設けられるものであり、デッキプレート側の止端部からの疲労き裂を防止することが可能となるが、ルート部からの疲労き裂の発生に対しては効果がないという問題があった。
また、鉛直リブは圧縮応力と曲げ応力のみが作用するのに対し、横リブとデッキプレートの溶接部は圧縮のみならず引張も作用することから、デッキプレートと横リブの交差部に半円切り欠き工法を適用してもルート側からの疲労き裂発生を防止することができないため、十分な効果が得られず、その点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鋼床版等を構成する横リブと板状部材との溶接部において、止端部とルート部との両方に作用する発生応力を低減することができる横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る横リブの疲労向上構造では、複数の横リブと、これら横リブに交差して支持される複数の開断面の縦リブと、これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定される板状部材とを備えた溶接構造に使用される横リブの疲労向上構造であって、横リブには、上下に延びるウェブを少なくとも有し、このウェブには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠き凹部が形成されてなり、切り欠き凹部の一方の側端面には、半円切欠部が形成されるとともに、半円切欠部の上方で切り欠き凹部の上縁端に開先部が設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版では、上述した横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版であって、複数の横リブは主桁に支持されるとともに、これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定される板状部材がデッキプレートであることを特徴としている。
【0010】
これにより、バルブプレート、または平板等の開断面リブを縦リブに使った鋼床版において、本発明の構造が適用される横リブ形状となる。
【0011】
本発明では、横リブにおける切り欠き凹部の側縁端に半円切欠部を設けることで、板状部材に作用する圧縮応力と曲げ応力を低減することができるので、横リブの板状部材側の止端部から生じる疲労き裂を防止することができる。そして、切り欠き凹部の上縁端に開先部を設けることで、板状部材に作用する引張応力を低減することができるので、横リブの板状部材側のルート部に生じる疲労き裂を防止することができる。
このように本発明の横リブの疲労向上構造では、圧縮応力と引張応力との両方に対応することができるので、例えば走行する車両の車輪の位置によって圧縮、引張の両方の曲げが発生するデッキプレートと、横リブとの溶接部を備えた鋼床版に対してはとくに好適である。
【0012】
また、半円切欠部の半径寸法を大きくすることなく、上述した疲労向上効果を発揮することが可能となるので、横リブに要求される剛性や強度を低下させることがないという利点がある。
【0013】
また、本発明に係る横リブの疲労向上構造では、開先部は、横リブの厚さ寸法の1/2よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版には、上述した横リブの疲労向上構造を用い、主桁に支持される複数の横リブと、この横リブに交差して支持される複数の縦リブと、これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定されるデッキプレートとを備えた鋼床版であって、横リブは、上下に延びるウェブを少なくとも有し、このウェブには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠きが形成され、縦リブは、上下に延びるウェブと、このウェブの下端部に連続するフランジとから略逆T字形または略L字形の断面を有し、横リブの切り欠きに対応した位置のフランジが切り欠かれて形成され、横リブの切り欠きに縦リブのウェブが挿通された状態で、横リブおよび縦リブのウェブ同士が切り欠きに沿って溶接接合されていることを特徴としているものがある。
【0015】
また、この本発明に係る横リブの疲労向上構造を用いた、略逆T字形または略L字形の断面を有し、横リブの切り欠きに対応した位置のフランジが切り欠かれて形成され、横リブの切り欠きに縦リブのウェブが挿通された状態で、横リブおよび縦リブのウェブ同士が切り欠きに沿って溶接接合されていることを特徴としている鋼床版では、横リブ同士の間隔が3m以上かつ8m以下の範囲に設定されていることが好ましい。
このような範囲に横リブ同士の間隔を設定することで、横リブ影響線の主要な部分にトラック等の車両の後輪荷重が1台分のみとなるようにすることができ、横リブの板状部材側の止端部から生じる疲労き裂をより確実に防止することができる。なお、普通のバルブリブや平板リブの場合は横リブ間隔は2.5m以下に制限されている。
【0016】
また、本発明に係る横リブの疲労向上構造では、溶接構造は、既設構造物であり、既設構造物に対して、半円切欠部と開先部を設ける補修に用いるようにしてもよい。
この場合、既設の横リブに対して、半円切欠部と開先部を設け、このとき開先部の形状を例えばJ型、或いは半U型に形成することでオーバーヘッドとなる施工条件であっても補修溶接を行うことができる。したがって、止端部とルート部の両方に作用する発生応力を低減することが可能な補修構造を実現することができ、これら止端部とルート部からの疲労き裂を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版によれば、鋼床版等を構成する横リブと板状部材との溶接部において、止端部とルート部との両方に作用する発生応力を低減することができ、これら止端部とルート部からの疲労き裂を防止して、疲労寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態による横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版の概要を示す斜視図である。
【図2】図1に示す疲労向上構造の一部を拡大した斜視図である。
【図3】横リブの切り欠き凹部の構成を示す正面図である。
【図4】図3の一部の切り欠き凹部を示す拡大図であって、(a)は開先部における隅肉溶接前の図、(b)は開先部における隅肉溶接後の図である。
【図5】横リブの切り欠き凹部の詳細を示す拡大斜視図である。
【図6】試験例による横リブの切り欠き凹部の形状を示す図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
【図7】試験例による結果を示す図である。
【図8】第2の実施の形態による疲労向上構造を示す斜視図であって、図2に対応する図である。
【図9】図8に示す横リブの切り欠き凹部の側面図であって、図3に対応する図である。
【図10】図3の一部の切り欠き凹部を示す拡大図であって、開先部における隅肉溶接後の図である。
【図11】第3の実施の形態による疲労向上構造を示す図であって、(a)は開先部における隅肉溶接前の図、(b)は開先部における隅肉溶接後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態による横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版について、図面に基づいて説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本実施の形態による横リブの疲労向上構造は、道路橋の鋼床版1に適用されている。すなわち、この道路橋は、図示しない基礎や支柱からなる下部工と、支柱間に渡って架設される鋼製の主桁2、2と、一対の主桁2、2間に支持される中間部の鋼床版11および主桁2の両側方に支持される片持ち状の鋼床版12と、を有して構成されている。そして、鋼床版1(11、12)は、主桁2に支持される複数の横リブ3と、この横リブ3に交差して支持される複数の縦リブをなすバルブリブまたは板リブなど(以下、統一して開断面リブ4、4、…という)と、これらの横リブ3および開断面リブ4の上側に溶接固定されるデッキプレート5(板状部材)とを備えて構成されている。
【0021】
横リブ3は、上下に延びるウェブ3Aと、このウェブ3Aの下端部に一体化されたフランジ3Bとを有した略上下逆T字形または板状に形成されており、横リブ3のウェブ3Aには、図2に示すように、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠き凹部3C、3C、…が横リブ3の長手方向に沿って所定の間隔をあけて形成されている。
ここで、横リブ3、3同士の間隔は、現在の道路橋示方書では最大2.5mに制限されている。さらに、バルブリブや板リブを縦リブとして用いる構造の場合は、この間隔は1.5m以下など非常に小さくなる傾向がある。これは、バルブリブの寸法が200mm程度と小さく、輪荷重によるモーメントにより発生応力が高くなるためである。板リブも座屈制限により基本的に板厚の13倍程度に高さが制限されるため、12mm厚の板の場合で150mm程度の高さにしかならないため、やはり横リブ間隔が小さくなる傾向にある。
【0022】
そして、図2、図3、及び図4(a)、(b)に示すように、開断面リブ4は、ウェブ4Aが横リブ3の切り欠き凹部3Cに挿通され、この挿通された状態で横リブ3および開断面リブ4のウェブ4Aが切り欠き凹部3Cに沿って隅肉溶接され(第1溶接部W1:両隅肉)、この溶接接合により横リブ3と開断面リブ4とが一体化されている。さらに、横リブ3および開断面リブ4の上端縁3a、4aと、デッキプレート5の下面5aとが両面隅肉溶接され(第2溶接部W2、第3溶接部W3)、この溶接接合により横リブ3および開断面リブ4とデッキプレート5とが一体化されている。なお、図2では、見易くするために、一部の第3溶接部W3が省略されている。
【0023】
横リブ3の切り欠き凹部3Cの形状は、道路橋示方書や各道路会社で標準的な形状が決められており、開断面リブ4のウェブ4Aの板厚よりも所定寸法(例えば、15〜35mm)だけ大きい幅寸法を有した溝状に形成されている。そして、切り欠き凹部3Cの下端部には、スカラップ3Dが形成されている。そのスカラップ3Dの大きさも前記文書で決められているが、開断面リブ4のフランジ4Bよりも大きくなっている。
【0024】
また、横リブ3の切り欠き凹部3Cには、他方の側端縁3cにおいてスカラップ3Dより上側であってデッキプレート5側(上部側)の位置に半円切欠部31が形成されており、この半円切欠部31よりも上側で切り欠き凹部3Cの上縁端に開先部32が設けられている(図5参照)。半円切欠部31は、切り欠き面が所定の半径寸法(例えば、50mm)の曲面に形成され、開先部32に対して近接した位置で所定の間隔をもって配置されている。
【0025】
また、図5に示すように、開先部32は、横リブ3の厚さ寸法tよりも小さく設定され、例えば横リブ3の厚さ寸法tの略1/2(半分)の開先寸法に設定することができる。そして、その開先を埋めたうえで、所定の脚長を確保したまわし溶接がこの横リブ3のスカラップ部の端部(4D)に形成される。
【0026】
次に、上述したように構成された横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版の作用について、図面に基づいて説明する。
図4(a)、(b)に示すように、横リブ3における切り欠き凹部3Cの側縁端に半円切欠部31を設けることで、デッキプレート5に作用する曲げ応力を低減することができるので、横リブ3のデッキプレート5側の止端部Pから生じる疲労き裂を防止することができる。また、デッキプレート5と横リブ3の第3溶接部W3に作用する圧縮応力を低減することができるので、この第3溶接部W3に発生する止端からの疲労き裂を防止することができる。
そして、切り欠き凹部3Cの上端に開先部32を設けることで、デッキプレート5と横リブ3の間の溶接ルート部Rに作用する引張応力を低減することができるので、横リブ3のデッキプレート5側のルート部Rに生じる疲労き裂を防止することができる。
【0027】
このように本実施の形態では、圧縮応力と引張応力との両方に対応することができるので、走行する車両の車輪の位置によって圧縮、引張の両方の曲げが発生するデッキプレート5と横リブ3との溶接部(第3溶接部W3)を備えた本実施の形態のような鋼床版1に対してはとくに好適である。
また、半円切欠部31の半径寸法を大きくすることなく、上述した疲労向上効果を発揮することが可能となるので、横リブ3に要求される剛性や強度を低下させることがないという利点がある。
【0028】
上述した本第1の実施の形態による横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版では、鋼床版1を構成する横リブ3とデッキプレート5との溶接部(第3溶接部W3)において、止端部Pとルート部Rの両方に作用する発生応力を低減することができ、これら止端部Pとルート部Rからの疲労き裂を防止して、疲労寿命を向上させることができる。
【0029】
次に、上述した実施の形態による横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版の効果を裏付けるために行った解析例について以下説明する。
【0030】
本解析例では、上述の実施の形態の半円切欠部31と開先部32とを有する横リブ3を対象とした実施例(図6(a))と、半円切欠部と開先部を形成していない図6(b)に示す比較例1と、半円切欠部31のみを有する図6(c)に示す比較例2とのそれぞれにおいてデッキプレート5上に荷重を与えたときの発生応力(MPa)を測定し、本実施の形態の有効性について確認した。
【0031】
ここで、図6(a)〜(c)において、符号Pは止端部位置、符号Raは実施例による開先部32によるルート部の端部位置(以下、単に第1ルート部という)、符号Rbはデッキプレートと横リブ3との第3溶接部W3のルート部の端部位置(以下、単に第2ルート部という)、をそれぞれ示している。
【0032】
図7は、本試験例による結果であって、横軸が溶接止端部Pを基準としたデッキプレート5の横リブ3の長手方向に沿った距離(mm)を示し、縦軸に発生応力(MPa)を示している。
図7に示すように、比較例1、比較例2、実施例の順で発生応力が小さくなっているのがわかる。そして、比較例1、比較例2においては、第2ルート部Rbでは、比較例1と比較例2がほぼ同じ発生応力となっている。つまり、止端部Pにおける発生応力は、比較例1で略325MPaであり、比較例2で略275MPaとなることから、比較例2で半円切欠部31を設けることで発生応力が15%程度低減されることがわかる。しかし、第2ルート部Rbでの発生応力は、比較例1と比較例2が共に略175Mpaであり、両者の差が生じていないことから、比較例2における半円切欠部31のみを設けた効果が第2ルート部Rbには及ばないことがわかる。
【0033】
これに対して、実施例では、止端部Pでの発生応力は220MPaとなり、比較例1に対して30%以上、比較例2に対して20%程度の応力低減効果があることが確認できる。また、比較例1、2の第2ルート部Rbと実施例の第1ルート部Raとにおける発生応力を比較すると、比較例1、2が略175MPaであり、実施例が略70MPaであり、50%以上の応力低減効果があることが確認できた。これは、実施例における開先部32を設けた効果であることがわかる。
【0034】
次に、本発明の横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版による他の実施の形態および変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0035】
(第2の実施の形態)
図8に示すように、本第2の実施の形態による横リブの疲労向上構造は、道路橋の新型鋼床版1Aに適用されている。すなわち、この道路橋は、図示しない基礎や支柱からなる下部工と、支柱間に渡って架設される鋼製の主桁2、2(図1参照)と、一対の主桁2、2間に支持される中間部の鋼床版11および主桁2の両側方に支持される片持ち状の鋼床版12と、を有して構成されている。そして、鋼床版1A(11、12)は、主桁2に支持される複数の横リブ3と、この横リブ3に交差して支持される複数の略L字状リブ6、6、…(縦リブ)と、これらの横リブ3および略L字状リブ6の上側に溶接固定されるデッキプレート5(板状部材)とを備えて構成されている。
【0036】
横リブ3は、図9に示すように、上下に延びるウェブ3Aと、このウェブ3Aの下端部に一体化されたフランジ3Bとを有した略上下逆T字形またはダイアフラム状に形成されており、横リブ3のウェブ3Aには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠き凹部3C、3C、…が横リブ3の長手方向に沿って所定の間隔をあけて形成されている。ここで、横リブ3、3同士の間隔は、横リブ影響線の主要な部分にトラック等の車両の後輪荷重が1台分のみとなるように、3m以上かつ8m以下の範囲に設定されている。
また、図9および図10に示すように、略L字状リブ6は、上下に延びるウェブ6Aと、このウェブ6Aの下端部に連続するフランジ6Bとから略L字形または略T字形の断面を有して形成されている。この断面は原則的には溶接組み立て部材であるが、圧延部材でもかまわない。
【0037】
そして、図10に示すように、略L字状リブ6は、ウェブ6Aが横リブ3の切り欠き凹部3Cに挿通され、この挿通された状態で横リブ3および略L字状リブ6のウェブ6A、6A同士が切り欠き凹部3Cに沿って隅肉溶接され(第1溶接部W1)、この溶接接合により横リブ3と略L字状リブ6とが一体化されている。さらに、横リブ3および略L字状リブ6のウェブ6A、6Aの上端縁3a、6aと、デッキプレート5の下面5aとが隅肉溶接され(第2溶接部W2、第3溶接部W3)、この溶接接合により横リブ3および略L字状リブ6とデッキプレート5とが一体化されている。
【0038】
横リブ3の切り欠き凹部3Cは、略L字状リブ6のウェブ6Aの板厚よりも所定寸法(例えば、15〜35mm)だけ大きく、かつ略L字状リブ6のフランジ6Bの幅寸法よりも十分に小さな幅寸法を有した溝状に形成されている。そして、切り欠き凹部3Cの下端部には、スカラップ3Dが形成されている。また、略L字状リブ6と横リブ3とは、略L字状リブ6のウェブ6Aの一方の側面6bが切り欠き凹部n3Cの一方(図10で紙面左側)の側端縁3bに近接し、ウェブ6Aの他方の側面6cが切り欠き凹部3Cの他方(図10で紙面右側)の側端縁3cから前記所定寸法と略同一距離だけ離れた状態で、略L字状リブ6のウェブ6Aにおける一方の側面6bと横リブ3のウェブ3Aとが切り欠き凹部3Cの一方の側端縁3cに沿って溶接接合されている。
【0039】
また、横リブ3の切り欠き凹部3Cには、他方の側端縁3cにおいてスカラップ3Dより上側であってデッキプレート5側(上部側)の位置に半円切欠部n31が形成されており、この半円切欠部31よりも上側で切り欠き凹部3Cの上縁端に開先部32が設けられている。半円切欠部31は、切り欠き面が所定の半径寸法(例えば、50mm)の曲面に形成され、開先部32に対して近接した位置で所定の間隔をもって配置されている。
【0040】
また、開先部32は、開先面が直線で、横リブ3の厚さ寸法t(図5参照)よりも小さく設定され、例えば横リブ3の厚さ寸法tの略1/2(半分)の開先寸法に設定することができる。
【0041】
(第3の実施の形態)
図11(a)、(b)に示すように、第3の実施の形態による横リブの疲労向上構造は、既設の鋼床版1に対する補強、補修に適用した一例であり、開先部32の形状をJ型、或いは半U型に形成したものである。
この場合、既設の横リブ3に対して、半円切欠部31と開先部32を設ける。このとき、開先部32がJ型、或いは半U型となっているので、オーバーヘッドとなる施工条件であっても補修溶接(図11(b)の符号W4)が可能となり、上述した第1の実施の形態と同様の疲労向上構造を実現することができる。そのため、止端部Pとルート部Rの両方に作用する発生応力を低減することができ、これら止端部Pとルート部Rからの疲労き裂を防止して、疲労寿命を向上させることができる。
【0042】
以上、本発明による横リブの疲労向上構造およびこれを用いた鋼床版の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0043】
例えば、本実施の形態では、縦リブとして開断面リブ4や略L字状リブ6を採用しているが、これに限定されることはない。
また、半円切欠部31や開先部32の大きさについても横リブ3の厚さ寸法やピッチなどの条件に基づいて適宜設定することが可能である。
【0044】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 鋼床版
2 主桁
3 横リブ
3A ウェブ
3B フランジ
3C 切り欠き凹部
4 開断面リブ(縦リブ)
5 デッキプレート(板状部材)
6 略L字状リブ(縦リブ)
31 半円切欠部
32 開先部
t 横リブの厚さ寸法
P 止端部
R ルート部
Ra 第1ルート部
Rb 第2ルート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の横リブと、これら横リブに交差して支持される複数の開断面の縦リブと、これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定される板状部材とを備えた溶接構造に使用される横リブの疲労向上構造であって、
前記横リブには、上下に延びるウェブを少なくとも有し、このウェブには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠き凹部が形成されてなり、
該切り欠き凹部の一方の側端面には、半円切欠部が形成されるとともに、該半円切欠部の上方で前記切り欠き凹部の上縁端に開先部が設けられていることを特徴とする横リブの疲労向上構造。
【請求項2】
前記開先部は、前記横リブの厚さ寸法の1/2よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の横リブの疲労向上構造。
【請求項3】
前記溶接構造は、既設構造物であり、
該既設構造物に対して、前記半円切欠部と前記開先部を設ける補修に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の横リブの疲労向上構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版であって、
複数の前記横リブは主桁に支持されるとともに、
これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定される前記板状部材がデッキプレートであることを特徴とする横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の横リブの疲労向上構造を用い、
主桁に支持される複数の横リブと、この横リブに交差して支持される複数の縦リブと、これらの横リブおよび縦リブの上側に溶接固定されるデッキプレートとを備えた鋼床版であって、
前記横リブは、上下に延びるウェブを少なくとも有し、このウェブには、上方に開口して下方に延びる複数の切り欠きが形成され、
前記縦リブは、上下に延びるウェブと、このウェブの下端部に連続するフランジとから略逆T字形または略L字形の断面を有し、前記横リブの切り欠きに対応した位置の前記フランジが切り欠かれて形成され、
前記横リブの切り欠きに前記縦リブのウェブが挿通された状態で、該横リブおよび縦リブのウェブ同士が前記切り欠きに沿って溶接接合されていることを特徴とする横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版。
【請求項6】
前記横リブ同士の間隔が3m以上かつ8m以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の横リブの疲労向上構造を用いた鋼床版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−24008(P2013−24008A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163126(P2011−163126)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】