説明

横編機

【課題】編成速度をより高速で編成する場合でも糸送りローラを大型化することなく、編糸同士の絡みつきをなくして糸切れを防止する糸送りローラを備えた横編機を提供できるようにする。
【解決手段】編糸供給源から横編機の針床に進退摺動可能に収納された編針に編糸を供給する編糸供給経路中に、横編機の長手方向となる側端部の少なくとも一方に、給糸速度以上の表面速度で回転する糸送りローラを設け、当該糸送りローラの編糸入り口側部分と編糸出口側部分とに、糸送りローラの軸方向に対して互いに位相が異なる第1糸ガイドと第2糸ガイドとを設けた横編機であって、糸送りローラに螺旋状に巻きつけられた編糸を掛止する第3糸ガイドを、第1糸ガイドと第2糸ガイドの位相間に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編糸供給源から編針にいたる間の編糸供給経路の編糸の供給が円滑に行えるようにするために、編糸供給経路中に給糸を補助する糸送りローラを設けた横編機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横編機での編地の編成時において編糸は、編糸供給源から編糸供給経路を通じてヤーンフィーダに送られ、ヤーンフィーダから針床の編針へ連続的に案内されてゆくが、編成速度が速い場合、糸の供給がついてゆかずに糸切れすることがある。
これを防ぐために、例えば特許文献1に示すように横編機では編糸供給源から編針にいたる間の編糸供給経路中に給糸速度以上の表面速度で回転して編糸を送り出す糸送りローラを設けたものがある。
糸送りローラの表面は滑らかな面で形成されており、この糸送りローラに巻きつけられた編糸は、表面を滑るように送り出されるようになっている。
【特許文献1】特公平07−72387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、生産性の向上を目的として編成速度を高速で行いたいという要請がある。
そこで糸送りローラを設けた横編機の編成速度をさらなる高速で編成する場合、編糸の供給不足を生じて糸切れが発生する。
また、カシミヤなどの弱い編糸で編成する場合でも糸切れしやすいという問題がある。
こうした問題に対処するためには、編糸の供給量を増やすために、例えば糸送りローラの径を大きくして編糸の接触長さを長くすることや、糸送りローラへの編糸の巻きつける回数を増やして編糸との接触長さを長くすること等が考えられる。
【0004】
ところが、上記糸送りローラの径を大きくして編糸の接触長さを長くする場合には、その大径の糸送りローラを製作するためにコストが高くなるだけでなく、装置全体が大形化してしまうという問題がある。
糸送りローラへの編糸の巻きつける回数を増やして編糸との接触長さを長くする場合には、上記コストの高騰を避けることは出るものの、巻きつけられた編糸は糸送りローラの表面を常時滑っている状態で、左右に揺れ動いているため、隣接する編糸同士が絡みやすくなってしまうという問題があった。
また、こうした問題は毛足の長い意匠撚糸を編糸に使用する場合に顕著に現れる。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて提案されたもので、編成速度をより高速で編成する場合や、カシミヤなどの弱い編糸で編成する場合でも糸送りローラを大型化することなく、編糸同士の絡みつきをなくして糸切れを防止する糸送りローラを備えた横編機を提供できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明にかかる横編機は、編糸供給源から横編機の針床に進退摺動可能に収納された編針に編糸を供給する編糸供給経路中に、横編機の長手方向となる側端部の少なくとも一方に、給糸速度以上の表面速度で回転する糸送りローラを設け、当該糸送りローラの編糸入り口側部分と編糸出口側部分とに、糸送りローラの軸方向に対して互いに位相が異なる第1糸ガイドと第2糸ガイドとを設けた横編機であって、糸送りローラに螺旋状に巻きつけられた編糸を掛止する第3糸ガイドを、第1糸ガイドと第2糸ガイドの位相間に設けたことを最も主要な特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の横編機では、上記第3糸ガイドが、基部に糸送りローラの軸方向と平行な軸部材が挿通されており、当該軸部材を回転中心として作用位置と非作用位置とに揺動可能に構成されていることや、糸送りローラに編糸を2周以上螺旋状に巻きつけ、糸送りローラに巻きつけられた編糸が1周を越えた以降の編糸を、第3糸ガイドに掛止するように設けられていることも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の横編機によれば、編糸供給源から横編機の針床に進退摺動可能に収納された編針に編糸を供給する編糸供給経路中に、給糸速度以上の表面速度で回転する糸送りローラを設け、当該糸送りローラの編糸入り口側部分と編糸出口側部分とに、糸送りローラの軸方向に対して互いに位相が異なる第1糸ガイドと第2糸ガイドとを設け、糸送りローラに螺旋状に巻きつけられた編糸を掛止する第3糸ガイドを、第1糸ガイドと第2糸ガイドの間に設けるようにしてあるので、編糸と糸送りローラとの接触長さを長くとれ、高速でも編糸を十分に供給できながらも、編糸同士の絡みによる糸切れをなくしてその生産性を向上させることができる。
【0009】
さらに、糸送りローラの径を大きくしなくても済むことから、糸送りローラを大型化することによるコストの上昇や大型化をなくすことができる利点もある。
加えて、糸送りローラに巻きつけた編糸に第3糸ガイドを設けるだけの簡単な構造であることから既存の横編機にも簡単に実施することができる利点もある。
また、第3糸ガイドが、基部に糸送りローラの軸方向と平行な軸部材が挿通されており、当該軸部材を回転中心として作用位置と非作用位置とに揺動可能に構成したものでは、不使用の第3糸ガイドは非作用位置に倒しておけるので、空間を確保することができ、作用位置にある第3糸ガイドのメンテナンスが容易に行える利点もある。
そして、糸送りローラに編糸を2周以上螺旋状に巻きつけ、糸送りローラに巻きつけられた編糸が1周を越えた以降の編糸を掛止するように第3糸ガイドを設けたものでは、第3糸ガイドの絡み防止機能を有効に発揮させることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明にかかる横編機の最もこの好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は横編機の概略構成を示す斜視図であって、図中符号1は横編機を全体的に示す。
この横編機1は、フレーム2に、編針3を進退摺動可能に収納したニードルベッド4をその歯口を突き合わせた状態で前後に一対支持し、編針3を進退摺動操作するキャリッジ5を、両ニードルベッド4上を摺動可能に設け、前記ニードルベッド4及びキャリッジ5を収納するカバー6の上面部分に編糸コーン(編糸供給源)7の載置台8が設けられている。
この載置台8に載置された編糸コーン7から繰り出された編糸9は、後述する編糸供給経路10でニードルベッド4の編針3に給糸されるようになっている。
【0011】
編糸供給経路10は、編糸コーン7の編糸9が、フレームの上部に設けられた天バネ装置11から、糸送りローラ12を有するサイドテンション装置13を介してキャリッジ5の摺動時に選択されて連行されるヤーンフィーダ14からニードルベッド4の編針3に供給されるように形成されている(図1乃至図3参照)。
上記サイドテンション装置13は、ニードルベッド4の長手方向の両側端部に設けられており、天バネ装置11から供給される編糸9を糸送りローラ12の編糸入り口側部分12aにガイドするための第1糸ガイド100と、糸送りローラ12と、糸送りローラ12の編糸出口側部分12bで編糸9をガイドする第2糸ガイド200とを備えてなる。
【0012】
第1糸ガイド100は、糸ガイド孔16と、糸ガイド孔16から供給される編糸9の長さを計測するロータリーエンコーダ17とで構成されている。
第2糸ガイド200は、皿状部材を重ね合わせた状態に形成されたテンションディスク18と、後述する張力調整用の支持ロッド30・30で当該テンションディスク18に接触する角度を調節して編糸9の張力を調整し、張力を調整された編糸9のたるみを防止するテンションワイヤ19と、テンションワイヤ19からの編糸9をヤーンフィーダ14にガイドするためのガイド孔20とで構成されている。
【0013】
そして、第1糸ガイド100から糸送りローラ12に給糸される編糸9の編糸入り口側部分12aと、糸送りローラ12の編糸出口側部分12bとは図2に示すように糸送りローラ12の軸心S方向に位相をずらしてある。
したがって、編糸入り口側部分12aからの編糸9は、編糸出口側部分12bに至る位相間の糸送りローラ12の表面に螺旋状に巻きつけられる。
尚、本例では編糸9をロータリーエンコーダ17で測長しながら、糸送りローラ12に供給するようにしてあるが、ロータリーエンコーダ17を介さないで、編糸9を糸送りローラ12給糸するようにして第1糸ガイド100を形成する場合もある。
【0014】
上記テンションワイヤ19は、上端の支持部分22に設けられたダイヤル23が操作されることによりその傾斜角度が変化し、編糸9がテンションディスク18に接触する角度が変わるようになっている。
上記糸送りローラ12は、その表面が滑らかな円筒状に形成され、電動モータ等の駆動手段24により給糸速度以上の表面速度で回転するようになっている。
また、糸送りローラ12の下方には、横編機1が高速で編成される時にその編糸9の供給を確保するために糸送りローラ12の表面に複数回(本例では2回)螺旋状に巻きつけられた編糸9同士が絡まないようにするための第3糸ガイド25がテンションワイヤ19に対応して複数個設置されている。
【0015】
第3糸ガイド25は、例えばセラミック製で上半部にフック26、下半部に環状の枢支部27が一連に形成されている(図5参照)が、編糸9をガイドするものの部材はセラミック製に限られずチタンやアルミナ等の金属製にすることも可能である。
上記第3糸ガイド25の枢支部27は、図2乃至図5に示すように、テンションディスク18の支持台28から糸送りローラ12とテンションディスク18との間にブラケット29を立ち上げ、このブラケット29に前後一対の張力調整用の支持ロッド(軸部材)30・30が糸送りローラ12の軸方向と平行に取り付けられ、前方の支持ロッド30に第3糸ガイド25が回動可能に枢支されている。
【0016】
この張力調整用の支持ロッド30・30は、図3に示すように糸送りローラ12から出た編糸9を後方の支持ロッド30の後方を通ってテンションディスク18に浅く接触させた場合は編針9に弱いテンションが付与され、両支持ロッド30・30の間を通してテンションディスク18に浅く接触させた場合は編針9には強いテンションが付与されるものである。
そして、前方の支持ロッド30に枢支された第3糸ガイド25を使用しない場合は、図5の使用する作用位置からフック26が下方に吊り下げられた状態の非作用位置に揺動されるようになっている。尚、図5中の符号32は第3糸ガイド25の位置決め用リングである。
【0017】
上記のように構成された横編機1により高速で編成する場合の糸送りローラ12の作用を次に説明する。
先ず、載置台8に編糸コーン7を載置し、編糸コーン7から繰り出され、編糸供給経路10の天バネ装置11からサイドテンション装置13に供給される編糸9を第1糸ガイド100からロータリーエンコーダ17を介して、糸送りローラ12の表面に2周巻きつけた後、テンションディスク18、テンションワイヤ19及び第2糸ガイド200を順に介してヤーンフィーダ14に給糸するように糸通しする(図3及び図4参照)。
こうして糸送りローラ12の表面に螺旋状に2周巻きつけられた編糸9は、位相の異なる編糸入り口側部分12aと編糸出口側部分12bとの間に螺旋状に巻きつけられた状態になる(図4参照)。
【0018】
そして上記糸送りローラ12の表面に巻きつけられた編糸9の1周目を越えた編糸9の一部は、作用位置に起こした第3糸ガイド25のフック26に掛止される。
尚、使用しない第3糸ガイド25は、フック26が下方に吊り下げられた非作用位置に倒されている。
ここで、糸送りローラ12の表面に巻きつける編糸9の1周目について図6で説明する。
同図は、糸送りローラ12をその軸心方向から見た概略図であって、図において三角印33はロータリーエンコーダ17を介して第1糸ガイド100から供給される編糸9が糸送りローラ12の表面に初めて接する部分であり、この部分から糸送りローラ12の表面に巻きつけられた編糸9が再び三角印33の部分に来た時点が1周目である。
したがって、上記「糸送りローラ12の表面に巻きつけられた編糸9の1周目を越えた編糸9の一部は、作用位置に起こした第3糸ガイド25のフック26に掛止される」とは、図2及び図4に示すように編糸9が再び三角印33部分に来た時点以降、2周目に至る間の編糸9が第3糸ガイド25のフック26に掛止されている状態をいう。
【0019】
編糸供給経路10中に編糸9を供給可能に装着されて横編機1が駆動されると、表面速度が給糸速度より速い速度で糸送りローラ12が高速で回転駆動される。
斯くして高速で回転駆動されている糸送りローラ12の滑らかな表面に螺旋状に巻かれた編糸9は常時滑っている状態で糸送りローラ12の軸心方向に揺れ動いている。
したがって、例えば編糸9が、毛足の長い意匠撚糸の場合には、隣接する編糸9同士が絡みやすいために、糸送りローラ12の表面に1周巻きにした編糸9を第3糸ガイド25に掛止させるようにしてもよい。
要するに糸送りローラ12の表面に螺旋状に巻きつけられた絡みやすい編糸9を第3糸ガイド25が捌いて絡みつきを防止するので、絡まりによる糸切れが防止される。
これにより、糸送りローラ12の表面と編糸9との長い接触長さによりを長くして横編機の高速の編成時にもこれに見合う編糸9を供給することができる。
【0020】
上記実施の形態では、編糸9を糸送りローラ12の表面に螺旋状に2周巻きつけるようにしてあるが、例えば図7に示すように3周巻きつけるようにしても良い。
この場合、同図に示すように2周目を越える部分の編糸9のついても上述したのと同様して設けた第3糸ガイド25に編糸9を掛止させるようにする。
さらに、上記実施の形態では、第3糸ガイド25の枢支部27を枢支するロッド30をテンションディスク18の支持台28から立設したブラケット29に支持するようにしてあるが、このブラケット29はフレーム2等の固定部分から設けるようにすることも可能である。
加えて、上記実施例の第3糸ガイド25は、金属製で上半部にフック26、下半部に環状の枢支部27を一連に形成するようにしてあるが、こうしたものに限られず、例えば図8(A)に示すように板状部材34にガイド孔35を穿設したものにすることもできる。
この場合、板状部材34の下端部を中心として作用位置と不作用位置とに揺動可能にすることもできる。
また、フック26形の第3糸ガイド25を使用する場合、図8(B)に示すように下端部を回転中心として作用位置と不作用位置とに揺動可能な板状部材34にフック26を植設して第3糸ガイド25を形成することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は本発明にかかる横編機の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置部分の概略を示す正面図である。
【図3】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置部分の概略を示す側面図である。
【図4】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の糸送りローラ部分の概略の正面図である。
【図5】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の第3糸ガイド部分の斜視図である。
【図6】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の糸送りローラ部分の説明図である。
【図7】は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の糸送りローラ部分における第3糸ガイド部分の変形例を示す概略正面図である。
【図8】(A)は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の第3糸ガイドの変形例を示す斜視図、(B)は本発明にかかる横編機に付設したサイドテンション装置の第3糸ガイドの別の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1・・・横編機
3・・・編針
7・・・編糸供給源(編糸コーン)
9・・・編糸
10・・・編糸供給経路
12・・・糸送りローラ
12a・・・編糸入り口側部分
12b・・・編糸出口側部分
100・・・第1糸ガイド
200・・・第2糸ガイド
25・・・第3糸ガイド
S・・・糸送りローラの軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編糸供給源から横編機の針床に進退摺動可能に収納された編針に編糸を供給する編糸供給経路中に、横編機の長手方向となる側端部の少なくとも一方に、給糸速度以上の表面速度で回転する糸送りローラを設け、当該糸送りローラの編糸入り口側部分と編糸出口側部分とに、糸送りローラの軸方向に対して互いに位相が異なる第1糸ガイドと第2糸ガイドとを設けた横編機であって、
糸送りローラに螺旋状に巻きつけられた編糸を掛止する第3糸ガイドを、第1糸ガイドと第2糸ガイドの位相間に設けたことを特徴とする横編機。
【請求項2】
第3糸ガイドは、基部に糸送りローラの軸方向と平行な軸部材が挿通されており、当該軸部材を回転中心として作用位置と非作用位置とに揺動可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の横編機。
【請求項3】
糸送りローラに編糸を2周以上螺旋状に巻きつけ、糸送りローラに巻きつけられた編糸が1周を越えた以降の編糸を第3糸ガイドに掛止されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の横編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−144301(P2010−144301A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325013(P2008−325013)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】