説明

樹木の保存処理方法

【課題】森林または植林の環境に悪影響を与えることなく、伐採しようとする樹木のみを立ち木のまま保存処理、乾燥、伐採、製材することを可能にする。
【解決手段】樹木の根元部にホウ酸塩を主要有効成分とする木材保存剤水溶液を注入し、該樹木の通導機能を利用して該木材保存剤水溶液を樹木全体に分布させた後、根元からの水の上昇を停止して該樹木を枯死・乾燥したのち伐採、製材する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生きた樹木の根元部分にホウ酸塩を主要成分とする木材保存剤水溶液を注入することにより樹木組織を腐朽菌、食材性昆虫、シロアリ等の木材劣化生物から守り、良質な木材を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は再生可能な優れた建築材料として高く評価されているが、腐朽や虫害などの生物劣化を受けやすい欠点がある。この欠点を克服する手段として、木材中に防腐剤や防虫剤等の薬剤を浸透させる保存処理方法が実施されている。
【0003】
保存処理では、真空や加圧のような物理的手段によって乾燥した製材中に保存剤を含む溶液や分散液を強制的に注入する方法や、未乾燥の製材中に、保存剤の濃度差を利用して水溶性保存剤を拡散浸透させる方法などがある。しかし、通常の保存処理は伐採、製材した木材を対象に行われもので、人工林や自然林を形成する樹木の虫害を防ぐものではない。
【0004】
生きた樹木を虫害から守る方法としては、立ち木に薬剤を注入する方法がある。例えば、松の樹幹にマツノザイセンチュウ制御薬剤を注入し、樹木の通導作用を利用して該薬剤を樹木全体に分布させることにより、数年間マツノザイセンチュウの活動を抑えることができる。しかし、この方法はコストが高いため、実際の応用は、観賞用などの高価な松の保護に限られている。
【0005】
森林や植林中の樹木を虫害から保護する他の手段として、殺虫剤の空中散布があるが、無差別な殺虫剤の散布は森林の生態系を乱す怖れもあり、あまり普及していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、環境に悪影響を与えることなく、伐採しようとする樹木のみを保存処理、自然乾燥したのち、伐採、製材する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、樹木の根元部にホウ酸塩を有効成分とする木材保存剤水溶液を注入し、該樹木の通導機能を利用して該木材保存剤水溶液を樹木全体に分布させた後、根元からの水の上昇を停止して該樹木を枯死・乾燥させることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明で樹幹の根元部分に注入されたホウ酸塩溶液は、樹木の通導作用により辺材部を中心に樹木全体に運ばれる。樹木はホウ酸塩の作用により枯死し、水の通導が停止するため次第に乾燥する。樹木の乾燥と並行してホウ酸塩は濃縮され、防腐・防虫・防蟻効果は増幅する。この結果、樹木中に生息する木材劣化生物は制御され、また外部からの新たな侵入も阻止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でいうホウ酸塩とは、ホウ素のオキソ酸とその塩を総称するが、特に、ホウ酸、ホウ砂、八ホウ酸二ナトリウム、およびこれらの混合物があげられる。八ホウ酸二ナトリウムは水によく溶解し、また植物組織に対する浸透性にすぐれている点で特に好ましい。
【0010】
ホウ酸塩を主要有効成分とする木材保存剤水溶液は、所定量のホウ酸塩を水に溶解して調製するが、溶液を安定化し、木材組織中でのホウ酸塩の拡散を促進する目的で少量の糖アルコール、グリセリン、ポリアルキレングリコールなどを添加してもよい。また、処理木材の識別や装飾などの目的で、染料などの着色剤を添加してもよい。
【0011】
本発明の木材保存剤水溶液中のホウ酸塩濃度は、ホウ酸換算で1%以上、15%以下である。ホウ酸換算濃度が5%以上では、ホウ酸塩の析出を防ぐ上で八ホウ酸二ナトリウムを使用することが好ましい。ホウ酸換算濃度が10%を超える場合は、水溶液からのホウ酸塩の析出を防止するため、糖アルコールのような溶液安定剤を添加することが好ましい。
【0012】
樹木にホウ酸塩を主要有効成分とする木材保存剤水溶液を注入するには、立ち木染めや松枯れ病予防などで実施されている注入方法を採用すればよい。一般には、樹木の根元部分にドリルなどで孔をあけ、この孔と保存剤水溶液を入れた容器とをプラスチックのホースなどで結合し、孔やホース内部に空気が介在しない状態で容器を孔より高い位置に固定する。容器中の溶液は、通常、樹木の蒸散活動や根圧により数週間で吸収され樹木全体に広がる。
【0013】
樹木の根元部分に注入する保存剤水溶液の量は、樹木の容積により決定するが、食材性昆虫類を対象とする場合は、樹木1立方メートルに対しホウ酸換算で1.2kg、シロアリを対象に含める場合は3.0kgが目安となる。
【0014】
樹木は、ホウ酸塩の注入によって枯死し、水の通導も自然に停止するが、所定のホウ酸塩水溶液の注入が終了した時点で根元部分の導管組織を破壊し、それ以上の水の通導を停止してもよい。水の通導が停止すると、葉の蒸散作用などで樹木の水分は失われ、ホウ酸塩は濃縮されるため、木材組織中の木材劣化生物に対するホウ酸塩の毒性は高まることになる。
【0015】
保存処理された樹木は、必要に応じて含水率や木材劣化生物の死滅を確認した後に伐採する。
【0016】
本発明を実施する時期は、対象とする木材劣化生物のライフサイクルにあわせて決定すれば、より効果的である。例えば松枯れ病対策の場合、樹液上昇が活発になる春先にホウ酸塩を主要有効成分とする水溶液を樹木の根元部分に注入すればホウ酸塩は短期間に樹木組織中にいきわたり、マツノマダラカミキリを羽化する前に駆除できる。また、マツノザイセンチュウの増殖も濃縮されたホウ酸塩によって阻止されるので、伐採した樹木を移動しても害虫の蔓延にはつながらない。
【0017】
本発明の方法により樹木を保存処理する場合、ホウ酸塩の一部は枝や葉に含まれたまま森林あるいは植林中に放置される可能性がある。この場合、予め該当する地域の土壌中のホウ素含有量を測定し、ホウ素過剰土壌の場合は、枝や葉を森林、植林中に放置しないようにする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の根元部にホウ酸塩を主要有効成分とする木材保存剤水溶液を注入し、該樹木の通導機能を利用して該木材保存剤水溶液を樹木全体に分布させた後、根元からの水の上昇を停止して該樹木を枯死、乾燥させたのち伐採することを特徴とする樹木の保存処理方法。
【請求項2】
請求項1においてホウ酸塩が実質的に八ホウ酸二ナトリウムであることを特徴とする樹木の保存処理方法。