説明

樹状細胞、該樹状細胞を含む医薬、該樹状細胞を用いた治療方法およびγδT細胞の培養方法

【課題】本発明は、γδT細胞をin vivoおよび/またはin vitroにおいて効率よく活性化及び/または増殖させるための樹状細胞、それを含む医薬、並びに該樹状細胞を用いた治療方法及び該樹状細胞によるγδT細胞培養方法を提供する。
【解決手段】末梢血単核球由来の未成熟樹状細胞をビスホスホネート系骨代謝改善薬でパルスし、γδT細胞を活性化する能力を有するようにした後、γδT細胞を含む細胞群と培養することによりγδT細胞を活性化及び/または増殖させる。これにより、患者に負担をかけることなく、γδT細胞を容易に増殖させることが可能となり、γδT細胞を用いた免疫細胞療法の実用化につながる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスホスホネート系骨代謝改善薬(以下ビスホスホネートと記す)でパルスされた樹状細胞に関する。また、該樹状細胞を含む医薬、該樹状細胞を用いた治療方法、γδT細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞は抗原提示細胞として働き、抗原を貪食・断片化して細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex、MHC)分子上に抗原エピトープとして提示する。リンパ節で、この樹状細胞とT細胞が接触すると、T細胞はその抗原エピトープを認識する。
【0003】
また、T細胞には、αβT細胞レセプターを発現したαβT細胞とγδT細胞レセプターを発現したγδT細胞が存在する。αβT細胞は獲得免疫を中心に担っており、γδT細胞は結核などの特殊な細菌感染症や腫瘍に対する免疫応答のエフェクター細胞として働き、主に自然免疫を担っている。
【0004】
最近、このγδT細胞が癌細胞に対する細胞傷害活性をも有していることが明らかとなり、γδT細胞の持つ強い抗腫瘍活性を利用した免疫療法の開発が注目されている。しかし、一般に血中にあるT細胞のうち大部分がαβT細胞であり、γδT細胞は1〜5%程度にしか過ぎない。そのため、γδT細胞を増やす方法として、マグネット法等で分離したγδT細胞をin vitroで培養を行い生体内へ戻すことが行われている。
【0005】
ここで、γδT細胞は非ペプチド抗原によっても活性化および/または増殖されることが知られており、アルキルアミン等のアルカロイド、ピロリン酸モノエステル、ビスホスホネートにより活性化および/または増殖されることが知られている。
【0006】
なかでも、ビスホスホネートを使用したin vitroでのγδT細胞培養方法は様々な研究によって検討されているが、得られるγδT細胞数が十分ではなく、治療に用いることが十分に可能な量のγδT細胞を得ようとすると、患者からの採血量を増やすことになり、患者に対する負担も大きくなる。それ故、in vitroのみならずin vivoでも容易に十分な量のγδT細胞を得ることができる技術の確立が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、γδT細胞をin vivoおよび/またはin vitroにおいて効率よく活性化および/または増殖させるための樹状細胞、該樹状細胞を含む医薬、並びに該樹状細胞を用いた治療方法および該樹状細胞を用いたγδT細胞培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために、研究を行った結果、γδT細胞に直接ビスホスホネートによる刺激を与えるのではなく、通常CTL誘導のために用いられる樹状細胞をビスホスホネートによりパルスしたものを用いることにより、γδT細胞を活性化および/または増殖できることを見出し、さらに、疾病抗原ペプチドを用いて抗原特異的なαβT細胞を誘導する場合と異なり、意外にも、未成熟樹状細胞を用いるとより好適にγδT細胞を活性化および/または増殖させ得ることを見出し、本発明を完成した。
本発明により、γδT細胞を患者に負担をかけることなく、容易に増殖させることが可能となり、γδT細胞を用いた免疫細胞療法の実用化につながる。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(1)ビスホスホネートでパルスされたことを特徴とする樹状細胞、
(2)前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする(1)記載の樹状細胞、
(3)前記ビスホスホネートがパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする(1)または(2)記載の樹状細胞。
【0011】
(4)ビスホスホネートでパルスされた樹状細胞を含むことを特徴とする医薬、
(5)前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする(4)記載の医薬、
(6)前記ビスホスホネートがパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする(4)または(5)記載の医薬。
【0012】
(7)ビスホスホネートでパルスされた樹状細胞を投与することを特徴とする治療方法、
(8)前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする(7)記載の治療方法、
(9)前記ビスホスホネートがパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする(7)又は(8)記載の治療方法、
(10)治療が癌及び/又は感染症治療であることを特徴とする(7)〜(9)いずれかの項記載の治療方法、
(11)前記樹状細胞が自己由来であることを特徴とする(7)〜(11)いずれかの項記載の治療方法。
【0013】
(12)T細胞の培養において、ビスホスホネートでパルスされた樹状細胞を加えることを特徴とするγδT細胞の培養方法、
(13)前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする(12)記載のγδT細胞の培養方法、
(14)前記ビスホスホネートがパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする(12)又は(13)記載のγδT細胞の培養方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例3の結果を示す。コントロール(ビスホスホネートでパルスされなかった樹状細胞)、Aredia、Onclast、Zometaでパルスされた樹状細胞と、反応細胞を共培養し、7日後血球計算板を用いて細胞数を測定し、さらにフローサイトメーターでγδT細胞が占める割合を測定した結果および2つの数値から算出したγδT細胞数を示す。
【図2】図2は、実施例5の結果を示す。グラフの縦軸はスポット数を横軸はスポットの強度(intensity)を示す。ネガティブコントロールとしてγδT細胞のみ、γδT細胞+Aredia、樹状細胞のみのIFN−γ産生を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)第一の実施形態;本発明樹状細胞の作製
まず、本発明の樹状細胞について詳説する。
【0016】
本発明の樹状細胞とはビスホスホネートでパルスされたことを特徴とする樹状細胞である。
【0017】
本発明の樹状細胞としては未成熟樹状細胞、成熟樹状細胞およびそれらの混合物のいずれを用いてもよいが、未成熟樹状細胞のほうがより好適にγδT細胞を活性化および/または増殖させることができるため、未成熟樹状細胞を用いるほうが好ましい。
【0018】
また、ビスホスホネートとは、骨吸収抑制作用を有し、一般的に骨粗鬆症治療薬として使用されるものであればよく、その例として、パミドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばパミドロン酸二ナトリウム・五水和物(Aredia、ノバルティスファーマ))、アレンドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばアレンドロン酸ナトリウム三水和物(Onclast、萬有製薬))、ゾレドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばゾレドロン酸ナトリウム水和物(Zometa、ノバルティスファーマ))、リセドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばリセドロン酸ナトリウム水和物)、イバンドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばイバンドロン酸ナトリウム)、インカドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばインカドロン酸二ナトリウム)、エチドロン酸、その塩および/またはそれらの水和物(例えばエチドロン酸二ナトリウム)などが挙げられる。これらの中で、とりわけパミドロン酸、アレドロン酸、ゾレドロン酸、それらの塩および/またはそれらの水和物が好ましい。
【0019】
次に、本発明の樹状細胞の調整方法について詳説する。
【0020】
まず、樹状細胞の前駆細胞を得るための試料を取得する。試料としては末梢血、骨髄液、臍帯血などが利用できるが、入手の容易さ、患者への負担の少なさを考慮して末梢血を利用することが好ましい。
【0021】
採血量は提供者の負担とならない程度の量を採血するのが好ましい。採血する方法としては、真空採血管等による全血採取を利用することができる。採取した血液には凝固が起こらないようにヘパリンやクエン酸を加えることができる。また、多量の細胞を確保する必要がある場合には、成分採血装置を用いて単核球成分を採取する方法を用いれば、直接末梢血単核球を入手することが可能である。
【0022】
次に、採取した血液から樹状細胞の前駆細胞である単核細胞を分離する。方法としては有核細胞を赤血球から分離するいかなる方法を用いることもできる。例えばフィコール分画つまりフィコールパック(Ficoll−Paque)密度勾配または溶出を利用する方法が、一般的に使用される。
なお、回収した細胞は血小板等を除去するために培地、生理食塩水、リン酸生理食塩水(以下PBSと記す)等を用いて数回洗浄することが好ましい。
【0023】
次に、回収した単核細胞から樹状細胞の前駆細胞を分離する。
CD14は樹状細胞の前駆細胞に発現しているマーカーとして知られており、Magnetic Cell Sorting (Miltenyi Biotec,以下MACSと記す)を利用して単球(CD14陽性細胞)を単離・回収する方法が簡単でかつ細胞の回収率が高いため好ましい。
あるいは、回収した単核細胞を培養フラスコに移し,34℃〜38℃、より好ましくは37℃、2%〜10%、より好ましくは5%COの条件下で1時間以上培養し、付着細胞を樹状細胞の前駆細胞として用いる方法等を使用してもよい。
【0024】
その後、得られた樹状細胞の前駆細胞から未成熟樹状細胞あるいは成熟樹状細胞への分化誘導を行う。培養のための培地としてAIM−V培地(インビトロジェン)を使用する。
またAIM−V培地のほかに、RPMI−1640培地(インビトロジェン)、ダルベッコ改変イーグル培地(インビトロジェン、以下DMEMと記す)、TIL(株式会社免疫生物研究所)、表皮角化細胞培地(コージンバイオ株式会社、以下KBMと記す)、イスコフ培地(インビトロジェン、以下IMEMと記す)等、細胞培養に使用されている市販の培地を使用することができる。また、必要に応じて5〜20%の牛血清、牛胎児血清(以下FBSと記す)、ヒト血漿等を添加することができる。
【0025】
未成熟樹状細胞の場合、培養培地に分化誘導因子を添加し、樹状細胞の前駆細胞を培養することにより未成熟樹状細胞を得る。
分化誘導因子としてはサイトカイン類のいずれを使用することもできるが、例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(以下GM−CSFと記す)、インターロイキン4(以下IL−4と記す)、ステムセルファクター(以下SCFと記す)、IL−13、腫瘍壊死因子α(以下TNF−αと記す)等が効率よく未成熟樹状細胞を誘導することが可能である。また、必要に応じてIL−1、IL−2、IL−3等の添加することが好ましい。より好ましくはGM−CSF、IL−4の組合せを用いると効率よく誘導することが可能である。
培養は、34℃〜38℃、好ましくは37℃、2%〜10%、好ましくは5%CO条件下で行い、培養期間は5〜7日間が好ましい。
【0026】
また、成熟樹状細胞を得る場合には培養開始後5〜7日目にさらなる分化誘導因子を添加して更に培養する。
分化誘導因子としてはサイトカイン類のいずれを使用することもできるが、例えば、GM−CSF、IL−4、SCF、IL−1β、IL−6、IL−13、TNF−α、プロスタグランジンE(以下PGEと記す)等で効率よく成熟樹状細胞を誘導することが好ましい。必要に応じてIL−1、IL−2、IL−3等の添加することが好ましい。より好ましくはGM−CSF、IL−4、IL−6、IL−1β、PGE、TNF−αの組合せを用いると効率よく誘導することが可能である。
培養は、34℃〜38℃、好ましくは37℃、2%〜10%、好ましくは5%CO条件下で行い、培養時間としては24〜48時間が好ましい。
【0027】
また、樹状細胞の前駆細胞として造血幹細胞(CD34陽性細胞)を回収し、GM−CSF、TNF−αとflt−3リガンド(FL)、c−kitリガンド(SCF)、あるいはトロンボポエチン(TPO)を単独、もしくは組合せで添加し、未成熟樹状細胞もしくは成熟樹状細胞を得る方法や、血液あるいは末梢血単核球を分離したものからパーコールなどの比重液を用いて直接樹状細胞分画を回収する方法も利用することができる。
【0028】
得られた未成熟樹状細胞、または成熟樹状細胞にビスホスホネートを添加して培養し、刺激細胞(ビスホスホネートによりパルスされた樹状細胞)を作成する。ビスホスホネートを添加する濃度は0.1μM〜30μMが好ましく、さらに好ましくは1〜10μMである。
また、ビスホスホネートをパルスする時間は1時間〜36時間が好ましく、より好ましくは12時間である。
【0029】
このようにして得られた樹状細胞は、γδT細胞を活性化および/または増殖させる能力を有しているため、in vitro及び in vivoのいずれの場合でもγδT細胞を活性化および/または増殖させることができる医薬として使用することができる。in vitroで使用する場合はγδT細胞活性化および/または増殖させることができる組成物として利用することが可能となる。in vivoで使用する場合は遊離ビスホスホネートを洗浄、除去したのち、γδT細胞活性化および/または増殖させることができる樹状細胞ワクチンとしての使用が可能である。また、in vitroまたはin vivoで用いるいずれの場合にも必要に応じて例えばサイトカイン(例えばIL−2)やその他タンパク質(例えばアルブミン)等を加えてもよい。
【0030】
(2)第二の実施形態;本発明樹状細胞を含む医薬
次に、本発明の樹状細胞を用いた治療方法について説明する。
【0031】
第一の実施形態で得られた樹状細胞を遠心分離法等によって回収する。
【0032】
回収した細胞を洗浄する。洗浄する液体としては等張であり、医薬品として用いることできる液体であればいずれを用いることも可能であるが、この後、患者に投与することを考えると生理食塩水、PBS等を利用することが好ましい。
【0033】
回収された樹状細胞は生理食塩水に懸濁されることで投与用製剤として用いることが可能となる。また、必要に応じてサイトカインを添加することができる。
【0034】
投与する細胞数としては、投与方法、患者の状態に応じて適宜選択することが可能であるが、通常、10〜1012個/人であることが好ましく、より好ましくは10個/人以上である。
【0035】
投与する方法としては静脈内、皮内、皮下等へ注射することも、所属リンパ節へ注射等により注入することも、直接病変部に注入することも、点滴として全身投与することも可能である。あるいは、病変部近辺の動脈から注入することも可能である。
【0036】
このようにして、本発明の樹状細胞を投与することにより患者体内のγδT細胞を活性化することができる。γδT細胞は非特異的細胞傷害活性を有するため、例えば、癌や感染症等、様々な治療に用いることが可能である。樹状細胞をワクチンとして用いることの利点として、ビスホスホネートを直接投与する場合、複数回投与するうちに体内でのγδT細胞に対する反応が弱化・消失していくため、繰り返しγδT細胞を増殖させることができないが、ビスホスホネートを樹状細胞にパルスし、ワクチンとして投与することでこの問題が回避できる。
【0037】
(3)第三の実施形態;本発明樹状細胞を用いたγδT細胞の培養方法
次に、本発明のγδT細胞の培養方法について詳説する。
【0038】
第一の実施形態で得られた樹状細胞と反応細胞を培養容器に播種する。
ここでいう反応細胞とはγδT細胞を含む細胞群を指す。末梢血由来の単核球等が好ましい。
【0039】
培養容器は特に限定されるものではなく、通常、当該分野で使用される培養用プレート、シャーレ、フラスコ、バッグなどを利用することができる。各々の細胞群を播種する濃度は実施する状況に応じて自由に設定することができる。
【0040】
樹状細胞、反応細胞の培養にはAIM−V培地を用いて培養する。また、AIM−V培地のほか、RPMI−1640培地、DMEM、TIL、KBM、IMEM等、細胞培養に使用されている市販の培地を利用することができる。さらに必要に応じて5%〜20%の牛血清、FBS、ヒト血漿などの血清、サイトカイン等を添加してもよい。
培養は34℃〜38℃、好ましくは37℃、2%〜10%、好ましくは5%CO条件下で行い、培養期間としては5〜8日間が好ましく、さらに7日間が好ましい。
【0041】
播種する樹状細胞と反応細胞の数は播種する容器および用途に応じて設定することができる。また、樹状細胞と反応細胞の混合する割合は状況に応じて適宜設定することが可能であるが、反応細胞中のγδT細胞の割合を増加させるという目的から考え、樹状細胞を反応細胞よりも少なく設定することが好ましい。
【0042】
これにより、従来の技術では、γδT細胞について選択・純化する工程を経なくては目的とするγδT細胞を得ることができなかったが、本発明の方法によれば、そのような煩雑な工程を経ることなく活性化されたγδT細胞を高純度に含んでいる細胞集団を大量かつ容易に回収することが可能である。また、このようにして得られた細胞集団はそのまま免疫細胞療法に用いることができ、活性化されたγδT細胞を該免疫細胞療法に用いた場合、腫瘍や感染症に対する高い治療効果が期待できる。
【0043】
in vitroでγδT細胞を活性化/および増殖させることの利点としては、ビスホスホネートを直接投与する場合、複数回投与するうちに体内でのγδT細胞に対する反応が弱化・消失していくため、繰り返しγδT細胞を増殖させることができないが、γδT細胞を体外で活性化および/または増殖させ、投与することでこの問題が回避できる。
【0044】
(4)第四の実施形態:本発明により得られるγδT細胞を含む医薬
次に前記方法で得られるγδT細胞を患者に投与する方法について説明する。
【0045】
第三の実施形態に記載した方法により得られたγδT細胞を遠心分離法等によって回収する。
回収した細胞を洗浄する。洗浄する液体としては等張であり、医薬品として用いることできる液体であればいずれを用いることも可能であるが、この後、患者に投与することを考えると生理食塩水、PBS等を利用することが好ましい。
【0046】
回収されるγδT細胞は生理食塩水に懸濁されることで投与用製剤として用いることが可能となる。また、必要に応じてサイトカイン等を添加することができる。
【0047】
投与する細胞数としては、投与方法、患者の状態に応じて適宜選択することが可能であるが、通常、10〜1012個/人であることが好ましく、より好ましくは10個/人以上である。
【0048】
投与する方法としては静脈内、皮内、皮下等へ注射することも、所属リンパ節へ注射等により注入することも、直接病変部に注入することも、点滴として全身投与することも可能である。あるいは、病変部近辺の動脈から注入することも可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明がこれに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0050】
実施例1
<樹状細胞の採取及び調整>
健常人ドナーから末梢血を30ml採血し、血球分離用比重液を用いて単核細胞を回収した。回収した細胞から血小板等を除去するために数回洗浄した後,MACSによりCD14陽性細胞を単離した。
得られた樹状細胞前駆細胞から樹状細胞への分化誘導を行った。培地は10% FBSを添加したAIM−Vを使用し、これに500U/mL GM−CSF(IMMUNEX)と500U/mL IL−4(Osteogenetics GmbH)を添加した。培養開始から5〜7日目で未成熟樹状細胞を得た。さらに、培養開始後5〜7日目に100U/mL IL−6(R&D systems)、10ng/mL IL−1β(CHEMICON)、10ng/mL TNFα(PHARMINGEN)、1μg/mL PGE(SIGMA)を添加して更に培養し、24〜48時間後の細胞を成熟樹状細胞とした。
【0051】
実施例2
<樹状細胞の状態の確認>
調整して得た樹状細胞の表面抗原の検出をフローサイトメーター(Epics XL−MCL、Beckman Coulter)を用いて行った。測定する細胞をPBSに懸濁したものに目的の抗体を添加し、遮光の状態で4℃、15分間染色した。抗体はPE標識された抗CD14抗体、抗CD83抗体、抗HLA−DR抗体(Beckman Coulter)を用いた。ネガティブコントロールとしてそれぞれの抗体のアイソタイプを利用した。染色した細胞をPBSで洗浄後、Epics XL・MCLで測定した。
【0052】
その結果、GM−CSF、IL−4で培養した細胞はCD14、CD83陰性、HLA−DRは陽性を示しており、未成熟樹状細胞集団であることを確認した。また、GM−CSF、IL−4、IL−6、IL−1β、TNFα、PGEで培養した細胞においては、CD14以外は陽性を示し、成熟樹状細胞集団であることを確認した。
【0053】
実施例3
<樹状細胞によるγδT細胞の増殖>
実施例1で調整した末梢血由来の未成熟樹状細胞、または成熟樹状細胞の懸濁液にビスホスホネート剤であるAredia 10μM、Onclast 10μM、Zometa 1μMとなるように各々を添加し、約12時間培養したものを刺激細胞(ビスホスホネートによりパルスされた樹状細胞)とした。ネガティブコントロールには、ビスホスホネートを添加せずに培養した樹状細胞を用いた。
【0054】
これら刺激細胞5×10個を各々,全量を1mLとして24well plate(SUMILON)で反応細胞2×10個と混合培養を行った(反応細胞:刺激細胞=4:1)。反応細胞としては実施例1でCD14陽性細胞を単離したあとの残りの細胞(CD14陰性細胞集団、主にT細胞集団)を10%FBS、10%ジメチルスルフォキシド(DMSO)を添加したAIM−V培地に懸濁し、凍結保存していたものを解凍、洗浄して用いた。培養は約37℃、5%CO条件下で7日間行った。
この混合培養溶液中には50U/mL IL−2を加えると、よりよい細胞増殖が認められた。細胞の増殖が速い場合には、4〜6日目に100U/mL IL−2,10%FBSを含むAIM−V培地を1mL添加した。
【0055】
7日後に血球計算板を用いて細胞数を測定し、さらにフローサイトメーターでγδT細胞が占める割合を測定した。抗体はPC5標識された抗CD3抗体とFITC標識された抗panγ/δ抗体(Beckman Coulter)を用いた。これらの抗体を培養後の細胞をPBSで洗浄したものに加え、遮光の状態で4℃、15分間染色した。ネガティブコントロールには抗panγ/δ抗体のアイソタイプを利用した。
【0056】
図1に示されるように、コントロール(ビスホスホネートでパルスされなかった樹状細胞)と比較して、Aredia、Onclast、Zometaでパルスされた樹状細胞、未成熟樹状細胞のいずれもが、共培養した細胞群内のγδT細胞の割合を高くすることが明らかとなった。
さらに、ビスホスホネートでパルスされた未成熟細胞の方がビスホスホネートでパルスされた成熟樹状細胞よりもγδT細胞の割合が高くなることが明らかとなった。
【0057】
実施例4
<γδT細胞の採取及び調整>
健常人ドナーから末梢血を30ml採血し、血球分離用比重液を用いて末梢血単核細胞を回収した。回収した細胞から血小板等を除去するために数回洗浄した。
【0058】
培養液AIM−V(10%FCS)に得られた末梢血単核球を懸濁し、末梢血単核球懸濁液に濃度が10μMとなるようにArediaを添加した。
14日間培養を行った。この期間中、細胞増殖に応じて培養液AIM−V(10%FCS)と最終濃度1000U/mlのIL−2を添加した。
培養した細胞の表現型をフローサイトメーターを用いて確認し、γδT細胞を95%以上含む細胞群であることを確認した。
【0059】
実施例5
<γδT細胞の活性化の確認>
MultiScreenプレート(MILLIPORE)の各wellに70%エタノールを添加し、2分以内に除去した。
プレートの各wellを200μlのPBSで5回洗浄した。
コーティング用抗インターフェロン(IFN)−γ抗体(クローン:1−D1K、MABTECH ELISpot for Human Interferon−γ kit)を15μg/mlになるようにPBSで希釈し、100μl/well添加した。
プレートを4℃で一晩静置した。
プレートを200μl/wellのPBSで4回洗浄した。
10%FBSを含むAIM−V培地を200μl/well添加し、30分間以上室温でブロッキングを行った。
ブロッキング培地を除去し、プレートを200μl/wellのPBSで4回洗浄した。
【0060】
実施例4で得られたγδT細胞群を遠心分離により回収し、AIM−Vにより2回洗浄した。
【0061】
回収したγδT細胞30000cellsと実施例1で得られた未成熟樹状細胞もしくは成熟樹状細胞15000cells、最終濃度が10μMとなるように調整したArediaを添加し、15mlチューブ(ファルコン)にて37℃、5%CO条件下で2時間の前培養を行った。同時にγδT細胞のみの前培養、γδT細胞にArediaのみを添加した前培養、各樹状細胞のみの前培養も行った。また、培養容量は300μlになるように調整した。
ブロッキング後PBSで洗浄したプレートに、各条件での前培養を終えた細胞を100μl/well、3wellずつに播種した。
37℃、5%CO条件下で一晩培養した。
【0062】
細胞を含む培養液を除去し、プレートを200μl/wellのPBSで5回洗浄した。
検出用のビオチン標識抗IFN−γ抗体(クローン:7−B6−1、MABTECH ELISpot for Human Interferon−γ kit)を0.5%FBSを含むPBSで1μg/mlに希釈し、100μl/well添加した。
プレートを室温で2時間静置した。
ビオチン標識IFN−γ抗体を含むPBSを除去し、プレートを200μl/wellのPBSで5回洗浄した。
アルカリフォスファターゼを結合したストレプトアビジン(MABTECH ELISpot for Human Interferon−γ kit)を0.5%FBSを含むPBSで1:1000に希釈し、100μl/well添加した。
プレートを室温で1時間静置した。
プレートを200μl/wellのPBSで5回洗浄した。
BCIP/NBTplus基質液(Wako)を100μl/well添加し、暗所でスポットが確認できるまで静置した。
肉眼でスポットが確認されたら蒸留水で十分に洗浄した。
プレートのメンブレンが乾燥したことを確認した後、ELISPotリーダー(AID Autoimmun Diagnostika GmbH)を用いてスポット数を測定し、データをAID software version 3.1 (AID)にて解析した。
【0063】
その結果γδT細胞に樹状細胞とArediaを同時に添加した場合にのみ、スポット数が増加し、スポットの強度も増すことが明らかとなった。この結果においてもビスホスホネートでパルスされた未熟樹状細胞のほうが成熟樹状細胞よりもIFN−γの産生を刺激することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明のビスホスホネートでパルスされた樹状細胞は末梢血中に含まれるγδT細胞を選択的に活性化および/または増殖させることができる。そのため、in vitroにおいてはγδT細胞を活性化および/または増殖させることができる組成物として利用できる。さらに、投与用組成物として患者に投与することでin vivoにおいてγδT細胞を活性化し、癌治療やウイルス感染症の治療に対する効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスホスホネート系骨代謝改善薬でパルスされたことを特徴とする樹状細胞。
【請求項2】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする請求項1に記載の樹状細胞。
【請求項3】
前記ビスホスホネート系骨代謝改善薬がパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹状細胞。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹状細胞を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
癌及び/又は感染症治療用の請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記樹状細胞が投与する患者由来であることを特徴とする請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
癌及び/又は感染症治療のための医薬の製造のための、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹状細胞の使用。
【請求項8】
T細胞の培養において、ビスホスホネート系骨代謝改善薬でパルスされた樹状細胞を加えることを特徴とするγδT細胞の培養方法。
【請求項9】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であることを特徴とする請求項8に記載の培養方法。
【請求項10】
前記ビスホスホネート系骨代謝改善薬がパミドロン酸、アレンドロン酸、ゾレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、インカドロン酸、エチドロン酸、それらの塩、および/またはそれらの水和物であることを特徴とする請求項8又は9に記載の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−191952(P2012−191952A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151970(P2012−151970)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2006−529100(P2006−529100)の分割
【原出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(598086844)株式会社メディネット (10)
【Fターム(参考)】