説明

樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法

【課題】室温付近で低膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスとを備え、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が3×10−6/℃以下の線膨張係数を有する。これにより、樹脂による正膨張の作用を相殺し、室温付近で安定した低膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られる。そして、このような低膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法に関し、半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等の各産業分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス粉末と樹脂の複合材料が知られている。そのような複合材料には、ユークリプタイトや石英などの粉末をフィラーとし樹脂と合成させたものがある。また、炭化珪素とメタクレート樹脂との複合材料等についても提案がなされている(たとえば、特許文献1)。特許文献1記載の複合材料は、40%以上の相対密度を有するセラミックス多孔体を液状樹脂に浸し、真空処理により浸透させた樹脂を硬化させて製造されている。
【0003】
一方、侵入型窒化マンガンを用いて熱膨張を制御した金属−セラミックス複合材料も提案されている(たとえば、特許文献2および3)。特許文献2記載の熱膨張抑制剤は、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含んでいる。また、特許文献3記載の金属−セラミックス複合材料は、アルミニウムやマグネシウム合金等の軽金属または軽金属合金と侵入型窒化マンガンとが複合されて形成されている。そして、その線熱膨張ΔL/Lの変化量δが1×10−4以内となる温度幅20度以上の温度領域が、−30℃以上90℃以下の温度範囲内にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−279106号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/011590号パンフレット
【特許文献3】特開2008−223077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の樹脂−セラミックス複合材料は、室温付近の温度変化により膨張または収縮し、低熱膨張性が求められる部品等へ用いるには適していない。また、仮に負膨張性を有する材料を混合し低熱膨張性の複合材料を作製しようとしても線膨張係数の制御が困難であり、安定して低熱膨張性を有する複合材料を得ることができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温付近で低熱膨張性を有し、製造の際に線膨張係数の制御が容易である樹脂−セラミックス複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、前記強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスと、を備え、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が3×10−6/℃以下の線膨張係数を有することを特徴としている。
【0008】
このように、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなる多孔体が負膨張性を有するため、樹脂による正膨張の作用を相殺し、室温付近で低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られる。これにより、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。また、多孔体の強化材を用いるため、製造の際には線膨張係数の制御が容易である。
【0009】
(2)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、前記粒子間のネッキングにより、前記粒子間が化学結合していない成形体より線方向の寸法で1%以上小さいことを特徴としている。このように粒子間に十分なネッキングが存在することにより、粒子が分離されることがなく、温度を上昇させた際、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくなる。その結果、線膨張係数が樹脂の特性に影響されにくい低熱膨張性の樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。その結果、製造の際には線膨張係数の制御が容易となる。
【0010】
(3)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材が、50%以上の体積比率を有することを特徴としている。これにより、侵入型窒化マンガンのセラミック仮焼体が有する負膨張性が十分に得られ、樹脂の正膨張性を適度に相殺して樹脂−セラミックス複合材料を低熱膨張にすることができる。
【0011】
(4)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記強化材に、前記温度領域内において−10×10−6/℃以上0/℃以下の線膨張係数を有する侵入型窒化マンガンのセラミック仮焼体が用いられていることを特徴としている。これにより、所望の負膨張性が得られ、樹脂による正膨張性を相殺することで樹脂−セラミックス複合材料を低熱膨張にすることができる。
【0012】
(5)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、前記マトリックスに、前記温度領域内において1×10−5/℃以上8×10−5/℃以下の線膨張係数を有する樹脂が用いられていることを特徴としている。このように所定範囲の線膨張係数を有する樹脂が用いられているため、強化材の負膨張性により樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数を調整することが容易になる。
【0013】
(6)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法は、樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料の製造方法であって、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなる成形体を作製する工程と、前記成形体を熱処理し、収縮率1%以上5%未満で収縮させて体積比率50%以上の仮焼体を作製する工程と、前記仮焼体に樹脂を浸透させる工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
このように、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなる体積比率50%以上の仮焼体を用いることで、樹脂の正膨張性を相殺するのに十分な負膨張性が得られ、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。また、成形体を熱処理し、線方向の収縮率で1%以上5%未満収縮させて仮焼体を作製することで、強化材の粒子間にネッキングを発生させ、粒子の分離を防止し、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくすることができる。その結果、線膨張係数が樹脂の特性に影響されにくい樹脂−セラミックス複合材料を得ることができる。
【0015】
(7)また、本発明の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法は、前記仮焼体に浸透させる樹脂として熱硬化性樹脂を用い、前記浸透された樹脂を、300℃以下の温度で硬化させる工程を更に含むことを特徴としている。このように300℃以下の温度で樹脂を硬化させるため、侵入型窒化マンガンの酸化および変性等を防止し、侵入型窒化マンガンの負膨張性への影響を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、室温付近で低熱膨張性を有する複合材料が得られる。そして、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を、室温での熱膨張の低減が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。また、製造の際には線膨張係数の制御が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例および比較例の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の樹脂−セラミックス複合材料は、セラミックスと樹脂とが複合されて形成されている。すなわち、樹脂−セラミックス複合材料は、セラミックスの強化材および樹脂のマトリックスにより形成されている。
【0019】
強化材は、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子が集合したものであり、負膨張材として多孔体を形成している。強化材は、局所的に粒子同士がネッキングを起こしていることが好ましい。また、ネッキングは、製造時に強化材の成形体を熱処理した後に線方向の収縮率が1%以上となる程度まで進行していることが好ましい。なお、成形体は、押圧等により成形されたものであり、成形体内部では粒子間が化学結合していない。
【0020】
成形体等の粉末状態の強化材に樹脂を浸透させる場合や、成形体からの収縮率が1%未満の仮焼体に樹脂を浸透させる場合には、線膨張係数は樹脂の特性に大きく影響される。これは負膨張材として強化材を構成する粒子が互いに分離されているため、温度を上昇させた際、樹脂の膨張に粒子が引っ張られるためと考えられる。なお、強化材は、樹脂−セラミックス複合材料内において50%以上の体積比率を有することが好ましい。これにより、侵入型窒化マンガンのセラミック仮焼体が有する負膨張性が十分に得られる。また、強化材は、樹脂の浸透を妨げない程度に多孔質化していることが好ましく、80%以下の体積比率を有することが好ましい。また、強化材の負膨張性を適度に抑制するためには70%未満の体積比率を有することが好ましい。
【0021】
強化材および負膨張材として使用される侵入型窒化マンガンの一般化学式は“Mn4−xN”で表される。記号Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInの中から選ばれる1種の元素を示している。また、xは、0<x<4(ただし、xは整数ではない)の式を満たしている。ただし、記号Aが、Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族の原子のいずれか2種以上の元素を示し、そのうちの少なくとも1種はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、xが0<x<4の式を満たしているものを用いてもよい。また、上記侵入型窒化マンガンにおいて窒素の一部が炭素と置き換わってもよい。
【0022】
このように構成される侵入型窒化マンガンセラミックスの負膨張性は磁気モーメントの変化に伴って体積が変化する現象に由来するものであり、温度が低下すると体積が増大する効果を生ずる。この効果が通常の正の膨張を超えることにより負の熱膨張が発現する。また、侵入型窒化マンガンの構成元素と組成比、および合成条件、侵入型窒化マンガンセラミックスと樹脂マトリックスとの比率を調節することによって線熱膨張係数を調整することができるので、負膨張材として種々の用途に用いることができる。そのため、正の熱膨張性を有する材料と複合化することにより正味で熱膨張性の低い樹脂−セラミックス複合材料を作製できる。
【0023】
強化材としては、0℃以上40℃以下の温度領域内において−10×10−6/℃以上0/℃以下の線膨張係数を有する侵入型窒化マンガンのセラミック仮焼体が用いられることが好ましい。これにより、所望の負膨張性が得られ、樹脂の正膨張性を相殺できる。
【0024】
マトリックスは、樹脂であり、強化材に浸透して強化材を連続的に取り囲んでいる。マトリックスには、上記の温度領域内において1×10−5/℃以上8×10−5/℃以下の線膨張係数を有する樹脂が用いられている。このように所定範囲の線膨張係数を有する樹脂が用いられているため、製造時に樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数を調整することが容易になる。
【0025】
浸透させる樹脂は、0℃以上40℃以下の温度範囲で線膨張係数が1×10−5/℃以上5×10−5/℃以下で、熱硬化性を有し、硬化温度が0℃以上300℃以下のものが好ましい。樹脂の線膨張係数が上記範囲外であると、強化材との複合化において熱膨張を低く制御することが困難となる。樹脂の硬化温度は0℃以上であればよい。ただし、300℃以上の高温で樹脂を硬化させると侵入型窒化マンガンの酸化および変性等が生じ特性に影響を及ぼす。このような条件をみたせば、樹脂の種類はエポキシ系、フェノール系、ポリエステル系、ビニル系、アクリル系およびポリエーテル系等のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0026】
このように構成されることにより、樹脂−セラミックス複合材料は、0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が3×10−6/℃以下の線膨張係数を有する。その結果、室温付近で十分な低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られる。そして、樹脂−セラミックス複合材料を、室温での低熱膨張性が求められる半導体製造装置、液晶製造装置、精密機械または電子材料・部品等に用いることができる。
【0027】
次に、樹脂−セラミックス複合材料の製造方法を説明する。まず、侵入型窒化マンガンのセラミックス粉末と2種類以上の金属粉末を混合し、成形体(充填体を含む)を作製する。金属を含めることで、金属の塑性変形により成形体を作製し易くなる。成形体は、1軸プレスおよびCIP成形などで作製すればよく、成形方法は特に限定されない。このようにして、侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなる成形体を作製する。なお、後述の熱処理で得られる仮焼体の体積比率が50%以上となるように、熱処理の条件等を考慮して決定した相対密度を有する成形体を作製する。これにより、侵入型窒化マンガンセラミックスによる十分な負膨張性が得られ、低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。少なくとも相対密度は50%以上の成形体を作製しておけば、体積比率50%以上の仮焼体を得られる。
【0028】
そして、成形体を窒素雰囲気において700℃以上、好ましくは800℃以上で熱処理し、強化材を合成することで、仮焼体を作製する。熱処理温度は、強化材を構成する粒子が過度に結合しないよう900℃未満とすることが好ましい。仮焼体は、粒子が集合した多孔体を形成している。熱処理の工程において金属が窒化マンガンと反応する際にネッキングが生じ、ネッキングにより侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子の結合が強化され、仮焼体の強度が高まる。なお、熱処理による線方向の収縮率は1%以上であることが好ましい。収縮率は1%以上の仮焼体を作製することで、強化材の粒子間にネッキングを発生させ、粒子の分離を防止し、樹脂の膨張に粒子が引っ張られにくくなる。一方、負膨張性が強くなりすぎるのを防止するため収縮率は5%未満であることが好ましい。
【0029】
次に、作製された仮焼体に樹脂を浸透させる。具体的には、仮焼体を真空状態にし、そこに樹脂を流し込む。これにより細部まで樹脂を浸透させることができる。そして、樹脂を浸透させた仮焼体を0℃以上300℃以下の温度で硬化させ、樹脂−セラミックス複合材料を作製する。このように負膨張性を有する侵入型窒化マンガンと正膨張性を有する樹脂を複合化することにより、室温付近で低熱膨張性を有する樹脂−セラミックス複合材料を作製することができる。なお、材料の組成、成形体の作製、熱処理の条件および樹脂の選定等は、あらかじめ所望の線膨張係数に応じ、計算式に基づいて決定しておく。
【0030】
[実施例1]
以下、実施例を比較例とともに挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。まず、所定量のMnN粉末、Sn粉末およびCu粉末をMnCu0.5Sn0.5Nの配合となるよう計量した。これらを均一混合し、1t/cm(=98MPa)で一軸成形し、50×50mmの成形体を得た。
【0031】
その後、窒素雰囲気中で加熱した。このときの最高温度は850℃で、5時間保持した。この仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で1.8%収縮していた。この仮焼体の線膨張係数を熱膨張計(アルバック理工製:LIX−I)で測定したところ、0℃以上40℃以下の温度範囲において線膨張係数は−6.4×10−6/℃であった。また、仮焼体の体積比率をアルキメデス法で測定したところ、その体積比率は61%であった。
【0032】
この仮焼体に市販のエポキシ樹脂(線膨張係数:3.3×10−5/℃)を流し込み、真空容器内で−0.1MPa以下まで真空引きし、その状態で1時間保持して仮焼体内に樹脂を浸透させた。樹脂を浸透させた仮焼体に150℃乾燥機内で熱処理を行い、樹脂を硬化させた。作製した樹脂−セラミックス複合材料から4×4×15mmの試験片を切り出し、上記熱膨張計で熱膨張を測定した。その結果、0℃以上40℃以下で熱膨張の低下を示し、膨張量の変位曲線から近似直線で線膨張係数の値を求めた結果、−2.5×10−6/℃であった。
【0033】
[実施例2]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製し、その特性を評価した。ただし、MnN、CuおよびSnの加熱温度を830℃とし、仮焼体の体積比率を58%(線膨張係数:−4.2×10−6/℃)とした。仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で1.3%収縮していた。また、線膨張係数が3.5×10−5/℃のエポキシ樹脂を仮焼体に浸透させた。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.8×10−6/℃であった。
【0034】
[実施例3]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製し、その特性を評価した。ただし、MnN、CuおよびSnの組成をMn3.226Cu0.387Sn0.387Nとし、加熱温度を860℃とし、仮焼体の体積比率を66%(線膨張係数:−5.1×10−6/℃)とした。仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で2.6%収縮していた。また、線膨張係数が4.2×10−5/℃のフェノール樹脂を浸透に使用した。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で1.8×10−6/℃であった。
【0035】
[実施例4]
上述した実施例3と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製し、その特性を評価した。ただし、MnN、CuおよびSnの加熱温度を870℃とし、仮焼体の体積比率を67%(線膨張係数:−6.2×10−6/℃)とした。仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で2.8%収縮していた。また、線膨張係数が5.7×10−5/℃のポリエステル樹脂を仮焼体に浸透させた。その結果0〜40℃での線膨張係数は−1.9×10−6/℃であった。
【0036】
[実施例5]
上述した実施例1と同様の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法および評価方法に従って、別途、樹脂−セラミックス複合材料を作製し、その特性を評価した。ただし、MnN、CuおよびSnの組成をMnCu0.5Sn0.5Nとし、加熱温度850℃で5時間保持し、仮焼体の体積比率を61%(線膨張係数:−6.4×10−6/℃)とした。仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で1.6%収縮していた。また、線膨張係数が5.7×10−5/℃のポリエステル樹脂を浸透に使用した。その結果、得られた樹脂−セラミックス複合材料の線膨張係数は、0℃以上40℃以下で5.2×10−7/℃であった。
【0037】
[比較例1]
所定量のMnN粉末、Sn粉末およびCu粉末をMnCu0.5Sn0.5Nの配合となるように計量した。これらを均一混合し、1t/cm(=98MPa)で一軸成形して、50×50mmの成形体を得た。そして、成形体を窒素雰囲気中で加熱した。このときの最高温度は850℃で、5時間保持し仮焼体を得た。このようにして作製した仮焼体を解砕して粉末にし、アルミ製の箱に重装充填した。この粉末に実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂(線膨張係数:3.3×10−5/℃)を浸透させ、150℃で熱硬化させた。なお、得られた樹脂−セラミックス複合材料についてアルキメデス法で密度を測定し、負膨張材の体積比率を計算したところ、その体積比率は43%であった。この複合材料を実施例1と同様の方法で熱膨張を測定したところ、0℃以上40℃以下の温度範囲で1.2×10−5/℃の線膨張係数が得られ、複合材料は正膨張性を示した。
【0038】
[比較例2]
実施例1と同様の配合で成形体を作製し、加熱温度を750℃、保持時間を1時間として熱処理し、別途、仮焼体を作製した。ただし、このときの仮焼体の体積比率は49%(線膨張係数:−9.8×10−6/℃)であり、成形体からの収縮率は0.3%であった。仮焼体の形状を測定したところ、成形体に対して縦方向と横方向の平均で0.6%収縮していた。この仮焼体に実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂(線膨張係数:3.3×10−5/℃)を浸透させ、150℃で熱硬化させた。得られた樹脂−セラミックス複合材料を実施例1と同様の方法で線膨張係数を測定したところ、0℃以上40℃以下の温度範囲で1.1×10−5/℃の線膨張係数が得られ、複合材料は正膨張性を示した。
【0039】
[比較例3]
実施例1と同様の配合で成形体を作製し、加熱温度を900℃、保持時間を5時間として熱処理し、別途、仮焼体を作製した。ただし、このときの仮焼体の体積比率は78%(線膨張係数:−17.3×10−6/℃)であり、成形体からの収縮率は5.3%であった。この仮焼体に実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂(線膨張係数:3.3×10−5/℃)を浸透させ、150℃で熱硬化させた。得られた樹脂−セラミックス複合材料を実施例1と同様の方法で線膨張係数を測定したところ、0℃以上40℃以下の温度範囲で−7.5×10−6/℃の線膨張係数が得られ、複合材料は負膨張性を示した。
【0040】
[まとめ]
図1は、実施例および比較例の実験結果を示す表である。実施例1〜5の実験結果に示すように、成形体からの収縮率が1%以上で、0℃以上40℃以下の温度領域において−10×10−6/℃以上0/℃以下の線膨張係数を有する侵入型窒化マンガンセラミックスからなる仮焼体を作製し、上記の温度領域で1×10−5/℃以上8×10−5/℃以下の線膨張係数を有する樹脂のうち適当なものを浸透、硬化させると、上記の温度領域で絶対値が3×10−6/℃以下の線膨張係数を有する樹脂−セラミックス複合材料が得られることが分かった。特に、実施例5では、複合材料について5.2×10−7/℃という零に近い線膨張係数が得られている。
【0041】
一方、比較例1は粉末状態における熱処理の例、比較例2は低い温度での熱処理の例を示しており、これらの試料では強化材のネッキングが不十分であるため、十分な負膨張性が得られず線膨張係数が大きくなっている。また、比較例3では、熱処理温度を900℃と高く設定し、体積比率が高くなりすぎているため、樹脂による正膨張の作用が制限され、低熱膨張性が得られていない。これらの結果を考慮すると、830℃以上870℃以下の温度で5時間程度、熱処理することが好ましく、成形体から仮焼体への収縮率は5%未満であることが好ましい。また、仮焼体の体積比率については78%未満であることが好ましく、実施例4を考慮すれば67%以下であれば十分な低膨張性が得られると分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料であって、
侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなり、多孔体として形成される強化材と、
前記強化材に浸透した樹脂からなるマトリックスと、を備え、
0℃以上40℃以下の温度領域において、絶対値が3×10−6/℃以下の線膨張係数を有することを特徴とする樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項2】
前記強化材は、前記粒子間のネッキングにより、前記粒子間が化学結合していない成形体より線方向の寸法で1%以上小さいことを特徴とする請求項1記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項3】
前記強化材は、50%以上の体積比率を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項4】
前記強化材には、前記特定の温度領域内において−10×10−6/℃以上0/℃以下の線膨張係数を有する侵入型窒化マンガンのセラミック仮焼体が用いられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項5】
前記マトリックスには、前記特定の温度領域内において1×10−5/℃以上8×10−5/℃以下の線膨張係数を有する樹脂が用いられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の樹脂−セラミックス複合材料。
【請求項6】
樹脂とセラミックスとが複合されてなる樹脂−セラミックス複合材料の製造方法であって、
侵入型窒化マンガンセラミックスの粒子からなる成形体を作製する工程と、
前記成形体を熱処理し、収縮率1%以上5%未満で収縮させて体積比率50%以上の仮焼体を作製する工程と、
前記仮焼体に樹脂を浸透させる工程と、を含むことを特徴とする樹脂−セラミックス複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼体に浸透させる樹脂として熱硬化性樹脂を用い、前記浸透された樹脂を、300℃以下の温度で硬化させる工程を更に含むことを特徴とする請求項6記載の樹脂−セラミックス複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−229225(P2010−229225A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76310(P2009−76310)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】