説明

樹脂シートにエンボス加工する方法およびエンボス加工した樹脂シート

【目的】高価なエンボスロールを使用せずに、母材樹脂シートに、筋、線、点或いはこれらを組み合わせたエンボス模様を付与する方法を提供すること。
【解決手段】押出溶融温度が約170℃のシート成型用ポリ塩化ビニル樹脂配合物と、押出溶融温度が約190℃のエンボス加工用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を製造し、第1の押出機からシート成型用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を4mmの厚さになるように溶融押出して、その表面に、第2の押出機からエンボス加工用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を幅3mm、高さ1mmの筋になるように溶融押出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートにエンボス加工する方法およびエンボス加工した樹脂シートに関する。特に、本発明は、従来方法のように、エンボスロールを使用せずに、樹脂シート用組成物と、樹脂シート用組成物とは融点が異なるエンボス付与用樹脂組成物を、2台の押出機からそれぞれ押し出して、樹脂シートにエンボスを付与する方法およびエンボス加工した樹脂シートに関する。
【0002】
本発明は、高価なエンボスロールを必要としないので、筋、線、不連続な点、或いはこれらを組合わせた単純なエンボスを安価に加工することができ、床材、壁材、天井材、外壁材等に応用するこができる。
【技術分野】
【0003】
従来から、型押しなどの方法によりクッションフロアーなどの床材の表面に凹凸模様、いわゆるエンボス加工を施すことがある。この場合、エンボス加工は、エンボスロールと呼ばれる型付け用ローラーを使用し、加熱しながら行われる。
【0004】
エンボスロールは、鉄芯ロールまたは銅メッキを施したロールの表面に、各種の形状のミル、工具を使用して所望の彫刻をし、さらにクロームメッキ、或いはニッケルクロームメッキを施して、耐久性を向上させるという手順で製造され、高価なものである。
【0005】
極めて複雑な模様、幾何模様、或いは格子、亀甲等充填模様のような場合は、エンボスルロールを必要とするが、線、筋、点、或いはこれらを組合せたような単純なエンボスの場合、或いは製造ロットによっては、わざわざエンボスロールを製造することは、割高になる場合がある。
【0006】
さらに、エンボスロールを使用する場合は、エンボスロールと加圧ロール(バクアップロール)の最低2個のロールを必要とする。従って、樹脂製の床材、壁材、天井材、外壁材等シートを加工しながら、その表面にエンボス加工を施そうとすると、装置全体が大きくなる。この場合、極めて複雑な模様、幾何模様、或いは格子、亀甲等充填模様のような場合や、大量に生産する場合には、コストも吸収できるが、単純なエンボスの場合、或いは小ロットの場合には、割高になる場合がある。
【0007】
エンボスロールを利用する方法を開示した特許文献は無数にあるが、たとえば特許文献1は、「エンボス模様表面を有するビニル樹脂シート材の成型法」を開示している。この従来法は、焼結層を利用し、カーペットパイルのような長い突起をエンボス法で形成する方法を開示している。
【0008】
特許文献2は、透明熱可塑性樹脂を押し出して直ちにエンボスロールに圧着し、エンボス形状の再現性がよいエンボス化粧シートの製造方法を開示している。
【0009】
さらに、特殊な模様付与方法としてエンボスロールを使用しないインレイド チップ・ペレットを利用する方法がある。
【0010】
たとえば、特許文献3は、概略、比較的熟成度が低いリノリウーム組成物粒子をステンシル法で裏打材上に載置しテッセラ模様を形成し、熟成リノリウーム組成物粒子で目地をステンシル法で埋め、加工プレス板で押圧し、最初の厚さの1/3に圧縮し、所定時間経過後、プレスから取り出すと、圧縮された組成物がわずかに膨張し、目地部はテッセラ模様部よりも顕著に膨張したモザイク模様を形成する方法を開示している。
【0011】
特許文献3、4、5等も同じように、エンボスロールを使用しないインレイドチップ・ペレットを利用した床材を製造する方法を開示している。
【0012】
しかしながら、インレイド チップ・ペレットを利用した床材を製造する方法は、エンボスロールを使用しない方法ではあるが、形成される模様は非常に装飾性に富んでいて、単に、ノンスリップ(ノンスキッド)を目的としたものでない。
【特許文献】
【特許文献1】米国特許第3,192,294号
【特許文献2】特開平5−278137号
【特許文献3】米国特許第1,728,398号
【特許文献4】米国特許第1,754,253号
【特許文献5】米国特許第1,872,998号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、高価なエンボスロールを使用せずに、母材樹脂シートに、筋、線、点或いはこれらを組み合わせたエンボス模様を付与する方法を提供することである。
【0014】
本発明が解決しようとする別の課題は、エンボスロールと加圧ロールの(バックアップロール)の最低2個のロールを必要とする従来法で使用するエンボス装置に比べて、それほど大がかりな装置を使用せずに、小ロットにも対応でき、エンボスを付与することによるコストも吸収できる新規なエンボス形成方法を提供することである。
【0015】
本発明が解決しようとするさらに別の課題は、エンボスロールを使用せずに、2台の押出機を使用して母材樹脂シートにエンボスを付与し、もって押出機の用途を拡大することである。
本発明が解決しようとするさらに別の課題および利点は以下逐次明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は樹脂シートにエンボス加工する方法であり、製造されたエンボス付き樹脂シートの用途を限定するものではなく、床材、壁材、天井材、外壁材等に応用することが出来る。
【0017】
したがって、本発明を利用して床材を製造する場合は、各種の構造のロール装置と組合わせ、たとえば基布及び表面保護フィルムを供給しながら実施することができる。
【0018】
また、本発明で使用される押出機は、単軸スクリュー押出機または多軸スクリュー押出機、或いはこれらの変形、またはこれらが組合わさった構造のものなど、任意に選択することができ、特段に限定されない。
【0019】
従来、エンボスロールを使用して樹脂シートにエンボス加工する場合は、所定模様を彫刻したエンボスロールを樹脂シートの表面に押圧し、加熱して型付けし、樹脂で固定して形成する。いうなれば、焼きごてを押して凹凸模様を形成しているようなものであり、同一融点を有している母材樹脂と、エンボスを形成する樹脂で、母材樹脂シートの地に凹凸模様を形成していることになる。
【0020】
そこで、本発明者は、前述したインレイド法の変形として、母材樹脂シートとなる樹脂組成物と、エンボスを形成するための樹脂組成物のそれぞれの融点を変えることによりエンボスを形成することを検討した。
【0021】
その結果、母材樹脂シートとなる樹脂組成物の融点より高い融点を有する樹脂組成物をエンボス形成用樹脂として使用し、母材樹脂シートとなる樹脂組成物を第1の押出機から押し出し、第2の押出機から所定の形状の口金を経てエンボス形成用樹脂を押し出すことにより、エンボス形成用樹脂が溶融せずに、その表面を母材樹脂シートが被覆して固定するので、冷却後、口金の形状の凸部、すなわち、エンボスが形成されることを発見した。
【0022】
本発明によりエンボスを形成する場合、エンボス形成用樹脂の融点が、母材樹脂シートとなる樹脂組成物融点より高いことが必須で、その差は、少なくとも10〜20℃が好ましい。
【0023】
エンボス形成用樹脂の融点と、母材樹脂シートとなる樹脂組成物融点の差が10℃以下の場合、押出機の温度制御によっては、エンボス形成用樹脂が溶融し、明瞭なエンボスとならない場合があるので好ましくない。逆に、エンボス形成用樹脂の融点と、母材樹脂シートとなる樹脂組成物融点の差が20℃以上の場合、エンボス部分の硬度が、母材樹脂シートの硬度に比べて極端に大きくなり、床材として使用する間に、諸荷重により、移動或いは界面剥離を起こす恐れがあるので、好ましくない。
【0024】
本発明において、母材樹脂シート内に形成されるエンボスの最も好ましい状態は、エンボス形成用樹脂が、溶融するかしないかの状態で、いわば「半溶融」の状態で、母材樹脂シートと強固に結合している状態である。このような観点から、エンボス形成用樹脂の融点が、母材樹脂シートとなる樹脂組成物融点より高いことが必須で、その差が、10〜20℃が好ましい。
【0025】
本発明において、母材樹脂シートに形成されるエンボス形状、サイズは、母材樹脂シートの厚さ、エンボス形成用樹脂の粒度に依存して変化するが、母材樹脂シートの厚さが3mm以上の場合、エンボスの幅は3mm、高さは1mmである。
【0026】
本発明において、母材樹脂シートを形成する樹脂、及びエンボス形成用樹脂は、熱可塑性樹脂ならば特段に限定されないが、母材樹脂シートを形成する樹脂とエンボス形成用樹脂が同一種の樹脂であることが必要である。母材樹脂シートを形成する樹脂とエンボス形成用樹脂が異種の樹脂の場合、界面で剥離するので好ましくない。
【0027】
本発明において、母材樹脂シートを形成する樹脂、及びエンボス形成用樹脂にポリ塩化ビニルを使用すると、床材、壁材、天井材、外壁材等に応用範囲が広がるので好ましい。
【0028】
従って、課題を解決するための手段は、下記に記載する手段によって解決される。
(1)エンボス加工を施した樹脂シートを製造する方法で、
(イ)樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物と、樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物より融点が高いエンボス用熱可塑性樹脂配合物を用意すること、
(ロ)第1の押出機に樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物を充填し、第2の押出機にエンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を充填すること、
(ハ)第1の押出機から樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物を溶融押出し、所定の時間をおいて、第2の押出機からエンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を溶融押出し、樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物で、エンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を被覆・固定して、樹脂シートに任意の形状のエンボスを形成すること。
【0029】
(2)前記(1)項において、エンボス用熱可塑性樹脂配合物の融点と樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物の融点の差が10〜20℃とすること。
【0030】
(3)前記(1)または(2)項において、熱可塑性樹脂をポリ塩化ビニルとすること。
【0031】
(4)前記(1)〜(3)項において、樹脂シートの用途を床材とすること。
配合物の融点と樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物の融点の差が10〜20℃とすること。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載した発明により、高価なエンボスロールを必要としないので、筋、線、不連続な点、或いはこれらを組合わせた単純なエンボスを安価に加工することができ、床材、壁材、天井材、外壁材等に応用するこができる。
【0033】
請求項1に記載した発明により、高価なエンボスロールと加圧ロールの(バックアップロール)の最低2個のロールを必要とする従来法で使用するエンボス装置に比べて、それほど大がかりな装置を使用せずに、小ロットにも対応でき、エンボスを付与することによるコストも吸収できる新規なエンボス形成方法を提供することできる。
【0034】
請求項1に記載した発明により、エンボスロールを使用せずに、2台の押出機を使用して母材樹脂シートにエンボスを付与することにより、押出機の用途を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。
【実施例】
下記に示す配合により樹脂シート用配合物およびエンボス加工用樹脂配合物を調整した。
[樹脂シート用配合物]
成 分質量部
再生塩化ビニール (再生農ビ) 65
可塑剤(DINP) 15
安定剤(OW474.Ba−Zn系.粉体) 2.8
充填材(TS70) 122
リサイクル材(製品の粉砕物) 30
着色剤 任意
融点温度 約170度(押出溶融温度)
【0036】
[エンボス加工用樹脂配合物]
成 分質量部
塩化ビニール(重合度 1100) 79
艶消し塩化ビニール 21
可塑剤(DINP) 35
充填材(CCR) 33
安定剤(AP628.Ba−Zn系.粉体) 1.2
安定剤(SC126.Ba−Zn系.液体) 0.3
着色剤 任意
融点温度 約190度
【0037】
先ず、第1の押出機から、樹脂シート成型用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を、4mmの厚さになるように溶融押出して、その表面に、第2の押出機からエンボス加工用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を、幅3mm、高さ1mmの筋(山)になるように溶融押出し、樹脂シート成型用ポリ塩化ビニル樹脂配合物で、エンボス加工用ポリ塩化ビニル樹脂配合物を被覆・固定して、樹脂シートに筋(山)状エンボスを形成した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上述べたように、本発明は、高価なエンボスロールを必要としないので、筋、線、不連続な点、或いはこれらを組合わせた単純なエンボスを安価に加工することができ、高価なエンボスロールと加圧ロールの(バックアップロール)の最低2個のロールを必要とする従来法で使用するエンボス装置に比べて、それほど大がかりな装置を使用せずに、小ロットにも対応でき、エンボスを付与することによるコストも吸収できる。エンボスロールを使用せずに、2台の押出機を使用して母材樹脂シートにエンボスを付与することにより、押出機の用途を拡大することができるので、筋、線、不連続な点、或いはこれらを組合わせた単純なエンボスを形成した床材、壁材、天井材、外壁材等を製造する場合には、安価に且つ小ロットで製造できる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボス加工を施した樹脂シートを製造する方法で、
1.樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物と、樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物より融点が高いエンボス用熱可塑性樹脂配合物を用意すること、
2.第1の押出機に樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物を充填し、第2の押出機にエンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を充填すること、
3.第1の押出機から樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物を溶融押出し、所定の時間をおいて、第2の押出機からエンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を溶融押出し、樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物で、エンボス加工用熱可塑性樹脂配合物を被覆・固定して、樹脂シートに任意の形状のエンボスを形成すること。
【請求項2】
前記エンボス用熱可塑性樹脂配合物の融点と樹脂シート成型用熱可塑性樹脂配合物の融点の差が10〜20℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
樹脂シートの用途が床材である請求項1〜3のいずれか1項に記載した方法。

【公開番号】特開2007−38624(P2007−38624A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252555(P2005−252555)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【Fターム(参考)】