説明

樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法

【課題】樹脂ベルト補強用繊維として寸法安定性、特に湿度による長さ方向の寸法安定性に優れた芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリアミド繊維を、ブロックイソシアネートを主成分とする水溶液に含浸させ、該ブロックイソシアネートの解離温度以上で熱処理することを特徴とする。さらには、ブロックイソシアネートのブロック基の解離温度が100℃以上200℃以下であることや、ブロックイソシアネートの融点がブロック解離温度より5℃以上高い温度でありかつブロック解離後のイソシアネートの融点がブロック解離温度より3℃以上低い温度であることが好ましく、熱処理後、次いで水溶性エポキシにて処理を行うことが好ましい。また、補強する樹脂が熱硬化性ウレタン樹脂であることや、OA機器用であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維に関し、さらに詳しくは位置決め精度に優れたOA機器等の樹脂ベルト補強用に好適に用いられる芳香族ポリアミド繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達ベルトであるタイミングベルト、Vベルト、平ベルト等は、その基体となる樹脂の伸長を抑え強度を補強するために繊維コードを用いている。繊維コードとしては高モジュラス繊維である、ポリエステル、ガラス、芳香族ポリアミド繊維等が一般的であるが、中でも芳香族ポリアミド繊維は屈曲性に優れ、かつ高モジュラスである点で広く採用されている。特にOA機器等の事務系、精密機械には小径プーリーが多用されており、耐屈曲性に優れた芳香族ポリアミド繊維が、剛直なガラス繊維よりも特に好適であることが知られている(たとえば特許文献1、特許文献2など)。
【0003】
しかし、従来このような樹脂ベルトの使用時には、ベルトの張力を一定に保持するためにテンショナーが用いられていたが、近年装置のコンパクト化、コストダウンのために、テンショナーを省略した軸間固定のレイアウトが増加してきている。軸間固定レイアウトでは経時等による寸法変化が少ないことが要求されるが、芳香族ポリアミド繊維は吸湿による経時変化が大きいという問題があった。
【0004】
また、OA機器、特にプリンターなどでは、少しの遊びが発生しただけで印字位置がずれて正常に印刷ができなくなるので作動制御用樹脂ベルトの位置決め性が重要であり、制御ベルト用としてより寸法変化の少ない補強用繊維が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−135954号公報
【特許文献2】特開平9−159000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は樹脂ベルト補強用繊維として寸法安定性、特に湿度による長さ方向の寸法安定性に優れた芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、芳香族ポリアミド繊維を、ブロックイソシアネートを主成分とする水溶液に含浸させ、該ブロックイソシアネートの解離温度以上で熱処理することを特徴とする。さらには、ブロックイソシアネートのブロック基の解離温度が100℃以上200℃以下であることや、ブロックイソシアネートの融点がブロック解離温度より5℃以上高い温度でありかつブロック解離後のイソシアネートの融点がブロック解離温度より3℃以上低い温度であることが好ましく、熱処理後、次いで水溶性エポキシにて処理を行うことが好ましい。
【0008】
また、芳香族ポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドであることや、補強する樹脂が熱硬化性ウレタン樹脂であること、樹脂ベルトがOA機器用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂ベルト補強用繊維として寸法安定性、特に湿度による長さ方向の寸法安定性に優れた芳香族ポリアミド繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維に用いられる芳香族ポリアミド繊維としては、一般にアラミド繊維と呼ばれる物であるが、特には強度に優れたパラ型アラミド繊維であることが好ましい。このような繊維の具体例としては、例えばポリパラアミノベンズアミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタルアミド、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等、もしくはこれらの共重合体からなる繊維を挙げることができる。特には、本発明で用いる繊維として屈曲疲労性が高い共重合型のコポリパラフェニレン・3,4’―オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラ」)がより有効である。
【0011】
用いられる芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は4dtex以下であることが好ましく、さらには0.5dtex以上3dtex以下であることが好ましい。単糸繊度が大きすぎると繊維強度を発揮させにくく、単糸繊度が小さすぎると寄り合わせた時の強力利用率が低下する傾向にある。また総繊度としては100〜1000dtexの範囲であることが好ましい。撚り数としては強力を有効に活用する観点からも80T/10cm以下であることが好ましく、さらには寸法安定性を向上させるために無撚で用いることがより好ましい。
【0012】
本発明の製造方法は、このような芳香族ポリアミド繊維を、ブロックイソシアネートを主成分とする水溶液に含浸させ、該ブロックイソシアネートの解離温度以上で熱処理する製造方法である。
【0013】
本発明で用いられるブロックイソシアネートとは、ブロックドポリイソシアネート化合物からなるものであり、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加反応生成物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生ぜしめるものである。ブロックイソシアネートを主成分とする水溶液とは、水溶液中の水以外の成分の主なものがブロックイソシアネート成分であることであり、好ましくは全固形分の50%以上、最も好ましくは90%以上がイソシアネートであることである。このようにブロックイソシアネートで芳香族ポリアミド繊維を処理することにより驚くべきことに寸法安定性、特に湿度による寸法変化を低下させることとなった。理由は定かではないが、芳香族ポリアミド繊維の水吸着サイトに対し、イソシアネートが反応し、水の吸着が抑えられることが原因であるためであると推測される。
【0014】
ここで、該ブロックイソシアネートの解離温度が100℃以上200℃以下であることが好ましく、さらには120〜180℃であることが好ましい。このような解離温度を取ることにより、芳香族ポリアミド繊維の物性を阻害せずに加工を行うことが可能になる。ここで解離温度はブロックイソシアネートのブロック剤が解離する温度であり、示差熱分析装置と熱重量測定装置とを組合せたTG/DTA同時測定装置を用い、Nガス雰囲気下、昇温速度10℃/分にて、300℃まで昇温を行ったときのDTA曲線のピーク温度である。
【0015】
また、ブロックイソシアネートの融点はブロック解離温度より5℃以上高い温度であり、かつブロック解離後のイソシアネートの融点がブロック解離温度より3℃以上低い温度であることが好ましい。このような融点を有するブロックイソシアネートを用いることにより熱処理を効果的に実施することができる。
【0016】
ここでブロックポリイソシアネートの一部となるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリス(ヘキサメチレンジイソシアネート)、トリス(ヘキサメチレンジイソシアネート)のイソシアネート基を用いて鎖状に結合させた重縮合物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネートなどが挙げられる。またブロック成分としては活性水素原子を1個以上有するブロック剤であることが好ましく、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類、ピラゾール、ジメチルピラゾールなどの環状アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0017】
この中でも、本発明に好適に用いられるブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネートを利用して重縮合させたイソシアネートをブロックした化合物を挙げることができる。
【0018】
本発明で用いるブロックイソシアネートを主成分とする水溶液中の総固形分濃度は、1〜30重量%、好ましくは1.5〜20重量%、さらに好ましくは、2〜15重量%の範囲であることが好ましい。該総固形分濃度が低すぎると水溶液の表面張力が増加し、繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、ブロックイソシアネートの固形分付着量が低下することにより湿度寸法安定化効果が低下する傾向にある。また、一方、該水溶液固形分濃度が高すぎると生産コスト的に不利になるだけでなく、ブロックイソシアネート固形分付着量が多くなりすぎるため、加工時に剤の脱落が起き、加工性が低下する傾向にある。
【0019】
本発明の製造方法ではその後熱処理するが、熱処理後の芳香族ポリアミド繊維に対する固形分付着量は、0.1〜10重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜7重量%の範囲であることが好ましい。繊維に対する固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段を採用することができ、また付着量を上げるため、もしくは均一性を確保するために複数回付着することができる。このとき熱処理条件としては130〜200℃、180〜240分の範囲で行うことが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法では接着性を向上させるために、芳香族ポリアミド繊維を熱処理後、さらに水溶性エポキシにて処理を行うことが好ましい。ブロックポリイソシアネートとの相乗効果で樹脂との接着力をより向上させることが可能である。
【0021】
また、補強する樹脂としては熱硬化性ウレタン樹脂であることが好ましい。芳香族ポリアミド繊維との組み合わせにおいて、屈曲性、接着性を極めて高い性能でバランスさせることができる。
【0022】
このような本発明の製造方法で得られた樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維は、寸法安定性に優れ、様々な動力伝達ベルトであるタイミングベルト、Vベルト、平ベルト等に好適に用いられるが、空調により湿度の変化が大きく発生し、曲率の高い屈曲に対応するOA機器用の樹脂ベルト、特にプリンター用に好ましく用いられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における特性は下記の測定法によりおこなった。
(1)湿度寸法変化
サンプルコードを48時間以上軟化水に浸漬させ、水分が飽和状態にした。このサンプルをチャック間に挟み、0.011g/dtexの荷重をかけ、窒素気流下、寸法変化がなくなるまで室温放置した。この乾燥過程の寸法変化量を測定し、湿度寸法変化とした。
【0024】
[実施例1]
ジフェニルメタンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムブロック体(明成化学工業製、DM6011)を軟化水で薄め固体成分濃度を20%としたブロックイソシアネートを主成分とする水溶液を作成した。ブロックイソシアネートのブロック基の解離温度は150℃、ブロック基解離後のイソシアネートの融点は37℃であった。
一方、芳香族ポリアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製、商品名テクノーラ)440dtex/263フィラメントのマルチフィラメント糸からなる無撚コードを用意した。
【0025】
該コードをコンビュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製、タイヤコード処理機)を用いて、前記の水溶液に浸漬した後、130℃の温度で2分間乾燥し、引き続き、240℃の温度で1分間の熱処理を行った。得られた処理コードには、処理剤の固形分として、3.0重量%付着していた。該処理コードの湿度寸法変化を測定し、表1に記した。
得られた処理済コードを水溶性エポキシにて処理し、熱硬化性ウレタン樹脂の補強に用い、プリンター用ベルトを得た。接着性、寸法安定性に優れたものであった。
【0026】
[実施例2]
実施例1において、ジフェニルメタンジイソシアネートのメチルエチルケトオキシムブロック体の固体成分濃度を5%とした以外、実施例1と同様の処理を行った。なお、この際の固体成分付着量は0.8%であった。表1に併せて結果を示す。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、処理剤の替わりに水ディップを行った以外、実施例1と同様に行った。表1に併せて結果を示す。
【0028】
[比較例2]
実施例1において、剤処理を行わずに湿度寸法変化を測定した。表1に併せて結果を示す。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド繊維を、ブロックイソシアネートを主成分とする水溶液に含浸させ、該ブロックイソシアネートの解離温度以上で熱処理することを特徴とする樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項2】
ブロックイソシアネートのブロック基の解離温度が100℃以上200℃以下である請求項1記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
ブロックイソシアネートの融点がブロック解離温度より5℃以上高い温度であり、かつブロック解離後のイソシアネートの融点がブロック解離温度より3℃以上低い温度である請求項1または2記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
芳香族ポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドである請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
熱処理後、次いで水溶性エポキシにて処理を行う請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項6】
補強する樹脂が熱硬化性ウレタン樹脂である請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項7】
樹脂ベルトがOA機器用である請求項1〜6のいずれか1項記載の樹脂ベルト補強用芳香族ポリアミド繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−46201(P2007−46201A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233237(P2005−233237)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】