説明

樹脂含浸多孔質フィラー

【課題】ブレーキ用摩擦材、構造用接着剤、コンクリート等の建築用構造用部材等の成形材料として配合して使用することが可能であり、圧縮成形するときに機械的強度が高く、湿度依存性の低い特性を有する多孔質機能性フィラーを提供する。
【解決手段】層状粘土鉱物の層間にカップリング剤あるいは無機物を挿入し層間架橋体を調製し、該層状粘土鉱物の立体化を行って得られる、メソ気孔、ミクロ気孔及びマクロ気孔を併せ持つ多孔質フィラーであって、前記多孔質フィラーのマクロ気孔に樹脂を含浸させたことを特徴とする樹脂含浸多孔質フィラー。樹脂がフェノール樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロ気孔とメソ気孔、ミクロ気孔を併せ持つ構造の樹脂含浸多孔質フィラーに関し、特に、自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキに使用されるブレーキ用摩擦材、構造用接着剤、コンクリート等の建築用構造用部材及びプラスッチック等の複合材料の配合材として使用する多孔質フィラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
制動時に発生するノイズを防止する目的で、摩擦材の原料に配合する摩擦・摩耗調整成分として、吸水性が高い層状物質やゼオライト等を利用する技術が種々開発されている。例えば、特許文献1は、制動力の低下を極力防止しながら制動時の鳴きを有効に防止することのできる摩擦材として、繊維質と、マイカ、タルク等の平面状結晶構造を有する無機物の粉粒体を含む熱硬化性樹脂からなる摩擦材とその製造方法を開示している。
【0003】
また、特許文献2は、制動時の鳴き性能が良好で、耐フェード性及び耐摩耗性も良好な摩擦材として、繊維成分と、熱硬化性樹脂成分と、充填材粉末成分として樹脂コーティングされたバーミキュライトを含む摩擦材を開示している。更に、特許文献3は、クリープグローン(グー音)と称するノイズの発生を防止する自動車用ブレーキパッドとして、繊維基材、結合材及び摩擦調整材として吸水性の高いゼオライトを含む自動車用非石綿ブレーキパッドを開示している。
【0004】
最近、層状粘土鉱物に有機イオン、無機イオン、ゾル粒子あるいはカップリング剤等を挿入して、層間に細孔を形成させて得られる多孔質層状粘土鉱物は、新しい多孔質機能性フィラーとして注目されている。この材料は、原料の粘土鉱物に比べて、大きな比表面積や細孔容積を持ち、また耐熱性や吸着活性が向上するため、ペンキ等の顔料の増粘剤、ゴム組成物の改質剤、触媒、吸着剤、イオン交換体あるいは電子供与体の化合物を層間に導入することによりフォトクロミズム、エレクトロミズム等の特性を備えた複合材料等の機能性材料として工業的利用が試みられている。
【0005】
例えば、スメクタイトのような層状粘土鉱物の層間に、数分子ないし十数分子オーダーサイズの空隙を有する無機酸化物微粒子が充填された粘土層間架橋体は、スメクタイトに重合可能な陽イオン性ヒドロキシ無機金属錯体及び水との混合物を加えて反応させることにより無機酸化物微粒子を層間で形成させたり、層状粘土の層間イオンを長鎖アルキルアンモニウムイオンと交換することにより層間距離を拡大したのち、金属アルコキシ化合物を層間の空隙に導入し、加水分解して酸化物微粒子を層間で形成させる方法などが検討されている。
【0006】
また、本出願人は、別の複合材料の例として、溶媒に分散させた層状粘土鉱物、もしくは層状粘土鉱物の粉末と1〜10nmの範囲にある酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム等のコロイド溶液を室温でもしくは加熱しながら反応させることにより、層状粘土鉱物と無機物の層間架橋体を作製し、薄層化した板状粒子の立体化を行って多孔質機能性材料を調製したり、あるいは層状粘土鉱物の粉末とカップリング剤の層間架橋体を作製し、薄層化した板状粒子の立体化を行って疎水性でマクロ気孔とメソ気孔、ミクロ気孔を併せ持つ層状物質とすることが研究し、特許出願をしている(特願2005−176655、特願2006−196962)。
【0007】
層状粘土鉱物から調製された多孔質の機能性フィラーは、その層状構造から高い潤滑性を示すため、その多孔質機能性フィラーをフェノール樹脂等を配合する車両ブレーキ用摩擦材への利用が検討されている。しかし、前記のようなマクロ気孔を含む多孔質機能性フィラーをそのまま摩擦材の原材料と混合し、熱成形において高い圧力で圧縮成形すると、樹脂が多孔質機能性フィラー内部に浸入する前にマクロ気孔が押しつぶされて、補強効果が十分に発揮されない可能性がある。また、多孔質機能性フィラーは吸湿による膨潤特性が高く、潤滑性及び機械的特性が湿度の影響を受けやすいため、多孔質の複合材料がブレーキ用摩擦材の配合材料として汎用的に利用されるまでに至っていない。
【特許文献1】特許第2867661号公報
【特許文献2】特許第2827140号公報
【特許文献3】特開2000−38571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、層状粘土鉱物を出発原料とする多孔質複合材料は湿度の影響を受けやすく、又、前記材料を配合し圧縮成形するとマクロ気孔が押しつぶされて変形し、成形体の強度が低下したり、寸法安定性を維持できないという欠点があった。特に、これらを配合した車両ブレーキ用摩擦材等において、湿度の影響により摩擦係数が変動しやすく、耐摩耗性を確保することが出来なかった。
従って、本発明の課題は、ブレーキ用摩擦材、構造用接着剤、コンクリート等の建築用構造用部材及びプラスッチック等の成形材料として配合して使用することが可能であり、圧縮成形するときに機械的強度が高く、湿度依存性の低い特性を有する複合材料の配合材料としての多孔質機能性フィラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の手段により上記課題を解決した。
(1)層状粘土鉱物の層間にカップリング剤あるいは無機物を挿入し層間架橋体を調製し、該層状粘土鉱物の立体化を行って得られる、メソ気孔、ミクロ気孔及びマクロ気孔を併せ持つ多孔質フィラーであって、前記多孔質フィラーのマクロ気孔に樹脂を含浸させたことを特徴とする樹脂含浸多孔質フィラー。
(2)前記樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする上記(1)記載の樹脂含浸多孔質フィラー。
(3)前記樹脂が液状樹脂であり、前記多孔質フィラーに該液状樹脂を含浸する際、あるいは含浸後、前記液状樹脂を硬化剤で架橋させるか又は自己架橋させることを特徴とする上記(1)記載の樹脂含浸多孔質フィラー。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、多孔質機能性フィラーに樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)を含浸させることにより得られた樹脂含浸多孔質フィラーは、それを用いて成形体にしたときの強度特性が向上する。更に、マクロ気孔に樹脂が含浸することにより、成形体に負荷がかかった際にアンカー効果を発揮し、強度特性が向上する。
その上、膨潤性を有する層状粘土鉱物層間にカップリング剤を挿入した有機化層状粘土鉱物に樹脂を含浸して潤滑材として用いる場合、層間に挿入されたカップリング剤により樹脂含浸フィラーが疎水化されるため、膨潤特性が無くなり、湿度による特性の変動が小さくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で出発原料として用いる多孔質機能性フィラーは、その微細構造を図2に模式的に示すように、層状粘土鉱物1に有機化合物又は無機物2を層間に挿入してマクロ気孔3と、メソ気孔及びミクロ気孔4を含有する多孔質フィラー5である。
一方、本発明の樹脂含浸多孔質フィラー7は、多孔質機能性フィラーを複合材料の配合剤として用いる際、図1に模式的に示すように、前もって上記の多孔質機能性フィラーのマクロ気孔3に樹脂6を含浸した多孔質機能性フィラーである。
【0012】
使用する多孔質機能性フィラーのマクロ気孔の比率は用途により異なるが、全気孔中の20〜90%にあることが望ましく、好ましくは40〜70%の範囲である。又、成形材料の強度を確保するために、マクロ気孔の気孔径は0.1〜50μmの範囲にあり、ミクロ気孔の気孔径が0.5〜10μm以下にある多孔質機能性フィラーを使用することが好ましい。マクロ気孔の比率と気孔径が前記範囲外になると複合材料の強度が低下したり、フィラー効果が失われてしまう。
【0013】
多孔質機能性フィラーの原料と使用できるのは、主に層状粘土鉱物であり、例えば、層状構造をもつケイ酸塩鉱物等で、ケイ酸で構成される四面体、AlやMg等を含む八面体等が積層された層状構造を有する物質である。このようなものとしては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカ、フッ素化マイカ、カオリナイト、パイロフィロライト等が挙げられ、これらは天然品であっても、合成品であってもよい。また、リン酸ジルコニウム、フッ素処理した膨潤性マイカ等も用いることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの層状無機化合物のうち、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素化マイカ等が好ましい。又、アスペクト比は10以上が好ましく、20〜500が更に好ましい。
【0014】
上記の原料を使用する多孔質機能性フィラーは先に出願した発明の方法により、薄層化した板状粒子の立体化を行って疎水性でマクロ気孔とメソ気孔、ミクロ気孔を併せ持つ多孔質フィラーを製造することができる。
一つの製造方法は、溶媒に分散させた層状粘土鉱物、もしくは層状粘土鉱物の粉末と無機物前駆体のコロイド溶液とを、室温でもしくは加熱しながら反応させることにより、層状粘土鉱物と無機物の層間架橋体を作製し、薄層化した板状粒子の立体化を行って複合材料として多孔質機能性フィラーを製造する方法である。
前記の無機物前駆体のゾル(コロイド)溶液は、Si,Ti、Zr,Sn,Ge,Al,B,Fe,Ga,P,V,Y,As,Sc,Cr,Nb,Mo,Ca,Mg,Pb,Sr,Zn,Cu,Ni,Co,Mn,Be,Baから選ばれる1種類以上の金属及び半金属のアルコキシド等の有機化合物あるいは無機塩、ハロゲン化物を無機又は有機の1種類の溶媒、あるいはその2種類以上の溶媒の混合溶媒に溶解又は分散させたもの、あるいは溶解又は分散の後にエージングを経て加水分解させたものが用いられる。
【0015】
具体的には、例えば、層状粘土鉱物を無機アルコキシ化合物に懸濁し、混合することによって層間に第四級アンモニウムイオンを挿入した層状粘土鉱物に無機アルコキシ化合物を接触させ層間に導入する。この際の処理温度は室温から100℃程度である。このようにして無機アルコキシ化合物が加水分解して対応する水酸化物を生じ、次いでこれが脱水縮合してその表面にアルキル基を結合した無機酸化物微粒子を形成する。次いで、この生成物から液体を除去・乾燥後、焼成する。この焼成により層間で生成した無機酸化物が生成する。
【0016】
別の例として、層状粘土鉱物を水中に分散しpHをコントロールした後、粘土に対し0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜15質量%のシランカップリング剤をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、アセトニトリル、酢酸等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒に溶かして、前記の分散液に投入し、加熱撹拌する。加熱温度は室温〜80℃の温度範囲である。その後、ろ過及び水洗を行い乾燥処理して有機化層状粘土鉱物を得ることができる。
得られた生成物は、層状粘土鉱物の層間にシランカップリング剤が挿入されたことにより、吸湿による膨潤特性がなくなり、湿度による特性の変動が小さくなる。又、シランカップリング剤の挿入により層状粘土鉱物の底面間隔が拡大し、潤滑性が向上する。
【0017】
本発明において、カップリング剤としては、Si、Al、Tiの無機塩、有機塩あるいはアルコキシドが疎水基を1つ以上持つ有機化合物が用いられるが、通常一般に用いられる表面処理用カップリング剤が使用され、例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミナ系カップリング剤等が挙げられる。
【0018】
上記シラン系カップリング剤は、好ましくはYSiX4−nで表されるシランカップリング処理剤である。ここで、nは0〜3の整数である。Yは、炭素数1〜25の炭化水素基、及び炭素数1〜25の炭化水素基と置換基から構成される有機官能基からなる選択される少なくとも1種であり、該置換基としては、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、ハロゲン原子、及び水酸基から成る群より選択される官能基を少なくとも1種含むものである。Xは加水分解性基及び/又は水酸基であり、該加水分解基としてはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、及びハロゲンから成る群より選択される少なくとも1種である。n個のY又は4−n個のXは、それぞれ同種でも異種でもよい。
【0019】
上記において炭化水素基は、直鎖または分岐鎖(すなわち側鎖を有する)の飽和又は不飽和の一価又は多価の脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基を意味し、例えば、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ナフチル基、シクロアルキル基等が挙げられる。なお、アルキル基は、特に指示が無い限りアルキレン基等の多価の炭化水素基を包含する。同様にアルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、及びシクロアルキル基は、それぞれアルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基、及びシクロアルキレン基等を包含する。
【0020】
上記の式YSiX4−nにおいて、Yが炭素数1〜25の炭化水素基の例としては、デシルトリメトキシシランのようにポリメチレン鎖を有するもの、メチルトリメトキシシランのように低級アルキル基を有するもの、2−ヘキセニルトリメトキシシランのように不飽和炭化水素基を有するもの、2−エチルヘキシルトリメトキシシランのように側鎖を有するもの、フェニルトリエトキシシランのようにフェニル基を有するもの、3−β−ナフチルプロピルトリメトキシシランのようにナフチル基を有するもの、及びp−ビニルベンジルトリメトキシシランのようにフェニレン基を有するものが挙げられる。Yがビニル基を有する基である場合の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、及びビニルトリアセトキシシランが挙げられる。Yがアミノ基を有する基である場合の例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ−アニリノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。代表的なシラン系カップリング剤としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、及びトリエトキシメチルシランが挙げられる。
【0021】
層状粘土鉱物を分散させる溶媒は、無機又は有機の1種類の溶媒、あるいはその2種類以上の溶媒の混合溶媒で、酸性から中性及びアルカリ性の溶媒のいずれもが用いられる。好ましい溶媒としては、作業環境の安全性、低コスト性などの点からエタノールが挙げられる。
多孔質機能性フィラーに樹脂を含浸する際においては、多孔質機能性フィラーがもつ気孔のうちのマクロ気孔に樹脂が含浸するようにするためには、樹脂や溶媒の種類も大きな影響があるが、樹脂溶液の粘度が最も影響が大きいものとみられ、その粘度は樹脂溶液の樹脂の濃度が関連するので、樹脂や溶媒の種類を決めた後、樹脂溶液の最適な樹脂濃度を実験的に求めるようにすることが好ましい。樹脂溶液は一般に粘度が大きいため、マクロ気孔のみに樹脂が含浸させることは容易である。
【0022】
本発明の多孔質機能性フィラーに含浸する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリビニルトルエン、ポリエチレンブチレート、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリイソブチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる熱硬化性樹脂も、限定されないが、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、尿素樹脂、尿素・メラミン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができ、これらの中ではフェノール樹脂とエポキシ樹脂が好ましい。又、熱可塑性エラストマーであるブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等の比較的低分子量の樹脂も含浸条件を容易に設定できるので好ましい。
【0024】
フェノール樹脂は、レゾール型、ノボラック型のどちらを用いても良い。
本発明で用いられる液状レゾール型フェノール樹脂は、公知の手段により得られるものであれば殆どの種類の樹脂を使用できるが、フェノール類としてフェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどを用いることができこれらは単独もしくは2種以上混合して使用することができる。また、油変性、ゴム変性等公知の変性を行ったフェノール樹脂の使用も差し支えない。アルデヒド類としてはホルマリン、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等を単独もしくは2種以上混合して使用することができる。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酢酸亜鉛、アンモニア、ヘキサミン等の1〜3級アミン等公知の触媒が使用できる。
【0025】
溶媒としては、レゾール型フェノール樹脂を溶解させられるものであれば水、有機溶媒のどちらでも使用できる。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類、セロソルブ類等が好適であるが、これに限定されるものではない。またこれらは2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。
【0026】
レゾール型樹脂は、樹脂の溶媒として比較的多くの溶媒を選択できるので含浸処理を容易に行うことが出来る。又、自己架橋性があるので含浸処理を行った後架橋すれば、フィラーのマクロ気孔が固体となるので圧縮変形に対して寸法安定性が向上する。
ノボラック型フェノール樹脂もレゾール型樹脂と同様に含浸することが出来るが、含浸溶媒の種類がやや制限される。フィラーに含浸したフェノール樹脂はヘキサメチレンテトラミンのような硬化剤で樹脂を硬化することが望ましい。
【0027】
本発明で使用することの出来るエポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂や、エピクロルヒドリンとカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダントイン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
エポキシ樹脂を使用する場合、樹脂の含浸処理中あるいは含浸処理後に硬化剤を添加してマクロ気孔中の樹脂を硬化することが望ましい。硬化剤としてはアミン系硬化剤を使用することが出来る。エポキシ樹脂の硬化剤としては酸無水物系の硬化剤も知られているが、酸無水物系の硬化剤を用いて硬化したエポキシ樹脂中に形成される結合の網目は、エステル結合、あるいは、エステル結合とエーテル結合から構成され、これらは加水分解を起こす可能性があるため、本発明には、耐水性の観点からアミン系硬化剤が適している。アミン系硬化剤の具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0029】
熱可塑性エラストマーであるブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムのようなブチル系ゴム等も含浸用樹脂として使用できるが、その場合、数平均分子量が500〜3,000程度の液状ポリマーを多孔質フィラーに含浸後、加硫促進剤で樹脂を硬化すれば含浸工程の作業効率を高めることが出来る。
【0030】
樹脂の含浸に使用する溶媒は、特に限定されないが、プロトン供与体を含む溶媒、極性溶媒が使用できる。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、MEK、ジエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノアセチレート、エチレングリコールジアセチレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−テトラデカン等の脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよいが、水、アルコール類が使用できれば含浸操作が容易になる。
【0031】
多孔質機能性フィラーに熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を含浸する操作は、溶媒とフィラーを混合した状態又は樹脂を予め溶解した状態で撹拌装置に投入する。含浸を効率よく行うためには、樹脂を溶解した状態の溶媒にフィラー粒子を分散することが勧められる。従って、樹脂の両溶媒を選択することが含浸操作の要点となる。含浸温度は特に制約されないが、室温から溶媒の沸点を越えない温度程度の範囲で行うことが出来る。又、樹脂を含浸する際、多孔質フィラーのぬれを良くするために界面活性剤を添加してもよい。
含浸処方もとくに制約されないが、多孔質機能性フィラー1質量部と樹脂1質量部に対し、溶媒量は2〜40質量部、好ましくは4〜20質量部混合する。溶媒の量が40質量部を超えると、得られる樹脂含浸多孔質機能性フィラーの脱水、乾燥工程で処理効率が低下し、溶媒量が少なすぎても含浸効率が低下する。
【0032】
樹脂を含浸した多孔質フィラーは、配合・成形工程での混合撹拌等を均一にするために、粉砕造粒することが好ましい。その際の造粒物の大きさは、平均長径が0.02〜7mm、好ましくは0.03〜5mmである。0.02mm未満の場合は配合材料を混練りしにくくなり、7mmを超える場合は、押出機における噛み込みが悪くなり、分散不良の原因となる。
【0033】
上記のようにして得られた樹脂含浸多孔質フィラーは、湿度依存性が大幅に低下し、圧縮変形に対する機械的強度が向上しているため、車両ブレーキ用摩擦材、構造用接着剤、コンクリート等の建築用構造用材料及びプラスッチック等配合材料として利用することが出来る。
【0034】
前記樹脂含浸多孔質フィラーを複合材料としてブレーキ用摩擦材を製造する場合、繊維基材、無機充填材、摩擦調整材及び結合材等が配合されるが、層状粘土鉱物を原料とする本発明の樹脂含浸多孔質フィラーは、銅やアルミニウム、亜鉛等の金属粒子、バーミキュライトやマイカ等の鱗片状無機物、硫酸バリウムや炭酸カルシウム等の粒子と併用して無機充填材として使用することが出来る。
又、ブレーキ用摩擦材に配合する結合材がフィラー含浸樹脂と同じである場合、樹脂含浸多孔質フィラーを調製後、フィラー表面の樹脂を除去する工程が不要となるので、樹脂含浸多孔質フィラーの製造原価を低くすることが出来る。
【0035】
摩擦材の製造は、周知の製造工程により行うことができ、例えば、予備成形、熱成形、加熱、研磨等の工程を経て摩擦材を作製することができる。ディスクブレーキ用摩擦パッドの製造工程の場合においては、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、耐熱性有機繊維や無機繊維、金属繊維等の繊維基材と、無機・有機充填材、摩擦調整材及び熱硬化性樹脂結合材等の粉末原料とを配合し、攪拌により十分に均質化した原材料を常温にて所定の圧力で成形(予備成形)して作製した予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程が行われる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜2、比較例1〜3
(多孔質機能性フィラーの調製)
合成フッ素雲母10g、酢酸15gを蒸留水600ミリリットルに投入し良く撹拌して合成フッ素雲母分散液を調製した。トリエトキシメチルシラン20gをエタノール300ミリリットルで希釈し、良く撹拌した後、合成フッ素雲母分散液に投入し、75℃で5時間濃縮しながら撹拌した後、200℃の加熱炉で2時間加熱処理を行い、粉砕処理を経て本発明で用いる多孔質機能性フィラーAを得た。
また、トリエトキシメチルシランの代わりにトリエトキシアミノプロピルシランを用いて同様に処理して多孔質機能性フィラーBを得た。
【0038】
(試料の作製)
上記の多孔質機能性フィラーA15g、フェノール樹脂15g及びエタノール100mlを反応容器に投入し、70℃で良く撹拌した。この混合溶液を80℃で72時間減圧乾燥した後、粉砕処理を経て樹脂含浸多孔質フィラーの試料Aを得た。また、多孔質機能性フィラーBを用いて同様にして樹脂含浸多孔質フィラーの試料Bを得た。
【0039】
(試料の測定)
創製した試料、多孔質機能性フィラーなどの粉末X線回折測定を行い、底面間隔を測定した。又、第1表の配合処方で、サイズが50mm×65mm×10mmの成形体を30MPaの圧力をかけ成形し、この成形体を所定の大きさに切断してテストピースを作製し強度特性を評価した。
創製した試料、多孔質機能性フィラーなどの粉末X線回折による底面間隔を第2表に示す。試料A、Bは、多孔質機能性フィラーA、Bと同等以上の底面間隔を有している。なお、表中、「メチルシラン」は「トリエトキシメチルシラン」を示し、また「アミノプロピルシラン」は「トリエトキシアミノプロピルシラン」を示す。
第1表の配合処方で成形し、切断して形成したテストピースの強度試験の結果を第3表に示す。実施例1〜2のサンプルは比較例1〜3のそれと比較して曲げ強度が高くなっており、本発明の効果が確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
第1表の配合処方で成形したテストピースの試験結果を第3表に示す。実施例のサンプルは比較例のそれと比較して曲げ強度が高くなっており、本発明の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂含浸多孔質フィラーは、湿度依存性が低い特性を有し、成形時の機械的強度が高いので、自動車、鉄道車両、航空機及び産業機械等のブレーキ用摩擦材、構造用接着剤、コンクリート等の建築用構造用部材及びプラスッチック等の成形材料等に利用範囲が拡大すると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】多孔質機能性フィラーのマクロ気孔に樹脂が含浸されていることを示した、本発明の樹脂含浸多孔質フィラーを模式的に示した図である。
【図2】多孔質機能性フィラーを模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0046】
1 層状粘土鉱物
2 無機物
3 マクロ気孔
4 メソ気孔、ミクロ気孔
5 多孔質機能性フィラー
6 樹脂
7 樹脂含浸多孔質フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状粘土鉱物の層間にカップリング剤あるいは無機物を挿入し層間架橋体を調製し、該層状粘土鉱物の立体化を行って得られる、メソ気孔、ミクロ気孔及びマクロ気孔を併せ持つ多孔質フィラーであって、前記多孔質フィラーのマクロ気孔に樹脂を含浸させたことを特徴とする樹脂含浸多孔質フィラー。
【請求項2】
前記樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の樹脂含浸多孔質フィラー。
【請求項3】
前記樹脂が液状樹脂であり、前記多孔質フィラーに該液状樹脂を含浸する際、あるいは含浸後、前記液状樹脂を硬化剤で架橋させるか又は自己架橋させることを特徴とする請求項1記載の樹脂含浸多孔質フィラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−137849(P2008−137849A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325663(P2006−325663)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】