説明

樹脂成形体の製造方法

【課題】汚れの付きにくい樹脂成形体を得る方法の提供。
【解決手段】塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させる工程と、その後の加熱工程を有しており、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得る、樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が改質された樹脂成形体を得ることができる樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種分野において、樹脂からなる繊維、フィルム、シート、板材、角材、パイプ等の様々な形態の成形体が汎用されている。
【0003】
特許文献1には、ゼータ電位が−15mV以下である防汚性ポリエステル長繊維と共重合ポリエステルからなる抗ピル性ポリエステル紡績体とを用いた防汚性多層構造編地の製造方法の発明が記載されている(特許請求の範囲)。この発明では、防汚性ポリエステル長繊維のゼータ電位が−15mVを超えると洗濯再汚染性が低下することが記載されている(段落番号0007)。
【0004】
特許文献2には、原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過処理する際、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行うにあたり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位を求め、このゼータ電位が負電荷となるように凝集処理条件を制御する発明が記載されている(特許請求の範囲)。この発明は、前記のように凝集処理条件を制御することで、多孔質ろ過膜のファウリングを抑制でき、安定的に長期間運転できることが記載されている(段落番号0013)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−339234号公報
【特許文献2】特開2009−248028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術と反して、表面のゼータ電位を正(+)にすることにより表面を改質する、樹脂成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させる工程と、その後の加熱工程を有しており、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得る、樹脂成形体の製造方法を提供する。
本発明は、課題の他の解決手段として、
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させながら加熱する工程を有しており、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得る、樹脂成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である、表面が改質された樹脂成形体を得ることができ、前記樹脂成形体は汚れが付着し難く、除去し易いという性質を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】比較例1のフィルムのATR法によるIRスペクトルを示す図。
【図2】実施例1のフィルムのATR法によるIRスペクトルを示す図。
【図3】実施例1のフィルムのマジックインキ拭き取り試験前後の紫外可視透過率スペクトルを示す図
【図4】比較例1のフィルムのマジックインキ拭き取り試験前後の紫外可視透過率スペクトルを示す図
【図5】比較例3のフィルムのATR法によるIRスペクトルを示す図。
【図6】実施例3のフィルムのATR法によるIRスペクトルを示す図。
【図7】実施例8のパイプのATR法によるIRスペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<製造方法の実施形態;第1の製造方法と第2の製造方法>
本願発明の製造方法は、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させる工程と加熱工程を有している。
本発明の接触工程と加熱工程を有する製造方法では、
接触工程の後に加熱する工程を有している(2つの工程に分けて実施する)方法(第1の製造方法)と、
接触工程と加熱工程を並行して1つの工程として実施する方法(第2の製造方法)に分けることができる。
【0011】
第1の製造方法は、
接触工程と加熱工程をそれぞれ独立した工程として実施する方法(第1Aの製造方法)と、
接触工程と加熱工程を連続的に実施する方法(第1Bの製造方法)、
に分けることができる。
第1Aの製造方法は、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させた後、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を前記水溶液中から取り出して加熱する方法である。
第1Bの製造方法は、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させた後、そのままの状態で加熱する方法である。
【0012】
第2の製造方法は、
所定温度まで加熱した状態の多価アミノ基含有ポリマーの水溶液中に塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を浸漬してから保持する方法(第2Aの製造方法)と、
室温の多価アミノ基含有ポリマーの水溶液中に塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を浸漬してから加熱する方法(第2Bの製造方法)、
に分けることができる。
【0013】
<樹脂成形体>
本発明の製造方法で用いる塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体は、
(I)塩素含有ポリマーのホモポリマーからなる樹脂成形体(第1樹脂成形体)、
(II)塩素含有ポリマーと他の熱可塑性樹脂との組成物からなる樹脂成形体(第2樹脂成形体)、
(III)第1成形体と塩素含有ポリマーを含まない熱可塑性樹脂成形体又は熱硬化性樹脂成形体との複合体(第1樹脂複合体)、
(IV)第2成形体と塩素含有ポリマーを含まない熱可塑性樹脂成形体又は熱硬化性樹脂成形体との複合体(第2樹脂複合体)、
(V)第1成形体、第2成形体及び塩素含有ポリマーを含まない熱可塑性樹脂成形体又は熱硬化性樹脂成形体との複合体(第3樹脂複合体)、
を挙げることができる。
【0014】
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体の形状や大きさは、用途に応じて適宜選択することができる。
樹脂成形体としては、用途に応じてフィルム、シート、板(平板、波板等)、棒(丸棒、角棒等)、パイプ(中空構造)、パイプ(内部に格子状、ハニカム状等の構造物を有するもの)等の所望形状のものを用いることができる。
上記の(III)〜(V)の樹脂複合体にするときは、例えば、板の場合には一面と他面を異なる成形体から形成し、パイプの場合には内側と外側を異なる成形体から形成することができる。
(III)の樹脂複合体が板である場合には、板状の第1樹脂成形体と板状の塩素含有ポリマーを含まない熱可塑性樹脂成形体を一体にした構造の(樹脂複合体)にすることができる。一体化にする方法は、融着、溶着、接着等の公知の方法を適用できる。
【0015】
塩素含有ポリマーは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニルから選ばれるものが好ましい。
【0016】
上記の第2樹脂成形体を製造するときの組成物に含まれる他の熱可塑性樹脂は、得られた樹脂成形体の用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から選択することができる。
但し、第2樹脂成形体は、成形体にしたときに塩素基が残存していることが必要であり、塩素含有ポリマーが有する塩素基と他の熱可塑性樹脂が有する基が反応しないような熱可塑性樹脂を選択して組み合わせる。
第2樹脂成形体を製造するときの組成物中、塩素含有ポリマーの含有量は50質量%以上であることが好ましく、組み合わせる樹脂に応じて相溶化剤を配合してもよい。
【0017】
上記の第1複合体〜第3複合体を製造するときの熱可塑性樹脂成形体又は熱硬化性樹脂成形体は、得られた樹脂成形体の用途に応じて公知の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から選択することができる。
【0018】
本発明の製造方法で用いる塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体は、用途に応じて要求される性質を満たすため、製造時において、公知の各種の樹脂用添加剤を配合することができる。
【0019】
<多価アミノ基含有化合物>
本発明の製造方法で用いる多価アミノ基含有ポリマーは、ポリエチレンイミン、ヒドロキシエチルポリエチレンイミン、ポリアリルアミンから選ばれるものを用いることができる。
多価アミノ基含有ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ヒドロキシエチルポリエチレンイミン、ポリアリルアミンから選ばれるものが好ましい。
ポリエチレンイミンとしては、(株)日本触媒のエポミン(登録商標)の品番SP−003(分子量300)、SP−006(分子量600)、SP−012(分子量1200)、SP−018(分子量1800)、SP−200(分子量10、000)、P-1000(分子量70、000)等を使用することができる。
多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の濃度は、接触条件及び加熱条件との関連において調整することができるが、10〜90質量%程度にすることができる。
【0020】
<第1の製造方法;第1Aの製造方法及び第1Bの製造方法>
本発明の製造方法における接触工程では、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を多価アミノ基含有ポリマーの水溶液中に浸漬する。但し、この接触工程は、第1Aの製造方法と第1Bの製造方法を実施する場合に適用される工程である。
【0021】
接触工程は、塩素含有ポリマー膜と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液が十分に接触できる方法であれば特に制限されるものではなく、室温雰囲気(例えば5〜35℃)において、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体の体積に対して2〜20倍量程度のアミノ基含有ポリマーの水溶液中に、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を3〜60分間浸漬する方法を適用することができる。
【0022】
前記水溶液中の多価アミノ基含有化ポリマー濃度が高い場合と低い場合では、濃度が高いほど接触時間を短くすることができる。
浸漬中は静置すればよいが、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの接触状態を高めるため、浸漬中において継続して撹拌するようにしてもよいし、浸漬開始から浸漬時間全体の10〜20%程度の時間だけ撹拌して、その後は静置するようにしてもよい。
【0023】
第1Aの製造方法では、上記した接触工程の後、多価アミノ基含有ポリマーの水溶液から塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を取り出し、加熱する。
第1Bの製造方法では、上記した接触工程の後、多価アミノ基含有ポリマーの水溶液に塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を浸漬した状態のままで加熱する。
【0024】
加熱工程は60〜120℃で0.5〜60時間加熱する工程である。ここで第1Aの製造方法の場合には、樹脂成形体が置かれた雰囲気の温度(気温)であり、第1Bの製造方法の場合には、多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の温度(液温)である。
なお、第1Bの製造方法の場合であって、室温雰囲気(例えば5〜35℃)で接触させた後、そのままの状態で加熱工程(60〜120℃)に移行するときは、所定の加熱温度になるまでの時間は、実質的に接触工程となる。
【0025】
加熱工程における加熱温度と加熱時間は、目的とするゼータ電位(実施例に記載の方法により測定する)を考慮して調整する。
同じ塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーを使用するときには、
加熱温度を上げ、加熱時間を長くすることで、ゼータ電位が高くなる傾向がある。
このため、加熱温度と加熱時間を変えた組み合わせを複数実施してデータを蓄積することで、好適な範囲の加熱温度と加熱時間を容易に求めることができる。アルカリ触媒を使用する場合も同様である。
【0026】
加熱温度及び時間は、使用する多価アミノ基含有ポリマーの分子量との関連においても調整することができる。
多価アミノ基含有ポリマーの分子量が小さい場合には分子量が高い場合と比べて、加熱温度を高く、加熱時間を長くする。
多価アミノ基含有ポリマーの分子量が大きい場合には分子量が高い場合と比べて、加熱温度を低く、加熱時間を短くする。
例えば、多価アミノ基含有ポリマーとして分子量が1万のポリエチレンイミンを使用したとき、80〜100℃で1〜30時間程度加熱することで、ゼータ電位を+にすることができる。
【0027】
さらに加熱温度及び時間は、使用する多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の濃度との関連においても調整することができる。
多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の濃度が低い場合には、濃度が高い場合と比べて、加熱温度を高く、加熱時間を長くする。
多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の濃度が高い場合には、濃度が低い場合と比べて、加熱温度を低く、加熱時間を短くする。
【0028】
<第2の製造方法;第2Aの製造方法及び第2Bの製造方法>
第2Aの製造方法では、所定温度(60〜120℃)まで加熱した状態の多価アミノ基含有化合物の水溶液中に塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を浸漬してから保持する方法(第2Aの製造方法)である。
第2Bの製造方法では、室温の多価アミノ基含有ポリマーの水溶液中に塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を浸漬してから所定温度(60〜120℃)になるまで加熱する方法である。
第2Aの製造方法では、接触時間と加熱時間が同じものとなる。
第2Bの製造方法は、積極的に接触工程を設けるものではない点で第1Bの製造方法と異なるが、多価アミノ基含有ポリマーの水溶液の温度が所定温度になるまでの間は接触工程と同様となるため、実質的には第1Bの製造方法を含む方法となる。
第2Aの製造方法では接触工程を実施しないため、第1A、第1B及び第2Bと同じ加熱条件であれば加熱時間をやや長めにすることが好ましい。
【0029】
第1及び第2の製造方法においては、加熱工程(第2の製造方法では接触及び加熱工程)後、樹脂成形体を水洗して、未反応の多価アミノ基含有化合物等を除去することが望ましい。
水洗方法は特に制限されるものではなく、流水洗浄、洗浄水を循環させる流水循環洗浄、浸漬洗浄、浸漬撹拌洗浄等を適用することができる。
浸漬洗浄を適用するときには、樹脂成形体の体積に対して30〜300倍量程度の水(水道水、イオン交換水等)中に、前記樹脂成形体を3〜24時間浸漬する方法を適用することができる。
【0030】
本発明の製造方法を実施することによりpH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得ることができる。
本発明の製造方法を実施して得られた樹脂成形体は、前記の表面ゼータ電位+5mV以上であるものが好ましく、より好ましくは+10mV〜+30mVのものである。
【実施例】
【0031】
〔ゼータ電位の測定方法〕
本発明の製造方法により得られた樹脂成形体のゼータ電位は、ゼータ電位測定システムELSZ(大塚電子株式会社製)を用いて、電気泳動光散乱法により測定した。
具体的には,平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)に膜を設置し、モニター粒子(大塚電子製)を分散させたpH=6〜7、10mMNaCI水溶液でセルを満たし電気泳動測定を行い,ゼータ電位を算出した。
【0032】
〔汚れ落ち易さ(汚れ難さ)の試験〕
フィルム表面の5×5cmの正方形の範囲を市販の油性マーカー(寺西化学工業製のマジックインキNo.700黒色)で一方向に1回だけ塗ることで全体を塗りつぶした。
塗りつぶした後、直ちにn−ヘキサン(和光純薬製)2mlを染みこませた紙製ウェス(日本製紙製の商品名キムワイプ)1枚で、5×5cmの正方形の範囲の全体を一方向に4回擦ることで拭き取った。
拭き取った後、正方形の範囲の全光線透過率、あるいは紫外可視光透過率を測定した。マジックインキを塗る前の全光線透過率あるいは紫外可視光透過率に対する拭き取り後の全光線透過率の透過率数値、あるいは紫外可視光透過率の回復度が大きいものほど、汚れが落ちやすいことを示している。
全光線透過率は、ヘーズメーターNDH5000W(日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。また、紫外可視光透過率は、分光光度計U−3900(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
表1における全光線透過率は、未処理のフィルムの透過率を100%としたときの数値(%)である。
【0033】
実施例1(第2Bの製造方法)
ポリ塩化ビニリデン製フィルム(旭化成製のサランラップ:登録商標)をポリエチレンイミン(日本触媒製エポミン;分子量10,000)の80質量%水溶液に浸した状態で、80℃で60分間保持した(接触及び加熱工程)。
その後、フィルムを取り出し、室温下、ビーカー内に純水と共に入れ、45分毎に純水の入れ替えを4回行うことで表面を洗い、表面に付着している余分のポリエチレンイミンを洗い流し、さらに80℃で1晩乾燥して、本発明のフィルム(樹脂成形体)を得た。
得られたフィルムのATR法によるIRスペクトルを図1に示す。
得られたフィルムの汚れ落ち易さの試験は、前記塗りつぶし前−塗りつぶし後−紙製ウェス拭き取り後の各フィルムの紫外可視光透過率を測定することにより行った。
紫外可視光透過率スペクトルを図2に示す。図2中の線aは塗りつぶし前のフィルムの紫外可視光透過率、線bは塗りつぶし後のフィルムの紫外可視光透過率、線cは紙製ウェス拭き取り後のフィルムの紫外可視光透過率を示す。
【0034】
実施例2
実施例1において、ポリエチレンイミン水溶液の濃度を30質量%にしたほかは同様にして、フィルムを得た。
【0035】
比較例1
実施例1、2と同じポリ塩化ビニリデン製フィルム(未処理のフィルム)(旭化成製のサランラップ:登録商標)を対照とした。フィルムのATR法によるIRスペクトルを図3に示す。
実施例1と同様にして未処理のフィルムの紫外可視光透過率を測定した。紫外可視光透過率スペクトルを図4に示す。図4中の線aは塗りつぶし前のフィルムの紫外可視光透過率、線bは塗りつぶし後のフィルムの紫外可視光透過率、線cは紙製ウェス拭き取り後のフィルムの紫外可視光透過率を示す。
【0036】
比較例2
実施例1において、ポリエチレンイミン水溶液に代えてジエチレントリアミン(Aldrich製のDETA)の80%水溶液を使用したほかは同様にして、フィルムを得た。
【0037】
実施例3、4(第2の製造方法)、比較例3
耐熱性ポリ塩化ビニル(カネカ製CPVC,H516A)をTHF(濃度17質量%)に溶解し、ガラス板上にキャストし、室温で1晩乾燥することでキャストフィルムを作製した。
このキャストフィルムをポリエチレンイミン(日本触媒製エポミン;分子量10,000)の水溶液に浸し、80℃で60分間保持した(接触及び加熱工程)。
その後、フィルムを取り出し、室温下ビーカー内に純水と共に入れ、45分毎に純水の入れ替えを4回行うことで表面を洗い表面に付着している余分のポリエチレンイミンを洗い流し、さらに80℃で1晩乾燥して、本発明のフィルム(樹脂成形体)を得た。
比較例3は、未処理のキャストフィルムである。
実施例3で得たフィルムと比較例3で得たフィルムのATR法によるIRスペクトルを図5、図6に示す。
また、実施例3と比較例3で得られたフィルムの汚れ落ち易さの試験は、前記マジックインキ塗りつぶし前−塗りつぶし後の紙製ウェス拭き取り後の各フィルムの全光線透過率を測定することにより行った。結果は表1に示した通りである。
【0038】
実施例5〜7、比較例4
アルドリッチ製ポリ塩化ビニル(346764−500G)をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、アプリケーターにてガラス板上にキャストして、水洗することでフィルムを得た。
このキャストフィルムをポリエチレンイミン(日本触媒製エポミン;分子量10,000)の水溶液に浸し、40℃で60分間保持した。
その後、室温下ビーカー内に純水と共に入れ、45分毎に純水の入れ替えを4回行うことで表面を洗い表面に付着している余分のポリエチレンイミンを洗い流した。
得られた表面修飾膜を80℃で1晩乾燥して、本発明のフィルム(樹脂成形体を得た)。
比較例4は、未処理のキャストフィルムである。
また、比較例4と実施例7で得られたフィルムの汚れ落ち易さの試験は、前記マジックインキ塗りつぶし前−塗りつぶし後の紙製ウェス拭き取り後の各フィルムの全光線透過率を測定することにより行った。結果は表1に示した通りである。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例8
積水化学工業製ポリ塩化ビニル管(エスロンHTパイプ;内径40mm×長さ50mm)をポリエチレンイミン(日本触媒製エポミン;分子量10,000)の80質量%水溶液に浸し、80℃で120分間保持した。
その後、室温下ビーカー内に純水と共に入れ、45分毎に純水の入れ替えを4回行うことで表面を洗い表面に付着している余分のポリエチレンイミンを洗い流し、さらに80℃で1晩乾燥させた。得られたポリエチレンイミンで表面修飾されたポリ塩化ビニル管のIRスペクトルを図7に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させる工程と、その後の加熱工程を有しており、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得る、樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体と多価アミノ基含有ポリマーの水溶液を接触させながら加熱する工程を有しており、pH=6〜7における表面のゼータ電位が+である樹脂成形体を得る、樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
塩素含有ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニルから選ばれるものであり、
多価アミノ基含有ポリマーが、ポリエチレンイミン、ヒドロキシエチルポリエチレンイミン、ポリアリルアミンから選ばれるものである、請求項1又は2記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記接触工程が、塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体を多価アミノ基含有化合物の水溶液中に浸漬する方法である、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
加熱工程が60〜120℃で0.5〜60時間加熱する工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体が、塩素含有ポリマーのホモポリマー又は塩素含有ポリマーと他の熱可塑性樹脂との組成物からなるものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
塩素含有ポリマーを含む樹脂成形体が、塩素含有ポリマーを含まない熱可塑性樹脂成形体との複合体である、請求項1〜5のいずれか1項記載の樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−22948(P2013−22948A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163296(P2011−163296)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】