説明

樹脂成形品の製造方法およびこの方法により得られる樹脂成形品

【課題】光反射性の層を含む装飾部材とする樹脂成形品を一体的に圧縮成形する新たな製造方法を提供する。
【解決手段】後退面21を有する光透過性の樹脂層11と、少なくとも後退面21を覆うように形成された光反射性の樹脂層12とを備えた樹脂成形品13を、樹脂層1と樹脂層2との積層体である予備成形体3から圧縮成形する。具体的には、予備成形体3を成形型19内で加熱しながら成形型19の凸部18aによって樹脂層2側から樹脂層1側へと押圧することにより、樹脂層1,2の界面41を後退面21の位置へと移動させながら予備成形体3を樹脂成形品13へと圧縮成形する。このとき、樹脂層1を構成する樹脂αが樹脂層2を構成する樹脂βよりも高い流動性を有するように、両樹脂α,βを、樹脂αのガラス転移温度が樹脂βの同温度よりも低くなるように選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾部材として用いられる樹脂成形品の製造方法とこれにより得られる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体的な視覚効果を持つ意匠を実現するための装飾部材として、例えば特許文献1には図10に示すような装飾部材100が開示されている。この装飾部材100では、透明または半透明の樹脂プレート200の裏面が、傾斜角度の大きな急斜面210と傾斜角度の小さな緩斜面220を交互に繰り返す鋸歯状に形成され、その裏面が色層300で覆われている。
【0003】
色層300は光反射性の層である。光透過性の層である樹脂プレート200を透過してきた光は、色層300における緩斜面220に面する部分では表側に戻るように反射されるが、色層300における急斜面210に面する部分では横方向に逸れるように反射される。このため、急斜面210に対応する部分では色層300が暗く見えるようになり、立体的な筋模様が形成される。色層300は、蒸着、スパッタリング、メッキ処理などにより樹脂プレート200上に成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭58−7494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色層300を光反射性の樹脂により構成し、樹脂プレート200とともに一体的に圧縮成形すれば、装飾部材の製造効率を高めることができる。しかし、色層300と樹脂プレート200とを一体的に圧縮成形すると、樹脂プレート200のみならず色層300においても大きな厚さの分布が生じやすくなる。光を反射する色層300の厚さの分布が大きくなると、色層300の反射率に影響が及び、装飾部材100の外観が損なわれることがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、圧縮成形により装飾部材を一体的に製造するための新たな方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、本発明により得ることができる新たな樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面および裏面を有し、前記裏面が前記表面に向かって徐々に後退して前記表面と前記裏面との間の距離である厚さを変化させる後退面を有する光透過性の樹脂層Aと、前記樹脂層Aの裏面上に少なくとも前記後退面を覆うように形成され、前記樹脂層Aを透過してきた光を反射する光反射性の樹脂層Bと、を備えた樹脂成形品の製造方法であって、
前記樹脂層Aとなる樹脂層aと前記樹脂層Bとなる樹脂層bとの積層体である予備成形体を成形型内に配置する工程と、
前記成形型内において前記予備成形体を加熱しながら前記成形型の凸部によって前記樹脂層b側から前記樹脂層a側へと前記予備成形体を押圧することにより、前記樹脂層aと前記樹脂層bとの界面を前記後退面が形成されるべき位置へと移動させながら前記予備成形体を前記樹脂成形品へと圧縮成形する工程と、
前記成形型から前記樹脂成形品を取り出す工程と、を含み、
前記界面が前記後退面が形成されるべき位置へと移動するときに前記樹脂層aを構成する樹脂αが前記樹脂層bを構成する樹脂βよりも高い流動性を有するように、前記樹脂αと前記樹脂βとを、前記樹脂αのガラス転移温度が前記樹脂βのガラス転移温度よりも低くなるように選択する、樹脂成形品の製造方法、を提供する。
【0008】
また、本発明は、その別の側面から、
表面および裏面を有し、前記裏面が前記表面に向かって徐々に後退して前記表面と前記裏面との間の距離である厚さを変化させる後退面を有する光透過性の樹脂層Aと、前記樹脂層Aの裏面上に少なくとも前記後退面を覆うように形成され、前記樹脂層Aを透過してきた光を反射する光反射性の樹脂層Bと、を備えた樹脂成形品であって、
前記樹脂層Aを構成する樹脂αのガラス転移温度が前記樹脂層Bを構成する樹脂βのガラス転移温度よりも低く、
成形型を用いて、前記樹脂層Aとなる樹脂層aと前記樹脂層Bとなる樹脂層bとの積層体である予備成形体を圧縮成形することによって得られた、
樹脂成形品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、光反射性の層(樹脂層B)となる樹脂層bを構成する樹脂βのガラス転移温度(ガラス転移点Tg)を、光透過性の層(樹脂層A)となる樹脂層aを構成する樹脂αのガラス転移温度よりも高くした。このため、樹脂層bは、樹脂層aと比較して、加熱されたときの流動性が低く、樹脂層aと比較して厚さの分布が生じにくい。したがって、本発明の製造方法によれば、高品位な装飾部材を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における樹脂成形品の製造に用いられる予備成形体の斜視図(図1A)および断面図(図1B,C)
【図2】本発明の一実施形態における樹脂成形品の斜視図(図2A)および断面図(図2B,C)
【図3】図2の樹脂成形品の樹脂層11の表面から入射した光が樹脂層12で反射する状態を示した模式図
【図4】図2の樹脂成形品を表側から見たときの外観図
【図5】本発明の一実施形態における成形型の斜視図(図5A)および断面図(図5B,C)
【図6】本発明の一実施形態における樹脂成形品の製造方法を説明する工程図
【図7】本発明の別の実施形態における樹脂成形品の製造に用いられる予備成形体の斜視図(図7A)および断面図(図7B,C)
【図8】本発明の別の実施形態における樹脂成形品の斜視図(図8A)および断面図(図8B,C)
【図9】本発明の別の実施形態における成形型の斜視図(図9A)および断面図(図9B,C)
【図10】従来の装飾部材の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1Aは、樹脂成形品の製造に用いられる予備成形体の斜視図である。図1Bは、図1Aに示す予備成形体を直線B−Bで切断した断面図である。図1Cは、図1Aに示す予備成形体を直線C−Cで切断した断面図である。
【0013】
図1に示すように、予備成形体3は、光透過性の樹脂層(樹脂層a)1と光反射性の樹脂層(樹脂層b)2との積層体である。光反射性の樹脂層2は光透過性の樹脂層1よりも薄くてよい。また、樹脂層2の厚さは実質的に均一であることが好ましい。成形の際に大きく変形することになるが、樹脂層1も、その厚さが実質的に均一であってよい。なお、本明細書において厚さが実質的に均一とは、厚さの最大値と最小値との差分がその平均値の10%、好ましくは5%を上回らないことを意味する。樹脂層1を構成する樹脂αのガラス転移温度は樹脂層2を構成する樹脂βのガラス転移温度よりも低い。詳細は後述するが、このことによって、圧縮成形した後にも、樹脂層2から形成される光反射性の樹脂層(樹脂層B)の厚さを実質的に均一に保つことができる。
【0014】
樹脂αおよび樹脂βは、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ナイロンなど汎用の樹脂から、樹脂αのガラス転移温度が樹脂βのガラス転移温度よりも低くなるような組み合わせを適宜選択して用いることができる。樹脂α,βとして、アクリル樹脂とABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂とのアロイ材などの複合材料を用いても構わない。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)などにより測定することができる。
【0015】
樹脂層1は、無色であってもよいが、装飾部材としての価値を高めるためには有色であることが好ましい。有色とするため、樹脂層1は、樹脂αに染料、顔料などの着色料を添加した材料により構成するとよい。光反射機能を持たせるために、樹脂層2は、樹脂βにアルミフレーク、マイカ粉などの光反射性材料(光反射性粒子)を添加した材料から構成するとよい。
【0016】
予備成形体3は押出成形により製造することが好ましい。押出成形を採用することによって、予備成形体3の生産性を高めることができる。予備成形体3は、具体的には、共押出成形により成形するとよい。共押出成形を採用すると、厚さが実質的に均一である樹脂層1および樹脂層2を備えた予備成形体3を効率的に製造することができる。こうして得られる予備成形体3では、両樹脂層1,2の界面が両層1,2の表面と平行な平坦面となっていることが好ましい。
【0017】
予備成形体3を圧縮成形して製造するべき樹脂成形品の例を図2に示す。樹脂成形品13は、光透過性の樹脂層(樹脂層A)11と光反射性の樹脂層(樹脂層B)12との積層体である。樹脂層Aは樹脂層aから、樹脂層Bは樹脂層bからそれぞれ形成される。図2Aは、樹脂成形品の斜視図である。図2Bは、図2Aに示す樹脂成形品13を直線B−Bで切断した断面図である。図2Cは、図2Aに示す樹脂成形品13を直線C−Cで切断した断面図である。
【0018】
この樹脂成形品13は、好ましい視覚効果を奏するように設計されている。以下、樹脂形成品13とこれにより得られる視覚効果について説明する。樹脂成形品13は、所定方向に延びる略長方形板状の形状を有しており、表側(図2では下側)に光透過性の樹脂層11を備え、裏側(図2では上側)に光反射性の樹脂層12を備えている。この形態では、樹脂層11は有色の層である。
【0019】
樹脂層11は、有色で光透過性のものである。これにより、樹脂層12は、可視光領域の特定の波長域の光を透過し、それ以外の光を反射または吸収する。樹脂層12の色は、比較的濃い色(例えば、ブラック、レッド、ブルー、あるいは三菱レイヨン社製アクリライトの色調No.530(ブルースモーク)、色調No.540(グリーンスモーク)、色調No.550(ブラウンスモーク)、色調No.83(グレースモーク)など)が好ましい。
【0020】
樹脂層11は、厚み方向の一方面である表面11bと、厚み方向の他方面である裏面11aを有している。表面11bは、樹脂層11の厚み方向と直交する平坦面である。裏面11aには、表面11bに向かって徐々に後退し、表面11bと裏面11aとの間の距離である厚さを変化させる後退面21が形成されている。本実施形態では、裏面11aは、後退面21の外側に、表面11bと平行な(換言すれば、樹脂層11の厚み方向と直交する平坦面である)基準面22を有している。
【0021】
後退面21は、樹脂層11の厚み方向と直交する少なくとも一方向に沿って樹脂層11の表面11b側に凸となるように連続的に屈曲することが好ましい。このような形態とすると、後述するように、優れた装飾効果が得られる。ここで、「連続的に屈曲する」とは、後退面21が屈曲する方向における後退面21の断面形状の接線の傾きが該断面形状の一端から他端にかけて一方向に連続的に変化することをいう。なお、後退面21が屈曲する態様は、曲率が一定の線形であっても曲率が変化する非線形であってもよい。
【0022】
本実施形態では、後退面21は、広がりながら開口する窪みを形成する凹面となっている。換言すれば、後退面21が屈曲する方向における後退面21の断面形状は、一端から他端にかけて表面11bに近づいた後に遠ざかっている。さらに、本実施形態の凹面は、樹脂成形品13の長手方向および短手方向(樹脂層11の厚み方向と直交しかつ互いに直交する二方向)に沿って連続的に屈曲するドーム状となっている。そして、基準面22は、後退面21を取り囲んでいる。
【0023】
平面視における後退面21の形状は特に限定されるものではないが、後退面21は樹脂成形品13の長手方向に延びていることが好ましい。例えば、後退面21の形状は、樹脂層11の厚み方向から見たときに、楕円状や両端が丸みを帯びた帯状であってもよい。
【0024】
後退面21の周縁部は、基準面22と稜線を形成するように基準面22に角度を持って直接的につながっていてもよい。あるいは、後端面21の周縁部と基準面22との間には断面形状が後端面21と逆向きに凸となる接続部が環状に設けられており、後端面21の周縁部は、その接続部を介して基準面22と滑らかにつながっていてもよい。
【0025】
樹脂層12は、樹脂層11の裏面11aにおける後退面21に、基準面22を覆うように形成されている。樹脂層12は、樹脂層11を透過する光を反射するためのものである。樹脂層12は、可視光領域(400〜750nm)の光の透過がほとんどなく、かつ、可視光領域の大部分の光に対する反射率が高いことが好ましい。また、樹脂層11の後退面21および基準面22と接する樹脂層12の表面は、樹脂層11を透過する光を正反射するという観点から、光沢を有する平滑面となっていることが好ましい。例えば、樹脂層12の可視光線に対する透過率は、5%以下が好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.1%以下が特に好ましい。さらに、樹脂層12は、金属色を呈することが好ましい。
【0026】
次に、図3を参照して、樹脂成形品13の樹脂層11の表面11bから入射した光の反射について説明する。図3中、4Aは後退面21の底で規定される樹脂層11の厚さが最も薄い最薄部での入射光、4Bはその反射光、5Aは最薄部の周辺部分での入射光、5Bはその反射光、6Aは後退面21の外側にある基準面22で規定される樹脂層11の厚さが最も厚い最厚部での入射光、6Bはその反射光を表している。
【0027】
図3において、最薄部では、入射光4Aの樹脂層11での透過損失が少ないため、樹脂層12での反射光量が多く、表面11bからは有色の樹脂層11が淡くかつ明るく見える。後退面21の底から周縁部に向かうにつれて樹脂層11の厚さが増加するのに伴い、入射光5Aの樹脂層11での透過損失が多くなることと、樹脂層12の表面の法線方向が徐々に連続的に横向きになることから、樹脂層12での正反射率が減少する。また、反射光5Bのように、入射方向から逸れる方向に反射する光量が増加する。このため、徐々に有色の樹脂層11が濃くかつ暗く見えるようになる。そして、後退面21の周縁部の真上部分では、暗さがピークになり、樹脂層11が黒っぽく見えるようになる。これに対し、さらに外側の最厚部では、樹脂層12が表面11bと平行になっていることから、樹脂層12での正反射率が最薄部と同じで、厚さ増加による入射光6Aの透過損失分だけ反射光6Bが減少する。このため、最厚部では、有色の樹脂層11が、最薄部よりも濃くかつ後端面21の周縁部の真上部分よりも淡く見えるようになる。
【0028】
このように有色で光透過性の樹脂層11の厚さを曲線的に変化させ、かつ、その裏側に光反射性の樹脂層12を設けることにより、具体的には、樹脂層11を有色にするとともに、後退面21を、樹脂層11の厚み方向と直交する少なくとも一方向に沿って樹脂層11の表面11b側に凸となるように連続的に屈曲させることにより、図4に示すような立体的な視覚効果を持つグラデーションがかかった模様を表現することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の樹脂成形品13では、後退面21によって有色の樹脂層11の厚さを変化させることにより、樹脂層12が後退面21に沿わされることによって形成される凸部の上に、樹脂層11の厚さが薄い部分では色が淡く、樹脂層11の厚さが厚い部分では色が濃いグラデーションを形成することができる。しかも、樹脂層11での光の透過損失および樹脂層12での光の反射により、後退面21に沿う樹脂層12の凸部が、樹脂層11の厚さが薄い部分では明るく、樹脂層11の厚さが厚い部分では暗く見えるようになる。そして、このような色の濃淡だけでなく光の反射を利用した光のコントラストを伴うグラデーションによって、樹脂層12の凸部が際だって浮き上がって見えるようになる。これにより、高い立体的視覚効果を得ることができる。
【0030】
さらに、本実施形態の樹脂成形品13では、後退面21が連続的に屈曲しているので、グラデーションにおける色の濃淡および光のコントラストを、樹脂層11の厚さが薄い部分から厚い部分にかけて徐々に密に変化させることができる。また、樹脂層12の凸部の上に形成されるグラデーションのかかり方が、樹脂成形品13を見る角度に応じて変化する。これにより、立体的視覚効果をより強調することができる。
【0031】
次に樹脂成形品13を製造する方法について説明する。
【0032】
まず、樹脂成形品13の製造に用いる予備成形体3(図1)を準備する。光透過性の樹脂層(樹脂層a)1を構成する樹脂αおよび光反射性の樹脂層(樹脂層b)2を構成する樹脂βは、例えば、ともにアクリル樹脂とABS樹脂のアロイ材とするとよい。ただし、この場合は、樹脂αのガラス転移温度は樹脂βのガラス転移温度よりも低くなるようにアロイ材を構成する樹脂の混合比を調整する。予備成形体3は、樹脂αと樹脂βの共押出成形によって製造することが好ましい。
【0033】
なお、共押出成形ラインを圧縮成形ラインに組み込み、共押出成形によって得た予備成形体を加熱された状態のままで成形型に投入すれば、圧縮成形のために予備成形体を予備加熱する必要がなくなる。
【0034】
次に、得られた予備成形体3を成形型に供給する。図5Aは成形型19の斜視図である。図5Bは、図5Aに示す成形型19を直線B−Bで切断した断面図である。図5Cは、図5Aに示す成形型19を直線C−Cで切断した断面図である。
【0035】
上型18の下方の表面は、凸面部(凸部)18aと、凸面部18aの周囲の平坦部18bとから構成されている。凸面部18aおよび平坦部18bは、圧縮成形時に予備成形体3の上面に接して予備成形体3を押圧する圧縮面として機能する。下型17は、その上面に、圧縮成形時に上型18を受け入れる凹部を有する。圧縮成形時に、凹部の底面部17aは予備成形体3の下面を支持し、凹部の側面部17bは予備成形体3が側方へと広がらないように予備成形体3の側面を支持する。予備成形体3は、凸面部18a、平坦部18b、底面部17a、側面部17bにより囲まれる空間内において、これらの面により規定される形状へと圧縮成形されることになる。
【0036】
成形型19を用いた圧縮成形は、図6A,Bに示す手順により行う。すなわち、まず、予備成形体3を成形型19の下型17の凹部内に配置し(図6A)、次いで、上型18を下方へと押し下げて予備成形体3を圧縮し、樹脂成形品13へと成形する。圧縮成形の際に、予備成形体3は、これを構成する樹脂が流動して樹脂成形品13へと変形できる程度に加熱しておく。温度が低すぎて樹脂の流動性が不足すると、得られる樹脂成形品13に割れなどの欠陥が生じるためである。
【0037】
図6A,Bに示したように、予備成形体3を構成する樹脂層1と樹脂層2との界面41の凸面部18aに対応する部分は、凸面部18aにより押圧され、湾曲しながら下方へと移動して後退面21が形成されるべき位置へと移動する。こうして、平坦な界面41から湾曲した後退面21が形成されるとともに、樹脂層1から樹脂層11が、樹脂層2から樹脂層12がそれぞれ形成されて、樹脂成形品13が得られることになる。
【0038】
界面41が湾曲しながら移動すると、予備成形体3を構成する樹脂が流動する。この流動は、主として、樹脂層1を構成する樹脂αの流動により担われることが好ましい。樹脂層2を構成する樹脂βの流動が顕著になると、樹脂層12の厚さの均一性が失われて樹脂層12の光反射能が不均一になり、望ましい視覚効果が得られないことがあるためである。樹脂αのガラス転移温度を樹脂βのガラス転移温度よりも低く設定しておくと、樹脂βと比較して樹脂αが高い流動性を有するため、樹脂層12の厚さの分布が大きくなることを防止できる。
【0039】
樹脂の流動性はガラス転移温度を境に大きく変化することが知られている。すなわち、樹脂は、そのガラス転移温度よりも高い温度にまで加熱されると大きく流動性が増す。したがって、予備成形体3は、少なくとも樹脂αのガラス転移温度よりも高い温度にまで加熱しながら圧縮成形することが好ましい。樹脂βが、ガラス転移温度以下の温度域においても、成形型内において求められる樹脂層2から樹脂層12への変形を可能にする程度の流動性を有しうるものであれば、予備成形体3は、樹脂αのガラス転移温度よりも高く樹脂βのガラス転移温度以下の温度にまで加熱して圧縮成形することができる。そうでない場合、予備成形体3は、樹脂αのガラス転移温度および樹脂βのガラス転移温度よりも高い温度にまで加熱される。
【0040】
圧縮成形の際、樹脂成形品13の残留歪みを小さくするため、上型18および下型17は等しい温度とすることが好ましい。
【0041】
上型18を下方へと押圧して所定の時間が経過した後、成形型19を冷却し、成形型19から樹脂成形品13を取り出す。
【0042】
図示したように、成形型19の上型18における樹脂層1に接する表面は、樹脂層1の厚み方向と直交する少なくとも一方向に沿って樹脂層1側に凸となるように連続的に屈曲していることが好ましい。
【0043】
本実施形態では、成形型19の上型18における樹脂層1に接する表面は、樹脂層1に接する表面に平行な少なくとも一方向に広がりながら突出する凸面部を有する。さらに、本実施形態では、成形型19の上型18における樹脂層1に接する表面は、樹脂層1に接する表面に平行かつ互いに直交する二方向に広がりながら突出する凸面部を有する。なお、「広がりながら突出する」とは、成形型19の上型18における樹脂層1に接する表面形状が、一端から他端にかけて下型17に近づいた後に遠ざかっていることを意味する。また、成形型19における樹脂層2に接する下型17の表面は平面である。なお、成形型19の表面には、離型性や耐食性の向上を目的とする保護膜が形成されていてもよい。
(第2実施形態)
【0044】
図1に示した予備成形体3に代えて図7に示す予備成形体53を、図5に示した成形型19に代えて図9に示す成形型69を用いて、第1実施形態と同様の製造工程を採用すると、図8のような樹脂成形品63を得ることができる。樹脂成形品13がB−B方向にのみ対称な形状であるのに対し、樹脂成形品63はB−B方向にだけではなく、C−C方向にも対称な形状である。このような形状とすることによって、より対称性の高い意匠効果を得ることができ、例えば樹脂層61に文字や絵などを埋め込む場合には、読み取りやすくかつ立体効果がある文字や絵を映すことができる。
【0045】
また、樹脂層61は表面61bおよび裏面61aを有し、裏面61aは、後退面121の外側に基準面を有し、この基準面122は樹脂層62から構成されている。このように構成しても、グラデーション効果を得たい部分には樹脂層62は積層されている。すなわち、樹脂層62の占める比率、言い換えれば予備成形体53(樹脂層51,52の積層体)に占める樹脂層52の比率が最小限になるため、製造コストの観点からは優れた構成と言える。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、電気機器の筐体などに高品位な装飾を施す装飾部材の形成に有用である。例えば本発明は、電気製品や自動車などに使用する装飾部材として、高い光沢感と奥行き感、そして見る角度によってグラデーション模様が変化するなどといった高品位の樹脂成形品を安価に製造するものとして、高い利用価値を有する。
【符号の説明】
【0047】
1,51 樹脂層a
2,52 樹脂層b
3,53 予備成形体
11,61 樹脂層A(光透過性の樹脂層)
12,62 樹脂層B(光反射性の樹脂層)
13,63 樹脂成形品(装飾部材)
17,67 下型
17a 底面部
17b 側面部
18,68 上型
18a 凸面部(凸部)
18b 平坦部
19,69 成形型
21,121 後退面
22,122 基準面
41 樹脂層aと樹脂層bとの界面
100 従来の装飾部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面および裏面を有し、前記裏面が前記表面に向かって徐々に後退して前記表面と前記裏面との間の距離である厚さを変化させる後退面を有する光透過性の樹脂層Aと、前記樹脂層Aの裏面上に少なくとも前記後退面を覆うように形成され、前記樹脂層Aを透過してきた光を反射する光反射性の樹脂層Bと、を備えた樹脂成形品の製造方法であって、
前記樹脂層Aとなる樹脂層aと前記樹脂層Bとなる樹脂層bとの積層体である予備成形体を成形型内に配置する工程と、
前記成形型内において前記予備成形体を加熱しながら前記成形型の凸部によって前記樹脂層b側から前記樹脂層a側へと前記予備成形体を押圧することにより、前記樹脂層aと前記樹脂層bとの界面を前記後退面が形成されるべき位置へと移動させながら前記予備成形体を前記樹脂成形品へと圧縮成形する工程と、
前記成形型から前記樹脂成形品を取り出す工程と、を含み、
前記界面が前記後退面が形成されるべき位置へと移動するときに前記樹脂層aを構成する樹脂αが前記樹脂層bを構成する樹脂βよりも高い流動性を有するように、前記樹脂αと前記樹脂βとを、前記樹脂αのガラス転移温度が前記樹脂βのガラス転移温度よりも低くなるように選択する、
樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記予備成形体が共押出成形により製造された積層体である、請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂層bの厚さ、および当該樹脂層bから形成される前記樹脂層Bの厚さが、ともに実質的に均一である、請求項1または2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形型の前記樹脂層aに接する表面は、前記樹脂層aの厚み方向と直交する少なくとも一方向に沿って前記樹脂層a側に凸となるように連続的に屈曲している、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
表面および裏面を有し、前記裏面が前記表面に向かって徐々に後退して前記表面と前記裏面との間の距離である厚さを変化させる後退面を有する光透過性の樹脂層Aと、前記樹脂層Aの裏面上に少なくとも前記後退面を覆うように形成され、前記樹脂層Aを透過してきた光を反射する光反射性の樹脂層Bと、を備えた樹脂成形品であって、
前記樹脂層Aを構成する樹脂αのガラス転移温度が前記樹脂層Bを構成する樹脂βのガラス転移温度よりも低く、
成形型を用いて、前記樹脂層Aとなる樹脂層aと前記樹脂層Bとなる樹脂層bとの積層体である予備成形体を圧縮成形することによって得られた、
樹脂成形品。
【請求項6】
前記樹脂層Bの厚さが実質的に均一である、請求項5に記載の樹脂成形品。
【請求項7】
前記樹脂層Bが有色の層であり、
前記後退面は、前記樹脂層Aの厚さ方向と直交する少なくとも一方向に沿って前記樹脂層Aの前記表面側に凸となるように連続的に屈曲している、請求項5または6に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−136544(P2011−136544A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181(P2010−181)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】