説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】 樹脂シート材を深絞り成形することによって得られる成形品が、偏肉成形品となることを効果的に防ぎ、必要最低限の材料から、所望の強度を有する製品を高精度に製造する。
【解決手段】 ブロー成形機ヘッドからパリソンを押出し、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板50a、50bとする。そして、各平板50a、50b同士を融着させることにより、必要な位置に局部的に肉厚の厚い部分を有する平板を形成する。また、この際、必要に応じ、ブロー成形機ヘッドのパリソンコントロール機能によりパリソンの肉厚に変化を与えることで、さらに多用な肉厚分布を平板に与えることが可能となる。そして、必要な位置に局部的に厚肉部を形成した平板を、真空金型にセットして真空成形を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形機ヘッド押出されるパリソンを用いた、樹脂成形品の製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無蓋箱状の樹脂製容器を製造する手法として、次のようなものが採用されている。かかる手法は、まず、図5(a)に示すように、溶融樹脂をシートに成形して押出しヘッド99から押出し、所望の長さに切断してシート材100とする。続いて、一旦温度が低下したシート材100を、図5(b)に示すようにヒータ101によって再加熱して、真空金型102にセットする。そして、図5(c)に示すように真空成形により、シート材100の深絞りを行い、最後に図5(c)に示すように製品103から不要部分104をトリミングするというものである。
しかしながら、この製造手法によると、深絞りの際に製品のコーナー部分が薄肉の偏肉成形品となるため、製品に、収縮偏差による変形が発生し易いという問題が指摘されていた。また、熱間で押出されたシートを一旦冷却し、再加熱して真空成形する手順は、行程数及び工数の増加を来し、設備レイアウトも複雑になるといった点が問題となっていた。
【0003】
また、部品性能上の要請から、最低肉厚が規定されている製品を製造する場合には、シート全体を厚肉化しなければならず、収縮偏差による変形の問題に加え、使用する材料の増加及び製品の重量増加を招くこととなっていた。
さらに、部分的に剛性が必要な製品の場合には、深溝を追加する等、形状的対策を施すことによって必要な剛性を得る手法もあるが、この場合には、製品形状の複雑化を招き、品質の安定化が困難となるといった問題が生じることとなった。
そこで、上記問題を回避するための一手法として、シート材の、製品のコーナー部に相当する部分の肉厚を予め厚く成形する方法が考えられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−115040号公報(〔請求項1〕、〔図1〕、〔図2〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂シート材を深絞り成形することによって得られる成形品が、偏肉成形品となることを効果的に防ぎ、かつ、必要最低限の材料から、所望の強度を有する製品を高精度に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明に係る樹脂成型品の製造方法は、ブロー成形機ヘッドから、必要に応じ肉厚に変化を与えながらパリソンを押出し、パリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とし、各平板同士を融着させて後、平板を金型にセットして真空成形を行うことを特徴とするものである。
この構成によれば、ブロー成形機ヘッドから連続的に押出されるパリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とし、各平板同士を融着させることにより、必要な位置に局部的に肉厚の厚い部分を有する平板を形成することができる。また、この際、必要に応じ、ブロー成形機ヘッドのパリソンコントロール機能によりパリソンの肉厚に変化を与えることで、さらに多用な肉厚分布を平板に与えることが可能となる。そして、必要な位置に局部的に厚肉部を形成した平板を、真空金型にセットして真空成形を行うことにより、偏肉成形品となることを防ぐことができる。
【0007】
なお、前記パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とするステップにおいて、前記パリソンを1つの最も大きな平板と、該最も大きな平板よりも小さな平板とにカットすることが望ましい。
この構成により、最も大きな平板の必要な位置に、これよりも小さな平板を融着させることにより、平板の必要な位置に局部的に肉厚の厚い部分を形成することができる。
【0008】
また、上記課題を解決するための、本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、ブロー成形機ヘッドから、肉厚に変化を与えながらパリソンを押出し、パリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とし、各平板を金型にセットして真空成形を行うことを特徴とするものである。
この構成によれば、ブロー成形機ヘッドから連続的に押出されるパリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とすることにより、平板を形成することができる。しかも、ブロー成形機のパリソンコントロール機能によりパリソンの肉厚に変化を与えることで、必要な肉厚分布を平板に与えることが可能となる。そして、必要な位置に局部的に厚肉部を形成した平板を、金型にセットして真空成形を行うことにより、偏肉成形品となることを防ぐことができる。
【0009】
なお、前記各平板を金型にセットして真空成形を行うステップにおいて、パリソンをカットして得た2枚の平板を、対向する真空金型に各々セットし、かつ、2枚の平板の間に真空シール用リングを介在させて後、対向する真空金型同士を型締めし、2枚の平板に対し同時に真空成形を行うことが望ましい。
本発明によれば、各平板が分離した状態で各々金型内に密閉され、2枚の平板に対し同時に真空引きを行うことにより、2つの成形品を同時に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明はこのように構成したので、樹脂シート材を深絞り成形することによって得られる成形品が、偏肉成形品となることを効果的に防ぎ、必要最低限の材料から、所望の強度を有する製品を高精度に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
【0012】
本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の製造装置10は、図1(a)に示すブロー成形機ヘッド12と、ブロー成形機ヘッド12から押出されたパリソン50の任意の場所を、任意の形状を有する複数の平板50a、50bにカットするカッターロボット14、16と、カットされた複数の平板50a、50bを各々保持するクランプロボット18、20(図2(b)参照)と、ブロー成形機ヘッド12、カッターロボット14、16、クランプロボット18、20を制御する制御手段22(図1(a)にのみ示す。)と、真空金型24(図3(a)参照。)とで構成されるものである。また、本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の製造装置10は、例えば、樹脂製燃料タンク等の樹脂成形品の製造に適したものである。
【0013】
ブロー成形機ヘッド12は、パリソン50の肉厚を制御することが可能なパリソンコントロール機能を有する、一般的なブロー成形機ヘッドである。また、カッターロボット14、16、クランプロボット18、20は、各々、汎用の作業ロボットの先端に、カッター14a、16aと、クランプ18a、18bとを装着することにより構成されたものである。制御手段22は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機により構成されるものであり、ブロー成形機ヘッド12の制御ロジックを備える。また、制御手段22は、パリソン50の任意の場所を、任意の形状を有する複数(図示の例では2枚)の平板50a、50bにカットするように、カッターロボット14、16を制御する制御ロジックを備える。さらに、制御手段22は、クランプロボット18、20に、後述する所定の動作をさせる為の制御ロジックを備えている。真空金型24は、後述のごとく、融着された1枚の平板50a、50bの深絞りを行うための金型である。
【0014】
続いて、図1〜図3を参照しながら、樹脂成形品の製造装置10を用いた樹脂成形品の製造手順を説明する。
(I)まず、図1(a)に示すように、ブロー成形機ヘッド12から、必要に応じ肉厚に変化を与えながらパリソン50を押出す。
(II)続いて、ブロー成形機ヘッド12から円筒状に押出されるパリソン50の任意の場所を、パリソン50の押出し中に、カッターロボット14、16によってカットする。この際、パリソン50が1つの大きな平板50bと、これよりも小さな平板50aとに分離するように、パリソン50の押出し方向と平行に切れ目を入れる。そして、パリソン50から小さな平板50aを切り離す際には、図1(b)に示すように、小さな平板50aの上端部をクランプロボット18によって保持した状態で、カッターロボット14、16の一方若しくは双方を、パリソン50の円周方向に移動させることによりカットする。続いて、パリソン50から大きな平板50bを切り離す際には、図2(a)に示すように、大きな平板50bの上端部をクランプロボット20によって保持した状態で、カッターロボット14、16の一方若しくは双方を、パリソン50の円周方向に移動させることによりカットする。ここまでの作業時間は、切り出される平板の大きさにもよるが、概ね1分程度である。
【0015】
(III)続いて、図2(b)に示すように、クランプロボット20によって上端部が保持された大きな平板50bの所定の位置に、クランプロボット18によって上端部が保持された小さな平板50aを位置合わせして、大きな平板50bに小さな平板50bを密着させる。この時点では、各平板50a、50bは、何れもパリソン50の押出し時とほぼ同じ高温状態が維持されていることから、小さな平板50aは大きな平板50bに対し確実に融着する。なお、このときの平板の断面形状を図2(c)に示している。
【0016】
(IV)続いて、クランプロボット20を動かし(必要に応じクランプロボット18も同時に動かす。)融着された大小の平板50a、50bを金型24にセットする。そして、図3(a)に示すように、真空金型24により真空成形を行う。ここまでの作業時間は、製品の大きさにもよるが、概ね2分程度である。なお、図3(a)の矢印Bは、真空金型24からのエアの真空引きを模式的に示したものであり、同図矢印Cは、真空金型24へのエアの吹き込みを模式的に示したものである。
(V)そして、真空成形後に真空金型24から製品52を離型し、製品52から不要部分52aをトリミングすることにより、樹脂成形品の製造を完了する。
【0017】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、ステップ(I)においてブロー成形機ヘッド12からパリソン50を押出し、ステップ(II)において、ブロー成形機ヘッド12から連続的に押出されるパリソン50の押出し中に、パリソン50の任意の場所をカットして複数の平板50a、50bとする。そして、ステップ(III)において、各平板50a、50b同士を融着させることにより、必要な位置に局部的に肉厚の厚い部分を有する平板(平板50a、50bの重ね合わせ部材)を形成することができる。また、この際、必要に応じ、ブロー成形機ヘッド12のパリソンコントロール機能によりパリソン50の肉厚に変化を与えることで、さらに多用な肉厚分布を平板に与えることが可能となる。そして、必要な位置に局部的に厚肉部を形成した平板(平板50a、50bの重ね合わせ部材)を、真空金型24にセットして真空成形を行うものである。
【0018】
しかも、パリソン50の任意の場所をカットして複数の平板50a、50bとするステップ(II)において、パリソン50を1つの大きな平板50bと、大きな平板50bよりも小さな平板50bとにカットし、大きな平板50bの必要な位置に、これよりも小さな平板50aを融着させることで、平板(平板50a、50bの重ね合わせ部材)の必要な位置に、局部的に肉厚の厚い部分を形成することができる。
【0019】
したがって、平板の、深絞りの際に製品のコーナーとなる部分や、強度を必要とされる部分に対し、意図的に必要な肉厚を付与することが可能となり、製品52が偏肉成形品となることを、効果的に防ぐことができる。また、必要な部分にのみ必要な肉厚を付与するので、必要最低限の材料から、所望の強度を有する製品を高精度に製造することができる。また、ブロー成形機ヘッド12から連続的に押出されるパリソン50を用いることで、上記のごとく任意の板厚分布を有する平板を迅速に作り出すことが可能であり、平板を製造するための金型が不要となる。また、制御手段22の制御ロジックを変更することにより、カッターロボット14、16の動作を変更することによってパリソンから切り出す平板の大きさや形状を容易に変更することが可能である。また、クランプロボット18、20によって、大きな平板50bに対する小さな平板50aの融着位置を変更することも容易であり、様々な形状の製品に対応することが可能となる。
なお、本発明の実施の形態では、パリソン50を1つの大きな平板50bと、これよりも小さな平板50aとの2枚にカットしたが、さらに多数の平板にカットして、最も大きな平板の必要な位置に、それよりも小さな複数の平板を融着させることも可能である。この場合には、分割される平板の数に対応した数の、クランプロボットを用いることが望ましい。
【0020】
図4には、上記樹脂成形品の製造方法の応用例を示している。この応用例は、上述の、パリソン50の任意の場所をカットして複数の平板50a、50bとするステップ(II)において、パリソン50を均等に2分割し、平板50a、50bを同一の大きさとする。そして、平板の深絞りを行うステップ(III)において、図4(a)に示すように、2枚の平板50a、50bを、対向する真空金型26、28に各々セットし、かつ、図4(b)に示すように、2枚の平板50a、50bの間に真空シール用リング30を介在させて後、対向する金型同士26、28を型締めし、2枚の平板50a、50bに対し同時に真空成形を行うものである。
【0021】
この場合にも、ブロー成形機ヘッド12のパリソンコントロール機能により、パリソン50の肉厚を変化させることで、パリソンから切り出される2枚の平板50a、50bに必要な肉厚分布を与えることが可能となる。そして、必要な位置に局部的に厚肉部を形成した平板50a、50bを、金型26、28にセットして真空成形を行うことにより、偏肉成形品となることを防ぎ、必要最低限の材料から所望の強度を有する製品を高精度に、しかも、2つの製品を同時に製造することが可能となる。なお、図4(b)の矢印D、Eは、真空金型26、28からのエアの真空引きを模式的に示したものである。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の製造装置10によれば、ブロー成形機ヘッド12から、パリソン50を連続的に押出し、この際、必要に応じ、ブロー成形機ヘッド12のパリソンコントロール機能により、パリソン50の肉厚に変化を与えることができる。そして、ブロー成形機ヘッド12から押出されたパリソン50の任意の場所を、カッターロボット14、16によって任意の形状を有する複数の平板50a、50bにカットすることで、必要な肉厚分布が与えられた平板50a、50bを得ることができる。
また、制御手段22によって、必要な肉厚分布が与えられた複数の平板50a、50bを、各々、クランプロボット18、20によって保持して、1つの平板50bの任意の場所に、他の平板50aを融着させ、さらに、その平板(平板50a、50bの重ね合わせ部材)を真空金型にセットするよう制御し、真空金型24、26、28により平板の真空成形を行うことができる。
【0023】
なお、図4に示す製造装置10の真空シール用リング30は、真空金型26、28と同一の材料(鉄、アルミニウム等)で構成されるものであり、真空金型26、28と共に金型構造の一部をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の製造装置により、樹脂成形品を製造する手順を示す模式図である。
【図2】図1に続く、樹脂成形品を製造する手順等を示す模式図である。
【図3】図2に続く、樹脂成形品を製造する手順を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る樹脂成形品の製造装置により、樹脂成形品を製造する手順の応用例を示す模式図である。
【図5】従来の樹脂成形品の製造装置により、樹脂成形品を製造する手順の応用例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
10:樹脂成形品の製造装置、12:ブロー成形機ヘッド、 14、16:カッターロボット、 18、20:クランプロボット、22:制御手段、 24、26、28:真空金型、30:真空シール用リング、50:パリソン、52:製品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形機ヘッドから、必要に応じ肉厚に変化を与えながらパリソンを押出し、パリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とし、各平板同士を融着させて後、平板を金型にセットして真空成形を行うことを特徴とする樹脂成型品の製造方法。
【請求項2】
前記パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とするステップにおいて、前記パリソンを1つの最も大きな平板と、該最も大きな平板よりも小さな平板とにカットすることを特徴とする請求項1記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項3】
ブロー成形機ヘッドから、肉厚に変化を与えながらパリソンを押出し、パリソンの押出し中に、パリソンの任意の場所をカットして複数の平板とし、各平板を金型にセットして真空成形を行うことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記各平板を金型にセットして真空成形を行うステップにおいて、パリソンをカットして得た2枚の平板を、対向する金型に各々セットし、かつ、2枚の平板の間に真空シール用リングを介在させて後、対向する金型同士を型締めし、2枚の平板に対し同時に真空成形を行うことを特徴とする請求項3記載の樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−315199(P2006−315199A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137444(P2005−137444)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】