説明

樹脂棒延伸方法

【課題】材料のロスが少なくかつ均一な径の延伸樹脂棒を簡易な装置で得る方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】結晶性樹脂からなる棒状部材の両端部を加熱して結晶化させたのち、該両端部をそれぞれ把持具で把持し、該把持具を互いに離れていく方向に移動させることにより前記棒状部材を延伸する樹脂棒延伸方法である。前記結晶化は前記両端部を加熱することにより行われ得る。また、前記加熱は前記両端部を前記結晶性樹脂が結晶化する温度に保たれる液に浸漬することにより行われ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用骨ピン等の加工用原料となる樹脂棒の延伸方法に関し、とくには、有限長の未延伸の樹脂棒をバッチ式で延伸する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未延伸の樹脂棒の延伸は、樹脂棒が細い場合は合成繊維の製造におけるように2組の把持ローラを用いて把持ローラ間に引き取り速度差を与えて、無限長のものを連続的に延伸することが可能であるが、樹脂棒の径がおおよそ2mm以上のものについては、巻き取りや確実な連続的把持が困難であることなどから有限長の未延伸の樹脂棒をバッチ式に延伸することが行われる。また、延伸には加熱をともなうのが一般的であるが、延伸ゾーンにおけるワークの均一な加熱のうえでも、樹脂棒の径が太い場合はバッチ式に延伸するほうが有利であり、装置も簡易化できる。
【0003】
有限長の未延伸の樹脂棒についてはダイスを用いて未延伸の樹脂棒を静圧押出法により延伸する方式がある(例えば、特許文献1参照)が、この方式は均一な径の延伸樹脂棒を得ることができるものの材料のロスが大きく、歩留まりが10%台と悪く、また特殊なダイスを必要とするなど装置も精巧さが要求される。このことから、材料のロスが少なくかつ均一な径の延伸樹脂棒を簡易な装置で得る方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−351137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、材料のロスが少なくかつ均一な径の延伸樹脂棒を簡易な装置で得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、結晶性樹脂からなる棒状部材の両端部を結晶化して硬化させた後、該両端部をそれぞれ把持具で把持し、該把持具を互いに離れていく方向に相対移動させることにより前記棒状部材を延伸する樹脂棒延伸方法であることにある。
【0007】
前記結晶化は前記両端部を加熱することにより行われ得る。
【0008】
前記加熱は前記両端部を前記結晶性樹脂が結晶化する温度に保たれる液に浸漬することにより行われ得る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、材料のロスが少なくかつ均一な径の延伸樹脂棒を簡易な装置で得る方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる樹脂棒延伸方法による樹脂棒の延伸の態様を示す模式図である。
【図2】本発明における樹脂棒の端部を液に浸漬する態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に本発明にかかる樹脂棒延伸方法による樹脂棒の延伸の態様を示す。図1において、延伸すべき未延伸の樹脂棒2の両の端部4、4が把持具5、5により、把持され、把持具5、5を互いに離れていく方向(矢印A)に相対移動させることにより、樹脂棒2の延伸が行なわれる。延伸は樹脂をガラス転移温度に近い温度に加熱した状態で行われる。
【0012】
このとき、端部4、4が樹脂棒のその他の部分(延伸される部分)と同様に結晶化されていない場合は、樹脂棒2が延伸温度に加熱されると端部4が外力を受けた場合に容易に変形しやすくなり、端部4を把持具5により把持しようとしても把持により生ずる加圧により変形し、延伸のための端部4の確実な把持が難しい。
【0013】
この延伸においては、端部4、4があらかじめ結晶化されている樹脂棒2が用いられる。この結晶化は端部4、4をそれぞれに樹脂棒を構成する樹脂が結晶化する温度に加熱することにより行われる。あるいは、端部4、4をこの樹脂を膨潤させる膨潤液に浸漬して端部4、4を膨潤させた後乾燥することにより行うことができる。結晶化は端部4を加熱することにより行うことが、操作の簡易さや、膨潤液によるコンタミの問題のうえで好ましい。
【0014】
この結晶化により、端部4、4は硬化し、樹脂がその延伸温度に加熱された状態であっても、外力に対して比較的安定であり、把持具5により把持されても把持により生ずる加圧による変形が小さく、把持具5により端部4を確実に把持でき、これにより、樹脂棒2の延伸を確実に行うことができる。
【0015】
把持具5としては端部4を延伸時にスリップなく把持できるものであれば形式は問わないが、ネジによる締結力により端部4を把持するチャックや、バネや磁石の復元力を利用して端部4を付勢して把持するチャックなどが例示される。
【0016】
この結晶化は端部4のみを所定の結晶化温度に所定時間保ち、かつ樹脂棒2の端部4以外の部分を樹脂棒2が結晶化しない温度(通常は室温)に維持することにより行うことができる。この結晶化温度はこの樹脂の示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化に伴う発熱ピークが観察される温度に略等しいことが好ましい。
【0017】
樹脂は通常この結晶化により白化するので結晶化はこの白化により目視確認できる。
【0018】
本発明に用いる未延伸樹脂棒の径はとくに限定はないが、通常は2〜20mmであることが好ましい。端部4の長さは把持具5により把持できる長さであればとくに限定はないが、通常は5〜10mmであることが好ましい。
【0019】
端部4の結晶化のためのこの加熱は、端部4を所定の温度に保たれた液に浸漬することにより好適に行うことができる。すなわち、図2に示すように所定の温度に保たれた液10に樹脂棒2を上から突っ込んで端部4のみが液面下に位置するような状態に、端部4が結晶化するまで、保つことにより好適に行うことができる。
【0020】
本発明に用いる樹脂棒2は結晶性樹脂を素材とするものである。本発明において結晶性樹脂とは、JIS K7122(1999)に準じて、昇温速度20℃/minで樹脂を25℃から融点以上の温度まで20℃/minの昇温速度で加熱(1stRUN)、その状態で5分間保持後、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度室温から20℃/minの昇温速度で融点以上の温度まで昇温を行って得られた2ndRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化に伴う発熱ピークが観察される樹脂のことである。
【0021】
本発明に用いる樹脂棒2としては、結晶性樹脂からなる未延伸の樹脂棒であればとくに限定されないが、本発明はポリ乳酸のような生体適合性樹脂の延伸に好適に用いることができる。
【0022】
樹脂棒2の延伸は、樹脂棒2を所定の延伸温度に保たれた液に浸漬した状態で行うことが、工程が安定し、均一な延伸樹脂棒が得られて好ましい。樹脂棒2の素材がポリ乳酸の場合、延伸温度に保たれたグリセリン液中で延伸することが好ましい。グリセリンは本発明で得られた延伸樹脂棒が骨の結合用部材に適する生体適合性部材に用いられる場合などに、延伸樹脂棒に残留していても問題がないので好ましい。
【0023】
樹脂棒2の素材がポリ乳酸の場合、端部4を結晶化させる温度は115〜130℃であることが好ましい。樹脂棒2の素材がポリ乳酸の場合、延伸温度はこの樹脂のガラス転移温度付近の温度であることが好ましい。このガラス転移温度を2〜4℃下回る温度であることがさらに好ましい。延伸倍率は2〜5倍であることが好ましい。
延伸後樹脂棒はガラス転移温度以上例えば120℃で定長熱固定されることが好ましい。さらに定長熱固定後ガラス転移温度以上例えば80℃でアニールされることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる結晶性樹脂としては溶融状態でノズルダイから吐出可能なものであればとくに限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、などが挙げられ、これらの樹脂は、用途等に応じて1種類単独でも2種類以上を混合して使用してもよい。また、これらの樹脂には、必要に応じて可塑剤、剥離剤、帯電防止剤、難燃剤、等の種々の添加剤や物性改良のための各種フィラー、ガラス繊維、カーボン繊維等、さらには、着色剤、染料等を混合して使用してもよい。
【0025】
さらに、本発明は真円性と構造の均一性が要求される生体吸収性樹脂からの丸棒の作成に好適に適用される。この生体吸収性樹脂としてはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリジオキサノン等の脂肪族ポリエステル系の生体吸収性樹脂などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
原料の結晶性樹脂としてポリ乳酸を用い丸棒を作成した。未延伸の樹脂棒として溶融押し出し機で得られたΦ6mm×長さ360mmのものを用いた。図2に示す態様で120℃のグリセリン液中に未延伸の樹脂棒の両端それぞれにつき、10mmが液中に浸漬される状態で2分間保ち、その後液から引き上げて自然冷却した。これにより、樹脂棒の両端が結晶化し白化した。次いで、図1に示す態様でこの丸棒を65℃に保ったグリセリン液中で100mm/minの延伸速度で2.5倍に延伸しΦ3.8mmの延伸丸棒を得た。この延伸丸棒をグリセリン液中で120℃15分定長固定し、さらに無把持状態で80℃15分のアニールを行い、その後液から引き上げて自然冷却した。こうして得た樹脂棒は両端の白化の部分を除いて使用可能であり、未延伸の樹脂棒の歩留まりは90%を超えた。
【0027】
得られたこの樹脂棒は長手方向の径の変動が小さく均一な延伸がなされてねじり強度や引っ張り強度のような機械的性質も良好かつ樹脂棒の長手方向に変動が小さく、骨接合用部材等に好適な生体適合性材料として好適に用いることができるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の樹脂棒延伸方法は、延伸ゾーンでの把持がむつかしい未延伸の樹脂棒を延伸して延伸された樹脂棒を製造する工程に広く適用される。とくには、ポリ乳酸のような生体吸収性を有する生体適合性材料としての医療用部材の材料を提供するために好適に用いられる。
【符号の説明】
【0029】
2:樹脂棒
4:端部
5:把持具
10:液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂からなる棒状部材の両端部を結晶化して硬化させた後、該両端部をそれぞれ把持具で把持し、該把持具を互いに離れていく方向に相対移動させることにより前記棒状部材を延伸する樹脂棒延伸方法。
【請求項2】
前記結晶化が前記両端部を加熱することにより行われる請求項1に記載の樹脂棒延伸方法。
【請求項3】
前記加熱が前記両端部を前記結晶性樹脂が結晶化する温度に保たれる液に浸漬することにより行われる請求項2に記載の樹脂棒延伸方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98495(P2011−98495A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254157(P2009−254157)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】