説明

樹脂用結晶核剤の製造方法

【課題】樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くすることができ、透明性が高い樹脂用結晶核剤を、容易に製造できる樹脂用結晶核剤の製造方法を提供する。
【解決手段】フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させることにより、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛、及び、前記フェニルホスホン酸の金属塩を構成する金属の水酸化物を含有する樹脂用結晶核剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂やポリオレフィン系樹脂等の樹脂用結晶核剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境保護の見地から、自然環境中で生分解可能な脂肪族ポリエスエルに関する研究が精力的に行なわれている。中でもポリ乳酸樹脂は、融点が160〜180℃と高く透明性に優れるため、容器、フィルム等の包装材料、衣料、繊維材料、電気、電子製品の成形材料として期待されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いという問題がある。結晶化速度が遅いと、結晶化度が低くなるため、耐熱性が悪くなる。例えば、ポリ乳酸樹脂を延伸が行われない射出成形等によって成形する場合、成形物は結晶化度が低くなり60℃前後のガラス転移温度を超えると変形しやすくなるという欠点を有している。そこで、結晶化度を上げるために、射出成形時の金型温度を高くし、金型内での冷却時間を長くする方法が試みられているが、この方法では成形時間が長くなるため、生産性に課題を有する。
【0004】
また、ポリ乳酸樹脂やポリプロピレン樹脂の結晶化速度を高める方法としては、例えば、結晶性高分子である樹脂の一次結晶核となり結晶成長を促進して結晶化速度を高める結晶核剤を添加する方法が知られている。
【0005】
ポリ乳酸樹脂の結晶核剤としては、特定の粒径以下のタルク及び/又は窒化ホウ素からなる無機粒子(特許文献1参照。)、特定の式で示されるアミド化合物(特許文献2参照。)、特定の式で示されるソルビトール誘導体(特許文献3参照。)、リン酸エステル金属塩及び塩基性無機アルミニウム化合物(特許文献4参照。)、フェニルホスホン酸の金属塩(特許文献5参照。)等が開示されているが、さらに有効な樹脂用結晶核剤の開発が望まれている。また、成形時間を短くするために、結晶化温度を高くすることも望まれている。そして、より透明性に優れていることや、容易に製造できることも望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−3432号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−87975号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平10−158369号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003−192883号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】国際公開第2005−97894号パンフレット(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くすることができ、透明性が高い樹脂用結晶核剤を、容易に製造できる樹脂用結晶核剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の樹脂用結晶核剤の製造方法は、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させることにより、塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤を得ることを特徴とする。
【0009】
また、上記樹脂用結晶核剤は、比表面積が20〜100m/gであることが好ましい。
【0010】
そして、前記分散が、ディスパー型攪拌羽または分散メディアを用いた湿式分散であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させることにより、樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くすることができ、透明性が高い樹脂用結晶核剤を、容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】合成例1のXRD回折パターンである。
【図2】合成例2のTEM写真である。
【図3】合成例8のTEM写真である。
【図4】比較例2で用いたフェニルホスホン酸亜鉛のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂用結晶核剤の製造方法は、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させるものである。これにより、塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤を得ることができる。
【0014】
詳述すると、まず、例えばマグネシウム、リチウム、ナトリウム及びカリウムから選択される少なくとも一種の金属の炭酸塩又は金属水酸化物とフェニルホスホン酸とを水に溶解することにより、原料であるフェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液を調整する。例えば、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムとフェニルホスホン酸とを、マグネシウムとフェニルホスホン酸との比であるマグネシウム/フェニルホスホン酸がモル比で例えば0.3〜0.6の割合になるように、水に溶解することにより調製できる。ここで、マグネシウム/フェニルホスホン酸(モル比)が0.3未満とすると、製造される混合スラリーのpHが7以下になる。そして、このpHが7以下のスラリーを乾燥して得られた樹脂用結晶核剤は、ポリ乳酸樹脂に混練するとポリ乳酸が一部溶解するため結晶化速度を高くし且つ結晶化温度を高くするという結晶核剤性能が小さくなり、また、生成するフェニルホスホン酸亜鉛が、マグネシウム/フェニルホスホン酸(モル比)が0.3以上のものと比較して粗大粒子になりポリ乳酸樹脂の結晶核剤性能が低下する。そして、ポリ乳酸樹脂の溶解部分が非晶質のまま固化するのでその部分が脆くなり機械特性が低下する。また、マグネシウム/フェニルホスホン酸(モル比)が0.6より大きいとフェニルホスホン酸マグネシウム粒子が析出する。したがって、マグネシウム/フェニルホスホン酸(モル比)は、0.3〜0.6の範囲内であることが好ましい。
【0015】
次に、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを、この水に対して例えばシアヌル酸濃度が0.1〜10.0質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%になるように加え、続いて上記フェニルホスホン酸の金属塩の水溶液を混合する。例えばフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液としてフェニルホスホン酸マグネシウムの水溶液を用いる場合は、フェニルホスホン酸マグネシウムの水溶液の濃度が1.0〜3.0質量%になるように配合して混合スラリーを調整することが好ましい。なお、水に対するシアヌル酸の濃度が10質量%より高いと、スラリー粘度が高くなりペースト状になるため、後段のディスパー型攪拌羽根や、分散メディアを用いた湿式分散などで分散がし難くなる。一方、水に対するシアヌル酸濃度が0.1質量%より低いと、生産性が悪く好ましくない。
【0016】
また、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種とシアヌル酸との割合は特に限定されないが、モル比で、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛の酸化亜鉛換算量の合計/シアヌル酸が1.0〜5.0であることが好ましく、さらに好ましくは2.5〜3.0である。酸化亜鉛換算量の合計/シアヌル酸が5.0より高い場合や1.0より低い場合は、反応に寄与しなかった酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛やシアヌル酸が多量に残存する傾向があるためである。
【0017】
また、フェニルホスホン酸の金属塩に含まれるフェニルホスホン酸の水に対する配合割合は特に限定されないが、フェニルホスホン酸の金属塩に含まれるフェニルホスホン酸の濃度が1.5〜3.0質量%であることが好ましい。3.0質量%より高くてもポリ乳酸樹脂の結晶核剤性能は大きく向上せず、また、1.5質量%より低いとポリ乳酸樹脂の結晶核剤性能が低下するためである。
【0018】
次に、得られた混合スラリーを、例えば5〜60℃、好ましくは5〜55℃の温度範囲で、ディスパー型攪拌羽根や、分散メディアを用いた湿式分散などで分散させる。これにより、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種とシアヌル酸を反応させて塩基性シアヌル酸亜鉛を生成すると共に、酸化亜鉛または塩基性炭酸亜鉛とフェニルホスホン酸の金属塩とを反応させてフェニルホスホン酸亜鉛を生成する。また、この反応により、原料であるフェニルホスホン酸の金属塩を構成する金属の水酸化物や酸化物も生成する。なお、ディスパー型攪拌羽根や、分散メディアを用いた湿式分散によって混合スラリーを分散させることにより、反応時間を短くすることができるため、分散はディスパー型攪拌羽根や、分散メディアを用いた湿式分散で行なうことが好ましい。
【0019】
分散は、55℃よりも高い温度で湿式分散を行うと、生成する塩基性シアヌル酸亜鉛およびフェニルホスホン酸亜鉛が、55℃以下で湿式分散した場合と比較して粗大粒子になり、ポリ乳酸樹脂の結晶核剤性能が低下するため、55℃未満で行なうことが好ましい。このように低温で製造することができるため、樹脂等熱に弱い装置を用いて製造することができる。また、ディスパー型攪拌羽根や、分散メディアを用いた湿式分散などで分散を行って製造すると、透過電子顕微鏡観察による一次粒子が、長軸が100〜1200nm、短軸が10〜100nm、レーザー回折法により測定した平均粒子径D50が80〜900nmである塩基性シアヌル酸亜鉛粒子、長軸及び短軸が50〜800nmのフェニルホスホン酸亜鉛粒子を含有する樹脂用結晶核剤を製造することができる。
【0020】
ここで、分散メディアを用いた湿式分散とは、分散メディアが衝突することにより生じる機械的エネルギーによって、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、フェニルホスホン酸の金属塩とを、メカノケミカル反応させることである。メカノケミカル反応とは、分散メディアの衝突によって、酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、シアヌル酸や、フェニルホスホン酸の金属塩に多方面から機械的エネルギーを与えて化学反応させることをいう。分散メディアとしては、例えば、安定化ジルコニア製ビーズ、石英ガラス製ビーズ、ソーダライムガラス製ビーズ、アルミナビーズや、これらの混合物が挙げられる。分散メディア同士が衝突して分散メディアが破砕することにより生じる汚染を考慮すると、分散メディアとして、安定化ジルコニア製ビーズを用いることが好ましい。そして、分散メディアの大きさは、例えば直径0.1〜10mm、好ましくは直径0.5〜2.0mmである。分散メディアの直径が0.1mm未満であると、粉砕メディア同士の衝突エネルギーが小さく、メカノケミカル反応性が弱くなる傾向がある。また、分散メディアの直径が10mmより大きいと、分散メディア同士の衝突エネルギーが大きすぎて分散メディアが破砕して汚染が多くなるため、好ましくない。分散メディアを用いた湿式分散を行う装置は、例えば、サンドグラインダー、横型ビーズミル、アトライタ、パールミル(アシザワファインテック(株)製)等が挙げられる。なお、分散メディアの撹拌のための装置の回転数や反応時間等は、所望の粒子径等に合わせて適宜調整すればよい。
【0021】
このようにして得られた塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛や、原料であるフェニルホスホン酸の金属塩を構成する金属の水酸化物(例えば水酸化マグネシウム)を含有する結晶核剤組成物は、これらを含有するスラリーのまま樹脂用結晶核剤として使用してもよく、また、このスラリーを乾燥させて、ピンディスクやジェットミルなどで微粉末状としたものを樹脂用結晶核剤としてもよい。
【0022】
このように、本発明の製造方法によれば、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させるという簡便な操作で、樹脂用結晶核剤を製造することができる。なお、この反応はワンポットで製造することができるため、収率よく製造することができる。
【0023】
また、上記本発明の製造方法によって得られる樹脂用結晶核剤を用いることにより、樹脂の結晶化速度が高くなるため、樹脂の結晶化度が高くなり、樹脂の成形物の耐熱性を向上させることができる。また、結晶化速度が高くなることにより、結晶化に要する時間が短くなるため、短時間で樹脂の成形物を得ることができ生産性が向上する。そして、短時間で結晶化することにより、球晶サイズが小さくなり緻密で高剛性を有し透明性に優れた成形物を得ることができる。また、樹脂の結晶化温度も高くなるため、樹脂を射出成形等の金型で成形する場合に、金型の冷却温度を高くできるので、短時間で樹脂の成形物を得ることができ、生産性が向上する。そして、塩基性シアヌル酸亜鉛と、フェニルホスホン酸亜鉛と、フェニルホスホン酸の金属塩を構成する金属の水酸化物とを単に混合したものよりも、結晶化温度が高く結晶化速度が速い。
【0024】
また、上記本発明の製造方法によって得られる樹脂用結晶核剤は、比表面積が例えば20〜100m/gと比較的大きく微細なため、成形物の透明性をさらに向上させることができる。
【0025】
ここで、本発明の製造方法で得られた樹脂用結晶核剤は、上述したように、塩基性シアヌル酸亜鉛粒子を含有するものである。そして、この塩基性シアヌル酸亜鉛は、鉄系の金属表面の腐食防止剤として知られている物質であり、従来は樹脂用の結晶核剤として使用されていないものであるが、本発明者らにより、結晶性高分子である樹脂の一次結晶核となり、結晶成長を促進して結晶化速度を高め、また、結晶化温度を高くする機能を有するため、結晶核剤として使用できることが知見されたものである。そして、本発明の製造方法で得られた樹脂用結晶核剤は、フェニルホスホン酸亜鉛を含有し、このフェニルホスホン酸亜鉛は、樹脂用結晶核剤として知られている成分であるが、コストが高いという問題がある。本発明においては、フェニルホスホン酸亜鉛よりもコストが低い酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛や、シアヌル酸を原料とすることにより、樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くするという効果と、低コスト化という効果を両立させることができる。
【0026】
製造される樹脂用結晶核剤が含有する塩基性シアヌル酸亜鉛粒子やフェニルホスホン酸亜鉛の含有割合は特に限定されず、例えば、シアヌル酸として20〜40質量%、フェニルホスホン酸として10〜30質量%とすればよい。結晶核剤組成物のシアヌル酸成分を20質量%未満にすると、塩基性シアヌル酸亜鉛含有量が少なくなり、フェニルホスホン酸亜鉛含有量が高くなるが、フェニルホスホン酸亜鉛の原料、すなわち、フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩は高価な上に、これ以上フェニルホスホン酸濃度を高くしても結晶核剤性能は向上しない。逆に、結晶核剤組成物のシアヌル酸成分濃度を40質量%より多くすると、塩基性シアヌル酸亜鉛の含有量が多くなり、フェニルホスホン酸亜鉛の含有量が少なくなり過ぎるため、結晶核剤性能が低下し、好ましくない。なお、シアヌル酸は、分子式C3333で表され、CHN元素分析で測定される窒素量から定量することができる。そして、フェニルホスホン酸は、分子式C673Pで表され、蛍光X線分析で測定されるリン量によって定量することができる。
【0027】
また、樹脂用結晶核剤が含有する亜鉛とフェニルホスホン酸亜鉛との比である亜鉛/フェニルホスホン酸亜鉛の質量比は、1より大きく4未満であることが好ましい。質量比を1以下にして高価なフェニルホスホン酸濃度を高くしても結晶核剤性能は向上せず、また、4以上では、結晶核剤性能が低下する傾向があるためである。
【0028】
そして、本発明の製造方法で得られた樹脂用結晶核剤は、樹脂と共に用いて樹脂組成物とすることができる。
【0029】
樹脂としては、例えば、ポリ乳酸や、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。また、2種類以上の樹脂を用いてもよい。ポリ乳酸樹脂としては、乳酸のホモポリマーやコポリマー、またはこれら乳酸のホモポリマーやコポリマーを主体とし他の樹脂を混合したブレンドポリマーが挙げられる。混合する他の樹脂としては、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂、汎用合成樹脂、汎用合成エンプラ等が挙げられる。ポリ乳酸樹脂がコポリマーの場合、配列様式はランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーのいずれであってもよい。また、上記ポリ乳酸樹脂を熱、光、放射線等を利用して架橋剤で架橋させたものをポリ乳酸樹脂として使用してもよい。勿論、これらのポリ乳酸樹脂を2種類以上用いてもよい。そして、ポリ乳酸の分子量に特に限定はないが、例えば、数平均分子量は10,000〜500,000程度である。また、ポリ乳酸樹脂の製造方法に特に限定はないが、例えば、ラクチドを開環重合させることや、乳酸のD体、L体、ラセミ体等を直接重縮合させることにより、製造することができる。
【0030】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。そして、ポリプロピレン樹脂としては、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等や、不飽和カルボン酸又はその酸無水物で変性したポリプロピレンが挙げられる。不飽和カルボン酸又はその酸無水物で変性したポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン単独重合体や、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレンと、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸又は酸無水物ユニットを有する不飽和カルボン酸又はその酸無水物との共重合体又はグラフト共重合体等が挙げられる。特にプロピレンとアクリル酸又は無水マレイン酸の共重合体又はグラフト共重合体が好ましい。勿論、これらのポリオレフィン系樹脂を2種類以上用いてもよい。そして、ポリオレフィン系樹脂の分子量に特に限定はないが、例えば、数平均分子量は10,000〜500,000程度である。
【0031】
本発明の製造方法で得られ、塩基性シアヌル酸亜鉛粒子及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤と樹脂との配合割合に特に限定はないが、樹脂としてポリ乳酸樹脂を用いる場合は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、塩基性シアヌル酸亜鉛粒子及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤を0.01〜10.0質量部とすることが好ましい。また、樹脂としてポリオレフィン系樹脂を用いる場合も、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、塩基性シアヌル酸亜鉛粒子及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤を0.01〜10.0質量部とすることが好ましい。
【0032】
上記樹脂組成物は、無機充填剤を含有していてもよい。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、カラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末のいずれでもよい。これらの無機充填剤の配合量は、例えば、樹脂100質量部に対して、300質量部以下とすることができる。
【0033】
また、上記樹脂組成物は、難燃剤を含有していてもよい。難燃剤としては、例えば、臭素系や塩素系等のハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物等の無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラム等のメラミン系難燃剤、PTFE等のフッ素樹脂等が挙げられる。これらの難燃剤の配合量は、例えば、樹脂100質量部に対して、200質量部以下とすることができる。
【0034】
また、樹脂組成物は、上記成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系等の各種カップリング剤、その他の各種充填剤や、シアヌル酸亜鉛粒子以外の結晶核剤等、一般的な合成樹脂の製造時に、通常使用される各種添加剤を含有していてもよい。
【0035】
本発明の製造方法によって得られた塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤と、樹脂と、必要に応じて添加する各種添加剤を用いて、樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の結晶核剤を含有する樹脂組成物と同様の方法で製造することができる。例えば本発明の製造方法によって得られた塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する結晶核剤と、樹脂と、必要に応じ添加する添加剤を各種ミキサーで混合し、単軸あるいは二軸押出機などを用いて例えば150〜220℃程度の温度で混練することにより、樹脂組成物を製造することができる。また、本発明の製造方法で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤や必要に応じて添加する添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを生成し、これを樹脂に添加する方法も可能である。そして、樹脂の重合段階で、樹脂用結晶核剤を添加する方法でもよい。
【0036】
このような樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の一般的な成形法により、各種成形物を容易に製造することができる。成形物は、例えば、容器、フィルム等の包装材料、衣料、繊維材料、電気、電子製品等として使用することができる。
【0037】
そして、上記樹脂組成物は、結晶核剤である塩基性シアヌル酸亜鉛粒子及びフェニルホスホン酸亜鉛亜を含有するため、樹脂の結晶化速度が高い。したがって、樹脂の結晶化度が高くなり、耐熱性が良好な成形物を得ることができる。また、結晶化速度が高くなることにより、結晶化に要する時間が短くなるため、短時間で樹脂の成形物を製造することができる。そして、短時間で結晶化することにより、球晶サイズが小さくなり緻密で高剛性を有し透明性に優れた成形物を得ることができる。また、塩基性シアヌル酸亜鉛粒子及びフェニルホスホン酸の金属塩を含有することにより樹脂の結晶化温度も高くなるため、樹脂を射出成形等の金型で成形する場合に、金型の冷却温度を高くできるので、短時間で樹脂の成形物を製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
(測定装置)
実施例及び比較例における分析は、以下の装置・条件で行った。
透過型電子顕微鏡観察:JEM−1010型(日本電子(株)製)印加電圧100KV
レーザー回折法粒子径測定:SALD−7000型((株)島津製作所製)、試料1gを純水で200倍希釈し測定
比表面積測定:窒素吸着法表面積測定装置モノソーブ機(ユアサアイオニクス(株)製)
重量分析:試料を磁器製ルツボに約2g入れ精秤後、110℃で乾燥後の質量より固形分を算出
X線粉末回折同定:粉末X線回折装置RINT Ultima型((株)リガク製)
元素分析:全自動元素分析装置CHNS/Oアナライザー2400(パーキン・エルマー社製)
【0040】
(合成例1)
2リットルのポリ容器に純水1501g及びフェニルホスホン酸((日産化学工業(株)製)以下「PPA」とも記載する)79.7gを投入し、攪拌しながら炭酸マグネシウム(関東化学製試薬 MgOとして42wt%)19.3gを添加した後、1時間50分攪拌して炭酸マグネシウムを溶解し、モル比でMg/PPA=0.40、pH=2.4、電導度=11.78mS/cmのフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液を調製した。新たな2リットルのポリ容器に純水1077gと得られたフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液313gを加えた後温浴槽に浸し、混合水溶液が30℃になるまで加温した。混合水溶液が30℃に到達したらディスパー羽根(EYELA製 NZ−1000)で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)36.4gを投入し、更に加温しながら40分間強攪拌した。続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入し、白色スラリー1483gを作成した。この時のスラリー温度は38℃であり、スラリー温度が38℃を維持するように温浴槽で加温しながらディスパー羽根で8時間強攪拌した。これにより、pH7.2、電導度608μS/cm、粘度400mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.2質量%の白色スラリーが1483g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が28m/gのパウダー(110℃の乾燥粉)を103g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、図1に示すように、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察され、3つの化合物の混合物からなるパウダーであった。このことから、フェニルホスホン酸マグネシウムは、強酸性のフェニルホスホン酸が酸化亜鉛と反応してフェニルホスホン酸亜鉛になり、マグネシウムが水酸化マグネシウムになり、残りの酸化亜鉛とシアヌル酸が反応して塩基性シアヌル酸亜鉛が生成したことが分った。このパウダーは、シアヌル酸として29質量%、亜鉛として43質量%、フェニルホスホン酸として16質量%およびマグネシウムとして1.3質量%含有していた。なお、シアヌル酸C3333はCHN元素分析で測定される樹脂用結晶核剤中の窒素量から算出し、フェニルホスホン酸C673Pは蛍光X線分析で測定される樹脂用結晶核剤中のリン量によって算出した。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜800nm、短軸が20〜60nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が100〜500nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が均一に分散していた。結果を表1に示す。
【0041】
(合成例2)
シアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)を33.1gにした以外は合成例1と同じ操作をして、pH7.2、電導度196μS/cm、粘度500mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.2質量%の白色スラリーが1483g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が49m/gのパウダーを102g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として32質量%、亜鉛として42質量%、フェニルホスホン酸として16質量%およびマグネシウムとして1.3質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜800nm、短軸が20〜60nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が100〜500nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が均一に分散していた。結果を表1に示す。また、透過型電子顕微鏡観察した写真を図2に示す。
【0042】
(合成例3)
2リットルのポリ容器に合成例1で作成したフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液313gと純水1160gを混合した後温浴槽に浸し、混合水溶液が30℃になるまで加温した。混合水溶液が30℃に到達したらディスパー羽根で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)30.3gを投入し、更に加温しながら40分間強攪拌した。続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入し、白色スラリー1560gを作成した。この時のスラリー温度は38℃であり、スラリー温度が38℃を維持するように温浴槽で加温しながらディスパー羽根で8時間強攪拌して、pH8.6、電導度133μS/cm、粘度700mPa・s、110℃乾燥時の固形分が6.6質量%の白色スラリーが1560g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が56m/gのパウダーを100g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として35質量%、亜鉛として40質量%、フェニルホスホン酸として15質量%およびマグネシウムとして1.2質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜800nm、短軸が20〜60nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が100〜500nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0043】
(合成例4)
2リットルのポリ容器に純水997gと合成例1で得られたフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液313gを加えた。この混合水溶液にディスパー羽根で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)33.1gを投入し、続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入し、白色スラリー1400gを作成した。この時のスラリー温度は26℃で、続けてディスパー羽根で8時間強攪拌した後のスラリー温度は28℃であった。これにより、pH8.0、電導度275μS/cm、粘度1040mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.6質量%の白色スラリーが1400g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が62m/gのパウダーを105g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛とフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として32質量%、亜鉛として42質量%、フェニルホスホン酸として16質量%およびマグネシウムとして1.3質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が100〜300nm、短軸が10〜30nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が50〜200nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0044】
(合成例5)
スラリー温度を50℃にした以外は合成例2と同じ操作をして、pH7.7、電導度213μS/cm、粘度720mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.6質量%の白色スラリーを1480g得た。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が35m/gのパウダーを102g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として32質量%、亜鉛として42質量%、フェニルホスホン酸として16質量%およびマグネシウムとして1.3質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜1000nm、短軸が40〜80nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が200〜600nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0045】
(合成例6)
スラリー温度を60℃にした以外は合成例2と同じ操作をして、pH7.6、電導度183μS/cm、粘度640mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.6質量%の白色スラリーが1480g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が26m/gのパウダーを102g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として32質量%、亜鉛として42質量%、フェニルホスホン酸として16質量%およびマグネシウムとして1.3質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が300〜1000nm、短軸が40〜100nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が300〜800nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が均一に分散していた。結果を表1に示す。
【0046】
(合成例7)
2リットルのポリ容器に合成例1で作成したフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液195gと純水1194gを混合した後温浴槽に浸し、混合水溶液が30℃になるまで加温した。混合水溶液が30℃に到達したらディスパー羽根で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)36.4gを投入し、更に加温しながら40分間強攪拌した。続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入し、白色スラリー1483gを作成した。この時のスラリー温度は38℃であり、スラリー温度が38℃を維持するように温浴槽で加温しながらディスパー羽根で8時間強攪拌して、pH8.1、電導度142μS/cm、粘度540mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.2質量%の白色スラリーが1483g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が52m/gのパウダーを104g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として33質量%、亜鉛として46質量%、フェニルホスホン酸として10質量%およびマグネシウムとして0.8質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜800nm、短軸が20〜60nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が100〜500nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0047】
(合成例8)
純水24kgと酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)2kgを容積200リットルの混合用タンクに投入し、ディスパー羽根で攪拌混合後、酸化亜鉛換算濃度が7.62質量%のスラリー26kgを調製した。次に有効容積10.66リットルで内壁がウレタン樹脂の横型ビーズミル(アシザワファインテック(株)製 システムゼータLMZ25)にφ1mmの安定化ジルコニア製粉砕ビーズ66kgを仕込んだ。水温が13℃の井戸水をジャケット水にした循環タンクに純水144kgを仕込んだ後、横型ビーズミルのディスクを周速9.5m/秒で回しながら供給速度22.1kg/分で純水を横型ビーズミルに供給して、純水を循環させた。循環開始後にシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)1.19kgを投入した。シアヌル酸粉末を投入後、循環スラリーの温度が42℃になるように調節した後、酸化亜鉛換算濃度が7.69質量%の酸化亜鉛スラリー24.6kgを5分割して10分かけて添加した。添加後も横型ビーズミルのディスクを周速9.5m/秒で回しながら供給速度22.1kg/分でスラリーを7時間循環し、分散した。またこの間も循環スラリー温度は42℃になるように調節した。これにより、pH7.9、電導度206μS/cm、粘度86mPa・s、塩基性シアヌル酸亜鉛換算濃度1.8質量%の白色スラリーが167kg得られた。得られた白色スラリーの110℃乾燥粉についてX線粉末回折分析を行ったところ、原料のシアヌル酸及び酸化亜鉛に帰属される回折ピークは観察されず、塩基性シアヌル酸亜鉛の回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として39質量%および亜鉛として49質量%含有していた。そして、得られた白色スラリーに含まれる微粒子は、透過型電子顕微鏡観察では長軸が400〜1200nm、短軸が20〜40nmで、レーザー回折法粒子径測定による平均粒子径D50は397nmであり、70℃乾燥後の比表面積Swが54m/gの塩基性シアヌル酸亜鉛であった。結果を表1に示す。また、透過型電子顕微鏡観察した写真を図3に示す。
【0048】
(合成例9)
2リットルのポリ容器に合成例1で作成したフェニルホスホン酸マグネシウム水溶液156gと純水1233gを混合した後温浴槽に浸し、混合水溶液が30℃になるまで加温した。混合水溶液が30℃に到達したらディスパー羽根で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)36.4gを投入し、更に加温しながら40分間強攪拌した。続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入、白色スラリー1483gを作成した。この時のスラリー温度は38℃であり、スラリー温度が38℃を維持するように温浴槽で加温しながらディスパー羽根で8時間強攪拌して、pH8.4、電導度130μS/cm、粘度550mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.2質量%の白色スラリーが1483g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が60m/gのパウダーを103g得た。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛、フェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として34質量%、亜鉛として46質量%、フェニルホスホン酸として8質量%およびマグネシウムとして0.6質量%含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸が200〜800nm、短軸が20〜60nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子、長軸及び短軸が100〜500nmのフェニルホスホン酸亜鉛および水酸化マグネシウムの粒状粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0049】
(合成例10)
2リットルのポリ容器に純水1384gとフェニルホスホン酸(日産化学工業(株)製)4.7gを加えた後温浴槽に浸し、混合水溶液が30℃になるまで加温した。混合水溶液が30℃に到達したらディスパー羽根で3300rpmで強攪拌しながらシアヌル酸粉末(日産化学工業(株)製)36.4gを投入し、更に加温しながら40分間強攪拌した。続けてディスパー羽根で強攪拌しながら酸化亜鉛粉末(堺化学(株)製 2種酸化亜鉛)57.4gを投入し、白色スラリー1483gを作成した。この時のスラリー温度は38℃で、スラリー温度が38℃を維持するように温浴槽で加温しながらディスパー羽根で8時間強攪拌した。これにより、pH6.3、電導度151μS/cm、粘度640mPa・s、110℃乾燥時の固形分が7.2質量%の白色スラリーが1483g得られた。このスラリーを濾紙(5C 東洋濾紙(株)製)を使いヌッチェ濾過して得られたウェットケーキを110℃で乾燥した後、乾燥ケーキを家庭用ミキサーで粉砕して比表面積が15m/gのパウダーが98g得られた。このパウダーについてX線粉末回折分析を行ったところ、塩基性シアヌル酸亜鉛およびフェニルホスホン酸亜鉛の回折ピークが観察された。このパウダーは、シアヌル酸として34質量%、亜鉛として46質量%およびフェニルホスホン酸として10質量%を含有していた。そして、このパウダーを純水で分散した後、透過型電子顕微鏡で観察したところ長軸が200〜600nm、短軸が20〜40nmの塩基性シアヌル酸亜鉛の針状粒子と、長軸及び短軸が2000〜3000nmのフェニルホスホン酸亜鉛の粗大粒子が観察された。結果を表1に示す。
【0050】
〔結晶核剤評価−1〕
(実施例1)
合成例1で得られた110℃の乾燥粉(樹脂用結晶核剤)0.55gおよびポリ乳酸樹脂(NW3001D、数平均分子量72,000、融点164℃、ネーチャーワークス製)54.5gを混合した後、170℃に加熱した小型二軸混練押出機(ブランダー社製)に入れ15分間、50rpmで混練して、樹脂組成物を作成した。冷却後、樹脂組成物を取り出し、テフロンシートと真鍮板で挟み、上部185℃、下部185℃に加熱したホットプレス機に入れ、フィルムの厚さが0.4mmになるように0.5kgfで加圧してフィルムを作成した。このフィルム状サンプルを小片に切り取り、200℃/分で200℃まで昇温してそのまま5分間保持し、その後、5℃/分で冷却するDSC測定(セイコー電子(株)製 DSC−200)を行った。冷却時に観測されるポリ乳酸の結晶化に由来する発熱ピークの頂点から結晶化温度Tcを測定した。
【0051】
また、このフィルム状サンプルを小片に切り取り、100℃/分で200℃まで昇温してそのまま5分間保持し、その後、100℃/分で110℃まで冷却後、110℃で10分保持するDSC測定(セイコー電子(株)製 DSC−200)を行った。110℃保持時に観測されるポリ乳酸の結晶化に由来する発熱ピークの頂点の時間から結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。なお、表2において、樹脂用結晶核剤の濃度を、樹脂100質量部に対する樹脂用結晶核剤の質量部として記載する。
【0052】
(実施例2)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例2で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は44%、ヘイズは56であった。
【0054】
(実施例3)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例3で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例4)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例4で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例5)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例5で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例6)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例2で得られた110℃乾燥粉を0.11g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は75%、ヘイズは24であった。
【0059】
(実施例7)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例6で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
(実施例8)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例7で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(実施例9)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例9で得られた110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
(比較例1)
樹脂用結晶核剤を添加しない以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は87%、ヘイズは14であった。
【0064】
(比較例2)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、フェニルホスホン酸亜鉛(商標エコプロモート 日産化学工業(株)製)を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。また、上記フェニルホスホン酸亜鉛を透過型電子顕微鏡観察した結果を図4に示す。なお、上記フェニルホスホン酸亜鉛は、比表面積が、12m/gであった。
【0065】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は30%、ヘイズは70であった。
【0066】
(比較例3)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、フェニルホスホン酸亜鉛(商標エコプロモート 日産化学工業(株)製)0.11gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。なお、上記フェニルホスホン酸亜鉛は、比表面積が12m/gであった。
【0067】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は60%、ヘイズは41であった。
【0068】
(比較例4)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例8で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉を0.55g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は39%、ヘイズは64であった。
【0070】
(比較例5)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例8で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉を0.11g用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER (東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は67%、ヘイズは29であった。
【0072】
(比較例6)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例8で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉7.0gと亜鉛を29質量%およびフェニルホスホン酸を71質量%含有するフェニルホスホン酸亜鉛(商標エコプロモート 日産化学工業(株)製)3.0gとを家庭用粉体ミキサーで混合し評価用混合粉を作成した。この混合粉0.55gを、合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。なお、上記フェニルホスホン酸亜鉛は、比表面積が12m/gであった。
【0073】
また、得られたフィルムの可視光透過率を色差計(東京電色 TC−1800MK型)で、ヘイズをSPECTRAL HAZE METER(東京電色 TC−H3DPK−MK型)で求めたところ、波長550nmの可視光透過率は40%、ヘイズは61であった。
【0074】
(比較例7)
フェニルホスホン酸亜鉛(商標エコプロモート 日産化学工業(株)製)5.0gと合成例8で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉16.9g及び水酸化マグネシウム(関東化学(株)製 試薬)0.4gを家庭用粉体ミキサーで混合してシアヌル酸を29質量%、亜鉛を43質量%およびフェニルホスホン酸を16質量%及びマグネシウムを1.3質量%含有した混合粉を作成した。この混合粉0.55gを、合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表2に示す。なお、上記フェニルホスホン酸亜鉛は、比表面積が12m/gであった。
【0075】
(比較例8)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例10で得られた110℃乾燥粉を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定したところ、スラリーがpH7以下になり、この樹脂用結晶核剤にポリ乳酸が一部溶解した。
【0076】
この結果、表2に示すように、本発明の製造方法で製造した樹脂用結晶核剤を用いた実施例1〜9は、樹脂用結晶核剤を添加しなかった比較例1や、塩基性シアヌル酸亜鉛のみを含有する比較例4及び5よりも結晶化温度が顕著に高く、且つ、結晶化速度が顕著に高く、結晶核剤性能が非常に優れていることが確認された。
【0077】
そして、含有成分が同じである実施例1と比較例7とを比較すると、実施例1のほうが結晶化速度及び結晶化温度が高かった。したがって、塩基性シアヌル酸亜鉛とフェニルホスホン酸亜鉛及び水酸化マグネシウムを単純に混合するよりも、実施例1のように原料を反応させて製造したほうが、結晶核剤性能が優れていることがわかった。
【0078】
また、本発明の製造方法で製造した樹脂用結晶核剤である合成例1〜7及び9は、原料としてフェニルホスホン酸の金属塩ではなくフェニルホスホン酸を用いた合成例10や、比較例6及び7で用いたフェニルホスホン酸亜鉛と比べて、比表面積が大きく微細であるため、透明性が高いといえる。
【0079】
また、実施例1〜9は、高価なフェニルホスホン酸亜鉛のみを含有する比較例2及び3と比較して、ほぼ同程度以上の結晶化温度及び結晶化速度であり、フェニルホスホン酸亜鉛よりもコストが低い酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛や、シアヌル酸を原料とすることにより、樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くするという効果と、低コスト化という効果を両立させることができることも確認された。
【0080】
〔結晶核剤評価−2〕
(実施例10)
合成例1で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉(樹脂用結晶核剤)36mgおよびポリプロピレン樹脂(ノバテックPP MA3、数平均分子量111,000、融点165℃、日本ポリケム(株)製)3.6gを185℃に加熱した混練機(LABO PLASTOMILL 東洋精機(株)製)に入れ5分間、50rpmで混練して樹脂組成物を製造した。冷却後、樹脂組成物を取り出し、テフロンシートと真鍮板で挟み、上部185℃、下部185℃に加熱したホットプレス機に入れ、フィルムの厚さが0.4mmになるように0.5kgfで加圧してフィルムを作成した。このフィルム状サンプルを小片に切り取り、100℃/分で200℃まで昇温してそのまま5分間保持し、その後、5℃/分で冷却するDSC測定(セイコー電子(株)製 DSC−200)を行い、冷却時に観測されるポリプロピレンの結晶化に由来する発熱ピークの頂点から結晶化温度Tcを測定した。その後、100℃/分で200℃まで昇温してそのまま5分間保持し、その後、100℃/分で130℃まで冷却後、130℃で5分保持するDSC測定(セイコー電子(株)製 DSC−200)を行った。130℃保持時に観測されるポリプロピレンの結晶化に由来する発熱ピークの頂点の時間から結晶化速度を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
(比較例9)
樹脂用結晶核剤を添加しない以外は実施例10と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表3に示す。
【0082】
(比較例10)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、フェニルホスホン酸亜鉛(商標エコプロモート 日産化学工業(株)製)を用いた以外は実施例10と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表3に示す。なお、上記フェニルホスホン酸亜鉛は、比表面積が12m/gであった。
【0083】
(比較例11)
合成例1で得られた110℃乾燥粉の代わりに、合成例8で得られた塩基性シアヌル酸亜鉛の110℃乾燥粉36mgを用いた以外は実施例10と同様の操作を行ってポリ乳酸の結晶化温度Tc及び結晶化速度を測定した。結果を表3に示す。
【0084】
表3に示すように、本発明の製造方法で製造した樹脂用結晶核剤を用いた実施例10は、樹脂用結晶核剤を添加しなかった比較例9や塩基性シアヌル酸亜鉛のみを含有する比較例11よりも結晶化温度が顕著に高く、且つ、結晶化速度が顕著に高く、結晶核剤性能が非常に優れていることが確認された。
【0085】
また、実施例10は、高価なフェニルホスホン酸亜鉛のみを含有する比較例10と比較して、同程度以上の結晶化温度及び結晶化速度であり、フェニルホスホン酸亜鉛よりもコストが低い酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛や、シアヌル酸を原料とすることにより、ポリプロピレン樹脂においても、樹脂の結晶化速度及び結晶化温度を高くするという効果と、低コスト化という効果を両立させることができることも確認された。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルホスホン酸マグネシウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ナトリウム及びフェニルホスホン酸カリウムから選択される少なくとも一種のフェニルホスホン酸の金属塩の水溶液と、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種と、シアヌル酸と、水とを含有する混合スラリーを、分散させて反応させることにより、塩基性シアヌル酸亜鉛及びフェニルホスホン酸亜鉛を含有する樹脂用結晶核剤を得ることを特徴とする樹脂用結晶核剤の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂用結晶核剤は、比表面積が20〜100m/gであることを特徴とする請求項1に記載する樹脂用結晶核剤の製造方法。
【請求項3】
前記分散が、ディスパー型攪拌羽または分散メディアを用いた湿式分散であることを特徴とする請求項1または2に記載する樹脂用結晶核剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236867(P2012−236867A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104762(P2011−104762)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】