説明

樹脂積層体及びこれを用いた表示装置

【課題】CRTや液晶テレビジョン等の各種ディスプレイの前面板等に使用される、耐擦傷性、透明性に優れた硬化樹脂から成る表面層を有し、低吸湿性であって、吸湿による変形を抑制した低吸湿層を備えた、かつ各層の密着性に優れた、傷付き性や、吸湿性を改善した、アクリル樹脂をコア層とする積層体を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂基材の少なくとも一面に低透湿層を有し、該低透湿層上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐擦傷性、各層の密着性に優れ、更に、吸湿による形状変化が小さく、ディスプレイの前面板の保護部材として好適な樹脂積層体や、これを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は工業用資材、建築用資材等として広く各分野に使用され、透明性と耐衝撃性に優れることから、CRTや液晶テレビ等の各種ディスプレイの前面板等にも使用されている。しかし、他の樹脂と同様に、アクリル樹脂はガラスと比較して柔軟なため、引掻き等による傷が発生し易い場合がある。また、アクリル樹脂は吸水性が高く、特にその表裏で吸湿挙動に差が生じるディスプレイ前面板に適用した場合、吸湿による反り等の形状変化が生じやすいという問題を抱えている。
【0003】
アクリル樹脂成形体の耐擦傷性を向上する方法としては、多官能(メタ)アクリレート等の多官能性単量体を用い、架橋樹脂層をアクリル樹脂成形体の表面に形成することが知られている。しかし、該積層体は耐擦傷性は十分なものの、吸湿によって形状変化しやすい。
【0004】
一方、アクリル樹脂基材の吸湿による変形を低減する方法が提案されている。例えば、アクリル樹脂層とフッ化ビニリデン樹脂を含む樹脂層を共押出成型により積層した樹脂板が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この積層体は耐擦傷性が不十分である。
【特許文献1】特開2004−306601
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐擦傷性、透明性に優れた表面層を有し、低吸湿性であって、吸湿による変形を抑制し、各層の密着性に優れた樹脂積層体を提供することにある。また、耐擦傷性に優れ、吸湿による変形が抑制された表示部を有する表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アクリル系樹脂基材の少なくとも一面に低透湿層を有し、該低透湿層上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化層を有する樹脂積層体に関する。
【0007】
また、本発明は、前記樹脂積層体を表示部の保護部材として有する表示装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂積層体は、耐擦傷性、透明性に優れた表面層を有し、低吸湿性であって、吸湿による変形を抑制し、各層の密着性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の樹脂積層体は、アクリル系樹脂基材の少なくとも一面に低透湿層を有し、該低透湿層上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化層を有する。
【0010】
上記アクリル系樹脂基材としては、アクリル酸及びその誘導体、例えば、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等を重合して得られるアクリル系樹脂から構成される基材であれば、何れも適用することができる。これらのうち、透明性、耐候性の観点から、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸メチル単位を主構成成分とする共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体等の基材を好ましいものとして挙げることができる。
【0011】
上記アクリル系樹脂基材は、着色剤や光拡散剤、その他必要に応じて所望の機能性を負荷する添加剤を含有していてもよい。
【0012】
アクリル系樹脂基材の形状としては、フィルム状、板状等いずれであってもよいが、例えば、厚さ0.1mm〜10mm程度の板状であってもよい。
【0013】
上記アクリル系樹脂基材の成形方法としては特に限定されず例えば、押出成形、射出成形、注型成形等が挙げられる。
【0014】
次に、低透湿層について説明する。低透湿層はアクリル系樹脂基材の少なくとも一面に設けられ、アクリル樹脂基材が吸湿により変形するのを抑制する機能を有する。
【0015】
上記低透湿層の材質としては、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、後述の式(1)で表される化合物の少なくともいずれかを含む単量体を重合して得られる重合体を含むことが好ましい。かかる材質の低透湿層はアクリル系樹脂基材及び後述する硬化層との密着性に優れ、コロナ処理やプラズマ処理等の密着性向上のための処理や、これらの層間にプライマー層を設けることを不要とする。
【0016】
塩化ビニリデンを含む単量体を重合して得られる重合体(以下、「塩化ビニリデン重合体」ともいう。)としては、塩化ビニリデンと共に、これと共重合可能な単量体、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル等と共重合して得られる共重合体が好ましい。
【0017】
これらの共重合体における塩化ビニリデン単位と他の単量体単位との組成比としては、60/40〜98/2(質量ベース)とすることが好ましい。
【0018】
フッ化ビニリデンを含む単量体を重合して得られる重合体(以下、「フッ化ビニリデン重合体」ともいう。)としては、フッ化ビニリデン単独の重合体であってもよいが、フッ化ビニリデンと共に、これと共重合可能な単量体、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等と共重合して得られる共重合体でもよい。
【0019】
これらの共重合体において、フッ化ビニリデンを主単位とすることが好ましく、フッ化ビニリデン単位と他の単量体単位との組成比としては、80/20〜95/5(質量ベース)とすることが好ましい。
【0020】
式(1)で表されるトリシクロ環化合物を含む単量体を重合して得られる重合体(以下、「トリシクロ環化合物重合体」ともいう。)としては、式(1)で表されるトリシクロ環化合物単独の重合体であってもよい。式(1)で表される化合物は、1分子中にトリシクロ環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。
【0021】
【化1】

【0022】
式(1)で示される単量体としては例えばKAYARAD R−684(日本化薬(株)製)等を適用することができる。
【0023】
更に、トリシクロ環化合物重合体としては、式(1)で表される化合物と共重合可能な単量体と共重合して得られる共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の分子中に1つの官能基を有する単量体を挙げることができる。
【0024】
これらの共重合体において、式(1)で表される化合物単位と他の単量体単位との組成比としては、60/40〜95/5(質量ベース)とすることが好ましい。
【0025】
上記低透湿層は、防湿性を損なわない範囲で、他の機能を付与するための上記以外の樹脂や、各種添加剤を含有していてもよい。具体的には、滑り性付与のための各種のフィラーや、色調調整のための顔料や染料、帯電防止剤、レベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤や、アクリル系樹脂等上記以外の樹脂を含有していてもよい。得られる低透湿層の透明性の観点から、これらの含有量は低透湿層全体に対して10質量%以下が好ましい。特に、フッ化ビニリデン重合体を含有する低透湿層の場合、製膜性の観点からこれらと共に、例えば、アクリル系樹脂等の他の樹脂を含有することが好ましい。他の樹脂の含有量は、低透湿層全体に対して5〜50質量%とすることが好ましい。
【0026】
低透湿層の厚さとしては、塩化ビニリデン重合体を含む低透湿層の場合、0.2μm以上、100μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上50μm以下である。フッ化ビニリデン重合体を含む低透湿層の場合、1μm以上、200μm以下が好ましく、より好ましくは、2μm以上、50μm以下である。前記式(1)で表される化合物の重合体を含む低透湿層の場合、10μm以上、200μm以下が好ましく、より好ましくは、15μm以上、100μm以下である。低透湿層の厚さがこれらの範囲であれば、充分な防湿性が得られ、また、透明性が低下するのを抑制することができる。
【0027】
低透湿層の厚さは、例えば層断面を微分干渉顕微鏡写真から求めることができる。また、低透湿層の原料が溶剤等の揮発分を含む場合、乾燥前の塗布重量及び面積からウエット状態の膜厚を求め、これに固形分濃度をかけて算出することができる。
【0028】
このような低透湿層は、40℃、90%相対湿度における透湿度が100g/(m2・day)以下であることが好ましく、より好ましくは50g/(m2・day)以下である。低透湿層の透湿度がこの範囲であると、樹脂積層体の変形を抑制することができる。低透湿層の透湿度をこの範囲とするには、前記塩化ビニリデン重合体、フッ化ビニリデン重合体、あるいは前記式(1)で表される化合物重合体を含むものであって、前記低透湿層の厚さを前述の通り適宜調整すればよい。
【0029】
上記透湿度は、JIS K7129準拠して測定することができる。
【0030】
このような低透湿層を作製するには、上記重合体の原料単量体と、必要に応じて、添加剤や樹脂を含む混合物を調製し、これをアクリル系樹脂基材上に、コーティング、スプレー、浸漬等により薄膜を形成後、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化する方法を挙げることができる。また、混合物を押出成形、成型等により硬化フィルムを成形し、アクリル系基材に接着剤により接着する方法によることができる。また、アクリル系基材を成形型に配置し混合物を注型し、重合と共にアクリル系基材と一体化して作成してもよい。
【0031】
低透湿層を作製する他の方法として、原料単量体を重合して得られた重合体の溶液を用いて、薄膜を形成する方法、あるいは原料単量体を乳化重合して得られた重合体のエマルジョンを用いて、薄膜を形成する方法が挙げられる。塩化ビニリデン重合体あるいはフッ化ビニリデン重合体を含む低透湿層を作製する場合、原料単量体の取り扱い性の観点から、この方法が好ましい。
【0032】
低透湿層を作製するには、原料単量体と、光開始剤とを含む混合物を用いて、薄膜を形成し、活性エネルギー線を照射して、硬化、重合することが好ましい。前記活性エネルギー線としては、トリシクロ環化合物重合体を含む低透湿層を作製する場合、紫外線が好ましい。
【0033】
光開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等のリン化合物;等を用いることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
光開始剤の添加量は、トリシクロ環化合物混合物全体に対し、0.1質量%以上、10質量%以下が好ましい。光開始剤が0.1質量%以上であれば、紫外線照射による重合反応が良好に進行し、10質量%以下であれば、低透湿層への着色を抑制することができる。
【0035】
次に、硬化層について説明する。硬化層は上記低透湿層上に設けられ、硬化性混合物を硬化させてなる層であり、樹脂積層体に耐擦傷性を付与する機能を有する。
【0036】
硬化層の材質としては、硬度を有するものであり、ラジカル重合による重合体や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等の加熱による重合体等を挙げることができる。
【0037】
ラジカル重合による重合体としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の重合体を挙げることができる。分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物としては、例えば、1モルの多価アルコールと、2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステルや、多価アルコールと、多価カルボン酸又はその無水物と、(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステルを挙げることができる。
【0038】
1モルの多価アルコールと、2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステルの具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキルジオールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の3官能以上のポリオールのポリ(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。
【0039】
多価アルコールと、多価カルボン酸又はその無水物と、(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステルとしては、多価アルコールと、多価カルボン酸又はその無水物と、(メタ)アクリル酸又はその誘導体の好ましい組合せとして、例えば、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。
【0040】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物のその他の例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モル当たり、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系モノマー3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;エポキシポリ(メタ)アクリレート;ウレタンポリ(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。ここで「(メタ)アクリ」とは、「メタクリ」または「アクリ」を意味する。
【0041】
このような硬化層は、上記重合体を構成する単量体単位、その他、必要に応じて、分子中に1つの官能基を有する単量体単位、レベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤や、樹脂等を含有していてもよい。これらの含有量としては、得られる硬化層の透明性の観点から、10質量%以下が好ましい。
【0042】
また、硬化層の表面は平坦でもマット状でもよい。
【0043】
硬化層の厚さとしては、1μm〜100μmであることが好ましく、より好ましくは、1μm〜30μmである。硬化層の厚さが上記範囲であれば、樹脂積層体において、透明性を有すると共に、優れた耐擦傷性を有するものとなる。
【0044】
硬化層を作製するには、前記化合物を含む硬化性混合物を硬化、重合することによる。
【0045】
この硬化性混合物を硬化する方法としては、硬化性混合物の薄膜を形成し、その後、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化する方法を挙げることができる。硬化性混合物の薄膜を形成するには低透湿層上にコーティング、スプレー、浸漬等により行うことができる。
【0046】
ラジカル重合による重合体を含む硬化層を作製する場合、硬化性混合物は、上記ラジカル重合性単量体と共に光開始剤を含有することが好ましく、この硬化性混合物から薄膜を形成し、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線により硬化する方法を使用することが好ましい。光開始剤としては、前記低透湿層の作製の際の単量体の重合に用いる光開始剤と同様のものを使用することができ、その使用量も、硬化性混合物中における含有量が前記単量体混合物における光開始剤の含有量と同程度の量とすることができる。
【0047】
本発明における樹脂基材への低透湿層、硬化層の積層方法としては、樹脂基材へ直接低透湿層、硬化層を順次形成する方法、低透湿層、硬化層が予め形成されたフィルム(転写フィルム)を用いて接着層を介して樹脂基材へ転写する方法、型に予め硬化層、低透湿層(以下、これらを併せて「低透湿積層膜」と呼ぶ。)を形成した後、樹脂基材となる単量体組成物を注型重合し、重合終了後、型から剥離する方法などが挙げられる。特に、転写フィルムにより型へ低透湿積層膜を形成した後、樹脂基材となる単量体組成物を注型重合し、重合終了後、型から剥離する方法が好ましい。
【0048】
本発明の樹脂積層体は、低透湿層をアクリル系樹脂基材の少なくとも一面に有するものであり、硬化層は前記低透湿層上に有するものであればよい。具体的には、硬化層/低透湿層/樹脂基材、硬化層/低透湿層/樹脂基材/低透湿層、硬化層/低透湿層/樹脂基材/硬化層、硬化層/低透湿層/樹脂基材/低透湿層/硬化層等の層構造を有するものとすることができる。
【0049】
また、アクリル系樹脂基材上、アクリル系樹脂基材と低透湿層間、低透湿層と硬化層間、硬化層上にその他の機能層を有していてもよい。機能層として、例えば、硬化層の表面に設けられる反射防止層、防汚層、帯電防止層が挙げられ、またアクリル系樹脂基材と低透湿層間に設けられる帯電防止性能、飛散防止性能等を有する中間層を挙げることができる。反射防止層を形成する場合、市販の反射防止用塗料を塗布、乾燥させて形成する方法(湿式法)、蒸着法やスパッタリング法等の物理気相堆積法(乾式法)等を使用することができる。
【0050】
本発明の表示装置は、上記樹脂積層体をその表示部の保護部材(前面板)として有するものである。表示装置としては、CRT、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、プロジェクションテレビ等の各種ディスプレイ、及び携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー、モバイルパソコン等の情報端末の情報表示部等を挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。ここで、実施例、比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA :メタクリル酸メチル
MA :アクリル酸メチル
AIBN :2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)
C6DA :1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)
TAS :コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の
縮合混合物
BEE :ベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)製)。
【0052】
[実施例1]
[転写フィルムの作製]
剥離層付25μm厚のPETフィルム(TN100:東洋紡社製)の剥離層の上に塩化ビニリデン共重合体を含有するエマルジョンのサランラテックス(L536B:旭化成ケミカルズ(株)製)をバーコーダーを用いて乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗布し、80℃で10分乾燥することにより低透湿層を有する転写フィルムを得た。低透湿層の厚みは、乾燥前の塗布重量及び面積からウェット状態の膜厚を測定し、固形分濃度を乗じて算出した値である。
【0053】
[低透湿積層膜の作製]
型となるステンレス(SUS304)板上に、TAS50質量部、C6DA50質量部、BEE1.5質量部からなる紫外線硬化性混合物を塗布した。
【0054】
ステンレス板に形成させた紫外線硬化性混合物を含む塗膜上に、前記転写フィルムの低透湿層側を型側に向けて前記転写フィルムを重ね、JIS硬度40°のゴムロールを用い、紫外線硬化性混合物の硬化後の塗膜の厚みが15μmとなるように過剰な前記混合物をしごき出しながら、気泡を含まないように圧着させた。
【0055】
紫外線硬化性混合物の硬化後の塗膜の厚みは、この紫外線硬化性混合物の供給量、展開面積及び硬化時の収縮率から算出した。
【0056】
次いで、前記転写フィルムを介して出力40Wの蛍光紫外線ランプ(FL40BL:東芝(株)製)の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させて、紫外線硬化性混合物の硬化を行った。
【0057】
その後、前記転写フィルムを剥離すると、低透湿層は全て、硬化層側へ転写していた。次いで、ステンレス板の前記低透湿積層膜のある面を上にして、出力30W/cmの高圧水銀灯の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させて、硬化層をさらに硬化させ、膜厚が17μmの低透湿積層膜を有する積層体を得た。積層体の膜厚は、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から測定して求めた。
【0058】
[樹脂積層体の作製]
低透湿積層膜を有するステンレス板と、低透湿積層膜を有しないステンレス板をそれぞれ1枚ずつ用意し、一方のステンレス板の前記低透湿積層膜が内側になるように二枚のステンレス板を対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型内に、重量平均分子量220000のMMA重合物20質量部とMMA単量体80質量部の混合物100質量部、AIBN0.05質量部、ジオクチルスルフォサクシネートのナトリウム塩0.005質量部からなる樹脂原料を注入し、対向するステンレス板の間隔を1.6mmにし、80℃の水浴中で1時間、次いで130℃の空気炉で1時間重合した。その後、冷却して、ステンレス板から重合して得られた樹脂板を剥離することにより、片面に低透湿積層膜、すなわち表面に硬化層、内部に低透湿層を有する板厚1mmのアクリル樹脂積層体を得た。
【0059】
得られたアクリル樹脂積層体について、以下のようにして全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0060】
[全光線透過率及びヘーズ]
日本電色製HAZE METER NDH2000(商品名)を用いてJIS K71
36に示される測定法に準拠して、全光線透過率及びヘーズ値を測定した。
【0061】
[耐擦傷性]
擦傷試験の前後におけるヘーズ値の変化(△ヘーズ)をもって耐擦傷性を評価した。即ち、#000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドをアクリル樹脂積層体の表面上に置き、9.8Nの荷重下で、20mmの距離を100回往復擦傷し、擦傷前と擦傷後のヘーズ値の差を下式(1)より求めた。
【0062】
[△ヘーズ(%)]=[擦傷後ヘーズ値(%)]−[擦傷前ヘーズ値(%)] (1)
[密着性]
積層体をクロスカット試験(JIS K5600−5−6)による観察に基づき、以下の基準により評価した。
○:硬化塗膜層あるいは低透湿層の樹脂基材からの剥離無し。
×:硬化塗膜層あるいは低透湿層の樹脂基材からの剥離有り。
【0063】
[透湿度]
低透湿層の透湿度は、モダンコントロール社製の透湿度測定装置PERMATRAN W3/30を用いて測定した。測定はJIS K7129(赤外線センサ法)に準拠し、温度40℃、相対湿度90%の条件下で行った。アクリルフィルム(アクリプレンHBS010P:三菱レイヨン(株)製)(厚さ75μm)上に前記転写フィルムの作製方法と同様にして前記低透湿層として積層したものを測定用サンプルとした。測定用サンプルと基材のアクリルフィルムの透湿度の測定値及び各層の膜厚より低透湿層の透湿度Bを次式より算出した。
【0064】
B=AL/(A−L)
A:基材の透湿度g/(m2・day)、B:低透湿層の透湿度g/(m2・day)、
L:積層体(測定サンプル)の透湿度g/(m2・day)
[吸湿反り]
得られたアクリル樹脂積層体から100×100mm切片を切り出し、60℃で24時間真空乾燥した後、片面に真空蒸着装置で防湿層としてアルミニウム膜を蒸着し試験片を作成した。低透湿層を片面のみに積層した積層体は低透湿層のない側に蒸着した。次いで該試験片を60℃、90%相対湿度の条件下で200時間保持し、その後23℃、50%相対湿度の条件下で100時間保持した。保持期間中、該試験片の4隅に対する中央部の反り量を測定し、最大反り量を以下の基準により評価した。
○:中央部の反りが2mm未満。
×:中央部の反りが2mm以上。
【0065】
[実施例2]
低透湿層の膜厚を4μmとなるように塗布したこと以外は実施例1と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例3]
低透湿層として塩化ビニリデン共重合体を含有するエマルジョンのサランラテックス(L549B:旭化成ケミカルズ(株)製)を用いたこと以外は実施例1と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例4]
低透湿層として、フッ化ビニリデン樹脂を含む樹脂組成物(Kynar Aquatec RC−10206(アルケマ製);エマルジョン(固形分48質量%)、フッ化ビニリデン樹脂/アクリル系樹脂=70/30(質量比))100質量部、ジプロピレングリコールメチルエーテル7.5質量部からなる混合物を用い、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布したこと以外は実施例1と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例5]
低透湿層の乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布したこと以外は実施例4と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例6]
剥離層付25μm厚のPETフィルム(TN100:東洋紡製)の剥離層の上に形成する低透湿層として、トリシクロ環構造を有する1分子中に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体(KAYARAD R−684:日本化薬(株)製)100質量部、ダロキュア1173(チバ・ジャパン(株)製)5重量部からなる混合物をバーコーターで塗布した。それを出力30W/cmの高圧水銀灯の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させて硬化させ、膜厚15μmの低透湿層を有する転写フィルムを得た。転写フィルムの作製以外は実施例1と同様にして、樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例7]
低透湿層の乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布したこと以外は実施例6と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例8]
樹脂積層体の作製において、低透湿積層膜を有するステンレス板を2枚用いたこと以外は、実施例1と同様にして基材の両面に低透湿積層膜を有する樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。なお、密着性、透湿度は得られた樹脂積層体の一方の面飲みを評価した。
【0072】
[実施例9]
低透湿層としてフッ化ビニリデン樹脂を含む樹脂組成物(Kynar AquatecRC−10206(アルケマ製))100質量部、ジプロピレングリコールメチルエーテル7.5質量部からなる混合物を用い、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布したこと以外は、実施例8と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、透湿度、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
低透湿層を設けないこと以外は実施例1と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
低透湿層を設けないこと以外は実施例8と同様に樹脂積層体を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
樹脂積層体の作製において、低透湿積層膜を有しないステンレス板を2枚用いたこと以外は、実施例1と同様に樹脂板(アクリル樹脂機材のみ)を作製し、全光線透過率、ヘーズ、密着性、吸湿反りを測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
結果から、実施例においては、得られたアクリル樹脂積層体の全光線透過率は高く、ヘーズは低く透明性に優れていた。更に、異物による外観欠陥、干渉模様もなく、良好な外観を有するものであった。また、吸湿反り試験後の反りも小さく、擦傷後のヘーズ増分は全くなく、吸湿による形状変化が小さく、耐擦傷性に優れるものであった。また、硬化層や低透湿層の密着性も良好であった。
【0078】
比較例1、2においては、透明性に優れ、外観は良好であり、耐擦傷性に優れるものの、吸湿反りは大きく、大きく変形した。比較3においては、透明性に優れ、外観は良好であるが、吸湿反りは大きく、また、耐擦傷性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂基材の少なくとも一面に低透湿層を有し、該低透湿層上に硬化性混合物を硬化させてなる硬化層を有する樹脂積層体。
【請求項2】
前記低透湿層が40℃、90%相対湿度における透湿度が100g/(m2・day)以下である請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記低透湿層が塩化ビニリデンを含む単量体を重合して得られる重合体を含む請求項1又は2記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記低透湿層がフッ化ビニリデンを含む単量体を重合して得られる重合体を含む請求項1又は2記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記低透湿層が式(1)で示される化合物を含む単量体を重合して得られる重合体を含む請求項1又は2記載の樹脂積層体。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項6】
硬化層が紫外線により硬化性混合物を硬化されて形成されたものである請求項1から5のいずれか記載の樹脂積層体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか記載の樹脂積層体を表示部の保護部材として有する表示装置。

【公開番号】特開2010−17879(P2010−17879A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178112(P2008−178112)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】