説明

樹脂組成物、光学フィルムおよび画像表示装置

【課題】逆波長分散性を示すとともに、含まれる重合体間の相溶性の高さから、光線透過率、ヘイズ率など、波長分散性以外の光学特性にも優れた光学フィルムを実現できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】固有複屈折が負である重合体(A)と、固有複屈折が正である重合体(B)と、を含み、重合体(A)が、構成単位として、N−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位を有する樹脂組成物とする。重合体(A)におけるアクリロニトリル単位の含有率は15〜60モル%、N−ビニルカルバゾール単位の含有率は5〜50モル%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆波長分散性を示す光学フィルムの製造に好適な樹脂組成物と、この樹脂組成物からなる層を含む、逆波長分散性を示す光学フィルムと、この光学フィルムを備える画像表示装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学フィルムが、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学フィルムの一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差フィルムがある。例えば、反射型の液晶表示装置(LCD)において、複屈折に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差フィルム(λ/4板)が使用される。例えば、有機ELディスプレイ(OELD)において、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを組み合わせた反射防止フィルムが用いられることがある。これら複屈折性を示す光学フィルムは、画像表示装置はもちろんのこと他の用途に至るまで、今後のさらなる使用の拡大が期待される。
【0003】
従来、光学フィルムには、トリアセチルセルロース(TAC)に代表されるセルロース誘導体、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィンが主に使用されている。これら一般的な高分子からなる光学フィルムは、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(すなわち、位相差が増大する)波長分散性を示す。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(すなわち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学フィルムが望まれる。本明細書では、少なくとも可視光域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、当業者の慣用の呼び名に従い、また、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学フィルムが示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
特許文献1(特開2009-162850号公報)には、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる樹脂組成物が開示されている。特許文献1の樹脂組成物は、正の固有複屈折を有する重合体と、負の固有複屈折を有する重合体とを含む。後者の重合体は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位、例えばN−ビニルカルバゾール単位、を構成単位として有する。特許文献1の樹脂組成物では、当該樹脂組成物の成形体に延伸を加えることによって各々の重合体の遅相軸が直交し、双方の重合体により生じる複屈折が互いに打ち消し合う。このとき、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、逆波長分散性が発現する。N−ビニルカルバゾール単位は、複屈折が打ち消し合う程度を波長によって変化させる上記作用が大きく、これにより、当該樹脂組成物から得た光学フィルムにおける波長分散性の制御の自由度が向上する。
【0005】
特許文献2(特開2010-26029号公報)にも、正の固有複屈折を有する重合体と、負の固有複屈折を有する重合体とを含む樹脂組成物であって、逆波長分散性を示す光学部材が得られる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-162850号公報
【特許文献2】特開2010-26029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学フィルムは、逆波長分散性を示すとともに、光線透過率あるいはヘイズ率といった他の光学特性にも優れていることが望まれる。これら、波長分散性以外の光学特性の向上のためには、光学フィルムを構成する樹脂組成物が複数の重合体を含む場合、当該重合体間の相溶性が高いことが重要である。重合体間の相溶性が低くなると、光線透過率が低下しヘイズ率が上昇するなど、光学フィルムの光学特性が低下して実用に適さなくなる。そして、その相溶性の高さが、樹脂組成物に含まれる各重合体の組成および混合比を変化させた際にも維持されることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、固有複屈折が負である重合体(A)と、固有複屈折が正である重合体(B)とを含む。前記重合体(A)は、構成単位として、N−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位を有する。
【0009】
本発明の光学フィルムは、上記本発明の樹脂組成物からなる層を含み、少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す。
【0010】
本発明の画像表示装置は、上記本発明の光学フィルムを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、固有複屈折が負の重合体(A)と固有複屈折が正の重合体(B)とを含むが、例えば樹脂組成物を成形した後に延伸を加えることによって、双方の重合体に対して同一方向に配向を加えると、各々の重合体の遅相軸(あるいは進相軸)が直交するために、互いの複屈折が打ち消し合う。このとき、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる。
【0012】
これに加えて、本発明の樹脂組成物では、重合体(A)が構成単位としてN−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位を有する。このような重合体(A)は、重合体(B)との間で複屈折を打ち消し合う程度が、波長により大きく変化する。このため、本発明の樹脂組成物により、波長分散性の制御の自由度が高い光学フィルムが得られる。これに加えて、このような重合体(A)は、重合体(B)をはじめとする当該樹脂組成物に含まれる重合体との相溶性が高い。このため、本発明の樹脂組成物により、光線透過率あるいはヘイズ率といった、波長分散性以外の光学特性にも優れる光学フィルムが得られる。さらに、この相溶性の高さは、重合体(A),(B)の組成および混合比を変化させた際にも維持されることから、位相差など、重合体(A),(B)の組成、混合比に大きく影響される光学特性の制御の自由度が高い光学フィルムが得られる。
【0013】
重合体の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における、分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な方向の光の屈折率n1から、配向軸に垂直な方向の光の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[重合体(A)]
重合体(A)は、負の固有複屈折を有し、構成単位として、以下の式(1)に示すN−ビニルカルバゾール単位および以下の式(2)に示すアクリロニトリル単位を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
N−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位は、ともに、当該単位を有する重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する単位である。重合体に負(あるいは正)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が負(あるいは正)となる構成単位をいう。重合体自体の固有複屈折の正負は、当該単位によって生じる複屈折と、重合体が有するその他の構成単位によって生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
【0018】
N−ビニルカルバゾール単位は、重合体(A)の複屈折の波長分散性を強める作用を有する。これにより、本発明の樹脂組成物が配向した際に、重合体(A)と重合体(B)との間で複屈折が打ち消し合う程度が波長により大きく変化する。すなわち、N−ビニルカルバゾール単位は、本発明の樹脂組成物により、波長分散性の制御の自由度が高い光学フィルムが得られることに対して大きく寄与する。
【0019】
重合体(A)の全構成単位に占めるN−ビニルカルバゾール単位の割合(重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率)は、例えば、5〜50モル%であり、10〜40モル%が好ましく、15〜30モル%がより好ましい。重合体(A)がアクリロニトリル単位を構成単位として有するため、重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率が大きい場合にも、本発明の樹脂組成物における重合体間の相溶性が確保される。
【0020】
N−ビニルカルバゾール単位は、当該単位を有する重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を上昇させる作用を有する。これにより、重合体(A)を含む本発明の樹脂組成物および当該樹脂組成物を成形して得た成形品、例えば光学フィルム、のTgが高くなる。高いTgを有する光学フィルムは、光源などの発熱源の近傍に配置できるため、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置への使用に好適である。
【0021】
重合体(A)のTgは、例えば、80℃以上であり、当該重合体が有する構成単位およびその含有率によっては90℃以上、さらには100℃以上となる。
【0022】
アクリロニトリル単位は、重合体(B)をはじめとする本発明の樹脂組成物に含まれる重合体に対する重合体(A)の相溶性を強める作用を有する。すなわち、アクリロニトリル単位は、本発明の樹脂組成物により、波長分散性以外の光学特性にも優れる光学フィルムが得られることに対して大きく寄与する。
【0023】
重合体(A)の全構成単位に占めるアクリロニトリル単位の割合(重合体(A)におけるアクリロニトリル単位の含有率)は、例えば、15〜60モル%であり、30〜55モル%が好ましく、40〜50モル%がより好ましい。
【0024】
光学フィルムへの使用を想定した樹脂組成物において、当該組成物に含まれる重合体に対してアクリロニトリル単位を積極的に多く導入することは、従来、行われてこなかった。その理由の一つに、アクリロニトリル単位による光学フィルムの着色およびTgの低下が当業者に避けられていたことがある。本発明者らは、N−ビニルカルバゾール単位を構成単位に有する重合体を用いる場合、当業者のこのような技術常識に反して当該重合体にアクリロニトリル単位を多く導入することによって、特に逆波長分散性を示す光学フィルムを得る場合に、多くのメリットが得られることを見出した。その一つが、本発明の樹脂組成物における重合体(A)の相溶性の高さである。この相溶性の高さは、重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率が高い場合にも維持される。このため、製造する光学フィルムにおいて波長分散性以外の光学特性にも留意しなければいけない場合においても、重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率を高くすることができる。これは、波長分散性の制御の自由度がさらに向上した光学フィルムの製造が可能であることを意味するとともに、樹脂組成物における(光学フィルムにおける)重合体(A)の含有率を小さくしても逆波長分散性を示す光学フィルムが得られること、すなわち、重合体(B)が示す特性が支配的な、逆波長分散性の光学フィルムの製造が可能であることを意味している。
【0025】
従来、N−ビニルカルバゾール単位を有する重合体の相溶性の向上を目的として、当該重合体に(メタ)アクリル単位を導入することも行われているが、この場合、上述したような効果は得難い。また、アクリロニトリル単位の導入では、(メタ)アクリル単位の導入によって相溶性が確保されにくい場合、例えば重合体(B)がグルタルイミド構造などのイミド構造を含む場合、においても、高い相溶性が確保される。さらに、重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率を高くできることから、アクリロニトリル単位を多く導入することによる重合体(A)のTgの低下も、光学フィルムとしての使用に問題ないレベルとなる。
【0026】
固有複屈折が負であるとともに本発明の効果が得られる限り、重合体(A)は、N−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位以外の構成単位(第三成分)を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、炭素数4〜20の範囲の(メタ)アクリル酸単位;(メタ)アクリル酸エステル単位;スチレン単位などの芳香族ビニル化合物単位;N−ビニルピロリドン単位などのN−ビニル化合物単位である。重合体(A)における当該構成単位の含有率は、50モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。固有複屈折が負であるとともに本発明の効果が得られる限り、重合体(A)は、第三成分として(メタ)アクリル酸単位および/または(メタ)アクリル酸エステル単位を有することが好ましく、特にメタクリル酸エステル単位を有することがさらに好ましい。
【0027】
重合体(A)が、構成単位としてメタクリル酸エステル単位をさらに有する場合、重合体(A)の形成時、重合体(A)の溶融成形時、および重合体(A)を含む樹脂組成物の溶融成形時など、重合体(A)に熱が加えられる際のゲルの発生が抑制される。ゲルは、例えば、光学フィルムにおける光学欠点となるため、できるだけ発生量が少ないことが望まれる。すなわち、この場合、本発明の樹脂組成物は、光学フィルムへの使用に特に好適な樹脂組成物となる。
【0028】
メタクリル酸エステル単位は、例えば、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸エチル単位、メタクリル酸プロピル単位である。光学フィルムへの使用を考慮すると、メタクリル酸メチル(MMA)単位が特に好ましい。
【0029】
重合体(A)が、構成単位としてメタクリル酸エステル単位をさらに有する場合、重合体(A)における当該単位の含有率は、例えば、5〜50モル%であり、20〜40モル%が好ましい。
【0030】
重合体(A)の重量平均分子量は、例えば、1万〜100万であり、5万〜70万が好ましく、10万〜40万がより好ましい。
【0031】
重合体(A)は公知の方法により製造できる。例えば、N−ビニルカルバゾールおよびアクリロニトリルを含む単量体群を、溶液重合などの公知の重合手法を用いて重合すればよい。
【0032】
[重合体(B)]
重合体(B)は、正の固有複屈折を有する限り限定されず、例えば、(メタ)アクリル重合体である。重合体(B)が(メタ)アクリル重合体である場合、重合体(A),(B)間の相溶性が特に高くなる。また、(メタ)アクリル重合体である重合体(B)は、光学フィルムとして好適な光学特性を示す。上述したように、本発明の樹脂組成物では、重合体(A)の含有率を小さくしても逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる。このため、重合体(B)が(メタ)アクリル重合体である場合、(メタ)アクリル重合体に基づく特性を強く示す光学フィルムの製造が可能となる。
【0033】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含んでいてもよく、この場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体となる。
【0034】
重合体(B)が構成単位として有していてもよい(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどの単量体の重合により形成される構成単位である。(メタ)アクリル重合体は、正の固有複屈折を有する限り、これらの構成単位を2種類以上有していてもよい。熱安定性の観点から、(メタ)アクリル重合体がメタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル重合体は、正の固有複屈折を有するとともに本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有していてもよい。当該構成単位は、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの単量体の重合により形成される構成単位である。
【0036】
重合体(B)は、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体が好ましい。重合体(B)が主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体であることは、本発明の樹脂組成物により構成される光学フィルムが大きな面内位相差を示す位相差フィルムとなることに寄与する。
【0037】
これに加えて、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体のTgは高く、例えば110℃以上、当該重合体の構成によっては120℃以上、さらには130℃以上となる。このように高いTgを有する重合体(B)を含むことにより、重合体(B)を含む本発明の樹脂組成物および当該樹脂組成物を成形して得た成形品、例えば光学フィルム、のTgが高くなる。
【0038】
以下、当該環構造について説明する。
【0039】
環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。より具体的な環構造の例は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。これらの環構造は、上述した、大きな面内位相差への寄与の程度が大きい。
【0040】
環構造は、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。ラクトン環構造、無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造、特にラクトン環構造、を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、複屈折の波長分散性が特に小さい。このため、当該(メタ)アクリル重合体を重合体(B)として含む本発明の樹脂組成物を成形、配向させて得た光学フィルムでは、波長分散性の制御の自由度がさらに高くなる。
【0041】
具体的なラクトン環構造は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004-168882号公報に開示されている構造である。前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで、ラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体が得られる)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応により、高いラクトン環含有率を有する(メタ)アクリル重合体が得られること、MMA単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から、以下の式(3)により示される構造が好ましい。
【0042】
【化3】

【0043】
式(3)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。有機残基は、酸素原子を含んでもよい。
【0044】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0045】
式(3)に示すラクトン環構造は、例えば、MMAと2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2およびR3はCH3である。
【0046】
以下の式(4)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
【0047】
【化4】

【0048】
式(4)のR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR6は存在せず、X1が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0049】
1が窒素原子のとき、式(4)に示す環構造はグルタルイミド構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0050】
1が酸素原子のとき、式(4)に示す環構造は無水グルタル酸構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0051】
以下の式(5)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
【0052】
【化5】

【0053】
式(5)のR7およびR8は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR9は存在せず、X2が窒素原子のとき、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
【0054】
2が窒素原子のとき、式(5)に示す環構造はN−置換マレイミド構造であり、X2が酸素原子のとき、式(5)に示す環構造は無水マレイン酸構造である。
【0055】
(メタ)アクリル重合体における環構造の含有率は、25〜90重量%が好ましく、25〜70重量%がより好ましく、30〜60重量%が特に好ましく、35〜60重量%が最も好ましい。(メタ)アクリル重合体における環構造の含有率は、特開2001-151814号公報に記載の方法により求めることができる。
【0056】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、公知の方法により製造できる。主鎖の環構造が無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造である(メタ)アクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報あるいはWO2005/108438号公報に記載の方法により製造できる。主鎖の環構造が無水マレイン酸構造またはN−置換マレイミド構造である(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開昭57-153008号公報、特開2007-31537号公報に記載の方法により製造できる。主鎖の環構造がラクトン環構造である(メタ)アクリル重合体は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報あるいは特開2007-63541号公報に記載の方法により製造できる。
【0057】
一例として、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて、得ることができる。
【0058】
重合体(a)は、例えば、以下の式(6)に示される単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0059】
【化6】

【0060】
式(6)において、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子または式(3)における有機残基として例示した基である。
【0061】
式(6)に示される単量体の具体的な例は、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する位相差フィルムが得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
【0062】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、得られた(メタ)アクリル重合体が正の固有複屈折を有する限り、式(6)に示される単量体を2種以上含んでもよい。
【0063】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、得られた(メタ)アクリル重合体が正の固有複屈折を有するとともに本発明の効果が得られる限り、式(6)に示される単量体以外の単量体を含んでもよい。このような単量体は、式(6)に示される単量体と共重合可能な単量体である限り特に限定されず、例えば、式(6)に示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである。
【0064】
上記(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する位相差フィルムが得られることから、MMAが好ましい。
【0065】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、得られた(メタ)アクリル重合体が正の固有複屈折を有するとともに本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体を、1種または2種以上含んでもよい。
【0066】
重合体(B)の重量平均分子量は、例えば、0.1万〜100万であり、0.5万〜50万が好ましく、1万〜30万がより好ましい。
【0067】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)と重合体(B)とを含む。本発明の樹脂組成物における重合体(A),(B)の含有率は、例えば、重合体(A)が1〜40重量%、重合体(B)が60〜99重量%である。本発明の樹脂組成物における重合体(A)の含有率は、5〜30重量%が好ましく、10〜20重量%がより好ましい。重合体(B)の含有率は70〜95重量%が好ましく、80〜90重量%がより好ましい。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果が得られる限り、重合体(A),(B)以外の重合体を含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物における当該重合体の含有率は、30重量%以下が好ましい。当該重合体は、重合体(A),(B)の組成および含有率などにもよるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィンポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化ビニルなどのハロゲン含有ポリマー;トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂などのゴム質重合体;である。ゴム質重合体は、その表面に、重合体(A),(B)と相溶しうる組成のグラフト部を有することが好ましい。ゴム質重合体が粒子である場合、その平均粒子径は、位相差フィルムとしたときの透明性向上の観点から、300nm以下が好ましく、150nm以下、さらには100nm以下がより好ましい。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果が得られる限り、任意の材料を含んでいてもよい。当該材料は、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;ASAやABSなどのゴム質量体などである。本発明の樹脂組成物におけるこれらの材料の含有率は、例えば0〜5重量%であり、好ましくは0〜2重量%であり、より好ましくは0〜0.5重量%である。
【0070】
紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物である。ベンゾフェノン系化合物は、例えば、2,4−ジーヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノン)−ブタンである。サリシケート系化合物は、例えば、p−t−ブチルフェニルサリシケートである。ベンゾエート系化合物は、例えば、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートである。トリアゾール系化合物は、例えば、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステルである。トリアジン系化合物は、例えば、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジンの各トリアジン骨格と、アルキルオキシ、例えばオクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基と、を有する化合物である。トリアジン系紫外線吸収剤として「チヌビン1577」「チヌビン460」「チヌビン477」(いずれもチバスペシシャリティーケミカルズ製)が市販されており、トリアゾール系紫外線吸収剤として「アデカスタブLA−31」(旭電化工業製)が市販されている。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、2種以上の紫外線吸収剤を含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物が紫外線吸収剤を含む場合、当該樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有率は特に限定されない。位相差フィルムなどの光学フィルムの状態で、その含有率は0.01〜25重量%が好ましく、0.05〜10重量%がより好ましい。紫外線吸収剤の含有率が過度に大きくなると、最終的に得られた光学フィルムの機械的特性が低下したり、光学フィルムが黄変したりすることがある。
【0072】
酸化防止剤は、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物およびイオウ系化合物である。本発明の樹脂組成物は、2種以上の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0073】
酸化防止剤はフェノール系化合物であってもよく、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオールビス[(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカンである。
【0074】
フェノール系化合物からなる酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤)は、チオエーテル系酸化防止剤またはリン酸系酸化防止剤と組み合わせて使用することが好ましい。本発明の樹脂組成物における双方の酸化防止剤の含有率は、例えば、フェノール系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤の各々が0.01重量%以上、フェノール系酸化防止剤およびリン酸系酸化防止剤の各々が0.025重量%以上である。
【0075】
チオエーテル系酸化防止剤は、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートである。
【0076】
リン酸系酸化防止剤は、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイトである。
【0077】
本発明の樹脂組成物における酸化防止剤の含有率は特に限定されず、例えば、0〜10重量%であり、好ましくは0〜5重量%であり、より好ましくは0.01〜2重量%であり、さらに好ましくは0.05〜1重量%である。酸化防止剤の含有率が過度に大きくなると、本発明の樹脂組成物から光学フィルムを溶融押出により成形する際に、酸化防止剤がブリードアウトしたり、シルバーストリークスが発生したりすることがある。
【0078】
本発明の樹脂組成物は、光学フィルムへの用途に好適である。すなわち、典型的には、本発明の樹脂組成物は光学フィルム用樹脂組成物である。
【0079】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、本発明の樹脂組成物からなる層を含み、逆波長分散性を示す。本発明の光学フィルムは、必要に応じて、本発明の樹脂組成物からなる層以外の層を有していてもよいが、本発明の効果をより確実に得るためには、本発明の樹脂組成物からなる層からなる、すなわち、本発明の樹脂組成物からなることが好ましい。ただし、当該層は、その表面に機能性コーティング層を有していてもよい。
【0080】
本発明の光学フィルムは,典型的には位相差フィルムである。当該位相差フィルムが示す厚さ100μmあたりの面内位相差(Re)は、例えば、70nm以上である。位相差フィルムが含む重合体(A),(B)の種類および含有率によっては、100nm以上、110nm以上、120nm以上、さらには130nm以上となる。
【0081】
本発明の光学フィルムは、N−ビニルカルバゾール単位を構成単位として有する重合体(A)に基づく耐熱性、特に重合体(B)が主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体である場合にはさらに当該重合体(B)にも基づく高い耐熱性、を示し、そのTgは、例えば110℃以上である。本発明の光学フィルムが含む重合体(A),(B)の種類および含有率によっては、当該Tgは、120℃以上、125℃以上、さらには130℃以上となる。
【0082】
本発明の光学フィルムの厚さは特に限定されず、例えば、10〜500μmであり、20〜300μmが好ましく、30〜100μmが特に好ましい。
【0083】
本発明の光学フィルムの全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定した値にして、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
【0084】
本発明の光学フィルムのヘイズ率は、JIS 7165に準拠して測定した値にして、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0085】
本発明の光学フィルムにおいて、本発明の樹脂組成物からなる層の表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層;粘着剤層、接着剤層などの接着層;易接着層;防眩(ノングレア)層;光触媒層などの防汚層;反射防止層;ハードコート層;紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層;ガスバリヤー層である。
【0086】
本発明の光学フィルムの用途は特に限定されず、例えば、従来の位相差フィルムと同様の用途に使用できる。本発明の光学フィルムは、LCDなどの画像表示装置における光学補償に好適である。また、LCD以外にも、様々な画像表示装置、光学装置に使用でき、例えば、OELDにおける反射防止フィルムへの使用(偏光板と組み合わせるλ/4板としての使用)に好適である。
【0087】
本発明の光学フィルムは、本発明の樹脂組成物から、あるいは本発明の樹脂組成物とする前の重合体(A)および重合体(B)から、公知のフィルム成形方法、フィルム延伸方法により製造できる。具体的には、例えば、本発明の樹脂組成物をフィルムに成形して原フィルム(未延伸フィルム)とし、得られた原フィルムを延伸することで、位相差フィルムである本発明の光学フィルムが得られる。
【0088】
フィルム成形方法は、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法である。なかでも、溶液キャスト法、溶融押出法が好ましい。
【0089】
原フィルムの延伸には、公知の一軸延伸手法あるいは二軸延伸手法を適用できる。
【0090】
溶融押出法は、例えば、Tダイ法およびインフレーション法である。Tダイ法では、溶融押出機の先端にTダイを配置し、当該Tダイから溶融押出したフィルムを巻き取ることで、ロール状に巻回させた原フィルムが得られる。この際、巻き取りの温度および速度を調整して、フィルムの押出方向に延伸(一軸延伸)を加えることも可能である。
【0091】
溶融押出の際には、溶融押出機のベント部から、揮発成分の脱揮を行うことが好ましい。また、溶融押出の際には、ポリマーフィルタによる樹脂組成物の濾過を併用することが好ましい。
【0092】
溶液キャスト法は、一般に、溶解工程、流延工程および乾燥工程を有する。各工程には、公知の手法を適用できる。
【0093】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の光学フィルムを備える。これにより、画像表示特性に優れる、例えば、高コントラストかつ広視野角の画像表示装置となる。
【0094】
本発明の画像表示装置は、例えば、LCD、OELDである。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0096】
最初に、本実施例において作製した重合体の評価方法を示す。
【0097】
[重合体の平均分子量]
重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って、ポリスチレン換算により求めた。
【0098】
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:東ソー製、TSK-GEL super HZM-M 6.0X150、2本直列接続
東ソー製、TSK-GEL super HZ-L 4.6X35、1本
リファレンス側カラム構成:東ソー製、TSK-GEL SuperH-RC 6.0X150、2本直列接続
カラム温度:40℃
【0099】
[重合体のガラス転移温度]
重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。
【0100】
[重合体の相溶性]
本実施例において、面内位相差および波長分散性の評価のために作製したフィルムの外観を観察することにより、当該フィルムに含まれる重合体間の相溶性を評価した。具体的には、作製したフィルムがその全体にわたり透明であるときに「相溶性良好」、視認できる混濁が当該フィルムに見られたときに「相溶性不良」とした。
【0101】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30L(リットル)の反応装置に、10重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、22.5重量部のメタクリル酸エチル(EMA)、17.5重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部の上記t−アミルパーオキシイソノナノエートを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0102】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。さらに、オートクレーブ中で240℃、30分間加熱することにより、環化縮合反応を完了させた。
【0103】
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプ二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、2.0kg/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。このとき、別途準備していた環化縮合反応の失活剤の溶液を、第1ベントの後から高圧ポンプを用いて0.03kg/時の投入速度で注入するとともに、第3ベントの後から、イオン交換水を0.01kg/時の投入速度で注入した。失活剤の溶液には、35重量部のオクチル酸亜鉛(ニッカオクチックス亜鉛3.6%、日本化学産業製)を250重量部のトルエンに溶解させた溶液を用いた。
【0104】
上記一連の操作により、主鎖にラクトン環構造を有する、透明な(メタ)アクリル重合体(B−1)のペレットを得た。得られた重合体(B−1)の重量平均分子量は10.5万、Tgは125℃であった。
【0105】
得られた重合体(B−1)のペレットを、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度[重合体(B−1)のTg+10]℃で一軸延伸して、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの配向角を、全自動複屈折計(王子計測器製、KOBRA−WR)を用いて評価したところ、当該延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であった。すなわち、重合体(B−1)の固有複屈折は正であった。
【0106】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30L(リットル)の反応装置に、20重量部のN−ビニルカルバゾール(NVCZ)、12.5重量部のアクリロニトリル(AN)、17.5重量部のアクリル酸ブチル(BA)および重合溶媒として50重量部のメチルエチルケトンを仕込み、これに窒素を通じつつ、85℃まで昇温させた。昇温に伴う環流が始まったところで、重合開始剤として0.025重量部のt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)を添加するとともに、0.05重量部の上記t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを5.25重量部のメチルエチルケトンに溶解させた溶液を6時間かけて滴下しながら、約80〜85℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0107】
次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプ二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、2.0kg/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。
【0108】
上記一連の操作により、N−ビニルカルバゾール単位、アクリロニトリル単位およびアクリル酸ブチル単位を構成単位として有する透明な重合体(A−1)のペレットを得た。得られた重合体(A−1)の重量平均分子量は17.5万、Tgは93℃であった。重合体(A−1)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率は21.8モル%、アクリロニトリル単位の含有率は49.5モル%である。
【0109】
得られた重合体(A−1)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、配向角は90°近傍となり、すなわち、重合体(A−1)の固有複屈折は負であった。なお、配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(A−1)のTg+10]℃とした。
【0110】
これとは別に、得られた重合体(A−1)のペレットを窒素雰囲気下、270℃で10分間加熱した後、加熱後の当該ペレットを、固形分濃度にして0.1重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。得られた溶液を濾過精度0.45μmのメンブレンフィルターに通したところ、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。一方、得られた重合体(A−1)のペレットに対し、加熱温度を280℃、加熱時間を20分間に変更して同様の評価を行ったところ、溶液を上記メンブレンフィルターを通過させる際に、270℃、10分間の加熱を行った場合に比べて抵抗が感じられた。すなわち、重合体(A−1)は、熱によって若干のゲルを生じる傾向にあることがわかった。
【0111】
(製造例3)
重合に用いたモノマーを、20重量部のNVCZ、11重量部のANおよび19重量部のBAとした以外は製造例2と同様にして、N−ビニルカルバゾール単位、アクリロニトリル単位およびアクリル酸ブチル単位を構成単位として有する透明な重合体(A−2)のペレットを得た。得られた重合体(A−2)の重量平均分子量は17.7万、Tgは82℃であった。重合体(A−2)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率は22.5モル%、アクリロニトリル単位の含有率は45.2モル%である。
【0112】
得られた重合体(A−2)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、負であった。配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(A−2)のTg+10]℃とした。
【0113】
これとは別に、得られた重合体(A−2)のペレットを窒素雰囲気下、270℃で10分間加熱した後、加熱後の当該ペレットを、固形分濃度にして0.1重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。得られた溶液を濾過精度0.45μmのメンブレンフィルターに通したところ、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。一方、得られた重合体(A−2)のペレットに対し、加熱温度を280℃、加熱時間を20分間に変更して同様の評価を行ったところ、溶液を上記メンブレンフィルターを通過させる際に、270℃、10分間の加熱を行った場合に比べて抵抗が感じられた。すなわち、重合体(A−2)は、熱によって若干のゲルを生じる傾向にあることがわかった。
【0114】
(製造例4)
重合に用いたモノマーを、20重量部のNVCZおよび30重量部のスチレン(St)とした以外は製造例2と同様にして、構成単位としてN−ビニルカルバゾール単位を有するが、アクリロニトリル単位を有さない透明な重合体(C−1)のペレットを得た。得られた重合体(C−1)の重量平均分子量は13.5万であった。
【0115】
得られた重合体(C−1)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、負であった。配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(C−1)のTg+10]℃とした。
【0116】
(製造例5)
重合に用いたモノマーを、12.5重量部のANおよび37.5重量部のStとした以外は製造例2と同様にして、構成単位としてアクリロニトリル単位を有するが、N−ビニルカルバゾール単位を有さない透明な重合体(C−2)のペレットを得た。得られた重合体(C−2)の重量平均分子量は15.5万、Tgは100℃であった。
【0117】
得られた重合体(C−2)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、負であった。配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(C−2)のTg+10]℃とした。
【0118】
(製造例6)
バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えた内容積5L(リットル)のステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル−アクリルアミド共重合体系懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解させた溶液を供給し、当該溶液を上記攪拌翼を用いて回転速度400rpmで攪拌しながら、系内を窒素ガスで置換した。懸濁剤は、メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応器に仕込み、窒素雰囲気下、70℃で完全に重合させることで、別途調整しておいた。次に、メタクリル酸(MAA)25重量部、メタクリル酸メチル75重量部、t−ドデシルメルカプタン1.5重量部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部の混合溶液を、反応系を攪拌しながらオートクレーブ内に投入し、全体を70℃に昇温した。オートクレーブ内の反応系の温度が70℃に達した時点を重合開始として、当該温度を180分間保持して重合反応を進行させた。その後、通常の方法に従い、反応系の冷却ならびに重合により形成した重合体の分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。
【0119】
次に、得られた共重合体と添加剤(NaOCH3)とを配合し、二軸押出機(日本製鋼製、TEX30、L/D=44.5)を用いて、当該共重合体の分子内環化反応を進行させた。このとき、二軸押出機への共重合体および添加剤の供給量を5kg/時、スクリュー回転速度を100rpm、シリンダ温度を290℃とするとともに、押出機のホッパー部から窒素ガスを10L/分の流量でパージし続けた。
【0120】
上記一連の操作により、主鎖に無水グルタル酸構造を有する、透明な(メタ)アクリル重合体(B−2)のペレットを得た。
【0121】
得られた重合体(B−2)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、配向角は0°近傍となり、すなわち、重合体(B−2)の固有複屈折は正であった。配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(B−2)のTg+10]℃とした。
【0122】
(製造例7)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた内容積30L(リットル)の反応装置に、17.5重量部のNVCZ、6.75重量部のAN、9.5重量部のMMA、ならびに重合溶媒として16.7重量部のトルエンおよび13.4重量部のシクロペンタノンを仕込み、これに窒素を通じつつ、100℃まで昇温させた。昇温に伴う環流が始まったところで、重合開始剤として0.06重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、6.75重量部のAN、9.5重量部のMMA、14.7重量部のトルエンおよび0.096重量部の上記t−アミルパーオキシイソノナノエートの混合溶液を5時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。
【0123】
次に、得られた重合溶液を製造例2と同様に脱揮して、N−ビニルカルバゾール単位、アクリロニトリル単位およびメタクリル酸メチル単位を構成単位として有する透明な重合体(A−3)のペレットを得た。得られた重合体(A−3)の重量平均分子量は12.4万、Tgは129℃であった。重合体(A−3)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率は17.0モル%、アクリロニトリル単位の含有率は47.6モル%である。
【0124】
得られた重合体(A−3)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、配向角は90°近傍となり、すなわち、重合体(A−3)の固有複屈折は負であった。なお、配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(A−3)のTg+10]℃とした。
【0125】
これとは別に、得られた重合体(A−3)のペレットを窒素雰囲気下、270℃で10分間加熱した後、加熱後の当該ペレットを、固形分濃度にして0.1重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。得られた溶液を濾過精度0.45μmのメンブレンフィルターに通したところ、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。また、得られた重合体(A−3)のペレットに対し、加熱温度を280℃、加熱時間を20分間に変更して同様の評価を行ったところ、270℃、10分間の加熱を行った場合と同様に、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。すなわち、重合体(A−3)では、製造例2,3で作製した重合体(A−1),(A−2)に比べて、熱によるゲルの発生が抑えられていることがわかった。
【0126】
(製造例8)
MMAの代わりにメタクリル酸エチル(EMA)を用いるとともに、反応装置に仕込むNVCZ、ANおよびEMAの量を、それぞれ20.5重量部、6.5重量部および8.0重量部とし、滴下するANおよびEMAの量を、それぞれ6.5重量部および8.0重量部とした以外は、製造例7と同様にして、N−ビニルカルバゾール単位、アクリロニトリル単位およびメタクリル酸エチル単位を構成単位として有する透明な重合体(A−4)のペレットを得た。得られた重合体(A−4)の重量平均分子量は5.8万、Tgは125℃であった。重合体(A−4)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率は21.4モル%、アクリロニトリル単位の含有率は50.0モル%である。
【0127】
得られた重合体(A−4)の固有複屈折の正負を製造例1と同様に評価したところ、配向角は90°近傍となり、すなわち、重合体(A−4)の固有複屈折は負であった。なお、配向角評価用の延伸フィルムを得るための延伸温度は、[重合体(A−4)のTg+10]℃とした。
【0128】
これとは別に、得られた重合体(A−4)のペレットを窒素雰囲気下、270℃で10分間加熱した後、加熱後の当該ペレットを、固形分濃度にして0.1重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。得られた溶液を濾過精度0.45μmのメンブレンフィルターに通したところ、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。また、得られた重合体(A−4)のペレットに対し、加熱温度を280℃、加熱時間を20分間に変更して同様の評価を行ったところ、270℃、10分間の加熱を行った場合と同様に、溶液は上記メンブレンフィルターを容易に通過した。すなわち、重合体(A−4)では、製造例2,3で作製した重合体(A−1),(A−2)に比べて、熱によるゲルの発生が抑えられていることがわかった。
【0129】
(製造例9)
攪拌機を備えた耐圧反応容器に、脱イオン水70重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、オレイン酸カリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.005重量部、デキストロース0.2重量部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1重量部、および1,3−ブタジエン28重量部の反応混合物を仕込み、容器内を65℃に昇温して、2時間、重合を進行させた。次に、容器内の混合物に、p−ハイドロパーオキシド0.2重量部を加えるとともに、1,3−ブタジエン72重量部、オレイン酸カリウム1.33重量部および脱イオン水75重量部の混合溶液を、2時間かけて連続滴下した。その後、重合開始から21時間重合を進行させて、平均粒子径0.240μmのブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
【0130】
次に、冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120重量部、上記得られたブタジエン系ゴム重合体ラテックス50重量部(固形分換算)、オレイン酸カリウム1.5重量部、およびソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6重量部を仕込んだ後、当該容器内を窒素ガスで十分に置換した。次に、容器内を70℃に昇温した後、スチレン36.5重量部およびAN13.5重量部の混合モノマー溶液と、クメンハイドロパーオキシド0.27重量部および脱イオン水20重量部の重合開始剤溶液とを、個別に、2時間かけて当該容器内に連続滴下しながら、重合を進行させた。双方の溶液の滴下が終了した後も、容器内を80℃に保持して、さらに2時間、重合を進行させた。その後、容器内を40℃に冷却した後、容器内の溶液を300メッシュの金網を通過させて、弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。次に、得られた乳化重合液を塩化カルシウムで塩析し、塩析により生成した沈殿物を水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(ゴム質重合体粒子)(G)を得た。弾性有機微粒子(G)の平均粒径は0.260μm、軟質重合体層の屈折率は1.516であった。
【0131】
(実施例1〜8、比較例1〜2)
各製造例で作製したペレット、弾性有機微粒子ならびにグルタルイミド構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体(重合体(B−3))の市販ペレット(ロームアンドハース製、KAMAX T-150)を、以下の表1に示す配合でドライブレンドした後、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いて、バレル温度240℃で溶融混練した。次に、溶融混練して得た樹脂組成物をペレタイザーによりペレットとした後、当該ペレットを、シリンダー径20mmの単軸押出機を用いて押出成形し、厚さ100μmのフィルムを得た。押出成形は、温度270℃、幅120mmのTダイならびにロール温度115℃のつや付き2本ロールを用い、引き取り速度を2.5m/分として行った。
【0132】
【表1】

【0133】
作製した各実施例、比較例のフィルムから、当該フィルムに含まれる重合体間の相溶性を評価した。
【0134】
これとは別に、作製した各実施例、比較例のフィルムから試験片(4cm×4cm)を切り出し、切り出した試験片をオートグラフ(島津製作所製、AGS−100D)を用いて一軸延伸した。延伸温度は、各フィルムを構成する樹脂組成物のTgを上記方法により別途測定しておき、[当該Tg+10]℃とした。延伸倍率は2倍とし、延伸は1分間かけて行った。延伸後のフィルム(延伸フィルム)は、延伸温度にて1分間アニーリングした後に、オートグラフより取り出した。
【0135】
作製した各実施例、比較例の延伸フィルムについて、当該フィルムの厚さ100μmあたりの面内位相差Reを、全自動複屈折計(王子計測器製、KOBRA−WR)を用いて評価した。測定波長は590nmとした。また、測定波長を447nmとすることで、波長447nmの光に対する、厚さ100μmあたりの各延伸フィルムの面内位相差Re(447)を測定し、先に測定した波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)との比Re(447)/Re(590)を求めた。当該比が1未満であれば、評価した延伸フィルムが逆波長分散性を有すると判断できる。
【0136】
各実施例、比較例について、相溶性、面内位相差および波長分散性の評価結果を以下の表2に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2に示すように、実施例1〜8では、樹脂組成物に含まれる重合体間の相溶性が確保されるとともに、逆波長分散性を示す位相差フィルムが実現できた。実施例1,2,6,7に示すように、N−ビニルカルバゾール単位を有する重合体(A)の含有率が小さい場合においても、強い逆波長分散性を示す位相差フィルムが実現できた。そして、重合体(A)の含有率が小さいために、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体である重合体(B)に由来する特性である大きな面内位相差も併せて実現できることがわかった。また、実施例5に示すように、重合体(B)がグルタルイミド構造を主鎖に有する場合にも、十分な相溶性が確保できた。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の樹脂組成物は、逆波長分散性を有する光学フィルムの製造に好適である。本発明の光学フィルムは、従来の光学フィルム(例えば、実施例で示すように位相差フィルム)と同様の用途に使用できる。当該用途は、例えば、LCD、OELDをはじめとする種々の画像表示装置ならびに光学装置である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折が負である重合体(A)と、
固有複屈折が正である重合体(B)と、を含み、
前記重合体(A)が、構成単位として、N−ビニルカルバゾール単位およびアクリロニトリル単位を有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合体(A)におけるアクリロニトリル単位の含有率が、15〜60モル%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記重合体(A)におけるN−ビニルカルバゾール単位の含有率が、5〜50モル%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)が、構成単位として、メタクリル酸エステル単位をさらに有し、
前記重合体(A)におけるメタクリル酸エステル単位の含有率が、5〜50モル%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合体(B)が(メタ)アクリル重合体である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記重合体(B)が、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造およびグルタルイミド構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記重合体(A)を1〜40重量%の含有率で含み、
前記重合体(B)を60〜99重量%の含有率で含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を含み、
少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す光学フィルム。
【請求項9】
波長590nmの光に対する、厚さ100μmあたりの面内位相差(Re)が70nm以上である請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
請求項8に記載の光学フィルムを備える画像表示装置。

【公開番号】特開2012−78778(P2012−78778A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69710(P2011−69710)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】