説明

樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】透明性、色相、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性にバランスよく優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)1〜99重量部および脂環式ポリエステル樹脂(B)1〜99重量部の合計100重量部に対し、特定の有機リン酸エステル金属塩(C)0.001〜5重量部と特定のリン系化合物(D)0.001〜1重量部を含有して成る樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形体に関し、詳しくは、主として、芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステル樹脂から成る樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れていることから、汎用エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子・OA機器・その他の機器・機械などの各種部品、自動車用外装、自動車用外板部品などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融粘度が高く、成形加工性(流動性)に劣るという問題がある。特に、成形品の薄肉化・大型化が進むに伴い、成形加工性を改良することが強く求められている。さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐薬品性に劣るという問題もあり、溶剤に接触する用途での使用に制限がある。
【0004】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れるため、各種光学部品に使用されている。しかしながら、近年、用途によっては更なる透明性(全光線透過率)の向上が求められる様になってきた。特に、導光板に代表される様な高輝度が求められる用途では、透過率を0.1%のレベルで向上させるだけでも輝度が顕著に向上するため、透明性を向上する要求は極めて大きいものとなっている。しかしながら、透明性が高くなるほど、透過率を0.1%単位のレベルで向上させるだけでも極めて困難となる。また、ブルーイング剤を配合し調色することが一般に行われているが、ブルーイング剤を配合することで透過率が下がってしまう。すなわち、クリアー感のある成形品を得るためにも、透過率を向上させることが求められている。
【0005】
芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性を向上させる手段として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)やアクリルニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂)等により、芳香族ポリカーボネート樹脂をポリマーアロイ化することが提案され実用化されている。
【0006】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂の耐薬品性を改良させる手段として、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表される熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂などにより、芳香族ポリカーボネート樹脂をポリマーアロイ化することが提案され実用化されている。
【0007】
しかしながら、上記の様な方法で得られたポリマーアロイは、何れも不透明であるため、透明性が必要とされる用途での使用は困難である。
【0008】
上記の問題点を解決する手段として、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)樹脂(以下「PCC樹脂」と略記する)とからなる透明なポリマーアロイが提案されている(特許文献1及び2)。さらに、この様なポリマーアロイに、触媒失活剤を使用することで着色を防止することが好ましいとされ、触媒失活剤として、酸性リン酸塩、1以上の酸性水素を有するホスファイト、第IB族または第IIB族金属のリン酸塩、リンのオキソ酸および酸性ピロリン酸金属塩が提案されている(特許文献1及び2)。
【0009】
しかしながら、上記の技術は、透明性や色相において必ずしも満足できるものではなく、触媒失活剤を配合すると、耐湿熱性や滞留熱安定性の悪化が生じることが分かった。また、薄肉成形品や大型成形品を得るためには、成形温度を高くして(例えば300℃以上で)成形する必要があるが、この様な高温で成形した際の耐衝撃性および滞留熱安定性の改善が問題となる。
【0010】
一方、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂からなるポリマーブレンドの着色防止や熱安定性改良のために特定の有機ホスファイト化合物を配合した樹脂組成物が提案され(特許文献3)、特定のホスフェート化合物を配合した樹脂組成物が提案されている(特許文献4)。
【0011】
しかしながら、上記の樹脂組成物はテレフタル酸を主成分とする芳香族ポリエステルを対象とするものであり、例示されている樹脂組成物は不透明なものである。従って、ホスファイト化合物やホスフェート化合物の配合と、樹脂組成物の透明性との関係については何ら記載も示唆もされていない。さらに、上記の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のエステル交換反応による熱分解をホスファイト化合物やホスフェート化合物の配合により改良するものであり、透明性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性のバランスを考慮したものではない。
【0012】
また、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、リン酸エステル金属塩からなる耐衝撃性に優れた樹脂組成物が提案され(特許文献5)、さらには、熱可塑性ポリエステル樹脂、有機リン酸エステル金属塩を含有する結晶化速度の改善された樹脂組成物が提案されている(特許文献6)。しかしながら、これらの樹脂組成物に関する、透明性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性のバランスについて何ら言及されていない。
【0013】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂と脂環族ポリエステル樹脂からなる色精度が良好な位相差フィルムが提案されている(特許文献7)。そして、この位相差フィルムは、モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートを含有させることにより、カラー表示・色精度が良好になるとのことであり、モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートの配合量は、樹脂成分の合計100重量部に対し、0.001〜0.5重量部が特に好ましく、具体的には0.1重量部となっている。
【0014】
しかしながら、位相差フィルムは、特定のホスフェート化合物を含有させることにより色相を改良したものであり、透明性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性のバランスを考慮したものではない。
【0015】
【特許文献1】特表2002−517538号公報
【特許文献2】特開2003−176401号公報
【特許文献3】特開平3−97752号公報
【特許文献4】特開昭63−265949号公報
【特許文献5】特表2004−509174号公報
【特許文献6】特開平11−35807号公報
【特許文献7】特開2005−165085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、上記の従来技術について本発明者が検討した結果、例えば、上記の位相差フィルムに使用された樹脂組成物(樹脂成分100重量部に対し、モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートを0.1重量部含有した樹脂組成物)では、色相および透明性が十分ではなく、さらに、耐湿熱性や滞留熱安定性も劣ることが分かった。すなわち、上記の樹脂組成物では、透明性、色相、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性についてのバランスに欠けることが分かった。本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、主として、芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステル樹脂から成り、上記の従来技術の諸欠点を解消した樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリエステル樹脂、特定のリン系化合物、特定の有機リン酸エステル金属塩からなる樹脂組成物が、透明性、色相、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性にバランスよく優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明の第1の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)1〜99重量部および脂環式ポリエステル樹脂(B)1〜99重量部の合計100重量部に対し、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される有機リン酸エステル金属塩から成る群より選ばれた少なくとも一種である有機リン酸エステル金属塩(C)0.001〜5重量部と、下記一般式(5)で表されるリン酸エステル、下記一般式(6)で表される亜リン酸エステルおよび下記一般式(7)で表されるホスホナイトから成る群より選ばれた少なくとも一種であるリン系化合物(D)0.001〜1重量部を含有して成る樹脂組成物に存する。
【0019】
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【0020】
【化2】

(一般式(2)中、R5はアルキル基またはアリール基であり、Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【0021】
【化3】

(一般式(3)中、R6〜R11はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。)
【0022】
【化4】

(一般式(4)中、R12〜R14は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0023】
【化5】

(一般式(5)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
【0024】
【化6】

(一般式(6)中、R'はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0025】
【化7】

(一般式(7)中、Raはアリール基またはアリーレン基、Rbはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0026】
そして、本発明の第2の要旨は、上記の樹脂組成物から成る樹脂成形体に存する。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る樹脂組成物は、透明性、色相、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性にバランスが良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。本明細書において、各種化合物が有する「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよい。なお、本発明の第1の要旨に係る発明を「第1発明」、本発明の第2の要旨に係る発明を「第2発明」と略記する。
【0029】
先ず、本発明で使用する必須成分ならびに任意成分について説明する。
【0030】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、原料として、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを使用し、または、これらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物を使用して得られ、直鎖または分岐の熱可塑性の重合体または共重合体である。
【0031】
上記の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が挙げられる。
【0032】
また、上記以外の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0033】
上記の中では、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]が好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物は2種類以上を併用してもよい。
【0034】
前記のカーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が挙げられ、その具体例としては、ホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。これらのカーボネート前駆体は2種類以上を併用してもよい。
【0035】
また、本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類の他、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。これらの中では、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。多官能性芳香族化合物は、前記の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することが出来、その使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、通常0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0036】
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などが挙げられる。工業的には、界面重合法または溶融エステル交換法が有利であり、以下、この二つの方法の代表例について説明する。
【0037】
界面重合法による反応は、例えば、次の様に行うことが出来る。先ず、反応に不活性な有機溶媒とアルカリ水溶液の存在下、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを反応させる。この際、必要に応じ、反応系内に分子量調整剤(末端停止剤)や芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止剤を存在させることが出来る。次いで、第三級アミン、第四級アンモニウム塩などの重合触媒を添加し、界面重合を行う。
【0038】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。また、アルカリ水溶液の調製に使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0039】
分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられ、その具体例としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対し、通常0.5〜50モル、好ましくは好ましくは1〜30モルである。
【0040】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0041】
ホスゲン化反応の温度は通常0〜40℃、反応時間は数分(例えば10分)ないし数時間(例えば6時間)である。また、分子量調節剤の添加時期は、ホスゲン化反応以降、重合反応開始時迄の間において、適宜に選択することが出来る。
【0042】
溶融エステル交換法による反応は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応により行う。炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。これらの中では、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0043】
一般に、溶融エステル交換法においてはエステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に制限はないが、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。エステル交換反応の温度は通常100〜320℃である。そして、引き続き行われる溶融重縮合反応は、最終的には2mmHg以下の減圧下において、芳香族ヒドロキシ化合物などの副生成物を除去しながら行われる。
【0044】
溶融重縮合は、バッチ式または連続式の何れの方法でも行うことが出来るが、連続式で行うことが好ましい。溶融エステル交換法に使用する触媒失活剤としては、当該エステル交換反応触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物またはそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。触媒失活剤の使用量(添加量)は、当該触媒が含有するアルカリ金属に対し、通常0.5〜10当量、好ましくは1〜5当量であり、ポリカーボネートに対し、通常1〜100ppm、好ましくは1〜20ppmである。
【0045】
また、樹脂の熱安定性、加水分解安定性、色調などに大きな影響を及ぼす芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量は、従来公知の任意の方法によって適宜調整することが出来る。溶融エステル交換法の場合は、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率や溶融重縮合反応時の減圧度を調整することにより、所望の分子量および末端水酸基量の芳香族ポリカーボネートを得ることが出来る。溶融エステル交換法の場合は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対する、炭酸ジエステルの割合は、通常、等モル量以上、好ましくは1.01〜1.30モルである。末端水酸基量の積極的な調整方法としては、反応時に、別途、末端停止剤を添加する方法が挙げられる。末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。
【0046】
本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]として、機械的強度と流動性(成形加工性容易性)の観点から、通常10,000〜50,000、好ましくは12,000〜40,000であり、更に好ましくは14,000〜30,000である。また、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。更に、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0047】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を使用し、温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10−4M0.83の式から算出される値を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0048】
【数1】

【0049】
本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、更に好ましくは600ppm以下である。また、その下限は、特にエステル交換法で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂では、10ppm、好ましくは30ppm、更に好ましくは40ppmである。末端水酸基濃度を10ppm以上の範囲にすることにより、分子量の低下が抑制でき、樹脂組成物の機械的特性がより向上する傾向にある。また、末端基水酸基濃度を1000ppmを超えない範囲にすることにより、樹脂組成物の滞留熱安定性や色調がより向上する傾向にある。
【0050】
上記の末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものであり、測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0051】
また、本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、成形品外観の向上や流動性の向上を図るため、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。この芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500〜9,500、好ましくは2,000〜9,000である。芳香族ポリカーボネートオリゴマーの使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、通常30重量%以下である。
【0052】
更に、本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂として、バージン樹脂だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、所謂マテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防などの車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板などの建築部材が挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂の使用割合は、バージン樹脂に対し、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0053】
<脂環式ポリエステル樹脂(B)>
本発明で使用する脂環式ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分と、必要に応じて他の少量の成分とを、エステル化またはエステル交換反応させ、次いで、重縮合反応させて得られる。上記のジカルボン酸成分は脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を主成分とし、上記のジオール成分は脂環式ジオールを主成分とする。ここで、「主成分」とは、ジカルボン酸成分またはジオール成分に対し、それぞれ、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上であることを意味する。脂環式ジカルボン酸(またはそのエステル形成性誘導体)及び脂環式ジオールが80モル%未満の場合は、芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が劣って透明性が悪化し、更に耐熱性が劣る。
【0054】
脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらの中では、炭素数6〜12の脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が更に好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が特に好ましい。
【0055】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を使用する場合、そのトランス体とシス体との比率は、通常80/20〜100/0、好ましくは85/15〜100/0、更に好ましくは90/10〜100/0である。斯かる条件を満足することにより、得られる脂環式ポリエステル樹脂の耐熱性が高められる。
【0056】
本発明において使用し得るその他のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。具体的には、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、フェニレンジオキシカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、これらの炭素数1〜4のアルキルエステル若しくはハロゲン化物などが挙げられる。
【0057】
脂環式ジオールとしては、得られるポリエステル樹脂の耐熱性の観点から、5員環または6員環の脂環式ジオールが好適である。斯かる脂環式ジオールの具体例としては、1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ、[5.2.1.0]デカン等の5員環ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン等の6員環ジオール等が挙げられる。これらの中では、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノールが更に好ましい。1,4−シクロヘキサンジメタノールは、メチロール基がパラ位にあるため反応性が高くて高重合度ポリエステルが得やすく、高いガラス転移温度のポリエステル樹脂が得られ、工業生産品であり入手が容易であるという利点がある。1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス体とシス体の比率は通常60/40〜100/0である。
【0058】
本発明において使用し得るその他のジオール成分としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール等が挙げられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸などの芳香族ジオール等が挙げられる。
【0059】
本発明で使用する脂環式ポリエステル樹脂は、前記のジオール成分およびジカルボン酸成分以外に少量の共重合成分を含んでいてもよい。斯かる共重合成分としては、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分などが挙げられる。これらの成分は、脂環式ポリエステル樹脂中10モル%以下の割合で使用される。
【0060】
エステル化反応またはエステル交換反応におけるジカルボン酸成分とジオール成分との使用比率は次の通りである。すなわち、ジオール成分の合計量は、ジカルボン酸成分の合計量に対し、通常1〜2倍モル比である。特に、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール等の高沸点のものを主成分とする場合は、1〜1.2倍モル比である。
【0061】
エステル化またはエステル交換反応および重縮合反応においては、十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常のエステル化またはエステル交換反応に使用されている触媒であれば特に限定されず、広く公知のものを採用することが出来る。具体的には、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物などが挙げられる。これらの中では、チタン化合物は、エステル化またはエステル交換反応と続いて行われる重縮合反応の両反応において活性が高いことから好ましい。チタン化合物の具体例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−iso−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、これらの有機チタネートの加水分解物などが挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じ、マグネシウム化合物やリン化合物などと組み合わせてもよい。触媒の使用量は、生成する脂環式ポリエステル樹脂に対し、通常1〜2000ppm、好ましくは10〜1000ppmである。
【0062】
脂環式ポリエステル樹脂の固有粘度は、機械的強度および流動性の観点から、通常0.4〜1.5dl/g、好ましくは0.5〜1.3dl/gである。更に、得られたポリエステル樹脂は必要に応じて固相重合を行いより固有粘度の高いものとしてもよい。ここで、固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)混合液を溶媒としてウベローデ型粘度計を使用して30℃で測定することにより求められる。
【0063】
脂環式ポリエステル樹脂の末端カルボン酸濃度は、通常50eq/t以下、好ましくは30eq/t以下、更に好ましくは20eq/t以下である。末端カルボン酸濃度が高すぎる場合は、加水分解性(耐湿熱性)が低下する。
【0064】
脂環式ポリエステル樹脂の融点は、例えば、ジカルボン酸成分として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とし、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを主成分とする脂環式ポリエステル樹脂の場合、通常200〜250℃、好ましくは210〜230℃、更に好ましくは215〜230℃である。
【0065】
<有機リン酸エステル金属塩(C)>
本発明で使用する有機リン酸エステル金属塩は、下記一般式(1)〜(4)の何れかで表される有機リン酸エステル金属塩から成る群より選ばれた少なくとも一種である。以下、これら一般式で表される有機リン酸エステル金属塩を、順に、(C1成分)〜(C4成分)ということがある。
【0066】
【化8】

(一般式(1)中、R1〜R4はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【0067】
【化9】

(一般式(2)中、R5はアルキル基またはアリール基であり、Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【0068】
【化10】

(一般式(3)中、R6〜R11はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。)
【0069】
【化11】

(一般式(4)中、R12〜R14は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0070】
一般式(1)〜(4)中、R1〜R14は、好ましくは、それぞれ、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、更に好ましくは、それぞれ、炭素数2〜25のアルキル基、フェニル基、ノニルフェニル基、ステアリルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル基またはトリル基である。
【0071】
透明性および/または色相をより向上させる観点からは、R1〜R14は、それぞれ、炭素数2〜25のアルキル基であることが好ましく、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基がより好ましい。一般式(1)〜(2)中、Mは、好ましくは、亜鉛である。また、一般式(3)〜(4)中、M’は、好ましくは、アルミニウムである。
【0072】
また、本発明におけるC成分は、C1成分〜C4成分を2種類以上を組み合わせて使用してもよい。さらにまた、一般式(1)〜(4)の中でも、特に、一般式(1)及び/又は(2)で表される有機リン酸エステル金属塩を使用することが好ましく、その際、上記一般式(1)及び(2)中、Mは、好ましくは、亜鉛である。さらに、一般式(1)及び(2)中、R1〜R5は、それぞれ、炭素数2〜25のアルキル基であることがより好ましい。特に、C1成分とC2成分の比は、重量部比で1/9〜9/1であることが好ましい。
【0073】
特に好ましい有機リン酸エステル金属塩としては、モノステアリルアシッドホスフェートホスフェートの亜鉛塩と、ジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、モノステアリルアシッドホスフェートホスフェートのアルミニウム塩とジステアリルアシッドホスフェートのアルミニウム塩の混合物が挙げられる。斯かる好ましい有機リン酸エステル金属塩は、堺化学工業製「LBT−1830」や「LBT−1813」、城北化学工業製「JP−518Zn」として市販されている。
【0074】
<リン系化合物(D)>
本発明で使用するリン系化合物は、下記一般式(5)で表されるリン酸エステル、下記一般式(6)で表される亜リン酸エステルおよび下記一般式(7)で表されるホスホナイトから成る群より選ばれた少なくとも一種である。以下、リン酸エステルを(D1成分)、亜リン酸エステルを(D2成分)、ホスホナイト化合物を(D3成分)ということがある。
【0075】
【化12】

(一般式(5)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
【0076】
【化13】

(一般式(6)中、R'はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0077】
【化14】

(一般式(7)中、Raはアリール基またはアリーレン基、Rbはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0078】
<リン酸エステル(D1成分)>
一般式(5)中、Rは、好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、より好ましくは、炭素数2〜25のアルキル基、フェニル基、ノニルフェニル基、ステアリルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル基、トリル基である。
【0079】
透明性および/または色相をより向上させる観点から、好ましくは、下記一般式(I−I)で表されるリン酸エステルである。
【0080】
【化15】

【0081】
一般式(I−I)中、R''は炭素数2〜25のアルキル基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。n’は1または2である。ここで、アルキル基としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。
【0082】
<亜リン酸エステル(D2成分)>
前記の一般式(6)中、R’がアルキル基である場合、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、R’がアリール基である場合、炭素数6〜30のアリール基が好ましい。
【0083】
亜リン酸エステルの具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビスノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0084】
上記の中で、好ましい亜リン酸エステルは、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであり、更に好ましくは、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0085】
<ホスホナイト化合物(D3成分)>
ホスホナイト化合物の具体例としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリ−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。これらの中では、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−フェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0086】
本発明において、リン系化合物(D)は、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。透明性、色相および滞留熱安定性の観点からは、亜リン酸エステル(D2成分)及び/又はホスホナイト化合物(D3成分)を採用することが好ましい。
【0087】
<ポリオルガノシロキサン>
本発明においては、任意成分としてポリオルガノシロキサンを使用することが出来る。ポリオルガノシロキサンは本発明の樹脂組成物の透明性および/または色相をより向上させる作用がある。
【0088】
ポリオルガノシロキサンは、少なくとも側鎖にフェニル基を有するが、分岐シロキサン構造を有するものが好ましく、単一の化合物であっても、混合物であってもよい。混合物の場合は、少なくとも側鎖にフェニル基を有するポリオルガノシロキサンと、少なくとも分岐シロキサン構造を有するポリオルガノシロキサンとを併用したものも好ましい。
【0089】
ポリオルガノシロキサンの25℃における動粘度は、通常1〜200cSt、好ましくは5〜100cSt、更に好ましくは10〜50cStである。動粘度を1cSt以上とすることにより成形時のガス発生量を抑えて、ガスによる成形不良、例えば、未充填、ガスやけ、転写不良が発生する可能性をより低く出来て好ましい。一方、動粘度を200cSt以下とすることにより、本発明の樹脂組成物の透明性および/色相を向上させる効果がより顕著となる。ポリオルガノシロキサンは、慣用の有機反応によって容易に得ることが出来る。
【0090】
<酸化防止剤>
本発明では任意成分として酸化防止剤を使用することが出来る。好ましい酸化防止剤はヒンダードフェノール系酸化防止剤である。その具体例としては、ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3',3",5,5',5"−ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a"−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。これらの中では、ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より、「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
【0091】
<離型剤>
本発明においては任意成分として離型剤を使用することが出来る。好ましい離型剤は、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪族炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0092】
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の脂肪族1価、2価または3価カルボン酸が挙げられる。ここで、脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸を含む。脂肪族カルボン酸としては、炭素数6〜36の1価または2価カルボン酸が好ましく、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。斯かる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0093】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては上記の脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。また、この脂肪族カルボン酸と反応しエステルを形成するアルコールとしては、飽和または不飽和の1価アルコールおよび飽和または不飽和の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。特に、炭素数30以下の1価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。これらのアルコールは脂環式化合物であってもよい。これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸および/またはアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0094】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0095】
脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素を含む。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。
【0096】
<染顔料>
本発明においては、任意成分として染顔料を使用することが出来る。染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料、群青などの珪酸塩系顔料、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料、黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料、紺青などのフェロシアン系などが挙げられる。有機顔料および有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料、ニッケルアゾイエロー等のアゾ系化合物、チオインジゴ系化合物、ペリノン系化合物、ペリレン系化合物、キナクリドン系化合物、ジオキサジン系化合物、イソインドリノン系化合物、キノフタロン系化合物などの縮合多環染顔料、アンスラキノン系化合物、複素環系化合物、メチル系化合物の染顔料などが挙げられる。
【0097】
特に、熱安定性の観点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系化合物、キノリン系化合物、アンスラキノン系化合物、フタロシアニン系化合物が好ましく、カーボンブラック、アンスラキノン系化合物、フタロシアニン系化合物が更に好ましい。これらの具体例としては、「MACROLEX Blue RR」、「MACROLEX Violet 3R」、「MACROLEX Violet B」(以上、バイエル社製)、「Sumiplast Violet RR」、「Sumiplast Violet B」、「Sumiplast Blue OR」(以上、住友化学工業社製)、「Diaresin Violet D、Diaresin Blue G」、Diaresin Blue N」(以上、三菱化学社製)等が挙げられる。
【0098】
<熱安定剤>
本発明においては、任意成分として熱安定剤を使用することが出来る。好ましい熱安定剤は亜リン酸エステル化合物である。亜リン酸エステル化合物の具体例としては、トリオクチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中ではトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0099】
<難燃剤(滴下防止剤)>
本発明においては任意成分として難燃剤を使用することが出来る。好ましい難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノ−ルAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノ−ル系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノ−ル系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、トリフェニルホスフェ−ト、レゾルシノ−ルビス(ジキシレニルホスフェ−ト)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェ−ト)、4,4’−ビフェノ−ルビス(ジキシレニルホスフェ−ト)、ビスフェノ−ルAビス(ジキシレニルホスフェ−ト)、レゾルシノ−ルビス(ジフェニルホスフェ−ト)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェ−ト)、4,4’−ビフェノ−ルビス(ジフェニルホスフェ−ト)、ビスフェノ−ルAビス(ジフェニルホスフェ−ト)等のリン酸エステル系難燃剤、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パ−フルオロブタンスルホン酸カリウム等の有機金属塩系難燃剤、ポリオルガノシロキサン系難燃剤などが挙げられる。
【0100】
<他の樹脂>
本発明においては、任意成分として、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体など)ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの他の樹脂を使用することが出来る。
【0101】
<その他の添加剤>
本発明においては、上記成分以外に他の樹脂および各種樹脂添加剤を使用することが出来る。例えば、各種樹脂添加剤としては、耐候性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、フィラー・充填材などが挙げられる。
【0102】
次に、本発明に係る樹脂組成物について説明する。本発明に係る樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)1〜99重量部および脂環式ポリエステル樹脂(B)1〜99重量部の合計100重量部に対し、有機リン酸エステル金属塩(C)0.001〜5重量部と、リン系化合物(D)0.001〜1重量部を含有して成る。そして、透明性、色相と耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性のバランスの観点から、有機リン酸エステル金属塩(C)及びリン系化合物(D)の両成分が必須である。
【0103】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の使用割合[(A):(B)重量比]は、好ましくは30:70〜95:5、更に好ましくは50:50〜90:10、特に好ましくは、60:40〜90:10、最も好ましくは70:30〜90:10である。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の割合が少な過ぎる場合は、耐熱性や耐衝撃性が低下し、多すぎる場合は、流動性や耐薬品性が低下する。
【0104】
有機リン酸エステル金属塩(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、好ましくは0.003〜0.3重量部、更に好ましくは0.005〜0.09重量部である。有機リン酸エステル金属塩(C)の含有量が過不足の場合は、透明性および/または色相が劣り、多過ぎる場合は、更に、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性も悪化する。
【0105】
リン系化合物(D)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、好ましくは0.003〜0.3重量部、更に好ましくは0.005〜0.09重量部である。リン系化合物(D)の含有量が過不足の場合は、透明性および/または色相が劣り、多過ぎる場合は、更に、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性も悪化する。
【0106】
前述のポリオルガノシロキサンの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常0.01〜1重量部、好ましくは0.03〜0.8重量部である。ポリオルガノシロキサンの配合量が少な過ぎる場合は、樹脂組成物の透明性および/または色相の向上効果が発現されず、多過ぎる場合は、ガスによる成形不良、例えば、未充填、ガスやけ、転写不良などが発生する可能性がある。
【0107】
前述のフェノール系酸化防止剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常0.01〜1重量部である。フェノール系酸化防止剤の配合量が少な過ぎる場合は効果が発現されず、多過ぎる場合は経済的ではない。
【0108】
前述の離型剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常0.01〜1重量部である。離型剤の配合量が少な過ぎる場合は効果が発現されず、多過ぎる場合は、耐加水分解性の低下や射出成形時の金型汚染などの問題が惹起される。
【0109】
前述の染顔料の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常1重量部以下、好ましくは0.3重量部以下、更に好ましくは0.1重量部以下である。
【0110】
前述の熱安定剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常0.001〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。熱安定剤の含有量が少な過ぎる場合は効果が発現されず、多過ぎる場合は耐加水分解性が悪化する場合がある。
【0111】
前述の難燃剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、通常0.01〜30重量部、好ましくは0.03〜25重量部、更に好ましくは0.05〜20重量部である。
【0112】
本発明の樹脂組成物は、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を使用し、前述の各成分を予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等で溶融混練することによって製造することが出来る。また、予め各成分を混合せずに、または、予め一部の成分のみ混合してフィダーで押出機に供給して溶融混練することも出来る。
【0113】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、インジェクションブロー成形、押出成形またはブロー成形などの方法により成形できる。更に、押出成形されたフィルム又はシート状成形品から、真空成形、圧空成形などにより目的の成形品と得ることも出来る。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下の諸例で使用した原材料は次の通りである。以下の諸例において、配合量は重量部を意味する。
【0115】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)>
PC−1:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロンS−3000FN」、粘度平均分子量22,500)
PC−2:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロンH−4000FN」、粘度平均分子量15,500)
PC−3:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロンE−2000FN」、粘度平均分子量28,000)
【0116】
<脂環式ポリエステル樹脂(B成分)>
PCC−1:下記の製造例1に記載の脂環式ポリエステル樹脂
固有粘度0.957dl/g、末端カルボン酸濃度12.0eq/t
PCC−2:下記の製造例2に記載の脂環式ポリエステル樹脂
固有粘度0.666dl/g、末端カルボン酸濃度5.1eq/t
【0117】
<有機リン酸エステル金属塩(C成分)>
C−1:モノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、堺化学工業社製、「LBT−1830」
C−2:モノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、城北化学工業社製、「JP−518Zn」
【0118】
<リン系化合物(D成分)>
D−1:化学式:O=P(OH)n'(OC18H37)3-n' (n'=1および2の混合物)、旭電化工業社製、「アデカスタブAX−71」
D−2:ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、旭電化工業社製、「アデカスタブPEP−24G」
D−3:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、旭電化工業社製、「アデカスタブPEP−36」
D−4:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアント製、「サンドスタブP−EPQ」
D−5:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、エーピーアイコーポレーション社製、「GSY−P101」
【0119】
<上記C成分およびD成分以外のリン化合物(E成分)>
E−1:亜リン酸、和光純薬社製
E−2:リン酸、和光純薬工業社製
E−3:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、旭電化工 業社製、「アデカスタブ2112」
【0120】
<ポリオルガノシロキサン(F成分)>
F−1:ポリメチルフェニルシロキサン(分岐タイプ)、東レダウコーニングシリコーン社製、「SH556」、動粘度22cSt
【0121】
<その他の成分>
酸化防止剤:ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバスペシャリティーケミカルズ社製、「イルガノックス1010」
離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート、日本油脂社製「ユニスターH476」
【0122】
製造例1:
攪拌機、留出管、加熱装置、圧力計、温度計および減圧装置を有する容量が100リットルのステンレス製反応器に、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(トランス体:シス体の比率が96:4)101.5重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール(トランス体:シス体の比率が69:31)88.6重量部およびテトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール溶液0.005重量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、内温を30分間で150℃に昇温し、さらに150℃から200℃まで1時間かけて昇温した。次いで、200℃で1時間保持してエステル化反応を行った後、200℃から250℃へ45分間で昇温しつつ、反応器内の圧力を徐々に減圧しながら重縮合反応を行った。反応機内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃に保って、重縮合反応を3.6時間行った。重縮合反応終了後、得られた樹脂を水中にストランド状に抜き出し、切断してペレット化した。固有粘度および末端カルボン酸濃度は、それぞれ、0.957dl/g、12eq/tであった。なお、これらの物性測定方法は後述する。
【0123】
製造例2:
製造例1において、1,4−シクロヘキサンジメタノールの仕込量を87.5重量部に、反応機内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃とした後の反応時間を4.2時間に変更したこと以外は、製造例1と同様に行った。固有粘度および末端カルボン酸濃度は、それぞれ0.666dl/g、5.1eq/tであった。
【0124】
<固有粘度の測定方法>
フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、試料約0.25gを濃度が約1.00g/dLとなる様に溶解させ濃度C(g/dL)を算出する。この溶液を、30℃まで冷却、保持し、全自動溶液粘度計(センテック社製「2CH型DJ504」)にて、試料溶液の落下秒数(t)及び溶媒のみの落下秒数(t0)を測定し、下式により算出した。
【0125】
【数2】

【0126】
上記の式において、「ηsp=t/t0−1」であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
【0127】
<末端カルボン酸濃度(AV)の測定方法>
試験管にペレット0.4gを採取し、ベンジルアルコール25mlに加え、195±3℃に設定したオイルバス中で7〜9分間加熱し溶解する。得られた溶解溶液を、常温まで放冷し、エチルアルコール2mlを加え、自動滴定装置(東亜ディケーケー社製、形式:AUT−501)によって、複合pH電極を使用し、0.01規定の水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液で滴定した。
【0128】
なお、0.01規定の水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液は、JIS K8006に準拠して調製、標定を行い、ファクターを算出した。得られた滴定曲線の変曲点から滴定量を求め、次式に基づいて、AVを算出した。
【0129】
【数3】

【0130】
上記この式において、Aは測定滴定量(ml)、Bはブランク滴定量(ml)、Fは0.01規定の水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液力価、Wはペレット重量である。
【0131】
実施例1〜14及び比較例1〜16:
表1〜表5に示す割合にて各成分をタンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30XCT」、L/D=42、バレル数12)を使用し、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数200rpmにてバレル1より押出機にフィードし溶融混練させ樹脂組成物のペレットを作製した。
【0132】
上記の方法で得られたペレットを、120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(名機製作所製「M150AII−SJ型」)を使用し、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で、ASTM試験片(3.2mm厚のノッチ付き試験片)及び平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を作製した。また、平板状成形品については、滞留成形を1サイクル5分で成形を行い、それぞれ5ショット目以降の滞留成形品について以下の評価を行った。結果を表1〜表5に示した。
【0133】
(1)流動性(Q値):
高荷式フローテスターを使用し、280℃、荷重160kgf/cm2の条件下で樹脂組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:cc/s)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が高いほど、流動性に優れている。
【0134】
(2)透明性:
JIS K−7105に準じ、上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を使用し、日本電色工業社製、NDH−2000型濁度計で全光線透過率を測定した。全光線透過率が大きいほど、透明性に優れている。
【0135】
(3)色相:
上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を使用し、分光式色彩計(日本電色工業社製、SE2000型)により、透過法によりYI値を測定した。YI値は、小さいほど色相に優れている。
【0136】
(4)耐衝撃性(Izod衝撃強度):
ASTM D256に準拠して、上記で作製したASTM試験片(3.2mm厚のノッチ付き試験片)を使用し、23℃においてIzod衝撃強度(単位:J/m)を測定した。
【0137】
(5)耐湿熱性:
樹脂組成物のペレットを、70℃95%RHにて500時間湿熱処理した後、上記(1)と同様の方法にて流出量Q値を測定した。湿熱試験前後のQ値より、次式に従ってQ値増大率を算出した。Q値増大率が小さいほど、湿熱試験による分子量低下が小さく、耐湿熱性に優れている。
【0138】
【数4】

【0139】
(6)滞留熱安定性:
(a)表面外観:
上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)の表面外観を目視にて観察し、シルバーストリークによる肌荒れのないものを○、シルバーストリークによる肌荒れのあるものを×として評価した。
【0140】
(b)耐衝撃性(Izod衝撃強度):
上記で作製したASTM試験片(3.2mm厚のノッチ付き試験片)について、ASTM D256に準拠して、23℃においてIzod衝撃強度(単位:J/m)を測定した。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
【表3】

【0144】
【表4】

【0145】
【表5】

【0146】
(1)実施例1〜14の組成物は、特定の有機リン酸エステル金属塩(C)及び特定のリン系化合物(D)が本発明の規定の範囲内であり、透明性および色相に優れ、更に、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性のバランスにも優れている。特に、高い透明性を要求する用途に使用する場合、当該透明性は、全光線透過率が90%を超えることにより、超えないものと比して、十分な有意性が認められることから、本発明の効果は極めて有意であることが認められた。また、実施例6及び9は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)として比較的分子量の小さいものを採用した例であり、この様な樹脂を採用することにより、流動性がより良好となり、結果として色相において極めて優れたものが得られる。
【0147】
(2)比較例1の組成物は、脂環式ポリエステル樹脂(B)を含有しておらず、実施例の組成物と比較して透明性および流動性に特に劣っている。
【0148】
(3)比較例2〜7の組成物は、特定の有機リン酸エステル金属塩(C)及び特定のリン系化合物(D)を含有しておらず、実施例の組成物と比較して、透明性および色相に劣り、更に、比較例3〜6の組成物は、耐衝撃性、耐湿熱性および滞留熱安定性にも劣っている。
【0149】
(4)比較例8〜13の組成物は、特定の有機リン酸エステル金属塩(C)を含有しておらず、実施例の組成物と比較して透明性および色相に劣る。さらに、比較例8、9、11の組成物は、耐湿熱性にも劣り、比較例8と11の組成物は滞留熱安定性にも劣っている。
【0150】
透明性、色相、流動性、耐衝撃性および耐湿熱性にバランスよく優れている本発明の樹脂組成物は、光学ディスク・光学フィルム・レンズ・光通信用ケーブル・発光素子の窓などの各種光学部品、照明カバー等の各種カバー、パソコンハウジング・テレビハウジング・携帯電話ハウジング等の各種ハウジング、センサーやスイッチ類などの電気・電子・OA機器部品、ヘッドランプレンズ・インナーレンズ・ルームランプレンズ・計器パネル類・窓などの各種自動車部品、屋根材などの各種建材用品、ゴーグル(水中めがね)やアウトドアスポーツ部品などのレジャー用品、シャープペンシル・ボールペン・歯ブラシの柄などの日用雑貨、ボトルやプラスチック袋などの各種容器等の幅広い分野で好適に使用できる。特に、透明性および色相が要求される各種光学部品への使用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)1〜99重量部および脂環式ポリエステル樹脂(B)1〜99重量部の合計100重量部に対し、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される有機リン酸エステル金属塩から成る群より選ばれた少なくとも一種である有機リン酸エステル金属塩(C)0.001〜5重量部と、下記一般式(5)で表されるリン酸エステル、下記一般式(6)で表される亜リン酸エステルおよび下記一般式(7)で表されるホスホナイトから成る群より選ばれた少なくとも一種であるリン系化合物(D)0.001〜1重量部を含有して成る樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R5はアルキル基またはアリール基であり、Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)

【化3】

(一般式(3)中、R6〜R11はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。)
【化4】

(一般式(4)中、R12〜R14は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化5】

(一般式(5)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。)
【化6】

(一般式(6)中、R'はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化7】

(一般式(7)中、Raはアリール基またはアリーレン基、Rbはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
脂環式ポリエステル樹脂(B)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸成分を主成分とする脂環式ジカルボン酸と、1,4−シクロヘキサンジメタノールを主成分とする脂環式ジオールの縮合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
香族ポリカーボネート樹脂(A)が30〜95重量部であり、脂環式ポリエステル樹脂(B)が5〜70重量部である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及び脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、有機リン酸エステル金属塩(C)0.003〜0.3重量部、一般式(6)で表される亜リン酸エステル0.003〜0.3重量部を含有して成る請求項1〜3の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
有機リン酸エステル金属塩(C)が、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル金属塩と前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル金属塩の混合物であり、かつ、前記一般式(1)および前記一般式(2)中のR1〜R5がそれぞれ炭素数2〜25のアルキル基である請求項1〜4の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及び脂環式ポリエステル樹脂(B)の合計100重量部に対し、少なくとも側鎖にフェニル基を有し、25℃における動粘度が1〜200cStのポリオルガノシロキサン0.01〜1重量部を含有して成る請求項1〜5の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の樹脂組成物から成る樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−106984(P2007−106984A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244250(P2006−244250)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】