説明

樹脂組成物の物理的性質制御方法

【課題】透明性や比重等の変更したくない物理的性質に影響を与えることなく、ポリ乳酸樹脂組成物等の樹脂組成物の物理的性質を制御することができる樹脂組成物の物理的性質制御方法を提供することを目的としている。
【解決手段】光学活性なベース樹脂に対し、光学活性添加剤を、光学活性添加剤の添加総量を変えることなく、光学活性添加剤の光学異性体の配合割合を変化させて樹脂組成物の物理的性質を制御することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の物理的性質制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、生分解性を有し、環境に優しい樹脂として昨今いろいろな成形品への用途が開発されている。
しかし、ポリ乳酸は、結晶性の高分子であるものの、結晶化が遅いという欠点を有しているために、成形加工を行う際には、結晶核剤を添加しなければならない。
【0003】
また、上記結晶核剤として、たとえば、タルクが添加されている(特許文献1参照)が、タルクの添加量を増やすと得られるポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移温度が上がり、耐熱特性が向上する。しかし、タルクなどの添加剤の増加は、場合によっては得られる成形品の透明性に問題がでるなど、他の物性に思わぬ害を及ばすことがある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−253009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、透明性や比重等の変更したくない物理的性質に影響を与えることなく、ポリ乳酸樹脂組成物等の樹脂組成物の物理的性質を制御することができる樹脂組成物の物理的性質制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した結果、ベース樹脂が光学活性を有している場合、添加剤として光学活性添加剤(光学活性を有する化合物)を用い、その光学活性添加剤の光学異性体の配合割合(光学活性体過剰率)を制御すれば、光学活性添加剤の添加総量を変えなくても、透明性をほぼ一定に保持しながら、物理的性質を変化させることができることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる樹脂組成物の物理的性質制御方法は、光学活性なベース樹脂に対し、光学活性添加剤を、光学活性添加剤の添加総量を変えることなく、光学活性添加剤の光学異性体の配合割合を変化させて樹脂組成物の物理的性質を制御することを特徴としている。
【0008】
本発明において、ベース樹脂としては、光学活性を有するものであれば特に限定されないが、たとえば、ポリ乳酸、セルロース、ポリアミノ酸、ポリシランなどが挙げられ、ポリ乳酸が好適である。また、ベース樹脂は、S体およびR体(L体、D体)のいずれか一方でも構わないし、ラセミ体等の光学異性体が混合した状態でも構わない。
【0009】
本発明の方法は、物理的性質、すなわち、融点、ガラス転移温度、結晶化時間等の熱的性質や、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率等の機械的性質の制御に用いることができるが、主に、ガラス転移温度、結晶化時間等の熱的性質の制御や弾性率等の機械的性質に好適である。
【0010】
光学活性添加剤としては、特に限定されないが、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジンラクチドなどのアミノ酸およびその誘導体、酒石酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、などのヒドロキシカルボン酸およびその誘導体、ラクチドなどのエステル類、グルコース等の糖類およびその誘導体、ビナフトールおよびその誘導体、ビフェニルおよびその誘導体などの軸不斉な光学活性化合物等が挙げられ、これらを単独で用いても構わないし、併用しても構わない。
【0011】
ベース樹脂と光学活性添加剤との混合方法は、特に限定されないが、ベース樹脂および光学活性添加剤を溶液中で溶解混合する方法、ベース樹脂および光学活性添加剤を溶融混練する方法等が挙げられ、前者の方法の場合、溶媒としてはベース樹脂および光学活性添加剤の両方を溶解可能なものを用いることが好ましい。すなわち、光学活性添加剤が不溶な溶媒を用いることでも組成物を得られることは可能であるが、その場合、添加剤の粒径が物性に影響を与える虞がある。また、後者の方法は、ベース樹脂および光学活性添加剤の溶解性に依存しないことと、大量生産が可能なために、汎用性は高い。
【0012】
光学活性添加剤の添加量としては、特に限定されないが、たとえば、ベース樹脂がポリ乳酸の場合、0.01〜30重量%程度が好ましい。また、添加量は、コスト的には少なければ少ないほど良いが、多いほど物性の大きな制御が可能である。
【0013】
本発明の方法で物理的性質を制御される樹脂組成物中には、上記光学活性添加剤以外の添加剤や非光学活性樹脂等が含まれていても構わない。
光学活性添加剤以外の添加剤としては、光安定剤、熱安定剤、着色料、顔料、成形性改善剤、その他の通常の樹脂成形物に使用されているものを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる樹脂組成物の物理的性質制御方法は、光学活性なベース樹脂に対し、光学活性添加剤を、光学活性添加剤の添加総量を変えることなく、光学活性添加剤の光学異性体の配合割合を変化させて樹脂組成物の物理的性質を制御するようにしたので、透明性や比重等の変更したくない物理的性質に影響を与えることなく、熱的性質等の望む物理的性質を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施例を詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
(実施例1)
ベース樹脂としてのポリ−L−乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)に対して光学活性添加剤としてのラクチドを10重量%、1重量%、0.1重量%の添加割合で、かつ、L−ラクチドとD−ラクチドとの配合割合を100:0,50:50,0:100とした状態で混合したそれぞれの樹脂組成物について、ガラス転移温度(Tg)を測定し、その結果を表1に示した。
なお、樹脂組成物は、50mgの上記ポリ−L−乳酸と所定量のラクチドとをクロロホルム2mLに溶解させながら混合したのち、クロロホルムを留去することで得た。
【0017】
(実施例2)
ベース樹脂としてのポリ−L−乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)に対して光学活性添加剤としてのラクチド、リジン、チロシン、1.1'-ビナフチル-2.2'-ジイルハイドロジェンホスフェイトを10重量%、1重量%、0.1重量%の添加割合で、かつ、L−ラクチドとD−ラクチド、L−リジンとD−リジン、L−チロシンとD−チロシン、(S)1.1'-ビナフチル-2.2'-ジイルハイドロジェンホスフェイトと(R)1.1'-ビナフチル-2.2'-ジイルハイドロジェンホスフェイトとの配合割合を100:0,50:50,0:100とした状態で混合したそれぞれの樹脂組成物と、比較例として、ポリ−L−乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)に対して添加剤としてタルクを10重量%、1重量%添加した樹脂組成物およびポリ−L−乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)のみとについて、ガラス転移温度、融点、100℃での結晶化時間の測定結果を表2に示した。また、ヘイズ(曇価)、全透過率、拡散透過率、平行透過率の測定結果を表3に示した。曲げ弾性率、30℃での貯蔵弾性率、30℃での損失弾性率の測定結果を表4に示した。
【0018】
なお、ガラス転移温度、融点、100℃での結晶化時間、ヘイズ(曇価)、全透過率、拡散透過率、平行透過率、曲げ弾性率、30℃での貯蔵弾性率、30℃での損失弾性率の測定は、各樹脂組成物を用いて溶融温度200℃、滞留時間3分、型温度30℃の条件で射出成形を行うことにより作製した3x6x30mmの成形体サンプルを用いてそれぞれ以下の方法で測定した。
【0019】
〔ガラス転移温度、融点、100℃での結晶化時間〕
上記成形体サンプルを用い、示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製)によって求めた。
〔ヘイズ、全透過率、拡散透過率、平行透過率〕
上記成形体サンプルを用い、濁度計(日本電色工業社製濁度計商品名NDH2000)によって求めた。
〔曲げ弾性率〕
上記成形体サンプルを120℃の恒温室内に1時間で放置し結晶化させ、その後放冷した結晶化サンプルを用い、材料試験機(インストロン社製材料試験機5569)によって求めた。
〔30℃での貯蔵弾性率、30℃での損失弾性率〕
上記成形体サンプルを用い、粘弾性測定装置(セイコーインスツルメント社製DMS210)によって求めた。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
表1〜3から、通常使用されている添加剤であるタルクの場合、添加量を多くすればガラス転移温度の上昇温度を大きくすることができるが、それに伴い、透過率が低下し透明性が低下するのに対し、光学活性添加剤を用いれば、総添加量が同じでも光学異性体の配合割合(D体とL体、あるいは、S体とR体の配合割合)を変化させることにより透過率、透明性をほとんど変化させることなく、ガラス転移温度を変更できることがわかる。また、結晶化核剤としての機能を有するリジン、1.1'-ビナフチル-2.2'-ジイルハイドロジェンホスフェイトでは、結晶化時間を制御できることがわかる。
【0025】
また、表1から、添加剤濃度としては多い方がガラス転移温度の制御範囲を大きくできることがわかる。
表4から、力学的物性についても、光学活性添加剤を用いれば、総添加量が同じでも光学異性体の配合割合(D体とL体、あるいは、S体とR体の配合割合)を変化させることにより、曲げ弾性率、貯蔵弾性率、損失弾性率などの物性制御が可能であることがわかる
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法によって物理的性質が制御された樹脂組成物は、種々の成形物を得るのに有用である。ここで、成形物の形状は問わないが、例えば繊維、フィルム、シート、チューブ、肉厚成型品、食器、電化製品の筐体、形状記憶プラスチック等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性なベース樹脂に対し、光学活性添加剤を、光学活性添加剤の添加総量を変えることなく、光学活性添加剤の光学異性体の配合割合を変化させて樹脂組成物の物理的性質を制御することを特徴とする樹脂組成物の物理的性質制御方法。
【請求項2】
光学活性なベース樹脂がポリ乳酸である請求項1に記載の樹脂組成物の物理的性質制御方法。
【請求項3】
物理的性質がガラス転移温度、結晶化時間、曲げ物性、弾性率からなる群より選ばれた少なくともいずれか1種である請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物の物理的性質制御方法。

【公開番号】特開2007−254639(P2007−254639A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82588(P2006−82588)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】