説明

樹脂組成物

【課題】ポリアミドとABS樹脂を含む組成物であって、それから得られる成形体の外観や塗装性等が良好な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂50〜90質量%及び(B)ABS樹脂50〜10質量%を含有しており、(C)カルボン酸変性AS樹脂、カルボン酸変性アクリル樹脂、カルボン酸無水物変性マレイミド樹脂、カルボン酸変性ABS樹脂、カルボン酸無水物変性SEBS樹脂、カルボン酸無水物変性EPDMから選ばれる相溶化剤を(A)及び(B)成分100質量部に対して0.2〜50質量部、(D)ガラス繊維又は炭素繊維を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して10〜150質量部含有するものであり、有機酸の含有量が3000ppm以下である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観が良く、塗装性も良い成形体が得られる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドやABS樹脂を含む組成物の用途として、各種製品のハウジングやケース等の外装部用の材料が知られている。そして、そのような外装部用の材料として使用するときには、成形後の塗装性が良いことが要求される。
【0003】
しかし、ABS樹脂を含む組成物からなる成形体は、ABS樹脂に含まれる有機酸に起因する問題が発生することがある。
【0004】
ABS樹脂を含む組成物を射出成形したとき、金型内の空気が圧縮され高温となり、その熱で樹脂が焼ける「やけ」が生じることがあるが、ABS樹脂の有機酸含有量が多い場合には「やけ」が発生しやすくなるという問題がある。
【0005】
さらに、ABS樹脂を含む組成物を射出成形したとき、有機酸に由来するガスが発生して金型を汚染してしまい、その汚染物が成形体表面に付着してしまい、塗装性を低下させることになる。このような場合には、塗装前に成形体表面を磨いて汚染物を除去する工程が必要となるという問題がある。
【0006】
その他、ガラス繊維等の繊維状充填剤を配合している場合には、成形体においてガラス繊維の浮きが生じたり、成形体にそりが生じたりすることがあるという問題がある。
【0007】
特許文献1には、ABS樹脂を含み、有機酸又はその塩の割合が1万ppm以下であるレーザー溶着用樹脂組成物が開示されている。段落番号0081には、有機酸又はその塩の割合が所定量に抑制されているため、レーザー溶着においてガス発生量が少なく、溶着性も向上できることが記載されているが、塗装性が良いこと等についての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−265545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリアミドとABS樹脂を含む組成物であって、それから得られる成形体の外観や塗装性等が良好な樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、課題の解決手段として、
(A)ポリアミド樹脂50〜90質量%及び
(B)ABS樹脂50〜10質量%を含有しており、
(C)カルボン酸変性AS樹脂、カルボン酸変性アクリル樹脂、カルボン酸無水物変性マレイミド樹脂、カルボン酸変性ABS樹脂、カルボン酸無水物変性SEBS樹脂、カルボン酸無水物変性EPDMから選ばれる相溶化剤を(A)及び(B)成分100質量部に対して0.2〜50質量部、
(D)ガラス繊維又は炭素繊維を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して10〜150質量部含有するものであり、
有機酸の含有量が3000ppm以下である樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、有機酸残留量が少ないため、射出成形時におけるガスの発生を抑制することができる。よって、本発明の樹脂組成物から得られた成形体は、外観が良く、塗装性も良く、成形体にそりも生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で使用したガラス繊維の長軸長さ/短軸長さの比率と断面形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<(A)ポリアミド樹脂>
本発明で用いられるポリアミドは、脂肪族、芳香族又は脂環族のジカルボン酸とジアミンとから得られるポリアミド、アミノカルボン酸又は環状ラクタム類から得られるポリアミド等を挙げることができる。
【0014】
具体例としては、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・9、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン4・6、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド、ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタラミド)、ポリ(m−キシリレンアジパミド)等の芳香族環を含むポリアミド等を挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
<(B)ABS樹脂>
(B)成分のABS樹脂は、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状―懸濁重合法等で製造されたものを用いることができ、乳化重合法を適用した場合には、酸凝固工程を実施したものと、塩凝固工程を実施したものの(塩凝固乳化重合品)一方又は両方を用いることができる。但し、本発明の課題を解決するため、(B)成分のABS樹脂は、塊状重合法で製造された塊状重合品を含んでいるものが好ましい。
【0016】
(A)成分と(B)成分の割合は、
(A)成分が50〜90質量%、好ましくは50〜80質量%、より好ましくは60〜80質量%であり、
(B)成分が50〜10質量%、好ましくは50〜20質量%、より好ましくは40〜20質量%である。
【0017】
<(C)相溶化剤>
(C)成分の相溶化剤は、カルボン酸変性AS樹脂、カルボン酸変性アクリル樹脂、カルボン酸無水物変性マレイミド樹脂、カルボン酸変性ABS樹脂、カルボン酸無水物変性SEBS樹脂、カルボン酸無水物変性EPDMから選ばれるものを用いることができる。前記各カルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸又はその無水物、アクリル酸又はメタクリル酸等を挙げることができる。
【0018】
(C)成分としては、マレイミド系モノマーを40質量%以上(好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上)含むモノマー混合物から得られたカルボン酸無水物変性マレイミド樹脂が好ましい。
【0019】
マレイミド系モノマーは、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−オルトクロルフェニルマレイミド、N−オルトメトキシフェニルマレイミドから選ばれる1又2以上を用いることができる。
【0020】
(C)成分の含有割合は、(A)及び(B)成分100質量部に対して0.2〜50質量部であり、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0021】
<(D)ガラス繊維又は炭素繊維>
ガラス繊維は、公知のE−ガラス、D−ガラスからなるものを用いることができ、炭素繊維は公知のポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系等からなるものを用いることができる。
【0022】
(D)成分のガラス繊維又は炭素繊維は、長軸長さと短軸長さの比率(長軸長さ/短軸長さ)が1.0〜5.0の範囲のものが好ましく、1.2〜5.0の範囲のものがより好ましく、2.0〜5.0の範囲のものがさらに好ましく、3.0〜5.0の範囲のものが特に好ましい。なお、長軸長さと短軸長さの比率が1.0の場合は、断面が円形であることを意味する。
【0023】
(D)成分のガラス繊維又は炭素繊維は、幅方向の断面形状が円形(図1に示すガラス繊維1)のもの、楕円形、多角形(二等辺三角形、正三角形、長方形、正方形、六角形、台形、菱形等)又は前記の多角形で角のみに丸みが付けられているものでもよいが、略繭玉形(図1に示すガラス繊維2)、略長円形(図1に示すガラス繊維3)のものが特に好ましい。
【0024】
なお、略繭玉形は、長さ方向及び幅方向の2つの中心軸からみて、左右対称のものでもよいし、非対称(但し、近似した形状)のものでもよいことを意味し、略長円形は、長さ方向及び幅方向の2つの中心軸からみて、左右対称(但し、近似した形状)のものでもよいし、非対称のものでもよいことを意味する。
【0025】
(D)成分の含有量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して10〜150質量部が好ましく、より好ましくは10〜120質量部であり、さらに好ましくは10〜110質量部である。
【0026】
<その他の成分>
本発明の組成物には、本発明の課題を解決できる範囲内で、AS樹脂等の他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤等の各種添加剤を適宜組み合わせて添加することができる。ここでAS樹脂は、ゴム含量を調整する目的で含有することができる。
【0027】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(B)成分のABS樹脂に由来する有機酸の含有量が3000ppm以下であり、好ましくは1500ppm以下であり、より好ましくは1000ppm以下である。
【0028】
本発明の組成物は、(A)〜(D)成分及び他の添加剤を適宜秤量し、混合して得られる。組成物は、ドライブレンドのまま目的の成形体にすることもできるが、溶融混合してペレット等の粒状物にすることが好ましい。
【0029】
<本発明の組成物の用途>
本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、成形時において有機酸に起因するガスの発生が抑制され、やけが抑制されるほか、金型汚染も抑制されることから、成形体表面がガス由来成分により汚染されることが少ない。このため、
成形体の外観が美しく、塗装性が優れている。
【0030】
さらに本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、(D)成分として所定範囲の長軸長さ/短軸長さの比率を有しているもの(より好ましくは略繭玉形又は略長円形のもの)を含有することにより、塗装性の向上効果、そりの抑制効果、外観の向上効果((D)成分の浮きの抑制効果)が大きくなるため、特に薄肉成形品(例えば、厚みが0.4〜2.0mmの薄肉成形品)用として適している。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、各種自動二輪車の車体又は他の部品に対して金属製の固定具で固定される外装部品(例えば、フェンダーやカウル)のほか、自転車や自動車の外装部品、機械的な振動が加えられた状態で使用する各種家庭用品(例えば、各種電動工具、マッサージ器)の外装部品(例えば、モーターハウジング、携帯電話のハウジング、ケース)、運動器具等の外装部品として使用することができる。
【実施例】
【0032】
実施例及び比較例
表1に示す各成分を用いて、2軸押出機(シリンダー温度250℃)にてストランド状に押し出した後に裁断して、各組成物のペレットを製造した。ガラス繊維は、サイドフィーダーから投入した。
【0033】
次に、各組成物を用いて、ISO多目的試験片作成方法及び120角平板作成方法に従って、射出成形機(J150EII,日本製鋼所製,スクリュー:長繊維専用スクリュー)により、射出成形して得た成形体を用いて、下記の各測定を行った。結果を表1に示す。
ISO多目的試験片作成方法
金型:ISO多目的試験片(t=4)
成形温度:260℃
金型温度:100℃(設定)
120角平板作成方法
金型:120角平板(t=2)
成形温度:260℃
金型温度:120℃(設定)
【0034】
(1)残留有機酸量(ppm;μg/g)
各組成物20mgを精密秤量したものをオーブン中に入れた状態にて、250℃で10分間加熱して発生したガスを−50℃の補集管でトラップした。その後、キューリーポイントで再度ガス化した。再度ガス化した試料をガスクロマトグラフィー分析装置(ヒューレットパッカード社製のHP5890II型,検出器:水素炎イオン化検出器(FID),検出器温度:300℃)により分析し、試料中の有機酸量を測定した。測定は、ガスをトラップした補集管を100℃のオーブン中に5分間放置し、その後、10℃/分で、240℃まで昇温した後に測定した。有機酸量が多いほど、射出成形時の発生ガス量が多くなる。
【0035】
(2)曲げ弾性率(MPa)
上記試験片を用いて、ISO178に準拠して測定した。
【0036】
(3)HDT
上記試験片を用いて、ISO75に準拠して測定(測定条件:1.80MPa)した。
【0037】
(4)シャルピー衝撃強度
上記試験片を用いて、シャルピー衝撃強度:ISO179/1eA(エッジワイズ)に準拠して測定した。
【0038】
(5)流動性
各組成物のペレットを用いて、ISO1133に準拠して測定した。測定条件:測定温度250℃、荷重5kg。
【0039】
(6)塗装性
上記方法により作製した試験片(縦120mm×横120mm×厚み2mmのサイズに成形した平板)を、カシュー(株)社製CV-1(1液型アルカリラッカー)で塗装し、80℃で2時間乾燥した後、JISK5400-1990規格に基づくクロスカット試験を行い、以下の基準で評価した。
○:切り傷1本ごとが細かくて両側が滑らかで、切り傷の交点と正方形の一目一目に剥がれがない。
△:切り傷の交点にわずかな剥がれがあって、正方形の一目一目に剥がれがなく、欠陥部の面積は全正方形面積の5%以内
×:切り傷の交点に剥がれがあって、欠陥部の面積が全正方形面積の5%を超える
【0040】
(7)そり
上記方法により作製した試験片(縦120mm×横120mm×厚み2mmのサイズに成形した平板)を、平らな水平面の上に、平板の中央部が水平面と接触するように載置した。このとき、そりが生じている場合には各コーナー部が浮き上がる。
次に、各コーナー部を水平面に固定した後、固定したコーナー部に対して対角線上にあるコーナー部の水平面に対する高さ(持ち上がり高さ)を測定した。これを各コーナー部についても測定し、もっとも大きい持ち上がり高さについて、下記の4段階の基準で評価した。
◎:5mm未満
○:5mm以上8mm未満
△:8mm以上10mm未満
×:10mm以上
【0041】
(8)外観(ガラス繊維の浮きの有無)
上記方法により作製した試験片(縦120mm×横120mm×厚み2mmのサイズに成形した平板)の外観を目視評価した。
◎:フィラー浮きがなく、平滑で外観が良い。
○:わずかにフィラー浮きが見られるが、平滑で外観が良い。
△:一部にフィラー浮きが見られ、平滑性がやや劣る。
×:全体にフィラー浮きが見られ、平滑性にも劣る。
【0042】
実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は、以下のとおりである。
<(A)成分>
PA−1:ポリアミド6,宇部興産(株)製,UBEナイロン1011FB
PA−2:ポリアミド6,宇部興産(株)製,UBEナイロン1013B
【0043】
<(B)成分>
【表1】

【0044】
<(C)成分>
カルボン酸変性マレイミド:スチレン47質量%,N−フェニルマレイミド51質量%,無水マレイン酸2質量%の共重合体,ガラス転移温度196℃
【0045】
ガラス繊維1:日本電気硝子(株),ECS-03-T-120,長軸長さ/短軸長さ=1.0(断面が円形)(図1参照)
ガラス繊維2:日東紡績(株),CSH 3PA-870S,長軸長さ/短軸長さ=2.0(断面が略繭玉形)(図1参照)
ガラス繊維3:日東紡績(株),CSG 3PA-820S,長軸長さ/短軸長さ=4.0(断面が略長円形)(図1参照)
【0046】
<その他>
AS樹脂:ダイセルポリマー(株)製,060SF
酸化防止剤1:りん系酸化防止剤,チバジャパン(株)製,IRGAFOS168
酸化防止剤2:フェノール系酸化防止剤,チバジャパン(株)製,IRGANOX1010
滑剤:エチレンビスステアリン酸アマイド,日油(株)製,アルフローH50S
【表2】

実施例1〜8の組成物は、全ての測定項目からみると、バランスの良い結果が得られた。実施例3〜5の対比からは、(D)成分のガラス繊維として、断面形状が異なるものを用いた場合には、特に塗装性、そり、外観に違いが生じることが確認された。(D)成分のガラス繊維としてガラス繊維2、3を配合した場合には、そりが小さくなるため、特に薄肉成形品用として適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂50〜90質量%及び
(B)ABS樹脂50〜10質量%を含有しており、
(C)カルボン酸変性AS樹脂、カルボン酸変性アクリル樹脂、カルボン酸無水物変性マレイミド樹脂、カルボン酸変性ABS樹脂、カルボン酸無水物変性SEBS樹脂、カルボン酸無水物変性EPDMから選ばれる相溶化剤を(A)及び(B)成分100質量部に対して0.2〜50質量部、
(D)ガラス繊維又は炭素繊維を(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して10〜150質量部含有するものであり、
有機酸の含有量が3000ppm以下である樹脂組成物。
【請求項2】
(D)成分のガラス繊維又は炭素繊維が、幅方向の断面の長軸長さと短軸長さの比率(長軸長さ/短軸長さ)が1.2〜5.0の範囲のものである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(D)成分のガラス繊維又は炭素繊維が、幅方向の断面の長軸長さと短軸長さの比率(長軸長さ/短軸長さ)が2.0〜5.0の範囲のものである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(D)成分のガラス繊維又は炭素繊維が、幅方向の断面形状が略繭玉形又は略長円形のものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(C)成分が、マレイミド系モノマーを40質量%以上含むモノマー混合物から得られたカルボン酸無水物変性マレイミド樹脂である請求項1〜4のいずれか1項記載の樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126950(P2011−126950A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284729(P2009−284729)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】