説明

樹脂被覆アルミニウム製フィン材

【課題】無機系被覆のアルミニウム製フィン材における成形加工時の工具磨耗や含有無機成分由来の臭気発生、また、有機樹脂系被覆のフィン材に残された有機物特有の臭気発生を確実に阻止し、しかも、十分なる親水性を確保し、耐汚染性が持続できる熱交換器用アルミニウム製フィン材の提供。
【解決手段】アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面が、ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸の化合物群から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有する樹脂を基剤とする樹脂層で被覆されたアルミニウム製フィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機用熱交換器に使用されるアルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、アルミニウムと略記。)製フィン材であって、耐食性はもとより、長期間使用しても親水性および耐汚染性が持続でき、かつ臭気発生が抑制できる樹脂被覆層による表面処理が施されたフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の熱交換器は、熱伝導性、加工性ならびに耐食性などに優れたアルミニウム製フィン材を狭い間隔で設置し、熱交換がコンパクトかつ効率的に行なわれるように設計される。ところが、このようなフィン材の組み立て構造では、空調機の運転時にフィン材表面の温度が空気の露点以下となりやすいために結露水が凝縮して隣接するフィン間を閉塞する。この場合、アルミニウムフィン材表面の親水性が低いほど結露水が半球状となって閉塞状態を悪化させ、熱交換機能が阻害されたり、結露水が空調機外に飛散するに至る。
【0003】
この問題を解消するには、アルミニウム板自体の表面を親水化処理し、フィンに加工し使用されるときに、結露水の除去・排出が促進されるようにすることが必要であり、すでに種々の方法が開発されている。その一群は、シリカを用いたり、アルミニウム板の親水化方法として、アルカリ珪酸塩やアルミナゾルなどの親水性無機化合物を主成分とする無機系被覆層をアルミニウム板の表面に形成する方法である(下記特許文献1および2)。
【0004】
たとえば、下記特許文献1は、凝縮水の付着が熱交換器の通風抵抗および騒音を増大するのを抑制する目的で、ベースの水溶性塗料に合成シリカを配合して凝縮水の吸収能力を向上しようとする方法である。
【0005】
また、特許文献2は、シリカ成分由来の発臭やフィン加工時の工具摩耗を避けるために、非シリカ系あるいは非ガラス系の高親水性塗料として、アルミナゾルを配合することにより解決しようとしている。
【0006】
例示したこれらの無機系被覆層の親水皮膜は、親水性には優れているが、皮膜の硬度が高いためフィン材成形加工時の工具摩耗が著しく、また、皮膜に含まれるシリカ独特のセメント臭や埃臭、シリカに吸着された物質あるいはシリカ微粒子の飛散に起因すると推定される臭気が発生する問題がある。
【0007】
別の一群は、これらの無機系被覆層に代えて有機系樹脂被覆層を被着する方法(下記特許文献3および4)である。
【0008】
たとえば下記特許文献3は、フイン材表面における凝縮水の長時間滞留が水和反応を誘起してアルミニウムの腐食を促進するのを防止するために、カルボキシメチルセルロース(CMC)のアルカリ塩、アンモニウム塩、N−メチロールアクリルアミドの親水性促進皮膜による表面処理を提案する。
【0009】
また、特許文献4は、同様の課題に対して、ポリビニルアルコールと水溶性ナイロン、水溶性フェノール等、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール等を主成分とする有機系樹脂被覆層を形成する方法である。これらの樹脂被覆層は、不快臭を発生させないで親水性が維持できるとする。
【0010】
これらの有機系樹脂被覆層の親水皮膜は、加工性に優れており工具摩耗などの問題がなく、また、シリカに起因する臭気発生もないが、無機系ほどではないとしても、つぎに説明するように、有機系樹脂に由来する軽微な臭気の発生があることは否定できない。
【0011】
一般に、アルミニウム板への有機系樹脂被覆層の形成は、樹脂被覆層の構成成分を含む塗料をロールコーターなどでアルミニウム板に塗装後、加熱乾燥して実施されている。そして、製造された親水性アルミニウムフィン材は、プレス加工や銅管挿入、拡管、ロウ付けなどの工程を経て熱交換器となる。この一連の製造工程において、樹脂被覆層形成時や熱交換器製造時に加えられる熱により、樹脂被覆層の一部が熱分解劣化して臭気が発生することが考えられる。
【0012】
下記特許文献5は、有機系樹脂被覆層の熱分解物劣化に起因する臭気を抑制するため、有機系樹脂に加えて多ヒドロキシフェノール化合物を併用する方法を提案する。すなわち、有機系の親水性処理剤と防菌剤との併用は毒性に加えて臭気物質の再発生や親水性の劣化を招くとして、カルボキシル基等を含む水溶性高分子化合物にフェノール化合物を混合し、悪臭の抑制を企図する。しかし、このように処理しても熱交換器を長期間使用した場合、空気中の汚染物質が付着することにより、親水性が劣化して耐汚染性を損なうと同時に、塗膜下腐食に起因して発生する経時臭気の発生を防ぐことができず、依然として発臭上の問題を残しているのが現状である。
【特許文献1】特開昭55−164264号公報、
【特許文献2】特開平10−168381号公報
【特許文献3】特開平2−258874号公報
【特許文献4】特開平5−302042号公報
【特許文献5】特開2002−88348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、無機系被覆のアルミニウム製フィン材における成形加工時の工具磨耗や含有無機成分由来の臭気発生、また、有機樹脂系被覆のフィン材に残された有機物特有の臭気発生を確実に阻止し、しかも、十分なる親水性を確保し、耐汚染性が持続できる熱交換器用アルミニウム製フィン材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、長期間使用しても親水性や耐汚染性が持続でき、かつ臭気発生を抑制できる樹脂被覆型の熱交換器用アルミニウム製フィン材であって、以下に列挙する構成を特徴とする。
【0015】
(1)アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面が、ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸の化合物群から選ばれた1種または2種以上の化合物(以下、「化合物(A)」と表示する。)を含有する樹脂を基剤とする樹脂層で被覆された樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【0016】
(2)樹脂層が、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、アミド基、エーテル結合の1種以上を含有するポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンの1種もしくはこれらの共重合物もしくは混合物を基剤とする親水性樹脂層(以下、「親水性樹脂層(B)」と表示する。)である上記(1)に記載の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【0017】
(3)アルミニウム板と親水性樹脂層(B)との間に、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂またはこれらの混合物から成る樹脂を基剤とする耐食性樹脂層(以下、「耐食性樹脂層(C)」と表示する。)を介在させた上記(1)または(2)に記載の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【0018】
(4)ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸から選ばれた1種または2種以上の化合物(A)を含有する耐食性樹脂層(C)である上記(3)に記載の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【0019】
(5)化合物(A)の添加量が、樹脂に対して0.1〜20重量%である上記(1)(2)(3)または(4)に記載の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のアルミニウム製フィン材は、アルミニウム板の片面または両面に単層もしくは複層の樹脂層が被覆されたものであって、基幹とする特徴は、その樹脂層が化合物(A)を含有する樹脂をもって構成したことである。
【0021】
すなわち、この化合物(A)は、ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸から成る化合物群から、1種または2種以上が選択される。これらの化合物は、いずれも水溶性もしくは一定の親水性を有するため、これを配合した樹脂をアルミニウム板に被着すると、この樹脂層の親水性を劣化させない。したがって、熱交換器の稼動中に発生する凝縮水は、フィン材表面の親水性によくなじんで流動しやすく、その除去・排出が加速し、フィン間が凝縮水で封鎖されることが生じないため、熱交換効率の悪化を効果的に阻止することができる。
【0022】
また、樹脂被着アルミニウム板や熱交換器の製造工程では、樹脂被覆層の形成時やフィン材プレス加工時あるいは銅管ロウ付け時などに高温環境にさらされることがある。このとき、樹脂成分の一部が熱分解して低分子量化し、揮発しやすくなるため、臭気が観測される問題があった。この場合、上記した化合物(A)を樹脂基剤中に配合してあると、この化合物(A)が熱分解反応で生じたラジカルを直ちに捕捉し、それ以上ラジカル連鎖反応が進行するのを抑制することができる。したがって、このような樹脂の酸化分解を抑制して分子量の低下を防ぐことができ、その結果、臭気の発生が持続的に抑制できる。
【0023】
そして、この化合物(A)による効果は、樹脂中に比較的分子量の低い界面活性剤などの低分子量化合物を併用する場合に、揮発しやすい低分子量物の発生を抑制できるため、とくに有効である。
【0024】
このような臭気抑制効果をも同時に期待するために、化合物(A)の添加量は、樹脂被覆層中、0.1重量%以上とし、20重量%以上は親水性や生産性などが低下するため好ましくない。より好ましくは、0.25%以上・10%以下、もっとも好ましくは0.5%以上・5%以下である。
【0025】
つぎに、本発明は、上記化合物(A)を配合すべき樹脂の基材として、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、アミド基、エーテル結合の少なくとも1種以上を含有するポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合物もしくは混合物の樹脂を使用することが特徴である。
【0026】
このように選択された樹脂類からなる親水性樹脂層(B)は、化合物(A)を配合することにより、アルミニウム製フィン材にさらによい防臭効果と持続性のある親水性をもたせることができる。実際、この親水性樹脂層(B)を構成する樹脂類は、いずれも水溶性もしくは親水性樹脂であり、これらを単独もしくは混合で、あるいはその共重合体として使用することで、好適な親水性を付与することができる。スルホン基を有する化合物は、その水溶性の観点からとくに好ましい。
【0027】
親水性樹脂層(B)の好ましい膜厚は、0.3μm以上・2.0μm以下、より好ましくは0.5μmミクロン以上・1.5μm以下である。膜厚が下限値以下の場合は親水性が低下し、上限値以上の場合は熱交換効率が低下する。
【0028】
つぎに、本発明では、2層以上の樹脂層が形成される場合、アルミニウム板と上記親水性樹脂層(B)との間に、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂またはこれらの混合物から成る耐食性樹脂層(C)を介在させることも別の特徴とする。
【0029】
本来アルミニウム材は耐食性の高い材料であるが、空調機用フィン材は結露水の存在により湿潤雰囲気下にあるため、腐食が生じやすい環境に暴露されることになる。何等の耐食性樹脂層を設けないで親水性樹脂層のみの被覆とした場合、この親水性樹脂層下のアルミニウム材には腐食が進行しやすく、これを原因とする臭気が経時的に増大する傾向のあることがわかった。
【0030】
したがって、親水性樹脂層(B)とアルミニウム材との間に、適当な耐食性樹脂層(C)を形成して耐食機能を補強するのが実用的であり、本発明では、上記ポリオレフィン系等の耐食性樹脂層を形成して耐食機能を付与することにより、アルミニウム材の耐食性が確実に保持でき、同時に空調機を長期間使用した後も臭気の発生を著しく軽減することができるようになる。
【0031】
なお、耐食性樹脂層(C)の好ましい膜厚は、0.3μm以上・2.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上・1.5μm以下である。膜厚がこの下限値以下の場合は耐食性が低下し、上限値以上の場合は熱交換効率が低下する。
【0032】
本発明の実施にあたり、各樹脂層の形成方法は限定されないが、たとえば、樹脂層を形成する成分を溶媒に溶解または分散させた塗料を調合し、これをアルミニウム板上へ塗布した後、加熱する等、公知の方法によればよい。また、本発明の実施にあたっては、塗装方法も限定されないが、生産性の観点から、コイル状のアルミニウム板に対し、ロールコート装置などを適用して連続的に脱脂、塗装、加熱、巻き取りを行って製造するとよい。
【0033】
その他、樹脂層を形成するための塗料には、本発明の性能を妨げない範囲で、塗装性や作業性などを改善することを目的とした各種塗料添加剤を併用してもよく、たとえば、界面活性剤、表面調整剤、架橋剤、脱泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、抗菌剤、その他防黴剤などを任意に適用してよい。
【0034】
また、アルミニウム材について、より一層の耐食性向上のため、樹脂層を設ける前に、リン酸クロメート処理または塗布型ジルコニウム処理などの化成処理を施していてもよい。
【0035】
(実施例)
従来公知の製造方法により、純アルミニウム系のA1200(JIS H4000)のアルミニウム板1種を製造した。まず、純アルミニウムの鋳塊を作製し、この鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延し、続いて焼鈍処理した後、冷間圧延処理を経て、板厚が0.10mmのアルミニウム板を製造した。
【0036】
このアルミニウム板をアルカリ性薬剤(日本ペイント社製サーフクリーナー360)を用いて脱脂したのち、板上にリン酸クロメート処理(塗布型ジルコニウム処理でもよい。)を施した。なお、このリン酸クロメート処理・塗布型ジルコニウム処理の付着量の目標値は、CrまたはZr換算で、30mg/m2とした。
【0037】
このアルミニウム板を供試材とし、別途調製しておいた27種の塗料を使用し、耐食性樹脂層およびその上に親水性樹脂層を形成する2層または1層構成のアルミニウム製フィン材31種を得た。
【0038】
耐食性樹脂層は、表1の20〜24記載の構成にて水系塗料を調合し、これを前記のように表面処理された各アルミニウム板上に、表2記載の付着量と加熱条件で塗布ならびに加熱することにより形成した。
【0039】
つぎに、親水性樹脂層は、表1の1〜19,及び25〜27記載の構成にて水系塗料を調合し、これを、先にアルミニウム板上に形成された耐食性樹脂層の上に、同表2記載の付着量と加熱条件とで、塗布、加熱することにより形成した。
【0040】
なお、これら2段階にわたる各塗料の塗布はいずれもバーコータを使用し、加熱は熱風乾燥炉を使用し、加熱温度はヒートシールテープでそれぞれ確認した。
【0041】
試作された各アルミニウム製フィン材について、つぎの各種性能評価を実施した。
【0042】
[親水性評価]
アルミニウム製フィン材を、流量が1リットル/分の水道水に8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥する工程を1サイクルとして5サイクル行った。その後、アルミニウム製フィン材の表面に、約0.5マイクロリットルの水滴を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製・CA−05型)を用いて接触角を測定した。
【0043】
そして、これら接触角の測定値にもとづくアルミニウム製フィン材の親水性評価は、次の基準によることとした。
【0044】
◎ (とくに良好) : 接触角が20°未満
○ (良好) : 接触角が20°以上・40°未満
△ (概ね良好) : 接触角が40°以上・60°未満
× (不良) : 接触角が60°以上
[耐汚染性評価]
試作した各アルミニウム製フィン材を、流量が1リットル/分の水道水に16時間浸漬した後、容量5リットルのガラス製デシケータにパルミチン酸、ステアリン酸、ジオクチルフタレート各0.5gとともに封入して80℃で8時間加熱する工程を1サイクルとして3サイクル行った。その後、このアルミニウム製フィン材の表面に、約0.5マイクロリットルの水滴を滴下し、前記と同じ接触角測定器により接触角を測定した。
【0045】
そして、つぎの評価基準に従って耐汚染性評価を行なった。
【0046】
◎ (特に良好) : 接触角が30°未満
○ (良好) : 接触角が30°以上・50°未満
△ (概ね良好) : 接触角が50°以上・70°未満
× (不良) : 接触角が70°以上
[耐食性評価]
耐食性評価は、試作した各アルミニウム製フィン材に塩水噴霧試験(JIS Z2371)および湿潤曝露試験(40℃、相対湿度98%雰囲気)の2種類について実施した。
【0047】
これらの試験を行った後、各試験片の外観を目視観察し、アルミニウム製フィン材の全表面積に対する腐食部分の面積の割合をカウントし、下記基準に従って、アルミニウム製フィン材の腐食程度を評価した。
【0048】
○ (良好) : 腐食面積の割合が0%〜10%未満
△ (概ね良好) : 腐食面積の割合が10%〜50%未満
× (不良) :腐食面積の割合が50%以上
[臭気評価]
臭気評価は、試作した各アルミニウム製フィン材について、塗装直後、親水性評価後および耐食性評価後の3段階に分け、それぞれ官能試験によりおこなった。この官能評価は、研究者自身が供試材に呼気を吐きかけ、2〜3cm程度に鼻を近づけ、その臭気を嗅ぎ取る方法により実施し、下記評価基準によりランク付けした。
【0049】
○ 臭気を感知できないか、軽微に感知できても種別の判断が
できないもの
△ 臭気が感じられるもの
× 明らかな臭気が感知できるものあるいは悪臭が感じられるもの
表3にこれらの評価結果を親水性、耐汚染性、耐食性、初期臭気ならびに経時臭気の5項目について列挙する。評価結果は以下のように考察される。
【0050】
・実験番号1〜23および28
いずれも本発明の特徴とするエポキシ系等の樹脂から成る耐食性樹脂層の上に、同じく本発明の必須的特徴とするカルバジド化合物等の化合物(A)を含有する親水性樹脂層を形成した2層構成のアルミニウム製フィン材である。
【0051】
そして、これらの実施例は、表3に示すように、いずれの評価項目にも「×」印に相当する特性不良のものがなく、過半数の評価項目が「○」印以上である。すなわち、これらは親水性、耐汚染性、耐食性に優れるとともに、長期間にわたって親水性と耐食性が保持され、ひいては臭気の発生が少ないアルミニウム製フィン材であることが明らかである。
【0052】
この内、実験番号10は、化合物(A)・ジブチルヒドロキシトルエンの添加量が少ないために、親水性と耐汚染性がやや低下している。逆に実験番号14は、同化合物の添加量が多いために、初期臭気のみが少し発生している。実験番号19は、逆にジブチルヒドロキシトルエンの添加量が上限に近く多いために、耐食性が少し不足気味である。
【0053】
・実験番号24
この実施例は、化合物(A)を含有する親水性樹脂層のみを形成した単層構成のアルミニウム製フィン材であるが、耐食性樹脂層を欠くために耐食性および経時臭気が上記実施例群に比し若干劣るが、親水性ならびに耐汚染性は単層構成にかかわらずきわめて良好である。したがって、本発明のアルミニウム製フィン材は、このような化合物(A)を含有する親水性樹脂層の単層構成をも特徴とする。
・実験番号25〜27
これらの実施例は、耐食性・親水性2層の樹脂構成を有するアルミニウム製フィン材であるが、前記実験番号1〜23、28の実施例と相異して、耐食性樹脂層は化合物(A)を配合しない耐食性樹脂のみで構成した例である。それでもこの3種は、同表3から明らかなように、ともにアルミニウム製フィン材の各特性がいずれも満足できていることがわかる。
【0054】
以上の本発明実施例に対し、樹脂層の構成が本発明の特徴とする条件を満たさない実験条件29〜31の比較例は、評価項目の一部が「×」印の判定となっており、熱交換器用アルミニウム製フィン材として不適当であることがわかる。
・実験番号29〜31(比較例)
これらは、いずれも耐食性・親水性2層の樹脂構成を有するアルミニウム製フィン材であって、耐食性樹脂層は本発明に共通するエポキシ系樹脂エマルジョンであるが、本発明の特徴とする化合物(A)を配合しないものである。そして、実験番号29は、表面の親水性樹脂層も同じく化合物(A)を含有しないもので、耐食性がやや不足し、また、臭気が解消されていない。
【0055】
実験番号30と31は、表面の親水性樹脂層が本発明の化合物(A)と異なるブチルヒドロキシアニソールやt−ブチルヒドロキノンを配合させたもので、やはり、臭気が解消されていない。
【0056】
以上のことから、本発明のアルミニウム製フィン材は、単層・複層のいずれであっても、特定の化合物(A)配合の親水性樹脂層を有し、他方、耐食性樹脂層を重畳させる場合も特定の耐食性樹脂とすることにより、親水性、耐汚染性ならびに臭気抑制が長期間にわたって確実に保持できることが明白である。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板の表面が、ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸の化合物群から選ばれた1種または2種以上の化合物(以下、「化合物(A)」と表示する。)を含有する樹脂を基剤とする樹脂層で被覆されたことを特徴とする樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【請求項2】
樹脂層が、カルボキシル基、水酸基、スルホン基、アミド基、エーテル結合の1種以上を含有した、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンの1種もしくはこれらの共重合物もしくは混合物を基剤とする親水性樹脂層(以下、「親水性樹脂層(B)」と表示する。)であることを特徴とする請求項1の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【請求項3】
アルミニウム板またはアルミニウム合金板と親水性樹脂層(B)との間に、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂またはこれらの混合物から成る樹脂を基剤とする耐食性樹脂層(以下、「耐食性樹脂層(C)」と表示する。)を介在させたことを特徴とする請求項1または2の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【請求項4】
ジブチルヒドロキシトルエン、カルバジド化合物、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フィチン酸から選ばれた1種または2種以上の化合物(A)を含有する耐食性樹脂層(C)であることを特徴とする請求項3の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。
【請求項5】
化合物(A)の添加量が、樹脂に対して0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1、2、3または4の樹脂被覆アルミニウム製フィン材。

【公開番号】特開2009−254999(P2009−254999A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109158(P2008−109158)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】