説明

橋梁用支承装置の据付方法及びその方法に用いる固定治具

【課題】上沓と上揚力抵抗部材の先端部との間隙を容易に確実に設けられる支承装置の据え付け方法及びこれに用いる固定治具を提供する。
【解決手段】橋梁用支承装置の据付方法において、下部支持部材10は橋軸直角方向の両側に側部支持部材8が設けられ、下部支持部材10と上沓7との間に支承12が介在され、該上沓7上に配置されたスペーサ9を押圧する押圧部を有する固定治具1を側部支持部材8上に配置してボルト19により固定することで、該上沓7とこれに対向するように設けられる側部支持部材8の側面上端から突出する上揚力抵抗部との間の間隙を一定に保ち、かつ該下部支持部材10と該上沓7とその間の該支承12の移動を拘束した状態で、上部構造物11と共に下部支持部材10及び支承12を下部構造物上に搬送して配置した後、該固定治具1を固定しているボルト19を緩める又は脱着することで、該スペーサ9を取り外すように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部構造物上に設置される橋梁用支承装置の据付方法、橋桁等の上部構造物と共に搬送設置される橋梁用支承装置の据付方法及びその方法に用いる固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上部構造物側に固定される鋼製上沓に対して、下部構造物側に固定される下部支持部材側に設けられる上揚力抵抗部材を対向するように配置することは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
また、弾性支承装置を桁の下部に取り付けた状態で搬送することは知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−59927号公報
【特許文献2】特開2001−3315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上部構造物側に固定される鋼製上沓に対して、下部構造物側に固定される下部支持部材側に設けられる上揚力抵抗部材の先端部を、間隙を介して間隔をおいて対向配置させることで、桁の撓みによる微小回転を許容できる。
本発明は、上部構造物側に固定される上沓と、下部構造物側に固定される下部支持部材上の支承とを搬送して下部構造物上に据え付ける場合に、前記の間隙を容易に確実にまた正確に設けることが可能な支承装置の据え付け方法及びその方法に用いる固定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明の橋梁用支承装置の据付方法では、上部構造物に固定された上沓と下部構造物に固定される下部支持部材とを支承と共に搬送して下部構造物上に設置する橋梁用支承装置の据付方法において、前記下部支持部材はその橋軸直角方向の両側に側部支持部材が設けられ、下部支持部材と上沓との間に支承が介在され、上沓上に配置されたスペーサを押圧する押圧部を有する固定治具を前記側部支持部材に配置して、側部支持部材に直接又は側部支持部材を介して下部支持部材にボルトにより固定することで、上沓とこれに対向するように下部支持部材又は側部支持部材側に設けられる上揚力抵抗部との間の間隙を一定に保ち、かつ下部支持部材と上沓とその間の前記支承の移動を拘束した状態で、上部構造物と共に下部支持部材及び支承を下部構造物上に搬送して配置した後、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外すことを特徴とする。
第2発明では、第1発明の橋梁用支承装置の据付方法において、前記側部支持部材には、上沓側に張り出す上揚力抵抗部が設けられており、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すことを特徴とする。
第3発明では、第1発明の橋梁用支承装置の据付方法において、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すことを特徴とする。
第4発明では、第1発明の橋梁用支承装置の据付方法において、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外した後、ボルトを締め込むことで、固定治具を固定し、固定治具の押圧部を上揚力抵抗部とすることを特徴とする。
第5発明では、第1発明〜第4発明のいずれかの橋梁用支承装置の据付方法において、前記固定治具は、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えていることを特徴とする。
第6発明では、第1〜第4発明のいずれかの橋梁用支承装置の据付方法に用いられる固定治具であって、前記固定治具は、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
第1発明によると、上沓と下部構造物に固定される下部支持部材とを支承と共に搬送して下部構造物上に設置する橋梁用支承装置の据付方法において、前記下部支持部材はその橋軸直角方向の両側に側部支持部材が設けられ、下部支持部材と上沓との間に支承が介在され、上沓上に配置されたスペーサを押圧する押圧部を有する固定治具を前記側部支持部材に配置して、側部支持部材に直接又は側部支持部材を介して下部支持部材にボルトにより固定することで、上沓とこれに対向するように下部支持部材又は側部支持部材側に設けられる上揚力抵抗部との間の間隙を一定に保ち、かつ下部支持部材と上沓とその間の前記支承の移動を拘束した状態で、上部構造物と共に下部支持部材及び支承を下部構造物上に搬送して配置した後、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外すので、側部支持部材に配置されているボルト又は側部支持部材を下部支持部材に固定するためのボルトを利用して、固定治具を側部支持部材又は側部支持部材を介して下部支持部材に取り付けて、上沓と上揚力抵抗部との間の間隙を正確に一定に保つためのスペーサを、上沓上面と固定治具との間に容易に介在して保持することができると共に、上沓と下部支持部材及びこれらの間の支承の移動を防止するように仮固定した状態で搬送することができ、桁等の上部構造物と共に下部構造物上への支承装置の搬送設置作業および上沓と上揚力抵抗部との間の間隙が正確な施工をすることができる等の効果が得られる。
また、側部支持部材に配置されるボルトを操作することで、スペーサを取り外すことができるので、機械的な操作でスペーサの撤去を行うことができるので、施工が容易である等の効果が得られる。また、現場におけるスペーサを他の支承装置の搬送作業に利用することもできる等の効果も得られる。
第2発明によると、第1発明の橋梁用支承装置の据付方法において、前記側部支持部材には、上沓側に張り出す上揚力抵抗部が設けられており、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すので、第1発明の効果に加えて、機械的な操作で固定治具の撤去を行うことができるので、施工が容易である等の効果が得られる。
第3発明によると、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すので、第1発明の効果に加えて、機械的な操作でスペーサ及び固定治具の撤去を行うことができるので、施工が容易である等の効果が得られる。また、現場におけるスペーサ及び固定治具を他の支承装置の搬送作業に利用することもできる等の効果も得られる。
第4発明では、第1発明の橋梁用支承装置の据付方法において、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外した後、ボルトを締め込むことで、固定治具を固定し、固定治具の押圧部を上揚力抵抗部とするので、側部支持部材側に上揚力抵抗部を備えていない場合でも、固定治具における押圧部を上揚力抵抗部として利用することができる等の効果が得られる。
第5発明では、第1発明〜第4発明のいずれかの橋梁用支承装置の据付方法において、前記固定治具は、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えているので、側部支持部材に配置されるボルトを利用して側部支持部材上に固定治具を配置して固定することができ、また、固定治具を固定しているボルトを若干緩めることで、固定治具を橋軸方向に移動して、固定治具を側部支持部材から離脱させることができ、固定治具の取り外し作業が容易になる。また、側部支持部材が下部支持部材に一体又はボルトにより固定されている形態では、ボルトを取り外すことなく、側部支持部材を下部支持部材に確実に連結した状態で、固定治具の取り外しを行うことができる。
第6発明では、第1〜第4発明のいずれかの橋梁用支承装置の据付方法に用いられる固定治具であって、前記固定治具は、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えているので、簡単な構造の固定治具とすることができ、また、固定治具を側部支持部材に残す場合には、固定治具における押圧部を上沓に対向配置される上揚力抵抗部として利用することができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態の支承装置の据付方法の説明図であって、支承装置を桁に仮固定してクレーン等により搬送している状態を橋軸方向から見た場合の一部縦断正面図である。
【図2】図1を橋軸直角方向から見た場合の側面図である。
【図3】図1における一部を省略して示す平面図である。
【図4】一方の固定治具を示すものであって、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は側面図、(d)は(a)における一点鎖線で囲んだ部分を拡大して示す図である。
【図5】他方の固定治具を示すものであって、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は側面図、(d)は(a)における一点鎖線で囲んだ部分を拡大して示す図である。
【図6】図1の状態の桁に仮固定した支承装置を下部構造物上に搬送して、所定の位置に配置した状態を示す一部縦断正面図である。
【図7】図6の一部縦断側面図である。
【図8】アンカー孔等に無収縮モルタル等の硬化性充填材を充填した状態を示す縦断正面図である。
【図9】図8の縦断側面図である。
【図10】図8の平面図である。
【図11】本発明の第2実施形態の支承装置の据付方法の説明図であって、支承装置を桁に仮固定してクレーン等により搬送している状態を橋軸方向から見た場合の一部縦断正面図である。
【図12】図11を橋軸直角方向から見た場合の側面図である。
【図13】図11における一部を省略して示す平面図である。
【図14】図11の状態の桁に仮固定した支承装置を下部構造物上に搬送して、所定の位置に配置した後、アンカー孔等に無収縮モルタル等の硬化性充填材を充填した状態を示す縦断正面図である。
【図15】図14の縦断側面図である。
【図16】図14における桁を省略して示す平面図である。
【図17】本発明の第3実施形態を示すものであって、図16の状態から固定治具を取り外した後、ボルトのみ締め込んだ状態を示す平面図である。
【図18】本発明の第4実施形態を示すものであって、図13あるいは図16において、側部支承部材の上面側に、雌ねじ孔が設けられている場合を示す平面図である。
【図19】図18の状態から固定治具を取り外してボルトを締め込むと共に、側部支承部材上に、上揚力抵抗部材を設置した状態を示す平面図である。
【図20】図19の橋軸方向から見た一部縦断正面図である。
【図21】図20の一部縦断側面図である。
【図22】下部支持部材上に設けられるストッパ部材と弾性支承との関係を示す一部縦断側面図である。
【図23】本発明の第5実施形態を示すものであって、上沓と下部支持部材との間に仮固定した支承装置を下部構造物上に搬送して、ソールプレートに固定して所定の位置に配置した状態を示す縦断正面図である。図13あるいは図16において、側部支承部材の上面側に、雌ねじ孔が設けられている場合を示す平面図である。
【図24】上沓と下部支持部材との間に仮固定した支承装置を下部構造物上に搬送して、所定の位置に配置した後、アンカー孔等に無収縮モルタル等の硬化性充填材を充填した状態を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0009】
先ず、図4及び図5を参照しながら本発明において使用する鋼製の固定治具1について説明すると、水平に配置される鋼板製基板2における橋軸直角方向の中間部に、橋軸方向の一端側に開口するボルト挿通用のスリット3が設けられ、前記鋼製基板における橋軸直角方向における一端側(桁側)には、垂直に立設された縦部分4が一体に連接され、その縦部分4の上端部には、橋軸直角方向の桁側に張り出す横部分5の中間部が溶接W等により固定されて、前記横部分5の橋軸直角方向の桁側の先端部を押圧部6としている。
なお、図示を省略するが、前記基板2と縦部分4とを溶接により一体に組み立ててもよく、あるいは基板2と縦部分4のいずれか一方にボルト挿通孔を有するフランジ(横又は縦方向のフランジ)を設け、他方に雌ねじ孔を設けてボルトにより一体に組み立てるようにしてもよい。
【0010】
前記の固定治具1は、図6に示すように、上沓7の係合フランジ15と、側部支持部材8に設けられる桁側に張り出す上揚力抵抗部28との間に所定の間隙Gを形成するために、硬質ゴム板等のスペーサ9(図1参照)を仮固定するために用いる場合、あるいはスペーサ9を取り外した後に、側部支持部材8側に取り付けられて、前記押圧部6を上揚力抵抗部として機能させる場合等に使用される。
【0011】
前記のスリット3は、固定治具1を仮固定するためのボルト19(図3参照)を配置するため、および前記ボルト19を若干緩めることで固定治具1を橋軸方向に移動させて容易に取り外し可能にするために設けられている。
【0012】
前記の固定治具1は、後記の実施形態において示すように、側部支持部材8に設けられるボルト挿通孔に挿通して、鋼製のベースプレート部を備えた鋼製の下部支持部材10にねじ込まれるボルト19により側部支持部材8に固定される場合と、図示を省略するが、側部支持部材8に設けられる雌ねじ孔にねじ込まれるボルトにより固定される場合とがある。
【0013】
次に、前記の固定治具1を使用した本発明の第1実施形態の橋梁用支承装置の据え付け方法について、図1〜図10を参照して説明する。
【0014】
先ず、図1〜図3に示す状態は、鋼製桁11aからなる上部構造物11の下側に溶接により固定された鋼製ソールプレート37を介してセットボルト36により固定されている鋼製上沓7に、弾性支承12(図22参照)を設置した下部支持部材10を仮固定して、上部構造物11側と下部支持部材10とを仮固定して、上部構造物11と弾性支承12と下部支持部材10とを一括して搬送可能な状態である。
なお、上部構造物11と弾性支承12と下部支持部材10とを仮固定する形態を主に説明するが、既存の橋梁支承装置を補修する場合には、上部構造物11はそのまま利用されるため、上部構造物11が若干ジャッキアップされた状態で、上沓7と弾性支承12と下部支持部材10とを仮固定した状態で搬送し、上沓7をソールプレート37に対向又は圧着させた状態で前記セットボルト36により取り付けられる。
【0015】
弾性支承12を内蔵した下部支持部材10における弾性支承12の上部の滑り支承面13が上沓7の下面の滑り面に押圧された状態である。
【0016】
次に、図1〜図3に示されている支承装置の構造について説明する。
【0017】
H形鋼等の鋼製桁11aからなる上部構造物11の下側に、鋼製上沓7が適宜鋼板を介して取り付けられており、前記鋼製上沓7における橋軸直角方向の両側部上面には、橋軸方向に伸びる切り欠き段部14を備えているおり、その切り欠き段部14には、橋軸直角方向外側に張り出すと共に橋軸方向に延長する係合フランジ15を備えている。
【0018】
下部に間隔をおいて複数のアンカーボルト16の上端部をねじ込み固定した鋼製下部支持部材10には、その橋軸直角方向の両側部上面側に橋軸方向に間隔をおいて複数の雌ねじ孔17が設けられている。前記下部支持部材10の橋軸直角方向の両側部には、橋軸方向に間隔をおいて複数のボルト挿通孔18を有する側部支持部材8が配置されて、前記ボルト挿通孔18に挿通されると共に前記雌ねじ孔17にねじ込まれたボルト19により、前記側部支持部材8は、下部支持部材10に対して、着脱可能に設けられている。
前記のボルト19は、橋軸方向に間隔をおいて、複数(図示の場合は4本)設けられている。
前記の下部支持部材10における橋軸方向の両端部には、橋軸直角方向の中間部において、橋軸直角方向に間隔をおいて複数の雌ねじ孔20が設けられている。
前記下部支持部材10の上面には、ストッパ部材21が載置され、前記ストッパ部材21はその中央部に円形の貫通孔からなる弾性支承配置用の貫通孔を有し、その貫通孔の周囲壁を、弾性支承における弾性層22の水平方向のせん断変形を拘束するせん断変形拘束壁23としている(図22参照)。
前記のストッパ部材21はその橋軸方向の両端部のボルト挿通孔に挿通されると共に下部支持部材10の雌ねじ孔20にねじ込まれたボルト24により、前記ストッパ部材21は、下部支持部材10に固定されている。
【0019】
ストッパ部材21の貫通孔に弾性支承12が配置され、弾性支承12は、下部支持部材10の上面に載置されている。
弾性支承12は、上下のキャップ状の鋼板25を対向するように配置され、その間にゴムのような弾性層22を積層一体化していると共に、上部の鋼板上面の凹部に、四フッ化エチレン板からなる滑り支承板26を備えている。弾性支承12における上部のキャップ状の鋼板25の側周面がせん断変形拘束壁23の内周面に係合することで、弾性支承12の弾性層22のせん断変形は阻止される。弾性支承12における上部のキャップ状の鋼板25の側周面とせん断変形拘束壁23の内周面との横方向の間には、小さな間隙が形成されている。
【0020】
前記の滑り支承板26の上面レベルは、ストッパ部材21の上面より突出することで、上部構造物11側の上沓7下面に固定のステンレス板等の滑り面に係合可能にされている。
したがって、前記の上下の滑り面により、橋台又は橋脚等の下部構造部物27側に固定される下部支持部材10上の弾性支承12に対して、上部構造物11側が橋軸方向にすべり移動可能な構造となっている。
【0021】
さらに、側部支持部材8を固定している橋軸方向両端部のボルト19には、固定治具1が、それぞれ側部支持部材8に配置されると共に固定治具1における基板2が側部支持部材8とボルト19頭部との間に配置されて固定されている。
【0022】
前記押圧部6の下面と、上沓7における係合フランジ15との間に所定の間隙Gが生じる状態となるように、各固定治具1における横部分5と、上沓7における係合フランジ15との間に、硬質ゴム板、革板、あるいは鋼板等の金属板等からなるスペーサ9が介在された状態で、各固定治具1を、側部支持部材8を下部支持部材10に固定するためのボルト19を利用して、前記固定治具1は、側部支持部材8を介して、下部支持部材10に固定している。
前記のように側部支持部材8を下部支持部材10に一体に設けた形態の下部支持部材10である場合には、固定治具1は側部支持部材8にボルトにより固定するようにすればよい。
【0023】
前記の状態では、弾性支承12における滑り面が、上沓7に押圧されて、かつ下部支持部材10と、桁からなる上部構造物11と上沓7が、スペーサ9を介在された橋軸直角方向両側の固定治具1により仮固定されている。また、前記スペーサ9は硬質ゴム板等の鋼材との摩擦係数が大きい部材であるほうが、搬送時における下部支持部材10側と上沓7(上部構造物11)側の橋軸方向あるいは橋軸直角方向の相対的なずれ移動を防止できるので、望ましい。前記のスペーサ9が鋼材等である場合には、適宜接触面をゴムあるいは合成樹脂等の摩擦係数が高まる弾性材料等の被覆層を設けたり、粗面とすることで、係合面同士の摩擦係数が高まるようにするとよい。
【0024】
前記のスペーサ9が介在されて固定治具1が取り付けられた状態においては、側部支持部材8の上揚力抵抗部28の先端部下面と、上沓7におけるフランジ15の上面との間には、所定の間隙Gが形成されている。
前記のスペーサ9は、平板状としてもよいが、平板状以外にも、上面に凹溝状部を有するスペーサ9でもよく、前記の凹溝状部に固定治具1を係合させるようにしてもよい。
なお、図において、符号34は上沓7の凹部と、桁11aの下側に固定の高さ調整用の鋼板の凹部とに嵌合配置される鋼製短柱状のせん断キーであり、符号36は、上沓7を桁11aの下フランジ35に固定するためのセットボルトである。
【0025】
図1〜図3に示すように、桁からなる上部構造物11側と弾性支承12及び下部支持部材10並びにアンカーボルト16を含めて一括して、桁からなる上部構造物11側の吊り金具(図示を省略した)を吊りケーブル等の条体を介してクレーン等により、吊り上げ搬送する。そして、予め下部構造物27側に、橋軸方向および橋軸直角方向に間隔をおいて設けられている複数のアンカーボルト挿入孔29に、下部支持部材10下側のアンカーボルト16を挿入すると共に、桁からなる下部構造物27上に設置されている仮受ジャッキ(図示を省略した)上に上部構造物11を載置して、下部支持部材10を下部構造物27から浮かせた状態で配置する。その状態で、前記アンカーボルト挿入孔29および下部支持部材10の下面レベルまで、無収縮モルタル30又はモルタル或いはコンクリート等の硬化性充填材30を充填・硬化する。
【0026】
その後、又は下部支持部材10を下部構造物27上のスペーサ上に搬送配置後、搬送固定治具1を固定しているボルト19を若干緩めて、スペーサ9をそのスリット3の開放側に移動するように橋軸方向に固定治具1をスライド移動して、固定治具1を取り外すと共に、スペーサ9を撤去する。前記緩めたボルト19を締め込んで、図6及び図7又は図8〜図10に示すように、側部支持部材8を下部支持部材10に強固に固定する。
前記の固定治具1を固定しているボルト19を緩めても、残りの複数のボルト19が側部支持部材8を下部支持部材10に確実に固定しているため、固定治具1を固定しているボルトの操作が可能になっている。
前記のような固定治具1の基板2に、横方向に開口するスリット3を備えていると、ボルト19を抜き取ることなく、単に緩めるだけで、容易に固定治具1を取り外すことができる。
固定治具1の基板2に、スリット3に代えてボルト挿通孔が設けられている場合には、前記ボルト19の脱着操作をすることでも、固定治具1を側部支持部材8から取り外し、側部支持部材8を下部支持部材10に確実に固定することができる。
前記のような状態においては、地震動時において、下部構造物に対して上部構造物が相対的に上方に離反するような動きに対して、前記の上揚力抵抗部28が、上沓7における係合フランジ15の上面に係合して抵抗するようになる。
【0027】
(第2実施形態)
図11から図16を参照して、前記第1実施形態の変形形態である本発明の第2実施形態の橋梁用支承装置の据付方法について簡単に説明する。
この形態は、側部支持部材8に上揚力抵抗部28を備えていない形態の場合で、前記の固定治具1を利用して、固定治具1における押圧部6を上揚力抵抗部として利用した形態である。図11〜図13には、上部構造物11側の上沓7に、弾性支承12を内蔵するようにストッパ部材21を固定した下部支持部材10を吊り下げるように仮固定して搬送可能な状態が示され、図14から図16には、下部構造物27に搬送した後、アンカーボルト挿通孔29に無収縮モルタルからなる硬化性充填材30を充填すると共に、スペーサ9を撤去した状態が示されている。
【0028】
施工手順は、前記の場合と同様で、固定治具1を固定しているボルト19を緩めて、前記スペーサ9を取り外す時に、固定治具1をそのまま残置して、ボルト19を締め込んで固定治具1を固定し、固定治具1の横部分5と上沓7における係合用フランジ15の上面との間に所定の間隙Gを形成している。
この形態では、上沓7上面と、スペーサ9の上面との距離により、所定の間隙Gの高さ寸法が設定され、その高さ寸法レベルに、固定治具1における横部分5の下面レベルを低下させることで、所定の間隙が形成可能にされている。
【0029】
(第3実施形態)
図17を参照して、本発明の第3実施形態の橋梁用支承装置の据付方法について説明する。
この形態は、下部構造物27と桁等の上部構造物11との間に、別個にこれらの構造物11,27に連結される上揚力抵抗装置(図示を省略した)と共に使用する場合に、側部支持部材8に上揚力抵抗部を設ける必要のない場合である。
施工手順は、前記第1実施形態と同様な据え付け施工手順と同様に実施できるため、施工手順の説明は省略する。
なお、前記の上揚力抵抗装置としては、公知の弾性支承体を用いればよく、弾性支承体としては、上下両端部にボルト又はボルト・ナットにより取り付け可能な張り出しフランジを有する取り付け鋼板を有し、両取り付け用鋼板の間にゴム等の弾性層と鋼板等の硬質板とを交互に積層一体化し、水平方向にせん断変形可能な弾性支承体を用い、両取り付け用鋼板を、それぞれ上部構造物及び下部構造物に取り付ければよく、両取り付け用鋼板のいずれか一方と構造物側との間には間隙が設けられ、上部構造物の鉛直荷重を負担しない形態である。このような上部構造物の鉛直荷重を負担しない形態の弾性支承体からなる上揚力抵抗装置と、本発明における上部構造物の鉛直荷重を負担する装置との組み合わせ形態となる。
【0030】
(第4実施形態)
図18〜図21を参照して、本発明の第4実施形態の橋梁用支承装置の据付方法について説明する。
この第4実施形態は、側部支持部材8に上揚力抵抗部を備えていない形態で、側部支持部材8の上面側に、上揚力抵抗部を備えた上揚力抵抗部材31をボルト33により固定するための複数の雌ねじ孔32を備えた形態である。
このような形態では、前記第1実施形態と同様で図18に示すように、固定治具1と上沓7における係合フランジ15との間にスペーサ9を介在させた状態で、上部構造物11と共に弾性支承12を備えた下部支持部材10を下部構造物の所定の位置に搬送配置する。そして、図19に示すように、側部支持部材8に上揚力抵抗部を備えた上揚力抵抗部材31を取り付ける。なお、上揚力抵抗部材31の取り付け時期は、予め又は前記の下部構造物の所定の位置に搬送後いずれの時期でもよい。
前記第1実施形態と同様に、下部支持部材10等と共に桁からなる上部構造物11を下部構造物27上に設置の仮受けジャッキ上に配置し、アンカーボルト挿入孔29に無収縮モルタル等の硬化性充填材30を充填・硬化する。そして、固定治具1とスペーサ9を撤去すると共に仮受ジャッキを短縮して撤去する。
【0031】
なお、前記の側部支持部材8は、予め下部支持部材10に一体に設けられている形態でもよく、このような場合には、側部支持部材8に雌ねじ孔を設けるようにすればよい。
【0032】
前記実施形態の場合は、滑り支承面を有する可動支承の場合を説明したが、本発明を実施する場合、滑り支承面を備えていない固定支承の場合にも適用するようにしてもよい。
このような固定支承の形態では、弾性支承12の上部に連結鋼板を備えた形態として、連結鋼板と上沓とをボルトあるいはボルト・ナット等により連結するようにすればよい。前記の連結鋼板と上沓等には、適宜ボルト挿通孔あるいは雌ねじ孔が設けられる。
【0033】
本発明を実施する場合、固定治具1としては、基板2と、縦部分4と、横部分5及び押圧部6を一体に屈曲連接した形態としてもよい。
【0034】
前記実施形態では、固定治具1における基板2に、橋軸方向に開口するスリット3を設けた形態とすると、基板2におけるスリット3の橋軸直角方向の両側部分が、ボルト19により、橋軸直角方向に移動するのを拘束され、基板2が橋軸直角方向への移動により外れるのを防止している。なお、固定治具1における基板2に、橋軸直角方向へ開口するスリットを設ける形態としてもよく、この場合に、桁側に開口するスリットあるいは桁と反対側に開口するスリットとしてもよく、さらに縦部分4を棒状体とすると、ボルト19を緩めた状態で固定治具1を回動して橋軸直角方向に移動して取り外すことでもよい。
【0035】
(第5実施形態)
図23〜図24を参照して、本発明の第5実施形態の橋梁用支承装置の据付方法について説明する。この形態は、図1〜3における上部構造物11(11a)が予めセットされていない形態であり、この形態は、既存の橋梁支承装置を補修する場合に適用できる形態である。
この第5実施形態は、上沓7と下部支持部材10との間に弾性支承12を介在させた状態で仮固定し、下部支持部材10と共に仮固定された全体をクレーン等により吊り上げ搬送することで、適宜ジャッキアップされた既設の桁11aの下側で下部構造物27上に搬送し、その後、上沓7の上面をソールプレート37の下面に対向又は圧着させた状態でセットボルト36により、既設の桁11aに固定して、上部構造11(桁11a)を所定の位置に配置した形態である。
このような形態では、下部支持部材10を広巾寸法のものを用い、アンカーボルト挿通孔を有する下部支持部材10として、その下部支持部材10のアンカーボルト挿通孔に、下部支持部材10の上側からナット付きアンカーボルト16を下部構造物27のアンカーボルト挿入孔29に落とし込んで配置した後、適宜桁をジャッキダウンして弾性支承12を所定のレベルに位置させた後、図24に示すように、無収縮モルタル等の硬化性充填材30を充填・硬化し、ナット38を締め込んで設置が完了する。
前記の変形形態として、図示を省略するが、下部支持部材10を下部構造物に固定する形態としては、下部支持部材10にアンカーボルト挿通孔を兼ねたカプラー嵌合係止孔を設け、アンカーボルト16を備えた雌ねじ孔付きカプラーを下部支持部材10の上から落とし込んで下部支持部材10に係止し、広巾頭部を有するボルトを下部支持部材10の上側から、前記カプラーの上部の雌ねじ孔にねじ込んで締め込む形態等、従来公知の各種の形態を採用してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 固定治具
2 基板
3 スリット
4 縦部分
5 横部分
6 押圧部
7 上沓
8 側部支持部材
9 スペーサ
10 下部支持部材
11a 桁
11 上部構造物
12 弾性支承
13 滑り支承面
14 切り欠き段部
15 係合フランジ
16 アンカーボルト
17 雌ねじ孔
18 ボルト挿通孔
19 ボルト
20 雌ねじ孔
21 ストッパ部材
22 弾性層
23 せん断変形拘束壁
24 ボルト
25 キャップ状の鋼板
26 滑り支承板
27 下部構造物
28 上揚力抵抗部
29 アンカーボルト挿入孔
30 硬化性充填材(無収縮モルタル)
31 上揚力抵抗部材
32 雌ねじ孔
33 ボルト
34 せん断キー
35 下フランジ
36 セットボルト
37 ソールプレート
38 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上沓と下部構造物に固定される下部支持部材とを支承と共に搬送して下部構造物上に設置する橋梁用支承装置の据付方法において、前記下部支持部材はその橋軸直角方向の両側に側部支持部材が設けられ、下部支持部材と上沓との間に支承が介在され、上沓上に配置されたスペーサを押圧する押圧部を有する固定治具を前記側部支持部材に配置して、側部支持部材に直接又は側部支持部材を介して下部支持部材にボルトにより固定することで、上沓とこれに対向するように下部支持部材又は側部支持部材側に設けられる上揚力抵抗部との間の間隙を一定に保ち、かつ下部支持部材と上沓とその間の前記支承の移動を拘束した状態で、上部構造物と共に下部支持部材及び支承を下部構造物上に搬送して配置した後、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外すことを特徴とする橋梁用支承装置の据付方法。
【請求項2】
前記側部支持部材には、上沓側に張り出す上揚力抵抗部が設けられており、前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すことを特徴とする請求項1の橋梁用支承装置の据付方法。
【請求項3】
前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、固定治具も取り外すことを特徴とする請求項1の橋梁用支承装置の据付方法。
【請求項4】
前記固定治具を固定しているボルトを緩める又は脱着することで、前記スペーサを取り外した後、ボルトを締め込むことで、固定治具を固定し、固定治具の押圧部を上揚力抵抗部とすることを特徴とする請求項1の橋梁用支承装置の据付方法。
【請求項5】
前記固定治具は、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の橋梁用支承装置の据付方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の橋梁用支承装置の据付方法に用いられる固定治具であって、橋軸方向に開口するボルト挿通用スリットを有する基板に、縦部分が一体に設けられ、その縦部分の上部に橋軸直角方向の上沓側に張り出す押圧部を備えていることを特徴とする固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−157730(P2011−157730A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20546(P2010−20546)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(503121088)株式会社ビービーエム (18)
【Fターム(参考)】