説明

機器の異常検知方法及び異常検知装置

【課題】 本発明は、機器の異常を継続的に検知できる方法及び装置を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係る装置は、センサ1と監視部2とを備えている。センサ1は、配管4などの機器の振動を検知する構成となっている。監視部2は、次の機能を有している。
(1)機器の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出する機能;及び、
(2)前記比Aorg:Aの値に基づいて、前記機器の異常を検知する機能。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の異常を検知する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、原子力発電および火力発電において、蒸気配管システムを含む高温・高圧の配管システムの破裂が問題になっている。一般的に、現在では、配管の異常検知のために、超音波診断装置等を携帯して巡回検査する方法が採用されている。しかし、配管システムの老朽化や破損等の異常発生を連続して監視できる方法は確立されていない。
【0003】
さらに、回転機の連続的な異常検知を行う方法も確立されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような状況に鑑みてなされたもので、配管や回転機などの機器の異常を連続的に検知する方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の機器の異常検知方法は、以下のステップを備えている:
(1)機器の振動を検知するステップ;
(2)前記機器の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
前記基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出するステップ;
(3)前記比Aorg:Aの値に基づいて、前記機器の異常を検知するステップ。
【0006】
請求項2に記載の機器の異常検知方法は、請求項1に記載のものにおいて、前記振幅の極大値を持つ周波数fが複数存在しているものである。
【0007】
請求項3に記載の機器の異常検知方法は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記ステップ(3)における異常の検知を、前記比Aorg:Aと、異常がない状態の機器における前記比Aorg:Aとの比較に基づいて行う構成となっている。
【0008】
請求項4に記載の機器の異常検知方法は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のものにおいて、前記機器を配管としたものである。
【0009】
請求項5に記載の機器の異常検知方法は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のものにおいて、前記機器を回転機としたものである。
【0010】
請求項6に記載の機器の異常検知装置は、センサと監視部とを備えている。前記センサは、機器の振動を検知する構成となっている。前記監視部は、次の機能を有している。
(1)前記機器の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
前記基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出する機能;および
(2)前記比Aorg:Aの値に基づいて、前記機器の異常を検知する機能。
【0011】
請求項7に記載の機器の異常検知装置は、請求項6に記載のものにおいて、前記センサが、光ファイバを用いた振動センサとなっているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る異常検知方法及び異常検知装置によれば、配管や回転機などの機器の異常を連続的に検知する方法及び装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の一実施形態に係る機器の異常検知装置を、添付の図面に基づいて説明する。
【0014】
(異常検知装置の構成)
この装置は、センサ1と、監視部2と、出力部3とを主要な要素として備えている(図1参照)。
【0015】
センサ1は、機器としての配管4の振動を検知する構成となっている。このようなセンサ1としては、光ファイバを用いた振動センサ(例えば国際公開番号WO2003/002956号公報記載のもの)が好適である。ただし、センサ1としては、用途に応じて、他の振動センサ(例えば圧電素子を用いた振動センサ)を用いることも可能である。
【0016】
センサ1は、この実施形態では、配管4の表面に取り付けられている。
【0017】
監視部2は、I/F部21と、CPU22と、メモリ23とを備えている。
【0018】
I/F部21は、センサ1からの出力(すなわち、振動を表す信号)を受け取り、CPU22に送るようになっている。
【0019】
CPU22は、メモリ23に格納されているコンピュータプログラム及びデータに基づいて、次の機能を行う構成となっている:
(1)配管4の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
前記基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出する機能;
(2)前記比Aorg:Aの値に基づいて、配管4の異常を検知する機能。
【0020】
これらの機能の詳細は、後述する異常検知方法の説明において述べる。
【0021】
メモリ23は、前記機能に必要なデータを逐次格納して、CPU22に提供できるようになっている。
【0022】
出力部3は、CPU22で生成された異常検知信号に基づいて、異常状態の警報や表示を出力できるようになっている。出力部3としては、例えば、ディスプレイやスピーカである。出力部3は、ネットワークを介して遠隔地のモニタやコンピュータに異常信号を送信するものであってもよい。
【0023】
(異常検知方法の説明)
次に、前記した装置を用いて配管4の異常を検知する方法について説明する。
【0024】
まず、センサ1を、配管4の表面に取り付ける。これにより、配管4における振動を取得して、監視部2に送ることができる。つまり、配管4の振動を検知することができる。
【0025】
ついで、監視部2では、次のような動作を行う。
【0026】
まず、配管4の振動をフーリエ変換(例えばFFT)する。これにより、振動の周波数スペクトルを得ることができる。得られるスペクトルの概念図を図2に示す。
【0027】
ついで、振動周波数のうち、振幅が最大である周波数forgの振幅Aorgを得る。
【0028】
ついで、基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅Aを得る。「振幅の極大値を持つ周波数f」とは、上に凸となるスペクトル波形において、そのほぼ最大値を与える周波数という意味である。ここで、fは、通常は複数存在する。つまり、i=1,…,n(nは任意の自然数)である。しかし、ここでの説明においては、簡単のため、i=1であるとしておく。
【0029】
ついで、振幅AorgとAとの比Aorg:Aを算出する。
【0030】
監視部2は、比Aorg:Aの値(変化)に基づいて、配管4の異常を検知することができる。通常は、配管に限らず、機器に何らかの異常があると、機器本来の固有振動数とは異なる周波数での振動が増える。この振動の周波数は、多くの場合、機器本来の固有振動数よりは高い周波数となる。
【0031】
そこで、比Aorg:Aの値が変動した(通常は、Aの値が高くなった)ことにより、機器の異常を検知することができる。どの程度の変動を異常のしきい値とするかは、例えば実験的に求めることができる。このようにすれば、配管4の初期状態を把握していない場合であっても、その異常を検知することが可能となる。
【0032】
また、配管4の初期状態(異常がない状態)における比Aorg:Aを予め取得しておけば、その値との差が大きくなったことをもって異常を検知することが可能となる。
【0033】
なお、Aが複数存在する場合には、

を、前記したAとして用いればよい。あるいは、その平均値

を用いても良い。要するに、複数のAの増減に対応する値をAとして用いればよい。
【0034】
本実施形態では、配管4の振動を用いることにより、配管4の異常を連続的に常時検知することが可能となるという利点がある。
【0035】
また、センサ1として、光ファイバを用いた振動センサを用いることにより、次の利点を得ることができる。すなわち、化学プラント等において、引火性の原料を搬送している配管については、電気的な振動検知センサを使うことが難しい。これは、爆発や火災の発生の危険性があるためである。光ファイバを用いた振動センサの場合は、引火の危険性を容易に回避することができ、引火性原料を搬送する配管の連続的な異常検知が可能となる。
【0036】
なお、前記実施形態では、異常検知の対象となる機器を配管としたが、回転機その他の機器であってもよい。
【0037】
(実験例1)
本実施形態の装置を用いて、配管の振動を測定した。図3に、剛性が高い配管における振動の時間波形(太線)と振動スペクトル(細線)とを示す。時間波形は、100msecの間のものである。また、振動スペクトルは、0Hz〜2kHzの間のものである。
【0038】
さらに、図4に、剛性が低い配管における振動の時間波形(太線)と振動スペクトル(細線)とを示す。時間波形は、100msecの間のものである。また、振動スペクトルは、0Hz〜2kHzの間のものである。
【0039】
両者における比較により、剛性の低い配管においては剛性の高い配管には見られない高い周波数の極大値が存在することが示されている。これは前述した基本理論とよく一致している。すなわち、機器の剛性が低下した場合に、前記したAの値(Aの総和である場合を含む)が高くなることが分かる。
【0040】
(実験例2)
本実施形態の装置を用いて、小型回転機シャフトの振動を測定した。図5に、剛性が高い小型回転機シャフトにおける振動の時間波形(太線)と振動スペクトル(細線)とを示す。時間波形は、100msecの間のものである。また、振動スペクトルは、0Hz〜10kHzの間のものである。
【0041】
さらに、図6に、剛性が低い小型回転機シャフトにおける振動の時間波形(太線)と振動スペクトル(細線)とを示す。時間波形は、100msecの間のものである。また、振動スペクトルは、0Hz〜10zkHの間のものである。
【0042】
両者における比較により、剛性の低い小型回転機シャフトにおいては剛性の高い小型回転機シャフトより高い周波数の極大値が大きいことが示されている。これは前述した基本理論とよく一致している。すなわち、機器の剛性が低下した場合に、前記したAの値(Aの総和である場合を含む)が高くなることが分かる。
【0043】
なお、本発明に係る異常検知方法及び装置は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0044】
例えば、前記した各構成要素は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。
【0045】
また、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る機器の異常検知装置の概略的構成を示す説明図である。
【図2】振動の周波数スペクトルの例を示すグラフであり、横軸は周波数、縦軸は振幅(強度)である。
【図3】実験例における振動の時間波形と周波数スペクトルを示すグラフであり、横軸は時間及び周波数、縦軸は振幅(強度)である。
【図4】実験例における振動の時間波形と周波数スペクトルを示すグラフであり、横軸は時間及び周波数、縦軸は振幅(強度)である。
【図5】実験例における振動の時間波形と周波数スペクトルを示すグラフであり、横軸は時間及び周波数、縦軸は振幅(強度)である。
【図6】実験例における振動の時間波形と周波数スペクトルを示すグラフであり、横軸は時間及び周波数、縦軸は振幅(強度)である。
【符号の説明】
【0047】
1 センサ
2 監視部
21 I/F部
22 CPU
23 メモリ
3 出力部
4 配管(機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを備えたことを特徴とする、機器の異常検知方法:
(1)機器の振動を検知するステップ;
(2)前記機器の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
前記基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出するステップ;
(3)前記比Aorg:Aの値に基づいて、前記機器の異常を検知するステップ。
【請求項2】
前記振幅の極大値を持つ周波数fは複数存在することを特徴とする、請求項1に記載の機器の異常検知方法。
【請求項3】
前記ステップ(3)における異常の検知は、前記比Aorg:Aと、異常がない状態の機器における前記比Aorg:Aとの比較に基づいて行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の機器の異常検知方法。
【請求項4】
前記機器は配管であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の機器の異常検知方法。
【請求項5】
前記機器は回転機であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の機器の異常検知方法。
【請求項6】
センサと監視部とを備え、
前記センサは、機器の振動を検知する構成となっており、
前記監視部は、次の機能を有していることを特徴とする、機器の異常検知装置:
(1)前記機器の振動周波数のうち、基本固有振動周波数forgの振幅Aorgと、
前記基本固有振動周波数forgより大きく、かつ、振幅の極大値を持つ周波数fの振幅A
の比Aorg:A
を算出する機能;
(2)前記比Aorg:Aの値に基づいて、前記機器の異常を検知する機能。
【請求項7】
前記センサは、光ファイバを用いた振動センサであることを特徴とする、請求項6に記載の機器の異常検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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