説明

機器分析用データ管理システム

【課題】 分析装置で取得される測定・分析データを複数のデータベース(DB)に分けて管理する構成において、何らかの障害によりデータを目的のDBに格納することができなかった場合、そのデータは一時DBに格納されるが、障害が解消された後にデータを所望のDBに格納させるためには、手動で復旧作業を行わねばならず、非常に煩雑であった。
【解決手段】 格納障害を検知する障害検知手段と、測定・分析データを一時データベースに格納する一時格納手段と、一時DBに保存される際に生成されるログに含まれる格納先情報を読み出す格納先特定手段と、該格納先情報に基づき予め指定されたDBに自動的に格納するデータ復旧手段とを備えたシステム構成とする。この構成により、従来は非常に時間が掛かっており、人為的ミスの可能性もあった復旧作業を自動化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器分析に用いられる各種分析装置(例えば、クロマトグラフ装置、分光光度計、質量分析装置等)により得られた各種データをデータベース化して保存・管理するためのデータ管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
機器分析の分野において、各種の測定・分析装置により得られたデータや該データを解析処理した結果である各種データをデータベース化し、複数の分析者が共有の財産として利用できるようにしたシステムが開発、利用されている。特に、最近の測定・分析装置では、装置全体の動作を司る制御部やデータを解析処理するデータ処理部として一般のパーソナルコンピュータが利用されているため、こうしたコンピュータ同士を接続したネットワークの構築も容易であり、そのネットワーク内に配置したサーバコンピュータでデータベースを集中的に管理することも行われている。
【0003】
一般に、測定・分析装置で収集されたデータや、そうした測定データを元に定性解析・定量解析処理などが実行されて取得されたデータは、予め定められているファイルやデータベースに保存される。データベースの使用目的によっては、各種のデータやデータファイルを試料名毎、分析者名毎、分析年月毎、分析装置毎など様々な分類に区分して整理・管理するほうが便利な場合がよくあるため、複数のデータベースが設けられることがある。例えば、特定の試料に対する測定・分析データを順次閲覧したいような場合には、試料名毎にデータが整理されていると、迅速な読み出しが可能であって作業効率が向上する。そうした場合には、予め試料名毎にデータベースを分けて作成しておき、各測定・分析装置で収集されたデータを試料名に応じて異なるデータベースに格納すればよい。
【0004】
複数のデータベースが設けられている場合には、各データは、予め定められたデータベースに自動的に振り分けられて格納されるのが通常である。このような自動振り分け機能を備えた機器分析用データ管理システムの一例として、本願出願人の製品である「データベース管理・登録用ネットワークツール CLASS-Agent ver.2」がある(非特許文献1参照)。
【0005】
また、食品検査、新医薬品の開発、等の信頼性を確保するために、GLP(Good Laboratory Practice)やGMP(Good Manufacturing Practice)と呼ばれるガイドラインが近年導入されており、試験・検査の設定条件やその結果等を含むデータの管理に厳しい基準が設けられている。機器分析用データ管理システムにおいては、これらのガイドラインに対応するために、機器分析用のアプリケーションソフトウエアによって測定・分析データが管理されるのが通常である。
【0006】
【非特許文献1】株式会社島津製作所,"CLASS-Agent ver.2 データベース管理・登録用ネットワークツール",[online],[平成17年4月19日検索],インターネット<URL:http://www.an.shimadzu.co.jp/products/data-net/agent1.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような機器分析用のデータ管理システムの使用時には、データベース自体の不具合やネットワークの不具合によって、測定・分析データをデータベースに格納することができないという障害が発生する場合がある。(本発明ではこの障害を「格納障害」と称する。)格納障害が発生した場合には、測定・分析データを予め指定された所定のデータベース(以下、「格納先データベース」と称する。)に格納することができないため、測定・分析データを分析機器自身又は分析装置用のコンピュータに備えられた記憶装置内の一時データベースに格納される。
【0008】
格納障害が解消された後には、一時データベースに保存されている測定・分析データを本来格納されるべき格納先データベースに移動させなければならない。従来、この作業は作業者が各測定・分析データに付随する格納先データベースの名前を確認しつつ、キー操作やマウス操作によって手動で行わなければならず、手間がかかっていた。特に、一時データベースに蓄積されたデータ数が多かったり、格納先のデータベースの種類が多い場合には、作業が非常に煩雑となってしまっていた。また、作業が手動である故に、格納先を間違えるというミスが発生しやすいという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る機器分析用データ管理システムは、
機器分析により取得された測定データやこの測定データから派生する各種データを含む測定・分析データを、特定のアプリケーションソフトウエア上でデータベース化して保存・管理するための機器分析用データ管理システムであって、該データベースを複数構築することが可能であるシステムにおいて、
測定・分析データを予め指定されたデータベースに格納することができない格納障害を検知する障害検知手段と、
前記障害検知手段によって格納障害が検知された場合に、測定・分析データを一時データベースに格納する一時格納手段と、
前記格納障害が解消した後、該測定・分析データに関する格納先情報を読み出す格納先特定手段と、
前記格納先情報に基づき、測定・分析データを予め指定されたデータベースに格納するデータ復旧手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るデータ復旧手段によって、格納障害が発生したために一時データベースに格納されていた測定・分析データを、格納障害が解消した後に本来格納されるべき格納先データベースに格納する作業を自動化することができる。従って、これまでは一々個別に行わなければならなかった、データを手動で移動させるという煩雑な作業が不要になり、作業者の手間を大幅に軽減することができる。また、測定・分析データは確実に所望のデータベースに登録されるため、これらのデータベースを利用する際の作業効率も改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る機器分析用データ管理システムは、1台の測定・分析装置に対して設けられた1台のコンピュータのみによりシステムを構築する(スタンドアロン型)ことも可能であるが、複数台の測定・分析装置に対して設けられた複数のコンピュータがネットワークを介して接続されており、測定・分析装置でそれぞれ取得されたデータが1台のサーバで管理されるようなサーバ/クライアント型とすることもできる。
スタンドアロン型の場合には、その1台のコンピュータから成るシステム内に、格納先となる複数のデータベースと、一時データベースとが設けられる。
サーバ/クライアント型の場合には通常、サーバ側に格納先となる複数のデータベースが設けられ、測定・分析装置に対して設けられた複数のコンピュータのそれぞれに一時データベースが設けられる。
【0012】
本発明に係る機器分析用データ管理システムは、格納障害が発生した場合に自動的に格納障害の存在を検知し、格納先データベースに格納することができなかった測定・分析データを一時データベースに格納する機能を備えている。
【0013】
測定・分析データが格納先データベースに格納されない格納障害の原因には、例えば以下のようなものが考えられる。
・データベースが破損している
・データベースサイズが上限に達している
・データベースが格納されているハードディスクが破損している、もしくは容量不足である
・ネットワークケーブルが断線している(ネットワークシステムの場合)
・ハブに障害が発生している(ネットワークシステムの場合)
【0014】
格納障害が解消されると、本発明のシステムは、一時データベースに格納されている測定・分析データ毎にその格納先情報を読み出す。次いでその格納先情報を参照することにより、予め指定された格納先データベースにその測定・分析データを移動させる。この格納先情報は、測定・分析データに含まれているものを利用してもよいし、前記測定・分析データが一時データベース内に格納される際に生成されるログに含まれているものを利用することもできる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の一実施例である機器分析用データ管理システムについて、図を参照して説明する。図1はネットワークを利用した機器分析用データ管理システムの一例を示す全体構成図である。
【0016】
本実施例のデータ管理システムは、サーバ10を中心としたサーバ/クライアントシステムによって構成されている。ここでは、分析装置は、液体クロマトグラフ装置(LC)21、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)23、紫外可視分光光度計(UV)25、電子天秤27であるが、これらに限定されるものではもちろんない。これらの分析装置には、それぞれ制御・データ処理用のコンピュータ22、24、26、28が備えられており、これらのコンピュータがクライアントとしてネットワーク11に接続されている。
【0017】
本実施例では、サーバ10及びクライアントである各コンピュータにはそれぞれ分析装置で取得したデータをデータベース上で管理するためのアプリケーションソフトウエアが搭載されており、このアプリケーションソフトウエア上でデータベースの使用が可能となっている。
【0018】
図2はクライアントであるコンピュータ22の要部の機能的構成を示すブロック図である。図2に示すように処理の中心には中央制御部53が設けられ、この中央制御部53には、キーボードやマウスなどの入力デバイスである入力部57、CRTや液晶ディスプレイなどである表示部58、ネットワーク11を介してのデータの送受信を行うためネットワークI/O59が接続されている。また、このコンピュータ22にインストールされた上記アプリケーションソフトウエアによって、一時データベース復旧処理部531の機能が達成される。一時データベース復旧処理部531の下には一時データベース保存部32が設けられる。なお、この構成はコンピュータ24、26、28の要部構成と基本的に同一である。
【0019】
サーバ10には、ハードディスク駆動装置内にデータベース保存部30が設けられており、各分析装置で取得された分析・測定データ等が、一元管理できるように、またファイル共有できるようにデータベース化されて蓄積されている。図1では、互いに独立なデータベースA、B、C、Dが構築されている。これらのデータベースに格納されるデータは、例えば分析によって採取された生データや、解析処理結果であるデータを含む分析データ、クロマトグラムやスペクトルなどのグラフを貼り付けて作成されたレポートなどのドキュメント、分析条件やデータ解析条件などのメソッドデータなどであるが、データの内容はこれらに限られるものではない。
【0020】
以下、クライアントコンピュータの行う処理として、コンピュータ22の行う処理を説明する。正常時には、分析装置21から出力された生データはA/D変換器56を経た後に中央制御部53によって試料名、試料ID、分析者名、分析装置名、分析年月日などの各種情報を付加され、ネットワークI/O59を経てネットワーク11上で接続されたサーバ10の有するデータベース保存部30に構築されている格納先データベースに格納される。通常この格納時には、測定・分析データの有する付加情報に対して予め定められた条件に基づく振り分けが行われ、各測定・分析データは自動的に所望の格納先データベースに格納されてゆく。
【0021】
格納障害が発生したことをシステムが検知した場合、測定・分析データは自動的に一時データベース保存部32の一時データベースに格納される。これと同時に、一時データベース保存部32には一時データベースログが生成される。この一時データベースログの例を図3に示す。一時データベースログには、一時データベースに格納された全ての測定・分析データに関する、日時、内容、ユーザ名、プログラム名、操作、サンプル名、サンプルIDなどから成るログ情報が含まれている。
格納障害発生時にはさらに、中央制御部53によって、格納先データベースに格納が失敗した旨を通知する警告ポップアップが表示部58に表示される。
【0022】
その後、格納障害が解消され、オペレータがコンピュータ22で所定の操作を行うと、一時データベース復旧処理部531は、一時データベースに格納されているデータを、本来格納される予定であった格納先データベースに格納させる、データ復旧処理(一時データベースの復旧処理)を行うかどうかをオペレータが指示することが可能なメッセージボックスを表示部58に表示させる(図4)。
【0023】
オペレータが入力部57によってデータ復旧処理を行う旨の選択を行った場合の、一時データベース復旧処理部531の処理動作について、図5のフローチャートに従って説明する。
【0024】
まず、一時データベース復旧処理部531は、一時データベース保存部32の一時データベースに測定・分析データが存在しているかどうかを確認する(ステップS1)。一時データベース内に測定・分析データが存在していない場合には表示部58に復旧処理が不要であることを示す所定のメッセージを表示すると共に、処理を終了する。
【0025】
一時データベースに測定・分析データが格納されている場合、一時データベース復旧処理部531は、一時データベース保存部32内に格納されているログのデータを参照し、サーバ側に設けられたデータベース保存部30における本来の格納先データベース名を確認する(ステップS2)。図3に示された一時データベースログでは、1行が1つの測定・分析データに対応するログ情報の一部が示されている。ここでは、「内容」の項目の中で、「データベースのオープンができません」という格納障害の原因の表示の後に、格納先情報である、格納先データベースを表す文字A、C、A、D…が示されており、一時データベースに格納されている測定・分析データの本来の格納先データベースが、上から順に(すなわち、図6における一時データベースに格納された測定・分析データa、b、c、d、…の格納先が)データベースA、C、A、D…であることが記載されている。
【0026】
測定・分析データの格納先データベース名を確認すると、一時データベース復旧処理部531は、各測定・分析データをその格納先データベースに移動させる処理を行う。格納先データベースの格納障害が解消している場合には(ステップS3のYes)、一時データベース復旧処理部531は、図6に示すように、各測定・分析データをデータベース保存部30における格納先データベースに移動させるデータ復旧処理を行い(ステップS4)、処理を終了する。
【0027】
格納先データベースの格納障害が解消していない場合には(ステップS3のNo)、一時データベース復旧処理部531は測定・分析データの移動を行うことなく、処理を終了する。
【0028】
上記実施例は、本発明の一例であって、本発明の精神の範囲内で適宜変形や修正を行えることは言うまでもない。例えば、格納先情報が測定・分析データ自身に含まれる場合には、格納先情報をログを参照することによって行うのではなく、測定・分析データ自身の格納先情報を参照することにより、一時データベースから所望のデータベースへのデータ移動を自動的に行うこともできる。また、一時データベース内の測定・分析データに対して上述したような自動振り分け機能を適用することによって格納先情報を得、データの復旧を行うことも可能である。
【0029】
さらに、上記実施例では、オペレータが所定の操作を行い、データ復旧処理を実行するという選択をすることによってデータ復旧処理が開始される構成としたが、コンピュータの起動時などに自動的にデータ復旧処理が実行・開始されるようにする構成としてもよい。こうすることにより、データ復旧をより効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例である機器分析用データ管理システムの概略構成図。
【図2】本発明の一実施例におけるクライアントコンピュータの要部の機能的構成を示すブロック図。
【図3】一時データベースログの一例。
【図4】データ復旧処理を開始するか否かの指示を入力するメッセージボックス。
【図5】一時データベース復旧処理部の処理動作のフローチャート。
【図6】一時DBに格納された分析・測定データが本来の格納先DBに格納されるデータ復旧の概念図。
【符号の説明】
【0031】
10…サーバ
11…ネットワーク
21、23、25、27…分析装置
22、24、26、28…コンピュータ
30…データベース保存部
32、34、36、38…一時データベース保存部
53…中央制御部
531…一時データベース復旧処理部
56…A/D変換器
57…入力部
58…表示部
59…ネットワークI/O


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器分析により取得された測定データやこの測定データから派生する各種データを含む測定・分析データを、特定のアプリケーションソフトウエア上でデータベース化して保存・管理するための機器分析用データ管理システムであって、該データベースを複数構築することが可能であるシステムにおいて、
測定・分析データを予め指定されたデータベースに格納することができない格納障害を検知する障害検知手段と、
前記障害検知手段によって格納障害が検知された場合に、測定・分析データを一時データベースに格納する一時格納手段と、
前記格納障害が解消した後、該測定・分析データに関する格納先情報を読み出す格納先特定手段と、
前記格納先情報に基づき、測定・分析データを予め指定されたデータベースに格納するデータ復旧手段と、
を備えることを特徴とする機器分析用データ管理システム。
【請求項2】
前記一時格納手段が、測定・分析データを一時データベースに格納する際にログを生成し、
前記格納先特定手段が読み出す格納先情報が、前記ログに含まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の機器分析用データ管理システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−313447(P2006−313447A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135633(P2005−135633)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】