機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器
【課題】 高周波電圧やDC電圧についても精度に変動を来さず正確に測定する。変電設備の異常を検出するセンサとしての機能も併せ持たせる。
【解決手段】 変電設備において用いられる変圧器2を縦型変調のポッケルスセンサによって構成する。
【解決手段】 変電設備において用いられる変圧器2を縦型変調のポッケルスセンサによって構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器に関する。さらに詳述すると、本発明は、変電設備における変圧器の構造の改良、および当該変電設備における各種機器の異常診断技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所などを含む変電設備においては、高電圧回路から計器や継電器に必要な適当な電圧・電流を取り出すために計器用変成器が用いられている。計器用変成器は、変電設備における機器を外部の事故などから守り、また内部の事故では当該機器の損傷をできるだけ小さくし、電力系統に与える影響を極力小さくするための保護装置として機能する。
【0003】
この計器用変成器は計器用変圧器と変流器とに分けられ、このうちVT(Voltage Transformer)とも表記される計器用変圧器は、高電圧をそれに比例する電圧に変換し、電圧計等の計器や保護継電器に入力するためのものである。つまり、超高圧の電圧を測定する場合、そのままだと絶縁破壊を起こしてしまい測定できないことから、図12に示すように例えばコンデンサの直列回路を利用して高電圧(High Voltage)を100対1の割合で分圧し、低い方の電圧を測定し、この測定結果を100倍することによって全体の電圧を推定するといった手法で電圧測定が行えるようにしている。
【0004】
電力機器を開発・試験するにあたり、こうした高電圧を正確に測定する技術は欠かせないものであり、現在、電圧変成器や各種分圧器を用いて高電圧を分圧・降圧することにより測定しているところである。こういった電力機器のうち、上述した計器用変圧器としては、例えばレーザ光といった光技術を応用し電圧等を測定するようにした機器が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−211569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光を応用した計器用変圧器においては、周波数が変わると測定精度が変動してしまうという問題がある。すなわち、AC(交流)については例えば上述のように100対1の割合で正確に分圧できる構造であっても、測定対象が高周波だったりあるいはDC(直流)だったりすると100対1の割合が保たれ得ずに変わってしまい、この結果、測定精度が変動してしまうことがある。だからといって対象設備における種々の周波数ごとに計器用変圧器を導入することはコスト面や設備のサイズといった面から現実的ではない。要するに、電力機器を開発・試験・運用するにあたっては正確な測定機器が欠かせないが、こうした測定機器に関してはコストやサイズといった面での改善が常に求められている状況である。
【0007】
また、現実に存在する要望として、変電設備においては、設備における異常を検出するためのセンサが低コストであるならば併設しておきたいという考えがある。しかし、実際問題としてはコストの面、あるいは新たに導入するとさらなる設置スペースを要するといった面が考慮され、このような異常検出用のセンサの併設が見送られている場合が多いというのが現状である。さらに付け加えると、例えば10MHzの周波数を測定すれば異常を検出できるであろうという見通しが仮にあったとしても、それを実施した場合に必ず異常検出できるという効果が十分に実証されていないことからセンサ導入の起因となりにくいといった面もある。
【0008】
さらに、実際問題として、変電設備においては商用のAC電圧が測定できればよく、高周波やDC電圧は測定できなくても差し支えないと扱われている面もある。つまり、従来の計器用変圧器で商用周波のAC電圧が正確に測定できればそれで足り、DCあるいは高周波まで正確に測定する必要は特にないと考えられている場合があり、こういった現状も新規センサ導入の起因が生じにくい一因であるものと考えられる。
【0009】
加えて、AC、DC、さらには例えば10MHz以上程度の高周波電圧をすべて一の機器で測定する場合には、これらを分圧し、場合によってはO/E変換(Optical to Electric)回路も使わなくてはならない場合があり、設備コストと手間がかかる。こういった背景から、現状での変電設備の計器用変圧器は、異常を検出するためのセンサを備えていないことがほとんどであり、尚かつこれを備えるとしても別途コストがかかってしまう。
【0010】
そこで本発明は、高周波電圧やDC電圧についても精度に変動を来さず正確に測定することができ、尚かつ変電設備の異常を検出するセンサとしての機能も併せ持った機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明者は種々の検討を行った。この中で、まず、電力会社にとってまず測定しなければならない情報は、販売電力量と密接に関わる商用周波数の電圧および電流であるという背景がある。このうち電圧について、特にGIS(Gas Insulated Switchgear、ガス絶縁開閉装置)における電圧については、しゃ断部、母線部と同様にガス絶縁タンクに収められた計器用変圧器(VT)で測定されることになるが、商用周波の信号を正確に測ることのみが目的とされており、また変圧器の原理を使用した測定技術であるために、DCや高周波には対応していない、あるいはDCや高周波を測定するための技術が確立していないのは上述したとおりである。
【0012】
一方、GISは内部構造が疎であり、経年劣化する部位が少ないため、設計寿命中はもちろん、それを越えても問題なく使用でき、異常は発生しないのでは、といわれている向きもある。また、近年の設備投資抑制の流れから、電力会社では、必要に応じて異常を監視しながらも設備を限界まで使用していくことを考えている。また最近の傾向として、変電所の設置面積を縮小するため、新設時のみならず既設設備の更新時においてもGISが導入される傾向にある。したがって、低コストであればGIS異常監視装置導入のニーズは高いと考えられた。
【0013】
そこで、本発明者は変電設備のGISにおける異常について種々調査・検討し、その結果、GISにおける異常と残留直流(DC)電圧との関連性に関する知見を得た。つまり、近年、GISに関してはこの残留直流電圧と絶縁性能異常との関連性が注目されるようになってきており、この点に着目すると、直流電圧が測定できればGISの健全性診断が可能になる、つまり残留直流電圧との関連性においてGISの異常検出をすることが可能になるとの知見を得、この点を考慮すると直流電圧を測定することに意義があると考えた。したがって、残留直流電圧を測定できる機能を備えることによって、設備中に不具合が生じた場合には少なくとも設備中のいずれかの部分に不具合があることを検出することができるとの考えに達した。
【0014】
ここで、GISにDC電圧が残る理由とその影響について簡単に説明しておくと以下のとおりである。すなわち、GIS中では、ガスタンク中で高圧導体を支えるスペーサが設置されている。これは高分子材料(エポキシなど)でできており、表面に電荷が蓄積する可能性がある。その場合、高圧導体に逆極性の電圧がかかっている間はスペーサ−高圧導体間に想定している以上の高電界がかかることになり、絶縁破壊に至る可能性がある。
【0015】
さらに、GISに高周波信号が発生する理由とその影響についても簡単に説明しておくと以下のとおりである。すなわち、GISの絶縁ガスであるSF6ガスは非常に優れた電気絶縁性能を示すが、微小な金属異物が混入した場合、電界集中が生じ、部分放電から絶縁破壊にまで至る可能性が指摘されている。この初期段階である部分放電はMHz〜GHz帯の広い周波数帯域を持つが、周辺ノイズ等との関係から1〜2GHz程度を観察する方法が提案されている。なお、高周波信号は反射を繰り返し、また減衰するため、VT近傍の設備(すなわちGIS)以外(例えば変圧器)からの信号は観測されないと考えられる。
【0016】
本発明は上述した考えと知見とに基づくものであり、請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器は、変電設備において用いられる変圧器であって縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることを特徴としているものである。また、請求項2に記載の発明は、ポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路に導くとともに、通常時の測定は商用周波数に対応する光信号のみとし、DCと高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発するというものである。
【0017】
上述した考えのもと、本発明者は、ポッケルス効果を用いた電界計測手法に着目した。ポッケルス効果を奏するいわゆるポッケルスセンサは、高電圧・高電界領域への適用も可能で、適切な構成、計測系をセッティングすれば従来不可能であった計測が可能になると考えられた。つまり、ポッケルス効果とは電界により屈折率が比例的に変化する現象であり、このような効果を奏するオプトエレクトロニクスセンサであるポッケルスセンサの利点として、印加電圧に対する屈折率の追従特性がGHz帯にまで達すること、このため高速現象への計測適用が期待できること、ポッケルス素子そのものが絶縁体であり消費電力が小さいこと、といったものがあることに着目した。このようなポッケルスセンサを用いた電圧、電界測定技術によれば、従来不可能であった高電圧の直接測定が可能となり、さらに、直流から数十MHzまでの高周波帯の信号をも測定対象に含めることが可能となる。
【0018】
つまり、GISの異常は特に国内製品では希にしか考えられないため、その検出のために測定器をわざわざ取り付けることは現状考えにくいという背景はあるが、異常の可能性(例えば、しゃ断後のスペーサへの残留電荷による直流残留電圧や、内部異物による部分放電)は指摘されており、放置しておけば故障・事故につながるとも考えられている。そこで、GISに必須である計器用変圧器(VT)を光応用センサとし、検出回路の部分を三種類の波長帯に対応できるようにしておけば、測定器追加等のコストなしで異常監視を行うことができる。要は、その構成にもよるが、光応用電圧センサは一つのセンサで商用周波数のみならずDCから高周波(〜GHz)まで測定することが可能である。したがって、このセンサをGIS用の計器用変圧器(VT)として利用し、DC、AC(商用周波)、高周波(GHz帯)を同時にモニタすれば、常時のAC電圧測定のみならず、希な頻度で発生する異常をも監視することが可能となる。
【0019】
また、変電設備で異常が起こってしまうと一般には部分放電も起きてしまうことが多く、この場合の部分放電は高周波信号であることから、商用周波数に載っている(重畳している、あるいは加算されている)であろうと考えられる。この点、商用周波ばかり監視していた従来の計器用変圧器ではこのような高周波信号までを測定することができないが、ポッケルスセンサによって変圧器を構成した本発明によれば当該変圧器においてこういった高周波信号の電圧までも正確に計測することが可能となる。
【0020】
さらには、電界を計測するときに注意を要する点として、センサを挿入したために測定対象の状態を乱してしまわないようにしなければならない点があり、この他、電界が急峻に変化しているケースがある点や、センサを挿入する空間が限られている点などを考慮すると、電界センサにはできるだけ小さい構造が求められる。この点、ポッケルスセンサを利用した本願発明にかかる光応用計器用変圧器によれば、一つの機器にてAC、DCさらには高周波までも正確に測定できることから、センサ自体を小型にできるという点で有利である。
【0021】
しかも、本願にかかる光応用計器用変圧器は、縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることから、電圧をより正確に測定できるという利点がある。ここで、「縦型」のポッケルスセンサとは、電界が印加される方向と光が透過する方向とが同じ向きとなっているポッケルスセンサのことである。ポッケルス効果は、結晶の3方向からの電界がそれぞれ複合した形で現れるというものであり、透過光の方向を適度に選ぶと(もちろん、結晶も適度に選ぶと)、特定の方向の電界だけ影響するように構成することができる。つまり、縦型というのは光を通す向きと同じ方向の電界のみ検出する方式だということができる。
【0022】
ここで、縦型変調のポッケルスセンサの長所を、横型変調のポッケルスセンサとの比較において図も使って説明すると以下のようになる(図1〜図4参照。図中の「H.V.」は高電圧(High Voltage)を表し、符号2iはポッケルス結晶、符号2jは透明導電膜を表している。ポッケルス結晶2i中における電界の向きはいずれも下向きである)。すなわち、横型変調の場合には図1に示すように電界と光が垂直になるのに対し、縦型変調の場合には図2に示すように電界と光が平行となる。この場合(縦型変調の場合)、電極には透明導電膜が必要である。ここで、図1に示した横型変調の場合には、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が電極付近に集まり、光の伝搬する結晶中央部の電界が弱められることになる(図3参照)。光は電界の弱いところしか伝搬しないから、この場合には印加電圧によらずに小さな値しか出力されない(図3参照)。一方、図2に示した縦型変調の場合には、結晶内のキャリアによって電界が強められた部分と弱められた部分の両方を透過するため、積分すれば電極間の電位に比例する値を出力できる(図4参照)。以上のことから、縦型変調のポッケルスセンサの利点として、電圧を正確に測ることができるという点を挙げることができる。
【0023】
すなわち、ポッケルス効果は電圧ではなく電界に比例して現れる効果であるから、ポッケルスセンサによって測定されるのは電界である。ここで、ポッケルスセンサが横型変調のものであれば、電極構成が一定であるため電圧をかけたとき結晶にかかる電界が一意的に決まり、校正すれば電圧を推定できる、というのが測定原理である。一方、縦型変調の場合、結局のところ校正は必要となるが、測定原理が異なる。つまり、例えば電磁気の話でいえば、A点からB点まである経路を考え、その方向の電界成分を積分するとAB間の電位差になる。この場合のセンサが縦型の場合、光は、進行方向の電界を受けながら進行するから、この積分をしたことになり、たとえ何らかの原因でAB間の電界分布が変わったとしても、AB間の電位差が同じであれば同じ値を算出することが可能となる。これが縦型変調のポッケルスセンサの一つの長所である。
【0024】
縦型変調のポッケルスセンサが有する長所は、特にDC電圧を測定する場合に効果を奏する。すなわち、ポッケルス結晶はどんなにピュアに作成して純度を高めても、ある割合で内部欠陥(結合の欠陥)ができ、キャリア(電荷を持った移動可能な粒子)が多数存在することになる。その移動度は遅く、50Hz程度では追従できないといわれているが、DCをかければ数分のオーダで結晶表面付近まで移動する。この場合、これらキャリアは電荷を持ち、その周囲に電界をつくることから、これらキャリアの集まり具合によって内部の電界分布が変わってきてしまうという問題が生じ得る。ここで、ポッケルスセンサが横型の場合であれば、最初は結晶全体に「電位差/電極間距離」という電界が作用し、キャリアが電極近傍に移動するため、結晶中央部の電界がマスクされ、電界が弱まっていってしまうというように影響を受ける。しかし、ポッケルスセンサが縦型の場合である場合には、電極間の電位差が同じであれば影響を受けないという長所がある。
【0025】
ここで、縦型変調のポッケルスセンサによれば高周波帯の信号測定が可能となる理由について説明すると以下のとおりである。すなわち、例えば横型変調のポッケルスセンサの場合であれば分圧を行っており、センサ部分にかかる電圧は、GISで絶縁に使用されているSF6(六フッ化硫黄)ガスとポッケルス結晶との誘電率比および当該領域の厚さで決まり、誘電率には周波数依存があるため、ターゲットとする周波数を決めてその分圧比をあらかじめ調べておかなければ校正が困難である。例えば、ターゲットとする周波数を多数選んでそれぞれ校正すれば不可能なわけではないが実用的ではない。これに対し、分圧を行わず、全電圧をかける縦型変調の方式であればポッケルス効果の応答周波数全般にわたって測定することが可能となる。
【0026】
さらに、縦型変調のポッケルスセンサによればDCの測定が可能となる理由について説明すると以下のとおりである。すなわち、ポッケルス結晶には微量の不純物が含まれるため、移動度の低いキャリア(電荷)が多数存在し、結晶内部を動くことができる。このキャリアは商用周波数程度の速度で正負に変化する電圧に対してはほとんど動かないが、DCに対してはゆっくりと移動するため、横型変調の場合だと電極近傍に逆符号の電荷が蓄積し、結晶内部(検出光の伝搬する部位)に電界がかからない、いわばシールドされた状態となる(図3参照)。これに対し、縦型変調の場合、やはりキャリアの移動はあるものの、検出光は必ずキャリアが蓄積しているエリアも透過するため、キャリアと電極間の電界も加味した出力を得ることができる(図4参照)。これを電磁気学的にいえば、電極間を伝搬する光が、その進行方向の電界を積分しながら進むことになるため、電極間の電圧を得ることができる、ということになる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によれば、ポッケルス効果を利用し、分圧を行わずに、DC電圧、さらにはGHz帯高周波までの広い周波数範囲をすべてカバーして測定することが可能となる。この結果、本発明によれば高周波電圧やDC電圧についても精度に変動を来すことなく正確に測定することができるようになる。
【0028】
しかもこの光応用計器用変圧器は、ポッケルスセンサで構成されていることから、変電設備の異常を検出するセンサとしての機能も併せ持つことになる。すなわち、この計器用変圧器によれば残留直流電圧を検出することができるから、残留直流電圧をGISの異常と関連づけ、GISのいずれかの部位において異常が生じているとの警報を発することができる。つまり、本発明の光応用計器用変圧器は単にDCや高周波電圧の計測が可能となっているばかりでなく、いわば異常診断機能、機器異常監視機能を併せ持つことによって異常を知らせることも可能なものである。換言すれば、GISに必須の計器用変圧器(VT)で当該GISの異常監視を併せて行う本願の光応用計器用変圧器によれば、光応用計器用変圧器として縦型変調・全電圧印加のポッケルス電圧センサを適用することにより、商用周波のみならずGIS異常の指標となるDCおよび高周波帯の信号を同一のセンサによって監視することが可能となる。
【0029】
また、このような異常診断機能を計器用変圧器(VT)が併せ持つことによって、今後ますます進展すると考えられるメンテナンスの高度化にも役立つ。具体的には、例えばTBM(Time Based Maintenance、定期点検によるメンテナンスのことであり、設備の状態や重要度にかかわらず、設備ごとに設定した一定の間隔(5年とか10年とか)で点検するというもの)からCBM(Condition Based Maintenance、点検というよりも(何らかの方法で)状態を「診断」して、問題なさそうならしばらく次の診断を手控える、問題がありそうならすぐまた様子を見る、というように設備の状態に応じてメンテナンスを行うというもの)への移行、あるいはRCM(Reliability Centered Maintenance、その設備の壊れやすさや、もしそれが壊れた場合の全体機能への影響の大きさを考慮してメンテナンスを行う(手間、費用の優先順位を決める)というもの)、アセットマネージメント的評価の導入といったように、メンテナンスの高度化に十分に対応可能な変電システムを実現することに貢献することができる。なお、ここでアセットマネージメント的評価といっているのは、設備単体を対象に長く使えるとか、メンテナンス費用をセーブできるという指標ではなく、設備を有する会社全体の利益が最適化されるように、全体を見て、設備投資やメンテナンス費用分配を考えようというものである。また、上述した「メンテナンスの高度化」というのは、結局メンテナンス費用を削減しても信頼度を落とさないか、あるいはある程度信頼度は落ちるけれども会社全体としてみればメリットが出せる、という成果を得ることである。上記のCBM、RCM、アセットマネージメント、というようなことを実際に行うためには設備状態を把握できる診断法なり計測手段なりが必要であり、本発明にかかる機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によればこういった計測手段の一つたり得る。
【0030】
さらには、計器用変圧器自体、変電設備に必要不可欠な機器であるが、本発明によれば当該光応用計器用変圧器自体に診断機能を併せ持たせることができるため、異常診断のために別の検出装置を別途設置する必要がない。したがって、変電設備のコスト、およびサイズといった面で有利である。
【0031】
また、請求項2に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によれば、商用周波、高周波、DCのいずれの信号も測定できるうえ、当該計器用変圧器において所定の設定レベルを超える程度の異常が生じた場合には警報を発して外部にいち早く知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図4〜図11に本発明の実施の一形態を示す。本発明にかかる機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器2は変電設備1において用いられる変圧器であって、ポッケルス効果を利用するポッケルスセンサ自体によって構成されているものである。本実施形態においてはこのポッケルスセンサとして縦型のものを採用している。この場合、光応用計器用変圧器2に光を通過させておき(図10参照)、当該通過後の光を計測することによって商用周波のAC電圧等の変化を直接計測することができる。さらに、このような光応用計器用変圧器2によれば、残留直流電圧を検出できる機能を併せ持つため、残留直流電圧が見つかれば異常だと判断することができる。つまり、変電設備1の状態ないしは状況をモニタする機能を光応用計器用変圧器2自身が備えているということができる。
【0034】
変電設備1は各発電所で発生した電力を送配電線を通して効率よく需要家まで輸送することを目的とした設備である。発生した電力はいったん昇圧されてから送電線によって変電設備1に送電され、そこで降圧された後、送電線や配電線を通してさらに他の変電所へ送電されたり需要家に送り届けられたりする。変電設備1は、変圧器、遮断器、断路器、調相設備、避雷器、変成器などといった主要機器で構成されている。例えば図5に示す一般的な変電設備1は、計器用変成器3、断路器4、遮断器5、計器用変成器6、断路器7、遮断器8、避雷器9、変圧器10、遮断器11、計器用変成器12などによって構成されている。これらのうち計器用変成器(図中の符号でいえば3,6,12が該当)は計器用変圧器(VT)と変流器(CT)とで構成されており、本実施形態では計器用変圧器としてポッケルスセンサを採用し、光を応用した計器用変圧器を構成することとしている(図10等参照)。
【0035】
光応用計器用変圧器2を構成するポッケルスセンサの原理は以下のとおりである(図6等参照。図6中ではポッケルス結晶を符号2iで示している)。まず、ポッケルスセンサが奏するポッケルス効果というのは電気光学効果の一つで、外部からかかる電界に比例して屈折率が変わる現象のことを指す。この現象を利用し、あらかじめポッケルス結晶2iに光を通しておき(図10参照)、この光の屈折率変化を光の変化として取り出すのがポッケルスセンサの原理である。ここで、「光」は電磁波の一種であり、電磁波はその周波数(波長)によって電波と呼ばれたり、X線と呼ばれたりする。これらはみな「波」としての性質を持ち、伝搬していく最中に電磁界ベクトルが伸び縮みする。その波のタイミングは位相と呼ばれるが、条件によって、縦方向に伸び縮みする場合と横方向に伸び縮みする場合とで当該波の位相がずれる(波に位相差が生じる)ことがある(図6参照。なお、図中の矢印は電界ベクトルを表している)。例えば図6の場合、センサに入射する前の段階で電磁界ベクトルの位相差0であったのが、センサ通過後には位相差Γが生じる。ポッケルス効果のある材料の中では、この位相差Γが外部からの電界によって変化する。このため、縦横両方の波をあらかじめ通しておき、位相差Γを観察すると電界を計測することができる。以上がポッケルス効果を用いたセンサの原理である。別の表現をすれば、電場(電界)を印加した場合に、誘起された常光線が異常光線に関してその位相を進めたり遅らせたりできる特定の結晶に見られる効果なしいはその性質を利用するものである。なお、位相差Γを観察するにあたっては、実用上は光の強度に変換して検出することがある。センサの材質としては例えばLiNbO3が用いられる。
【0036】
ここで、光応用計器用変圧器2は、例えばポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路13に導く構成とすることができる。このような場合、通常時の測定は商用周波数に対応する光信号のみとし、DCと高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発することとすれば何らかの異常が生じた場合にもいち早く外部に知らせることが可能となる。
【0037】
O/E変換回路13はセンサからの光ファイバを3つに分け、それぞれをO/E回路に送り込むという回路であり、例えば光学的なカプラ(分配・結合器)が利用されている。図11に最も単純な構成のO/E変換回路の一例を示す。一般的なO/E変換回路13は、単純にPiNフォトダイオードに直流バイアス電圧をかけておいてRC回路に電流を流せるようにしたものとなるが、この他にも、S/N比を上げるためにアクティブなフィルタを入れたり、アンプで増幅したりということも考えられる。あるいは、フォトダイオードではなくフォトマルチプライヤを用いることも可能である。
【0038】
また、サンプリング間隔は、当該変電設備の状況や規模などに応じて種々設定することができるものであり、例示すれば、例えば直流残留電圧は主に遮断器動作後に発生する可能性があるということからすれば遮断器動作後にサンプリングしてもよいし、あるいは異常監視という観点から1時間に1回程度といった割合でサンプリングしてもよい。例えば高周波に関していえば、外気温などの影響を受けることも考えられるためやはり1時間に1回程度のサンプリングは好ましい態様である。
【0039】
続いて、ポッケルス効果を利用した高電圧の直接測定の概要について説明する。ポッケルス効果を用いた縦型変調の高電圧測定装置は、広い帯域性・高い電気絶縁性・対象への擾乱の少なさ、といった優れた特性を持つ光計測を可能とする。さらに、本実施形態における高電圧測定装置の特長の一つとして、分圧せずに直流・交流・インパルス高電圧のすべてを直接測定できるという点もある。ここで、ポッケルス結晶2iに直線偏光を入射し電圧をかけると、このポッケルス結晶2i中を伝搬する光に位相差が生じる。その光を検光子で検波すると、電圧に比例して光出力が変化する。例えば入射光強度をIi、射出光強度をIo、印加電圧をVとすると、
[数1]
Io/Ii=(1−coskV)/2
と表すことができる。ちなみにkは係数であり、その値はポッケルス係数やセンサの構成によって決まる。
【0040】
次に実験装置と実験方法について説明する(図7参照)。まずポッケルスセンサを利用した光応用計器用変圧器2のセンサ部であるが、電圧センサ2aには例えば2mm角で長さ60mmのBGO結晶を4本直列にし、長さの合計240mmとして用いている。BGO結晶にはいくつかの種類があるが本実施形態で用いられるものはBi4Ge3O12 という組成式で表され、ビスマスとゲルマニウムと酸素が4:3:12の割合で結合している結晶である。このBGO結晶は電界がかかっていないときに各方向の屈折率が等しく、尚かつ縦型変調も実現しやすい、使いやすい結晶である。その細長い結晶をスペーサ2bで支え、その両端のうち、入射光(Ii)側には偏光子2cとレンズ2dを設け、射出光(Io)側にはレンズ2dと検光器2eを設ける(図7参照)。さらに、入射光(Ii)側には偏波面保存ファイバ2f、射出光側にはマルチモードファイバ2gをリンクさせる。さらに、金属電極2hを設ける。光源には例えばLD14が用いられ、例えば波長1300nmと1550nmの2つの光が利用される。本実施形態ではレーザ光を光検出器15で検出している。なお、光応用計器用変圧器2の絶縁耐力を高めるという観点からすれば、装置全体にSF6(六フッ化硫黄)ガスを満たすといった処理を施しておくことが好ましい。
【0041】
続いて、交流電圧測定例とインパルス電圧測定例を示す(図8、図9参照)。ここでは印加電圧が90kVの場合について示している。最も上のラインは1300nmのLDの光を表し、真ん中のラインは1550nmのLDの光を表している。また、最も下のラインは参照電圧を表している。この例からすると、ポッケルスセンサからの信号は参照電圧に対してよく追従することがわかる。数式1を用いてIi、Io に数値を入れることで電圧を逆算することができる。
【0042】
上記の光応用計器用変圧器2による機器異常監視機能の一例として、変電設備1のGISの異常監視機能を挙げることができる。GISは既に説明したようにガス絶縁開閉装置のことで、断路器、遮断器、接地装置、避雷器等を容器内に一括収納した構造となっており、例えば地下変電所ではほぼ必ず使用されているものである。このようなGISについては、近年、何らかの不具合が生じているとすれば、スイッチを切ったときスイッチ構造のいずれかの部分に溜まった電荷が悪影響を及ぼしているとの考え方がされるようになっており、このような考え方に基づき、この残留DC(つまり溜まっている電荷)を検出することができれば異常検出に関連づけられると考えられるようになっている。また、現状においては、GISにおいて直流電圧を残留させた場合の絶縁性能検証や残留直流電圧の減衰特性実測といった各種実験が行われている。この点、本実施形態で説明した光応用計器用変圧器2を適用した場合、このような残留直流電圧を検出し、この検出結果からGISの異常の有無を診断することが可能となる。つまり、本実施形態で説明した光応用計器用変圧器2によれば、通常の機器のように変圧を行うという機能に加え、GISの診断を実施するという自己診断機能をも発揮することができる。
【0043】
上述したように、本実施形態においてはポッケルス効果を利用したオプトエレクトロニクスセンサを形成し、これによって変電設備1における光応用計器用変圧器2の小型・軽量化を図っている。この光応用計器用変圧器2は、光を応用することにより、直流からインパルス電圧まで広帯域の測定を一つの装置で可能とするもので、尚かつ、分圧することなく全電圧を直接測定することから周囲の電磁界の影響を受けないという特長を備えている。さらに、本実施形態においては2つの波長の光を入射することにより、直接測定可能な電圧を500kVまで拡大することを可能としている。
【0044】
加えて、変電設備1における計器用変圧器というのは日々使用され続けるものであることからすれば、当該変圧器あるいはその周囲における状況をモニタし、異常が生じているならばすぐに分かるような診断機能があれば好ましいところ、本実施形態にかかる光応用計器用変圧器2は変圧器自体が診断機能を備えているために好適である。この結果、残留直流電圧を検出したらGIS中のいずれかの部分に不具合があるということを変電設備1自体が診断できるといういわば自己診断機能を実現することができ、さらには警報によって周囲に知らしめることもでき、その分だけ多機能化を図ることができる。特に、本実施形態の光応用計器用変圧器2の場合にはDCのみならず高周波電圧も測定可能であるため、各種機器の部分放電による高周波信号をも検出し場合によっては診断することも可能である。以上より、自らも機器異常監視機能を有するという、従来にない光応用計器用変圧器2が実現されている。また、従来の計器用変圧器に、本来の変圧機能のみならず診断機能や監視機能をも併せて備えさせることができることになるから、診断や異常監視を行うための装置を別途設ける必要がなくなり、ひいては設備の低コスト化、小型化に役立つ。加えて、AC、DC、高周波のいずれの測定も可能な本実施形態の光応用計器用変圧器2によれば単一の装置で変圧器を構成することができるため、変電設備1の一機器としてコスト、サイズの面で有利である。このため、設備内容に比較してコスト負担が少なくて済むという利点がある。
【0045】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】横型変調のポッケルスセンサの原理を示す概略図である。
【図2】縦型変調のポッケルスセンサの原理を示す概略図である。
【図3】図1に示した横型変調のポッケルスセンサにおいて、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が移動したときの様子を示す概略図である。
【図4】図2に示した縦型変調のポッケルスセンサにおいて、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が移動したときの様子を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態を示したもので、一般的な変電設備の構成例を表す概略図である。
【図6】光応用計器用変圧器を構成するポッケルスセンサの原理を示したもので、伝搬していく最中に電磁界ベクトルの間に位相差が生じる様子を表す図である。
【図7】ポッケルスセンサの概略構成およびその拡大した中央部分を示す図である。
【図8】交流電圧測定例を示すグラフである。
【図9】インパルス電圧測定例を示すグラフである。
【図10】計器用変圧器をポッケルスセンサで構成するという概念を示す図である。
【図11】最も単純な構成のO/E変換回路の一例を示す図である。
【図12】超高圧の電圧をコンデンサ直列回路を利用して測定する手段を分かりやすく示す概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 変電設備
2 光応用計器用変圧器
13 O/E変換回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器に関する。さらに詳述すると、本発明は、変電設備における変圧器の構造の改良、および当該変電設備における各種機器の異常診断技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
変電所などを含む変電設備においては、高電圧回路から計器や継電器に必要な適当な電圧・電流を取り出すために計器用変成器が用いられている。計器用変成器は、変電設備における機器を外部の事故などから守り、また内部の事故では当該機器の損傷をできるだけ小さくし、電力系統に与える影響を極力小さくするための保護装置として機能する。
【0003】
この計器用変成器は計器用変圧器と変流器とに分けられ、このうちVT(Voltage Transformer)とも表記される計器用変圧器は、高電圧をそれに比例する電圧に変換し、電圧計等の計器や保護継電器に入力するためのものである。つまり、超高圧の電圧を測定する場合、そのままだと絶縁破壊を起こしてしまい測定できないことから、図12に示すように例えばコンデンサの直列回路を利用して高電圧(High Voltage)を100対1の割合で分圧し、低い方の電圧を測定し、この測定結果を100倍することによって全体の電圧を推定するといった手法で電圧測定が行えるようにしている。
【0004】
電力機器を開発・試験するにあたり、こうした高電圧を正確に測定する技術は欠かせないものであり、現在、電圧変成器や各種分圧器を用いて高電圧を分圧・降圧することにより測定しているところである。こういった電力機器のうち、上述した計器用変圧器としては、例えばレーザ光といった光技術を応用し電圧等を測定するようにした機器が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−211569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光を応用した計器用変圧器においては、周波数が変わると測定精度が変動してしまうという問題がある。すなわち、AC(交流)については例えば上述のように100対1の割合で正確に分圧できる構造であっても、測定対象が高周波だったりあるいはDC(直流)だったりすると100対1の割合が保たれ得ずに変わってしまい、この結果、測定精度が変動してしまうことがある。だからといって対象設備における種々の周波数ごとに計器用変圧器を導入することはコスト面や設備のサイズといった面から現実的ではない。要するに、電力機器を開発・試験・運用するにあたっては正確な測定機器が欠かせないが、こうした測定機器に関してはコストやサイズといった面での改善が常に求められている状況である。
【0007】
また、現実に存在する要望として、変電設備においては、設備における異常を検出するためのセンサが低コストであるならば併設しておきたいという考えがある。しかし、実際問題としてはコストの面、あるいは新たに導入するとさらなる設置スペースを要するといった面が考慮され、このような異常検出用のセンサの併設が見送られている場合が多いというのが現状である。さらに付け加えると、例えば10MHzの周波数を測定すれば異常を検出できるであろうという見通しが仮にあったとしても、それを実施した場合に必ず異常検出できるという効果が十分に実証されていないことからセンサ導入の起因となりにくいといった面もある。
【0008】
さらに、実際問題として、変電設備においては商用のAC電圧が測定できればよく、高周波やDC電圧は測定できなくても差し支えないと扱われている面もある。つまり、従来の計器用変圧器で商用周波のAC電圧が正確に測定できればそれで足り、DCあるいは高周波まで正確に測定する必要は特にないと考えられている場合があり、こういった現状も新規センサ導入の起因が生じにくい一因であるものと考えられる。
【0009】
加えて、AC、DC、さらには例えば10MHz以上程度の高周波電圧をすべて一の機器で測定する場合には、これらを分圧し、場合によってはO/E変換(Optical to Electric)回路も使わなくてはならない場合があり、設備コストと手間がかかる。こういった背景から、現状での変電設備の計器用変圧器は、異常を検出するためのセンサを備えていないことがほとんどであり、尚かつこれを備えるとしても別途コストがかかってしまう。
【0010】
そこで本発明は、高周波電圧やDC電圧についても精度に変動を来さず正確に測定することができ、尚かつ変電設備の異常を検出するセンサとしての機能も併せ持った機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明者は種々の検討を行った。この中で、まず、電力会社にとってまず測定しなければならない情報は、販売電力量と密接に関わる商用周波数の電圧および電流であるという背景がある。このうち電圧について、特にGIS(Gas Insulated Switchgear、ガス絶縁開閉装置)における電圧については、しゃ断部、母線部と同様にガス絶縁タンクに収められた計器用変圧器(VT)で測定されることになるが、商用周波の信号を正確に測ることのみが目的とされており、また変圧器の原理を使用した測定技術であるために、DCや高周波には対応していない、あるいはDCや高周波を測定するための技術が確立していないのは上述したとおりである。
【0012】
一方、GISは内部構造が疎であり、経年劣化する部位が少ないため、設計寿命中はもちろん、それを越えても問題なく使用でき、異常は発生しないのでは、といわれている向きもある。また、近年の設備投資抑制の流れから、電力会社では、必要に応じて異常を監視しながらも設備を限界まで使用していくことを考えている。また最近の傾向として、変電所の設置面積を縮小するため、新設時のみならず既設設備の更新時においてもGISが導入される傾向にある。したがって、低コストであればGIS異常監視装置導入のニーズは高いと考えられた。
【0013】
そこで、本発明者は変電設備のGISにおける異常について種々調査・検討し、その結果、GISにおける異常と残留直流(DC)電圧との関連性に関する知見を得た。つまり、近年、GISに関してはこの残留直流電圧と絶縁性能異常との関連性が注目されるようになってきており、この点に着目すると、直流電圧が測定できればGISの健全性診断が可能になる、つまり残留直流電圧との関連性においてGISの異常検出をすることが可能になるとの知見を得、この点を考慮すると直流電圧を測定することに意義があると考えた。したがって、残留直流電圧を測定できる機能を備えることによって、設備中に不具合が生じた場合には少なくとも設備中のいずれかの部分に不具合があることを検出することができるとの考えに達した。
【0014】
ここで、GISにDC電圧が残る理由とその影響について簡単に説明しておくと以下のとおりである。すなわち、GIS中では、ガスタンク中で高圧導体を支えるスペーサが設置されている。これは高分子材料(エポキシなど)でできており、表面に電荷が蓄積する可能性がある。その場合、高圧導体に逆極性の電圧がかかっている間はスペーサ−高圧導体間に想定している以上の高電界がかかることになり、絶縁破壊に至る可能性がある。
【0015】
さらに、GISに高周波信号が発生する理由とその影響についても簡単に説明しておくと以下のとおりである。すなわち、GISの絶縁ガスであるSF6ガスは非常に優れた電気絶縁性能を示すが、微小な金属異物が混入した場合、電界集中が生じ、部分放電から絶縁破壊にまで至る可能性が指摘されている。この初期段階である部分放電はMHz〜GHz帯の広い周波数帯域を持つが、周辺ノイズ等との関係から1〜2GHz程度を観察する方法が提案されている。なお、高周波信号は反射を繰り返し、また減衰するため、VT近傍の設備(すなわちGIS)以外(例えば変圧器)からの信号は観測されないと考えられる。
【0016】
本発明は上述した考えと知見とに基づくものであり、請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器は、変電設備において用いられる変圧器であって縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることを特徴としているものである。また、請求項2に記載の発明は、ポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路に導くとともに、通常時の測定は商用周波数に対応する光信号のみとし、DCと高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発するというものである。
【0017】
上述した考えのもと、本発明者は、ポッケルス効果を用いた電界計測手法に着目した。ポッケルス効果を奏するいわゆるポッケルスセンサは、高電圧・高電界領域への適用も可能で、適切な構成、計測系をセッティングすれば従来不可能であった計測が可能になると考えられた。つまり、ポッケルス効果とは電界により屈折率が比例的に変化する現象であり、このような効果を奏するオプトエレクトロニクスセンサであるポッケルスセンサの利点として、印加電圧に対する屈折率の追従特性がGHz帯にまで達すること、このため高速現象への計測適用が期待できること、ポッケルス素子そのものが絶縁体であり消費電力が小さいこと、といったものがあることに着目した。このようなポッケルスセンサを用いた電圧、電界測定技術によれば、従来不可能であった高電圧の直接測定が可能となり、さらに、直流から数十MHzまでの高周波帯の信号をも測定対象に含めることが可能となる。
【0018】
つまり、GISの異常は特に国内製品では希にしか考えられないため、その検出のために測定器をわざわざ取り付けることは現状考えにくいという背景はあるが、異常の可能性(例えば、しゃ断後のスペーサへの残留電荷による直流残留電圧や、内部異物による部分放電)は指摘されており、放置しておけば故障・事故につながるとも考えられている。そこで、GISに必須である計器用変圧器(VT)を光応用センサとし、検出回路の部分を三種類の波長帯に対応できるようにしておけば、測定器追加等のコストなしで異常監視を行うことができる。要は、その構成にもよるが、光応用電圧センサは一つのセンサで商用周波数のみならずDCから高周波(〜GHz)まで測定することが可能である。したがって、このセンサをGIS用の計器用変圧器(VT)として利用し、DC、AC(商用周波)、高周波(GHz帯)を同時にモニタすれば、常時のAC電圧測定のみならず、希な頻度で発生する異常をも監視することが可能となる。
【0019】
また、変電設備で異常が起こってしまうと一般には部分放電も起きてしまうことが多く、この場合の部分放電は高周波信号であることから、商用周波数に載っている(重畳している、あるいは加算されている)であろうと考えられる。この点、商用周波ばかり監視していた従来の計器用変圧器ではこのような高周波信号までを測定することができないが、ポッケルスセンサによって変圧器を構成した本発明によれば当該変圧器においてこういった高周波信号の電圧までも正確に計測することが可能となる。
【0020】
さらには、電界を計測するときに注意を要する点として、センサを挿入したために測定対象の状態を乱してしまわないようにしなければならない点があり、この他、電界が急峻に変化しているケースがある点や、センサを挿入する空間が限られている点などを考慮すると、電界センサにはできるだけ小さい構造が求められる。この点、ポッケルスセンサを利用した本願発明にかかる光応用計器用変圧器によれば、一つの機器にてAC、DCさらには高周波までも正確に測定できることから、センサ自体を小型にできるという点で有利である。
【0021】
しかも、本願にかかる光応用計器用変圧器は、縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることから、電圧をより正確に測定できるという利点がある。ここで、「縦型」のポッケルスセンサとは、電界が印加される方向と光が透過する方向とが同じ向きとなっているポッケルスセンサのことである。ポッケルス効果は、結晶の3方向からの電界がそれぞれ複合した形で現れるというものであり、透過光の方向を適度に選ぶと(もちろん、結晶も適度に選ぶと)、特定の方向の電界だけ影響するように構成することができる。つまり、縦型というのは光を通す向きと同じ方向の電界のみ検出する方式だということができる。
【0022】
ここで、縦型変調のポッケルスセンサの長所を、横型変調のポッケルスセンサとの比較において図も使って説明すると以下のようになる(図1〜図4参照。図中の「H.V.」は高電圧(High Voltage)を表し、符号2iはポッケルス結晶、符号2jは透明導電膜を表している。ポッケルス結晶2i中における電界の向きはいずれも下向きである)。すなわち、横型変調の場合には図1に示すように電界と光が垂直になるのに対し、縦型変調の場合には図2に示すように電界と光が平行となる。この場合(縦型変調の場合)、電極には透明導電膜が必要である。ここで、図1に示した横型変調の場合には、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が電極付近に集まり、光の伝搬する結晶中央部の電界が弱められることになる(図3参照)。光は電界の弱いところしか伝搬しないから、この場合には印加電圧によらずに小さな値しか出力されない(図3参照)。一方、図2に示した縦型変調の場合には、結晶内のキャリアによって電界が強められた部分と弱められた部分の両方を透過するため、積分すれば電極間の電位に比例する値を出力できる(図4参照)。以上のことから、縦型変調のポッケルスセンサの利点として、電圧を正確に測ることができるという点を挙げることができる。
【0023】
すなわち、ポッケルス効果は電圧ではなく電界に比例して現れる効果であるから、ポッケルスセンサによって測定されるのは電界である。ここで、ポッケルスセンサが横型変調のものであれば、電極構成が一定であるため電圧をかけたとき結晶にかかる電界が一意的に決まり、校正すれば電圧を推定できる、というのが測定原理である。一方、縦型変調の場合、結局のところ校正は必要となるが、測定原理が異なる。つまり、例えば電磁気の話でいえば、A点からB点まである経路を考え、その方向の電界成分を積分するとAB間の電位差になる。この場合のセンサが縦型の場合、光は、進行方向の電界を受けながら進行するから、この積分をしたことになり、たとえ何らかの原因でAB間の電界分布が変わったとしても、AB間の電位差が同じであれば同じ値を算出することが可能となる。これが縦型変調のポッケルスセンサの一つの長所である。
【0024】
縦型変調のポッケルスセンサが有する長所は、特にDC電圧を測定する場合に効果を奏する。すなわち、ポッケルス結晶はどんなにピュアに作成して純度を高めても、ある割合で内部欠陥(結合の欠陥)ができ、キャリア(電荷を持った移動可能な粒子)が多数存在することになる。その移動度は遅く、50Hz程度では追従できないといわれているが、DCをかければ数分のオーダで結晶表面付近まで移動する。この場合、これらキャリアは電荷を持ち、その周囲に電界をつくることから、これらキャリアの集まり具合によって内部の電界分布が変わってきてしまうという問題が生じ得る。ここで、ポッケルスセンサが横型の場合であれば、最初は結晶全体に「電位差/電極間距離」という電界が作用し、キャリアが電極近傍に移動するため、結晶中央部の電界がマスクされ、電界が弱まっていってしまうというように影響を受ける。しかし、ポッケルスセンサが縦型の場合である場合には、電極間の電位差が同じであれば影響を受けないという長所がある。
【0025】
ここで、縦型変調のポッケルスセンサによれば高周波帯の信号測定が可能となる理由について説明すると以下のとおりである。すなわち、例えば横型変調のポッケルスセンサの場合であれば分圧を行っており、センサ部分にかかる電圧は、GISで絶縁に使用されているSF6(六フッ化硫黄)ガスとポッケルス結晶との誘電率比および当該領域の厚さで決まり、誘電率には周波数依存があるため、ターゲットとする周波数を決めてその分圧比をあらかじめ調べておかなければ校正が困難である。例えば、ターゲットとする周波数を多数選んでそれぞれ校正すれば不可能なわけではないが実用的ではない。これに対し、分圧を行わず、全電圧をかける縦型変調の方式であればポッケルス効果の応答周波数全般にわたって測定することが可能となる。
【0026】
さらに、縦型変調のポッケルスセンサによればDCの測定が可能となる理由について説明すると以下のとおりである。すなわち、ポッケルス結晶には微量の不純物が含まれるため、移動度の低いキャリア(電荷)が多数存在し、結晶内部を動くことができる。このキャリアは商用周波数程度の速度で正負に変化する電圧に対してはほとんど動かないが、DCに対してはゆっくりと移動するため、横型変調の場合だと電極近傍に逆符号の電荷が蓄積し、結晶内部(検出光の伝搬する部位)に電界がかからない、いわばシールドされた状態となる(図3参照)。これに対し、縦型変調の場合、やはりキャリアの移動はあるものの、検出光は必ずキャリアが蓄積しているエリアも透過するため、キャリアと電極間の電界も加味した出力を得ることができる(図4参照)。これを電磁気学的にいえば、電極間を伝搬する光が、その進行方向の電界を積分しながら進むことになるため、電極間の電圧を得ることができる、ということになる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によれば、ポッケルス効果を利用し、分圧を行わずに、DC電圧、さらにはGHz帯高周波までの広い周波数範囲をすべてカバーして測定することが可能となる。この結果、本発明によれば高周波電圧やDC電圧についても精度に変動を来すことなく正確に測定することができるようになる。
【0028】
しかもこの光応用計器用変圧器は、ポッケルスセンサで構成されていることから、変電設備の異常を検出するセンサとしての機能も併せ持つことになる。すなわち、この計器用変圧器によれば残留直流電圧を検出することができるから、残留直流電圧をGISの異常と関連づけ、GISのいずれかの部位において異常が生じているとの警報を発することができる。つまり、本発明の光応用計器用変圧器は単にDCや高周波電圧の計測が可能となっているばかりでなく、いわば異常診断機能、機器異常監視機能を併せ持つことによって異常を知らせることも可能なものである。換言すれば、GISに必須の計器用変圧器(VT)で当該GISの異常監視を併せて行う本願の光応用計器用変圧器によれば、光応用計器用変圧器として縦型変調・全電圧印加のポッケルス電圧センサを適用することにより、商用周波のみならずGIS異常の指標となるDCおよび高周波帯の信号を同一のセンサによって監視することが可能となる。
【0029】
また、このような異常診断機能を計器用変圧器(VT)が併せ持つことによって、今後ますます進展すると考えられるメンテナンスの高度化にも役立つ。具体的には、例えばTBM(Time Based Maintenance、定期点検によるメンテナンスのことであり、設備の状態や重要度にかかわらず、設備ごとに設定した一定の間隔(5年とか10年とか)で点検するというもの)からCBM(Condition Based Maintenance、点検というよりも(何らかの方法で)状態を「診断」して、問題なさそうならしばらく次の診断を手控える、問題がありそうならすぐまた様子を見る、というように設備の状態に応じてメンテナンスを行うというもの)への移行、あるいはRCM(Reliability Centered Maintenance、その設備の壊れやすさや、もしそれが壊れた場合の全体機能への影響の大きさを考慮してメンテナンスを行う(手間、費用の優先順位を決める)というもの)、アセットマネージメント的評価の導入といったように、メンテナンスの高度化に十分に対応可能な変電システムを実現することに貢献することができる。なお、ここでアセットマネージメント的評価といっているのは、設備単体を対象に長く使えるとか、メンテナンス費用をセーブできるという指標ではなく、設備を有する会社全体の利益が最適化されるように、全体を見て、設備投資やメンテナンス費用分配を考えようというものである。また、上述した「メンテナンスの高度化」というのは、結局メンテナンス費用を削減しても信頼度を落とさないか、あるいはある程度信頼度は落ちるけれども会社全体としてみればメリットが出せる、という成果を得ることである。上記のCBM、RCM、アセットマネージメント、というようなことを実際に行うためには設備状態を把握できる診断法なり計測手段なりが必要であり、本発明にかかる機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によればこういった計測手段の一つたり得る。
【0030】
さらには、計器用変圧器自体、変電設備に必要不可欠な機器であるが、本発明によれば当該光応用計器用変圧器自体に診断機能を併せ持たせることができるため、異常診断のために別の検出装置を別途設置する必要がない。したがって、変電設備のコスト、およびサイズといった面で有利である。
【0031】
また、請求項2に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器によれば、商用周波、高周波、DCのいずれの信号も測定できるうえ、当該計器用変圧器において所定の設定レベルを超える程度の異常が生じた場合には警報を発して外部にいち早く知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図4〜図11に本発明の実施の一形態を示す。本発明にかかる機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器2は変電設備1において用いられる変圧器であって、ポッケルス効果を利用するポッケルスセンサ自体によって構成されているものである。本実施形態においてはこのポッケルスセンサとして縦型のものを採用している。この場合、光応用計器用変圧器2に光を通過させておき(図10参照)、当該通過後の光を計測することによって商用周波のAC電圧等の変化を直接計測することができる。さらに、このような光応用計器用変圧器2によれば、残留直流電圧を検出できる機能を併せ持つため、残留直流電圧が見つかれば異常だと判断することができる。つまり、変電設備1の状態ないしは状況をモニタする機能を光応用計器用変圧器2自身が備えているということができる。
【0034】
変電設備1は各発電所で発生した電力を送配電線を通して効率よく需要家まで輸送することを目的とした設備である。発生した電力はいったん昇圧されてから送電線によって変電設備1に送電され、そこで降圧された後、送電線や配電線を通してさらに他の変電所へ送電されたり需要家に送り届けられたりする。変電設備1は、変圧器、遮断器、断路器、調相設備、避雷器、変成器などといった主要機器で構成されている。例えば図5に示す一般的な変電設備1は、計器用変成器3、断路器4、遮断器5、計器用変成器6、断路器7、遮断器8、避雷器9、変圧器10、遮断器11、計器用変成器12などによって構成されている。これらのうち計器用変成器(図中の符号でいえば3,6,12が該当)は計器用変圧器(VT)と変流器(CT)とで構成されており、本実施形態では計器用変圧器としてポッケルスセンサを採用し、光を応用した計器用変圧器を構成することとしている(図10等参照)。
【0035】
光応用計器用変圧器2を構成するポッケルスセンサの原理は以下のとおりである(図6等参照。図6中ではポッケルス結晶を符号2iで示している)。まず、ポッケルスセンサが奏するポッケルス効果というのは電気光学効果の一つで、外部からかかる電界に比例して屈折率が変わる現象のことを指す。この現象を利用し、あらかじめポッケルス結晶2iに光を通しておき(図10参照)、この光の屈折率変化を光の変化として取り出すのがポッケルスセンサの原理である。ここで、「光」は電磁波の一種であり、電磁波はその周波数(波長)によって電波と呼ばれたり、X線と呼ばれたりする。これらはみな「波」としての性質を持ち、伝搬していく最中に電磁界ベクトルが伸び縮みする。その波のタイミングは位相と呼ばれるが、条件によって、縦方向に伸び縮みする場合と横方向に伸び縮みする場合とで当該波の位相がずれる(波に位相差が生じる)ことがある(図6参照。なお、図中の矢印は電界ベクトルを表している)。例えば図6の場合、センサに入射する前の段階で電磁界ベクトルの位相差0であったのが、センサ通過後には位相差Γが生じる。ポッケルス効果のある材料の中では、この位相差Γが外部からの電界によって変化する。このため、縦横両方の波をあらかじめ通しておき、位相差Γを観察すると電界を計測することができる。以上がポッケルス効果を用いたセンサの原理である。別の表現をすれば、電場(電界)を印加した場合に、誘起された常光線が異常光線に関してその位相を進めたり遅らせたりできる特定の結晶に見られる効果なしいはその性質を利用するものである。なお、位相差Γを観察するにあたっては、実用上は光の強度に変換して検出することがある。センサの材質としては例えばLiNbO3が用いられる。
【0036】
ここで、光応用計器用変圧器2は、例えばポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路13に導く構成とすることができる。このような場合、通常時の測定は商用周波数に対応する光信号のみとし、DCと高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発することとすれば何らかの異常が生じた場合にもいち早く外部に知らせることが可能となる。
【0037】
O/E変換回路13はセンサからの光ファイバを3つに分け、それぞれをO/E回路に送り込むという回路であり、例えば光学的なカプラ(分配・結合器)が利用されている。図11に最も単純な構成のO/E変換回路の一例を示す。一般的なO/E変換回路13は、単純にPiNフォトダイオードに直流バイアス電圧をかけておいてRC回路に電流を流せるようにしたものとなるが、この他にも、S/N比を上げるためにアクティブなフィルタを入れたり、アンプで増幅したりということも考えられる。あるいは、フォトダイオードではなくフォトマルチプライヤを用いることも可能である。
【0038】
また、サンプリング間隔は、当該変電設備の状況や規模などに応じて種々設定することができるものであり、例示すれば、例えば直流残留電圧は主に遮断器動作後に発生する可能性があるということからすれば遮断器動作後にサンプリングしてもよいし、あるいは異常監視という観点から1時間に1回程度といった割合でサンプリングしてもよい。例えば高周波に関していえば、外気温などの影響を受けることも考えられるためやはり1時間に1回程度のサンプリングは好ましい態様である。
【0039】
続いて、ポッケルス効果を利用した高電圧の直接測定の概要について説明する。ポッケルス効果を用いた縦型変調の高電圧測定装置は、広い帯域性・高い電気絶縁性・対象への擾乱の少なさ、といった優れた特性を持つ光計測を可能とする。さらに、本実施形態における高電圧測定装置の特長の一つとして、分圧せずに直流・交流・インパルス高電圧のすべてを直接測定できるという点もある。ここで、ポッケルス結晶2iに直線偏光を入射し電圧をかけると、このポッケルス結晶2i中を伝搬する光に位相差が生じる。その光を検光子で検波すると、電圧に比例して光出力が変化する。例えば入射光強度をIi、射出光強度をIo、印加電圧をVとすると、
[数1]
Io/Ii=(1−coskV)/2
と表すことができる。ちなみにkは係数であり、その値はポッケルス係数やセンサの構成によって決まる。
【0040】
次に実験装置と実験方法について説明する(図7参照)。まずポッケルスセンサを利用した光応用計器用変圧器2のセンサ部であるが、電圧センサ2aには例えば2mm角で長さ60mmのBGO結晶を4本直列にし、長さの合計240mmとして用いている。BGO結晶にはいくつかの種類があるが本実施形態で用いられるものはBi4Ge3O12 という組成式で表され、ビスマスとゲルマニウムと酸素が4:3:12の割合で結合している結晶である。このBGO結晶は電界がかかっていないときに各方向の屈折率が等しく、尚かつ縦型変調も実現しやすい、使いやすい結晶である。その細長い結晶をスペーサ2bで支え、その両端のうち、入射光(Ii)側には偏光子2cとレンズ2dを設け、射出光(Io)側にはレンズ2dと検光器2eを設ける(図7参照)。さらに、入射光(Ii)側には偏波面保存ファイバ2f、射出光側にはマルチモードファイバ2gをリンクさせる。さらに、金属電極2hを設ける。光源には例えばLD14が用いられ、例えば波長1300nmと1550nmの2つの光が利用される。本実施形態ではレーザ光を光検出器15で検出している。なお、光応用計器用変圧器2の絶縁耐力を高めるという観点からすれば、装置全体にSF6(六フッ化硫黄)ガスを満たすといった処理を施しておくことが好ましい。
【0041】
続いて、交流電圧測定例とインパルス電圧測定例を示す(図8、図9参照)。ここでは印加電圧が90kVの場合について示している。最も上のラインは1300nmのLDの光を表し、真ん中のラインは1550nmのLDの光を表している。また、最も下のラインは参照電圧を表している。この例からすると、ポッケルスセンサからの信号は参照電圧に対してよく追従することがわかる。数式1を用いてIi、Io に数値を入れることで電圧を逆算することができる。
【0042】
上記の光応用計器用変圧器2による機器異常監視機能の一例として、変電設備1のGISの異常監視機能を挙げることができる。GISは既に説明したようにガス絶縁開閉装置のことで、断路器、遮断器、接地装置、避雷器等を容器内に一括収納した構造となっており、例えば地下変電所ではほぼ必ず使用されているものである。このようなGISについては、近年、何らかの不具合が生じているとすれば、スイッチを切ったときスイッチ構造のいずれかの部分に溜まった電荷が悪影響を及ぼしているとの考え方がされるようになっており、このような考え方に基づき、この残留DC(つまり溜まっている電荷)を検出することができれば異常検出に関連づけられると考えられるようになっている。また、現状においては、GISにおいて直流電圧を残留させた場合の絶縁性能検証や残留直流電圧の減衰特性実測といった各種実験が行われている。この点、本実施形態で説明した光応用計器用変圧器2を適用した場合、このような残留直流電圧を検出し、この検出結果からGISの異常の有無を診断することが可能となる。つまり、本実施形態で説明した光応用計器用変圧器2によれば、通常の機器のように変圧を行うという機能に加え、GISの診断を実施するという自己診断機能をも発揮することができる。
【0043】
上述したように、本実施形態においてはポッケルス効果を利用したオプトエレクトロニクスセンサを形成し、これによって変電設備1における光応用計器用変圧器2の小型・軽量化を図っている。この光応用計器用変圧器2は、光を応用することにより、直流からインパルス電圧まで広帯域の測定を一つの装置で可能とするもので、尚かつ、分圧することなく全電圧を直接測定することから周囲の電磁界の影響を受けないという特長を備えている。さらに、本実施形態においては2つの波長の光を入射することにより、直接測定可能な電圧を500kVまで拡大することを可能としている。
【0044】
加えて、変電設備1における計器用変圧器というのは日々使用され続けるものであることからすれば、当該変圧器あるいはその周囲における状況をモニタし、異常が生じているならばすぐに分かるような診断機能があれば好ましいところ、本実施形態にかかる光応用計器用変圧器2は変圧器自体が診断機能を備えているために好適である。この結果、残留直流電圧を検出したらGIS中のいずれかの部分に不具合があるということを変電設備1自体が診断できるといういわば自己診断機能を実現することができ、さらには警報によって周囲に知らしめることもでき、その分だけ多機能化を図ることができる。特に、本実施形態の光応用計器用変圧器2の場合にはDCのみならず高周波電圧も測定可能であるため、各種機器の部分放電による高周波信号をも検出し場合によっては診断することも可能である。以上より、自らも機器異常監視機能を有するという、従来にない光応用計器用変圧器2が実現されている。また、従来の計器用変圧器に、本来の変圧機能のみならず診断機能や監視機能をも併せて備えさせることができることになるから、診断や異常監視を行うための装置を別途設ける必要がなくなり、ひいては設備の低コスト化、小型化に役立つ。加えて、AC、DC、高周波のいずれの測定も可能な本実施形態の光応用計器用変圧器2によれば単一の装置で変圧器を構成することができるため、変電設備1の一機器としてコスト、サイズの面で有利である。このため、設備内容に比較してコスト負担が少なくて済むという利点がある。
【0045】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】横型変調のポッケルスセンサの原理を示す概略図である。
【図2】縦型変調のポッケルスセンサの原理を示す概略図である。
【図3】図1に示した横型変調のポッケルスセンサにおいて、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が移動したときの様子を示す概略図である。
【図4】図2に示した縦型変調のポッケルスセンサにおいて、直流電界によって結晶内のキャリア(電荷)が移動したときの様子を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態を示したもので、一般的な変電設備の構成例を表す概略図である。
【図6】光応用計器用変圧器を構成するポッケルスセンサの原理を示したもので、伝搬していく最中に電磁界ベクトルの間に位相差が生じる様子を表す図である。
【図7】ポッケルスセンサの概略構成およびその拡大した中央部分を示す図である。
【図8】交流電圧測定例を示すグラフである。
【図9】インパルス電圧測定例を示すグラフである。
【図10】計器用変圧器をポッケルスセンサで構成するという概念を示す図である。
【図11】最も単純な構成のO/E変換回路の一例を示す図である。
【図12】超高圧の電圧をコンデンサ直列回路を利用して測定する手段を分かりやすく示す概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 変電設備
2 光応用計器用変圧器
13 O/E変換回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電設備において用いられる計器用変圧器であって縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることを特徴とする機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器。
【請求項2】
前記ポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路に導くとともに、通常時の測定は前記商用周波数に対応する光信号のみとし、前記DCと前記高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発することを特徴とする請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器。
【請求項1】
変電設備において用いられる計器用変圧器であって縦型変調のポッケルスセンサによって構成されていることを特徴とする機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器。
【請求項2】
前記ポッケルスセンサの回路定数を周波数によって変え、光検出回路の直前で光信号を3つに分割し、該分割後の光信号をそれぞれ、DC、商用周波数、高周波帯をターゲットとするO/E変換回路に導くとともに、通常時の測定は前記商用周波数に対応する光信号のみとし、前記DCと前記高周波帯それぞれに対応する光信号については一定のサンプリング間隔で測定し、所定の設定レベルを超えた場合に警報を発することを特徴とする請求項1に記載の機器異常監視機能を有する光応用計器用変圧器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−275974(P2006−275974A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99715(P2005−99715)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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