説明

機械パルプ及び高収率化学パルプの色戻りの低減方法

本発明は、望ましくない黄変、特に光及び熱によって起こる黄変に対するリグノセルロース材料の感受性を低減する方法に関する。本発明によれば、繊維を酵素学的又は化学的に活性化させ、その後、酸化した繊維材料に結合することが可能な変性剤と接触させて、色戻りの耐性を改良したリグノセルロース繊維材料を与える。本発明によって、光もしくは熱又はこれらの組合せによって起こる色戻りを遅らせたり、停止することさえできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品に関する。特に、本発明は、望ましくない色戻り、特に光又は熱によって起こる色戻りに対するリグノセルロース材料の感受性の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光(特に紫外線)、熱、湿気及び化学薬品がセルロースパルプの白色度の変化を起こし得ることが当業界で周知である。通常、かかる変化は、特に青色光の反射能の低下をもたらす。この現象は、色戻り又は黄変として知られており、パルプの種類に応じた種々の要因によって起こる場合がある。熱及び湿気が、化学(リグニンが含まれていない)パルプの色戻りの主要因である一方、機械パルプは光に曝されると、大部分が黄変する。また、機械パルプの色戻りは、用いた原材料(木材の種類)、製造方法(化学的前処理の有無)及び後処理(異なる試薬を用いる漂白)に応じて変わる。すなわち、例えば、スルホン化や過酸化物を用いた漂白は、光によって起こる黄変に対するパルプの感受性を非常に増大させる。
【0003】
リグノセルロースパルプや該パルプから作られた製品の色戻りを、種々の方法で、例えば、UVスクリーン、酸化防止剤もしくは重合体を用いた含浸又は表面処理によるか、或いは被膜層又は非黄変性化学パルプの層で表面をコーティングすることによって、低減したり、完全に抑制したりすることができる。種々の添加剤が特許文献に記載されている。例えば、米国特許第4978363号には、ケイ素原子に直接結合した少なくとも一つのアミノ置換炭化水素ラジカルを有するオルガノポリシロキサンと高級脂肪族カルボン酸との混合物に基づいた繊維を処理するための組成物及び方法が開示されている。該カルボン酸がアミノラジカルと反応して、繊維処理の黄変や酸化を低減する。該組成物及び方法は、非黄変性繊維、並びに二酸化炭素に曝したり、及び/又は炭素繊維を処理するために使用したりする場合などの使用時にゲル化しない処理剤を提供する。
【0004】
米国特許第6599326号には、ヒドロキシルアミンと他の共添加剤を用いたパルプ及び紙の黄変の抑制が開示されている。化学パルプ又は紙、特にクラフトパルプ又はクラフト紙は、依然として微量のリグニンを含有している場合があるが、有効安定化量のN,N-ジアルキルヒドロキシルアミン、エステル、アミドもしくはチオ置換のN,N-ジアルキルヒドロキシルアミン又はN,N-ジベンジルヒドロキシルアミン或いはこれらのアンモニウム塩を含む場合に耐黄変性を向上させる。この性能は、紫外線吸収剤、重合体の抑制剤、ニトロン、蛍光増白剤及び金属キレート剤よりなる群から選択される一種以上の共添加剤の存在によってしばしば一層増強される。上記特許文献によれば、ヒドロキシルアミン又はその塩、ベンゾトリアゾール又はベンゾフェノン紫外線吸収剤、及び金属キレート剤の組み合わせが特に効率的であるとみなされる。明確な例として、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンとN,N-ジベンジルヒドロキシルアミンが上記特許文献で言及されている。
【0005】
黄変を抑制するために見出された多くの添加剤は、高価であるか、又は環境上の観点から問題があり;他のものは、多量に導入した結果、製品の他の性質に負の効果をもたらしたり、又は不経済である場合に限り効力を有する。従って、黄変の抑制方法が依然として必要とされている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4978363号明細書
【特許文献2】米国特許第6599326号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、黄変を低減又は抑制する新規な方法を提供するものである。該方法は、光と熱の両方によって起こる機械パルプ及び高収率化学パルプの色戻りを効果的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リグニンの酸化、特に酵素酸化の間に起こる反応が、色戻りを起こす反応と類似しているように見える所見に基づくものである。その結果、色戻りを起こす初期反応を、酵素学的又は化学的な手段により活性化させると同時に、直ぐに該反応を遅らせるか、又は停止することにより、目標とされた官能基化によってブロックすることができる。
【0009】
すなわち、本発明は、ラジカル経路を経て酸化された繊維に新規な化合物を結合させることによって、繊維を変性する方法を提供する。特に、化合物を結合させる目的は、黄変反応に関与できない無色のリグニン誘導体を形成することで、構造を安定化させることである。
【0010】
本発明によれば、改質された性質を有する新規な繊維製品を、繊維上の着色部位の形成につながる反応を受け得るフェノール又は類似の構造の基を酸化することが可能な酸化剤を用いてマトリクスの繊維を活性化させ、その酸化部位の反応性をブロックするために少なくとも一種の変性剤を該酸化部位に結合させることによって製造する。該活性化は、酵素学的に行うことが好ましいが、同様に酸化/ラジカル化を達成するための化学薬剤を用いることもできる。
【0011】
上記変性剤は、リグノセルロース繊維材料、特に活性化の工程中に酸化した繊維の酸化されたフェノール基又は類似の化学構造に変性化合物を結合させるために備えた、少なくとも一種の官能部位又は反応性構造を有する。
【0012】
上述に基づいて、本発明は、フェノール又は類似の構造の基を有するリグノセルロース繊維マトリクスと黄変の感受性を低減する変性剤とを含み、前記酸化剤によるフェノール又は類似の構造の基の酸化を触媒することが可能な触媒の存在下、該酸化剤とリグノセルロース繊維マトリクスを反応させて、酸化された繊維材料を与える工程と、酸化された繊維材料と、該酸化された繊維材料に結合することが可能な少なくとも一種の第一官能部位を含有する変性剤とを接触させる工程とを備え、前記変性剤を光又は熱或いはそれらの組み合わせによって起こる色戻りに対する耐性を改良したリグノセルロース繊維マトリクスに付与することが可能である、耐色戻り性を増大させた繊維材料の製造方法を提供する。
【0013】
「触媒」の用語は、本文脈において広義の解釈が与えられるものであって、フェノール又は類似の基の酸化を達成することが可能で、限定されないが、好ましくは別々の酸化剤を組み合わせたあらゆる薬剤に及ぶことに注意すべきである。
【0014】
本発明の他の実施態様は、機械パルプ又は高収率化学パルプのフェノール基を酵素学的又は化学的に酸化させる工程と、酸化されたフェノール基に、黄変反応に関与できない無色のリグニン誘導体を形成することが可能な物質を結合させる工程とを備えた、光又は熱によって起こる機械パルプ又は高収率化学パルプの色戻りの低減方法を提供する。
【0015】
より具体的には、本発明は、主として請求項1〜18の特徴部分に言及されたことによって特徴付けられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、重要な利点を与える。重要なことには、本発明は、色戻りを改善した新規な種類の繊維材料を製造することを可能にする。上記方法によって、変性剤を確実に繊維に結合することができ、そして、改良された耐黄変性は、例えば、該材料で紙又は厚紙ウェブを形成する前の広範囲にわたる繊維の洗浄によって、著しく損なわれない。
【0017】
本発明の更なる詳細及び利点は、以下の詳細な説明と添付した実施例とから明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述のとおり、本発明は、一般に、低減した黄変に対する感受性を有する繊維組成物の製造方法に関する。
【0019】
上記繊維マトリクスは、適当な酸化剤により酸化させることが可能なフェノール又は類似の構造の基を含有する繊維からなる。通常、かかる繊維は、例えば機械、ケミメカニカル又は化学パルプ化によって、一年生もしくは多年生植物又は木質の原材料で作られた繊維を含む「リグノセルロース」繊維材料である。例えば、リファイナメカニカルパルプ化(RMP)、加圧リファイナメカニカルパルプ化(PRMP)、熱機械パルプ化(TMP)、砕木パルプ化(GW)又は加圧砕木パルプ化(PGW)或いはケミサーモメカニカルパルプ化(CTMP)による木材の工業的リファイニングの間に、例えば、広葉樹及び針葉樹種のような異なる木材種から得られる木質の原材料は、互いに単繊維を分ける方法で、微細繊維に精製される。一般には、該繊維を層間リグニン層に沿ってラメラ間で裂いて、フェノール系構造を有するリグニン又はリグニン配合物で少なくとも部分的に被覆された繊維表面を残す。
【0020】
また、本発明の範囲内において、化学パルプは色戻りに対して感受性があり、変性剤に結合部位を供給するのに必要な少なくとも最低限の量のフェノール基を与えるのに十分な残留リグニン量を有する場合に含まれる。一般に、繊維マトリクスにおけるリグニンの濃度は、少なくとも0.1重量%とすべきで、少なくとも約1.0重量%であるのが好ましい。
【0021】
上述した種類の紙又は板紙製造用パルプに加えて、バガス、ジュート及び大麻等の植物由来の他の種類の繊維を扱うこともできる。
【0022】
本発明の本質的な特徴は、繊維上のフェノールヒドロキシル基、アルファ-カルボニル基及び/又はアルファ-ヒドロキシル基の変性により色戻りをブロックすることである。特に、リグニンの構造に酵素酸化を施して酸化された前述の種類の基を得ることにより、色戻りを起こす通常の反応を達成することができる。その後、この反応を、酸化して活性化された基に所望の化合物を結合することにより停止する。
【0023】
本発明の方法の第一段階においては、リグノセルロース繊維材料をフェノール又は類似の構造の基の酸化を触媒することが可能な物質と反応させて酸化した繊維材料を得る。一般に、該物質は酵素であって、その酵素反応をリグノセルロース繊維材料と、酵素の存在下フェノール又は類似の構造の基を酸化して酸化繊維材料を与えることが可能な酸化剤との接触により行う。かかる酸化剤は、酸素、空気等の酸素含有ガス及び過酸化水素の群から選択される。効率的な混合、発泡、過酸化物のような酸素又は酵素学的もしくは化学的手段によって溶液に供給された酸素の豊富なガス等の種々の手段によって、酸素を供給することができる。過酸化物を添加したり、又は現場で生成したりすることができる。
【0024】
本発明の一の実施態様によれば、フェノール基の酸化を触媒することが可能な酸化酵素は、例えば、フェノールオキシダーゼ(E.C. 1.10.3.2 ベンゼンジオール:酸素酸化還元酵素)の群から選択され、単量体及び重合体の芳香族化合物中のオルト及びパラ置換フェノールヒドロキシル基及びアミノ/アミン基の酸化を触媒する。酸化反応は、フェノキシラジカルの形成に至る。酵素の他の群には、過酸化酵素及び他の酸化酵素が含まれる。「過酸化酵素」は、電子受容体として過酸化水素を用いて酸化反応を触媒する酵素である一方、「酸化酵素」は、電子受容体として分子酸素を用いて酸化反応を触媒する酵素である。
【0025】
本発明の方法において、使用する酵素は、例えば、ラッカーゼ、チロシナーゼ、過酸化酵素又は酸化酵素でもよく、特に、該酵素は、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC 1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)、西洋わさびペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)、マンガンペルオキダーゼ(EC 1.11.1.13)及びリグニンペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.14)の群から選択される。
【0026】
上記酵素の量は、個々の酵素の活性や望ましい繊維への効果に応じて選択される。酵素を乾燥物質の繊維1g当たり0.0001〜10mgプロテインの量で用いるのが有利である。
【0027】
異なる投与量を用いることができるが、約1〜100,000nkat/gの投与量が好都合であり、10〜500nkat/gの投与量がより好都合である
【0028】
酵素に加えて、アルカリ金属の過硫酸塩及び過酸化水素並びに他の過化合物等の化学薬剤も、フェノール基の酸化を達成してフェノキシラジカルを形成するために用いることができる。この化学薬剤の投与量は、該化学薬剤やパルプ(即ち、パルプに含まれたフェノール基の量)次第であって、約0.01〜100kg/トンの範囲が一般的であり、約0.1〜約50kg/トンの範囲が好ましく、例えば約0.5〜20kg/トンの範囲である。化学薬剤の場合、別の酸化剤を添加する必要がない。過化合物が、所期のフェノール基の酸化を達成することになる。
【0029】
上記活性化処理を、液媒体、好ましくは水又は水溶液等の水性媒体中、5〜100℃、一般に約10〜85℃の範囲の温度で行う。通常、20〜80℃の温度が好ましい。パルプのコンシステンシーは、一般に0.5〜95重量%、通常約1〜50重量%、とりわけ約2〜40重量%である。媒体のpHはわずかに酸性であるのが好ましく、特にフェノールオキシダーゼの場合には、pHが約2〜10である。化学薬剤をpH3〜6といったわずかに酸性の条件で通常用いる。過酸化酵素を約3〜12のpHで通常用いる。反応混合物を酸化の間攪拌する。他の酵素を、同様の条件、好ましくはpH2〜10の下で用いることができる。
【0030】
本発明の方法の第二段階においては、リグニンセルロース繊維の黄変に対する感受性を低減することが可能な変性剤を、マトリクスの酸化したフェノール又は類似の構造の基に結合する。かかる変性剤は、一般に、繊維マトリクスと適合性のある少なくとも一種の第一官能部位と、上記の技術効果を付与する少なくとも一種の第二官能部位又は構造とを示し、その詳細を以下に説明する。
【0031】
第一官能部位は、特に酸化されたフェノール又は類似の構造の基、或いはその近傍で繊維に接触して結合することが可能な官能基からなる。酸化されたフェノール又は類似の残基の間に形成された結合は、共有結合又はイオン結合、或いは水素結合を基にしたものでさえもよい。第一官能部位の代表的な官能基としては、一部の例を挙げると、ヒドロキシル(フェノールヒドロキシル基を含む)、カルボニル、酸無水物、アルデヒド、ケトン、アミノ、アミン、アミド、イミン、イミジン並びにそれらの誘導体及び塩等の反応性基が挙げられる。また、炭素−炭素二重結合、炭素−ヘテロ原子二重結合(例えばC=N、C=O)並びにオキソ又はアゾの橋架け等の電気陰性の結合を、酸化された残基への結合に与えることもできる。
【0032】
変性剤が、少なくとも本質的な部分を除去することができない程度に、化学的又は物理的に繊維マトリクスに結合していることが必要である。この特徴を試験するのに適用できる一つの基準は、水性媒体中で洗浄することである。その理由は、繊維マトリクスを水性環境において度々処理する場合があり、そのような処理後でさえも新規で有用な特性を維持することが重要であるからである。このようにして、好ましくは少なくとも10mol%、とりわけ少なくとも20mol%、更に好ましくは少なくとも30mol%の変性剤が、水性媒体中での洗浄又は浸出した後に、該マトリクスに結合したままである。
【0033】
本発明の一の実施態様によれば、上記変性剤を酸化剤で活性化する。
【0034】
酸化されたリグノセルロース材料への変性剤の結合になる該リグノセルロース材料と変性剤との相互作用は、液相、通常は水又は他の水性媒体で生ずるのが一般的である。パルプ又は他のリグノセルロース繊維マトリクスを該媒体中に懸濁させ、同じ媒体中に溶解又は分散した変性剤又はその先駆物質と接触させる。その条件は、自由に変えることができるが、混合又は攪拌の下で接触を行うのが好ましい。温度は、通常、媒体の融点と沸点の間であるが、約5〜100℃であるのが好ましい。変性剤又はその先駆物質に応じて、媒体のpHを中性もしくは弱アルカリ性もしくは酸性とすることができる(pHは約2〜12が一般的である)。繊維マトリクスの加水分解を起こす場合があるので、強アルカリ性又は強酸性を避けるのが好ましい。また、標準圧力(大気圧)が好ましいが、耐圧装置において、減圧又は高圧下で処理を行うこともできる。一般に、接触段階の間で繊維材料のコンシステンシーは、約0.5〜95重量%である。
【0035】
特に好適な実施態様によれば、上記処理の第一及び第二段階を、酸化工程後に繊維マトリクスを分けることなく、同一の反応媒体中で行う。条件(コンシステンシー、温度、pH、圧力)は、この実施態様においても、種々の処理段階の間で異ならせることができる。
【0036】
上記処理の第一及び第二段階を、連続又は同時に行う。しかしながら、処理の第一工程が、変性剤を結合することが可能なフェノキシラジカルの繊維基質中での形成を目的とすることに注意すべきである。いくつかの変性剤が、本発明に用いる酸化酵素に対し基質を形成するので、この場合、酸化酵素をまず添加し、例えば0.1〜180分間、特に約1〜30分間、該酵素をフェノール又は類似の基を含有する繊維基質と相互作用させてフェノール基の酸化を達成し、該酵素酸化後に変性剤を添加するのが好ましい。
【0037】
同じ観察が、上述の化学的な酸化剤に当てはまる。実施例3に示すとおり、酸化剤及び変性剤の同時適用で、まあまあ良い結果が得られるが、工程1と2を連続して行った場合、最も良い結果が得られる。
【0038】
一の好適な実施態様によれば、変性剤は脂肪族又は芳香族の単環式、二環式又は三環式の物質である。脂肪族化合物は、不飽和カルボン酸、好ましくは4〜30個の炭素原子を有する不飽和脂肪族モノカルボン酸とすることができる。特に、変性剤は、最低限二つの二重結合、好ましくは二つの共役二重結合を有する不飽和脂肪族モノカルボン酸とすることができる。かかる脂肪酸は、偶数個、一般に16〜22個の炭素原子を有する。また、低級アルカノール、すなわち1〜6個、特に1〜4個の炭素原子を含むアルコール化合物を用いることもできる。一例として、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール及びi-ブタノールが挙げられる。
【0039】
特に適した化合物の例は、リノール酸及びリノレン酸で構成されている。不飽和脂肪酸は、二重結合の一つを介して酸化された基又は構造に結合すると思われる。
【0040】
他の適した化合物には、トコフェロール及びβ-カロテンのような酸化防止剤が含まれる。
【0041】
上記化合物は、ラジカル捕捉能等の特有の性質を有し、無色の置換基を形成する。
【0042】
上記二つの工程を連続又は同時に行うことができる。また、紙製造用化学物質等の他の化合物が反応工程中に存在してもよい。
【0043】
上記の処理の後に、新規な特性を有する変性繊維を、通常、液体反応から分離し、更に目的の用途に用いる。
【実施例】
【0044】
以下の非限定的な実施例により、本発明を説明する。
【0045】
(実施例1)
漂白トウヒTMP5gを水中に懸濁させた。その懸濁液のpHを酸の添加によりpH4.5に調整した。懸濁液を室温で攪拌した。ラッカーゼの投与量は、パルプ乾燥物質1g当たり1000nkatであり、最終パルプコンシステンシーは7.5%であった。30分のラッカーゼ反応の後に、パルプ乾燥物質1g当たり0.15mmolのリノール酸をパルプ懸濁液に添加した。全体で1時間の反応時間の後に、パルプ懸濁液をろ過し、パルプを水で十分に洗浄した。手すき紙を作成した。比較のために、参照処理を、ラッカーゼもしくはリノール酸又はそれら両方の添加をしない以外は、上述したものと同一の手順を用いて行った。パルプの耐光性を、「窓ガラス」フィルタを用いるキセノテスト(Xenotest)150S光照射・耐候性試験機器で試験した。手すき紙の白色度を照射線量の関数として測定した。結果を図1にグラフで示す。
【0046】
図1に示す結果から明らかなように、リノール酸やラッカーゼの添加がパルプの黄変の傾向を低減させることが分かった。換言すれば、酸化剤や適当な触媒の存在下での変性剤の添加がパルプの黄変傾向を低減する。
【0047】
(実施例2)
TMPへの新規化合物の結合
トウヒTMP5gを水中に懸濁させた。その懸濁液のpHを酸の添加によりpH4.5に調整した。懸濁液を室温で攪拌した。ラッカーゼの投与量は、パルプ乾燥物質1g当たり1000nkatであり、最終パルプコンシステンシーは7.5%であった。30分間のラッカーゼ反応の後に、新規化合物をパルプの懸濁液に添加した。全体で1時間の反応時間の後に、パルプ懸濁液をろ過し、パルプを水で十分に洗浄した。手すき紙を作成した。比較のために、参照処理を、ラッカーゼ又は新規化合物の添加をしない以外は、上述したものと同一の手順を用いて行った。パルプの耐光性を、「窓ガラス」フィルタを用いるキセノテスト(Xenotest)150S光照射・耐候性試験機器で試験した。照射後のISO白色度の変化を表1に要約する。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例3)
試料A:過酸化物で漂白したヤマナラシCTMPパルプを、80℃、pH5で60分間、過硫酸ナトリウム(パルプ1トン当たり5kgの投与量)とリノール酸(5kg)で処理した。該処理を10%のコンシステンシーで行った。
【0050】
試料B:過硫酸ナトリウムの代わりに過硫酸アンモニウム(5kg)を用いる以外は、試料Aと同じ方法で、パルプ試料を処理した。
【0051】
試料C:過硫酸塩の代わりに過酸化水素を用いる以外は、試料A及び試料Bと同じ方法で、パルプ試料を処理した。試験のpHは4であった。
【0052】
試料D:リノール酸の代わりにt-ブタノール(5kg)を用いる以外は、試料Aのようにパルプ試料を処理した。
【0053】
試料E:リノール酸を添加しない以外は、試料Aと同じ方法で、パルプ試料を処理した。過硫酸塩による処理後に、80℃、10%のコンシステンシーで、リノール酸(5kg)を用いて分離処理を行った。該処理の所要時間は30分で、pHは5であった。
【0054】
試料F:t-ブタノールを用いることなく試料Dのように試料を調製した。過硫酸塩処理の後に、10%のコンシステンシー、80℃の温度、パルプ1トン当たり5kgの投与量で、t-ブタノールを用いた分離処理(30分、pH5)を行った。
【0055】
各パルプ試料からシートを製造し、その白色度安定性を「窓ガラス」フィルタを用いるキセノテスト150Sで試験した。キセノテスト装置の輻射線は、窓ガラスを通した太陽光のものに相当するが、輻射線の強さは、非常に強い(促進試験)。試料の白色度を2時間の輻射(1260wh/m2に相当)後に測定した。
【0056】
結果を下記の表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
上記の結果から明らかなように、本発明によって処理された試料の白色度安定性は、4以上の1位数で改良された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、トウヒTMPサンプルの黄変を照射エネルギーの関数として示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維上の着色部位の形成につながる反応を受け得るフェノール又は類似の構造の基を酸化することが可能な酸化剤でマトリクスの繊維を活性化させ、酸化部位の反応性をブロックするために少なくとも一種の変性剤を酸化部位に結合させることを備えることを特徴とする黄変に対する感受性を低減した繊維材料の製造方法。
【請求項2】
前記活性化を酵素学的又は化学的に行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化剤によるフェノール又は類似の構造の基の酸化を触媒することが可能な触媒の存在下で該酸化剤とリグノセルロース繊維マトリクスを反応させて、酸化された繊維材料を付与する工程と、酸化された繊維材料を、該酸化された繊維材料と適合性のある少なくとも一種の第一官能部位を含有した変性剤と接触させる工程とを備え、前記変性剤が黄変に対する感受性を低減した性質を有するリグノセルロース繊維材料を付与し得る請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記変性剤を酸化剤で活性化させる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記変性剤が色戻り抑制剤である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記変性剤が、C1〜4アルカノール、不飽和カルボン酸、不飽和脂肪族モノカルボン酸、及び最低限二つの二重結合、好ましくは二つ共役二重結合を含有する不飽和脂肪族モノカルボン酸よりなる群から選択される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記変性剤がリノール酸又はリノレン酸である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記変性剤が酸化防止剤の群から選択される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記フェノール又は類似の構造の基の酸化を触媒することが可能な触媒が、酵素又は化学薬剤である請求項3〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記フェノール又は類似の構造の基の酸化を触媒することが可能な酵素が、過酸化酵素及び酸化酵素の群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酵素が、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、カテコールオキシダーゼ(EC 1.10.3.1)、チロシナーゼ(EC 1.14.18.1)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)、西洋わさびペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.7)、マンガンペルオキダーゼ(EC 1.11.1.13)及びリグニンペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.14)の群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素の投与量が、約1〜100,000nkat/g、好ましくは10〜500nkat/gであって、該酵素を乾燥物質1g当たり0.0001〜10mgプロテインの量で用いる請求項3〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記化学薬剤が、過化合物の群、特にアルカリ金属の過硫酸塩及び過酸化水素よりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤が、酸素、過酸化水素、及び空気等の酸素含有ガスの群から選択される請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記酸素又は酸素含有ガスを反応時、水性スラリー中に導入する請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記工程(a)の反応を、水性相又は乾性相において1〜95重量%、好ましくは約2〜40重量%の前記繊維材料のコンシステンシーで行う請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記反応を5〜100℃の範囲内の温度で行う請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
機械パルプ又は高収率化学パルプのフェノール基を酵素学的又は化学的に酸化させる工程と、該酸化されたフェノール基に、黄変反応に関与できない無色のリグニン誘導体を形成することが可能な物質を結合させる工程とを備えることを特徴とする機械パルプ又は高収率化学パルプの光又は熱によって起こる色戻りの低減方法。
【請求項19】
前記反応工程を連続又は同時に行う請求項1〜18に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−515570(P2007−515570A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546210(P2006−546210)
【出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【国際出願番号】PCT/FI2004/000797
【国際公開番号】WO2005/061782
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506215490)
【Fターム(参考)】