説明

機械加工適性の良好なプロセスチーズ類及びその製造方法

【課題】
本発明は、パルメザンチーズなどの特別硬質ナチュラルチーズが持つ風味の強さを維持しつつ、シュレッド状やサイノメ状などへの機械加工適性が向上されたプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明によれば、特別硬質ナチュラルチーズを50〜100重量%で含むナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて加熱攪拌溶融することにより、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類を得ることができた。このとき、溶融塩としてリン酸塩及び/又はクエン酸塩を0.1〜5重量%で用いることにより、プロセスチーズ類の風味と物性を良好にできるとの知見を同時に見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類及びその製造方法に関する。より詳しくは、特別硬質ナチュラルチーズを50〜100重量%で含むナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて加熱攪拌溶融することにより、パルメザンチーズやロマノチーズなどの特別硬質ナチュラルチーズが持つ風味の強さを維持しつつ、シュレッド状やサイノメ状などの小片状への機械加工適性を向上したことを特徴とするプロセスチーズ類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本でも近年、パルメザンチーズなどに代表される特別硬質ナチュラルチーズ(以下、特別硬質チーズともいう。)が多く消費されるようになってきた。特別硬質チーズは風味の強いナチュラルチーズであり、その独特の風味は調理品の風味付けなどに適している。ただし、その使用形態の大半が粉状に微粉砕したものに限定されている。これは特別硬質チーズが硬くて脆い物性であるために、特別硬質チーズをシュレッド状やサイノメ状などの小片状にそろえて加工(カット)することが困難なためである。つまり、加工に伴い微粉砕されたチーズ屑と言われるものが大量に発生してしまう。一方、チェダーチーズなどに代表される硬質チーズや、ゴーダチーズなどに代表される半硬質チーズを小片状にそろえて加工することは比較的容易である。
【0003】
ナチュラルチーズを大量に消費する形態ではシュレッド状やサイノメ状が圧倒的に多く、具体的にはピザ、トースト、サラダなどの味付けに主原料として使用される。一方、特別硬質チーズの形態では粉状が殆どであり、具体的にはグラタン、パスタ、サラダなどに振り掛けて使用される程度である。この特別硬質チーズと同等の風味を持つチーズを単なる粉状だけでなく、シュレッド状やサイノメ状で提供きれば、ピザ、トースト、サラダなどの味付けに使用され、調理への用途が各段に広がることとなる。
【0004】
特別硬質チーズの濃厚な風味は独特であり、消費者に好評である。従来よりも特別硬質チーズの用途が拡大すれば、さらなる市場成長が期待できる。つまり、特別硬質チーズは風味の濃厚さなどにおいて硬質チーズや半硬質チーズよりも評価の高い場合も多いが、その使用形態や加工方法が限定されているために、その用途も限定されているという問題点があった。
【0005】
チーズの機械加工適性に着目している先行技術として特開平01-098442(特許文献1)がある。ここでは、特に風味に優れ、シュレッドあるいはスライス等の機械耐性に優れたチーズ類等の固形食品を製造する方法が記載されている。具体的には、タンパク質としてレンネットカゼイン及び/又は酸カゼインを、植物性油脂、塩類、呈味料、水などと混合し加熱溶融して調製したチーズ類に関する発明である。ピザ等に用いる際の加熱した後の食感を改良しており、ナチュラルチーズよりも安価なチーズ類である。ただし、このチーズ類はプロセスチーズの規格ではないため、チーズらしい風味や物性という観点からは不十分だと考えられる。
【0006】
【特許文献1】特開平01-098442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、パルメザンチーズやロマノチーズなどを加工してプロセスチーズ化することにより、特別硬質ナチュラルチーズが持つ風味の強さを維持しつつ、シュレッド状やサイノメ状などへの機械加工適性を大幅に改善したプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、特別硬質ナチュラルチーズを50〜100重量%で含むナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて加熱攪拌溶融することにより、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類を得ることができるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。このとき、溶融塩としてリン酸塩及び/又はクエン酸塩を0.1〜5重量%で用いることにより、プロセスチーズ類の風味と物性を良好にできるとの知見を同時に見出した。
【0010】
さらに、本発明のプロセスチーズ類における香気成分の含有量(GC/MSによる面積値)と風味(官能)との関連も実験的に検討した。具体的には、チーズに含まれる香気成分の含有量と、特別硬質ナチュラルチーズに独特の風味の関係を、におい分析により解析した。今回の検討で解析した香気成分には、これまで殆ど注目されていなかったものも含まれていた。例えば、先行技術(Journal of Dairy Science, Vol.86, No.3, 2003)では、特別硬質ナチュラルチーズの代表的な香気成分として、2-Methylbutanal、3-Methylbutanal、Ethyl butanoate、Ethyl hexanoate、2-Heptanoneなどが取り上げられている。今回の検討では、これらの香気成分に加えて3-Hydroxy-2-butanoneも特別硬質ナチュラルチーズの独特な風味に影響することを見出した。
【0011】
一方、本発明のプロセスチーズ類における硬さ(物性)と機械加工適性との関連を実験的に検討した。具体的には、ブロック状に成形した本発明のプロセスチーズ類をシュレッド状やサイノメ状などへ所定の寸法で機械的に加工し、その際に発生するチーズ屑の重量(屑発生率)を評価した。これにより、プロセスチーズ類として機械加工適性に優れた硬さを見出した。ここで、チーズ屑とは所定の形状や寸法の範囲に加工されず、小さすぎる小片状や粉状などになったチーズのことである。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] 特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたことを特徴とするプロセスチーズ類、
[2] 硬さが90g〜800gであることを特徴とする、前記[1]に記載のプロセスチーズ類、
[3] 水分を35重量%〜55重量%で含むことを特徴とする、前記[1]又は[2]のいずれかに記載のプロセスチーズ類、
[4] 機械加工した小片重量が0.01g〜3gであることを特徴とする、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のプロセスチーズ類、
[5] 特別硬質ナチュラルチーズがパルメザンチーズであることを特徴とする、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のプロセスチーズ類、
[6] 特別硬質ナチュラルチーズを50〜100重量%で含むナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて加熱攪拌溶融することにより、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたことを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法、
[7] 溶融塩としてリン酸塩及び/又はクエン酸塩を0.1〜5重量%で用いることを特徴とする、前記[6]に記載のプロセスチーズ類の製造方法、
[8] 特別硬質ナチュラルチーズがパルメザンチーズであることを特徴とする、前記[6]又は[7]のいずれかに記載のプロセスチーズ類の製造方法
からなる。
【0013】
本明細書において「ナチュラルチーズ」とは、「乳等省令」において、(1) 乳、バターミルク(バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいう。以下同じ。)若しくはクリームを乳酸菌で発酵させ、又は乳、バターミルク若しくはクリームに酵素を加えてできた凝乳から乳清を除去し、固形状にしたもの又は、これらを熟成したもの、(2) 前号に揚げるもののほか、乳、バターミルク又はクリームを原料として、凝固作用を含む製造技術を用いて製造したものであって、同号に揚げるものと同様の化学的、物理的及び官能的特性を有するものと定義されており、この定義に従うものとする。
【0014】
本明細書において「プロセスチーズ類」とは、「乳等省令」において、プロセスチーズとして、ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したものと定義されているものの他に、加熱溶融及び/又は殺菌工程を必要とする全てのチーズ様食品を意味することとし、例えば、チーズフード、プロセスチーズサブスティテュート等、プロセスチーズ類似物も意味することとする。
【0015】
本明細書においてチーズの「GC/MSによる面積値」とは、固相マイクロ抽出法(SPME法)を用いて香気成分を抽出し、GC/MS(カラム:CP-WAX)により分析した数値を、さらに内部標準物質で補正した数値である。
【0016】
本明細書においてチーズの「硬さ」とは、レオメーター(フドー社製)による温度10℃での測定値である。円柱直径が3mmのプランジャーを使用し、テーブル上昇速度を15cm/分とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明者らは、様々な風味と物性を持つナチュラルチーズを組み合わせて用いながら、プロセスチーズ類を試作し、それらのプロセスチーズ類について風味と物性を評価・解析した。このとき、風味の評価には、におい分析と官能検査を用い、物性の評価には、硬さと屑発生率を用いた。これら風味と物性を同時に評価・解析することにより、風味と物性の良好なプロセスチーズ類及びその製造方法を見出した。
【0018】
本発明によれば、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することができる。
【0019】
本発明によれば、パルメザンチーズやロマノチーズなどを加工してプロセスチーズ化することにより、特別硬質ナチュラルチーズが持つ風味の強さを維持しつつ、シュレッド状やサイノメ状などへの機械加工適性が向上されたプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のプロセスチーズ類は、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたことを特徴とする。本発明のプロセスチーズ類は、特別硬質ナチュラルチーズを主原料として用いており、独特で良好な風味や安定した品質を維持したことを特徴とする。本発明で用いる特別硬質ナチュラルチーズは、その種類などを特に限定しないが、例えば、パルメザンチーズ、ロマノチーズ、サブサゴチーズ、アジアゴチーズなどが挙げられる。そして、これら原料の特別硬質ナチュラルチーズでは、脂肪分以外の成分(無脂乳固形分や水分など)に含まれる水分として好ましくは35重量%〜51重量%、より好ましくは37重量%〜47重量%、さらに好ましくは38重量%〜46重量%である。これらの水分が35重量%より小さいと、硬すぎて粉砕加工しにくくなり、これらの水分が51重量%より大きいと、チーズの物性が軟弱になり、特別硬質チーズとは異なるものになる。このとき、パルメザンチーズでは、特別硬質ナチュラルチーズに独特で良好な風味が強いため、本発明で用いる特別硬質ナチュラルチーズとして特に望ましい。本発明で小片状とは、形状を特に限定しないが、例えば、シュレッド状、サイノメ状、スライス状、クラッシュ状などが挙げられる。本発明の機械加工において、その機械の種類や規模を特に限定しないが、例えば、加工用の機械として、シュレッダー、サイノメカッターなどが挙げられる。
【0021】
本発明のプロセスチーズ類は、シュレッド状やサイノメ状などへの機械加工が容易であり、小片状への機械加工適性に優れていることを特徴とする。このとき、本発明のプロセスチーズ類の硬さは特に限定されないが、例えば、硬さとして好ましくは90g〜800g、より好ましくは160g〜700g、さらに好ましくは280g〜600gである。硬さが90gよりも小さいと、チーズの保形性が悪く、軟弱な物性となるため、ブロック状などの機械加工前や小片状の機械加工後において形状が崩れやすく、運搬などの取扱が困難となる。硬さが280gよりも小さいと、チーズをサイノメ状へ加工することは可能であるが、チーズをシュレッド状へ加工することは困難となる。一方、硬さが800gよりも大きいと、チーズの保形性は良いが、亀裂などが生じやすく、硬くて脆い物性となるため、小片状などへの機械加工時において屑発生率が大きくなり、生産効率(収率)が悪くなる。
【0022】
本発明のプロセスチーズ類は、適切な硬さを維持するために、所定の水分を含んでいることが望ましい。このとき、小片状への機械加工適性に優れていれば、本発明のプロセスチーズ類の水分は特に限定されないが、例えば、水分として好ましくは35重量%〜55重量%、より好ましくは38重量%〜50重量%、さらに好ましくは40重量%〜47重量%である。チーズに含まれる水分が多いと、軟弱な物性となるし、保存性が悪くなる。一方、チーズに含まれる水分が少ないと、硬くて脆い物性となり、機械加工適性が悪くなる。
【0023】
本発明のプロセスチーズ類は、小片状などへの機械加工時において屑発生率が小さく、生産効率(収率)の良いことを特徴とする。このとき、小片状などへ機械加工したプロセスチーズ類の重量や寸法は特に限定されないが、例えば、小片状のプロセスチーズ類の重量として好ましくは0.01g〜3g、より好ましくは0.05g〜2g、さらに好ましくは0.15g〜1gである。さらに、シュレッド状の寸法として好ましくは縦が1mm〜70mm、横が0.5mm〜20mm、厚さが0.1mm〜10mm、より好ましくは縦が5mm〜50mm、横が1mm〜10mm、厚さが0.1mm〜5mm、さらに好ましくは縦が20mm〜50mm、横が2mm〜7mm、厚さが0.1mm〜3mmであり、サイノメ状の寸法として好ましくは一辺の長さが1mm〜20mm、より好ましくは一辺の長さが3mm〜15mm、さらに好ましくは一辺の長さが5mm〜12mmである。
【0024】
本発明のプロセスチーズ類は、香気成分(風味物質)の種類や面積値(濃度)を特に限定されないが、例えば、3-Hydroxy-2-butanone、2-Methylbutanal、3-Methylbutanal、Ethyl butanoate、Ethyl hexanoate、2-Heptanoneなどを所定濃度で含むことを特徴とする。ここで、これらの香気成分の面積値が官能評価(風味検査)と関連していることを、実施例に示した通り、実験的に確認している。そして、本発明のプロセスチーズ類として官能的に優れていると評価された場合の代表的な香気成分の面積値は次の通りである。すなわち、例えば、3-Hydroxy-2-butanoneの濃度として好ましくは8,500,000〜20,000,000、より好ましくは8,600,000〜18,000,000、さらに好ましくは8,700,000〜17,000,000であり、2-Methylbutanalの濃度として好ましくは700,000〜2,000,000、より好ましくは750,000〜1,800,000、さらに好ましくは800,000〜1,600,000であり、3-Methylbutanalの濃度として好ましくは2,000,000〜5,000,000、より好ましくは2,200,000〜4,500,000、さらに好ましくは2,400,000〜4,300,000であり、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の濃度として好ましくは8,000,000〜20,000,000、より好ましくは8,200,000〜18,000,000、さらに好ましくは8,500,000〜15,000,000であり、2-Heptanoneの濃度として好ましくは12,000,000〜30,000,000、より好ましくは14,000,000〜28,000,000、さらに好ましくは15,000,000〜27,000,000であり、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の濃度として好ましくは1,600,000〜4,000,000、より好ましくは1,700,000〜3,800,000、さらに好ましくは1,800,000〜3,600,000である。このとき、3-Hydroxy-2-butanoneは先行技術では注目されていなかった香気成分である。
【0025】
本発明のプロセスチーズ類は、原料として用いる特別硬質ナチュラルチーズの持つ香気成分がプロセスチーズへの加工後にも加工前と同様に維持(残存)されていることが望ましい。ここで、これらの香気成分の加工前に比べた加工後の割合(香気成分の残存率、百分率[%]で表現)が官能評価と関連していることを、実施例に示した通り、実験的に確認している。ここで、本発明のプロセスチーズ類として官能的に優れていると評価された場合の代表的な香気成分の残存率は次の通りである。すなわち、例えば、3-Hydroxy-2-butanoneの残存率として好ましくは45%〜100%、より好ましくは48%〜100%、さらに好ましくは50%〜100%であり、2-Methylbutanalの残存率として好ましくは45%〜100%、より好ましくは46%〜95%、さらに好ましくは47%〜90%であり、3-Methylbutanalの残存率として好ましくは60%〜100%、より好ましくは62%〜100%、さらに好ましくは65%〜100%であり、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の残存率として好ましくは30%〜100%、より好ましくは30%〜80%、さらに好ましくは30%〜60%であり、2-Heptanoneの残存率として好ましくは40%〜100%、より好ましくは43%〜90%、さらに好ましくは45%〜80%であり、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の残存率として好ましくは30%〜100%、より好ましくは30%〜80%、さらに好ましくは30%〜70%である。
【0026】
本発明のプロセスチーズ類の製造方法は、製品として独特で良好な風味や安定した品質を維持していれば、特別硬質ナチュラルチーズの使用量は特に限定されない。本発明のプロセスチーズ類は、各種のナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて温度70℃以上で加熱攪拌溶融し、乳化させた後に、所定の容器などに充填してから、例えば温度10℃以下に冷却し、そのまま数時間から1日間で保持することにより得られる。加熱撹拌溶融の処理(操作)には、ケトル型乳化機や連続式溶融機などが用いられる。このとき、例えば、特別硬質ナチュラルチーズの使用量として好ましくは50〜100重量%、より好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%である。これにより、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたプロセスチーズ類を得ることができる。本発明のプロセスチーズ類は、特別硬質ナチュラルチーズを主原料とし、回分(バッチ)式や連続式などの通常のプロセスチーズ類の製造方法や製造装置を用いて製造することができる。
【0027】
本発明のプロセスチーズ類の製造方法は、溶融塩の種類や使用量を特に限定されない。このとき、例えば、溶融塩の種類してリン酸塩及び/又はクエン酸塩が望ましく、その使用量として好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜4重量%、さらに好ましくは1〜3重量%である。溶融塩の役割は、カルシウムをキレートすることであり、溶融塩がナトリウム塩の場合には、カルシウムパラカゼイネートが水溶性のナトリウムパラカゼイネートへ変換され、脂肪を乳化して均一な組織とする。ここで、例えば、溶融塩の種類して、モノリン酸塩、ジリン酸塩、ポリリン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などが挙げられ、具体的には、トリポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ウルトラリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウムなどが挙げられる。また、プロセスチーズ類の組織を安定化するために、溶融塩の他にも、安定剤、ゲル化剤、乳化剤などを併用することができる。そして、これら各種の溶融塩、安定剤、ゲル化剤、乳化剤などは単独で用いることもできるし、複数で2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0029】
[実施例1](プロセスチーズ類の物性と風味の評価1)
プロセスチーズ類の物性と風味を評価した。原料チーズとしてパルメザンチーズ(オーストラリア製)の粉砕物を2kg、溶融塩として試薬のポリリン酸ナトリウム(関東化学(株)製)を60g、水を約550g〜750gの範囲で5水準に混合し、ケトル型乳化機を用いて、温度90℃、回転数100〜200rpmで加熱撹拌溶融した。これを一辺の寸法が200mmのブロック状の容器に充填し、温度5℃の冷蔵庫に約1日間で保持して冷却した。こうして得られたプロセスチーズ類は、41.3重量%(表1.試料1)、44.6重量%(表1.試料2)、46.8重量%(表1.試料3)、50.4重量%(表1.試料4)、54.3重量%(表1.試料5)の5水準に調整されていた。ここで、これら5種類のブロック状のプロセスチーズ類に併せて、同じ形状と寸法のパルメザンチーズ(表1.試料6)を用意した。そして、これら合計で6種類のチーズについて温度10℃で硬さを測定し、さらにシュレッド状とサイノメ状の2種類へ温度10℃で機械的に加工した。このとき、この加工で発生するチーズ屑の重量の割合(屑発生率)を測定し、さらに機械加工適性を後述する基準で評価した。シュレッド状へは、シュレッドカッター((株)エムラ製)を用いて加工し、寸法として縦を20mm、横を5mm、厚さを2mmとした。一方、サイノメ状へは、サイノメカッター(TREIF製:ドイツ)を用いて加工し、寸法として一辺の長さを10mmとした。
【0030】
硬さはレオメーター(フドー社製)により温度10℃で測定した。円柱直径が3mmのプランジャーを使用し、テーブル上昇速度を15cm/分とした。チーズ屑発生率は次式で定義した。すなわち、屑発生率[%]=(チーズ屑の重量[g])/(加工したチーズ全体の重量[g])×100 である。このとき、シュレッド状のチーズでは、縦が25mm以下、横が2.5mm以下、厚さが1mm以下の寸法(機械加工で指定した寸法の半分以下)の小片を全てチーズ屑として評価した。一方、サイノメ状のチーズでは、一辺の長さが5mm以下の寸法(機械加工で指定した寸法の半分以下)の小片を全てチーズ屑として評価した。つまり、ここでいうチーズ屑とは、所定の寸法よりも小さい全てのチーズのことであり、粉末状だけでなく、小片状も含まれることとなる。そのため、使用上では特に問題とならない程度のチーズも屑として含まれることとなる。
【0031】
そして、シュレッド状のチーズでは、機械加工適性(温度10℃)を次の基準で評価した。すなわち、[A] 加工適性は良好である(屑発生率:5%未満)、[B] やや軟弱だが、加工可能である(屑発生率:5%以上、10%未満)、[C1] 軟弱で、べたつきがあり、加工時にダマが多い(屑発生率:10%以上)、[C2] 硬くて脆く、割れやすく、小片屑が多い(屑発生率10%以上)である。ここで、評価でB以上を良好と判断した。このとき、実際にはシュレッド状のチーズ屑の約70%は製品として十分に使用できると考えられた。
【0032】
一方、サイノメ状のチーズでは、機械加工適性(温度10℃)を次の基準で評価した。すなわち、[A] 加工適性は良好である(屑発生率:25%未満)、[B] やや軟弱だが、加工可能である(屑発生率:25%以上、40%未満)、[C1] 軟弱で、べたつきがあり、加工時にダマが多い(屑発生率:40%以上)、[C2] 硬くて脆く、割れやすく、小片屑が多い(屑発生率40%以上)である。ここで、評価でB以上を良好と判断した。このとき、実際にはサイノメ状のチーズ屑の約90%は製品として十分に使用できると考えられた。それぞれのチーズの水分、硬さ、屑発生率、機械加工適性を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
試料1〜3では、水分が41.3重量%〜46.8重量%、硬さが570g〜281gであり、このときにシュレッド状では屑発生率が16.3%〜24.6%、機械加工適性がAと良好であり、サイノメ状では屑発生率が0.5%〜1.2%、機械加工適性がA〜Bと良好であった。試料4、5では、水分が50.4重量%〜54.3重量%、硬さが160g〜93gであり、このときにシュレッド状では屑発生率が72.2%〜88.3%、機械加工適性がC1と良好でなかったが、サイノメ状では屑発生率が2.0%〜3.5%、機械加工適性がAと良好であった。試料6(パルメザンチーズ)では、水分が32.0重量%、硬さが1880gであり、このときにシュレッド状では屑発生率が92.0%、機械加工適性がC2と不良であり、サイノメ状では屑発生率が10.1%、機械加工適性がC2と不良であった。特別硬質ナチュラルチーズをプロセスチーズ化することにより、機械加工適性が良好となることが確認された。このとき、ここで得られたプロセスチーズ類は、パルメザンチーズに独特の良好な風味を維持していた。
【0035】
[実施例2](プロセスチーズ類の物性と風味の評価2)
プロセスチーズ類の物性と風味を評価した。原料チーズとしてロマノチーズ(オーストラリア製)の粉砕物を70kg、チェダーチーズ(ニュージーランド製)の粉砕物を30kg、溶融塩としてクエン酸3ナトリウム(三栄源FFI(株)製)を2.2kg、水を約22kgで混合し、ケトル型乳化機を用いて、温度90℃、回転数100rpmで加熱撹拌溶融した。これを一箱が5kgとなるカルトンの容器に充填し、温度4℃の冷蔵庫に約1日間で保持して冷却した。こうして得られたプロセスチーズ類の水分は44重量%であった。実施例1と同様にして、シュレッド状へ加工し、寸法として縦を50mm程度、横を10mm、厚さを5mmとした。実施例1と同様にして、物性などを評価したところ、屑発生率は5%、機械加工適性は良好であった。このとき、ここで得られたプロセスチーズ類は、ロマノチーズに独特の良好な風味を維持していた。
【0036】
[実施例3](プロセスチーズ類の物性と風味の評価3)
プロセスチーズ類の物性と風味を評価した。原料チーズとしてパルメザンチーズ(オーストラリア製)の粉砕物を50kg、ゴーダチーズ(ニージーランド製)の粉砕物を50kg、溶融塩として食品添加物のメタリン酸ナトリウム(関東化学(株)製)を1.5kg、安定剤としてローカストビーンガム(太陽化学(株)製)を0.2kg、水を約24kgで混合し、ケトル型乳化機を用いて、温度88℃、回転数100rpmで加熱撹拌溶融した。これを一箱が10kgとなるカルトンの容器に充填し、温度4℃の冷蔵庫に約1日間で保持して冷却した。こうして得られたプロセスチーズ類の水分は47重量%であった。実施例1と同様にして、シュレッド状へ加工し、寸法として縦を70mm程度、横を20mm、厚さを6mmとした。実施例1と同様にして、物性などを評価したところ、屑発生率は10%、機械加工適性は良好であった。このとき、ここで得られたプロセスチーズ類は、パルメザンチーズに独特の良好な風味を維持していた。これをピザのトッピングに使用したところ、パルメザンチーズに独特の風味がアクセントを与えて、良好な風味のピザとなった。
【0037】
[実施例4](プロセスチーズ類の物性と風味の評価4)
プロセスチーズ類の物性と風味を評価した。原料チーズとしてパルメザンチーズ(オーストラリア製)の粉砕物を80kg、溶融塩として試薬のポリリン酸ナトリウム(関東化学(株)製)を2.1kg、乳化剤としてモノオレイン酸デカグリセリン(商品名:サンソフトQ-18S、太陽化学(株)製)を0.2kg、水を約16kgで混合し、ステファン型乳化機(撹拌羽根:カッタータイプ)を用いて、温度90℃、回転数500rpmで加熱撹拌溶融した。これを一箱が2kgとなるカルトンの容器に充填し、温度5℃の冷蔵庫に約1日間で保持して冷却した。こうして得られたプロセスチーズ類の水分は42重量%であった。実施例1と同様にして、サイノメ状へ加工し、寸法として一辺の長さを8mmとした。実施例1と同様にして、物性などを評価したところ、屑発生率は0%、機械加工適性は良好であった。このとき、ここで得られたプロセスチーズ類は、パルメザンチーズに独特の良好な風味を維持していた。これをサラダのトッピングに使用したところ、パルメザンチーズに独特の風味がコクを与えて、良好な風味のサラダとなった。
【0038】
[実施例5](プロセスチーズ類の香気成分量と風味の関係)
プロセスチーズ類の香気成分と風味の相関関係を検討した。原料チーズとしてパルメザンチーズとチェダーチーズの混合割合を5種類に変化させてプロセスチーズ類を製造し、香気成分の分析値と官能評価を比較した。パルメザンチーズとチェダーチーズの混合割合(パルメザンチーズの含有率、百分率[%]で表現)は、10:0(100%)、7:3(70%)、5:5(50%)、3:7(30%)、0:10(0%)とした。プロセスチーズ類の製造方法として具体的には、パルメザンチーズ(オーストラリア製)の粉砕物を2〜0kg、チェダーチーズ(ニュージーランド製)の粉砕物を0〜2kg、溶融塩として試薬のポリリン酸ナトリウム(関東化学(株)製)を60g、水を約750gで混合し、ケトル型乳化機を用いて、温度90℃、回転数200rpmで加熱撹拌溶融した。これらを一辺の寸法が200mmのブロック状の容器に充填し、温度5℃の冷蔵庫に約1日間で保持して冷却した。ここで、これら5種類のブロック状のプロセスチーズ類に併せて、パルメザンチーズとチェダーチーズ(原料チーズ)を用意した。そして、これら合計で7種類のチーズについて香気成分の分析と官能評価(風味検査)を実施した。
【0039】
プロセスチーズ類の香気成分は以下に示した、固相マイクロ抽出法(SPME法)を用いて面積値により評価した。(1) 試料(容量:10mL)をバイアルビン(容量:20mL)に採取し、内部標準物質としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加して密封する。(2) バイアルビンを温度60℃、保持時間40分で加温処理する。(3) バイアルビンのヘッドスペースに存在する「香気(におい)成分」を固相マイクロファイバー(85μm Stable Flex Carboxen/PDMS)により抽出する。(4) GC/MS(カラム:CP-WAX)により分析する。(5) 香気成分を定量するために、標準品を試料へ添加し、内標準物質で標準化した検量線を作成する。固相マイクロ抽出法では、揮発性の「香気成分」を高感度で迅速に分析できるが、その定量性が問題視されていた。本方法により迅速な定量分析が可能となった。ただし、固相マイクロ抽出法では、マイクロファイバーや測定装置の状態(条件など)が測定値に大きく影響するため、対照(コントロール)との比較には適しているが、例えば測定日の異なる試料同士の比較は困難である。このため、プロセスチーズ類の原料であるパルメザンチーズを対照(100%)として、プロセスチーズ類と比較することにより、香気成分の残存率(相対値)も評価した。
【0040】
プロセスチーズ類の官能評価は、専門パネル10名による4段階評価:A(特別硬質チーズの風味を強く感じる)〜D(特別硬質チーズの風味を感じない)で行った。総合評価は各項目の平均値である。評価のAは4点、Bは3点、Cは2点、Dは1点とし、小数点以下第2位で四捨五入した。評価の1点以上、2点未満を、特別硬質チーズの風味が十分でないと判断し、評価の2点以上、4点以下を、特別硬質チーズの風味が十分であると判断した。それぞれのチーズの香気成分の面積値(濃度)を図1、原料であるパルメザンチーズを対照(100%)とした相対値(残存率)を図2に示した。そして、それぞれのチーズの香気成分の面積値と官能評価の結果を表2に示した。
【0041】
【表2】

【0042】
試料7〜9では、パルメザンチーズの含有率が100%〜50%、3-Hydroxy-2-butanoneの面積値が8745648〜16738068、2-Methylbutanalの800320〜1490036、3-Methylbutanalの面積値が2470802〜4193923、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の面積値が8536074〜14859785、2-Heptanoneの面積値が15871017〜26354546、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の面積値が1897627〜3504252であった。そして、3-Hydroxy-2-butanoneの残存率が52%〜99%、2-Methylbutanalの残存率が48%〜89%、3-Methylbutanalの残存率が67%〜113%、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の残存率が33%〜58%、2-Heptanoneの残存率が45%〜75%、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の残存率が32%〜59%であった。このときに官能評価は2.5〜4.0であり、特別硬質チーズの風味を十分に感じる良好なものと判断された。試料10、11では、パルメザンチーズの含有率が30%〜0%、3-Hydroxy-2-butanoneの面積値が753227〜5548679、2-Methylbutanalの面積値が110603〜524433、3-Methylbutanalの面積値が747682〜1781554、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の面積値が2212363〜6006590、2-Heptanoneの面積値が5387489〜11677606、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の面積値が291002〜1254977であった。そして、3-Hydroxy-2-butanoneの残存率が4%〜33%、2-Methylbutanalの残存率が6%〜31%、3-Methylbutanalの残存率が20%〜48%、Butanoic acid, ethyl ester (Ethyl butanoate)の残存率が8%〜23%、2-Heptanoneの残存率が15%〜33%、Hexanoic acid, ethyl ester (Ethyl hexanoate)の残存率が5%〜21%であった。このときに官能評価は1.0〜1.8であり、特別硬質チーズの風味を十分に感じないと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
パルメザンチーズなどの特別硬質ナチュラルチーズが持つ風味の強さを維持しつつ、シュレッド状やサイノメ状などへの機械加工適性が向上されたプロセスチーズ類及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】チーズの香気成分の面積値を示したグラフである。
【図2】チーズの香気成分の相対値(残存率)を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたことを特徴とするプロセスチーズ類。
【請求項2】
硬さが90g〜800gであることを特徴とする、請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項3】
水分を35重量%〜55重量%で含むことを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類。
【請求項4】
機械加工した小片重量が0.01g〜3gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類。
【請求項5】
特別硬質ナチュラルチーズがパルメザンチーズであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類。
【請求項6】
特別硬質ナチュラルチーズを50〜100重量%で含むナチュラルチーズに溶融塩と水を加えて加熱攪拌溶融することにより、特別硬質ナチュラルチーズの風味を有し、小片状への機械加工を可能としたことを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項7】
溶融塩としてリン酸塩及び/又はクエン酸塩を0.1〜5重量%で用いることを特徴とする、請求項6に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項8】
特別硬質ナチュラルチーズがパルメザンチーズであることを特徴とする、請求項6又は7のいずれか1項に記載のプロセスチーズ類の製造方法。










【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−312669(P2007−312669A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145334(P2006−145334)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】