説明

機械的に頑強なマイクロマシニングによるジャイロスコープのための三質量体連結振動の技術

【課題】電力消費が低下したマイクロマシニングによるジャイロスコープを提供する
【解決手段】基板と、第1方向x又はyに沿って振動するように構成された3つの質量体m1、m2及びm3とを備え、第1質量体m1は基板に機械的に連結され、第2質量体m2は、第1質量体m1及び基板に機械的に連結され、第3質量体m3は、第2質量体m2に機械的に連結され、各質量体m1、m2及びm3の重さ及びばね定数k1,k2、並びに、機械的連結k12,k23が、動作中に質量体m1及び質量体m3の共振周波数を充分に上回る周波数で質量体m2が振動するように選択される。質量体m2の共振周波数は、質量体m1又はm3の共振周波数より、少なくとも2倍、更には2.5倍大きくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
マイクロマシニングによるジャイロスコープは、通常、コリオリ効果と呼ばれる物理現象に従って動作する角速度センサである。コリオリ効果は、単に、回転座標系から見た運動物体の偏差である。基板に実装された物体の場合、基板が回転するときに垂直平面内で振動(例えば、揺れ、運動又は駆動)しやすい。したがって、コリオリ効果を利用すべく、マイクロマシニングによるジャイロスコープは、少なくとも1つの質量体を備えた振動部と、振動部に対して垂直な平面内で自由に運動する検出部とで構成することができる。振動部が撓むことになるので、検出部はジャイロスコープの回転によって影響を受ける。外的な回転の下、振動質量体は撓み、その偏差は検出部の運動を通じて検出される。
【0002】
かかる振動型ジャイロスコープの感度は、その振幅に依存する。安定して高感度を達成するためには、安定した大きい振幅が好ましい。
【0003】
一般に、大きい振動は、その共振周波数で動作する1自由度(1−DOF)振動子を使用して達成される。安定性は、安定化回路(例えば、位相ロックループ(PLL)、比例積分(PI)コントローラ)の助けを得て、この共振周波数付近でジャイロスコープを動作させ続けることにより得られる。
【0004】
いくつかのケースでは、1自由度振動子を非共振周波数で動作させることができ、これにより安定化回路の必要性を低下させることができる。しかしながら、非共振周波数での振幅は、共振周波数での振幅より小さくなる。やはり、振動子が非共振周波数で振動する場合に、周波数及び品質係数の変化が振動の大きさに与える影響は、共振周波数で振動する場合に比べてより小さくなる。
【0005】
一般にジャイロスコープは、商業的用途の加速度計の10倍から20倍の電力を消費する。この電力消費の一部は、大きい振幅を得るために使用される櫛歯駆動に起因する。櫛歯駆動は、2つの櫛歯型構造の間で発生する静電気力を伴う。一つの櫛が基板に固定される一方、他方の櫛は運動可能である。櫛歯駆動によって発生する力は、2つの櫛の間の静電容量の変化に比例する。しかしながら、この静電容量は、両櫛の間の駆動電位差、櫛歯の数を反映した連結面積、及びこれらの歯の間のギャップに応じて増加する。結果として、櫛歯駆動により大きい振幅を達成するには、大きい分極電位差が必要となり、一般に商用デバイスでは12Vが必要となる。かかる大きい分極電位差は、低電力ジャイロスコープにつながらない。この電力消費の別の原因は、振動子によるジャイロスコープの電力消費の増加を安定化させるのに使用される安定化回路、例えばPLL及び/又はPIコントローラである場合があるが、これも同様に低電力ジャイロスコープにつながらない。また、電力消費の他の原因もまた存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジャイロスコープの電力消費を低下させるための1つの選択肢は、2つの質量体を含む、したがって2つの共振周波数を有する2自由度(2−DOF)振動子を使用することである。2−DOFジャイロスコープは、2つの共振周波数の間で動作することができる。一般に、振幅応答は、種々の品質係数及び共振周波数に僅かしか依存しない。しかしながら、この応答の大きさは依然として極度に小さく、上述の1−DOF振動子の非共振応答と同程度である。
【0007】
したがって、電力消費が低下したマイクロマシニングによるジャイロスコープが好ましい。かかるマイクロマシニングによるジャイロスコープは、アクチュエータと駆動部との間に高い機械的増幅率が存在する安定した振動周波数範囲を有することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
通常のジャイロスコープと比較して、電力消費が低下したジャイロスコープが開示されている。開示されているジャイロスコープは、安定化回路を必要とせず、駆動回路及び制御回路に対する必要性が低下するように設計され、それゆえジャイロスコープの電力消費が低下する。
【0009】
一態様では、マイクロマシニングによるジャイロスコープが開示されている。そのマイクロマシニングによるジャイロスコープは、基板と、少なくとも3つの質量体(m1,m2,m3)とを備える。第1質量体m1は、機械的接続部k1を介して基板に機械的に連結され、第2質量体m2は、接続部k12を介して第1質量体m1に機械的に連結され、機械的接続部k2を介して基板に連結され、第3質量体m3は、機械的接続部k23を介して第2質量体m2に機械的に連結されている。3つの質量体は、それぞれ第1方向x又はyに沿って振動するように構成されている。
【0010】
質量体m1,m2,m3及び機械的接続部k1,k2,k12,k23の間に、次の関係、[(k2+k12+k23)/m2]≫([(k1+k12)/m1]〜[(k23)/m3])が存在する。
【0011】
いくつかの実施形態では、第3質量体m3は、機械的接続部k3を介して基板にも機械的に連結されている。
【0012】
質量体m1、m2及びm3は、第1方向xに沿って振動するように構成されたジャイロスコープの駆動質量体とすることができる。この目的のために、ジャイロスコープは、これらの駆動質量体を刺激するためのアクチュエータをさらに備えてもよい。これらのアクチュエータは、平行板アクチュエータでもよい。
【0013】
別の実施形態では、マイクロマシニングによるジャイロスコープは、これらの3質量体構成の複製組m1’、m2’及びm3’をさらに備えてもよく、この複製組は、第1方向に沿って且つこれらの3質量体構成m1、m2及びm3と逆位相で振動するように構成されている。
【0014】
質量体m1、m2及びm3は、ジャイロスコープの検出質量体とし、ジャイロスコープが回転する際には、y方向に沿って振動するように構成されるようにすることができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、3つの質量体m1,m2,m3は、直線的に振動するように構成することができる。
【0016】
別の態様では、基板と、検出質量体に機械的に連結される駆動質量体とを備え、両質量体は直交する方向に運動可能であり、コリオリ力の影響の下に動作する場合は、駆動質量体は検出質量体を駆動し、駆動質量体又は検出質量体のうち少なくとも1つが3つの質量体m1,m2,m3の接続部として構成され、第1質量体m1は、基板に機械的に連結され、第2質量体m2は、第1質量体m1及び基板に機械的に連結され、第3質量体m3は、第2質量体m2に機械的に連結され、次の関係、[(k2+k12+k23)/m2]≫([(k1+k12)/m1]〜[(k23)/m3])が存在し、m1、m2、m3は、それぞれ質量体m1、m2及びm3の重量であり、k1,k2(及びk3)は、それぞれ質量体m1、m2又はm3と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、k12,k23は、それぞれ質量体m2と質量体m1又は質量体m3との間の機械的接続部のばね定数であるようにした、マイクロマシニングによるジャイロスコープが開示されている。
【0017】
さらに別の態様では、基板と、第1方向x又はyに沿って振動するように構成された3つの質量体m1、m2及びm3とを備え、第1質量体m1は基板に機械的に連結され、第2質量体m2は、第1質量体m1及び基板に機械的に連結され、第3質量体m3は、第2質量体m2に機械的に連結され、各質量体m1、m2及びm3の重量及びばね定数k1,k2,k3、並びに、機械的連結k12,k23が、動作中に質量体m1及び質量体m3の共振周波数を充分に上回る周波数で質量体m2が振動するように選択されるようにした、マイクロマシニングによるジャイロスコープが開示されている。
【0018】
いくつかの実施形態では、質量体m2の共振周波数は、質量体m1又はm3の共振周波数より、少なくとも2倍、更には2.5倍大きくてもよい。
【0019】
さらに別の態様では、マイクロマシニングによるジャイロスコープを設計するための方法が開示されている。このマイクロマシニングによるジャイロスコープは、基板と、第1方向x又はyに沿って振動するように構成された少なくとも3つの質量体m1、m2及びm3とを備え、第1質量体m1は、基板に機械的に連結され、第2質量体m2は、第1質量体m1及び基板に機械的に連結され、第3質量体m3は、第2質量体m2に機械的に連結され、次の関係、[(k2+k12+k23)/m2]≫([(k1+k12)/m1]〜[(k23)/m3])が存在し、m1、m2、m3は、それぞれ質量体m1、m2及びm3の重さであり、k1,k2(及びk3)は、それぞれ質量体m1又はm2又はm3と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、k12,k23は、それぞれ質量体m2と質量体m1又は質量体m3との間の機械的接続部のばね定数である。
【0020】
その方法は、[(k1+k12)/m1]〜[k3+k23)/m3]を満たすようにm1、m3、k1及びk3を選択する工程と、ジャイロスコープの動作中に、[(k2+k12+k23)/m2]≫[(k1+k12)/m1]>[(k3+k23)/m3]を満たすようにm2、k2を選択する工程とを含む。
【0021】
その方法はさらに、質量体m1の運動と質量体m3の運動との間の機械的増幅率を選択する工程と、k2をこの所望の機械的増幅率を考慮した値とする工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
例示的な実施形態が、図面の参照図中に示されている。本明細書で開示した実施形態及び図面は、例示的であり、限定的でないと考えるべきである。
【0023】
【図1】一実施形態に係る、3つの駆動質量体m1,m2,m3と1つの検出質量体msenseとを備えたマイクロマシニングによるジャイロスコープと機械的に等価な概略図を示す。
【図2】一実施形態に係る、3つの駆動質量体m1,m2,m3と1つの検出質量体msenseとを備え、質量体m3が基板に連結されているマイクロマシニングによるジャイロスコープと機械的に等価な概略図を示す。
【図3】一実施形態に係る、図2に示すジャイロスコープの共振挙動を示す。正規化した変位応答(単位なし)対周波数(Hz)を示す。
【図4】一実施形態に係る、3つの駆動質量体m1,m2,m3と1つの検出質量体msenseとを備え、検出質量体は駆動質量体m3から分離しているマイクロマシニングによるジャイロスコープと機械的に等価な概略図を示す。
【図5】一実施形態に係る、3つの駆動質量体m1,m2,m3と3つの検出質量体msense−2,msense−3とを備え、検出質量体は駆動質量体m3から分離しているマイクロマシニングによるジャイロスコープと機械的に等価な概略図を示す。
【図6】一実施形態に係る、音叉構成で配置された駆動質量体m1,m2,m3と、1つの検出質量体msenseとを備えたマイクロマシニングによるジャイロスコープと機械的に等価な概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、特定の実施形態を包含し、特定の図面を参照するが、それに限定されることはない。記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントの大きさは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。寸法及び相対寸法は、開示の実施に対する実際の縮小には対応していない。この明細書を通じて「一実施形態(one embodiment又はan embodiment)」が意味するのは、その実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性は、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれる、ということである。したがって、本明細書を通じてさまざまな所で現れるフレーズ「一実施形態では」は、必ずしも同じ実施形態を指すのでなく、異なる実施形態を指してもよい。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、この開示から当業者に明らかなように、1つ以上の実施形態において好適な方法で組み合わせることができる。さらに、説明及び請求項での用語「上(top)」「底(bottom)」「〜の上(over)」「〜の下(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述するためのものでない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した開示の特定の実施形態が本明細書で説明又は図示した以外の他の向きで動作可能であると理解すべきである。請求項で使用する用語「備える、有する、含む(comprising)」は、それ以降に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきでなく、他のエレメント又は工程を除外していない。それゆえ、記述した特徴、整数、工程又はコンポーネントの存在を、参照したように特定するよう解釈する必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又はコンポーネント、或いはこれらのグループの存在又は追加を除外していない。したがって、「コンポーネントA及びBを含むソリューション」という表現の範囲は、コンポーネントA及びBだけからなるソリューションに限定すべきでない。本開示に関して、A及びBが、関連するソリューションのコンポーネントであることを意味するに過ぎない。
【0025】
この開示では、マイクロマシニングによるジャイロスコープを開示している。かかるマイクロマシニングによるジャイロスコープは、既に説明したコリオリ効果に従って動作する角速度センサである。かかるマイクロマシニングによるジャイロスコープは、半導体プロセスの製造工程を使用して製造する。
【0026】
特に、機械的に連結され、第1方向yに沿って振動する3質量体構成を備えたマイクロマシニングによるジャイロスコープを開示している。かかる三質量体振動スキームでは、図1で示すように、質量体m1は質量体m2及び基板に連結され、質量体m2は質量体m3及び基板に連結される。また、質量体m3は、検出部msenseを駆動する。質量体m3は、第2質量体m2を介してのみ質量体m1に機械的に連結されている。
【0027】
質量体m1はアクチュエータによって駆動されるが、通常は静電気的に駆動される。低電圧では櫛歯アクチュエータを使用可能であるが、より低電圧で動作するので、平行板アクチュエータを使用するのが好ましい場合もある。かかる平行板アクチュエータは、電力効率に優れるが、非線形挙動に起因して大きな変位を提供することができない。しかしながら、後述するように、質量体m1の運動と質量体m3の運動との間の機械的増幅率に起因して、平行板アクチュエータの小さい変位を増幅して、適度に大きい第3質量体m3の振幅が得られる。増加した振幅は、例えば数マイクロメートルである場合がある。
【0028】
第3質量体m3は、外的な回転の際にコリオリ力を作り出す振動質量体として使用することができる。質量体m3の偏差は、駆動質量体m1、m2及びm3が振動する方向に沿った方向xに垂直な方向y方向に運動する質量体msenseによって検出する。この質量体msenseは、図1に示す構成では質量体m3driveに直接連結され、それ自体は駆動質量体m3の一部である。
【0029】
質量体m1,m2,m3の質量、ばね定数k1,k2,k3,k12,k23並びに減衰レベルb1及びb2の値は、質量体m3についての、大きくて周波数範囲(例えば50Hz以上)で平坦な変位応答、及び、質量体m3の平坦な周波数応答での質量体m1とm3との間の機械的増幅率が得られるように設計される。したがって、質量体m1の振幅は小さくてもよく、通常200nm未満であり、さらに100nm未満でもよい。上述のように、このm1の小さい振幅はアクチュエータ(例えば平行板アクチュエータ又は櫛歯アクチュエータ)の低電圧駆動を可能にする。したがって、質量体m3のアクチュエータに対する応答は、いかなる外部回路も必要とすることなく頑強となり、全体の電力消費が低下することとなる。
【0030】
図1では、質量体m3は基板に連結されなかったが、図2は、質量体m3が基板にも機械的に連結される別の実施形態を示す。この連結は、ばねk3及び減衰b3によってモデル化される。このような構成は、マイクロマシニングによるジャイロスコープの製造に起因する欠陥に適合するであろう。ばねk1及びk3が同様の形状で設計され、さらに、プロセスに関連する欠陥がある場合、すべてのばねk1,k2,k3,k12,k23が同程度の影響を受ける。さらに、すべての質量体m1、m2及びm3を基板に固定することで、一端が飛び出した質量体の座屈/屈曲に関する機械的応力が最小化すると共に、より大きく、より平坦なデバイスが可能となる。
【0031】
図2に示す機械的なシステムは、下記の3つの式(1)でモデル化することができる。
【0032】
【数1】

【0033】
これらの3つの式から、各質量体m1、m2及びm3の変位応答を下記の式(2)のように解析的に得ることができる。
【0034】
【数2】

【0035】
図3は、連結した三質量体の振動構成の共振挙動を示す。駆動力の周波数は掃引され、駆動された質量体の変位はDC変位に関連して測定される。したがって、図3のy軸は、振動ピークの品質係数を表す。応答ピークf1とf3との間で、実質的に平坦な応答領域が得られる。これら2つの共振ピークf1及びf3は、質量体m2の共振周波数が両共振ピークのいずれより大きいように選択された場合には、質量m1及びm3によって決定する。
【0036】
質量体m3の平坦で大きい応答、及び、質量体m1と質量体m3との間の機械的増幅率を達成するために、次の設計方法を適用する。第1に、質量体m2は非運動剛体であり、k2は無限であると仮定する。このとき、質量体m1の運動と質量体m3の運動とは別個に決定することができる。次に、質量体m1及び質量体m3のそれぞれの共振周波数f1及びf2は、下記の式(3)に示すように質量体m2が全く影響を与えないことを仮定して、互いに等しいとみなされる。
【0037】
【数3】

【0038】
減衰レベルb1及びb2が充分小さく、かつ、基板に連結されている(b3)場合、有限のk2の値は、質量体m1の共振周波数f1及び質量体m3の共振周波数f3が互いに分離し、両者の間で頑強な応答プラトーを形成すると共に、質量体m1と質量体m3との間に機械的増幅率を形成する。質量体m1及び質量体m3の共振周波数の分離と、プラトーでの質量体m3の応答レベルは、k2の値に依存する。k2が大きいほど、分離は小さく、応答は大きくなる。
【0039】
この機械的増幅率は、ジャイロスコープが動作する環境の真空レベル、又は個々のピークの品質係数を増加させることにより、さらに向上させることができる。
【0040】
機械的増幅率は質量体m1から質量体m3に向かって最も大きくなるが、質量体m1の反共振周波数の位置は、k1を変化させることにより調整することができる。平行板アクチュエータを使用して質量体m1を駆動する場合、k1の値を容易に調整することができる。しかしながら、アプリケーションの観点から、質量体m1の反共振周波数で動作しない方が好ましい場合もある。なぜなら、質量体m1が不安定となるからである。その場合、ジャイロスコープは、質量体m1の反共振周波数から僅かに隔てた周波数で動作し、質量体m1から質量体m3までの機械的増幅率は、真空レベルに関わらず約20〜30であろう。
【0041】
減衰レベルb1,b2(及び存在する場合はb3)又は各共振ピークf1及びf3の品質係数は、ジャイロスコープの動作に重要な役割を担っている。品質係数が充分に大きくない場合、連結は生じず、プラトーを形成することもできない。
【0042】
共振周波数f1及びf2の品質係数の選択は、設計基準である。k2が大きいほど、両方の共振周波数の品質係数は大きい必要がある。質量体m2を介して連結される場合、これらの品質係数の値は、ばね定数k2の有限の値に起因して、質量体m1及び質量体m3の共振周波数f1とf3との間のプラトーの平均周波数に対する質量体m2の共振周波数の比、よりも大まかに言って1桁大きい必要がある。
【0043】
質量体m1の反共振周波数の位置は、プラトーの中間地点である必要はない。この位置は、質量m1の質量m3に対する比に依存するが、k1を変化させることで調整可能である。それゆえ、初期の設定段階で、質量体1の共振周波数及び質量体3の共振周波数は互いにf1〜f3に一致するが、質量体m2が非運動物体であると仮定すると、最終的には変化したk1に起因して式(3)が有効である必要はない。
【0044】
質量体1と質量体3との間の機械的増幅率は動作周波数に依存する。動作周波数が質量体m1の反共振位置での周波数である場合、増幅率は最大となる。しかしながら、この状況は、質量体m1の運動に不安定性をもたらす可能性がある。反共振から僅かに隔てて動作することが提案されている。この場合、機械的増幅率は現実的に20〜30が可能である。
【0045】
図4、図5及び図6は、代替の実施形態を示す。振動するジャイロスコープ内で1−DOF振動子を使用する場合であれば、提案した三質量体連結振動技術を使用可能である。分離した、又は分離していない検出スキーム及び駆動スキーム並びに音叉トポロジーを使用可能である。さらに、この三質量体振動トポロジーをジャイロスコープの検出部内で使用して、大きいバンド幅及び増幅された感度を達成可能である。
【0046】
図4は、3つの駆動質量体m1、m2及びm3を備え、m1は基板に(k1,b1)、及び、質量体m2に(k12)連結され、m2は基板に(k2,b2)、及び、質量体m3に(k23)に連結され、質量体m3は、分離質量体mdecouplingを介して検出質量体msensを駆動するようにしたマイクロマシニングによるジャイロスコープを示す。
【0047】
図5は、3つの駆動質量体m1、m2及びm3を備え、m1は基板に(k1,b1)、及び、質量体m2に(k12)連結され、m2は基板に(k2,b2)、及び、質量体m3に(k23)連結され、質量体m3は、分離質量体mdecouplingを介して検出質量体msensを駆動するようにしたマイクロマシニングによるジャイロスコープを示す。この実施形態ではまた、検出質量体msensは、3つの質量体msens_1,msens_2,msens_3が連結されたものとして構成され、質量体msens_2は、基板及び質量体msens_2に連結され、質量体msens_2は、基板及び質量体msens_3に連結されている。この構成では、駆動質量体についての安定した振動周波数範囲が得られ、質量体m1の運動は質量体m3に向かって機械的に増幅されると共に、安定な検出周波数帯が得られ、質量体msens_1の運動は質量体msens_3に向かって機械的に増幅される。
【0048】
図6は、音叉構成で3つの駆動質量体m1、m2及びm3を備え、質量体m1は基板に(k1,b1)、及び、質量体m2に(k12)連結され、m2は、基板に(k2,b2)、及び、質量体m3に(k23)連結され、質量体m3は、分離質量体mdecouplingを介して検出質量体msensを駆動するようにしたマイクロマシニングによるジャイロスコープを示す。それはさらに、第2の組の、3つの駆動質量体m1’、m2’及びm3’を備え、m1’は基板及び質量体m2’に(k12’)連結され、m2’は基板及び質量体m3’に(k23’)連結され、質量体m3’は検出質量体msens’を駆動する。機械的に連結したm1、m2及びm3と、m1’、m2’及びm3’の両方の組が、同じアクチュエータによって駆動される。
【0049】
多くの実施形態の例が考慮される。1つの実施形態の例では、マイクロマシニングによるジャイロスコープは、基板と、第1方向に沿って振動するように構成された3つの質量体とを含んでもよい。第1質量体m1は、基板に機械的に連結されてもよく、第2質量体m2は、第1質量体及び基板に機械的に連結されてもよく、第3質量体m3は第2質量体m2に機械的に連結されてもよい。ジャイロスコープは、次の式、[(k2+k12+k23)/m2]≫([(k1+k12)/m1]〜[(k23)/m3])のように規定してもよい。ここで、m1,m2,m3は、それぞれ質量体m1、m2及びm3の重さであり、k1,k2は、それぞれの質量体と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、k12,k23は、それぞれ第2質量体と第1質量体、第2質量体と第3質量体との間の機械的接続部のばね定数である。
【0050】
いくつかの実施形態では、第3質量体m3は基板に機械的に連結されてもよく、次の関係、[(k2+k12+k23)/m2]≫[(k1+k12)/m1]〜[k3+k23)/m3]が存在してもよい。ここで、k3は、質量体m3と基板との間の機械的接続部のばね定数である。
【0051】
いくつかの実施形態では、3つの質量体は駆動質量体である。ジャイロスコープはさらに、第1質量体m1を駆動するための駆動手段を含んでもよい。駆動手段は、例えば、1つ以上の平行板静電アクチュエータでもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、3つの質量体はジャイロスコープが回転する際に運動するように構成された検出質量体でもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、ジャイロスコープはさらに、3質量体構成の複製組を含んでもよい。その複製組は、3質量体構成と逆位相で第1方向に沿って振動するように構成してもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、質量体が直線的に振動するように構成してもよい。
【0055】
別の実施形態の例では、マイクロマシニングによるジャイロスコープの設計方法が、[(k1+k12)/m1]〜[k3+k23)/m3]を満たすようにm1、m3、k1及びk3を選択する工程を含んでもよい。その方法はさらに、動作中に、[(k2+k12+k23)/m2]≫[(k1+k12)/m1]>[k3+k23)/m3]を満たすようにm2、k2を選択する工程を含んでもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、その方法はさらに、質量体m1の運動と質量体m3の運動との間の機械的増幅率を選択する工程と、k2をこの所望の機械的増幅率を考慮した値とする工程とを含んでもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1方向に沿って振動するように構成された3つの質量体とを備え、
第1質量体は、基板に機械的に連結され、
第2質量体は、第1質量体及び基板に機械的に連結され、
第3質量体は、第2質量体に機械的に連結され、
次の関係、
[(k2+k12+k23)/m2]≫([(k1+k12)/m1]〜[(k23)/m3])
が存在し、
m1、m2、m3は、それぞれ第1質量体、第2質量体及び第3質量体の重さであり、
k1、k2及びk3は、それぞれ第1質量体、第2質量体又は第2質量体と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、
k12、k23は、それぞれ第2質量体と第1質量体又は第3質量体との間の機械的接続部のばね定数であるようにした、マイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項2】
第3質量体は、基板に機械的に連結され、
次の関係、
[(k2+k12+k23)/m2]≫[(k1+k12)/m1]〜[k3+k23)/m3]
が存在し、
m1、m2、m3は、それぞれ第1質量体、第2質量体及び第3質量体の重さであり、
k1、k2及びk3は、それぞれ第1質量体、第2質量体又は第2質量体と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、
k12、k23は、それぞれ第2質量体と第1質量体又は第3質量体との間の機械的接続部のばね定数であるようにした、マイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項3】
3つの質量体は駆動質量体であり、
第1質量体を駆動するための駆動手段をさらに備えた、請求項1又は2に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項4】
駆動手段は、平行板静電アクチュエータである、請求項3に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項5】
3つの質量体は、ジャイロスコープを回転させるときに運動するように構成された検出質量体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項6】
この3質量体構成の複製組であって、第1方向に沿って、かつ、この3質量体構成と逆位相で振動するように構成された複製組をさらに備えた、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項7】
3つの質量体は、直線的に振動するように構成された、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープ。
【請求項8】
第1質量体、第1質量体と基板との間のばね定数、第3質量体、及び、第3質量体と基板との間のばね定数を、
[(k1+k12)/m1]〜[k3+k23)/m3]
を満たすように選択する工程と、
第2質量体、及び、第2質量体と基板との間のばね定数を、動作中に、
[(k2+k12+k23)/m2]≫[(k1+k12)/m1]>[k3+k23)/m3]
を満たすように選択する工程とを含み、
m1、m2、m3は、それぞれ第1質量体、第2質量体及び第3質量体の重さであり、
k1、k2及びk3は、それぞれ第1質量体、第2質量体又は第2質量体と基板との間の機械的接続部のばね定数であり、
k12、k23は、それぞれ第2質量体と第1質量体又は第3質量体との間の機械的接続部のばね定数であるようにした、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロマシニングによるジャイロスコープを設計するための方法。
【請求項9】
第1質量体の運動と第3質量体の運動との間の機械的増幅率を選択する工程と、
第2質量体と基板との間のばね定数を、この所望の機械的増幅率を考慮した値とする工程とをさらに含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−61338(P2013−61338A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−200751(P2012−200751)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【Fターム(参考)】