説明

機械的パルプ化方法および装置

【課題】
機械的リファイニングプロセスの効率とパルプの品質を向上させることができる機械的パルプ化方法を提供すること。
【解決手段】
細砕セルロース材を前処理工程で離解するステップ、
離解されたセルロース材を一次リファイニング工程で機械的にリファイニングするステップ、
前処理工程または一次リファイニング工程の際にセルロース材に薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップ、および
離解され、リファイニングされたセルロース材を一次リファイニング工程から送り出すステップを含むことを特徴とする機械的パルプ化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース材から繊維を分離する方法、例えば木材チップ原料から繊維を分離する方法に関する。本発明は、特に化学的機械的パルプ化方法(CMP)と熱的機械的パルプ化方法(TMP)を含む機械的パルプ化方法に関する。
【0002】
従来の機械的リファイニングプロセスの幾つかでは、離解(defibration)とフィブリル化(fibrillation)の工程は単一の機構で一緒に実施されている。木材繊維の離解工程と繊維のフィブリル化工程とを分離することの利点は、例えば特許文献1に議論されている。繊維がフィブリル化に先だって離解されるとき、一次リファイニング工程は、フィブリル化に最も好適となるように定めることが可能である。フィブリル化にとっての最適化とは、リファイニング強度の増大によるエネルギー散逸を最小限に抑えるこである。離解工程とフィブリル化工程とを分離する方法は、特許文献1に記載されている。これは、加圧チップ圧搾機を使用し、前処理工程で温和なリファインニングを行って繊維を分離し(「離解工程」と称される)、その後に高強度の加圧一次リファイニング段階(「フィブリル化工程」と称される)を行うものである。
【特許文献1】米国特許第7,300,541号明細書
【発明の開示】
【0003】
本発明によれば、特定の処理剤が開発され、これが離解された木材繊維に適用されて、機械的リファインニングプロセスの効率とパルプの品質の向上が得られることになった。この処理剤としては、酸性、中性またはアルカリ性の薬剤、および酵素剤を含む。処理剤のタイプと、リファイニングプロセスにおいて離解された木材繊維に処理剤を適用する添加ポイントとは、プロセス効率を向上するために最適化し得る。プロセス効率とは、パルプの物性、白色度および省エネルギーで、またはこれらの組み合わせで定義し得る。また、本明細書に開示の処理剤で処理すると、1)劣質木材種や製材所鋸屑をリファイニングプロセスに使用することが可能となり、および2)一次リファイニング工程の下流のリファイニングプロセスを簡素化することが可能となる。
【0004】
本明細書に開示の処理剤は、特許文献1に記載のような熱的および機械的リファイニングプロセスの際に処理剤の特定の適用ポイントにおいて適用し得る。処理に使用される処理剤に依存するが、処理剤の適用ポイントとしては、一段または複数段の離解工程(望ましくは、酵素剤を使用する)またはその直後のポイント、フィブリル化工程(望ましくは、薬剤を使用する)のポイント、および/またはフィブリル化工程(望ましくは、漂白剤を使用する)の直後のポイントなどがある。処理剤の選択は、例えば、プロセス効率を向上するために処理剤をリファイニングプロセスに適用するための最適なポイントを決定するのに重要な要素である。
【0005】
本明細書に開示の方法は、離解とフィブリル化が別個の工程であるように行われるのが好ましく、そして別個の機構で行われるのが好ましい。別法としては、離解工程とフィブリル化工程の分離は、2以上のリファイニング領域を直列に配置した機械的リファイナーのような単一の機構中でも行い得る。好ましくは、離解工程は、元の木材繊維の少なくとも30%、好ましくは70%超を十分に分離された繊維に転化することを達成し、フィブリル化工程での転化は5%未満である。前処理(離解)工程から得られる離解レベルは、原料中に分離繊維が40%〜90%となることが好ましい。一次リファイナー(フィブリル化)工程では、フィブリル化された繊維が少なくとも90%となることが好ましい。
【0006】
本明細書に開示の方法は、針葉樹材や広葉樹材から得られる木材チップを含むリグノセルロース材に適用し得るが、他のタイプのリグノセルロース材、例えば現在では既存のパルプ工場での使用にはそれほど望ましくないと見なされる材料にも適用し得る。
【0007】
本発明によれば、機械的パルプ化方法が提供される。その態様の一つは、細砕セルロース材を離解するステップ、離解されたセルロース材を一次リファイニング工程で機械的にリファイニングするステップ、離解工程または機械的リファイニング工程の際に前記セルロース材に薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップおよび離解され、リファイニングされたセルロース材からパルプを製造するステップを含む。
【0008】
本発明の機械的パルプ化方法は、一次リファイニング工程の時に薬剤をセルロース材に、前処理工程の時にバイオ剤をセルロース材に導入することを含み得る。さらに、離解工程は、加圧チップ圧搾ステージとこれに続くファイバライザーリファイナーステージとを含み得る。そして、バイオ剤の導入は、前処理工程において、特に加圧チップ圧搾ステージとファイバライザーリファイナーステージとの間において行い得るし、または直接的にファイバライザーリファイナーステージにおいても行い得る。
【0009】
本発明によれば、機械的パルプ化装置が提供される。その態様の一つは、細砕セルロース材を受容する前処理離解装置、前処理離解装置から排出される細砕セルロース材を受容する一次リファイナー、バイオ剤と薬剤の少なくとも一つの供給源、および前記供給源から離解装置と一次リファイナーの少なくとも一つに接続される導管を備えており、該導管は、バイオ剤と薬剤の少なくとも一つを離解装置と一次リファイナーの少なくとも一つに供給するものである。
【0010】
別の態様の一つでは、細砕セルロース材を受容する前処理離解装置、前処理離解装置から排出される細砕セルロース材を受容する一次リファイナー、バイオ剤と薬剤の供給源、バイオ剤を前処理離解装置に導入する入口、および薬剤を一次リファイナーに導入する入口を備える機械的パルプ化装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
リファイニングは、本明細書の文脈では、一般に、前処理(離解)工程と一次リファイニング(フィブリル化)工程とを含む。前処理(離解)工程では、木材チップ原料が機械的にゆるやかにかつ低強度の状態、例えば加圧状態で、機械的に繊維に解き放たれ、木材チップ中の繊維のマトリクスから個々の繊維の分離が開始される。一次リファイニング工程は、一般に、高い機械的強度の力、例えば剪断や衝撃パルスを含む力で、木材チップをフィブリル化し、パルプ化するものである。フィブリル化において、繊維は引き剥がされ、繊維壁材料が破壊される。繊維のフィブリル化に使用されるリファイナーは、単一または複数のリファイニング領域を有するリファイニング板を備えた機械的コーン型リファイナーまたはディスク型リファイナーである。
【0012】
図1は、木材チップにおいて、共に結束された針葉樹繊維12を有する木材チップ10の模式図である。結束材料は、繊維12の間でリグニンを高濃度に含む中央ラメラ14において主に見出される。各繊維12の組織には、P層とS層と表示される種々の層がある。S層にはS1、S2およびS3と記された3つの個々の層が含まれている。P層は繊維の各セルの一次壁を表す。S層は繊維セルの二次壁を表し、S1層は繊維の二次壁の外層で、S2層は二次壁の本体で、S3層は二次壁の内層である。
【0013】
フィブリル化の際に、フィブリルリッチの層S2が、各繊維から実際的に可能な限り多く剥離、例えば引き剥がされる。S2層は、繊維構造中に最大量のフィブリルを含有する。結束材料の表面積は、S2層を引き剥がし、または剥離することによって増加する。表面積の増加は、引張強度や散乱係数のような望ましいパルプ品質の向上に正の相関を有する。前処理工程におけるフィブリル化は、一次リファイニング工程におけるフィブリル化に便なるように繊維の繊維質領域を露出させる。
【0014】
セルロース材が繊維化またはフィブリル化されるリファイニングプロセスの一段または複数段において処理剤を添加すると、木材繊維マトリクスを開裂して繊維の壁材を露出する反応が引き起こされ、効果的な軟化が生じて繊維壁材の繊維のフィブリル化、例えばデラミネーションが最大限になると考えられる。リグノセルロース材10のすべての繊維層(P、S1、S2およびS3)は、処理剤の処理を受ける。処理剤とS2層との間に反応が起こると、S2層のフィブリル化が大幅に増進する。
【0015】
処理剤としては、薬剤(酸性、中性およびアルカリ性)、酵素、菌類、バクテリアなど、およびこれらの組み合わせを使用し得る。処理剤は、リファイニング機構の種々の箇所およびリファイニングプロセスの種々の段階に適用し得る。
【0016】
処理剤は、態様の一つでは、薬剤ベースが好ましく、一次リファイニング工程(フィブリル化工程)の間に導入され、処理剤と木材の間の反応時間を最小限にする役目を果たす。このように処理剤を導入すると、繊維壁材の軟化と反応が、リグニンリッチの中央ラメラの軟化と反応よりも優先的に起こるので、その結果、S2層の壁材、そして最終的には繊維結束の剥離が生じて露出された特定の繊維表面積が最大限に達する。さらに、好ましいことは、薬剤を繊維構造に長時間にわたって暴露しないことであるが、これは、リグニンでコーティングされた長い繊維が生ずる恐れがあるからである。
【0017】
態様の他の一つでは、酵素のようなバイオ剤を離解工程に適用し、木材構造の上でのバイオ剤の反応時間を増加させることもできる。これは、一次リファイニング工程で薬剤を添加することにより短い反応時間となるのに比較して対照的である。バイオ剤は、一般に、木材構造と適切に反応して、S2層を軟化するという望ましい利点を達成するには、少なくとも15分間という保持時間を要する。薬剤を一次リファイナー(フィブリル化)工程に、バイオ剤をファイバライザーリファイナー(離解)工程にというように、処理剤を適切に適用することが、優れたパルプ品質を得る上で望ましい。
【0018】
処理剤での処理に引き続いて、更なる機械的リファイニング装置または他のパルプ化装置を使用し、木材チップに剪断力と圧縮力を適用し、さらにフィブリル化し、パルプに白色度の向上、抽出物の除去、光学的性質の向上、および繊維の改良(引張、弾性、繊維長、高比表面積など)などの有利な性質を付与することができる。
【0019】
処理剤、例えば薬剤またはバイオ剤をプロセス工程に適用すると、エネルギー効率が改良され、薬剤使用量が最適化されるので、運転コストの低減が得られる。さらに、処理剤、例えば薬剤をフィブリル化プロセスに導入すると、処理剤の効果により、リファイニングされたパルプの光学特性、例えばパルプの光散乱特性や不透明性を向上させることができる。高い光散乱係数は、繊維の高比表面積に寄与する処理剤の使用によって達成し得る。また、処理剤を使用すると、リファイニングプロセス工程の簡素化と関連する投資コストの削減を達成することができる。
【0020】
リファイニングプロセスに処理剤を適用する利点の他の一つは、抽出物の除去が容易に行えることである。このことは、樹脂の多い木材をリファイニングする際に特に関連することである。樹脂の多い木材の繊維構造を離解して開裂するとき、木材の抽出物は、木材から押出され、下流の脱水機で処理される。本明細書に開示の処理剤を適用することで得られる別の一つの利点は、変動する密度と抽出物含有量を有する木材の均質化を改良することである。また、処理剤を加えると、劣質の木材繊維の結束性を所与の濾水度で20%以上も改良することである。さらに、処理剤を使用すると、木材の端材、例えば製材所鋸屑をリファイニング用木材の原料として使用可能であり、このような端材は、以前には使用不能であったものである。
【0021】
図2〜図7は、機械的、化学的機械的または熱的機械的リファイニングプロセス(纏めて機械的リファイニングと称される)に単一または複数の薬剤を適用する場合のフローチャートである。図2のフローチャートは、木材チップを薬剤と漂白剤とで完全にリファイニング処理する場合に対応する。木材チップ20は、チップ洗浄工程22に導入され、二段階の前処理、例えば離解工程24に移送される。前処理工程24の第一段階26は、2バール(ゲージ)未満の圧力で操作される加圧チップ圧搾機26であり、その後に3バール(ゲージ)未満で操作されるファイバライザーリファイナー28が備えられている。写真画像30は、加圧チップ圧搾機26にかけた後の木材チップを示し、画像32は、ファイバライザーリファイナー28にかけた後の木材チップを示す。この前処理工程24では、薬剤が添加されないのが好ましい。
【0022】
前処理工程24に続いて、木材チップは一次リファイニング(フィブリル化)工程34で処理される。この工程34は、加圧供給装置、スチーム処理装置、機械式ディスク型リファイナーまたはコーン型リファイナーを備えている。このリファイナーは、また、ブローライン(例えば、供給装置からブローラインに至るすべての加圧機器)を含み、3バール(ゲージ)超で操作される。単一または複数の薬剤36が一次リファイニング工程34に添加される。一次パルプ工程における薬剤の添加は、処理剤と木材との間の反応時間を短縮するのに有用である。
【0023】
一次リファイナー工程34で薬剤を添加することによって得られる利点の他の一つは、前処理工程24に添加するのとは異なって、薬剤が、木材チップの加圧において、または一次加圧リファイナーに供給するプラグ型スクリュー33によっても木材チップから絞り出されない、例えば押出されないということである。処理剤がチップに保持されるようにすると、処理剤は、その添加量全部が木材繊維と反応するのである。
【0024】
薬剤としては、漂白剤、好ましくはMgOHとHを使用し得る。薬剤が単独で、または酸化性漂白液、例えばアルカリ性過酸化物と一緒にして使用される場合、この処理剤と漂白剤とは、i)一次リファイナー34に直接的に、ii)一次リファイナーのブローライン35に、またはiii)一次リファイナーとブローラインとの間に分岐して導入される。アルカリ性漂白液を単独でまたは薬剤と共にブローラインに添加すると、Hなどの酸化性漂白剤の分解が減少または最小限化される。しかしながら、処理剤に起因するエネルギー削減と強度発現という利点は、アルカリ性薬剤の一部または全部が一次リファイナー工程に添加されない限り、最大限には享受はされ得ない。従って、漂白薬剤は、また、一次リファイナーの入口の箇所に、そしてリファイナーのブローラインにも添加し得る。
【0025】
漂白薬剤は、また、一次リファイナー34とそれに続く処理工程40との間にある中間漂白塔38から排出され、生成するパルプの漂白応答性を向上させる。図2に示される方法で漂白薬剤を使用すると、従来の処理工程40でさらに漂白操作を行う必要がなくなり、あるいはその必要が格段に少なくなる。
【0026】
図3は、前処理(部分的離解)工程24が2バール(ゲージ)未満の圧力で操作される加圧チップ圧搾機26の単一工程であり、その後に一次リファイニング工程34が続く機械的リファイニングプロセスの例を示すフローチャートである。スクリュー装置33、例えばプラグ型スクリュー装置が前処理工程24から一次リファイニング工程34へチップを移送する。図3に示されるフローチャートは、木材チップの薬剤による中程度の処理を示す。一次リファイニング工程34は、加圧供給装置、スチーム処理装置、機械式リファイナーを、ブローライン35を含めて備えている。ここでは、供給装置からブローラインに至る加圧機器は、3バール(ゲージ)超、好ましくは5〜6バールで操作される。前記一次リファイニング工程は、離解用の内側領域とフィブリル化用の外側領域とに区分し得る。薬剤36は、一次リファイニング工程34に添加される。漂白薬剤が薬剤と共に添加される場合は、中間漂白塔(図2の38を参照のこと)を設けて、一次リファイニング工程から排出されるパルプの白色度を最大化することができる。さらに、漂白薬剤は、また、一次リファイナーの入口にも、リファイナーのブローラインにも添加し得る。
【0027】
図4は、図2と図3に示されているような前処理工程を有しないプロセス44のフローチャートである。このプロセス44は、薬剤による軽度の処理である。このプロセス44では、チップ20はチップ洗浄工程22から、ブローラインを備える一次リファイニング工程34に直接流れる。このプロセス44では、一次リファイニング工程34は、少なくとも二箇所の明確なリファイニング領域を備え、第一リファイニング領域は木材チップを離解するために配置され、それに続くリファイニング領域は繊維をフィブリル化するために配置される。一次リファイニング工程34は、加圧供給装置、スチーム処理装置、機械式リファイナーを、ブローラインを含めて備えている。ここでは、供給装置からブローラインに至る加圧機器は、3バール(ゲージ)超で操作されるのが好ましい。漂白薬剤は、また、一次リファイナーの入口にも、リファイナーのブローラインにも添加し得る。
【0028】
薬剤36は、離解リファイナー板の後で、外側のフィブリル化リファイナー板の前に添加されるのが好ましい。コーン型リファイナーでは、薬剤は平坦な離解板ゾーンの後で、コーン型フィブリル化板ゾーンの前に添加されるのが好ましい。平坦なディスク型リファイナーでは、薬剤はリファイナー板の平坦な内側の離解ゾーンの後で、平坦な外側フィブリル化ゾーンの前に添加されるのが好ましい。多くの大型の平坦なディスク型リファイナーでは、内側のリファイナー板と外側のリファイナー板との間に円環状のギャップがあるので、ここに希釈水または薬剤が添加される。
【0029】
漂白薬剤は、薬剤36と一緒にまたは単独で添加される。これは、前述した、漂白剤を薬剤と一緒にまたは単独で導入するということと同様である。漂白薬剤が薬剤の一部分として添加される場合は、中間漂白塔39を一次リファイニング工程34と従来の処理工程40との間に設けてもよい。
【0030】
図5は、バイオ剤を使用するプロセス46のフローチャートである。木材チップ20は、圧搾され、チップ洗浄工程22に供給され、二段階の前処理工程24に移送される。前処理工程24は、加圧工程26とファイバライザーリファイニング工程28とを含む。加圧工程は、2バール(ゲージ)未満の圧力で操作されるチップ圧搾機26を含むのが好ましく、ファイバライザーリファイニング工程は3バール(ゲージ)未満で操作されるのが好ましい。プロセス46では、バイオ剤48が前処理工程24に導入される。バイオ剤は、(1)加圧工程の加圧チップ圧搾機と工程28のファイバライザーリファイナーの入口との間の排出ライン50の箇所および(2)ファイバライザーリファイナーに直接の箇所の一つまたは双方に添加される。流れライン52とバルブ54により、バイオ剤は、排出ライン50の箇所とファイバライザーリファイナー28の箇所の一つまたは双方に導入される。バイオ剤48は、チップ圧搾機20とファイバライザーリファイナー28との間およびファイバライザーリファイナー28においてプロセス46に添加される。
【0031】
前処理工程24に引き続き、木材が例えば15分〜3時間保持されるビン56が備えられ、木材とバイオ剤との間の継続した反応が可能となる。ビン56の後に、木材は一次リファイナー工程34に移送される。工程34は、加圧供給装置、スチーム処理装置、機械式リファイナーを、ブローラインを含めて備えている。ここでは、供給装置からブローラインに至る加圧機器は、3バール(ゲージ)超で操作されるのが好ましい。
【0032】
図6は、バイオ剤48と薬剤36とがプロセスによりリファイニングされている木材(チップ)に添加されるプロセス58のフローチャートである。木材チップ20は、圧搾され、チップ洗浄工程22に供給され、二段階の前処理工程24に移送される。加圧チップ工程26は、2バール(ゲージ)未満の圧力で操作される加圧チップ圧搾機を含み、これに3バール(ゲージ)未満で操作される第二ファイバライザーリファイナー工程28が続いている。バイオ剤48が、前処理工程24に添加される。好ましくは、薬剤は、前処理工程に添加されない。また、バイオ剤は、チップ圧搾機20とファイバライザーリファイナー28との間の箇所またはファイバライザーリファイナーの箇所でプロセス58に添加される。また、薬剤は、一次リファイナーブローラインの入口に添加してもよい。
【0033】
前処理工程24の後に、木材は一次リファイナー工程34により処理される。一次リファイナー工程34は、加圧供給装置、スチーム処理装置、ブローラインを含む機械式リファイナーを備えている。加圧供給装置からブローラインに至るプロセスは、3バール(ゲージ)超で操作されるのが好ましい。薬剤36が一次リファナー工程34に添加される。薬剤としては、漂白剤、好ましくはMgOHとHを使用し得る。漂白剤が単独でまたは薬剤と一緒に使用される場合は、薬剤と漂白剤の一部または全部が一次ブローラインに添加される。漂白液が使用される唯一の薬剤である場合は、その薬剤の少なくとも一部または全部を一次リファイナーの箇所に添加し、省エネルギーとパルプ強度発現を図るべきである。漂白剤が添加される場合は、中間漂白塔(図4を参照のこと)を好ましくは一次リファイナー工程34とそれに続く処理工程40との間に設けるべきである。漂白薬剤を、単独で、または一次リファイナー工程34に添加される薬剤と一緒に使用すると、従来の処理工程40の漂白段階を行う必要がなくなり、あるいはその必要が格段に少なくなる。
【0034】
図7は、少なくとも一つの薬剤36を使用する機械的パルプ化法60の例のフローチャートである。この薬剤は、一例として挙げれば、一次リファイニング工程34に供給されるアルカリ性過酸化物であり、プロセス60は中間漂白工程38を含む。プロセス60は、簡素化されたリファイニングプロセスであり、簡素化は、i)メインラインのパルプの加圧スクリーニング操作、ii)メインラインのスクリーン排出カスの脱水およびリファイニング、iii)ディスクフィルターで脱水してからのパルプ貯蔵、およびiv)ポスト漂白プラントを排除することによって達成される。機械的パルプ化プロセスに通常見出されるこれらの機構の一つまたはそれ以上を排除することによって、従来の熱的機械的パルプ化装置に比較して、機器の固定費に大きなコスト削減が図られる。さらに、プロセス60は、上記のプロセスi)〜iv)の一つまたはそれ以上を排除することによって製造コストも削減し得る。
【0035】
処理剤、例えば薬剤とバイオ剤を本明細書に記載の前処理工程24と一次リファイニング工程34に使用すると、一次リファイナー工程34の下流のリファイニング処理工程の範囲と複雑さが簡素化され、これにより下流の機器のコストを削減し得る。本明細書に記載の処理剤を使用すると、繊維の結束力が改良され、メインラインのリファイニング装置でのパルプ化後に得られたパルプのカス含有量も減少し得るので、機械的パルプ化プロセスに必要とされるスクリーン操作は無くて済むか、あるいは最小限に抑えられる。
【0036】
従来の処理工程は、中間漂白に引き続いて行われており、従来工程としては、パルプ圧搾、洗浄工程62、4バール(ゲージ)以下の圧力で実施される二次、三次の機械的リファイニング工程64、66および中コンシステンシーパルプ貯蔵工程68を含み、貯蔵塔に貯蔵することを含む。
本発明の有用性を示すために幾つかの試験を行った。これらの試験は以下の実施例に示される。
【実施例】
【0037】
試験1:
パルプ化プロセスに処理剤を添加する位置は、所与の比エネルギーでパルプ強度発現を最大化するように選択されるものとした。試験1の実施例は、2つの異なる添加位置で処理剤(酸性亜硫酸塩 acid sulfite)を適用したプロセスを使用して製造されたパルプについて比較を行うものである。異なる位置としては、第一は離解工程で、第二はフィブリル化工程(一次リファイナー)である。表Aは、2,400kWh/ODMTの総比エネルギー適用におけるリファイナー系列の結果を示す。
【0038】
【表A】

【0039】
フィブリル化工程に薬剤を添加すると、亜硫酸塩が木材リグニンと反応し、軟化するに必要な曝露時間が減少する。好ましい繊維軟化が繊維壁材内で起こり、これは繊維の特性を向上させる。
【0040】
試験2
試験2の実施例は、チップ破砕に続いて木材繊維の離解度を向上させることの重要性を示す。P.taeda(松材)木材チップを、加圧チップ圧搾機で部分的に離解し、その後にリファイニング工程で薬剤の亜硫酸ナトリウムを添加した。表Bは、150mLの濾水度におけるリファイナーシリーズの結果を示す。
【0041】
【表B】

【0042】
繊維の離解度を上げると、一次リファイナー工程の際に露出された繊維壁材への薬剤浸透の効率が向上し、その結果パルプ品質が向上する。
【0043】
試験3:
試験3の実施例は、劣質木材種および製材所鋸屑が、機械印刷用紙向けのパルプを負のインパクト少なくして製造するに利用できることを示す。試験3は、この新しいプロセスを使用して生産されたパルプにP.taeda製材所鋸屑を29%添加することの効果を示す。表Cは、70mLの濾水度におけるパルプの結果を示す。
【表C】

【0044】
上表で、「*」は、チップ原料が100%の全丸太材P.taedaチップから製造されたことを示し、「**」は、チップ原料が全丸太材P.taedaチップに29%の製材所鋸屑P.taedaチップを添加して製造されたことを示す。
【0045】
29%製材所鋸屑チップから製造されたパルプは、嵩がわずかに高く、白色度が低いという結果が得られた。酸性亜硫酸塩(NaHSO)処理の程度を増せば、パルプ性質、例えば、嵩や白色度を参照パルプと同等にすることができる。
【0046】
試験4:
試験4は、新規プロセスのフィブリル化工程(一次リファイナー)に別の薬剤を適用した場合を示す。この研究に使用した木材は米国テネシー州産のP.taeda木材であった。表Dは、2つの異なる薬剤を使用して製造された一連のパルプを示し、使用薬剤は、1)水酸化マグネシウム(Mg(OH))と過酸化水素(H)との漂白剤溶液および2)酢酸である。また、表Dには、同じP.taeda木材チップから製造された従来のTMPパルプも、比較のために示されている。結果は、二次リファイナーから得られたパルプの濾水度150mLにおけるものである。
【表D】

【0047】
両薬剤とも、従来の熱的機械的パルプ(TMP)に比較して、エネルギー消費量を格段に減少させて、パルプ強度特性も向上させる能力を示した。漂白剤[1.5%Mg(OH)と2.4%H]で処理された一連のものは、白色度に顕著な利得をもたらした。
【0048】
暗色の発色団構造を有する劣質木材種から製造された機械パルプの白色度は、漂白剤および/または工程間保持と提携した新規プロセスを使用することにより、効果的に向上される。そのような適用を実施すると、劣質木材種および下流の漂白用機器を使用する可能性が増大する。
【0049】
以上、本発明を、現在最も実用的で、好ましい態様であると考えられるものに関して記載したけれども、本発明は、開示された態様に限定されることなく、特許請求の範囲に含まれる多岐にわたる改変や均等配置も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】木材チップの部分を示す概略図である。
【図2】本発明の機械的パルプ化方法の第1の態様を示すフローチャートである。
【図3】本発明の機械的パルプ化方法の第2の態様を示すフローチャートである。
【図4】本発明の機械的パルプ化方法の第3の態様を示すフローチャートである。
【図5】本発明の機械的パルプ化方法の第4の態様を示すフローチャートである。
【図6】本発明の機械的パルプ化方法の第5の態様を示すフローチャートである。
【図7】本発明の機械的パルプ化方法の第6の態様を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10,20…木材チップ、12…繊維、14…ラメラ、P…一次細胞壁、S…二次細胞壁、S1…細胞壁の外層、S2…細胞壁の本体、S3…細胞壁の内層、22…チップ洗浄工程、24…離解工程(前処理工程)、26…加圧チップ圧搾機、28…ファイバライザーリファイナー、30,32…画像、33…スクリュー、34…一次リファイニング、35…ブローライン、36…薬剤、38…中間漂白工程、39…漂白塔、40…従来の処理工程、42,44,58,60…プロセス、44…、48…バイオ剤、50,52…導管、54…バルブ、62…パルプ洗浄圧搾機、64…二次リファイナー、66…三次リファイナー、68…中コンシステンシーパルプ貯蔵塔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細砕セルロース材を前処理工程で離解するステップ、
離解されたセルロース材を一次リファイニング工程で機械的にリファイニングするステップ、
前処理工程または一次リファイニング工程の際にセルロース材に薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップ、および
離解され、リファイニングされたセルロース材を一次リファイニング工程から送り出すステップを含むことを特徴とする機械的パルプ化方法。
【請求項2】
請求項1の機械的パルプ化方法において、前記薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップが、一次リファイニング工程の際にセルロース材に薬剤を導入するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2の機械的パルプ化方法において、前記薬剤が漂白剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1の機械的パルプ化方法において、前記薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップが、前処理工程の際にセルロース材にバイオ剤を導入するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1の機械的パルプ化方法において、セルロース材が木材チップを含み、かつ前処理工程が加圧チップ圧搾ステージと、加圧チップ圧搾ステージからのセルロース材を受容するファイバライザーリファイナーステージを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5の機械的パルプ化方法において、前記薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを導入するステップが、バイオ剤を、ファイバライザーリファイナーステージに直接の箇所および加圧チップ圧搾ステージとファイバライザーリファイナーステージとの間の箇所の少なくとも一つに導入するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1の機械的パルプ化方法において、セルロース材が木材チップを含み、かつ前処理工程で、木材チップ中の元の繊維の少なくとも40%が十分に分離された繊維に転化され、一次リファイニング工程で、セルロース材が少なくとも90%のフィブリル化された繊維に転化されることを特徴とする方法。
【請求項8】
細砕セルロース材を受容する前処理離解装置、
前処理離解装置から排出される細砕セルロース材を受容する一次リファイナー、
バイオ剤と薬剤の少なくとも一つの供給源、および
前記供給源から離解装置と一次リファイナーの少なくとも一つに接続された導管であって、薬剤とバイオ剤の少なくとも一つを離解装置と一次リファイナーの少なくとも一つに送出する導管
を含むことを特徴とする機械的パルプ化装置。
【請求項9】
請求項8の機械的パルプ化装置において、前記導管が離解装置にバイオ剤を送出することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項8の機械的パルプ化装置において、前記導管が一次リファイナーに薬剤を送出することを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項8の機械的パルプ化装置において、前処理離解装置が、2バール(ゲージ)以下の圧力で操作される加圧チップ圧搾機と3バール(ゲージ)以下の圧力で操作されるファイバライザーリファイナーとを含み、一次リファイナーが5〜6バール(ゲージ)の圧力で操作されることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11の機械的パルプ化装置において、前記供給源からの導管が、ファイバライザーリファイナーと、加圧チップ圧搾機とファイバライザーリファイナーとを接続する導管とに流体的に連通しており、バイオ剤が、前記導管を通過して、ファイバライザーリファイナーの箇所およびファイバライザーリファイナーと加圧チップ圧搾機との間の導管の箇所の少なくとも一つに流れることを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項8の機械的パルプ化装置において、一次リファイナーからのセルロース材を受容する漂白塔をさらに含むことを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項8の機械的パルプ化装置において、前記セルロース材が木材チップを含むことを特徴とする装置。
【請求項15】
細砕セルロース材を受容する前処理離解装置、
前処理離解装置から排出される細砕セルロース材を受容する一次リファイナー、
バイオ剤と薬剤の供給源、
バイオ剤を導入するための前処理離解装置への入口、および
薬剤を導入するための一次リファイナーへの入口
を含むことを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項15の機械的パルプ化装置において、前処理離解装置が、2バール(ゲージ)以下の圧力で操作される加圧チップ圧搾機と3バール(ゲージ)以下の圧力で操作されるファイバライザーリファイナーとを含み、一次リファイナーが5〜6バール(ゲージ)の圧力で操作されることを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項16の機械的パルプ化装置において、前処理離解装置への導管が、ファイバライザーリファイナーと、加圧チップ圧搾機とファイバライザーリファイナーとを接続する導管とに流体的に連通していることを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項15の機械的パルプ化装置において、一次リファイナーからのセルロース材を受容する漂白塔をさらに含むことを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項15の機械的パルプ化装置において、セルロース材が木材チップを含むことを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項15の機械的パルプ化装置において、細砕セルロース材を前処理離解装置に排出するチップ洗浄装置をさらに含むことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−144314(P2009−144314A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313296(P2008−313296)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(503111263)アンドリッツ・インコーポレイテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】Andritz Inc.
【Fターム(参考)】