機械部品、機械組立体、機械部品の製造方法および時計
【課題】 軸部材を嵌合する際に応力を緩和でき、かつ、回動運動する際に必要なエネルギーを小さくすることができる機械部品、機械部品の製造方法、機械部品組立体および時計を提供する。
【解決手段】 シリコンを主成分として構成され、軸部材126fを嵌合可能な貫通孔126kを有する機械部品126gにおいて、貫通孔の内周面が応力緩和層126sで覆われており、応力緩和層が軸部材に当接可能に構成されている。
【解決手段】 シリコンを主成分として構成され、軸部材126fを嵌合可能な貫通孔126kを有する機械部品126gにおいて、貫通孔の内周面が応力緩和層126sで覆われており、応力緩和層が軸部材に当接可能に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、機械組立体、機械部品の製造方法および時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計などの精密機械に用いられる歯車などの機械部品には、機械的な強度、精度、軽量化等が要求される。このような要求に応えるため、精密機器用の機械部品には、金属やプラスチックを加工する技術に加え、近年ではシリコン(Si)などの半導体加工技術が応用されるようになってきた。半導体加工技術を応用すれば、微細で高精度なSi製部品を製造することができる。
【0003】
例えば時計などに用いられる歯車は、軸部材に嵌合させて使用する方法が知られている。ここで、時計などの精密機械に用いられる歯車は外形が小さく、厚さも薄いため、歯車に軸部材を嵌合させる際の応力が大きい。そのため、脆性材料であるSi製の歯車に軸部材を嵌合させた場合、歯車が変形・破損してしまうことがある。このような課題を受け、Si製歯車の強度を増す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の機械部品は、Si製歯車の表面全てを合金で覆っている。このような構造により、部品の機械強度を増し、Siの破壊を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−79234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の機械部品は、Si製の機械部品全体を金属で覆っているため、Siのみで構成される歯車と比較して重量が大きい。そのため、歯車などの回動運動をする機械部品に用いた場合、慣性モーメントが大きくなる。慣性モーメントが大きくなると、回動運動をさせるために必要なエネルギーが大きくなるので、例えば機械式時計では持続時間が短くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、慣性モーメントが小さく、かつ軸部材を嵌合する際に応力を緩和できる機械部品、機械組立体、機械部品の製造方法および時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る機械部品は、Siを主成分として構成され、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品において、前記貫通孔の内周面のみが金属層で覆われており、前記金属層が前記軸部材に当接可能に構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、機械部品に軸部材を嵌合する際の応力が金属層で緩和される。すなわち、その応力は機械部品の金属層で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が前記貫通孔の深さよりも小さい範囲に形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の少なくとも一端部の内径が、軸方向中央部の内径より拡径されていることを特徴としている。
このように構成することで、上端部が拡径されている場合は、貫通孔に軸部材を嵌合する際に、軸部材を容易に貫通孔内に挿入することができる。また、下端部が拡径されている場合は、軸部材が機械部品の貫通孔に挿通された状態で、貫通孔の下端部側と軸部材との間に空間が形成されるため、その空間に軸部材を嵌合させたときに発生する削り屑を溜めることができる。したがって、削り屑が機械部品の貫通孔から外部へ落下して外観を損ねたり、その削り屑が他の摺動部などに詰まって機能低下を引き起こしたりするのを防止することができる。
【0009】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の上部と下部に分かれて形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向中央部に周方向に延びる溝が形成されていることを特徴としている。
このように構成することで、貫通孔に軸部材を嵌合する際に、上部の金属層で発生した応力が溝で一旦逃げ、下部の金属層と嵌合する。このように応力の逃げ場を設けることによって、金属層の応力緩和効果がより向上する。
【0010】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が、前記Siと前記軸部材よりも軟らかいことを特徴としている。
このように構成することで、機械部品に軸部材を嵌合する際の応力が金属層でさらに緩和される。
【0011】
また、本発明に係る機械組立体は、前記機械部品と前記軸部材とを備え、前記機械部品が前記軸部材を中心に回動可能に構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、回動運動する際に、機械部品全体が金属でできている場合や全体が金属層で覆われている場合と比較して、慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、機械部品を回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0012】
また、本発明に係る機械組立体は、前記機械部品と前記軸部材とを備え、前記機械部品が歯車であることを特徴としている。
このように構成することで、歯車が回動運動する際に必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、Si基板を用いて、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品の製造方法であって、前記Si基板の上層における前記機械部品の形成領域にマスクを形成する工程と、該マスクを用いて前記上層を下層まで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記Si基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う金属膜積層工程と、を有していることを特徴としている。
このように半導体プロセスを利用することにより、精密機械加工を用いることなく低コストで応力緩和のための金属層を形成することができる。また、機械部品を精度よく製造することができる。このようにして製造された機械部品に軸部材を嵌合すると、軸部材を保持するための応力が金属層で緩和される。すなわち、その応力は機械部品の金属層で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記金属膜積層工程が、前記機械部品の表面を前記金属層で覆う工程と、前記金属層の表面にレジストを塗布する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記レジストを除去する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記金属層を除去する工程と、を有していることを特徴としている。
このように、貫通孔の内周面のみ前記金属層を形成することができるため、慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、機械部品を回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0015】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記エッチング工程が、前記マスクを用いて前記上層を所定深さまで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記Si基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う工程と、前記Si基板の下層を所定深さまでエッチングする工程と、を有していることを特徴としている。
このようにプロセスの最後にSi基板から機械部品を得るため、複数の機械部品を一枚の基板で同時に製造することができる。したがって、生産効率を向上することができる。
【0016】
また、本発明に係る時計は、上述した機械部品と時刻を計時する装置の組立部品とを備えていることを特徴としている。
また、本発明に係る時計は、前記組立部品が、番車、がんぎ車およびアンクルの少なくともいずれか一つであることを特徴としている。
このように構成することで、貫通孔に形成された金属層により軸部材を嵌合する際の応力を金属層で吸収することができるため、時計の組立部品に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。したがって、番車、がんぎ車、およびアンクルが正確に回動するために時計の精度を向上させることができる。また、貫通孔の内周以外は軽量のSiで構成されているため、組立部品の慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、番車、がんぎ車、およびアンクルが回動するために必要なエネルギーが小さくなるために時計の持続時間を長時間にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る機械部品によれば、機械部品と軸部材を嵌合すると、機械部品の貫通孔に形成された金属層により応力が緩和される。すなわち、その応力は金属層の部分で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。さらに、機械部品の貫通孔内周以外はSiで構成されているため、機械部品が回動する際の慣性モーメントが小さくなり、回動するために必要なエネルギーを小さくすることができる。したがって、本発明の機械部品を用いた時計の持続時間を長時間にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における機械式時計のムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
【図2】本発明の実施形態における香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるがんぎ車からてんぷの部分を示す概略部分断面図である。
【図4】本発明の実施形態における三番車を示す上面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(1)である。
【図7】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(2)である。
【図8】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(3)である。
【図9】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(4)である。
【図10】図9の状態を示す平面図である。
【図11】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(5)である。
【図12】図11の状態を示す平面図である。
【図13】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(6)である。
【図14】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(7)である。
【図15】図14の状態を示す平面図である。
【図16】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(8)である。
【図17】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(9)である。
【図18】図17の状態を示す平面図である。
【図19】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(10)である。
【図20】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(11)である。
【図21】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(12)である。
【図22】図21の状態を示す平面図である。
【図23】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(13)である。
【図24】図23の状態を示す平面図である。
【図25】図5の三番かなを嵌合する前の状態を示す断面図である。
【図26】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(1)である。
【図27】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(2)である。
【図28】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(3)である。
【図29】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(4)である。
【図30】図29の状態を示す平面図である。
【図31】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(5)である。
【図32】図31の状態を示す平面図である。
【図33】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(6)である。
【図34】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(7)である。
【図35】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(8)である。
【図36】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(9)である。
【図37】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(10)である。
【図38】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(11)である。
【図39】図38の状態を示す平面図である。
【図40】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(12)である。
【図41】図40の状態を示す平面図である。
【図42】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(13)である。
【図43】図42の状態を示す平面図である。
【図44】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(14)である。
【図45】図44の状態を示す平面図である。
【図46】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法に用いるフォトマスクを示す平面図である。
【図47】本発明の第二実施形態における三番歯車の断面図である。
【図48】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(1)である。
【図49】図48の露光方法を示す説明図である。
【図50】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(2)である。
【図51】図50の状態を示す平面図である。
【図52】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(3)である。
【図53】図52の状態を示す平面図である。
【図54】本発明の第二実施形態における三番歯車の三番かなとの嵌合方法を示す説明図である。
【図55】本発明の実施形態における三番歯車の別の態様を示す断面図である。
【図56】本発明の実施形態における三番歯車の製造に用いる基板の別の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第一実施形態を図1〜図46に基づいて説明する。なお、本実施形態では、機械部品として機械式時計に用いられる歯車(番車)の場合について説明する。
【0020】
(機械式時計)
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
【0021】
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0022】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0023】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、てんぷ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。てんぷ140は、てん真140aと、ひげぜんまい140cとを含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0024】
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、てんぷ受166に固定されたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。緩急針168は、てんぷ受166に回転可能に取り付けられている。また、てんぷ140は、地板102およびてんぷ受166に対して回転可能に支持されている。
【0025】
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0026】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124aと、下軸部124bと、そろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0027】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0028】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0029】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0030】
香箱車120は、地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0031】
アンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0032】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0033】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0034】
(番車の構造)
次に、本実施形態の番車の構造について説明する。なお、番車の構造は略同一であるため、三番車126を用いて説明する。
【0035】
図4〜図5に示すように、三番車126は、三番かな126fと、三番歯車126gとを備えている。三番歯車126gの厚さT0は、例えば、10μm以上10mm以下である。三番かな126fは、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cとを備えている。三番歯車126gは、応力緩和層126s、中心支持部126hと、あみだ部126j(本実施形態では、5本)と、歯車部126dとを備えている。三番かな126fは、炭素鋼などの金属で形成されている。三番歯車126gは、応力緩和層126sはニッケル(Ni)などの金属で形成され、中心支持部126hと、あみだ部126jと、歯車部126dはシリコン(Si)で形成されている。そして、三番車126は、三番歯車126gの中心に形成された貫通孔126kに三番かな126fを挿通して固定されている。 ここで、図5に示すように、Si基板で形成された中心支持部126hには、直径D1の貫通孔126lが形成されている。応力緩和層126sは中心支持部126hの貫通孔126lの内周面に形成されている。そして、応力緩和層126sの内周面が、三番歯車126gの貫通孔126kを形成している。この応力緩和層126sが三番かな126fに当接されて固定されている。また、応力緩和層126sの厚さT1は、例えば、1μm以上100μm以下である。
【0036】
(番車の製造方法)
次に、本実施形態の歯車(三番歯車126g)の製造方法について説明する。図6〜図24は三番歯車126gの製造方法を説明する図である。
図6は、三番歯車126gを形成するためのSi基板10である。Si基板10の厚さは、製造する三番歯車126gの厚さT0とする。
【0037】
図7は、SiO2膜12(マスク)を形成した図である。Si基板10の上に、二酸化ケイ素(SiO2)膜12を形成する。SiO2膜12は、スパッタやCVD(Chemical Vapor Deposition)などの方法を用いて製造することができる。SiO2膜12の厚さは10nm以上10μm以下で形成する。
【0038】
図8は、フォトレジスト11を塗布した図である。SiO2膜12上にフォトレジスト11を堆積する。フォトレジスト11はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジスト11の厚さは1μm以上1mm以下で形成する。
【0039】
図9は、フォトレジスト11を露光・現像した図である。貫通孔126kにあたる円の径が、図5のD1に相当する三番歯車126gのパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト11に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gに当たる部分のフォトレジスト11を硬化させる。ただし、貫通孔126kにあたる部分は、応力緩和層126sの厚さT1の分だけ径が大きい。そして、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、SiO2膜12のエッチングパターンが完成する。図10は、図9の平面図である。
【0040】
図11は、SiO2膜12をエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、露出しているSiO2膜12をエッチングする。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスに三フッ化メタン(CHF3)などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にフッ酸(HF)などを用いる。図12は図11の平面図である。
【0041】
図13は、フォトレジスト11を除去した図である。エッチングによってフォトレジスト11を除去する。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0042】
図14は、Si基板をエッチングした図である。SiO212の部分を残して、Si基板10を底面側まで垂直な方向に異方性エッチングする。Si基板10の異方性エッチングは、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)などのドライエッチング加工で行う。エッチングガスには、例えば六フッ化硫黄(SF6)などを用いる。図15は図14の平面図である。
【0043】
図16は、SiO2膜12を除去した図である。エッチングによってSiO2膜12を除去する。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0044】
図17は、金属層13を形成した図である。Si基板10の表面に金属層13を形成する。金属層13は、蒸着、スパッタ、めっき等の方法を用いて製造することができる。金属層13は、Si基板10の側面10j、10kにも形成されている。なお、図17では金属層13はSi基板10の底面10hにも形成されているが、底面10hには形成しなくてもよい。金属層13を形成する材料は、Siや三番かな126fを構成する材料よりも軟らかいNi、金(Au)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、銅(Cu)などの金属や、Ni−Au、Cu−Auなどの合金である。金属層13の厚さは三番歯車126gの金属層126sの厚さT1と同様の厚さに形成する。図18は、図17の平面図である。
【0045】
図19は、フォトレジスト25を塗布した図である。Si基板10の、三番歯車126gの貫通孔126kにあたる部分、つまり図19ではSi基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分をネガ型のフォトレジスト25で埋める。
【0046】
図20はフォトレジスト25を露光・現像した図である。フォトレジスト25にSi基板10の底面10hの側から紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のみフォトレジスト25を残す。
【0047】
図21は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の側面10kに形成された金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAuの場合、エッチング液にはヨウ素とヨウ化カリウムの溶液などを用いる。このとき残った金属層13sが、三番歯車126gの応力緩和層126sにあたる。図22は、図23の平面図である。
【0048】
図23は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車126gが完成する。図24は図23の平面図である。
【0049】
このようにして製造された三番歯車126gは、貫通孔126kに応力緩和層126sを有している。このように構成することで、三番歯車126gの貫通孔126kに三番かな126fを嵌合すると、応力緩和層126sと三番かな126fの外周面とが接触することとなり、応力が緩和される。図25は、図5の三番かな126fを嵌合する前の状態である。三番かな126fを嵌合する前の応力緩和層126sの厚さT2は、三番かな126fを嵌合した後の応力緩和層126sの厚さT1よりも大きい。三番かな126fを嵌合すると、応力緩和層126sは三番かな126fや三番歯車126gの主成分であるSiよりも軟らかいので、応力緩和層126sが優先的に変形し、応力緩和層126sの厚さT2が厚さT1になる。一方、Siで形成される中心支持部126hの貫通孔126lの直径D1は変化しない。つまり、三番かな126fを三番車126gの貫通孔126kに嵌合する際の応力は、三番歯車126gの応力緩和層126sの部分で抑制されるため、三番歯車126g全体に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。Siのビッカース硬度は1000程度であり、三番かな126fを構成する炭素鋼に一般的に要求される硬さはビッカース硬度700以上である。よって、応力緩和層126sを構成する材料はビッカース硬度700以下とする。
【0050】
また、三番歯車126gは、応力緩和層126s以外の部分は金属で覆われておらず、Siのみから成るので、全体が金属でできている場合や全体が金属層で覆われている場合と比較して慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、三番歯車126gを回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができ、三番歯車126gを用いた時計の持続時間を長くすることができる。
【0051】
次に、三番歯車126gの別の製造方法について説明する。図26〜図45は三番歯車126gの製造方法を説明する図である。
【0052】
図26は、三番歯車126gを形成するためのSi基板10である。Si基板10の厚さは、製造する三番歯車126gの厚さT0と応力緩和層の厚さT1を足した厚さ以上とする。
【0053】
図27は、SiO2膜12を形成した図である。Si基板10の上に、SiO2膜12を形成する。SiO2膜12は、スパッタやCVDなどの方法を用いて製造することができる。SiO2膜12の厚さは10nm以上10μm以下で形成する。
【0054】
図28は、フォトレジスト11を塗布した図である。SiO2膜12上にフォトレジスト11を堆積する。フォトレジスト11はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジスト11の厚さは1μm以上1mm以下で形成する。
【0055】
図29は、フォトレジスト11を露光・現像した図である。貫通孔126kにあたる円の径が、図5のD1に相当する三番歯車126gのパターンが複数形成されたフォトマスク45(図46)を用いて、フォトレジスト11に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gに当たる部分のフォトレジスト11を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、SiO2膜12のエッチングパターンが完成する。なお、図46では複数の三番歯車126gのパターンがあり、複数個の三番歯車126gを同時に作製することができる。しかし、図29〜図45では説明を簡略化するために三番歯車126g一つを含む範囲を取り上げて示す。図30は、図29の平面図である。
【0056】
図31は、SiO2膜12をエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、露出しているSiO2膜12をエッチングする。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。図32は図31の平面図である。
【0057】
図33は、フォトレジスト11を除去した図である。エッチングによってフォトレジスト11を除去する。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0058】
図34は、Si基板をエッチングした図である。SiO2膜12の部分を残して、Si基板10を三番歯車126gの厚さT0と応力緩和層126sの厚さT1を足した厚さまで垂直な方向に異方性エッチングする。異方性エッチングはドライエッチング加工で行う。エッチングガスには、例えばSF6などを用いる。このとき、エッチングはSi基板10の底面10hに至らない。
【0059】
図35は、SiO2膜12を除去した図である。エッチングによってSiO2膜12を除去する。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0060】
図36は、金属層13を形成した図である。Si基板10の表面に金属層13を形成する。金属層13は、蒸着、スパッタ、めっき等の方法を用いて製造することができる。金属層13は、Si基板10の側面10j、10k、エッチング終了面10fにも形成されている。なお、図36では金属層13はSi基板10の底面10hにも形成されているが、底面10hには形成しなくてもよい。金属層13を形成する材料は、Siや三番かな126fを構成する材料よりも軟らかいNi、Au、Co、Al、Sn、Cuなどの金属や、Ni−Au、Cu−Auなどの合金である。金属層13の厚さは三番歯車126gの応力緩和層126sの厚さT1と同様の厚さに形成する。
【0061】
図37は、フォトレジスト25を塗布した図である。Si基板10上にフォトレジスト25を堆積する。フォトレジスト25は、Si基板10の、三番歯車126gの貫通孔126kにあたる部分、つまり図37ではSi基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分にも存在する。フォトレジスト25はネガ型でもポジ型でもよい。
【0062】
図38はフォトレジスト25を露光・現像した図である。三番歯車126gの貫通孔126kのパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト25に紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分のみフォトレジスト25を残す。図39は図38の平面図である。
【0063】
図40は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチング液にはHFなどを用いる。図41は、図40の平面図である。
【0064】
図42はSi基板10の底面部を除去した図である。Si基板が三番歯車126gの厚さT0となるよう、Si基板10の底面10fの側からドライエッチングを行い、底面部を除去する。エッチングガスには、例えばSF6などを用いる。また、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sのうち、エッチング終了面10fに形成された金属層13sも除去する。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチングガスには塩素などを用いる。この工程で、同一のSi基板10上で作製していた複数の三番歯車126gが一つずつに分割される。図43は図42の平面図である。
【0065】
図44は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車126gが完成する。図45は図44の平面図である。
【0066】
このような方法で三番歯車126gを製造することにより、上述の図34の工程を終了した時点で、Si基板10が底面10hまでエッチングされないので、Si基板10で複数の歯車を製造する場合、個々の歯車が分割されず、この後の工程でも複数の歯車を一枚の基板として扱うことができる。
【0067】
そして、上述した製造方法を用いて時計の組立部品である二番車124、四番車128、がんぎ車130およびアンクル142を製造することにより、機械式時計の組立部品を軽量にすることができる。したがって、番車124,126,128、がんぎ車130およびアンクル142が回動する際の慣性モーメントを小さくすることができ、機械式時計の持続時間を長くすることができる。それと同時に、機械式時計の組立部品に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。したがって、番車124,126,128、がんぎ車130およびアンクル142が正確に回動するために機械式時計の精度を向上させることができる。
【0068】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第二実施形態を図47〜図54に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と歯車(三番歯車)の応力緩和層の形状が異なるのみであり、その他の部分いついては第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。また、本実施形態における三番車の符号を226とし、三番歯車の符号を226g、三番かなの符号を226fとする。
【0069】
図47に示すように、三番車226は、三番かな226fと、三番歯車226gとを備えている。三番歯車226gの厚さT0は、例えば、10μm以上10mm以下である。三番かな226fは、上軸部226aと、下軸部226bと、かな部226cとを備えている。三番歯車226gは、応力緩和層226s、中心支持部226hと、あみだ部226jと、歯車部226dとを備えている。三番かな226fは、炭素鋼などの金属で形成されている。三番歯車226gは、応力緩和層226sはNiなどの金属で形成され、中心支持部226hと、あみだ部226jと、歯車部226dはSiで形成されている。そして、三番車226は、三番歯車226gの中心に形成された貫通孔226kに三番かな226fを挿通して固定されている。ここで、図47に示すように、Si基板で形成された中心支持部226hには、直径D1の貫通孔226lが形成されている。応力緩和層226sは中心支持部226hの貫通孔226lの内周面に形成されている。ただし、応力緩和層226sの幅W1は、三番歯車226gの厚みT0よりも小さい。そして、応力緩和層226sの内周面が、三番歯車226gの貫通孔226kを形成している。この応力緩和層226sが三番かな226fに当接されて固定されている。ただし、三番歯車226gの厚みT0は応力緩和層226sの幅W1よりも大きく、貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の両端部の内径が拡径される。つまり、貫通孔226lと三番かな226fとの間に隙間226tが形成される。また、応力緩和層226sの厚さT1は、例えば、1μm以上100μm以下である。
【0070】
(番車の製造方法)
次に、本実施形態の歯車(三番歯車226g)の製造方法について説明する。図48〜図53は三番歯車226gの製造方法を説明する図である。なお、フォトレジスト25を塗布する工程までは、第一実施形態と同様の工程なので、説明を省略する。
【0071】
図48はフォトレジスト25を露光・現像した図である。ポジ型のフォトレジスト25に紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、三番歯車226gの金属部226sの幅W1に相当する範囲にのみフォトレジスト25を残す。
【0072】
図49は、露光方法を説明する図である。Si基板10を軸Cを基準に回転させながら、Si基板10に対して斜めに露光光46を照射する。Si基板10と露光光46の角度は、三番歯車226gの応力緩和層226sの幅W1に応じて決まる。図49では、Si基板10の上下両側から露光光46を照射しているが、隙間226tを片側にしか設けない場合は、隙間226tを設ける側からのみ露光光46を照射すればよい。
【0073】
図50は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の内周面10kに形成された、三番歯車226gの金属部226sの幅W1に相当する範囲の金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチング液にはHFなどを用いる。このとき残った金属層13sが、三番歯車226gの応力緩和層226sにあたる。図51は、図50の平面図である。
【0074】
図52は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車226gが完成する。図53は図54の平面図である。
【0075】
このようにして製造された三番歯車226gは、隙間226tを有している。このように構成することで、第一実施形態と略同一の作用を得ることができるとともに、隙間226tを貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の上端部に形成した場合、貫通孔226kに三番かな226fを嵌合する際に、図54に示すように隙間226tがガイドとなり、三番かなを真っ直ぐに嵌合させやすくなる。したがって、三番車226の偏心を防ぐことができるので、三番車226を使用した時計の精度を向上させることができる。さらに、隙間226tを貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の下端部に形成した場合、貫通孔226kに三番かな226fを嵌合する際に、削れ屑が発生しても隙間226tに削れ屑が留まるので、三番車226の外観を損ねることがない。また、削れ屑が三番歯車226gや他の機械部品との摺動部に詰まって機能低下を引き起こすのを防止することができる。したがって、三番車226を使用した時計の精度を向上させることができる。
【0076】
また、図55に示すように、隙間326tを貫通孔326kにおける三番かな326fが挿入される軸方向の両端部ではなく、中央部に形成してもよい。このように構成することで、貫通孔326kに三番かな326fを嵌合する際に、一段目の応力緩和層326s部分で発生した応力が隙間326tに逃げ、二段目の応力緩和層326sと嵌合する。このように応力の逃げ場を設けることによって、応力緩和層326sの応力緩和効果がより向上する。なお、このような構造を持つ歯車(三番歯車326g)は、Silicon On Insulator基板(SOI基板)を基板10に用いることで製造することができる。図56は、三番歯車326gを形成するための基板10である。基板10は、支持層10aと活性層10bの間にBOX層10cが挟まれたSOI基板であり、支持層10aと活性層10bはSi、BOX層10cはSiO2で形成されている。図17に示す金属膜形成工程において、電気めっき法で金属膜13を形成すると、絶縁体であるSiO2で形成されているBOX層10cには電気が流れないので、金属膜13が形成されない。したがって、貫通孔326kに隙間326tが形成される。
【符号の説明】
【0077】
10…基板 11…フォトレジスト 12…SiO2膜 13…金属層 25…フォトレジスト 45…フォトマスク 124…二番車(番車) 126…三番車(番車) 126f…三番かな(軸部材) 126g…三番歯車(機械部品) 126k…貫通孔 126s…応力緩和層 128…四番車(番車) 130…がんぎ車 142…アンクル
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、機械組立体、機械部品の製造方法および時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時計などの精密機械に用いられる歯車などの機械部品には、機械的な強度、精度、軽量化等が要求される。このような要求に応えるため、精密機器用の機械部品には、金属やプラスチックを加工する技術に加え、近年ではシリコン(Si)などの半導体加工技術が応用されるようになってきた。半導体加工技術を応用すれば、微細で高精度なSi製部品を製造することができる。
【0003】
例えば時計などに用いられる歯車は、軸部材に嵌合させて使用する方法が知られている。ここで、時計などの精密機械に用いられる歯車は外形が小さく、厚さも薄いため、歯車に軸部材を嵌合させる際の応力が大きい。そのため、脆性材料であるSi製の歯車に軸部材を嵌合させた場合、歯車が変形・破損してしまうことがある。このような課題を受け、Si製歯車の強度を増す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の機械部品は、Si製歯車の表面全てを合金で覆っている。このような構造により、部品の機械強度を増し、Siの破壊を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−79234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の機械部品は、Si製の機械部品全体を金属で覆っているため、Siのみで構成される歯車と比較して重量が大きい。そのため、歯車などの回動運動をする機械部品に用いた場合、慣性モーメントが大きくなる。慣性モーメントが大きくなると、回動運動をさせるために必要なエネルギーが大きくなるので、例えば機械式時計では持続時間が短くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、慣性モーメントが小さく、かつ軸部材を嵌合する際に応力を緩和できる機械部品、機械組立体、機械部品の製造方法および時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る機械部品は、Siを主成分として構成され、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品において、前記貫通孔の内周面のみが金属層で覆われており、前記金属層が前記軸部材に当接可能に構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、機械部品に軸部材を嵌合する際の応力が金属層で緩和される。すなわち、その応力は機械部品の金属層で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が前記貫通孔の深さよりも小さい範囲に形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の少なくとも一端部の内径が、軸方向中央部の内径より拡径されていることを特徴としている。
このように構成することで、上端部が拡径されている場合は、貫通孔に軸部材を嵌合する際に、軸部材を容易に貫通孔内に挿入することができる。また、下端部が拡径されている場合は、軸部材が機械部品の貫通孔に挿通された状態で、貫通孔の下端部側と軸部材との間に空間が形成されるため、その空間に軸部材を嵌合させたときに発生する削り屑を溜めることができる。したがって、削り屑が機械部品の貫通孔から外部へ落下して外観を損ねたり、その削り屑が他の摺動部などに詰まって機能低下を引き起こしたりするのを防止することができる。
【0009】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の上部と下部に分かれて形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向中央部に周方向に延びる溝が形成されていることを特徴としている。
このように構成することで、貫通孔に軸部材を嵌合する際に、上部の金属層で発生した応力が溝で一旦逃げ、下部の金属層と嵌合する。このように応力の逃げ場を設けることによって、金属層の応力緩和効果がより向上する。
【0010】
また、本発明に係る機械部品は、前記金属層が、前記Siと前記軸部材よりも軟らかいことを特徴としている。
このように構成することで、機械部品に軸部材を嵌合する際の応力が金属層でさらに緩和される。
【0011】
また、本発明に係る機械組立体は、前記機械部品と前記軸部材とを備え、前記機械部品が前記軸部材を中心に回動可能に構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、回動運動する際に、機械部品全体が金属でできている場合や全体が金属層で覆われている場合と比較して、慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、機械部品を回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0012】
また、本発明に係る機械組立体は、前記機械部品と前記軸部材とを備え、前記機械部品が歯車であることを特徴としている。
このように構成することで、歯車が回動運動する際に必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、Si基板を用いて、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品の製造方法であって、前記Si基板の上層における前記機械部品の形成領域にマスクを形成する工程と、該マスクを用いて前記上層を下層まで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記Si基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う金属膜積層工程と、を有していることを特徴としている。
このように半導体プロセスを利用することにより、精密機械加工を用いることなく低コストで応力緩和のための金属層を形成することができる。また、機械部品を精度よく製造することができる。このようにして製造された機械部品に軸部材を嵌合すると、軸部材を保持するための応力が金属層で緩和される。すなわち、その応力は機械部品の金属層で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記金属膜積層工程が、前記機械部品の表面を前記金属層で覆う工程と、前記金属層の表面にレジストを塗布する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記レジストを除去する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記金属層を除去する工程と、を有していることを特徴としている。
このように、貫通孔の内周面のみ前記金属層を形成することができるため、慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、機械部品を回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0015】
また、本発明に係る機械部品の製造方法は、前記エッチング工程が、前記マスクを用いて前記上層を所定深さまで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記Si基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う工程と、前記Si基板の下層を所定深さまでエッチングする工程と、を有していることを特徴としている。
このようにプロセスの最後にSi基板から機械部品を得るため、複数の機械部品を一枚の基板で同時に製造することができる。したがって、生産効率を向上することができる。
【0016】
また、本発明に係る時計は、上述した機械部品と時刻を計時する装置の組立部品とを備えていることを特徴としている。
また、本発明に係る時計は、前記組立部品が、番車、がんぎ車およびアンクルの少なくともいずれか一つであることを特徴としている。
このように構成することで、貫通孔に形成された金属層により軸部材を嵌合する際の応力を金属層で吸収することができるため、時計の組立部品に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。したがって、番車、がんぎ車、およびアンクルが正確に回動するために時計の精度を向上させることができる。また、貫通孔の内周以外は軽量のSiで構成されているため、組立部品の慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、番車、がんぎ車、およびアンクルが回動するために必要なエネルギーが小さくなるために時計の持続時間を長時間にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る機械部品によれば、機械部品と軸部材を嵌合すると、機械部品の貫通孔に形成された金属層により応力が緩和される。すなわち、その応力は金属層の部分で吸収されるため、機械部品全体には反りや割れなどの発生を抑制することができる。さらに、機械部品の貫通孔内周以外はSiで構成されているため、機械部品が回動する際の慣性モーメントが小さくなり、回動するために必要なエネルギーを小さくすることができる。したがって、本発明の機械部品を用いた時計の持続時間を長時間にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における機械式時計のムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
【図2】本発明の実施形態における香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるがんぎ車からてんぷの部分を示す概略部分断面図である。
【図4】本発明の実施形態における三番車を示す上面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(1)である。
【図7】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(2)である。
【図8】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(3)である。
【図9】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(4)である。
【図10】図9の状態を示す平面図である。
【図11】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(5)である。
【図12】図11の状態を示す平面図である。
【図13】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(6)である。
【図14】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(7)である。
【図15】図14の状態を示す平面図である。
【図16】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(8)である。
【図17】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(9)である。
【図18】図17の状態を示す平面図である。
【図19】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(10)である。
【図20】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(11)である。
【図21】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(12)である。
【図22】図21の状態を示す平面図である。
【図23】本発明の実施形態における三番歯車の製造方法を示す説明図(13)である。
【図24】図23の状態を示す平面図である。
【図25】図5の三番かなを嵌合する前の状態を示す断面図である。
【図26】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(1)である。
【図27】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(2)である。
【図28】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(3)である。
【図29】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(4)である。
【図30】図29の状態を示す平面図である。
【図31】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(5)である。
【図32】図31の状態を示す平面図である。
【図33】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(6)である。
【図34】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(7)である。
【図35】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(8)である。
【図36】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(9)である。
【図37】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(10)である。
【図38】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(11)である。
【図39】図38の状態を示す平面図である。
【図40】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(12)である。
【図41】図40の状態を示す平面図である。
【図42】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(13)である。
【図43】図42の状態を示す平面図である。
【図44】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法を示す説明図(14)である。
【図45】図44の状態を示す平面図である。
【図46】本発明の実施形態における三番歯車の別の製造方法に用いるフォトマスクを示す平面図である。
【図47】本発明の第二実施形態における三番歯車の断面図である。
【図48】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(1)である。
【図49】図48の露光方法を示す説明図である。
【図50】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(2)である。
【図51】図50の状態を示す平面図である。
【図52】本発明の第二実施形態における三番車の製造方法を示す説明図(3)である。
【図53】図52の状態を示す平面図である。
【図54】本発明の第二実施形態における三番歯車の三番かなとの嵌合方法を示す説明図である。
【図55】本発明の実施形態における三番歯車の別の態様を示す断面図である。
【図56】本発明の実施形態における三番歯車の製造に用いる基板の別の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第一実施形態を図1〜図46に基づいて説明する。なお、本実施形態では、機械部品として機械式時計に用いられる歯車(番車)の場合について説明する。
【0020】
(機械式時計)
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
【0021】
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0022】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0023】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、てんぷ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。てんぷ140は、てん真140aと、ひげぜんまい140cとを含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0024】
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、てんぷ受166に固定されたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。緩急針168は、てんぷ受166に回転可能に取り付けられている。また、てんぷ140は、地板102およびてんぷ受166に対して回転可能に支持されている。
【0025】
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0026】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124aと、下軸部124bと、そろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0027】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0028】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dはニッケルなどの金属で形成されている。
【0029】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0030】
香箱車120は、地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0031】
アンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0032】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0033】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0034】
(番車の構造)
次に、本実施形態の番車の構造について説明する。なお、番車の構造は略同一であるため、三番車126を用いて説明する。
【0035】
図4〜図5に示すように、三番車126は、三番かな126fと、三番歯車126gとを備えている。三番歯車126gの厚さT0は、例えば、10μm以上10mm以下である。三番かな126fは、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cとを備えている。三番歯車126gは、応力緩和層126s、中心支持部126hと、あみだ部126j(本実施形態では、5本)と、歯車部126dとを備えている。三番かな126fは、炭素鋼などの金属で形成されている。三番歯車126gは、応力緩和層126sはニッケル(Ni)などの金属で形成され、中心支持部126hと、あみだ部126jと、歯車部126dはシリコン(Si)で形成されている。そして、三番車126は、三番歯車126gの中心に形成された貫通孔126kに三番かな126fを挿通して固定されている。 ここで、図5に示すように、Si基板で形成された中心支持部126hには、直径D1の貫通孔126lが形成されている。応力緩和層126sは中心支持部126hの貫通孔126lの内周面に形成されている。そして、応力緩和層126sの内周面が、三番歯車126gの貫通孔126kを形成している。この応力緩和層126sが三番かな126fに当接されて固定されている。また、応力緩和層126sの厚さT1は、例えば、1μm以上100μm以下である。
【0036】
(番車の製造方法)
次に、本実施形態の歯車(三番歯車126g)の製造方法について説明する。図6〜図24は三番歯車126gの製造方法を説明する図である。
図6は、三番歯車126gを形成するためのSi基板10である。Si基板10の厚さは、製造する三番歯車126gの厚さT0とする。
【0037】
図7は、SiO2膜12(マスク)を形成した図である。Si基板10の上に、二酸化ケイ素(SiO2)膜12を形成する。SiO2膜12は、スパッタやCVD(Chemical Vapor Deposition)などの方法を用いて製造することができる。SiO2膜12の厚さは10nm以上10μm以下で形成する。
【0038】
図8は、フォトレジスト11を塗布した図である。SiO2膜12上にフォトレジスト11を堆積する。フォトレジスト11はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジスト11の厚さは1μm以上1mm以下で形成する。
【0039】
図9は、フォトレジスト11を露光・現像した図である。貫通孔126kにあたる円の径が、図5のD1に相当する三番歯車126gのパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト11に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gに当たる部分のフォトレジスト11を硬化させる。ただし、貫通孔126kにあたる部分は、応力緩和層126sの厚さT1の分だけ径が大きい。そして、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、SiO2膜12のエッチングパターンが完成する。図10は、図9の平面図である。
【0040】
図11は、SiO2膜12をエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、露出しているSiO2膜12をエッチングする。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスに三フッ化メタン(CHF3)などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にフッ酸(HF)などを用いる。図12は図11の平面図である。
【0041】
図13は、フォトレジスト11を除去した図である。エッチングによってフォトレジスト11を除去する。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0042】
図14は、Si基板をエッチングした図である。SiO212の部分を残して、Si基板10を底面側まで垂直な方向に異方性エッチングする。Si基板10の異方性エッチングは、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)などのドライエッチング加工で行う。エッチングガスには、例えば六フッ化硫黄(SF6)などを用いる。図15は図14の平面図である。
【0043】
図16は、SiO2膜12を除去した図である。エッチングによってSiO2膜12を除去する。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0044】
図17は、金属層13を形成した図である。Si基板10の表面に金属層13を形成する。金属層13は、蒸着、スパッタ、めっき等の方法を用いて製造することができる。金属層13は、Si基板10の側面10j、10kにも形成されている。なお、図17では金属層13はSi基板10の底面10hにも形成されているが、底面10hには形成しなくてもよい。金属層13を形成する材料は、Siや三番かな126fを構成する材料よりも軟らかいNi、金(Au)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、銅(Cu)などの金属や、Ni−Au、Cu−Auなどの合金である。金属層13の厚さは三番歯車126gの金属層126sの厚さT1と同様の厚さに形成する。図18は、図17の平面図である。
【0045】
図19は、フォトレジスト25を塗布した図である。Si基板10の、三番歯車126gの貫通孔126kにあたる部分、つまり図19ではSi基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分をネガ型のフォトレジスト25で埋める。
【0046】
図20はフォトレジスト25を露光・現像した図である。フォトレジスト25にSi基板10の底面10hの側から紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のみフォトレジスト25を残す。
【0047】
図21は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の側面10kに形成された金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAuの場合、エッチング液にはヨウ素とヨウ化カリウムの溶液などを用いる。このとき残った金属層13sが、三番歯車126gの応力緩和層126sにあたる。図22は、図23の平面図である。
【0048】
図23は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車126gが完成する。図24は図23の平面図である。
【0049】
このようにして製造された三番歯車126gは、貫通孔126kに応力緩和層126sを有している。このように構成することで、三番歯車126gの貫通孔126kに三番かな126fを嵌合すると、応力緩和層126sと三番かな126fの外周面とが接触することとなり、応力が緩和される。図25は、図5の三番かな126fを嵌合する前の状態である。三番かな126fを嵌合する前の応力緩和層126sの厚さT2は、三番かな126fを嵌合した後の応力緩和層126sの厚さT1よりも大きい。三番かな126fを嵌合すると、応力緩和層126sは三番かな126fや三番歯車126gの主成分であるSiよりも軟らかいので、応力緩和層126sが優先的に変形し、応力緩和層126sの厚さT2が厚さT1になる。一方、Siで形成される中心支持部126hの貫通孔126lの直径D1は変化しない。つまり、三番かな126fを三番車126gの貫通孔126kに嵌合する際の応力は、三番歯車126gの応力緩和層126sの部分で抑制されるため、三番歯車126g全体に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。Siのビッカース硬度は1000程度であり、三番かな126fを構成する炭素鋼に一般的に要求される硬さはビッカース硬度700以上である。よって、応力緩和層126sを構成する材料はビッカース硬度700以下とする。
【0050】
また、三番歯車126gは、応力緩和層126s以外の部分は金属で覆われておらず、Siのみから成るので、全体が金属でできている場合や全体が金属層で覆われている場合と比較して慣性モーメントを小さくすることができる。したがって、三番歯車126gを回動させるのに必要なエネルギーを小さくすることができ、三番歯車126gを用いた時計の持続時間を長くすることができる。
【0051】
次に、三番歯車126gの別の製造方法について説明する。図26〜図45は三番歯車126gの製造方法を説明する図である。
【0052】
図26は、三番歯車126gを形成するためのSi基板10である。Si基板10の厚さは、製造する三番歯車126gの厚さT0と応力緩和層の厚さT1を足した厚さ以上とする。
【0053】
図27は、SiO2膜12を形成した図である。Si基板10の上に、SiO2膜12を形成する。SiO2膜12は、スパッタやCVDなどの方法を用いて製造することができる。SiO2膜12の厚さは10nm以上10μm以下で形成する。
【0054】
図28は、フォトレジスト11を塗布した図である。SiO2膜12上にフォトレジスト11を堆積する。フォトレジスト11はネガ型でもポジ型でもよい。フォトレジスト11の厚さは1μm以上1mm以下で形成する。
【0055】
図29は、フォトレジスト11を露光・現像した図である。貫通孔126kにあたる円の径が、図5のD1に相当する三番歯車126gのパターンが複数形成されたフォトマスク45(図46)を用いて、フォトレジスト11に紫外線やX線等の露光光を照射し、三番歯車126gに当たる部分のフォトレジスト11を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト11部分を除去し、SiO2膜12のエッチングパターンが完成する。なお、図46では複数の三番歯車126gのパターンがあり、複数個の三番歯車126gを同時に作製することができる。しかし、図29〜図45では説明を簡略化するために三番歯車126g一つを含む範囲を取り上げて示す。図30は、図29の平面図である。
【0056】
図31は、SiO2膜12をエッチングした図である。フォトレジスト11の部分を残して、露出しているSiO2膜12をエッチングする。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。図32は図31の平面図である。
【0057】
図33は、フォトレジスト11を除去した図である。エッチングによってフォトレジスト11を除去する。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0058】
図34は、Si基板をエッチングした図である。SiO2膜12の部分を残して、Si基板10を三番歯車126gの厚さT0と応力緩和層126sの厚さT1を足した厚さまで垂直な方向に異方性エッチングする。異方性エッチングはドライエッチング加工で行う。エッチングガスには、例えばSF6などを用いる。このとき、エッチングはSi基板10の底面10hに至らない。
【0059】
図35は、SiO2膜12を除去した図である。エッチングによってSiO2膜12を除去する。エッチングはドライエッチングでもウエットエッチングでもよい。例えば、ドライエッチングの場合は、エッチングガスにCHF3などを用い、ウエットエッチングの場合は、エッチング液にHFなどを用いる。この工程は、後の工程に差し支えなければ省略してもよい。
【0060】
図36は、金属層13を形成した図である。Si基板10の表面に金属層13を形成する。金属層13は、蒸着、スパッタ、めっき等の方法を用いて製造することができる。金属層13は、Si基板10の側面10j、10k、エッチング終了面10fにも形成されている。なお、図36では金属層13はSi基板10の底面10hにも形成されているが、底面10hには形成しなくてもよい。金属層13を形成する材料は、Siや三番かな126fを構成する材料よりも軟らかいNi、Au、Co、Al、Sn、Cuなどの金属や、Ni−Au、Cu−Auなどの合金である。金属層13の厚さは三番歯車126gの応力緩和層126sの厚さT1と同様の厚さに形成する。
【0061】
図37は、フォトレジスト25を塗布した図である。Si基板10上にフォトレジスト25を堆積する。フォトレジスト25は、Si基板10の、三番歯車126gの貫通孔126kにあたる部分、つまり図37ではSi基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分にも存在する。フォトレジスト25はネガ型でもポジ型でもよい。
【0062】
図38はフォトレジスト25を露光・現像した図である。三番歯車126gの貫通孔126kのパターンが形成されたフォトマスク(不図示)を用いて、フォトレジスト25に紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sに囲まれた部分のみフォトレジスト25を残す。図39は図38の平面図である。
【0063】
図40は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチング液にはHFなどを用いる。図41は、図40の平面図である。
【0064】
図42はSi基板10の底面部を除去した図である。Si基板が三番歯車126gの厚さT0となるよう、Si基板10の底面10fの側からドライエッチングを行い、底面部を除去する。エッチングガスには、例えばSF6などを用いる。また、Si基板10の側面10kとエッチング終了面10fに形成された金属層13sのうち、エッチング終了面10fに形成された金属層13sも除去する。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチングガスには塩素などを用いる。この工程で、同一のSi基板10上で作製していた複数の三番歯車126gが一つずつに分割される。図43は図42の平面図である。
【0065】
図44は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車126gが完成する。図45は図44の平面図である。
【0066】
このような方法で三番歯車126gを製造することにより、上述の図34の工程を終了した時点で、Si基板10が底面10hまでエッチングされないので、Si基板10で複数の歯車を製造する場合、個々の歯車が分割されず、この後の工程でも複数の歯車を一枚の基板として扱うことができる。
【0067】
そして、上述した製造方法を用いて時計の組立部品である二番車124、四番車128、がんぎ車130およびアンクル142を製造することにより、機械式時計の組立部品を軽量にすることができる。したがって、番車124,126,128、がんぎ車130およびアンクル142が回動する際の慣性モーメントを小さくすることができ、機械式時計の持続時間を長くすることができる。それと同時に、機械式時計の組立部品に反りや割れなどが生じるのを抑制することができる。したがって、番車124,126,128、がんぎ車130およびアンクル142が正確に回動するために機械式時計の精度を向上させることができる。
【0068】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る機械部品の第二実施形態を図47〜図54に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と歯車(三番歯車)の応力緩和層の形状が異なるのみであり、その他の部分いついては第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。また、本実施形態における三番車の符号を226とし、三番歯車の符号を226g、三番かなの符号を226fとする。
【0069】
図47に示すように、三番車226は、三番かな226fと、三番歯車226gとを備えている。三番歯車226gの厚さT0は、例えば、10μm以上10mm以下である。三番かな226fは、上軸部226aと、下軸部226bと、かな部226cとを備えている。三番歯車226gは、応力緩和層226s、中心支持部226hと、あみだ部226jと、歯車部226dとを備えている。三番かな226fは、炭素鋼などの金属で形成されている。三番歯車226gは、応力緩和層226sはNiなどの金属で形成され、中心支持部226hと、あみだ部226jと、歯車部226dはSiで形成されている。そして、三番車226は、三番歯車226gの中心に形成された貫通孔226kに三番かな226fを挿通して固定されている。ここで、図47に示すように、Si基板で形成された中心支持部226hには、直径D1の貫通孔226lが形成されている。応力緩和層226sは中心支持部226hの貫通孔226lの内周面に形成されている。ただし、応力緩和層226sの幅W1は、三番歯車226gの厚みT0よりも小さい。そして、応力緩和層226sの内周面が、三番歯車226gの貫通孔226kを形成している。この応力緩和層226sが三番かな226fに当接されて固定されている。ただし、三番歯車226gの厚みT0は応力緩和層226sの幅W1よりも大きく、貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の両端部の内径が拡径される。つまり、貫通孔226lと三番かな226fとの間に隙間226tが形成される。また、応力緩和層226sの厚さT1は、例えば、1μm以上100μm以下である。
【0070】
(番車の製造方法)
次に、本実施形態の歯車(三番歯車226g)の製造方法について説明する。図48〜図53は三番歯車226gの製造方法を説明する図である。なお、フォトレジスト25を塗布する工程までは、第一実施形態と同様の工程なので、説明を省略する。
【0071】
図48はフォトレジスト25を露光・現像した図である。ポジ型のフォトレジスト25に紫外線やX線等の露光光を照射し、Si基板10の側面10kに形成された金属層13sに囲まれた部分のフォトレジスト25を硬化させる。そして、未硬化のフォトレジスト25部分を除去し、三番歯車226gの金属部226sの幅W1に相当する範囲にのみフォトレジスト25を残す。
【0072】
図49は、露光方法を説明する図である。Si基板10を軸Cを基準に回転させながら、Si基板10に対して斜めに露光光46を照射する。Si基板10と露光光46の角度は、三番歯車226gの応力緩和層226sの幅W1に応じて決まる。図49では、Si基板10の上下両側から露光光46を照射しているが、隙間226tを片側にしか設けない場合は、隙間226tを設ける側からのみ露光光46を照射すればよい。
【0073】
図50は、金属層13をエッチングした図である。Si基板10の内周面10kに形成された、三番歯車226gの金属部226sの幅W1に相当する範囲の金属層13sを残して金属層13をエッチングする。エッチングは、ウエットプロセスの方が簡便である。例えば、金属層13を形成する材料がAlの場合、エッチング液にはHFなどを用いる。このとき残った金属層13sが、三番歯車226gの応力緩和層226sにあたる。図51は、図50の平面図である。
【0074】
図52は、フォトレジスト25を除去した図である。フォトレジスト25をエッチングあるいは物理的な力等によって除去し、三番歯車226gが完成する。図53は図54の平面図である。
【0075】
このようにして製造された三番歯車226gは、隙間226tを有している。このように構成することで、第一実施形態と略同一の作用を得ることができるとともに、隙間226tを貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の上端部に形成した場合、貫通孔226kに三番かな226fを嵌合する際に、図54に示すように隙間226tがガイドとなり、三番かなを真っ直ぐに嵌合させやすくなる。したがって、三番車226の偏心を防ぐことができるので、三番車226を使用した時計の精度を向上させることができる。さらに、隙間226tを貫通孔226kにおける三番かな226fが挿入される軸方向の下端部に形成した場合、貫通孔226kに三番かな226fを嵌合する際に、削れ屑が発生しても隙間226tに削れ屑が留まるので、三番車226の外観を損ねることがない。また、削れ屑が三番歯車226gや他の機械部品との摺動部に詰まって機能低下を引き起こすのを防止することができる。したがって、三番車226を使用した時計の精度を向上させることができる。
【0076】
また、図55に示すように、隙間326tを貫通孔326kにおける三番かな326fが挿入される軸方向の両端部ではなく、中央部に形成してもよい。このように構成することで、貫通孔326kに三番かな326fを嵌合する際に、一段目の応力緩和層326s部分で発生した応力が隙間326tに逃げ、二段目の応力緩和層326sと嵌合する。このように応力の逃げ場を設けることによって、応力緩和層326sの応力緩和効果がより向上する。なお、このような構造を持つ歯車(三番歯車326g)は、Silicon On Insulator基板(SOI基板)を基板10に用いることで製造することができる。図56は、三番歯車326gを形成するための基板10である。基板10は、支持層10aと活性層10bの間にBOX層10cが挟まれたSOI基板であり、支持層10aと活性層10bはSi、BOX層10cはSiO2で形成されている。図17に示す金属膜形成工程において、電気めっき法で金属膜13を形成すると、絶縁体であるSiO2で形成されているBOX層10cには電気が流れないので、金属膜13が形成されない。したがって、貫通孔326kに隙間326tが形成される。
【符号の説明】
【0077】
10…基板 11…フォトレジスト 12…SiO2膜 13…金属層 25…フォトレジスト 45…フォトマスク 124…二番車(番車) 126…三番車(番車) 126f…三番かな(軸部材) 126g…三番歯車(機械部品) 126k…貫通孔 126s…応力緩和層 128…四番車(番車) 130…がんぎ車 142…アンクル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを主成分として構成され、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品において、前記貫通孔の内周面のみが金属層で覆われており、前記金属層が前記軸部材に当接可能に構成されていることを特徴とする機械部品。
【請求項2】
前記金属層が前記貫通孔の深さよりも小さい範囲に形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の少なくとも一端部の内径が、軸方向中央部の内径より拡径されていることを特徴とする請求項1に記載の機械部品。
【請求項3】
前記金属層が前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の上部と下部に分かれて形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向中央部に周方向に延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の機械部品。
【請求項4】
前記金属層が、前記シリコンと前記軸部材よりも軟らかいことを特徴とする請求項1〜3に記載の機械部品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の機械部品と前記軸部材とを備える機械組立体であって、前記機械部品が前記軸部材を中心に回動可能に構成されていることを特徴とする機械組立体。
【請求項6】
前記機械部品が歯車であることを特徴とする請求項5に記載の機械組立体。
【請求項7】
シリコン基板を用いて、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品の製造方法であって、前記シリコン基板の上層における前記機械部品の形成領域にマスクを形成する工程と、該マスクを用いて前記上層を下層まで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記シリコン基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う金属膜積層工程と、を有していることを特徴とする機械部品の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜積層工程は、前記機械部品の表面を前記金属層で覆う工程と、前記金属層の表面にレジストを塗布する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記レジストを除去する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記金属層を除去する工程と、を有していることを特徴とする請求項7に記載の機械部品の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング工程は、前記マスクを用いて前記上層を所定深さまで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記シリコン基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う工程と、前記シリコン基板の下層を所定深さまでエッチングする工程と、を有していることを特徴とする請求項7に記載の機械部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の機械部品と時刻を計時する装置の組立部品とを備えることを特徴とする時計。
【請求項11】
前記組立部品が、番車、がんぎ車およびアンクルの少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の時計。
【請求項1】
シリコンを主成分として構成され、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品において、前記貫通孔の内周面のみが金属層で覆われており、前記金属層が前記軸部材に当接可能に構成されていることを特徴とする機械部品。
【請求項2】
前記金属層が前記貫通孔の深さよりも小さい範囲に形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の少なくとも一端部の内径が、軸方向中央部の内径より拡径されていることを特徴とする請求項1に記載の機械部品。
【請求項3】
前記金属層が前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向の上部と下部に分かれて形成され、前記貫通孔における前記軸部材が嵌合される軸方向中央部に周方向に延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の機械部品。
【請求項4】
前記金属層が、前記シリコンと前記軸部材よりも軟らかいことを特徴とする請求項1〜3に記載の機械部品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の機械部品と前記軸部材とを備える機械組立体であって、前記機械部品が前記軸部材を中心に回動可能に構成されていることを特徴とする機械組立体。
【請求項6】
前記機械部品が歯車であることを特徴とする請求項5に記載の機械組立体。
【請求項7】
シリコン基板を用いて、軸部材を嵌合可能な貫通孔を有する機械部品の製造方法であって、前記シリコン基板の上層における前記機械部品の形成領域にマスクを形成する工程と、該マスクを用いて前記上層を下層まで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記シリコン基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う金属膜積層工程と、を有していることを特徴とする機械部品の製造方法。
【請求項8】
前記金属膜積層工程は、前記機械部品の表面を前記金属層で覆う工程と、前記金属層の表面にレジストを塗布する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記レジストを除去する工程と、前記貫通孔の内部を残して前記金属層を除去する工程と、を有していることを特徴とする請求項7に記載の機械部品の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング工程は、前記マスクを用いて前記上層を所定深さまで異方性エッチングするエッチング工程と、エッチングされた前記シリコン基板の前記貫通孔の内周面を金属層で覆う工程と、前記シリコン基板の下層を所定深さまでエッチングする工程と、を有していることを特徴とする請求項7に記載の機械部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の機械部品と時刻を計時する装置の組立部品とを備えることを特徴とする時計。
【請求項11】
前記組立部品が、番車、がんぎ車およびアンクルの少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の時計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【公開番号】特開2012−167808(P2012−167808A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79140(P2011−79140)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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