説明

機能性繊維

【課題】合成繊維、特にポリエステル、ナイロンといった非オレフィン系合成繊維であって、他素材(樹脂や金属など)への接着性を飛躍的に向上させることができる機能性繊維を提供する。
【解決手段】(1)熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfである機能性繊維。(2)熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfである機能性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維の表面に少なくとも酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されてなる繊維であって、他素材、特にオレフィン系素材への接着性が向上した機能性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維そのもの、あるいは合成繊維を用いた織物、編物、ネット類、紐類、ロープ類、テグスなどの各種繊維製品へ機能性・耐久性付与のために、様々な樹脂や機能性薬剤などをコーティング、ディッピング、ラミネート等の手法で附帯加工することは以前より知られているところである(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、合成繊維と附帯加工樹脂・薬剤との組み合わせによっては接着性が不十分であり、製品として期待した性能が得られない場合が多い。このため従来から、合成繊維そのものや繊維製品に何らかの前処理を施して附帯加工樹脂・薬剤との接着性を向上する試みが検討されてきた。
【0004】
例えば、単に繊維表面に付着している油剤やゴミを取り除くことで接着性を向上させる程度の処理から、繊維に撚りをかけたり、毛羽を付与したり、製編織するなど、繊維を集合体として形態を変化させることにより、表面に凹凸を生じさせ、樹脂への繊維食い込みによるいわゆるアンカー効果を狙う手法や、メッシュ状布帛の空隙を通してその布帛表裏に樹脂層を設けそれらを接着させる手法など、物理的な処理により接着性を向上させる手法は古くから用いられている。
【0005】
また、近年では繊維を構成する単糸表面の改質による本質的な接着性の向上も以前より種々検討されている。例えば、極性官能基、イオン性官能基、反応性官能基を導入することで、各々、水素結合、イオン結合、共有結合が界面で形成され、接着性が向上する。
【0006】
その表面改質処理の方法として、乾式法としては、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、火炎処理、最近では、電子線、エキシマレーザー、イオンビームなどの照射での表面改質も行われている。一方、湿式法としてはアルカリ水溶液、各種有機溶剤等による繊維表面への処理で表面形態を荒らすことでの表面改質が行われている。また繊維表面への高分子鎖のグラフト、プレコーティング、プライマー処理による改質も様々な手法が試みられている。
【0007】
これらの手法の中で、繊維、附帯加工樹脂の双方に接着性・親和性を有する剤を繊維表面へコーティングしたり、プライマー処理を施すことは、対象とする合成繊維と附帯加工樹脂・薬剤がある程度決まっている中では化学的に検討することで対処できるので、代表的な手法の一つである。
【0008】
例えば、ナイロンやポリエステルといった繊維に対して、タイヤ、樹脂ベルト、ゴムホースといったゴム材料への接着性向上を目的としたレゾルシン−ホルマリン−ラテックス、いわゆるRFL処理はその代表的な前処理法であるが、特にポリエステルの場合、繊維製造時、油剤中に例えばエポキシ系の薬剤を添加することで、さらに接着性の向上を狙った前処理糸(あるいはプレコート糸とも言う)を得ることはその代表的なもののひとつである(例えば特許文献1参照)。
【0009】
以上のように、合成繊維あるいは繊維製品において、他素材と接着させる方法は様々な手法で検討されてきているが、その中でも他素材としてポリプロピレンやポリエチレンなどの比較的表面自由エネルギーが低いオレフィン系材料を用いる際の合成繊維の接着性の向上は、以前から検討されている課題である。
【0010】
合成繊維にオレフィン系の繊維を用いればいいのだが、通常のポリエチレン、ポリプロピレンはポリエステル、ナイロンといったその他の汎用の繊維と比べ、耐熱性の面で劣るので、附帯加工の乾燥時の受熱により繊維は影響を受ける。
【0011】
例えば、芯部にポリプロピレン、鞘部にポリエチレンを配した芯鞘型複合繊維とし、製織後熱処理することで鞘部のポリエチレンを溶融させ、比較的強固な交点強力を有するメッシュシートを提案している例もある(例えば特許文献2参照)。この例では芯部のポリプロピレンが繊維となり、鞘部のポリエチレンが接着成分となるものであり、ポリプロピレンの繊維同士を比較的強固に接着させることができるが、製品としての耐熱性においてはオレフィンの融点以上のものは得られていない。
【0012】
しかしながら、オレフィン系樹脂は比較的低コストでありながら耐熱性を除けば、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、柔軟性など優れた性質を有しており、ポリエステル、ナイロンなどの汎用繊維への接着性が向上すれば繊維分野において応用範囲の非常に広い技術となり得る。
【特許文献1】特開2006−257598号公報
【特許文献2】特開2002−327353号公報
【非特許文献1】繊維学会編、「繊維便覧」、(日本)、第3版、丸善株式会社、2004年12月15日、第132−134頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、合成繊維、特にポリエステル、ナイロンといった非オレフィン系合成繊維であって、他素材(樹脂や金属など)への接着性を飛躍的に向上させることができる機能性繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、次の(1)〜(2)を要旨とするものである。
(1)熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfであることを特徴とする機能性繊維。
(2)熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfであることを特徴とする機能性繊維。
【発明の効果】
【0015】
本発明の機能性繊維は、熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、少なくとも酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量又は酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が適切な範囲のものであるため、樹脂、中でもオレフィン系樹脂や金属などの他素材への接着性を飛躍的に向上させることができる。このため、本発明の機能性繊維や本発明の機能性繊維を用いた製品は、コーティング、ディッピング、ラミネート等を好適に行うことができ、様々な用途、用品に用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の機能性繊維は、熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に少なくとも酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜を形成させることにより、特にオレフィン系の素材に対する接着性を向上させるものである。
【0017】
本発明の機能性繊維は、熱可塑性樹脂からなるものであるが、熱可塑性樹脂を溶融紡糸や湿式紡糸することにより得られたものであることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系繊維、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46等の脂肪族ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、レーヨン等の再生繊維、芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン系、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系、フェノール系、ポリフルオロエチレン系等の繊維を挙げることができる。
【0018】
本発明の機能性繊維は、熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に少なくとも酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されていることで、熱可塑性樹脂からなる繊維にオレフィン樹脂の優れた性能(耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、柔軟性等)を付与することができ、他素材、特にオレフィン系の素材に対する接着性を向上させることができる。このため、熱可塑性樹脂からなる繊維としては、耐熱性や強伸度に優れる非オレフィン系の熱可塑性樹脂を採用することが好ましい。中でも汎用性に富む脂肪族ポリアミド系繊維や芳香族ポリエステル系繊維が好ましい。
【0019】
そして、本発明の機能性繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されており、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omf(omf:on the mass of fiberの略称、繊維に対する付着量を表す。)のものである。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量は0.5〜10%omfであり、中でも0.8〜8%omf、さらには1〜5%omfであることが好ましい。
【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が0.5%omf未満であると、繊維の表面に良好な塗膜が形成されず、他素材、特にオレフィン系素材に対する接着性向上効果を奏することができない。一方、付着量が10%omfを超えても接着力の更なる向上は望めず、むしろ、繊維の製造工程や製品の加工工程における操業性が悪化し、コスト面でも不利となる。
【0022】
さらに本発明の機能性繊維のオレフィン系素材をはじめとする他素材への接着性を向上させるために、熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する塗膜が形成されていることが好ましい。
【0023】
そして、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)は0.5〜10%omfであり、中でも0.8〜8%omf、さらには1〜5%omfであることが好ましい。
【0024】
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が0.5%omf未満であると、繊維の表面に良好な塗膜が形成されず、他素材、特にオレフィン系素材に対する接着性向上効果を奏することができない。一方、付着量が10%omfを超えても接着力の更なる向上は望めず、むしろ、繊維の製造工程や製品の加工工程における操業性が悪化し、コスト面でも不利となる。
【0025】
さらに、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を併用する場合において、これらの割合は、酸変性ポリオレフィン樹脂10重量部に対してポリウレタン樹脂が1〜6重量部であることが好ましい。
【0026】
まず、酸変性ポリオレフィン樹脂について説明する。酸変性ポリオレフィン樹脂は、種々の熱可塑性樹脂からなる繊維との密着性がよく、繊維の表面に良好に塗膜を形成することができる。そして、他素材として、特にオレフィン樹脂基材への接着性が良好となる。
【0027】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するポリオレフィン樹脂は、塗膜と基材との密着性の点から、不飽和カルボン酸成分を0.1〜25質量%含有していることが好ましい。この含有割合は、0.5〜15質量%であることがより好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましい。不飽和カルボン酸成分は、不飽和カルボン酸やその無水物により導入されるものであり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。
【0028】
中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよい。その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0029】
ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。オレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材密着性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう。
【0030】
ポリオレフィン樹脂中には、熱可塑性樹脂基材との接着性、特にポリプロピレン等のポリオレフィン基材との接着性を向上させる点から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有率は、0.5〜40質量%であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の比率が0.5質量%未満では、特にポリオレフィン基材との接着性を向上させる効果に乏しく、一方、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が40質量%を超えると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、かえって基材との接着性が低下する恐れがある。
【0031】
そして、酸変性ポリオレフィン樹脂としては、たとえば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン−プロピレン樹脂、酸変性エチレン−ブテン樹脂、酸変性プロピレン−ブテン樹脂、酸変性エチレン−プロピレン−ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらにアクリル酸エステル等でアクリル変性したもの等が挙げられる。なお、酸変性とは、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸によって変性(具体的には、グラフト変性)することをいう。
【0032】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、分子量の目安となる、温度190℃、荷重20.2N(2160g)におけるメルトフローレートが、通常0.01〜5000g/10分のものを用いることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、基材との接着性の向上効果に乏しく、一方、酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、塗膜は硬くてもろくなり、基材との接着性を向上させることが困難となりやすい。
【0033】
次に、ポリウレタン樹脂について説明する。本発明の機能性繊維の他素材への接着性を向上させるためには、塗膜に上記した酸変性ポリオレフィン樹脂とともにポリウレタン樹脂が含有されていることが好ましい。ポリウレタン樹脂は、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。
【0034】
本発明において、ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0035】
また、ポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知のジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類には、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0036】
また、本発明の機能性繊維の表面に形成される塗膜には、上記のような酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂の他に、その効果を損なわない範囲であれば他の成分が配合されていてもよい。例えば、機能性繊維を構成する熱可塑性樹脂との相溶性を向上させることができるような成分やさらに接着性を向上させることができるような成分が含有されていてもよい。しかしながら、塗膜中の酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂の割合(含有量)は、塗膜を構成する組成物の90質量%以上、中でも95質量%以上であることが好ましい。
【0037】
本発明の機能性繊維は、上記したように他素材との接着性に優れるものであり、特にオレフィン系素材との接着性に優れることから、その接着性を示す指標として、下記に示す接着性試験で測定した接着強力が10mN/dtex以上であることが好ましく、中でも15mN/dtex以上、さらには20mN/dtex以上であることが好ましい。
【0038】
本発明における接着性試験とは、長さ60mmの繊維をサンプルとし、低密度ポリエチレン(LDPE)として、日本ユニカー社製、NUC−8080、メルトフローレート7.5g/10分、DSC融点108℃を使用し、サンプル繊維の端部より長さ10mm、厚さ2.0mmでLDPEを溶融被覆させる。LDPEを冷却固化させた後、直径:繊維径+0.1mm、深さ:1mmの穴を有する金具に通す。このとき、サンプル繊維のLDPEの被覆されていない部分(50mm)を通す。そして、引張試験機(島津製作所社製、精密万能試験機「AG−50kNI」)のはさみ具に繊維および穴を有する金具を固定し、穴に対して垂直方向に50mm/分の速度でサンプル繊維を引張り、被覆させたLDPEから繊維を抜き取る。この抜き取る際の強力の最大値(mN)を引張試験機で測定し、単位繊度(dtex)当たりに換算し、この値を接着強力(mN/dtex)とする。
【0039】
さらに、本発明の機能性繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を含有する塗膜を形成する際には、繊維の表面にこれらの樹脂をコーティングすることにより形成することが好ましいが、中でも酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を液状媒体に溶解または分散した水性分散体として、水性分散体を熱可塑性樹脂からなる繊維表面に塗布することにより得られたものとすることが好ましい。
【0040】
このとき、液状媒体としては、作業性や環境面から揮発性有機溶媒を用いることは好ましくなく、環境面及び液状体とした際の安定性に優れる点から、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体とは、水あるいは水および水溶性の有機溶剤との混合溶媒である。つまり、酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂は水性媒体に溶解または分散した、いわゆる水性分散体として繊維の表面にコーティングすることが好ましい。
【0041】
そして、繊維の表面に上記のような酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を含有する水性分散体をコーティングした後、乾燥することにより、水性媒体を蒸発させ、本発明で規定する付着量となるようにして塗膜を形成させることが好ましい。
【0042】
なお、本発明においては、前記したような酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂とすることで、水性媒体中に安定に分散することが可能となるものである。
【0043】
具体的に、酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を含有する水性分散体としては、ユニチカ社製の『アローベース』を用いることができる。
【0044】
酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を含有する水性分散体を繊維の表面にコーティングする場合には、熱可塑性樹脂を溶融紡糸、延伸して得る際の任意の段階でローラ式またはスリット式のオイリング装置を用いて繊維表面に付与する方法を採用することができる。中でも延伸後、巻き取る前に付与し、ヒーター内部を走行させるなど熱処理した後巻き取ることが好ましい。
【0045】
これにより、溶融紡糸、巻取工程において酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂を含有する水性分散体の付与、乾燥が行え、別途加工を施す必要がなく、酸変性ポリオレフィン樹脂やポリウレタン樹脂が均一にコーティングされ、均一な膜厚の塗膜が形成された繊維を簡便な方法で、操業性よく得ることが可能となる。
【0046】
また、溶融紡糸し、巻き取ることにより得られた繊維に対し、後工程で付与することも当然可能である。比較的多い付着量としたい場合には、ディッピングマシーンを用い、ディップ処理で塗布することが好ましい。この処理は上記手法よりも低速での処理が可能となるので、比較的長時間の乾燥を行うことも可能となり、付着量を多くすることが可能となる。
【0047】
本発明の機能性繊維は、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれでもよく、長繊維、短繊維のいずれであってもよい。繊度や単糸数、丸断面や異型断面や中空繊維といった断面形状、芯鞘複合やサイドバイサイドや海島構造といった複合形態も特に限定されるものではない。また、仮撚加工、インターレース加工、押し込み捲縮加工(BCF加工)などが施されたものであってもよい。
【0048】
ただし、本発明の機能性繊維は、断面形状を異形としたり、加工を施すことにより繊維形態を変化させなくても、接着性は従来のものより向上していることが特徴であるので、繊維自体の強力が高く、各種布帛への加工性等への影響が少ない、丸断面、直線糸で用いることが好ましい。
【0049】
また、本発明の機能性繊維がモノフィラメントの場合は、モノフィラメントの表面に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されており、マルチフィラメントの場合は、マルチフィラメントの表面に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されているものであるが、マルチフィラメントの場合は、中でも、マルチフィラメントを構成する単糸の表面に酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値及び評価は以下のように行ったものである。
(1)強度、伸度
JIS−L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔20mm、引っ張り速度20mm/分で測定するものである。
(2)接着強力
前記した接着性試験に基づき測定するものである。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量
JIS−L−1013 溶剤抽出分のエタノール・ベンゼン抽出法に記載の方法に従い、測定するものである。
【0051】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体として、『アローベース SE-1200(ユニチカ社製、固形分濃度20%)』(水性分散体1)を用いた。
熱可塑性樹脂からなる繊維として、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(繊度1100dtex、フィラメント数192本、強度8.4cN/dtex、伸度16%、100T/MのZ撚りの撚糸:繊維A)を用いた。
リッツラー社製コンピュートリーターを用いて、繊維Aに上記水性分散体1をディッピング処理し、引き続き110℃×30秒の乾燥処理を施した。そして乾燥後の酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が3%omfの機能性繊維を得た。
【0052】
実施例2
熱可塑性樹脂からなる繊維として、ナイロン6マルチフィラメント(繊度1000dtex、フィラメント数96本、強度8.1cN/dtex、伸度24%、100T/MのZ撚りの撚糸:繊維B)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0053】
実施例3
熱可塑性樹脂からなる繊維として、ポリエチレンテレフタレートモノフィラメント(繊度1100dtex、強度7.5cN/dtex、伸度20%:繊維C)を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例1と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0054】
実施例4
熱可塑性樹脂からなる繊維として、ナイロン6モノフィラメント(繊度1100detex、強度7.2cN/dtex、伸度30%:繊維D)を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例1と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0055】
実施例5
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する水性分散体として、『アローベース SE−1200(ユニチカ社製、固形分濃度20%)』とポリウレタン樹脂の水性分散体である『アデカボンタイター HUX−561(アデカ社製、固形分濃度39%)』とを、SE−1200を10重量部、HUX−561を1.5重量部で混合(酸変性ポリオレフィン樹脂10重量部に対してポリウレタン樹脂が3重量部となるように混合)したもの(水性分散体2)を用いた。そして、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が3%omfとなるようにした以外は実施例1と同様にして機能性繊維を得た。
【0056】
実施例6
実施例5と同様の水性分散体2を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が3%omfとなるようにした以外は、実施例2と同様にして機能性繊維を得た。
【0057】
実施例7
実施例5と同様の水性分散体2を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が1%omfとなるようにした以外は、実施例3と同様にして機能性繊維を得た。
【0058】
実施例8
実施例5と同様の水性分散体2を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が1%omfとなるようにした以外は、実施例4と同様にして機能性繊維を得た。
【0059】
比較例1〜4
それぞれ実施例1〜4で用いた熱可塑性樹脂からなる繊維(繊維A〜D)そのものとした。
【0060】
比較例5
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が0.1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例5と同様に行った。
【0061】
比較例6
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が0.1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例6と同様に行った。
【0062】
比較例7
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が0.1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例7と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0063】
比較例8
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が0.1%omfとなるようにディッピング処理を調整した以外は実施例8と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0064】
比較例9
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が20%omfとなるようにディッピング処理と乾燥を2回行った以外は実施例5と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0065】
比較例10
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が20%omfとなるようにディッピング処理と乾燥を2回行った以外は実施例6と同様に行い、機能性繊維を得た。
【0066】
実施例1〜8、比較例1〜10で得られた機能性繊維の評価結果を表1、2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1、2から明らかなように、実施例1〜4の機能性繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されており、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が適量であったため、繊維材料、繊度に関係なく、接着強力が高く、LDPEに対し良好な接着性を示した。実施例5〜8の機能性繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する塗膜が形成されており、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が適量であったため、接着強力が高く、LDPEに対しさらに良好な接着性を示した。
【0070】
一方、比較例1〜4の繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されていないものであり、比較例5〜8の繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が少ないものであったため、いずれも接着強力が低く、LDPEに対する接着性に劣るものであった。また、比較例9〜10の繊維は、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量(両樹脂合計の繊維に対する付着量)が20%omfとなるようにディッピング処理と乾燥を2回行ったが、工程通過時にガイドとの摩擦で塗膜が削られ、繊維表面に毛羽も多発したため、十分な糸長のものを得ることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfであることを特徴とする機能性繊維。
【請求項2】
熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する塗膜が形成されてなり、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂の繊維に対する付着量が0.5〜10%omfであることを特徴とする機能性繊維。
【請求項3】
下記に示す接着性試験で測定した接着強力が10mN/dtex以上である請求項1又は2記載の機能性繊維。
〔接着性試験〕長さ60mmの繊維をサンプルとし、端部より長さ10mm、厚さ2.0mmで低密度ポリエチレン(LDPE)を溶融被覆させ、冷却固化させた後、直径:繊維径+0.1mm、深さ:1mmの穴を有する金具に通す。このとき、サンプル繊維のLDPEの被覆されていない部分(50mm)を通す。そして、引張試験機のはさみ具に繊維および穴を有する金具を固定し、穴に対して垂直方向に50mm/分の速度でサンプル繊維を引張り、LDPEから繊維を抜き取る。この抜き取る際の強力の最大値(mN)を引張試験機で測定し、単位繊度(dtex)当たりに換算し、この値を接着強力(mN/dtex)とする。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体を熱可塑性樹脂からなる繊維表面に塗布することにより得られたものである請求項1又は3記載の機能性繊維。
【請求項5】
酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含有する水性分散体を熱可塑性樹脂からなる繊維表面に塗布することにより得られたものである請求項2又は3記載の機能性繊維。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が非オレフィン系の熱可塑性樹脂である請求項1〜5いずれかに記載の機能性繊維。

【公開番号】特開2010−65347(P2010−65347A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232860(P2008−232860)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】