説明

機能情報取得装置、機能情報取得方法、及びプログラム

【課題】複数の測定結果を比較演算し、内部の機能情報を得る機能情報取得装置において、複数の測定の位置が互いにずれていた場合でも、正しい機能情報を得る装置の提供。
【解決手段】第1の波長の光に対応する複数の信号から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光に対応する複数の信号から前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示し、前記第1のデータより画像空間分解能が低い第2のデータと、を取得する吸収係数取得部と、前記第1のデータと前記第2のデータとを用いて機能情報を取得する機能情報取得部と、を有する機能情報取得装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能情報取得装置、機能情報取得方法及び当該方法を実現するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線又は超音波を用いたイメージング装置が医療分野等の非破壊検査を必要とする多くの分野で使われている。特に医療分野においては、超音波エコーを用いた診断は非侵襲的であるという利点を有するために多くの場面で利用されている。しかし、ガン等の疾患部位の発見には、生体内の機能情報、つまり生理的情報を得ることが重要であるが、エックス線診断や超音波エコーを用いた従来の診断では生体内の形態情報のみしか得られない。そのため、機能情報をイメージングすることができる新たな非侵襲的な診断方法として、光イメージング技術の一つであるPhotoacoustic Tomography(PAT)が提案されている。
【0003】
PATでは、光源から発生したパルス光を被検体に照射し、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波(典型的には超音波)を検出することにより被検体内部の情報を画像化する。被検体を取り囲む複数の個所で受信された音響波の時間による変化を検出し、得られた信号を数学的に解析処理(すなわち再構成)することにより、被検体内部の光学特性値に関連した情報を三次元で可視化することができる。この方法により被検体内の初期圧力発生分布を検出することで、光吸収係数分布などの光学的な特性分布情報を得ることができる。
【0004】
PATを用いた機能情報の検出としては、例えば、酸素飽和度の測定などが挙げられる。
酸素飽和度とは、血液中の全ヘモグロビンに対する酸素と結合したヘモグロビンの含有率である。酸素飽和度を検出することによって心肺機能が正常に作動しているか否かを測定することができる。また、酸素飽和度は腫瘍の良悪性を見分ける指標になることから、悪性腫瘍の効率的発見手段として期待されている。
【0005】
酸素飽和度の測定には、近赤外光が用いられる。近赤外光は生体の大部分を構成する水を透過しやすいが、一方で血液中のヘモグロビンにより吸収されやすい性質を持つ。ヘモグロビンは酸素と結合していない還元ヘモグロビンと酸素と結合した酸化ヘモグロビンの二つの状態からなるが、それぞれの状態における光吸収スペクトルが異なる。そのため、近赤外領域で波長の異なるパルス光を用いて複数回測定を行い、算出された光吸収係数同士を比較演算することによって、酸素飽和度を知ることができる。つまり、近赤外光を生体に照射することによって、その生体の形態情報である血管像に加えて、機能情報である酸素飽和度もイメージングすることができる。
ただし、この方法によって機能情報を取得するには、同一箇所について行った複数回の測定結果を比較演算する必要があり、体の動きなどにより測定位置が合致しなかった場合、演算の結果が誤ったものとなるという可能性がある。
【0006】
複数測定の比較という課題に対して、特許文献1のような技術が挙げられる。特許文献1に記載された技術では、画像の中の特定領域について測定された画像間の移動ベクトルを抽出し、そのベクトルに基づいて画像のズーム、回転、シフトなどの調整を行うことによって、位置ずれを補正(位置合わせ)し、複数画像の比較を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−215930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、画像間の位置合わせは以下に示すような課題を有する。
【0009】
第一に、移動ベクトルの抽出はロバスト性が低いということが問題となる。画像間の位置合わせでは、対比する複数の画像上から同じ個所と推測される点や構造(これらを特徴的構造物という)を探し出し、それを基準に移動ベクトルを抽出する。しかし、生体は弾性を持っており複雑に変形するので、たとえ特徴的構造物がある場合であっても変形により画像内でその特徴的構造物を抽出できない場合が起きる。また、特徴的構造物がない場合には、移動ベクトルの抽出はさらに困難となる。
【0010】
第二に、すべてのピクセルを完全に一致させるのは難しいということが問題となる。移動ベクトルは特徴的構造物など代表的な点でしか得られないので、その他の領域は補間処理を行って位置を合わせることになる。しかし、生体は弾性を持っているため補間処理を行った領域においてピクセル単位で複数の画像間の位置を合わせるのは難しい。
【0011】
以上の課題に鑑み、本発明では、複数測定の結果を比較する際に位置ずれが生じた場合に、画像間の位置合わせを行うことなく、酸素飽和度等の機能情報の取得が行える技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑みて、本発明の機能情報取得装置は、波長の異なる複数の光を被検体に照射することにより発生した複数の音響波を受信して前記複数の光に対応する複数の信号に変換する音響波検出器と、前記複数の信号から取得された前記複数の信号にそれぞれ対応する複数の吸収係数分布を用いて前記被検体内部の機能情報を取得する処理装置と、を有する機能情報取得装置であって、前記処理装置は、第1の波長の光に対応する信号から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光に対応する信号から前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第2のデータと、を取得する吸収係数取得部と、前記第1のデータと前記第2のデータとを用いて機能情報を取得する機能情報取得部と、を有し、前記第2のデータは、前記第1のデータより画像空間分解能が低いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の機能情報取得方法は、波長の異なる複数の光を照射することにより被検体から発生された音響波を音響波検出器により受信して前記複数の光に対応する複数の信号に変換し、前記複数の信号から算出された前記複数の信号にそれぞれ対応する複数の吸収係数分布を用いて機能情報を取得する機能情報取得方法であって、第1の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータを取得する工程と、第2の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から、前記第1のデータよりも画像空間分解能が低い、前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第2のデータを取得する工程と、前記第1のデータと前記第2のデータを用いて機能情報を取得する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに、第1の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータを取得する工程と、第2の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から、前記第1のデータよりも画像空間分解能が低い、前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第2のデータを取得する工程と、前記第1のデータと前記第2のデータを用いて機能情報を取得する工程と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る機能情報取得装置及び機能情報取得方法によれば、測定間に被検体の位置ずれが生じても、誤差の少ない酸素飽和度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る装置のデータ処理の流れを示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の概念を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る装置のデータ処理の流れを示す模式図である。
【図6】位置ずれがない場合の酸素飽和度を示す図である。
【図7】位置ずれがある場合の酸素飽和度を示す図である。
【図8】位置ずれがある場合に本発明を適用して酸素飽和度を算出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、図面を参照しながら説明する。ここでは酸素飽和度の測定について述べるが、本発明の光音響イメージング装置による測定の対象である機能情報は酸素飽和度に限定されることはなく、ヘモグロビンの全量等を測定してもよい。被検体に波長の異なる少なくとも2以上の光を照射して、被検体内で発生する音響波の相違を検出することにより、被検体内部の機能情報を得ることが可能である限り、いかなる機能情報の測定にも本発明の機能情報取得装置(光音響イメージング装置)を使用することができる。
【0018】
また、本発明の対象は下記構成を備えた単一の装置に限定されることはない。本実施形態に説明する機能を実現するための方法の使用及び、これらの機能を実現するソフトウェア(コンピュータプログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理によっても実現される。
【0019】
[実施形態1]
図1は、本発明の光音響イメージングの第一の実施形態について示したものである。ここでは、図1に基づいて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
本実施形態における光音響イメージング装置は、単波長の光2を被検体3に照射する光源1、光源1から照射された光2を被検体3に導くレンズなどの光学部品4、光吸収体5が被検体3の内部で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収したときに発生する音響波6を検出し電気信号に変換する音響検出器7、音響検出器7を走査させる制御装置8、前記電気信号の増幅やデジタル変換などを行う電気信号処理回路9、被検体内部情報に関する画像を構築(画像データを生成)するデータ処理装置10、被検体の位置ずれ量を入力するずれ量入力装置11及び、その画像を表示する表示装置12から構成される。光源1は少なくとも二種類以上の波長の光2を出力できるものである。
【0021】
次に図1および図3を参照して実施方法について述べる。波長A(第1の波長)の光2をパルス化して被検体に照射する(S1)。この照射された光2が被検体内部を伝播・拡散し、光吸収体5により吸収されると、パルス光の吸収により吸収体の温度が上昇し、その温度上昇によって吸収体の体積膨張が起こることにより、光吸収体5から音響波6が励起される。発生した音響波6は被検体に音響的に結合された音響検出器7により受信され、電気信号に変換される(S2)。音響波検出器は被検体に音響的に結合されていればよく、被検体と音響波検出器との間に被検体の形状を一定に保つ圧迫板等の形状維持部材を設けていても良い。なお、音響検出器7は制御装置8によって制御され、被検体面を機械的に移動しながら音響波6を様々な場所で測定できることが好ましい。また、1回の照射により発生した音響波を被検体に取り付けた複数の音響検出器によって同時に検出することもできる。検出された電気信号はアンプ、アナログデジタルコンバータなどの電気信号処理回路9によりデジタル信号へ変換され、その後、PCなどのデータ処理装置10により、光を照射された被検体の部位における被検体内の波長Aの光の吸収係数分布A(第1の吸収係数分布)へと再構成される(S3)。以上の操作を波長B(第2の波長)の光を用いた場合についても行い、光を照射された被検体の部位における被検体内の波長Bの吸収係数分布B(第2の吸収係数分布)を得る(S4〜S6)。さらに、後述するように、ずれ量入力装置11に入力される、波長Aの光を照射したときの光吸収体5の位置と波長Bの光を照射したときの光吸収体5の位置との間の位置ずれの値に基づいて、データ処理装置10における内部処理を行い、酸素飽和度を算出する(S7〜S9)。なお、さらに多くの異なる波長C、D・・・の光を用いて、吸収係数分布C、D・・・を算出し、それらを用いて酸素飽和度を得てもよい。最後に、得られた酸素飽和度を吸収係数分布に重ね合わせ(S10)、表示装置12で結果を表示する(S11)。
【0022】
次に本発明を実施するデータ処理装置10の内部処理について図2と図3を用いて説明する。データ処理装置10は、吸収係数取得部109と、機能情報取得部である酸素飽和度算出部106と、重畳処理部107と、を有している。そして、吸収係数取得部109は、吸収係数算出部106と、分解能変化処理部104と、分解能変化量決定部108と、を有している。
まず、波長Aの光を用いた測定のとき、電気信号処理回路9から送られてきたデジタル信号を吸収係数算出部101において再構成することにより吸収係数分布Aを示すデータ(第1のデータ)が算出され(S3)、算出された吸収係数分布Aを示すデータはメモリA102に蓄えられる。また、波長Bの光を用いた測定についても同様に吸収係数分布Bを示すデータ(第3のデータ)が算出され(S6)、メモリB103に蓄えられる。次に、波長Aの光を用いた測定における光吸収体5の位置と波長Bの光を用いた測定における光吸収体5の位置との間の位置ずれ量をずれ量入力装置11に入力し、その値に基づき分解能変化量決定部108において分解能変化量を決定する(S7)。分解能変化処理部104は、メモリに蓄えられた吸収係数分布を示すデータのうち少なくとも一つの吸収係数分布を示すデータについて、決定された分解能変化量だけ、画像データ上の画像空間分解能を低減させ、低減後の吸収係数分布を得る(S8)。本発明は、この、分解能が低減された吸収係数分布のデータ(第2のデータ)を用いて酸素飽和度などの被検体情報を求めることを特徴とする。なお、本発明は2次元の画像データ(ピクセルデータ)でも3次元の画像データ(ボクセルデータ)にも適用できる。なお、画像空間分解能とは、音響検出器7の素子のサイズで決まる分解能ではなく、画像空間での分解能のことである。本明細書中において3次元画像データ上の空間的な分解能をボクセル空間分解能と呼び、2次元画像データ上の空間的な分解能をピクセル空間分解能と呼ぶこととする。また、ボクセル空間分解能とピクセル空間分解能とをあわせて画像空間分解能と定義する。図2ではメモリB103に蓄えられた吸収係数分布B(波長Bの光を照射した際に算出され得る吸収係数分布)を示すデータの画像空間分解能を低減しているが、複数の吸収係数分布のデータのうちいずれの画像空間分解能を低減してもよい。また、複数の吸収係数分布のデータの画像空間分解能を低減してもよい。
【0023】
波長Aと波長Bの光を用いた測定間で位置ずれが起こった場合、通常では図4(a)のように同じ光吸収体に対応する像の比較が行えず、正しい酸素飽和度を得ることができない。しかし、画像空間分解能を低減させ少なくとも一方の光吸収体に対応する像の大きさを見かけ上大きくする(つまり光吸収体に対応するボクセル数を増やす)ことによって図4(b)のように両者が重畳する部分ができるため、位置ずれにより光吸収体の値と光吸収体以外の場所の値との間で誤った比較演算をすることを回避することができる。つまり、図2及び図3では、吸収係数分布Bを示すデータの画像空間分解能を低減することで、吸収係数分布Aを示すデータにおける光吸収体に対応する像が分解能低減後の吸収係数分布Bを示すデータにおける光吸収体に対応する像の中に含まれる。
【0024】
このとき、分解能を変化させた画像によって酸素飽和度を算出するため、光吸収体の周辺部を含めた広い範囲における酸素飽和度が得られることになる。しかし、血管像のような形態情報のイメージングでは分解能が重要であるのに対して、酸素飽和度のような機能情報のイメージングでは、得られた値(の絶対値)が腫瘍等の良悪性を示すため、複数の光がそれぞれどれだけ吸収されたかの定量性が重要である。そのため、分解能を低くして得られた酸素飽和度は、光吸収体に対応する像(分解能を低減する前の吸収係数分布における光吸収体の像)とその周辺部との平均値であっても、利用価値は大きい。また、本発明においては、後の工程(S10)において光吸収体の存在する箇所を特定する(つまり解像度を上げる)ことができる。そのため、この段階で分解能を犠牲にして酸素飽和度を算出したとしても、定量性が十分高ければ利用価値が大きいといえる。
【0025】
このときの画像空間分解能の変化量(低減の程度)は、ずれ量入力装置11に入力される位置ずれ量と分解能低減処理に用いる方法に応じて決定される。生体のような弾性を持った物体においては、ある特定の箇所の位置ずれを正確に把握したとしても、他の箇所も同じだけずれているとは限らない。そのため、位置合わせによって画像を正確に合わせようとすると、位置ずれ量を測るべきボクセルの数は膨大になる。しかし、本発明では画像空間分解能を低減させて光吸収体の像が重畳する部分を作るので、ボクセルごとの位置ずれ量を把握する必要はない。ただし、光吸収体の像が重畳する部分を作るためには、画像空間分解能の低減により光吸収体の像が実際の位置ずれ量より大きく拡大されるようにしなければならない。よって、ずれ量入力装置11に入力する位置ずれ量は大まかな大きさでよいが、確実に実際の位置ずれ量より大きくなる値を用いる。
なお、画像空間分解能を変化させる吸収係数分布の数に関わらず、分解能を低減させた結果の低減後の吸収係数分布における光吸収体の像の範囲内に、分解能を低減していない吸収係数分布(全ての吸収係数分布の分解能を低減した場合は、分解能を低減する前のいずれか1つの吸収係数分布)における光吸収体の像が少なくとも含まれるように、位置ずれ量に対する画像空間分解能の変化量を決定する。このとき、画像空間分解能を低減させるそれぞれの吸収係数分布について独立して変化量を決定してもよいし、画像空間分解能を低減させるすべての吸収係数分布について一律に変化量を定めてもよい。位置ずれ量を得る方法は特に限定されず、いかなる公知の方法によっても得ることができる。また、位置ずれ量を機械的な測定や画像からの測定から得てもよいし、入力は手動、自動のいずれでもよい。なお、位置ずれ量に対して変化させるべき画像空間分解能の量は、分解能を変化させる手法ごとに異なるので、あらかじめ分解能を変化させる手法ごとに位置ずれ量と分解能を変化させる量との関係をテーブル化もしくは関係式化しておき、このあらかじめ用意されたテーブルもしくは関係式を用いて分解能変化量を決定してもよい。
【0026】
画像空間分解能を低減する方法は、限定されないが、例えばデジタルフィルターなどの空間フィルターを畳み込むことによって達成することができる。この手法は計算量も多くなく、三次元への拡張も現実的である。フィルターとしては移動平均フィルターやガウスフィルターなど分解能を低減させるものが用いられる。フィルターの大きさを変更することによって、ボクセルデータにおける光吸収体の像の大きさを調整することが可能である。このとき、図4(b)のように、互いの光吸収体の像が重なるように調整することが必要である。よって、分解能変化量決定部108では、光吸収体の像の位置ずれ量を測定し、フィルターの種類ごとに、測定した光吸収体の像の位置ずれ量に基づいて、その光吸収体の像が重なり合うようにフィルターの大きさを変化させる量を決定する。
【0027】
分解能低減処理を施した吸収係数分布は、一時メモリであるメモリB’105に格納される。複数の吸収係数分布の分解能を低減させた場合には、それぞれ別の一時メモリに格納する。次に、機能情報算出部である酸素飽和度算出部106において、少なくとも分解能を低減した低減後の吸収係数分布を用いて酸素飽和度を得る(S9)。このとき、酸素飽和度を求めるために用いる複数の吸収係数分布のうち少なくとも一つに画像空間分解能を低減させた吸収係数分布を用いる。少なくとも1以上の前記画像空間分解能を低減させた吸収係数分布を用いていれば、二つ以上の画像空間分解能を低減させた吸収係数分布を用いて酸素飽和度を求めてもよいし、使用するすべての吸収係数分布が画像空間分解能を低減したものであってもよい。ただし、ここでも、酸素飽和度を求めるために用いる吸収係数分布のうち、分解能を低減させた吸収係数分布における光吸収体の像の範囲内に、分解能を低減していない吸収係数分布における光吸収体の像が含まれることが必要である。
酸素飽和度の算出方法は後述する。
【0028】
分解能を低減させた吸収係数分布を用いているため、得られた酸素飽和度は光吸収体の像の周辺部を含んだ範囲の値である。そのため、重畳処理部107において、図4(c)のように、得られた被検体情報(酸素飽和度)を画像空間分解能を低減させない吸収係数分布と重畳処理し、光吸収体の像(分解能を低減していない場合の光吸収体の像)の領域のみを取り出す(S10)。図2においては、重畳処理に用いる吸収係数分布には、分解能を低減させない吸収係数分布Aを示すデータを用いてもよいし、画像空間分解能を低減させる前の吸収係数分布Bを示すデータを保存しておいて、保存しておいた吸収係数分布Bを示すデータを用いて重畳処理を行ってもよい。また、波長Aでも波長Bでもない波長C(第3の波長)の吸収係数分布(第3の吸収係数分布)を示すデータ(第4のデータ)を用いて重畳処理を行ってもよい。
【0029】
光吸収体の像の領域のみを取り出す方法は特に限定されない。例えば、画像空間分解能を低減させない吸収係数分布において光吸収体が存在する位置を表す吸収係数の像としての値の閾値をあらかじめ決定しておき、閾値処理を行うことによって光吸収体の部分のみを取り出すことができる。つまり、画像空間分解能を低減させない吸収係数分布において所定の閾値以上の値を持つボクセルのみに同じ空間座標の酸素飽和度の値を代入し、画像空間分解能を変化させていない吸収係数分布のうち閾値より低い部分において酸素飽和度をゼロとすることによって光吸収体の部分のみを取り出すことができる。2次元においても同じく、ピクセル空間分解能を低減させない吸収係数分布において閾値以上の値を持つピクセルのみに同じ空間座標の酸素飽和度の値を代入することによって光吸収体の部分のみを取り出すことができる。
【0030】
このとき、光吸収体の位置についての画像空間分解能を変化させていない吸収係数分布も同時に取り出して、酸素飽和度の値と吸収係数分布の値を、色相、明度、彩度のうち互いに異なる少なくともひとつの色属性に対応させて空間データ(画像データ)を作成することもできる。たとえば、ボクセルごとに酸素飽和度の値で色相を決定し、吸収係数分布の値で彩度を決定して描画することもできる。
この結果を、表示装置12で表示する(S11)。
【0031】
次に酸素飽和度の算出方法について述べる。主な光吸収体が還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンである場合、波長λの光を用いた測定によって得られる吸収係数μ(λ)は式(1)のように、還元ヘモグロビンの吸収係数μHb(λ)と還元ヘモグロビンの存在比CHbとの積と、酸化ヘモグロビンの吸収係数μHbO2(λ)と酸化ヘモグロビンの存在比CHbO2との積との和である。μHb(λ)とμHbO2(λ)は決まった値のある物性なのであらかじめ他の方法で測定されている。式(1)における未知数はCHb、CHbO2の二つであるので、異なる波長の光を用いて測定を少なくとも二回行うことで、連立方程式を解いてCHb、CHbO2を算出できる。さらに多くの測定を行った場合には、例えば最小自乗法によるフィッティングでCHb、CHbO2を得ることができる。
【数1】

酸素飽和度SOは全ヘモグロビン中の酸化ヘモグロビンの比なので、式(2)で算出される。
【数2】

【0032】
[実施形態2]
得られる吸収係数分布の画像空間分解能を低減させて第2のデータを得るために、[実施形態1]で述べた空間フィルターに代わる手段として、音響波検出器で得られた信号に帯域制限を加える手法について図2および図5を用いて述べる。
【0033】
装置構成は[実施形態1]と同様であるため、相違点である本発明を実施するデータ処理装置10の内部処理について述べる。電気信号処理回路9から送られてきた波長Aを用いた測定におけるデジタル信号を用いて、吸収係数算出部101において吸収係数分布Aが算出される。一方で、ずれ量入力装置11から得られた値に基づいて、分解能変化量決定部108において低減させるべきデジタル信号の分解能の変化量を決定する。分解能変化量は、[実施形態1]と同様にして決定する。ずれ量に対して変化させるべきデジタル信号の分解能の量は分解能を変化させる手法ごとに異なるので、あらかじめ分解能を変化させる手法ごとに、ずれ量と分解能を変化させる量との関係をテーブル化もしくは関係式化しておき、これを用いて分解能変化量を決定してもよい。
【0034】
得られる吸収係数分布の画像空間分解能の低減は、電気信号処理回路9から送られてきた時系列のデジタル信号を分解能変化処理部104で加工することによって行う。分解能変化処理部104では、分解能変化量に応じて、信号の分解能を低減して低減信号(第1の低減信号)を取得する。つまり、複数の波長の光に対応する信号のうち、少なくとも1つの波長の光に対応する信号の分解能をその波長とは異なる波長の光に対応する信号の分解能より低減して、その波長の光に対応する低減信号を取得する。具体的には、例えば、信号の帯域を制限し、画像空間分解能を低減させた光吸収体の像同士を重ね合わせる。また、複数の位置で得られた音響検出器の信号を足し合わせて一箇所の信号として取り扱うことによっても低減信号を算出でき、画像空間分解能を低減させることができる。以上の処理方法は、時系列の信号に対して信号処理を加えるだけでよく、三次元空間における処理が必要ないので、工程全体での処理量が少ない。なお、位置ずれ量に対して変化させるべきデジタル信号の分解能の量は、分解能を変化させる手法ごとに異なるので、あらかじめテーブル化もしくは関係式化された分解能を変化させる手法ごとの位置ずれ量と分解能を変化させる量との関係を用いて分解能変化量を決定してもよい。加工された信号を用いて、吸収係数算出部101において吸収係数分布を示すデータを算出することで、加工前の信号を用いた際に算出され得る吸収係数分布を示すデータに比べて分解能を低減させた吸収係数分布を示すデータが得られる。[実施形態1]と同様に、波長Aと波長Bの光を用いた測定のうち少なくとも一方について、前記手法で分解能を低減させた吸収係数分布を算出し、算出された吸収係数分布を示すデータをメモリA102、メモリB103に蓄え、その両者を用いて、酸素飽和度算出部106において、酸素飽和度の平均強度を算出する。さらに多くの異なる波長C、D・・・の光を用いて酸素飽和度を算出することもできる。このときの処理も[実施形態1]と同様である。次に、画像空間分解能を低減させない吸収係数分布を示すデータと酸素飽和度の強度との重畳処理を重畳処理部107で行い、その結果を表示装置12で表示する。
【0035】
[実施例1]
複数の光を用いた測定の間に光吸収体の位置ずれがない場合、位置ずれがあるが位置ずれに関する処理を行わない場合、位置ずれがあるが[実施形態1]を実施した場合のそれぞれについて酸素飽和度を算出するシミュレーションをした。
【0036】
酸化ヘモグロビン40%と還元ヘモグロビン60%を混ぜ合わせた血液を模擬した球状の直径2mmの光吸収体を被検体の中央に設置し、800nmと850nmの光で照射したときの信号をシミュレーションによって得た。両者の信号を用いてそれぞれ吸収係数分布を作成し、両者の吸収係数分布をずらさずに算出した酸素飽和度を図6に示す。球の光吸収体の部分の濃度が0.4になっており、算出された酸素飽和度は40%になっていた。このように、位置ズレがない場合の酸素飽和度は酸化ヘモグロビンの濃度を正しく算出できていた。
【0037】
比較として位置ずれがあるが位置ずれに関する処理を特に行わない場合について述べる。800nmと850nmの吸収係数分布を上下に2mmずらした場合、分解能を低減させない従来手法で得られた酸素飽和度は図7のようになった。このように位置ずれが起こった場合には、酸素飽和度を正しく算出できなかった。
【0038】
位置ずれが起こった場合に、[実施形態1]の処理を実施した結果を図8に示す。ここでは、移動平均フィルターを畳み込んで800nmと850nmの両方の吸収係数分布のボクセル空間分解能を7倍に低減させ、その結果を用いて酸素飽和度を算出した。さらに、ボクセル空間分解能を低減させない800nmの吸収係数分布において最大値の50%以上の値を持つボクセルのみ、算出した酸素飽和度を表示させた。この結果、球の光吸収体の部分の濃度はおよそ0.4になっており、算出された酸素飽和度は40%となった。本発明を用いることで、位置ずれが起こっても、少ない誤差で酸素飽和度を算出できることが示された。また、このときの計算時間は従来手法に比べて無視できるほどの増加しかなかった。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様のシミュレーションを行い、吸収係数分布のボクセル空間分解能の低減手法として、複数の位置で得られた音響信号を足し合わせて一箇所の信号として扱う方法を用いた例について説明する。
【0040】
酸化ヘモグロビン40%と還元ヘモグロビン60%を混ぜ合わせた光吸収体を800nmと850nmの光によって照射して、発生する音響信号をシミュレーションによって得た。このとき、音響信号を得る探触子は、100×100個隙間なく並べた一辺2mmの正方形の素子によって構成されている。また、800nmと850nmの測定時に位置ずれが起こったことを想定し、800nmと850nmのシミュレーション時に吸収体の位置を上下に2mmずらした。
【0041】
800nmと850nmの光の双方について、5×5個の素子の信号を足し合わせてひとつの仮想素子の信号とみなし、それぞれ20×20個の仮想素子の信号を得た。そのため、一つ一つの素子を用いて吸収係数を計算するときに比べて、仮想素子の信号を用いた場合、ボクセル空間分解能は5倍大きくなった。仮想素子を用いて得た800nmと850nmの吸収係数分布同士を比較演算して酸素飽和度を算出し、一つ一つの素子を用いて得た信号を足し合わせる前の800nmの吸収係数分布において、その値が最大値の50%以上のボクセルのみの酸素飽和度を表示させた。表示されたボクセルの酸素飽和度はおよそ40%となっていた。このように、位置ずれがあっても、信号を加工することによって、光吸収体の像を重ねあうことができ、少ない誤差で酸素飽和度を得ることができた。
このときの計算時間は従来手法に比べて無視できるほどの増加しかなかった。
【符号の説明】
【0042】
1 光源
2 光
3 被検体
4 光学部品
5 光吸収体
6 音響波
7 音響検出器
8 制御装置
9 電気信号処理回路
10 データ処理装置
11 ずれ量入力装置
12 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の光を被検体に照射することにより発生した複数の音響波を受信して前記複数の光に対応する複数の信号に変換する音響波検出器と、前記複数の信号から取得された前記複数の信号にそれぞれ対応する複数の吸収係数分布を用いて前記被検体内部の機能情報を取得する処理装置と、を有する機能情報取得装置であって、
前記処理装置は、
第1の波長の光に対応する信号から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光に対応する信号から前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第2のデータと、を取得する吸収係数取得部と、
前記第1のデータと前記第2のデータとを用いて機能情報を取得する機能情報取得部と、
を有し、
前記第2のデータは、前記第1のデータより画像空間分解能が低いことを特徴とする機能情報取得装置。
【請求項2】
前記吸収係数取得部は、
前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータと、前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第3のデータと、を算出する吸収係数算出部と、
前記第3のデータの画像空間分解能を低減して前記第2のデータを取得する分解能変化処理部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の機能情報取得装置。
【請求項3】
前記吸収係数取得部は、前記第1のデータにおける光吸収体に対応する像の領域が、前記第3のデータの画像空間分解能を低減させることによって、前記第2のデータにおける光吸収体に対応する像に含まれるように、前記第3のデータの画像空間分解能の変化量を決定する分解能変化量決定部を有することを特徴とする請求項2に記載の機能情報取得装置。
【請求項4】
前記分解能変化量決定部は、画像空間分解能を変化させる手法ごとにあらかじめ用意された位置ずれ量と画像空間分解能の変化量との関係を用いて、画像空間分解能の変化量を決定することを特徴とする請求項3に記載の機能情報取得装置。
【請求項5】
前記分解能変化処理部は、空間フィルターを畳み込むことによって前記第3のデータの画像空間分解能を低減することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項6】
前記機能情報取得部により得られた機能情報と、前記第1のデータ又は前記第3のデータ又は第3の波長の光に対応する複数の信号から前記第3の波長の光に対応する第3の吸収係数分布を示す第4のデータと、を重畳処理し、画像空間分解能を低減していないデータにおける光吸収体に対応する像の領域の被検体情報のみを得る重畳処理部を、有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項7】
前記吸収係数取得部は、
前記第2の波長の光に対応する信号の分解能を前記第1の波長の光に対応する信号の分解能より低減して、前記第2の波長の光に対応する第1の低減信号を取得する分解能変化処理部と、
前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータと、前記第1の低減信号から前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す前記第2のデータと、を算出する吸収係数算出部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の機能情報取得装置。
【請求項8】
前記吸収係数取得部は、前記第1のデータにおける光吸収体に対応する像の領域が、前記第2のデータにおける光吸収体に対応する像に含まれるように、前記第2の波長の光に対応する信号の分解能の変化量を決定する分解能変化量決定部を、有することを特徴とする請求項7に記載の機能情報取得装置。
【請求項9】
前記分解能変化量決定部は、前記第2の波長の光に対応する信号の分解能を変化させる手法ごとにあらかじめ用意された位置ずれ量と分解能の変化量との関係を用いて、前記第2の波長の光に対応する信号の分解能の変化量を決定することを特徴とする請求項8に記載の機能情報取得装置。
【請求項10】
前記分解能変化処理部は、前記音響波検出器から出力された時系列の信号を加工することにより吸収係数分布の画像空間分解能を低減することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項11】
前記機能情報取得部により得られた機能情報と、前記第1のデータ又は第3の波長の光に対応する複数の信号から前記第3の波長の光に対応する第3の吸収係数分布を示す第4のデータと、を重畳処理し、画像空間分解能を低減していないデータにおける光吸収体に対応する像の領域の被検体情報のみを得る重畳処理部を、有することを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項12】
前記重畳処理部は、画像空間分解能を低減していない吸収係数分布において、所定の閾値以上の値を持つピクセル又はボクセルのみに同じ空間座標の機能情報の値を代入し、前記閾値より値が低い部分において機能情報の値をゼロとする処理を行うことを特徴とする請求項6又は11に記載の機能情報取得装置。
【請求項13】
前記重畳処理部は、機能情報の値と画像空間分解能を変化させていない吸収係数分布の値を、色相、明度、彩度のうち互いに異なる少なくともひとつの色属性に対応させた画像データを作成することを特徴とする請求項6、11及び12のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項14】
前記複数の光に対応する複数の信号は、1の波長の光を被検体に照射することにより発生した1の音響波を複数の音響検出器によって同時に検出して変換した複数の信号を含むことを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の機能情報取得装置。
【請求項15】
波長の異なる複数の光を照射することにより被検体から発生された音響波を音響波検出器により受信して前記複数の光に対応する複数の信号に変換し、前記複数の信号から算出された前記複数の信号にそれぞれ対応する複数の吸収係数分布を用いて機能情報を取得する機能情報取得方法であって、
第1の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から前記第1の波長の光に対応する第1の吸収係数分布を示す第1のデータを取得する工程と、
第2の波長の光を照射することにより前記被検体から発生される音響波から、前記第1のデータよりも画像空間分解能が低い、前記第2の波長の光に対応する第2の吸収係数分布を示す第2のデータを取得する工程と、
前記第1のデータと前記第2のデータを用いて機能情報を取得する工程と、
を有することを特徴とする機能情報取得方法。
【請求項16】
請求項14に記載の機能情報取得方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−177496(P2011−177496A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10534(P2011−10534)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】