説明

欠陥自己検出機能を有するラジアントチューブ

【課題】ラジアントチューブ自体に亀裂等の欠陥の自己検出機能を付与することで、操業中に亀裂等の欠陥が発生したラジアントチューブを容易に特定することができ、非常に高負荷の調査作業からの解放ひいては操業安定性のレベルアップに結び付くラジアントチューブを提供する。
【解決手段】ラジアントチューブ本体11の表面全体に耐熱性の絶縁性物質12を塗布した後、その絶縁性物質12の表面に導電性物質13をラジアントチューブ本体11の全長にわたって螺旋状に連続的に巻き付け、その導電性物質13に電源21とランプ22を取り付けて回路を形成しておき、ランプ22の消灯によって、ラジアントチューブ本体11の亀裂の発生を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアントチューブに発生する欠陥を自己検出する機能を有するラジアントチューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄鋼生産プロセス等の焼鈍設備においては、加熱手段としてラジアントチューブ(加熱用輻射管)を用いたバーナー(ラジアントチューブバーナー)が使用されることが多い。例えばCAL(連続焼鈍ライン)、CGL(連続溶融亜鉛めっきライン)等の焼鈍炉に使用されており、これらのラジアントチューブの本数は1炉で数十本から数百本に達する。焼鈍炉を通過する材料(鋼帯等)を適正に焼鈍処理するためには、当然のことながらこれらラジアントチューブが健全である必要があり、そのためには定期的にラジアントチューブを交換するのが確実である。しかし、コスト面においても操業面においてもラジアントチューブは可能な限り長く使い続けたいという要望があり、また操業上の理由等によっては定期交換を省略しても使い続けざるを得ない状況も発生する。
【0003】
一方、焼鈍炉内は基本的に数百度と高温雰囲気の上、通過する材料(鋼帯等)によってラジアントチューブの発熱量を変更する必要がある。また、焼鈍炉の修理の際は、炉内に作業者が立ち入れるよう炉温を一旦常温付近まで下げた上で、修理後はできるだけ早く通常生産に入れるよう速やかに所定炉温まで上昇させる必要がある。その結果、ラジアントチューブには多くの繰り返し熱負荷、熱応力がかかる。
【0004】
以上の理由等により、許容限度を超えたラジアントチューブには操業中に亀裂等の欠陥が発生することがある。その結果、ラジアントチューブの内圧が炉圧(炉内圧力)より高ければラジアントチューブの内部より漏れ出た燃焼ガス等により炉内雰囲気が異常となり、鋼帯等の表面が酸化されテンパーカラー等の品質欠陥が発生することもある。また、逆に、ラジアントチューブの内圧が炉圧より低ければ、その亀裂から炉内ガスを吸込んでしまうこともあり、その結果、炉圧が低下し、炉外の空気を炉のいずれかの個所から炉内に侵入させることになるため、同様に品質欠陥が発生することもある。
【0005】
したがって、操業中に鋼帯等の表面に品質欠陥が発生した場合、ラジアントチューブに亀裂が発生したと疑わざるを得ないケースもあり、その際は亀裂が発生したラジアントチューブを特定し、何らかの処置をする必要がある。この特定調査は当然操業を継続しながら実施しなければならないことが多いが、焼鈍炉の近傍は炉壁からの輻射等により雰囲気温度が高い所では60℃程度あるため、調査作業の負荷が非常に高く、熱中症の危険もある。そのため、操業中に亀裂の発生したラジアントチューブを容易に特定できる技術の開発が強く期待されている。
【0006】
これに対して、ラジアントチューブの亀裂等の調査方法については、例えば、特許文献1、2に記載の技術が提案されている。
【0007】
特許文献1に記載の技術は、ラジアントチューブの外部に渦流探傷用のプローブを配置し、渦流探傷によってラジアントチューブの亀裂を非破壊で検査するものである。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術は、酸化防止用に熱処理炉内を窒素ガス等で充満している熱処理炉内に配設されているラジアントチューブについて、当該ラジアントチューブ内に炉圧より負圧の状態で空気を流通させて、当該ラジアントチューブの入側と出側で空気の酸素成分を分析し、酸素濃度の変化により当該ラジアントチューブの亀裂の有無を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2743109号公報
【特許文献2】特開平3−295435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、上記特許文献1、2に記載の技術には以下のような問題があることが分かった。
【0011】
まず、特許文献1に記載の技術については、ラジアントチューブの外部に渦流探傷用のプローブを配置する場合、数百℃もあるラジアントチューブをそのままの状態では測定できず、室温近くになった状態でのオフラインにおける調査を前提とした方法であり、操業中の実施は困難である。
【0012】
また、特許文献2に記載の技術については、操業中も実施可能であるが、上述のように焼鈍炉の近傍の雰囲気温度は高い所では60℃程度あるので、そのような熱的環境(高温雰囲気)で数十本もしくは数百本のラジアントチューブについて1本ずつラジアントチューブ内を炉圧より負圧にして空気の酸素成分を分析する調査作業を実施することは非常に作業負荷が高く、また多大な時間も要し、更なる改善が望まれる。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ラジアントチューブ自体に亀裂等の欠陥の自己検出機能を付与することで、操業中に亀裂等の欠陥が発生したラジアントチューブを容易に特定することができ、非常に高負荷の調査作業からの解放ひいては操業安定性のレベルアップに結び付くラジアントチューブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を備えている。
【0015】
[1]導電性の低い物質からなるラジアントチューブ本体の表面に導電性物質を連続的に塗布するか、または連続的に巻き付けてなることを特徴とするラジアントチューブ。
【0016】
[2]ラジアントチューブ本体の表面に導電性物質を螺旋状に連続的に塗布するか、または螺旋状に連続的に巻き付けてなることを特徴とする前記[1]に記載のラジアントチューブ。
【0017】
[3]ラジアントチューブ本体の表面に絶縁性物質を塗布するか、または表面を絶縁性物質で覆った後に、導電性物質を連続的に塗布するか、または連続的に巻き付けてなることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のラジアントチューブ。
【0018】
[4]導電性の低い物質からなるラジアントチューブ本体の内部に導電性物質を連続的に埋め込んでなることを特徴とするラジアントチューブ。
【0019】
[5]ラジアントチューブ本体の内部に導電性物質を螺旋状に連続的に埋め込んでなることを特徴とする前記[4]に記載のラジアントチューブ。
【0020】
[6]前記導電性物質を用いて通電回路を成立させておき、その通電回路が不成立になることによってラジアントチューブ本体に欠陥が発生したことを検出することを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のラジアントチューブ。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、ラジアントチューブ自体が亀裂等の欠陥の自己検出機能を備えており、操業中に亀裂等の欠陥が発生したラジアントチューブを容易に特定することができ、非常に高負荷の調査作業からの解放ひいては操業安定性のレベルアップに結び付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るラジアントチューブを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において、ラジアントチューブの健全性をチェックする手順を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態において、ラジアントチューブの健全性をチェックする他の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1に、本発明の一実施形態に係るラジアントチューブ10を示す。なお、一般にラジアントチューブの形状はU字型もしくはM字型をしていることが多く、ここでのラジアントチューブ10はU字型をしているが、その形状は問わない。
【0025】
この実施形態においては、まず、導電性の低い物質(例えば、炭化珪素)からなるラジアントチューブ本体11の表面全体に耐熱性の絶縁性物質(例えば、耐熱性絶縁塗料)12を塗布するか、または、ラジアントチューブ本体11の表面全体を耐熱性の絶縁性物質(例えば、耐熱アクリル樹脂)12で覆う。
【0026】
次に、その絶縁性物質12の表面に導電性物質(例えば、導電性塗料)13をラジアントチューブ本体11の全長にわたって螺旋状に間隔を開けて連続的に塗布するか、もしくは、導電性物質(例えば、銅線)13をラジアントチューブ本体11の全長にわたって螺旋状に連続的に巻き付ける。ここで、導電性物質13の螺旋状の線は細いほど望ましく、また線間の間隔は狭いほど望ましい。
【0027】
その上で、この導電性物質13に通電して通電回路を形成する。回路要素としては、電源21、ランプ(もしくは、発光ダイオード)22とする。
【0028】
そして、図2(a)に示すように、ラジアントチューブ本体11が健全であれば、導電性物質13も連続しており通電回路が成立しているため、ランプ22は点灯している。これに対して、図2(b)に示すように、ラジアントチューブ本体11に亀裂等の欠陥が発生すると、導電性物質13に断線14が生じて回路不成立となり、ランプ22は消灯する。これによって、ラジアントチューブ10(ラジアントチューブ本体11)の欠陥が瞬時に検出され、迅速な対応が可能となる。
【0029】
なお、ラジアントチューブ10(ラジアントチューブ本体11)の健全性のチェックについては、ランプ22の点灯状況を定期的に監視することで行うことでも良い。
【0030】
また、ランプ22に替えてセンサー(電圧センサー、電流センサー等)を設置して、図3に示すように、その検出値(電圧、電流)を監視するようにしても良い。すなわち、検出値(電圧、電流)が零になれば、ラジアントチューブ本体11に亀裂等の欠陥が発生したことになる。ちなみに、このようにセンサーの検出値を監視するようにすれば、多数のラジアントチューブ10の集中監視が容易になる。
【0031】
このようにして、この実施形態においては、ラジアントチューブ10自体が亀裂等の欠陥の自己検出機能を備えており、操業中に亀裂等の欠陥が発生したラジアントチューブ10(ラジアントチューブ本体11)を迅速に特定することができるため、非常に高負荷の調査作業そのものが不要となるとともに、亀裂等の欠陥の調査時間も不要となるため、亀裂等の欠陥が発生したラジアントチューブ10を用いているラジアントチューブバーナーを速やかに消火停止することにより、操業を止めることなく、そのまま通常操業を継続することができる。その結果、鋼帯等の不良率の削減および生産性向上等の操業メリットにも直結する。
【0032】
なお、この実施形態では、導電性物質13を螺旋状に取り付けているが、螺旋状でなくとも連続的に取り付けられていれば良い。例えば、導電性物質13をラジアントチューブ本体11の長手方向に往復するように取り付けてもよい。
【0033】
また、この実施形態では、ラジアントチューブ本体11の表面を耐熱性の絶縁性物質12で被覆した上に導電性物質13を取り付けているが、ラジアントチューブ本体11の絶縁性が良好であれば、絶縁性物質12で被覆せずに、ラジアントチューブ本体11の表面に導電性物質13を直接取り付けても良い。
【0034】
また、この実施形態では、ラジアントチューブ本体11の表面に導電性物質13を取り付けているが、それに替えて、ラジアントチューブ本体11の内部に導電性物質13を埋め込むようにしても良い。
【実施例1】
【0035】
本発明の実施例を示す。
【0036】
この実施例においては、上述した本発明の一実施形態に基づいて、ラジアントチューブ10(ラジアントチューブ本体11)の健全性を監視した。
【0037】
すなわち、まず、新品のラジアントチューブ本体11の表面に絶縁性物質12をスプレーにて塗布した。その後、絶縁性物質12の表面に導電性物質である通常のφ1mmの銅線13を5mm間隔に連続的に巻き付けて通電回路を形成し、ランプ22を組み込み、ランプ22の点灯を確認した。
【0038】
そして、上記のようにして作製したラジアントチューブ10を数本用意し、鋼帯の焼鈍炉に設置した。
【0039】
数ヵ月後、うち1本のラジアントチューブ10に設置したランプ22が消灯したため、速やかに当該ラジアントチューブ10を用いているバーナーの消火処置を実施した。
【0040】
従来はラジアントチューブの亀裂を発見できない、もしくはその特定に多大な時間を要していたため、そのラジアントチューブを用いているバーナーを消火できず、鋼帯に品質欠陥が発生していたが、この実施例では何の操業問題も発生しなかった。その結果、苦労せずに、ラインの降速によるダウンタイムおよび鋼帯の表面品質欠陥の発生を回避することができた。
【0041】
後日、焼鈍炉の定期修理の際に炉内に入り、ランプ22が消灯したラジアントチューブ10をチェックしたところ、ラジアントチューブ本体11の表面に幅1mmx長さ50mm程度の亀裂が発生しているとともに、亀裂が発生した位置において銅線13が断線していることを確認した。また、ランプ22が点灯し続けていた残りのラジアントチューブ10については、全てラジアントチューブ本体11の表面が健全であることを確認した。
【符号の説明】
【0042】
10 ラジアントチューブ
11 ラジアントチューブ本体
12 絶縁性物質
13 導電性物質
14 断線
21 電源
22 ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の低い物質からなるラジアントチューブ本体の表面に導電性物質を連続的に塗布するか、または連続的に巻き付けてなることを特徴とするラジアントチューブ。
【請求項2】
ラジアントチューブ本体の表面に導電性物質を螺旋状に連続的に塗布するか、または螺旋状に連続的に巻き付けてなることを特徴とする請求項1に記載のラジアントチューブ。
【請求項3】
ラジアントチューブ本体の表面に絶縁性物質を塗布するか、または表面を絶縁性物質で覆った後に、導電性物質を連続的に塗布するか、または連続的に巻き付けてなることを特徴とする請求項1または2に記載のラジアントチューブ。
【請求項4】
導電性の低い物質からなるラジアントチューブ本体の内部に導電性物質を連続的に埋め込んでなることを特徴とするラジアントチューブ。
【請求項5】
ラジアントチューブ本体の内部に導電性物質を螺旋状に連続的に埋め込んでなることを特徴とする請求項4に記載のラジアントチューブ。
【請求項6】
前記導電性物質を用いて通電回路を成立させておき、その通電回路が不成立になることによってラジアントチューブ本体に欠陥が発生したことを検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のラジアントチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−107811(P2012−107811A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257374(P2010−257374)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】