説明

次亜塩素酸ナトリウム安定化剤、およびこれを含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液

【課題】重金属の共存下でも次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの分解を効果的に抑制でき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を澄明な状態で維持できる次亜塩素酸ナトリウム安定化剤および次亜塩素酸ナトリウム水溶液を提供する。
【解決手段】本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)とアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有する。また本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、前記次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸として0.01質量%以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤、および次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸ナトリウムは、従来、紙、パルプ、繊維等の漂白や、浄水処理や下水処理において処理水の殺菌消毒に用いられたり、家庭においては殺菌、カビ取り、洗浄、脱臭等に広く使用されている。次亜塩素酸ナトリウムは一般に水溶液として貯蔵および使用されるが、比較的不安定な化合物であり、放置しておけば徐々に分解してしまう。次亜塩素酸ナトリウムは、光や熱によって分解が促進されたり、重金属が共存することによっても分解が促進される。重金属は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの製造プロセスや貯蔵、移送において次亜塩素酸ナトリウム水溶液が金属製の機械や容器、配管等と接触することにより、金属が腐食して次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に混入してくる。従って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液には、不可避的に重金属が混入する場合が多々見られる。
【0003】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に共存する重金属によって次亜塩素酸ナトリウムが分解するのを抑制するため、様々な次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が知られている。例えば、特許文献1には、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤としてソルビトールに代表されるヘキサヒドロキシ−n−ヘキサンを用いることが開示され、特許文献2には、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤としてポリ−α−ヒドロキシアクリル酸や1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を用いることが開示され、特許文献3には、A成分としてアクリル酸またはポリヒドロキシアクリル酸と、B成分として塩素耐性ホスホネートまたは有機ホスホネートとを、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に加えて安定化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2−61405号公報
【特許文献2】特許第3075659号公報
【特許文献3】特開昭63−273700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように様々な次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が知られているにも関わらず、次亜塩素酸ナトリウムの分解を完全に抑えることは難しく、長期間にわたってより効果的に次亜塩素酸ナトリウムの分解を抑制できる次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が求められている。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、重金属の共存下でも次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの分解を効果的に抑制でき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を澄明な状態で維持できる次亜塩素酸ナトリウム安定化剤、およびこれを含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤とは、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)とアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有するところに特徴を有する。本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加して用いられ、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が添加された次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウムの安定性が高められ、時間経過に伴う分解が抑制される。特に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に鉄イオンや銅イオン等の重金属イオンが共存していても、次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制されるとともに、それらの重金属等に由来する沈殿物の生成も抑えられる。従って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は長期にわたり有効塩素濃度が高く保たれ、また澄明な状態が維持される。
【0008】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCA1モルに対し、アルカリ土類金属イオンを0.2モル以上1.0モル以下、アルカリ金属イオンを3モル以上の比率で含有していることが好ましい。このような比率でPBTCAとアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンが含まれていれば、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤による次亜塩素酸ナトリウム分解抑制効果が長期間持続されやすくなる。また、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を水溶液として用いた場合や、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加した際に、アルカリ土類金属イオンに由来する沈殿物が生成しにくくなる。
【0009】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤に含まれるアルカリ金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。また、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤に含まれるアルカリ土類金属イオンは、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、カルシウムイオンであることがより好ましい。
【0010】
本発明はまた、本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸として0.01質量%以上含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液も提供する。本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、重金属の共存下でも長期にわたり有効塩素濃度が高く保たれ、また澄明な状態が維持される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤および次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、重金属の共存下でも次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの分解を効果的に抑制でき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を澄明な状態で維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、下記化学式で表される2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(以下、「PBTCA」と称する場合がある)と、アルカリ土類金属イオンと、アルカリ金属イオンとを含有する。
【0013】
【化1】

【0014】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加して用いられる。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を添加することにより、次亜塩素酸ナトリウムの安定性が高められ、時間経過に伴う次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制される。特に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に鉄イオンや銅イオン等の重金属イオンが共存していても、次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制されるとともに、それらの重金属等に由来する沈殿物の生成も抑えられる。従って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は長期にわたり有効塩素濃度が高く保たれ、また澄明な状態が維持され、長期保存が可能となる。
【0015】
PBTCAは1つの分子内に1個のホスホン酸基(H2PO3−)と3個のカルボキシル基を有しており、PBTCAにより次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制される。PBTCAのホスホン酸基とカルボキシル基は、プロトンが電離してアニオンの状態で存在していてもよく、また塩を形成していてもよく、もちろんプロトン化していてもよい。
【0016】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCAに加え、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有する。PBTCAは、ホスホン酸基とカルボキシル基の少なくとも一部がアルカリ土類金属イオンやアルカリ金属イオンと塩を形成していると考えられる。
【0017】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤による次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制メカニズムは明確ではないが、PBTCAのアルカリ金属塩による緩衝性により次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制されると考えられる。またPBTCAは、重金属イオンの共存下でも次亜塩素酸ナトリウムの分解を効果的に抑制できることから、PBTCAのホスホン酸基やカルボキシル基が鉄イオンや銅イオン等の重金属イオンとキレート形成して、重金属イオンによる次亜塩素酸ナトリウムの分解促進を抑制していると考えられる。なお本発明は、前記メカニズムによって限定解釈されるものではない。
【0018】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCAに加え、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有することにより、次のような効果を有する。例えば、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤がPBTCAとアルカリ金属イオンのみを含有し、アルカリ土類金属イオンを含有しない場合、重金属イオンの共存下での次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が低下する。PBTCAは、アルカリ土類金属イオンが共存することにより、PBTCAのアルカリ土類金属塩およびアルカリ金属塩となって、次亜塩素酸ナトリウムによって分解されにくくなると考えられる。一方、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤がPBTCAとアルカリ土類金属イオンのみを含有し、アルカリ金属イオンを含有しない場合は、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加した際、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHが低下しやすくなり、その結果、次亜塩素酸ナトリウムの分解が促進されるおそれがある。
【0019】
従って、本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCAに加え、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有することにより、PBTCAが次亜塩素酸ナトリウムによって分解されにくくなるとともに、PBTCAによって次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制されるようになる。また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を澄明な状態で維持しやすくなる。
【0020】
アルカリ土類金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、入手容易性やPBTCAの安定性の点から、アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、PBTCAの安定性の点から、アルカリ土類金属イオンとしてはカルシウムイオンであることがより好ましい。
【0021】
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、入手容易性の点から、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウムイオンであることがより好ましい。
【0022】
従って、本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCAとカルシウムイオンとナトリウムイオンとを含有するものであることが好ましい。
【0023】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、水溶液であってもよく、固体(例えば、結晶状態)であってもよい。次亜塩素酸ナトリウム安定化剤に含まれるアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンは、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤の形態に応じて、その供給形態を適宜選択すればよい。
【0024】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が水溶液である場合、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンは、塩、酸化物、あるいは水酸化物の形態で供給されればよい。アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンが塩の形態で供給される場合、対アニオンが次亜塩素酸ナトリウムにより酸化分解を受けないことが好ましいことから、無機塩として供給されることが好ましい。なかでも、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンは、炭酸塩または塩化物塩として供給することが好ましい。また、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解を受けにくい点から、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンを酸化物または水酸化物として供給し、溶液状態の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を得ることも好ましい。
【0025】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が固体である場合、アルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンはPBTCAのホスホン酸基やカルボキシル基と塩を形成していればよい。すなわち、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤として、PBTCAのアルカリ土類金属塩とアルカリ金属塩の複合塩を用いればよい。PBTCAのアルカリ土類金属塩とアルカリ金属塩の複合塩は、例えば、PBTCAとアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンを含有する水溶液を乾燥処理することにより、得ることができる。この際、乾燥処理としては、PBTCAとアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンを含有する水溶液を瞬時に乾燥できる点から、噴霧乾燥や気流乾燥を採用することが好ましい。
【0026】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、PBTCA1モルに対し、アルカリ土類金属イオンを0.2モル以上1.0モル以下、アルカリ金属イオンを3モル以上の比率で含有することが好ましい。
【0027】
アルカリ土類金属イオンがPBTCA1モルに対し0.2モル以上の比率で含まれていれば、PBTCAが次亜塩素酸ナトリウムにより分解されにくくなる。従って、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤による次亜塩素酸ナトリウム分解抑制効果が長期間持続されやすくなる。アルカリ土類金属イオンは、より好ましくは、PBTCA1モルに対し0.5モル以上の比率で含まれる。
【0028】
アルカリ土類金属イオンがPBTCA1モルに対し1.0モル超の比率で含まれていれば、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を水溶液として用いた場合や、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加した際に、アルカリ土類金属イオンに由来する沈殿物が生成しやすくなる。これは、PBTCAがアルカリ土類金属イオンと1:1のモル比でキレート形成し、過剰のアルカリ土類金属イオンが水酸化物として不溶化して沈殿してくるためと考えられる。この場合、沈殿物の生成により外観が良くなくなるとともに、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤や次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用の際、ろ過操作が必要となり好ましくない。つまりアルカリ土類金属イオンは、PBTCA1モルに対し1.0モル以下の比率で含まれることが好ましく、1.0モル未満の比率で含まれることがより好ましい。
【0029】
アルカリ金属イオンがPBTCA1モルに対し3モル以上の比率で含まれていれば、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加した際、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHが大きく低下せず、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpH低下による次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制されやすくなる。アルカリ金属イオンは、PBTCA1モルに対し4モル以上の比率で含まれることがより好ましく、5モル以上の比率で含まれることがさらに好ましい。アルカリ金属イオンのPBTCAに対するモル比の上限は特に限定されない。例えば、水溶液状態のPBTCAに、アルカリ土類金属イオンを適当な形態で加え、さらにアルカリ金属イオンを水酸化物の形態で過剰に加え、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を得てもよい。このように得られた次亜塩素酸ナトリウム安定化剤はより高いpHを有するようになり、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果をさらに高める。アルカリ金属イオンのPBTCAに対するモル比の上限としては、例えば、2000(モル/モル)の値が示される。
【0030】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加されて使用される。次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウムが水に溶けたものであれば特に限定されない。
【0031】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液としては一般的な製法により得られたものを用いればよく、例えば、塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより、あるいは水酸化ナトリウム水溶液に塩素を通じることにより得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いればよい。一般に市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液は有効塩素濃度5%〜12%程度を有しており、本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤はそのような次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加して用いればよい。もちろん、前記有効塩素濃度の範囲外の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加して用いてもよい。
【0032】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウムの安定性が高まり、時間経過に伴う次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制される。特に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に鉄イオンや銅イオン等の重金属イオンが共存していても、次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制されるとともに、それらの重金属等に由来する沈殿物の生成も抑えられる。従って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は長期にわたり有効塩素濃度が高く保たれ、また澄明な状態が維持され、長期保存が可能となる。
【0033】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)として0.01質量%以上含有することが好ましく、0.02質量%以上含有することがより好ましく、0.03質量%以上含有することがさらに好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液が次亜塩素酸ナトリウム安定化剤をPBTCAとして0.01質量%以上含有すれば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中での次亜塩素酸ナトリウムの分解が効果的に抑制されるようになる。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に含まれる次亜塩素酸ナトリウム安定化剤の濃度の上限は特に限定されないが、過剰に次亜塩素酸ナトリウム安定化剤が含まれていても次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が大きく向上せず非経済的であることから、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤をPBTCAとして2.0質量%以下含有することが好ましく、1.5質量%以下含有することがより好ましく、1.0質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0034】
次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を含有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、pHが高いほど次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制されることから、pHが12.0以上であることが好ましく、12.5以上であることがより好ましく、13.0以上であることがさらに好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHの調整は、次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を加えた次亜塩素酸ナトリウム水溶液にさらにアルカリ薬剤を加えることにより行ってもよく、アルカリ薬剤を過剰に加えた次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に加えることにより行ってもよい。前記アルカリ薬剤としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(1)次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加薬剤(次亜塩素酸ナトリウム安定化剤)の調製
(1−1)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.9,Na/PBTCAモル比=5.1)
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)の50質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−430」)18.0g(PBTCAとして0.0333モル)に、炭酸カルシウム(関東化学株式会社製、試薬特級)3.0g(0.030モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製、試薬特級)6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.1,12〜16,19で使用する添加薬剤1を得た。
【0037】
(1−2)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.6,Na/PBTCAモル比=5.1)
炭酸カルシウムを2.0g(0.020モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.17で使用する添加薬剤2を得た。
【0038】
(1−3)PBTCA・Ca・Na(Ca/PBTCAモル比=0.3,Na/PBTCAモル比=5.7)
炭酸カルシウムを1.0g(0.010モル)用い、水酸化ナトリウムを7.6g(0.190モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.18で使用する添加薬剤3を得た。
【0039】
(1−4)PBTCA・Mg・Na(Mg/PBTCAモル比=0.8,Na/PBTCAモル比=5.1)
炭酸カルシウムの代わりに酸化マグネシウム(関東化学株式会社製、試薬特級)を1.0g(0.025モル)用いた以外は、添加薬剤1を得るのと同様の方法で、試料No.20で使用する添加薬剤4を得た。
【0040】
(1−5)PBTCA・Na
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTCA)の50質量%水溶液18.0gに、水酸化ナトリウム9.2g(0.230モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.2,21で使用する添加薬剤5を得た。
【0041】
(1−6)HEDP・Ca・Na
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)の60質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−210」)18.0g(HEDPとして0.0524モル)に、炭酸カルシウム4.0g(0.040モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.22で使用する添加薬剤6を得た。
【0042】
(1−7)HEDP・Na
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)の60質量%水溶液18.0g(HEDPとして0.0524モル)に、水酸化ナトリウム9.2g(0.230モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.5,23で使用する添加薬剤7を得た。
【0043】
(1−8)NTMP・Ca・Na
ニトリロトリス(メチレン−ホスホン酸)(NTMP)の50質量%水溶液(キレスト株式会社製、「キレストPH−320」)18.0g(NTMPとして0.0301モル)に、炭酸カルシウム2.0g(0.020モル)を加えて撹拌し、溶解した。これに水酸化ナトリウム6.8g(0.170モル)と脱イオン水を加えて100gとし、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.24で使用する添加薬剤8を得た。
【0044】
(1−9)NTMP・Na
ニトリロトリス(メチレン−ホスホン酸)(NTMP)の50質量%水溶液18.0g(NTMPとして0.0301モル)に、水酸化ナトリウム7.6g(0.190モル)と脱イオン水を加えて100gとして、水酸化ナトリウムを溶解し、試料No.25で使用する添加薬剤9を得た。
【0045】
(1−10)その他の添加薬剤
試料No.3で使用するエチレンジアミン4酢酸カルシウム・2ナトリウム(EDTA・Ca・2Na)は、キレスト株式会社製のキレストCa(結晶状態)を用いた。試料No.4で使用するジエチレントリアミン5酢酸5ナトリウム(DTPA・5Na)は、キレスト株式会社製のキレストP(DTPA・5Naの40質量%水溶液)を用いた。試料No.8,28で使用するメタケイ酸ナトリウム水和物は、関東化学株式会社製の試薬を用いた。試料No.9で使用するアルミン酸ナトリウムは、関東化学株式会社製の試薬1級を用いた。試料No.10で使用するソルビトールは、関東化学株式会社製の試薬1級を用いた。
【0046】
(2)試験方法
(2−1)重金属イオンを添加しない次亜塩素酸ナトリウム水溶液の安定性試験
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5.5%、関東化学株式会社製、試薬1級)30gに、表1の各試料番号に示された添加薬剤を表1に示された割合で加えて試験用試料(試料No.1〜11)を作製し、初期のpHと有効塩素濃度を測定した。次いで、各試料をポリプロピレン製の100mLサンプル瓶に入れて密栓し、遮光した状態で50℃に保たれた恒温槽で保存して、7日間ごとに有効塩素濃度を測定した。表1に、初期のpHと有効塩素濃度、および有効塩素の残存率(所定期間経過後の有効塩素濃度の初期の有効塩素濃度に対する比率)を示す。なお、有効塩素濃度は、食品添加物公定書の次亜塩素酸ナトリウムの定量法によって測定した。
【0047】
(2−2)重金属イオンを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の安定性試験
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5.5%、関東化学株式会社製、試薬1級)30gに、表2の各試料番号に示された添加薬剤を表2に示された割合で加え、さらに塩化銅(CuCl2・2H2Oの0.1%溶液)を試料中のCu2+イオン濃度が1.9ppmとなるように加え、塩化第二鉄(FeCl3の0.1%溶液)を試料中のFe3+イオン濃度が1.7ppmとなるように加えて試験用試料(試料No.12〜29)を作製し、初期のpHと有効塩素濃度を測定した。次いで、各試料をポリプロピレン製の100mLサンプル瓶に入れて密栓し、遮光した状態で50℃に保たれた恒温槽で保存して、7日間ごとに有効塩素濃度を測定した。表2に、初期のpHと有効塩素濃度、および有効塩素の残存率(所定期間経過後の有効塩素濃度の初期の有効塩素濃度に対する比率)を示す。なお、有効塩素濃度は、食品添加物公定書の次亜塩素酸ナトリウムの定量法によって測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
(3)試験結果
試験結果を表1および表2に示す。何も添加薬剤を加えなかった場合、重金属イオンを添加しない次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.11)では14〜21日かけて有効塩素が徐々に減少していったのに対し、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.29)では7日後には有効塩素残存率が0%となっていた。
【0051】
PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液では(試料No.1,12〜20)、有効塩素濃度が長期間にわたり高く保たれ、次亜塩素酸ナトリウムの分解が抑制された。また試料No.1,12〜20のいずれも、沈殿は生じず、外観は濁りのない状態であった。試料No.12〜16を比較すると、PBTCA濃度が高いほど次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が高くなるが、PBTCA濃度が高くなると次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が頭打ちになる傾向となる。試料No.12,17〜18を比較すると、Ca/PBTCAモル比が高くなるほど次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が高くなることが分かる。なお表には示されていないが、Ca/PBTCAモル比を高くし過ぎると、カルシウムに由来すると思われる沈殿物が生成した。PBTCA・Ca・Naにさらに25%NaOH溶液を加えて、初期pHを13.1とした試料No.19では、特に良好な次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が見られた。
【0052】
一方、PBTCA・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.2,21)では、PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.1,12〜20)よりも次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が低下した。
【0053】
分子内にカルボキシル基を有しホスホン酸基を有しないEDTA・Ca・2NaまたはDTPA・5Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.3〜4)では、7日後には有効塩素残存率が0%となっており、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られなかった。
【0054】
分子内にホスホン酸基を有しカルボキシル基を有しないHEDP・Ca・Na、HEDP・Na、NTMP・Ca・Na、またはNTMP・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.5,22〜25)では、PBTCA・Ca・NaまたはPBTCA・Mg・Naを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.1,12〜20)よりも次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が低下した。
【0055】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液に25%NaOH溶液を添加した(試料No.6〜7,26〜27)場合、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.26〜27)では7日後の有効塩素がほとんど残存しておらず、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果が見られなかった。
【0056】
メタケイ酸ナトリウムを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.8,28)では、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られるものの、重金属を添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液では沈殿物が生成した。アルミン酸ナトリウムを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.9)でも、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られるものの、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に沈殿物が生成した。このように次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で沈殿物が生成すると、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用の際にろ過等の操作が必要となり、好ましくない。
【0057】
ソルビトールを添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(試料No.10)では、7日後には有効塩素残存率が0%となっており、次亜塩素酸ナトリウムの分解抑制効果は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤および次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、製紙パルプ工場等における紙、パルプ、繊維等の漂白、浄水処理や下水処理における処理水の殺菌消毒、家庭用の殺菌剤、カビ取り剤、洗浄剤、脱臭剤等に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸とアルカリ土類金属イオンとアルカリ金属イオンとを含有することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム安定化剤。
【請求項2】
2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸1モルに対し、アルカリ土類金属イオンを0.2モル以上1.0モル以下、アルカリ金属イオンを3モル以上の比率で含有する請求項1に記載の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤。
【請求項3】
前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属イオンが、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤。
【請求項5】
前記アルカリ金属イオンがナトリウムイオンであり、前記アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオンである請求項1または2に記載の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の次亜塩素酸ナトリウム安定化剤を、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸として0.01質量%以上含有することを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液。


【公開番号】特開2012−153569(P2012−153569A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14354(P2011−14354)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】