説明

止水処理装置

【課題】電線の片端を加圧し、その加圧端末から樹脂を圧入して隙間を埋める方法において、電線の被覆の剥離を防止して、電線端末を確実に止水処理できる装置の提供。
【解決手段】硬化性樹脂液が接触している電線20の端末を加圧して、前記硬化性樹脂液を電線20内部に圧入及び硬化させ、電線20の端末を止水処理するための装置であって、電線20の端末を加圧するための耐圧性容器11を備え、耐圧性容器11には、電線20のうち、前記硬化性樹脂液の圧入部を、外周から圧着保持する電線保持部材30が設けられた止水処理装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や有機溶剤などの液体がかかったり、触れたりする可能性のある場所・部分に設置配線される電線において、ショートや腐食を防止するための、電線端末の止水処理に使用する止水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電線の止水方法としては、例えば、片端を減圧して端末から樹脂を注入することにより、隙間を埋める方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。この技術は、近年汎用されている細径電線で特に有用なものである。しかし、電線長が長くなると減圧圧力の圧損が生じ、樹脂を吸引できなくなるという問題点があった。また、電線端末を吸引装置に取り付ける作業が煩雑になるという問題点があった。さらに、減圧では大気圧分しか圧力差を出すことができないので、選択できる樹脂の範囲も狭くなるという問題点があった。
【0003】
これに対し、特許文献1に記載の方法の問題点を解決できる技術として、電線の片端を加圧して、その加圧端末から樹脂を圧入することにより、隙間を埋める方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。この技術によれば、電線長によらず、電線端末に一定長さの止水構造を簡単に且つ確実に形成でき、圧力差も大きくできるので、高粘度な硬化性樹脂液も充填できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【特許文献2】国際公開第2007/052693号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の方法では、加圧時に供給した圧縮ガスが、電線の素線と被覆との間に侵入して、被覆が膨張し、素線から剥離することがあり、電線端末の止水処理が不十分になる可能性があるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電線の片端を加圧し、その加圧端末から樹脂を圧入して隙間を埋める方法において、電線の被覆の剥離を防止して、電線端末を確実に止水処理できる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、硬化性樹脂液が接触している電線端末を加圧して、前記硬化性樹脂液を前記電線内部に圧入及び硬化させ、前記電線端末を止水処理するための装置であって、前記電線端末を加圧するための耐圧性容器を備え、該耐圧性容器には、前記電線のうち、前記硬化性樹脂液の圧入部を、外周から圧着保持する電線保持手段が設けられたことを特徴とする止水処理装置を提供する。
本発明の止水処理装置は、前記電線保持手段が、前記耐圧性容器に対して独立して設けられていることが好ましい。
また、本発明の止水処理装置は、前記耐圧性容器の肉厚の壁部が前記電線保持手段とされていることが好ましい。
また、本発明の止水処理装置は、前記電線保持手段が二つの部材に分割可能とされ、これら部材の分割面が、その接合時において前記電線の圧着保持面となることが好ましい。
また、本発明の止水処理装置は、少なくとも一方の前記分割面が緩衝材で被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電線保持手段を設けたことにより、電線の片端を加圧し、その加圧端末から樹脂を圧入して隙間を埋める方法でも、電線端末を確実に止水処理できる。
そして、加圧により樹脂を圧入するので、電線長によらず、電線端末に一定長さの止水構造を簡単に且つ確実に形成でき、圧力差を大きくできるので、硬化性樹脂液を短時間で充填でき、高粘度な硬化性樹脂液も充填できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る止水処理装置を例示する概略図であり、(a)は止水処理装置に備えられた耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は耐圧性容器の深さ方向に沿った断面図である。
【図2】本発明に係る止水処理装置に設けられた、分割可能に構成された電線保持手段の部分構造を例示する斜視図である。
【図3】本発明に係る止水処理装置に設けられた電線保持手段の他の例を示す概略図であり、(a)は耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は正面図である。
【図4】本発明に係る止水処理装置に設けられた電線保持手段のさらに他の例を示す概略図であり、長手方向の中心軸を通る平面における断面図である。
【図5】本発明に係る止水処理装置に設けられた電線保持手段のさらに他の例を示す概略図であり、(a)は耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は正面図である。
【図6】毛細管現象により導体素線間に液が浸透する場合を説明するための要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る止水処理装置を例示する概略図であり、(a)は止水処理装置に備えられた耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は耐圧性容器の深さ方向に沿った断面図である。
【0011】
図1中、符号10は止水処理装置、符号11は耐圧性容器、符号12は耐圧性容器の本体(以下、本体と略記する)、符号13は耐圧性容器の蓋体(以下、蓋体と略記する)、符号14は密封パッキン、符号15は加圧ガス流路、符号20は電線、符号21は端子部を示す。
電線20は、複数の導体素線が絶縁被覆されたもの、あるいはそれらの複合線などが外被で覆われたものであれば、特に限定されない。複数の導体素線が絶縁被覆された電線は、導体素線間又は導体素線と被覆との間の空隙部の体積が大きく、加圧時に被覆あるいは外被が素線から剥離し易いが、このような電線に対しても、本発明は優れた止水処理効果を発揮する。
【0012】
止水処理装置10は、本体12及び蓋体13からなる耐圧性容器11と、本体12及び蓋体13間に介在する密封パッキン14と、耐圧性容器11の内部に連通するように接続された加圧ガス流路15と、を備えて概略構成されている。また、耐圧性容器11の内部(加圧室)には、電線20をその長手方向に沿って圧着保持するための電線保持部材30が設けられている。
本体12は、平面視にて長方形状であり、かつその深さ方向の断面形状が略U字状をなす浅い容器状の形状を有している。
【0013】
蓋体13は、本体12の開口部を覆い、本体12と一体となって、それらの内部に電線の端末部分を収容する空間(加圧室)を形成する部材である。
本体12を構成する材料および蓋体13を構成する材料は、耐圧性容器11内に導入される圧縮ガスの圧力に耐えられるものであれば、特に限定されない。また、本体12および蓋体13は、耐圧性容器11内に導入される圧縮ガスの圧力に耐えられれば、その全部又は一部が光透過性の材料(例えば、ガラス、プラスチック等)で構成されていても良い。
【0014】
密封パッキン14は、本体12の開口部と同様の形状をなす枠状の部材(Oリング)であり、本体12に蓋体13を被せて耐圧性容器11を構成した場合に、耐圧性容器11の内部の密閉性を高める。この密封パッキン14を、本体12と蓋体13の間に介在させることにより、加圧ガス流路15を介して耐圧性容器11の内部に導入した圧縮ガスが、容器外に漏れ出ることがない。
【0015】
密封パッキン14には、電線20を挿通するために、耐圧性容器11の内部と外部を連通する孔14aが複数個設けられている。この孔14aの径(内径)は、電線20を挿通した場合に密封パッキン14と電線20とが密着し、両者の間に隙間ができない大きさとなっている。
密封パッキン14としては、天然ゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴムからなるゴムパッキンが用いられる。
【0016】
加圧ガス流路15は、電磁バルブなどのバルブ(図示略)を介して、本体12に接続されている。
また、加圧ガス流路15は、各種ガスボンベ、工場圧縮エア配管などのガス供給源(図示略)から供給される高圧ガスを所定の圧力に調整するためのレギュレータ(図示略)を介して、そのガス供給源に接続されている。
また、耐圧性容器11には、本体12に蓋体13を固定し、耐圧性容器11内に圧縮ガスを導入した際にも密閉状態を維持するためのクランプなどの固定機構(図示略)が設けられている。
【0017】
耐圧性容器11の内部には、密封パッキン14の孔14aと連通する電線収納溝30aが形成された電線保持部材30が配置されている。
電線保持部材30は、外形が角柱、円柱などの柱状をなし、その長手方向の中心軸を通る平面で2つの保持部材30A、30Bに縦割り分割可能に構成されている。
電線保持部材30は、挿通された電線20をその長手方向に沿って圧着保持するものであり、圧着状態を維持するために、クランプやクリップなどの固定機構(図示略)で固定できるものである。
【0018】
また、電線保持部材30の電線収納溝30aは、2つの保持部材30A、30Bのそれぞれの接合面(分割面)30bに、この接合面30bの長手方向の中心線に沿って形成されている。そして、2つの保持部材30A、30Bを、それぞれの接合面30bで接合させた場合、それぞれの電線収納溝30a同士が合わせられて、電線保持部材30の長手方向の中心軸を通る1つの貫通孔を形成するようになっている。電線収納溝30aは、電線20を収納して、電線20のうち少なくとも硬化性樹脂液の圧入部を、その外周から圧着保持する。
このように、保持部材30A及び30Bの電線収納溝30aが形成されている接合面(分割面)30bは、これらの接合時において、電線20の圧着保持面として機能する。
【0019】
また、電線収納溝30aの長手方向と垂直な断面の形状は、電線収納溝30aに電線20を収納し、圧着保持できれば特に限定されないが、電線20と電線収納溝30aとの間に最も隙間が生じ難いことから、半円形が好ましい。
【0020】
また、電線収納溝30aの開口部の幅は、そこに収納される電線20の外径に応じて適宜決定されるが、電線20を収納した際に、電線20と電線収納溝30aとの間に隙間が生じない大きさが好ましい。具体的には、電線収納溝30a同士が合わせられて形成される貫通孔の内径が、電線20の外径と同等か又は僅かに小さいことが好ましい。そして、電線収納溝30aの開口部の幅は、長手方向の全域に沿って電線20と電線収納溝30aとの間に隙間が生じない大きさであることが好ましい。
【0021】
電線収納溝30aの長手方向の長さLは、十分な止水効果が得られる硬化性樹脂液の充填(圧入)長が得られるように、適宜調整すれば良い。硬化性樹脂液の充填長は、硬化性樹脂液の種類や加圧条件にもよるが、通常30〜100mmであることが好ましく、50〜80mmであることがより好ましい。
【0022】
電線保持部材30を構成する材料としては、耐圧性容器11内に所定の圧力の圧縮ガスを導入した際に、その圧力によって変形したり破損したりしないものであれば特に限定されないが、具体的には、各種金属、セラミックス、ゴム、プラスチック、紙、綿等が例示できる。なかでも気密性を高くでき、かつ電線に追従して変形しても電線を圧着保持可能であることから、ゴムやエラストマーが好ましい。
【0023】
電線保持部材30で圧着保持された電線20は、加圧時にその圧力で外側の被覆(外被)が素線から剥離することが防止され、圧入された樹脂との間に隙間が生じることが無く、被覆や樹脂の材質によらず、安定して止水処理できる。例えば、素線から剥離しやすい材質であるポリ塩化ビニルやハロゲンフリーエラストマー、あるいはこれらを含有する各種プラスチックからなる被覆でも、確実に止水処理できる。
【0024】
保持部材30A及び30Bの少なくとも一方の電線収納溝30a及び接合面30bは、図2に示すように、緩衝材30dで被覆されていることが好ましく、両方の電線収納溝30a及び接合面30bが、緩衝材30dで被覆されていることがより好ましい。このように、緩衝材30dを介して保持部材30A及び30Bを接合させることで、一層高い気密性で電線20を圧着保持できる。
この場合、電線収納溝30aの大きさは、緩衝材30dの厚さを考慮して大きめに設定すれば良い。
緩衝材30dは、密封パッキン14と同様の材質のものが好ましい。また、緩衝材30dの厚さは、電線20の圧着度を低下させない範囲で適宜調整すれば良い。
【0025】
なお、緩衝材30dを使用する場合には、その接合面に電線収納溝30aに相当する溝を形成して、保持部材30A又は30Bには、電線収納溝30aを設けないようにしても良い(図示略)。いずれの形態を採用するかは、電線の外径や緩衝材30の厚さ等に応じて、適宜選択すれば良い。
【0026】
電線保持部材30は、例えば、その長手方向の端面30cが、耐圧性容器11の内壁面、すなわち本体12の内壁面12a、及び蓋体13の内壁面13aに接した状態でも良いし、これら内壁面から離間して配置されても良い。内壁面に接した状態とする時は、接着剤等で内壁面に固定化しても良い。
【0027】
図1では、電線保持部材30が耐圧性容器11の内部(加圧室)に設けられた例を示したが、電線保持部材は、電線20の封止端末側が少なくとも耐圧性容器の内部に突出するように、耐圧性容器の壁部に貫設されていても良い。図3は、このような耐圧性容器の電線保持部材が設けられた部位を例示する概略図であり、(a)は耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は正面図である。なお、図3おいて、図1に示した実施形態の構成要素と同じ構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。これは、さらに以降の図においても同様である。
【0028】
図3に示す耐圧性容器11’は、本体12’及び蓋体13’からなる。そして、本体12’及び蓋体13’は、二つの密封パッキン14’を介して接合されるようになっている。また、本体12’には凹部12e’が、蓋体13’ には凹部13e’がそれぞれ形成されており、密封パッキン14’には湾曲部14e’が形成されている。そして、本体12’及び蓋体13’を接合させた時に、凹部12e’及び13e’に沿って湾曲部14e’が配置されるように位置合わせされている。さらに、二つの湾曲部14e’の間に、電線保持部材30が密着して配置されている。
また、電線保持部材30は、図2に示したように、電線収納溝及び接合面が緩衝材30dで被覆されており、電線20が高い気密性で圧着保持されると同時に、耐圧性容器11’の内部の密閉性が確保されている。
【0029】
電線保持部材30を耐圧性容器の壁部に貫設する場合には、凹部12e’及び凹部13e’を形成せず、密封パッキンの厚さを厚めにして、これに湾曲部14e’を形成するだけでも良い(図示略)。いずれの形態を採用するかは、電線の外径や密封パッキンの厚さ等に応じて、適宜選択すれば良い。
【0030】
耐圧性容器11’は、上記の点以外は、図1に示す耐圧性容器11と同様である。
【0031】
図1〜3では、電線保持部材として、2つの保持部材30A、30Bに分割可能に構成された電線保持部材30を使用した例について説明したが、電線保持部材は、分割可能でなくても良い。
図4は、このような電線保持部材30’を例示する概略図であり、長手方向の中心軸を通る平面における断面図である。
【0032】
ここに示す電線保持部材30’は、前記電線保持部材30と同様に、外形が柱状をなすが、一体に形成されており、その長手方向の中心線に沿って、電線20を挿通するための電線収納溝30a’が形成されている。電線保持部材30’は分割できないので、電線20を圧着保持するためには、電線20を、端子部21装着前に電線収納溝30a’に挿通する必要がある。そこで、電線保持部材30’は、電線20の挿通を容易とするために、長手方向の一方の端部近傍においては、電線収納溝30a’の内径Xが、端部に向けて拡大されていることが好ましく、テーパ状とされていることがより好ましい。このようにすることで、電線20の端末20aが電線収納溝30a’の壁面にガイドされて、電線20の挿通が容易となる。内径Xを拡大するのは、電線保持部材30’の両端部のうち、電線20の挿通方向に応じていずれの近傍でも良い。
【0033】
電線収納溝30a’は、内径Xが拡大している部位以外の長手方向の長さYを、十分な止水効果が得られる硬化性樹脂液の充填長が得られるように設定する必要がある。具体的には、電線収納溝30aの長手方向の長さLと同様に調整すれば良い。
【0034】
電線収納溝30a’は、その表面が緩衝材で被覆されていても良い(図示略)。この場合、前記内径Xは、緩衝材の厚さを考慮して大きめに設定すれば良い。緩衝材の材質は、図2における緩衝材30dの材質と同様で良い。
【0035】
電線保持部材30’は、例えば、図1に示す電線保持部材30と同様に使用でき、耐圧性容器の内部(加圧室)に設けても良いし、耐圧性容器の壁部に貫設しても良い。
電線保持部材30’を耐圧性容器の壁部に貫設する場合には、耐圧性容器内の気密性を維持するために、上記のように電線収納溝30a’の表面を緩衝材で被覆する必要がある。
【0036】
図1〜4では、電線保持部材を耐圧性容器とは別途に、独立して設けることが可能な例を示したが、本発明においては、耐圧性容器を、その一部が電線保持部を兼ねるものとしても良い。
図5は、このような耐圧性容器の電線保持部を例示する概略図であり、(a)は耐圧性容器の深さ方向に垂直な断面図、(b)は正面図である。
【0037】
ここに示す耐圧性容器11”は、本体12”及び蓋体13”からなる。そして、本体12”及び蓋体13”は、二つの緩衝材30d”を介して接合されるようになっている。
耐圧性容器11”は、電線20を挿通させる壁部が肉厚になっており、本体12”及び蓋体13”の接合部が電線保持部30”となっている。
【0038】
本体12”の接合面12f”、及び蓋体13”の接合面13f”には、それぞれその幅方向(電線20の挿通方向)に、凹部12e”及び凹部13e”が形成されており、二つの緩衝材30d”には、それぞれその幅方向(電線20の挿通方向)に、電線収納溝30a”が形成されている。そして、本体12”及び蓋体13”を接合させた時に、凹部12e”及び13e”に沿って電線収納溝30a”が配置されるように位置合わせされている。さらに、それぞれの電線収納溝30a”同士が合わせられて、緩衝材30d”の幅方向(電線20の挿通方向)に1つの貫通孔を形成するようになっている。そして、電線収納溝30a”に電線20を収納して、電線20のうち少なくとも硬化性樹脂液の圧入部を、その外周から高い気密性で圧着保持できる。
このように、緩衝材30d”の電線収納溝30a”が形成されている接合面12f”及び接合面13f”は、これらの接合時において、電線20の圧着保持面として機能する。そして、凹部12e”及び13e”、並びに二つの電線収納溝30a”が、電線保持部30”を構成している。そして、電線保持部30”により、電線20が高い気密性で圧着保持されると同時に、耐圧性容器11”の内部の密閉性が確保されている。
【0039】
電線収納溝30a”の長さZは、十分な止水効果が得られる硬化性樹脂液の充填長が得られるように設定すれば良く、電線収納溝30aの長手方向の長さLと同様に調整すれば良い。
【0040】
上記のように、耐圧性容器の壁部に電線保持部を設ける場合には、凹部12e”及び13e”を形成せず、緩衝材30d”の厚さを厚めにして、これに電線収納溝30a” を形成するだけでも良い(図示略)。いずれの形態を採用するかは、電線の外径や緩衝材の厚さ等に応じて、適宜選択すれば良い。
【0041】
耐圧性容器11”は、上記の点以外は、図1に示す耐圧性容器11と同様である。
【0042】
次に、本発明の止水処理装置を使用した電線端末の止水処理方法を説明する。ここでは、図1に示す止水処理装置10を使用した例について説明するが、その他の形態の止水処理装置の場合も、同様に止水処理できる。
まず、被覆を除去した端末部分に端子部21が圧着された電線20を用意する。
次いで、耐圧性容器11内に端子部21が入るように、本体12内に複数の電線20を並べて配置するとともに、本体12の開口部に配置した密封パッキン14の孔14aに、端子部21が設けられている端末部分とは反対側の端末から電線20を挿通する。
【0043】
また、これに伴って、耐圧性容器11内に配置した電線20の端子部21を除く部分(電線20の端子部21の近傍)を、保持部材30Aの電線収納溝30aに収納する。その後、保持部材30Bの電線収納溝30aに電線20を収納するとともに、2つの保持部材30A、30Bを、それぞれの接合面30bで接合させて、耐圧性容器11内に配置した電線20の端子部21を除く部分(電線20の端子部21の近傍、すなわち硬化性樹脂液の圧入部)を、その外周から電線保持部材30で圧着保持する。
【0044】
なお、電線20の端子部21を除く部分を、その外周から電線保持部材30で圧着保持するとは、電線20の素線と被覆の密着状態が、常に保たれる程度の強度で保持することを言う。
【0045】
次いで、端子部21における電線20に圧着されている部分(端末)に対して、電線端末部分に適した流動性(粘度)を有した硬化性樹脂液を適量滴下する。
次いで、固定機構により、密封パッキン14を介して本体12に蓋体13を固定し、耐圧性容器11を密閉した後、加圧ガス流路15に設けられたバルブを開け、ガス供給源から耐圧性容器11内に圧縮ガスを導入して、電線20の端末を等方加圧する。なお、加圧は必ずしも等方加圧でなくても良い。
【0046】
この時、レギュレータによりガス供給源からの圧縮ガスの圧力を、所定の圧力に調整して、耐圧性容器11内に所定の圧力の圧縮ガスを供給する。
次いで、この等方加圧によって硬化性樹脂液が電線端部に所定長さ充填(圧入)された後、硬化性樹脂液を硬化させ、端部が充填樹脂により止水処理された電線を得る。
なお、硬化性樹脂液の硬化方法は、使用する硬化性樹脂液の種類に応じて適宜選択される。
【0047】
また、硬化性樹脂液の種類に応じて、耐圧性容器11から電線端部に硬化性樹脂液が充填された電線20の端子部21を取り出してから、硬化性樹脂液を硬化するか、あるいは、その端子部21を耐圧性容器11内に配置したまま、硬化性樹脂液を硬化する。
【0048】
硬化性樹脂液の粘度は、0.6Pa・s〜60Pa・s(=600mPa・s〜60000mPa・s)の範囲であることが好ましく、600mPa・s〜1000mPa・sであることがより好ましい。
硬化性樹脂液の粘度が0.6Pa・s未満では、上記の等方加圧によって、この硬化性樹脂液が電線端部に充填され易くなるものの、流動性が高すぎて、電線端部に留まらずに外部に流出し、電線端末に所望の止水構造を形成できないことがある。一方、硬化性樹脂液の粘度が60Pa・sを超えると、上記の等方加圧によって、この硬化性樹脂液を電線端部に十分に充填することができずに、電線端末に所望の止水構造を形成できないことがある。
【0049】
硬化性樹脂液としては、例えば、一液縮合反応型のシリコーンゴム、二液縮合反応型のシリコーンゴム、熱硬化型のシリコーンゴム、紫外線硬化型のシリコーンゴム等が例示できる。
電線端末を等方加圧する際の圧力は、0.1〜0.5MPaであることが好ましく、0.3〜0.5MPaであることがより好ましい。
電線端末を等方加圧する際の圧力が0.1MPa未満では、硬化性樹脂液を電線端部に十分に充填することができずに、電線端末に所望の止水構造を形成できないことがある。一方、電線端末を等方加圧する際の圧力が0.5MPaを超えても、それ以下の圧力の場合と比較して、電線端部への硬化性樹脂液の充填性(充填長)が向上しない。
【0050】
なお、ガス供給源から耐圧性容器11内に圧縮ガスを導入して、電線20の端末を等方加圧するとは、ガス供給源から耐圧性容器11内に導入した圧縮ガスによって、耐圧性容器11内の圧力が均一になるように加圧することを言う。耐圧性容器11内の圧力を均一にすることにより、電線20の端末が全ての方向から均一に加圧(等方加圧)され、電線20の端子部21に滴下した硬化性樹脂液が、電線端部に充填される。
【0051】
電線端末を等方加圧する時間(加圧時間)は、硬化性樹脂液の粘度、電線端末を等方加圧する際の圧力などに応じて適宜調整される。
さらに、耐圧性容器11内に導入される圧縮ガスは、硬化性樹脂液の種類、すなわち、硬化条件に応じて適宜調整することが好ましい。
【0052】
例えば、硬化性樹脂液として一液縮合反応型のシリコーンゴムを用いる場合、圧縮ガスとしては、窒素(N)、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、空気、好ましくは加湿されたガスなどを用いて、耐圧性容器11内を一液縮合反応型のシリコーンゴムの硬化に適した雰囲気とすることが好ましい。
また、硬化性樹脂液として二液縮合反応型のシリコーンゴムを用いる場合、圧縮ガスとしては、窒素(N)、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、空気などを用いて、耐圧性容器11内を二液縮合反応型のシリコーンゴムの硬化に適した雰囲気とすることが好ましい。
【0053】
また、硬化性樹脂液として熱硬化型のシリコーンゴムを用いる場合、圧縮ガスとしては、窒素(N)、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、空気などを用いて、耐圧性容器11内を熱硬化型のシリコーンゴムの硬化に適した雰囲気とすることが好ましい。
このようにすれば、硬化性樹脂液を短時間で硬化させることができる。
また、硬化性樹脂液の粘度、電線端末を等方加圧する際の圧力、および、電線端末を等方加圧する時間を調整することにより、硬化性樹脂液を電線端部に充填する長さ(充填長)、すなわち、止水構造の長さを調整できる。
【0054】
より詳細には、止水構造の長さを長くする場合、(A)電線端末を等方加圧する際の圧力を高くする、(B)加圧時間を長くする、(C)粘度の低い硬化性樹脂液を用いる、という3つの方法から1つまたは2つ以上の方法を選択することが好ましい。
一方、止水構造の長さを短くする場合、(a)電線端末を等方加圧する際の圧力を低くする、(b)加圧時間を短くする、(c)粘度の高い硬化性樹脂液を用いる、という3つの方法から1つまたは2つ以上の方法を選択することが好ましい。
【0055】
図3に示すような、電線保持部材が耐圧性容器の壁部に貫設された止水処理装置を使用する場合には、密封パッキン14’を介して、電線を圧着保持した電線保持部材を挟むように、本体に蓋体を固定して耐圧性容器を密封すること以外は、図1に示す止水処理装置を使用する場合と同様に、止水処理すれば良い。
【0056】
図4に示すような、分割可能でない電線保持部材30’を使用する場合の止水処理方法は、例えば、以下に示す通りである。
電線保持部材30’を図1に示す形態で使用する場合には、まず、電線保持部材30’の電線収納溝30a’のうち、内径Xが拡大されている側から電線20を挿通し、電線20が電線保持部材30’で圧着された状態とする。次いで、電線保持部材30’から突出させた電線20の端末で被覆を除去し、端子部21を圧着する。
次いで、耐圧性容器11内に端子部21が入るように、本体12内に複数の電線20を並べて配置するとともに、密封パッキン14の孔14aに、端子部21が設けられている端末部分とは反対側の端末から電線20を挿通する。
次いで、端子部21における電線20に圧着されている部分(端末)に対して、電線端末部分に硬化性樹脂液を適量滴下する。
以下、図1に示す止水処理装置を使用する場合と同様に、止水処理すれば良い。
【0057】
電線保持部材30’を図3に示す形態で使用する場合には、上記と同様の手順で電線20の端末に端子部21を圧着した後、密封パッキン14’を介して、電線を圧着保持した電線保持部材を挟むように、本体に蓋体を固定して耐圧性容器を密封すれば良い。
【0058】
図5に示すような、壁部に電線保持部30”が設けられた耐圧性容器11”を使用する場合の止水処理方法は、例えば、以下に示す通りである。
まず、被覆を除去した端末部分に端子部21が圧着された電線20を用意し、耐圧性容器11内に端子部21が入るように、本体12内に複数の電線20を並べて配置する。
次いで、端子部21における電線20に圧着されている部分(端末)に対して、電線端末部分に適した流動性(粘度)を有した硬化性樹脂液を適量滴下する。そして、電線20の端子部21を除く部分(電線20の端子部21の近傍)を、一方の緩衝材30d” の電線収納溝30a”に収納し、他方の電線収納溝30a”にも収納するようにして、二つの緩衝材30d”を接合させ、電線20を二つの緩衝材30d”で挟持する。そして、凹部12e”及び13e”に沿って電線収納溝30a”が配置されるように位置合わせをして、本体12”及び蓋体13”を、それぞれの接合面12f”及び13f”で接合させて、耐圧性容器11”内に配置した電線20の端子部21を除く部分(電線20の端子部21の近傍)を、その外周から二つの緩衝材30d”で圧着保持する。次いで、電線20の端末を等方加圧する。
以下、図1に示す止水処理装置を使用する場合と同様に、止水処理すれば良い。
【0059】
前記止水処理方法では、電線端末に硬化性樹脂液を接触させた状態で、この電線端末を等方加圧して前記硬化性樹脂液を電線内部に圧入し、硬化させて、電線端末に止水構造を形成する。
硬化性樹脂液を電線の導体素線間や、被覆と素線との隙間へ浸透させることは、時間をかければ、毛細管現象を利用することでも可能である。例えば、図6に示すようなディメンションの導体素線間に、毛細管現象により樹脂液を浸透させた場合の浸透長は、表面張力と重力との釣り合いから以下の式(1)で表される。
h=(l・T・cosθ)/(s・ρ・g) ・・・(1)
式(1)中、hは毛細管現象による樹脂液の浸透高さ、lは素線に接している樹脂液の周囲長、Tは素線に接している樹脂液の表面張力、θは素線と樹脂との接触角、sは素線間面積、ρは樹脂の密度、gは重力をそれぞれ表す。
【0060】
前記式(1)において、素線外径rを用いてsとlを除くと、以下の式(2)になる。
h=4πTcosθ/{(2√3−π)ρgr} ・・・(2)
例えば、硬化性樹脂液としてジメチルシリコーンのT(=0.021N/m)、θ(=0.262rad)およびρ(=980kg/m)と、素線の外径r(=0.798mm)を前記式(2)に代入すると、h=26cm程度になる。電線端末から26cmあれば、電線端部の止水構造としては十分である。
【0061】
減圧や加圧が必要である理由は、電線端末に止水構造を形成する場合の工程時間を短くするため、つまり、硬化性樹脂液の浸透速度を高くするためである。前記のh=26cmの場合には、浸透させる時間が考慮されていない。
硬化性樹脂液のような粘性液体は、管路を進行する速度が電線端末に硬化性樹脂液を圧入する空間(耐圧性容器)の内部と外部との圧力差に依存する。つまり、この圧力差が大きければ大きいほど、管路内に粘性液体を短時間で浸透させることができる。
【0062】
この考え方は、ニュートン流体を仮定した場合、毛細管型の粘度計から容易に導くことができる。毛細管型粘度計での粘度測定は、下記の式(3)により求められる。
η=π・R・ΔP/(8L・Q) ・・・(3)
式(3)中、ηは見かけの(測定値として出てくる)粘度、Rは毛細管の半径、ΔPは電線端末に硬化性樹脂液を圧入する空間(耐圧性容器)の内部と外部との圧力差、Lは毛細管長(ある時間内に樹脂が進んだ管路長)、Qは流束(単位時間で通過する樹脂の体積=樹脂の進む速度)をそれぞれ表す。
【0063】
前記式(3)を変形すると、下記式(4)のようになり、ニュートン流体では速度が圧力差ΔPに比例する。
Q=(π・R)/(8L・η)・ΔP ・・・(4)
実際には、硬化性樹脂液は非ニュートン流体であり、かつ、電線の導体素線間の形状は円筒形キャピラリーでないので、前記式(4)から外れる。しかしながら、その場合にも、樹脂が進む速度と、電線端末に硬化性樹脂液を圧入する空間(耐圧性容器)の内部及び外部間の圧力差との間には、正の相関関係があると容易に推定できる。
【0064】
減圧の場合、圧力差は大気圧(およそ0.1MPa)分しかないのに対し、加圧の場合には、圧力差をそれ以上(0.1MPa以上)に設定することが可能である。よって、硬化性樹脂液を電線端部内に浸透させるとき、減圧よりも加圧の方が有利であることがわかる。
【0065】
また、前記式(3)、(4)から、樹脂の進む速度は、樹脂の粘度に反比例している。つまり、樹脂液が低粘度であるほど同じ圧力差で流速が高くなることがわかる。つまり、低粘度の樹脂液を使用できれば、減圧方式でも十分となる。しかし、換言すれば、低粘度で止水剤としての用途に適した硬化性樹脂液が無ければ、減圧方式では止水処理ができないことになる。このように、止水剤の選択の自由度が広がるという観点からも、加圧方式の方が有利と言える。
【0066】
本発明によれば、耐圧性容器内に配置した電線端末を、前記電線保持部材や電線保持部等の電線保持手段で、外周から圧着保持することで、耐圧性容器内に供給した圧縮ガスが、電線の素線と被覆との間に侵入して、被覆が膨張し、素線から剥離することを効果的に防止できる。その結果、電線端末を確実に止水処理できる。
また、電線長によらず、電線端末に一定長さの止水構造を簡単に形成できる。
また、電線端末を加圧することで、硬化性樹脂液を短時間で充填でき、高粘度な硬化性樹脂液も充填できる。
また、電線端末を加圧する場合には、雰囲気を硬化性樹脂液の硬化し易い条件に調整できるため、硬化性樹脂液を短時間で硬化させることができる。
【符号の説明】
【0067】
10・・・止水処理装置、11,11’,11”・・・耐圧性容器、12f”・・・耐圧性容器本体の接合面,13f”・・・耐圧性容器蓋体の接合面、20・・・電線、30,30’・・・電線保持部材,30”・・・電線保持部、30A,30B・・・保持部材、30b・・・接合面(分割面)、30d,30d”・・・緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂液が接触している電線端末を加圧して、前記硬化性樹脂液を前記電線内部に圧入及び硬化させ、前記電線端末を止水処理するための装置であって、
前記電線端末を加圧するための耐圧性容器を備え、
該耐圧性容器には、前記電線のうち、前記硬化性樹脂液の圧入部を、外周から圧着保持する電線保持手段が設けられたことを特徴とする止水処理装置。
【請求項2】
前記電線保持手段が、前記耐圧性容器に対して独立して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の止水処理装置。
【請求項3】
前記耐圧性容器の肉厚の壁部が前記電線保持手段とされていることを特徴とする請求項1に記載の止水処理装置。
【請求項4】
前記電線保持手段が二つの部材に分割可能とされ、これら部材の分割面が、その接合時において前記電線の圧着保持面となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の止水処理装置。
【請求項5】
少なくとも一方の前記分割面が緩衝材で被覆されていることを特徴とする請求項4に記載の止水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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