説明

止血および他の生理学的活性を促進するための組成物および方法

【課題】血液、間質液および脳脊髄液などの体液の漏出をより良好に抑制するための方法および組成物の提供。
【解決手段】ナノスケール構造体物質またはその前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)を含む組成物を記載する。該組成物は、他の物質(例えば、血管収縮薬)を含むものであり得る。また、止血を促進するため、皮膚または創傷を汚染から保護するため、以前に適用された組成物の除去時に保護コーティングが設けられた部位を消毒するため、および血液以外の生体物質の移動を抑制するために該組成物を使用する方法を記載する。該組成物はまた、組織の単離、組織の除去、組織の保存(例えば、後の移植または再付着のため)において、および充填剤、安定化剤または水和剤として有用である。該組成物を含む医療用器具(例えば、ステントもしくはカテーテル)、包帯または他の創傷被覆材、縫合糸、および該組成物を含むキットもまた記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年4月25日に出願された米国出願第60/674,612号および2006年1月13日に出願された米国出願第60/758,827号の利益を主張する。本出願から発行され得るあらゆる米国特許の目的のために、これらの先行する出願は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
(米国政府の支援)
米国政府により、本発明の開発に利用される助成金補助(米国立衛生研究所の助成金番号EY00126)が提供された。したがって、米国政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
血液製品が利用可能であるにもかかわらず、失血は罹病率および死亡率の主な原因である。失血の原因は数多くあり、重症な損傷および臨床状態、例えば、動脈瘤の破裂、食道または胃の潰瘍および食道の静脈瘤などが挙げられる。主要な動脈の完全性が失われると急速に死に至ることになり得、特に、医療ケアが早急な利用手段がない状況では、そのような事態が起こる。
【0004】
手術の際の出血は、多くの場合、大きな懸念事項である。失血は患者に対して無数の問題を引き起こし得るとともに、望ましくない位置における血液の存在は、正常組織に対して有害であり得るか、または手術野に対する外科医の視界を妨げ得る。血液を除去し、出血を抑制状態に至らせる間、手術を遅滞させなければならない。出血は、低侵襲手術(例えば、腹腔鏡手術)中でさえ問題となり得る。出血が充分に抑制され得ない場合、場合によっては、外科医は、このような好ましい手順を伝統的な切開術(open surgery)に切り替えなければならない。
【0005】
出血はまた、動脈、静脈またはより小さな血管内への内視鏡の経皮的導入を伴う診断手順および介入手順においても問題となり得る。例えば、冠動脈血管形成術、血管造影、粥腫切除術および動脈へのステント留置などの処置は、多くの場合、大腿動脈などの血管内に配置したカテーテルを介した脈管構造への侵入を伴う。該処置が完了したら、カテーテルまたは他の器具を取り出し、穿刺された血管からの出血を抑制しなければならない。
【0006】
このような状況のいずれかにおいて出血を抑制するための選択肢は限定されている。最も古い方法の1つに、直接血管または血管の外面の身体のいずれかに対する圧力の負荷が挙げられる。圧力は、出血が抑制状態になるまで維持されなければならない。この処置は時間がかかり、不便であり、患者には血腫のリスクがかかる。他の物理的方法としては、鉗子、クリップ、止血用脱脂綿(plug)、スポンジなどの使用が挙げられる。これらの器具は、その有効性が限定的であり、特に、出血している小血管が多く存在する場合は、適用するのが煩雑であり得る。血液の凝固および出血している血管の焼灼のための熱の使用は、手術の際に広く利用されているが、これは、側副(collateral)組織に損傷がもたらされ得る破壊的な処置である。さらにまた、このような方法には設備や専門技術が必要とされ、したがって医療現場外部での使用に適さない。熱および機械器具類に加え、さまざまな化合物が止血を促進するために使用されているが、これらはいずれも理想的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、血液、間質液および脳脊髄液などの体液の漏出をより良好に抑制するための方法および組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、さまざまな様式、例えば、包帯、スプレー剤、コーティングまたは散剤などに処方されたかかる組成物を提供することである。
【0009】
本発明のまたさらなる目的は、体液の漏出を抑制するために使用され得るが、医師が該物質を通して見たり作業したりできる充分に透明な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
親水性モノマーと疎水性モノマーを交互に有し、生理学的条件でこれらが自己集合することが可能なペプチドを含む組成物を、創傷への適用のために処方する。任意の所与の処方物における自己集合性(self−assembling)ペプチドの濃度は種々であり得、ほぼ0.1%(1mg/ml)〜10%(100mg/ml)(両端を含む)であり得る。例えば、自己集合性ペプチドの濃度(例えば、液状処方物中)は、ほぼ0.1〜3.0%(1〜30mg/ml)(例えば、0.1〜1.0%;1.0〜2.0%;2.0〜3.0%または1.0〜3.0%)であり得る。自己集合性ペプチドの濃度は、ストック溶液中、および固形(例えば、粉末状)の処方物においては、より高いことがあり得る。固形調製物は、100%に近い自己集合性ペプチド濃度を有するものであり得る(例えば、自己集合性ペプチドの濃度は、該組成物の95、96、97、98、99%またはそれ以上(例えば、99.99%)であり得る)。液状形態であろうと固形形態であろうと、該ペプチドは使用前に、希釈剤(例えば、水(例えば、脱イオン水))、充填剤または油の添加によって所望の濃度にされ得る。
【0011】
処方物は薬学的に許容され得る担体を含むものであるか、または医療用器具もしくはコーティングの一部として提供される。また、処方物は、他の治療剤、予防剤または診断剤を含むものであり得る。これらは、抗炎症薬、血管作用剤、抗感染薬、麻酔薬、増殖因子および/または細胞であり得る。金属をキレート化剤として、または付着を低減するために添加してもよい。一実施形態において、処方物は、乾燥粉末または凍結乾燥粉末として提供され、散剤もしくは錠剤、ディスクまたはオブラートとして直接投与され得(これらは、適用部位で水和されるか、または液体(最も好ましくは水性)中に懸濁もしくは溶解させる)、また、キチン、コラーゲン、アルギン酸塩もしくは合成ポリマーなどの物質を含むスプレー剤、塗布剤(paint)または注射剤もしくはヒドロゲルとして適用され得る。別の実施形態において、該物質は油との組合せで提供され、積層体を形成する。別の実施形態において、処方物は、器具(例えば、ステントまたはカテーテル)上のコーティングとして提供され、自己集合性ペプチドを水溶液中に溶解して器具上で乾燥させることにより適用され得るか、またはポリマー担体と混合して器具上に適用され得る。また別の実施形態において、処方物は、包帯、気泡またはマトリクスにて提供され、このとき、該ペプチドは分散されているか、または吸収されているかであり得る。また、処方物は、縫合糸、テープもしくは接着剤の形態であり得るか、または汚染を防止するために外科用無菌布などの材料に適用され得る。該材料はまた、例えば特定の組織または腫瘍の除去の際に組織を分離するため、目または肺において出血(出血熱に対する応答の場合など)を抑制するため、後の移植または再付着用の組織の保存のため、および増量剤、安定化剤または水和剤として有用である。記載のように、該材料は、腫瘍の除去、例えば、その大きさ(ヘパトームの場合などに起こり得る)、硬さまたは位置(例えば、聴神経腫)のために切除することが困難な腫瘍の除去を容易にするために使用され得る。該方法は、処置を必要とする患者(例えば、ヒト患者)を特定すること、および自己集合性ペプチドを含む組成物を腫瘍付近に提供することを含み得る。該組成物の使用量およびその中のペプチドの濃度は、該組成物がゲル状もしくは半固形コーティングまたは腫瘍、その一部分もしくはその細胞周囲に外被を形成するのに充分なものである。次いで、外科医は、腫瘍(またはその同定部分)の周囲のゲルを通して切開し、ゲルに覆われた腫瘍、その一部分もしくは腫瘍細胞を取り出す。
【0012】
ある特定の実施形態において、該材料は、血液を溶解せずに血小板凝集を抑制するため、血液安定剤において有用であり得る。別の実施形態において、該材料は、自己集合に不充分な濃度で、血液を保存するために使用され得る。
【0013】
本明細書に記載の組成物の1種類以上をキット内に、使用のための取扱い説明書とともに一体化させ得る。例えば、キットは、自己集合性ペプチド(もしくはその濃縮溶液あるいは粉末化処方物を希釈剤と一緒に)ならびに血管収縮薬、着色剤および/または鎮痛剤もしくは麻酔剤を含む生体適合性組成物と、その組合せ(もし事前に合わされていない場合)および使用(例えば、希釈や投与)のための取扱い説明書を含むものであり得る。キットは、本明細書に記載のさらなる薬剤の1種類以上をさらに含むものであり得る。このような薬剤は、ペプチド系組成物内に存在させてもよく、別々にパッケージしてもよく、これらとしては、1種類以上の生体細胞型、抗菌薬(例えば、抗生物質)もしくは他の治療薬、コラーゲン、抗炎症剤、増殖因子または栄養素が挙げられ得る。また、キットは、シリンジ、ニードル、ピペット、ガーゼ、スポンジ、コットン、綿棒、包帯、鼻血栓、消毒薬、外科用糸、ハサミ、メス、滅菌液、スプレー剤キャニスター(例えば、液状の液体が簡単な手動ポンプによって噴霧されるもの)、滅菌容器または使い捨て手袋の1つ以上を含むものであり得る。
【0014】
本文中、特に記載のない限り、用語「組成物(1種類または複数種)」、「材料(1種類または複数種)」および「処方物(1種類または複数種)」は、互換的に用いられることが意図される。
【0015】
該処方物は、適宜、1種類以上の障害または状態の処置のために投与され得る。例えば、処方物は、損傷を修復するため、または例えば、肺、目もしくは硬膜の手術の際に、あるいは硬膜外もしくは脊椎の穿刺の後に、血液、間質液もしくは脳脊髄液の漏出を抑止するために適用され得る。処方物は、特に、麻酔薬、抗炎症薬、増殖因子および抗感染薬とともに気泡、マトリクスまたは包帯の形態で処方される場合、出血(任意のかかる抑制は止血の促進として示され得る)または間質液の損失を抑止するために、火傷または潰瘍に投与され得る。処方物は、創傷の縫合または接着時、またはその後に放出されるときに投与されるように、縫合糸または接着剤内に含めてもよく(例えば、内部に分散させるか、または上面にコーティングする)、それにより、出血、組織液または肝臓、膵臓および胃腸管などの実質組織によって生成されるものなどの他の液の損失が制限される。処方物は、任意の出血部位に、包帯、ガーゼ、スポンジもしくは直接出血を抑制するための他の材料において適用され得るか、または縫合もしくは圧迫などの初期処置が不充分な場合は、出血を抑制するために後で放出させ得る。該処方物を含む乾燥布、脱水気泡もしくはヒドロゲルまたは包帯は、例えば、戦争において、事故現場で、または迅速な処置が必要とされ得、保存空間が限定的である臨床現場での負傷の処置のための応急処置用品の一部であり得る。包帯または被覆材を特徴とする実施形態において、包帯または被覆材は、創傷またはその実質的な部分(例えば、最も負傷した組織部分または最もひどい出血領域)を覆うのに充分な形状および大きさの第1の層を含むものであり得る。第1の層は、上面、底面、および任意選択で接着剤により全体または一部が覆われた境界部を有し得る。包帯または被覆材の第2の層は、着脱可能に第1の層の底面に固定し、任意選択で、接着剤を有する境界部または該境界部の任意の部分を除いてもよく、自己集合性ペプチドを含む液状または非液状の組成物(例えば、ゲル、ペースト、気泡、クリーム、軟膏、粉末状組成物およびオブラートまたはディスク(disk))を含んでいてもよい。該組成物は、包帯または被覆材が適用されると創傷と接触し、第1の層または第1および第2の層が除かれると、包帯または被覆材から創傷部位に移行可能である。より簡単な構成では、自己集合性分子を含む組成物は、第1の層の底部(例えば、接着剤境界部に対して内部)に結合させ、第2の層を省略し得る。いずれの場合も、第1および/または第2の層のいずれかが透明な窓を含み得、それを通しても下側にある創傷の一部または全部が見える。自己集合性薬剤(1種類または複数種)を含む組成物は包帯に、包装される前、または使用直前に添加され得る。別の実施形態において、該処方物は、さらなる物理的バリア、例えば、液の活発な流れが処方物の適用によって抑止された後の乾燥による液の損失を抑制するためのシリコン膜の層などを含むものであり得る。処方物はまた、ヒドロゲル、油を含む積層体またはスプレー剤として適用され得る。
【0016】
液状処方物は、自己集合性ペプチドを含む組成物を入れたバレルと、該組成物をシリンジまたはピペット開口先端から噴出させるための手段(例えば、プランジャーまたは弁)とを有するシリンジまたはピペットにて提供され得る。シリンジは、自己集合性ペプチドと1種類以上他の薬剤の混合が適用時に行なわれるように1つ以上の区画からなるものであり得る。また、該区画は、賦形剤、例えばヒドロゲルまたは接着剤を形成する材料などを一方の区画内に、および自己集合性ペプチドを他方の区画内に(それぞれ、第1および第2の区画)含み得る。別の実施形態において、区画の1つ(第1の区画)は、凍結乾燥された自己集合性ペプチドまたは自己集合性ペプチド粒子を入れたものであり得、別の区画(第2の区画)は、該ペプチドを溶解または水和させるための溶液を入れたものであり得る。バレル内の組成物は、治療剤、予防剤もしくは診断剤または着色剤、あるいは本発明に記載の任意の他の非線維性因子をさらに含むものであり得る。シリンジの区画は、各区画内の組成物、材料または処方物の同時の分注および混合が可能となるように共通の末端でy字型接合部により接合されたものであり得、プランジャーまたは組成物を噴出させるための他の器具も該区画が収容されるように適切に構成され得る。
【0017】
本発明は、形態に関係なく、医薬の調製における自己集合性ペプチドを含む組成物および自己集合性ペプチド系組成物の使用を包含する。
【0018】
本発明は、形態に関係なく、例えば:止血の促進;皮膚またはその内部の創傷の汚染からの保護;部位の消毒(以前に適用された組成物の除去時に行なわれ得る);組織治癒の促進(例えば、中枢神経系の外面の組織);細胞および/または薬物の送達;血液以外の生体(bodily)物質(本明細書において上記)の移動の抑制;組織の単離;組織の除去;組織の保存(例えば、後に患者への移植または再付着のため);血管ステントへの適用;包帯または他の被覆材への適用;人工皮膚内への組込み;美容的および再構築的組織操作;ならびに充填剤、安定化剤または水和剤の調製のための医薬の調製における自己集合性ペプチドを含む組成物および自己集合性ペプチド系組成物の使用を包含する。
例えば、本願発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
必要部位に投与された場合、体液の移動を抑制もしくは制限するか、組織もしくは細胞を安定化するか、または汚染を抑制するのに有効な量の自己集合性ペプチドを含む処方物。
(項目2)
身体上もしくは体内への投与のための薬学的に許容され得る担体および/または非線維性因子をさらに含む、項目1に記載の処方物。
(項目3)
前記処方物が、乾燥粉末、オブラート、ディスク、錠剤、カプセル、液体、ゲル、クリーム、気泡、軟膏、乳剤、ステント、カテーテルもしくは他の医療用インプラント上のコーティング、微粒子内に組み込まれたペプチド、ポリマーマトリクス、ヒドロゲル、織物、包帯、縫合糸またはスポンジを含む、項目2に記載の処方物。
(項目4)
前記自己集合性ペプチドを含む処方物が第1の保存または投与手段に提供され、前記薬学的に許容され得る担体が第2の保存または投与手段に提供される、項目2に記載の処方物。
(項目5)
前記自己集合性ペプチドが、式I〜IV:
(化1)



の1つ以上に従うアミノ酸残基の配列を含み、ここで、Xaaneuは、電荷を持たないアミノ酸残基を表し;Xaaは、正の電荷を有するアミノ酸残基を表し;Xaaは、負の電荷を有するアミノ酸残基を表し;xおよびyは独立して、1、2または4の値の整数であり;そしてnは、1〜5の値の整数である、
項目1に記載の処方物。
(項目6)
前記自己集合性ペプチドが、式IIIまたは式IVに従うアミノ酸残基の配列を含む、項目5に記載の処方物。
(項目7)
Xaaneuがアラニンを表し;Xaaがアルギニンまたはリシンを表し;そしてXaaがアスパラギン酸またはグルタミン酸を表す、項目5に記載の処方物。
(項目8)
前記組成物が、アミノ酸配列RADARADARADAを含む自己集合性ペプチドを含む、項目5に記載の処方物。
(項目9)
前記アミノ酸残基が天然に存在するアミノ酸残基である、項目5に記載の処方物。
(項目10)
自己集合性ペプチドの濃度が、包括的に、0.1%(1mg/ml)〜99%(99mg/ml)との間である、項目1に記載の処方物。
(項目11)
前記自己集合性ペプチドがキット内に、使用のための取扱い説明書、および任意選択で投与のための手段とともに提供される、項目1に記載の処方物。
(項目12)
前記自己集合性ペプチドを入れた第1の区画、および任意選択で、患者への投与前に該自己集合性ペプチドと混合され得る担体または非線維性因子を入れた第2の区画を備える容器(container/vessel)内の、項目1に記載の処方物。
(項目13)
血管収縮薬、着色剤もしくは麻酔剤および/または生体細胞、抗菌剤、コラーゲン、抗炎症剤、増殖因子もしくは栄養素をさらに含む、項目1に記載の処方物。
(項目14)
必要部位における体液の移動の制限または汚染の低減のための医薬の調製のための項目1〜13いずれか1項に記載の処方物の使用。
(項目15)
前記体液が血液である、項目14に記載の使用。
(項目16)
汚染のリスクを低減するため、または汚染を制限するために前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目17)
前記体液が間質液または脳脊髄液である、項目14に記載の使用。
(項目18)
前記細胞または生体液中のタンパク質を安定化させるために、組織、細胞または生体液に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目19)
汚染または腫瘍細胞、感染、膿、漿液性滲出液、胆汁、膵液、胃、腸もしくは尿路内に通常含まれている物質の拡散を制限するために、手術の際に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目20)
目または目に隣接する領域もしくは目の内部領域に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目21)
再付着時の血管内膜または血管の外面に対する損傷を制限するために血管に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目22)
切開部位における外科的処置前または該処置中に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目23)
外科的処置を受けている患者、または該処置を受ける準備がなされた患者に、汚染を封じ込めるか、もしくは抑制するため、または手術野内の組織を支持するためのコーティングとして前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目24)
前記処方物が口腔または口腔内の領域に適用される、項目14に記載の使用。
(項目25)
前記処方物が、尿生殖器領域内の部位または該領域に隣接する部位に適用される、項目14に記載の使用。
(項目26)
内視鏡または腹腔鏡の補助により前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
(項目27)
火傷した領域に前記処方物を投与することを含む、項目14に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、代表的な自己集合性ペプチドRADA16−Iの配列、および反復構造および概算縮尺比(approximate scale)を示す空間充填モデルを示す。
【図2】図2は、ペプチド溶液(右バー;SAP(自己集合性ペプチド))対生理食塩水対照(左バー)での処置後に完全な止血を達成するのに必要とされる時間を比較するグラフである。この試験は、実施例1に記載のようにして行なった。簡単には、成体齧歯類に麻酔し、頭蓋骨の一部を除き、上矢状静脈洞の静脈を横方向に切開し、次いで、ペプチド溶液または生理食塩水で処置した。
【図3】図3は、実施例2に記載のようにして大腿動脈の横方向の切開後のペプチド溶液の適用の開始から止血の終了まで測定した、生理食塩水処置対照(左バー)およびペプチドで処置した場合(右)における出血の持続時間グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(詳細な説明)
I.処方物
A.自己集合性ペプチド
用語「ペプチド」は、本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「タンパク質」を含み、共有結合(例えば、ペプチド結合)によって互いに連結された少なくとも2つのα−アミノ酸残基の一連の鎖をいう。使用されるペプチドは、本明細書に記載の目的の1つ以上に有用な程度まで自己集合する能力を保持している限り、長さは種々であり得る。2つ程度の少ないα−アミノ酸残基を有するペプチドまたは約200残基ものペプチドも適切であり得、自己集合することが認識されるものは、典型的には、この範囲内の長さ(例えば、8〜200、8〜36、8〜24、8〜16、12〜20、6〜64または16〜20個のアミノ酸残基)を有する。状況に応じて、「ペプチド」は、個々のペプチドまたは同じもしくは異なる配列を有するペプチドの集合体をいうことがあり得、これらはいずれも、天然に存在するα−アミノ酸残基のみ、天然に存在しないα−アミノ酸残基のみ、または両方を含むものであり得る。また、α−アミノ酸アナログは、当該技術分野で知られており、代替的に使用され得る。特に、D型のα−アミノ酸残基が使用され得る。また、自己集合性ペプチド内のアミノ酸残基の1つ以上が、化学的実体、例えば、アシル基、炭水化物基、炭水化物鎖、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、または結合体化もしくは官能性付与のためのリンカーなどの付加によって改変または誘導体化されたものであってもよい。また、使用されるペプチドは分枝鎖であり得、この場合、該ペプチドは、各々がペプチド結合によって接合された少なくとも3つのアミノ酸残基からなる少なくとも2種類のアミノ酸ポリマーを含有する。該2種類のアミノ酸ポリマーはそれら自体で連結されているが、ペプチド結合によってではない。
【0021】
該ペプチドの配列は種々であり得るが、使用される配列としては、両親媒性の性質を該ペプチドに伝達するもの(例えば、該ペプチドは、ほぼ等しい数の疎水性アミノ酸残基および親水性アミノ酸残基を含むものであり得る)が挙げられ、該ペプチドは、相補的で構造的に適合性のものであり得る。相補的なペプチドは、構造体内で隣接するペプチド上の残基(例えば、親水性残基)間に形成されるイオン結合または水素結合を介して相互作用する能力を有する。例えば、ペプチド内の所与の親水性残基は、隣接するペプチド上の水素結合または親水性残基とのイオン対のいずれかであり得る。非対残基は溶媒に曝露され得る。また、ペプチド−ペプチド相互作用は、ファン・デル・ワールス力または共有結合を構成しない他の力を伴い得る。該ペプチドは、集合および構造体形成を可能にする充分に一定のペプチド内間隔を維持できる場合、構造的に適合性である。ペプチド内間隔は種々であり得るが、かなり小さいもの(例えば、約4Å未満、3Å未満、2Å未満または1Å未満)であり得る。しかしながら、ペプチド内間隔(例えば、代表的な間隔の数の平均)は、これより大きいこともあり得る。このような間隔は、分子モデリングに基づいて、または既報(米国特許第5,670,483号参照)の単純化された手順に基づいて計算され得る。
【0022】
より具体的には、該ペプチドは、式I〜IV:
【0023】
【化2】

(式中:Xaaneuは、電荷を持たないアミノ酸残基を表す;Xaaは、正の電荷を有するアミノ酸残基を表す;Xaaは、負の電荷を有するアミノ酸残基を表す;xおよびyは独立して、1、2または4の値を有する整数である;ならびにnは、1〜10(例えば、1〜8、1〜5もしくは1〜3)の値を有する整数である)
の1つ以上に従うアミノ酸残基の配列を有するものであり得るか、または該配列を含むものであり得る。
【0024】
自己集合性ペプチドは、式中、Xaaneuがアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはグリシンを表す;Xaaがアルギニン、リシンまたはヒスチジンを表す;およびXaaがアスパラギン酸またはグルタミン酸を表すアミノ酸残基の配列を有するものであり得る。例えば、自己集合性ペプチドは、アミノ酸配列RADARADARADA(配列番号:XX)を有するものであり得るか、または該配列を含むものであり得る。他の例としては、ARADARADARAD(配列番号:XX);AKADAKADAKAD(配列番号:XX);AHADAHADAHAD(配列番号:XX);ARAEARAEARAE(配列番号:XX);AKAEAKAEAKAE(配列番号:XX);およびAHAEAHAEAHAE(配列番号:XX)が挙げられる。
【0025】
本明細書に記載の構造体は、米国特許第5,670,483号;同第5,955,343号;同第6,548,630号;および同第6,800,481号ならびにHolmesら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:6728−6733(2000);Zhangら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:3334−3338(1993);Zhangら,Biomaterials,16:1385−1393(1995);Caplanら,Biomaterials,23:219−227(2002);Leonら,J.Biomater.Sci.Polym.Ed.,9:297−312(1998);およびCaplanら,Biomacromolecules,1:627−631(2000)に記載のペプチドの自己集合により形成され得る。代表的な自己集合性ペプチドを表1に示す。
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

N/Aは、該当なしを表す。
これらのペプチドは、NaClを含有する溶液中でインキュベートすると、β−シートを形成するが、自己集合して巨視的構造体を形成することは観察されなかった。
【0028】
例えば、一例として1個のアミノ酸残基または多数のアミノ酸残基が異なる(例えば、反復4アミノ酸(quartet)の含有または排除による)他の有用な自己集合性ペプチドが作製され得る。例えば、1つ以上のシステイン残基が該ペプチドに組み込まれ得、このような残基を、ジスルフィド結合の形成によって互いに結合させ得る。このようにして結合された構造体は、システイン残基を含まない同等のペプチドで作製された構造体と比べて増大した機械的強度を有し得る。
【0029】
自己集合性ペプチド内のアミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸残基、または天然に存在しないアミノ酸残基であり得る。天然に存在するアミノ酸としては、標準的な遺伝暗号にコードされたアミノ酸残基、ならびに非標準的なアミノ酸(例えば、L−配置ではなくD−配置を有するアミノ酸)、ならびに標準的なアミノ酸の修飾によって形成され得るアミノ酸(例えば、ピロリシンまたはセレノシステイン)が挙げられ得る。天然に存在しないアミノ酸は、自然界には見出されていないものであるが、ペプチド鎖内に組み込まれ得る。これらとしては、D−アロイソロイシン(2R,3S)−2−アミノ−3−メチルペンタン酸、L−シクロペンチルグリシン(S)−2−アミノ−2−シクロペンチル酢酸が挙げられる。他の例に関して、教科書またはワールドワイドウェブ(サイトは、California Institute of Technologyによって維持されており、機能性タンパク質内に成功裏に組み込まれた非天然アミノ酸構造を表示する)を調べるとよい。米国特許出願公開公報第20040204561号(例えば段落0042を参照)に挙げられた非天然のアミノ酸残基およびアミノ酸誘導体が使用され得る。自己集合性ペプチドは、天然または組換えにより作製された供給源から、当該技術分野でよく知られた方法によって化学的に合成または精製されたものであり得る。例えば、ペプチドは標準的なf−moc化学を用いて合成され、高速(pressure)液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製され得る。
【0030】
自己集合性ペプチドが使用される場合、その側鎖(またはR基)によって2つの面、正および/または負の電荷を有するイオン性側鎖を有する極性の面と、生理学的pHで中性もしくは電荷をもたないと考えられる側鎖(例えば、アラニン残基あるいは他の疎水性基を有する残基の側鎖)を有する無極性の面とに分かれると考えられる。ある1つのペプチドの極性の面上の正の電荷を有するアミノ酸残基および負の電荷を有するアミノ酸残基は、別のペプチドの反対の電荷を有する残基と相補的なイオン対を形成し得る。したがって、このようなペプチドはイオン性自己相補的ペプチドと呼ばれ得る。イオン性残基が、極性の面上で1つの正の電荷を有する残基と1つの負の電荷を有する残基が交互である場合(−+−+−+−+)、該ペプチドは「モジュラス(modulus)I」と示され得、イオン性残基が、極性の面上で2つの正の電荷を有する残基と2つの負の電荷を有する残基が交互である場合(−−++−−++)、該ペプチドは「モジュラスII」と示され得、イオン性残基が、極性の面上で3つの正の電荷を有する残基と3つの負の電荷を有する残基が交互である場合(+++−−−+++−−−)、該ペプチドは「モジュラスIII」と示され得、イオン性残基が、極性の面上で4つの正の電荷を有する残基と4つの負の電荷を有する残基が交互である場合(++++−−−−++++−−−−)、これは「モジュラスIV」と示され得る。配列EAKAの4つの反復単位を有するペプチドは、EAKA16−Iと示され得、他の配列を有するペプチドは、同じ法則で示され得る。
【0031】
EAKA16−I、RADA16−I、RAEA16−IおよびKADA16−Iなどの自己相補的ペプチドを表1に示す。モジュラスIを有するペプチド(すなわち、β−シートの一方の側面(例えば、極性の面)上に交互に正の電荷を有するR基と負の電荷を有するR基を有するペプチド)は、式I〜IV(式中、xおよびyは1である)の各々によって示される。モジュラスIIのペプチド(すなわち、一方の型の電荷(例えば、正の電荷)を有する2つの残基の後に別の型の電荷(例えば、負の電荷)を有する2つの残基を有するペプチドは、同じ式(式中、xおよびyはともに2である)で示される。モジュラスIIIのペプチドは、(すなわち、一方の型の電荷(例えば、正の電荷)を有する3つの残基の後に別の型の電荷(例えば、負の電荷)を有する3つの残基を有するペプチド)、例えば、RARARADADADAなどである。
【0032】
16個のアミノ酸を含有するモジュラスIVのイオン性自己相補的ペプチド(例えば、EAK16−IV、KAE16−IV、DAR16−IVおよびRAD16−IVなど)もまた研究されている。これらの自己集合性ペプチド内の電荷を有する残基が置換されている場合(例えば、正の電荷を有するリシンが、正の電荷を有するアルギニンで置き換えられ、負の電荷を有するグルタミン酸が負の電荷を有するアスパラギン酸で置き換えられている場合)、自己集合プロセスに対して知られた有意な効果は本質的にない。しかしながら、正の電荷を有する残基(リシンおよびアルギニン)が負の電荷を有する残基(アスパラギン酸およびグルタミン酸)で置き換えられている場合、該ペプチドは、もはや自己集合して巨視的(macroscopic)構造体を形成することができない。しかしながら、これらは依然として、塩の存在下でβ−シート構造を形成し得る。水素結合を形成する他の親水性残基(例えば、アスパラギンおよびグルタミンなど)が電荷を有する残基の代わりに、またはこれに加えてペプチド内に組み込まれ得る。ペプチド内のアラニン残基を、より疎水性の残基、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンまたはチロシンなどに変更すると、得られるペプチドは、自己集合し、強度が増強されたペプチドマトリクスを形成する傾向が大きくなる。本明細書に記載のペプチドと類似したアミノ酸組成および長さを有する一部のペプチドは、β−シートではなく、α−ヘリックスおよびランダムコイルを形成し、巨視的構造体を形成しない。したがって、自己相補性に加え、他の要素、例えば、ペプチドの長さ、分子間相互作用の程度およびねじれた配列(staggered array)を形成する能力などが、巨視的構造体の形成に重要であると思われる。
【0033】
ペプチドの不均一な混合物(すなわち、所与の式または該式の2つ以上に従う1つより多くの型のペプチドを含有する混合物)であるペプチド系構造体が形成され得る。ある一部の実施形態において、混合物中の各々の型のペプチドは、単独で自己集合する能力を有する。他の実施形態において、各々の型のペプチドの1種類以上は単独では自己集合し得ないが、不均一なペプチドの組合せでは自己集合し得る(すなわち、混合物中のペプチドは相補的であり、互いに構造的に適合性である)。したがって、同じ配列の、もしくは同じ反復サブユニットを含有する自己相補的で自己適合性のペプチドの均一な混合物、または互いに相補的で構造的に適合性である種々のペプチドの不均一な混合物のいずれかが使用され得る。例えば、KAKAKAKAKAKAKAKA(配列番号:_)とEAEAEAEAEAEAEAEA(配列番号:_)またはKAKAKAKAKAKAKAKA(配列番号:_)とADADADADADADADAD(配列番号:_)の混合物は、膜を形成することが期待され得るが、これらのペプチドはいずれも単独では、相補性の欠如のため期待され得ない。
【0034】
本明細書に記載の組成物は(厳密な形態(例えば、液状形態であるか、成型された形態であるか)に関係なく、および全体としての組成物(例えば、別の薬剤と合わされているか、デバイス内に内包されているか、またはキット内に包装されているか)に関係なく)、RADA16−I(配列番号:1)またはRADA12−IとEAKA16−1(配列番号:6)またはEAK16−II(配列番号:18)の混合物を含むものであり得る。他の混合物は、RAD16−II(配列番号:4)またはRAD12−IIとEAKA16−I(配列番号:6)またはEAK16−II(配列番号:18)を含むものであり得る。他の混合物は、種々の長さの同じペプチド配列を含むもの、またはモジュラスIおよびモジュラスIIのペプチドの混合物であり得る。例えば、RADA12−IとRADA12−II;RADA16−IとRADA16−II;RADA12−IとRADA16−I;RADA12−IIとRADAl6−II;EAKA12−1とEAKA12−II;EAKA16−IとEAKA16−II;EAKA12−IとEAKA16−II;またはEAKA12−IIとEAKA16−IIの混合物が使用され得る。1種類のペプチドではなく混合物の使用により、集合速度および集合した物質の剛性などの特性が調節され得る。
【0035】
まとめると、本明細書に記載の様式で有用なペプチドは、相補的で構造的に適合性である疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基が交互の配列を有するものであり得るか、または該配列を含むものであり得る。記載のように、該ペプチドは、長さが種々であり得、多数の4残基のものであり得るが、そうである必要はない。例えば、該ペプチドは、少なくとも8アミノ酸長(例えば、8もしくは10アミノ酸)、少なくとも12アミノ酸長(例えば、12もしくは14アミノ酸)、または少なくとも16アミノ酸長(例えば、16、18、20、22もしくは24アミノ酸)であり得る。100アミノ酸残基長未満、より好ましくはほぼ50アミノ酸長未満であるペプチドは、より速やかに集合し得る。アミノ酸残基はD−アミノ酸またはL−アミノ酸から選択され得、ペプチドまたはペプチド混合物は、その組合せを含み得る。好適には(suitable)、天然に存在する疎水性アミノ酸残基としては、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、ThrおよびGlyが挙げられる。親水性アミノ酸残基は、塩基性アミノ酸(例えば、Lys、Arg、His、Orn);酸性アミノ酸(例えば、Glu、Asp);または水素結合を形成するアミノ酸(例えば、Asn、Gln)であり得る。L−アミノ酸が構造体内に存在する場合、分解により、宿主組織によって再利用され得るアミノ酸が生成される。L−配置のアミノ酸残基は体内に天然に存在することにより、このクラスの化合物は、数多くの他の生体適合性物質と識別され、特有の利点がもたらされ得る。
【0036】
所与のペプチドは、いずれか一方または両方の末端が修飾され得る。例えば、カルボキシル−およびアミノ−末端残基のカルボキシル基および/またはアミノ基は、それぞれ、保護されていても保護されていなくてもよい。また、末端の電荷が修飾されていてもよい。例えば、アシル基(RCO−、式中、Rは有機基(例えば、アセチル基(CHCO−)である)などの基またはラジカルをペプチドのN末端に存在させ、別に存在し得る「余分な」正の電荷(例えば、N−末端アミノ酸の側鎖に起因しない電荷)を中和させ得る。同様に、アミン基(NH)などの基が、C末端に別に存在し得る「余分な」負の電荷(例えば、C末端アミノ酸残基側鎖に起因しない電荷)を中和するために使用され得る。アミンが使用される場合、C末端はアミド(−CONH)を有し得る。末端上の電荷の中和により自己集合が助長され得る。当業者は、他の適当な基を選択することができよう。
【0037】
種々の程度の剛性または弾性を有する自己集合した構造体が形成され得る。該構造体は、典型的には、低い弾性率(例えば、標準的なコーンプレート型レオメータなどの標準的な方法で測定したとき、1〜10kPaの範囲の弾性率)を有する。低い値は、細胞収縮の場合、圧力に応答した移動の結果としての構造体の変形を許容するため好ましいことがあり得る。より具体的には、剛性は、さまざまな様式で、例えば、前駆物質分子(例えば、自己集合性ペプチド)の長さ、配列および/または濃度を変えることにより制御され得る。剛性を増大させる他の方法もまた使用され得る。例えば、前駆物質にビオチン分子、または後に互いに架橋あるいは結合される任意の他の分子を結合させ得る。該分子(例えば、ビオチン)は、ペプチドのN−もしくはC末端に含め得るか、または末端間の1つ以上の残基に結合させ得る。ビオチンが使用される場合、架橋は、後のアビジンの添加によってなされ得る。ビオチン含有ペプチドまたは他の架橋性分子を含有するペプチドは、本発明の範囲内に含まれる。例えば、芳香族環を有するアミノ酸残基は、uv光への曝露によって組み込まれ、架橋され得る。架橋の程度は、放射線を所定時間、既知の配列および濃度のペプチドに適用することにより厳密に制御され得る。架橋の程度は、光散乱、ゲル濾過または走査型電子顕微鏡検査によって標準的な方法を用いて決定され得る。さらにまた、架橋は、プロテアーゼ(例えば、マトリクスメタロプロテアーゼなど)による消化後の構造体のHPLCまたは質量分析によって調べることができる。物質の強度は、架橋の前および後に測定され得る。架橋がなされるのが化学薬品によるか光エネルギーによるかに関係なく、分子は、成型された形態(mold)が生成される過程において、またはペプチド含有溶液が身体に適用されるときに架橋され得る。
【0038】
また、該構造体の半減期(例えば、インビボ半減期)は、プロテアーゼまたはペプチダーゼ切断部位を、後に所与の構造体を形成する前駆物質内に組み込むことにより調節され得る。インビボで天然に存在するか、または導入される(例えば、外科医によって)プロテアーゼまたはペプチダーゼは、次いで、その対応する(cognate)基質を切断することにより分解を促進し得る。本明細書に記載の修飾のいずれかの組合せが行なわれ得る。例えば、プロテアーゼ切断部位ならびにシステイン残基および/または架橋性因子を含む自己集合性ペプチド、これを含むキットおよびデバイス、ならびにその使用方法が利用され得る。
【0039】
図1は、代表的な自己集合性ペプチドRADA16−Iの配列、および反復構造および概算縮尺比を示す空間充填モデルを示す。織り合わされたナノ繊維および個々のナノ繊維が、ペプチド自己集合によって形成された物質の顕微鏡検査時に観察される。ペプチド自己集合後に形成されたゲル様構造体は、透明で柔軟性のようであった。
【0040】
任意の方法によって作製される任意の自己集合性ペプチドから形成されるペプチド構造体は、種々の生物物理学的および光学的手法、例えば、円偏光二色性(CD)動的光散乱、フーリエ変換赤外(FTIR)、原子間力(張力)顕微鏡検査(ATM)、走査型電子顕微鏡検査(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて特徴付けられ得る。例えば、生物物理学的な方法は、ペプチド構造体内のβ−シート二次構造の程度を測定するために使用され得る。フィラメントおよび孔径、繊維直径、長さ、弾性および体積分率は、走査型および/または透過型電子顕微鏡写真の定量的画像解析を用いて測定され得る。該構造体はまた、いくつかの標準的な機械的試験手法を用いて検査され、膨潤の程度、構造体形成に対するpHおよびイオン濃度の効果、種々の条件下での水和レベル、引張強度、ならびに種々の特性が、構造体が形成および分解されるのに必要とされる時間の経過で変化する様式が測定され得る。これらの方法により、当業者が、本明細書に記載の種々の択一例およびペプチドのどれが最も種々の方法における使用に適するかを決定することが可能になり、種々のプロセスを最適化することが可能になる。
【0041】
B.自己集合性ペプチド物質の形成
自己集合の前に、該ペプチドを、実質的にイオン(例えば、1価のイオン)を含まない溶液、または有意な自己集合を抑制するのに充分に低い濃度のイオン(例えば、10mM未満、5mM未満、1mM未満または0.1mM未満の濃度のイオン)を含む溶液に含め得る(例えば、溶解させ得る)。自己集合は、後続の任意の時点で、ペプチド溶液へのイオン性の溶質もしくは希釈剤の添加によって、またはpHの変更によって開始または増強され得る。例えば、ほぼ5mM〜5Mの間の濃度のNaClにより、短時間内(例えば、数分以内)に巨視的構造体の集合が誘導される。また、より低い濃度のNaClでは、集合は誘導され得るが、より低速となる。あるいはまた、自己集合は、ペプチドを(乾燥状態であれ、半固形ゲル状であれ、実質的にイオンを含まない液の溶液中に溶解された状態であれ)、かかるイオンを含む液(例えば、血液もしくは胃液などの生理液)または領域(例えば、鼻もしくは口などの体腔または外科的処置によって露出させた腔)内に導入することにより開始または増強され得る。一般的に、自己集合は、ペプチドをかかる溶液に任意の様式で接触させると起こると予測される。
【0042】
多種多様なイオン、例えば、アニオンおよびカチオン(2価であれ、1価であれ、3価であれ)が使用され得る。例えば、相転移は、1価のカチオン(例えば、Li、Na、KおよびCsなど)への曝露によって促進され得、自己集合を誘導および増強するために必要とされるかかるイオンの濃度は、典型的には、少なくとも5mM(例えば、少なくとも10mM、20mMまたは50mM)である。また、より低い濃度でも集合は助長されるが、低速である。所望される場合、自己集合性ペプチドは、自己集合を許容する濃度の疎水性物質(例えば、薬学的に許容され得る油)を用いて送達され得るが、低速である。自己集合性ペプチドを油または脂質などの疎水性薬剤と混合すると、該物質の集合体は異なる構造体を形成する。該構造体は油の層上の氷のような外観であるが、場合によっては、別の物質を添加すると、該物質は集合して種々の他の3次元構造となり、これは、薬物負荷または他の関連の治療用薬剤に好適であり得る。分子の親水性部分は、疎水性−親水性相互作用を最小限にし、それにより該2つの環境間にバリアを作出するような様式で集合する。いくつかの実験により、自己集合性ペプチドは、水上の氷などの油の表面上で、その分子の疎水性部分は該表面に向き、該分子の親水性部分は該油の反対に向いて整列するか、または内部に疎水性物質を含有するドーナツ様構造体を形成することが示されている。この型の挙動により、治療薬または体内への送達が意図される(interested)他の分子のカプセル封入が可能になる。
【0043】
巨視的構造体の組成および所望される特性(例えば、骨格(scaffold)の剛性またはその形成速度)に応じて、前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)の濃度は、ほぼ0.01%w/v(0.1mg/ml)からほぼ99.99%w/v(999.9mg/ml)まで(両端を含む)種々であり得る。例えば、骨格形成前の濃度は、ほぼ0.1%(1mg/ml)〜10%(100mg/ml)(両端を含む)(例えば、約0.1%〜5%;0.5%〜5%;1.0%;1.5%;2.0%;2.5%;3.0%;もしくは4.0%またはそれ以上)であり得る。ある一部の実施形態において、該濃度はまた、0.1%未満であり得る。前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)は粉末剤として処方され、粉末形態または再懸濁された状態で投与され得る。乾燥させると、該ペプチドは、体液との接触後に自己集合し得る(例えば、損傷部位で)。
【0044】
ペプチド系構造体は、一定形状または不定形状の鋳型内で形成され得、該鋳型としては体腔もしくは身体の一部分(例えば、血管腔)が挙げられ得、またはプラスチックもしくはガラスなどの不活性物質であり得る。該構造体または骨格は、所定の形状に従うように、または所定の容積を有するように形成されたものであり得る。所定の形状または容積(例えば、所望の外形または寸法、例えば、薄いシートまたは薄膜)を有する構造体を形成するため、ペプチド水溶液を、既に成形された鋳型内に入れ、複数のイオンの添加によってペプチドの自己集合を誘導する。あるいはまた、該イオンをペプチド溶液に、該溶液を鋳型に入れる直前に添加してもよい(ただし、実質的な集合が起こる前に該溶液を鋳型内に入れるように注意すること)。鋳型が組織(例えば、血管腔または他の区画(原位置(in situ)であってもなくても)である場合、イオン溶液の添加は必要でないことがあり得る。得られる物質の特性、集合に要する時間、および形成される巨視的構造体の寸法は、適用されるペプチド溶液の濃度および量、構造体の集合を誘導するのに使用されるイオンの濃度、ならびに成型装置の寸法によって支配される。該骨格は、室温でゲル様または実質的に固形で得られ得るが、成型を容易にするため、体温あたり(ほぼ37℃)までの範囲の温度)まで熱を適用してもよい(例えば、成型プロセスで使用される溶液(例えば、前駆物質含有溶液)が加熱され得る)。骨格が所望の程度の堅固さに達したら、これを鋳型から取り出し、本明細書に記載の目的に使用され得る。
【0045】
身体と接触すると集合する、および/または相転移(例えば、液体状態から半固形、ゲルなどへの転移)を行なう物質は、生体物質の移動の抑制に有用である。皮膚の場合、該組成物は、皮膚上の湿分または油分の非存在下で自己集合させるために、イオン溶液または油とともに投与され得る。自己集合または相転移は、被験体の体内に見られる成分(例えば、イオン)または生理学的pHによって誘発され、生理学的温度によって補助される。自己集合または相転移は、該組成物が被験体の身体に曝露されたとき、または該身体と接触させたときに開始され得、この組成物が沈着した(または沈着される)領域への熱の局所適用によって助長され得る。本明細書に記載の任意の適応症に対し、被験体はヒトであり得る。これまでの研究に基づくと、自己集合は生体内組織と接触すると、さらなる熱の適用なしで急速に起こる。一実施形態において、有効な集合および/または相転移に要する時間は、被験体の内部組織との接触後60秒以下、または体内で見られるものと同様の条件(例えば、50、40、30、20もしくは10秒またはそれ以下)であり得る。状況によっては(例えば、組成物中の自己集合性薬剤の濃度が低い場合、または生体物質の移動が相当な場合など)、自己集合または相転移は、所望の効果を達成するのにより長い時間、例えば、1分、5分、10分、30分、1時間に至るまで、またはそれより長時間かかり得る。例えば、脳、肝臓または筋肉の血管の横方向切開部位に適用された自己集合性ペプチドを含有する溶液は、適用後、10秒という短時間以内に完全な止血をもたらした(実施例1〜3参照)。イオン含有溶液は、該組成物が被験体を汚染から保護するために使用される場合、相転移が起こらない場合もしくは容易に起こらない場合、非イオン性組成物をそのまま皮膚に接触させる場合、好ましいことがあり得る。
【0046】
該組成物により、実質的に剛性である構造体(例えば、固体もしくはほぼ固体)または明確な形状および体積を呈する構造体(例えば、液状組成物が投与される位置(インビボであれエキソビボであれ)の形状および体積に従う構造体)が形成され得る。固化された物質は、集合または相転移の後、いくぶん変形可能または圧縮性であり得るが、ある領域から別の領域に実質的に流動しない(液体から固体への連続性における種々の時点で、組成物は流動することがあり得るが、これは、少なくとも一部は相転移を行なうその能力のためであり得る)。その結果、該組成物は、生体物質の移動を、その必要がある被験体において抑制するために使用され得る。自己集合はまた、ある一定範囲内の生理学的に価値のある条件(例えば、細胞または組織の培養に適切な条件)への曝露によって、エキソビボでなされ得る。液状処方物は容易に施与されるが、投与される組成物はまたゲル形態であり得、これは、被験体の身体と接触すると、より堅固となり得る。
【0047】
一実施形態において、任意の所与の処方物中の自己集合性ペプチドの濃度は種々であり得、ほぼ0.1%(1mg/ml)〜10%(100mg/ml)(両端を含む)であり得る。例えば、自己集合性ペプチドの濃度(例えば、液状処方物中)は、ほぼ0.1〜3.0%(1〜30mg/ml)(例えば、0.1〜1.0%;1.0〜2.0%;2.0〜3.0%または1.0〜3.0%)であり得る。自己集合性ペプチドの濃度は、ストック溶液中、および固形(例えば、粉末状)処方物中ではより高いことがあり得る。固形調製物では、自己集合性ペプチドの濃度は100%に近づき得る(例えば、自己集合性ペプチドの濃度は、組成物の95、96、97、98、99%またはそれ以上(例えば、99.99%)であり得る)。液状であれ固形であれ、該ペプチドは、使用前に、希釈剤(例えば、脱イオン水)、粉末、湿潤剤、または治療剤、診断剤もしくは予防剤の添加によって所望の濃度にし得る。
【0048】
自己集合性薬剤の厳密な性質に関係なく、本明細書に記載のものなどの条件に曝露されると、該薬剤により、膜質の2次元または3次元構造体、例えば、規則正しく織り合わされたナノ繊維(例えば、直径がほぼ10〜20nmで、孔径が約50〜100nmの長さ寸法を有する繊維)を有する安定な巨視的多孔質マトリクスが形成され得る。3次元の巨視的マトリクスは、低倍率下(例えば、約10倍以下)で可視的であるのに充分に大きい寸法を有し得、膜質構造体が、透明であっても裸眼で可視的であり得る。3次元ではあるが、該構造体は、極めて薄いことがあり得る(例えば、限定的な数の層の分子(例えば、2、3またはそれ以上の層の分子)。典型的には、所与の構造体の各寸法は、少なくとも10μmの大きさである(例えば、2つの寸法が少なくとも100〜1000μmの大きさ(例えば、1〜10mm、10〜100mmまたはそれ以上))。関連する寸法は、実質的に一定の形状を有する構造体の場合(例えば、構造体が球、柱体、立方体などである場合)は、長さ、幅、深さ、全幅(breadth)、高さ、半径、直径もしくは円周として、または構造体が一定の形状を有しない場合は、前述のもののいずれかの概算値として示され得る。
【0049】
自己集合性ペプチドは、本明細書に記載のものなどの条件下(例えば、充分な濃度(例えば、生理学的濃度)のイオン(例えば、1価のカチオン)の存在下)で水と接触すると、水和された物質を形成し得る。該物質は、高い含水量(例えば、ほぼ95%またはそれ以上(例えば、ほぼ97%、98%、99%もしくはそれ以上))を有するものであり得、その組成物は水和され得るが、実質的に自己集合したものではない。所与の値は、測定値が、例えば、測定が行なわれる環境および測定を行なう当業者に応じて異なり得ることを認識すると、「概算」であり得る。一般的に、第1の値が第2の値の10%以内に含まれる場合(大きかろうと小さかろうと)、状況から値が近似でないことが明白でない限り、または例えば、かかる値が考えられ得る値の100%を超過し得る場合、第1の値は第2の値にほぼ等しい。
【0050】
構造体または骨格の特性および機械的強度は、必要に応じて、内包される成分の操作によって制御され得る。例えば、集合したゲルの剛性は、内包される自己集合性薬剤(例えば、ペプチド)の濃度を増大させることにより増大させ得る。該ペプチドおよびこれによって自己集合すると形成される構造体の配列、特性および性質を、以下にさらに考察する。
【0051】
該組成物は、濃縮ストックとして、または乾燥形態で処方され得、これを希釈または溶解して組成物(例えば、生体適合性組成物)を形成してもよく、これは、生体細胞に対してインビトロまたはインビボで実質的に無毒性である。例えば、該組成物は該物質を、レシピエントの身体に対して有意な有害効果(例えば、非常に激しい免疫学的もしくは炎症性反応または許容され得ない瘢痕組織形成)を誘発しない量で含有するものであり得る。
【0052】
集合していないペプチドを含有する溶液を生物学的組織上に配置すると、組織に対して充分な近接性を有するペプチドが集合し、溶液のゲル化を引き起こす。組織から遠くにとどまる溶液はいずれも、自己集合性ペプチドがその集合を促進する条件に未だ曝露されていないため、液状のままである。物質が破壊されるにつれて(例えば、外科的処置が行なわれることにより)、液状物質は身体と充分に接触されるとゲル化するようである。時として、該組成物は液状から固形に及ぶ範囲の特徴を呈し得、ゲル様もしくは軟膏様またはスラリーとしての外観となり得る。
【0053】
B.さらなる治療剤、予防剤および診断剤
該処方物は、典型的には、賦形剤もしくは他の薬学的に許容され得る担体を含むか、または医療用器具もしくはコーティングの一部分として提供される。処方物はまた、他の治療剤、予防剤または診断剤を含むものであり得る。好ましい実施形態において、このような薬剤は、抗炎症薬、血管作用剤、抗感染薬、麻酔薬、増殖因子および/または細胞であり得る。
【0054】
また、このような薬剤は、ペプチドもしくはタンパク質、多糖類もしくは糖類、核酸もしくはヌクレオチド、プロテオグリカン、脂質、炭水化物または小分子(典型的には、多数の炭素−炭素結合を有し、自然界から単離されたもの、もしくは化学合成によって生成されたものであり得る有機化合物)であり得る。小分子は、比較的小さい分子量(例えば、約1500g/mol未満)を有するものであり、ペプチドまたは核酸ではない。また、該物質は生体分子であり得、ペプチド、プロテオグリカン、脂質、炭水化物または核酸などの分子が挙げられ、これらはいずれも、生物体内で見られるかかる分子に典型的な特徴を有し得る。小分子と同様、生体分子は天然に存在するものであり得るか、または人工的なものであり得る(すなわち、自然界では見られない分子であり得る)。例えば、自然界では見られない配列(例えば、公に入手可能な配列データベースには存在しないもの)を有するタンパク質、または人間の手によって自然ではない様式で修飾された既知配列を有する配列(例えば、グリコシル化などの翻訳後プロセッシングを改変することにより修飾された配列)を有するタンパク質は、人工的な生体分子である。かかるタンパク質をコードする核酸分子(例えば、オリゴヌクレオチド(任意選択で、発現ベクター内に含まれている))もまた生体分子であり、本明細書に記載の組成物内に組み込まれ得る。例えば、組成物は、複数の自己集合性ペプチド、およびタンパク質生体分子を発現するかまたは発現するように操作された細胞(該タンパク質生体分子をコードする核酸配列を含めることにより)を含むものであり得る。
【0055】
多くの異なる治療剤、予防剤または診断剤が、処方物内に組み込まれ得るか、または処方物とともに使用もしくは合わされ得る(例えば、逐次もしくは同時に投与される)。代表的な血管収縮薬(いずれも、1種類以上の自己集合性ペプチドとともに処方され得る(例えば、液状、粉末状またはゲル形態の生体適合性組成物にて))としては、エピネフリンおよびフェニレフリンが挙げられる;代表的な着色剤としては、アルセナゾIII、クロロホスホナゾIII、アンチピリルアゾIII、ムレキシド、エリオクロムブラックT、エリオクロムブルーSE、オキシアセトアゾ(oxyacetazo)I、カルボキシアゾIII、トロポロン、メチルチモールブルー、およびモーダントブラック32が挙げられる;代表的な麻酔剤としては、ベンゾカイン、ブピバカイン、ピクリン酸ブタンベン、クロロプロカイン、コカイン、クラーレ、ジブカイン、ジクロニン、エチドカイン、リドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロポキシカイン、ロピバカイン、テトラカインまたはその組合せが挙げられる。麻酔剤の局所適用は、状況によっては(例えば、火傷もしくは皮膚に対する他の創傷、例えば、褥瘡性潰瘍の場合、または低侵襲手術の場合)、それほど必要とされない。局所麻酔薬と自己集合性ペプチドとの併用は、同じ処方物中に存在させることによってであれ、共投与によってであれ、体内への麻酔薬の内包を補助し、循環系に侵入する量を低減し得る。局所麻酔の効果を長引かせるため、フェニレフリンなどの血管収縮薬を含め得る(例えば、0.1〜0.5%フェニレフリン)。局所麻酔剤以外の鎮痛剤(ステロイド類など)、非ステロイド系抗炎症剤(インドメタシンなど)、血小板活性化因子(PAF)阻害薬(レキシパファントなど)、CV 3988および/またはPAF受容体阻害薬(SRI 63−441など)。抗感染薬または抗菌剤(例えば、抗生物質、抗菌剤、抗ウイルス剤または抗真菌剤)を、全身投与または局所投与のいずれかのために含めてもよい。例としては、β−ラクタム抗生物質(例えば、ペニシリンおよびセファロスポリンなど)ならびに他の細胞壁合成阻害薬、例えば、バンコマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、マクロライド系抗生物質、クリンダマイシン(clindamyin)、ストレプトグラミン系、アミノ配糖体、スペクチノマイシン、スルホンアミド、トリメトプリム、キノロン類、アンホテリシンB、フルシトシン、アゾール類、例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾールおよびミコナゾール、グリセオフルビン、テルビナフィン、ならびにナイスタチンなどが挙げられる。抗菌薬は、経表面的に投与され得る(例えば、皮膚感染もしくは火傷を処置するため、または感染の予防を補助するために、カテーテル(例えば、静脈内カテーテル)の挿入部位に)(例えば、カナマイシン、ネオマイシン、バシトラシン、ポリミキシン、経表面用スルホンアミド、例えば、酢酸マフェナイドもしくはスルファジアジン銀または硫酸ゲンタマイシン)。また、抗菌薬は、広域薬剤であり得る。例えば、第2、第3または第4世代セファロスポリンが使用され得る。これらの薬剤は、広範な細菌(グラム陽性種とグラム陰性種の両方を含む)に対して活性であり得る。かかる抗菌剤は、腸の切除または腸壁の完全性を意図的もしくは偶発的に破壊する他の手術の際などに、腸内容物の移動を抑制するために本発明の骨格が使用される場合、特に適切であり得る。当業者は、患者の病歴(例えば、かかる薬剤に対するアレルギー反応歴があるか)、該ペプチドが適用される位置、存在している可能性がある感染性因子の型などの要素を考慮することにより、適切な抗菌剤を選択することができよう。
【0056】
任意の本明細書に記載の組成物は、自己集合性前駆物質のみを含むものであれ、該前駆物質と1種類以上の生物活性分子(例えば、血管収縮薬または麻酔剤)を含むものであれ(また、液状であれ、半固形であれ、固形であれ)、着色剤を含むものであり得る。好適な着色剤としては、商業用食品着色料、天然および合成の染料ならびに蛍光分子が挙げられる。好ましくは、着色剤は無毒性であるか、または任意の望ましくない効果(例えば、毒性効果)が最小限となるような低濃度で含める。着色剤の使用により、構造体または骨格で覆われた領域の可視化の改善が可能になり、除去が所望される場合は、かかる除去が助長され得る。着色剤は、汚染された領域と接触すると色変化するものであり得る(例えば、色変化は、汚染自体によって(例えば、血液または創傷部位に存在する細菌によって)誘発され得る)。例えば、細菌の代謝産物が色変化を誘発し得る。汚染物質によって誘導されるpHまたは酸化還元状態などの状態もまた検出され得る。例示的な指示薬としては、アルセナゾ(arsenzazo)III、クロロホスホナゾIII、アンチピリルアゾIII、ムレキシド、エリオクロムブラックTおよびエリオクロムブルーSE for Mg2+、オキシアセトアゾI、カルボキシアゾIII、トロポロン、メチルチモールブルー、およびモーダントブラック32が挙げられる。酸化還元指示薬であるアラマーブルー、およびフェノールレッドもまた該組成物および方法において有用である。
【0057】
多くの他の活性剤を組成物中に含め得る。例えば、いくつかの増殖因子は、治癒の1つ以上の様相(例えば、血管形成、細胞遊走、経過の進展(process extension)および細胞増殖)を加速するために含まれ得る。このような型の組成物は、他のものと同様、組成物中への内包によって、または本発明の方法での共投与によって「含め」得る。例としては、血管内皮増殖因子(VEGF)、トランスホーミング増殖因子(TGF)(例えば、トランスホーミング増殖因子βなど)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、神経発育因子(NGF)、インスリン様増殖因子(例えば、インスリン様増殖因子I)、グリア増殖因子(GGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)などが挙げられる。多くの場合、これらの用語は、さまざまな異なる分子種をさすことは認識されよう。例えば、いくつかのトランスホーミング増殖因子β種が当該技術分野で知られている。当業者には、例えば、組成物が投与される部位を考慮することにより適切な増殖因子の選択が導かれよう。例えば、EGFは、皮膚に適用される組成物に含め得る;NGFおよび/またはGGFは、神経または神経系に適用される組成物に含め得る;などである。
【0058】
増殖因子または別の薬剤は、インビボまたは細胞培養物において該物質が存在する部位に細胞を漸増させる能力を有する化学走性物質であり得る。漸増される細胞は、新たな組織の形成または既存の損傷組織の修復に寄与する(例えば、該組織に対して構造的および/または機能的に寄与することにより潜在性を有するものであり得る(例えば、増殖因子を提供するか、もしくは望ましい免疫応答に寄与することにより))。また、ある種の化学走性物質は、増殖剤(例えば、神経向性剤(NGFまたはBDNFなど))としての機能を果たし得る。
【0059】
該組成物はまた、限定されないが、シアノアクリレート、酸化セルロース、フィブリンシーラント、コラーゲンゲル、トロンビン粉末、微多孔質多糖粉末、凝固因子(例えば、第V因子、第VIII因子、フィブリノゲンまたはプロトロンビン)およびゼオライト粉末などの化合物との組合せで、またはその代わりに使用され得る。
【0060】
治療用分子は、一般的に、臨床的に有意な成績が得られるのに有効な量で投与されることを理解されたく、有効な投薬量および濃度は当該技術分野で知られている。このような投薬量および濃度により、本発明の状況での投薬量および濃度の選択が導かれ得る。生物活性分子は、種々の適当な濃度および適当な量で(例えば、マイクログラムまたはミリグラム範囲またはそれ以上で)提供され得る。指針として、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,第10版、およびKatzung,Basic and Clinical Pharmacologyなどの教科書を参考にするとよい。
【0061】
細胞
細胞を患者に送達する場合(例えば、組織治癒を促進するため)、自己由来の細胞が使用され得る。一実施形態において、該細胞は、該物質中に分散され、移植された患者由来の造血系細胞の使用であり得る。別の実施形態において、該細胞は臍帯血の赤血球であり得る。
【0062】
上記の成型された骨格、液状組成物、ゲル、固形(例えば、粉末)または半固形の実施形態は、生物活性分子または生物活性細胞などの1種類以上のさらなる物質を含むものであり得る。場合によっては、該細胞は、天然または遺伝子操作(例えば、組換えタンパク質を発現および/または分泌するように)の後のいずれかで、生物活性分子を分泌し得る。本明細書に記載の構造体(例えば、ペプチド系構造体)は、細胞接着、生存率および成長を補助することができ、これは、細胞がペプチド系構造体の表面上で培養される場合、または細胞が該物質内で成長する場合(例えば、カプセル封入した場合)に観察されている。また、該構造体は、ニューロンをその上面または内部で培養する場合、神経突起の成長およびシナプス形成のための基質として供され得る。したがって、生物活性分子および生物活性細胞を該ペプチド構造体内にカプセル封入してもよく、このようにカプセル封入した場合、実質的な機能および生存率は維持され得る(例えば、U.S.S.N.09/778,200および10/196,942参照)。
【0063】
C.賦形剤、担体およびデバイス
該処方物は、薬学的に許容され得る担体を含み、医療用デバイスまたはコーティングの一部として提供される。また、該処方物は、他の治療剤、予防剤または診断剤を含むものであってもよい。
【0064】
一実施形態において、処方物は乾燥粉末または凍結乾燥粉末として提供され、これは、散剤として直接投与され得(これらは、適用部位で水和されるか、または液体(最も好ましくは水性)中に懸濁もしくは溶解させる)、また、スプレー剤、塗布剤または注射剤もしくはヒドロゲル(例えば、キチン、コラーゲン、アルギン酸塩もしくは合成ポリマーなど)として適用され得る。皮膚への適用に適した任意の処方物(例えば、スプレー剤として適用され得る液体、または粉末剤)が、後述の「ナノ無菌布(nanodrape)」を形成させるために使用され得る。別の実施形態において、処方物は、デバイス(例えば、ステントまたはカテーテル)上のコーティングとして提供され、これは、水溶液中に溶解してデバイス上で乾燥させ得るか、またはポリマー担体と混合してデバイス上に適用され得る。また別の実施形態において、処方物は、包帯、気泡またはマトリクスにて提供され、このとき、該ペプチドは分散されているか、または吸収されているかであり得る。また、処方物は、縫合糸、テープもしくは接着剤の形態であり得る。
【0065】
従来より、局所麻酔薬は、経表面的投与によって送達される(例えば、軟膏、クリームもしくは液体として処方される)か、または神経線維の遮断が所望される領域内に注射される。該処方物は、特に、麻酔薬、抗炎症薬、増殖因子および抗感染薬とともに気泡、マトリクスまたは包帯の形態で処方されている場合は(出血または間質液の損失を抑止するため)、火傷または潰瘍に投与され得る。
【0066】
本明細書に記載の組成物の1種類以上をキット内に、使用のための取扱い説明書とともに一体化させ得る。例えば、キットには、自己集合性ペプチド(またはその濃縮溶液もしくは粉末化処方物を希釈剤と一緒に)を含む生体適合性のある組成物、ならびに血管収縮薬、着色剤および鎮痛剤または麻酔剤、ならびにその組合せ(もし事前に合わされていない場合)および使用(例えば、希釈や投与)のための取扱い説明書が含まれ得る。さらに、キットには、本明細書に記載のさらなる薬剤の1種類以上が含まれ得る。このような薬剤は、ペプチド系組成物内に存在させてもよく、別々にパッケージしてもよく、これらとしては、1種類以上の生体細胞型、抗生物質もしくは他の治療薬、コラーゲン、抗炎症剤、増殖因子または栄養素が挙げられ得る。また、キットには、シリンジ(例えば、バレルシリンジもしくはバルブシリンジ)、ニードル、ピペット、ガーゼ、スポンジ、コットンなど、綿棒、包帯、鼻血栓、消毒薬、外科用糸、ハサミ、メス、滅菌液、スプレー剤キャニスター(例えば、液状の液体が簡単な手動ポンプによって噴霧されるもの)、滅菌容器または使い捨て手袋の1つ以上が含まれ得る。
【0067】
該処方物は、適宜、1種類以上の障害の処置のために投与され得る。例えば、処方物は、損傷を修復するため、または肺もしくは硬膜の手術の中(dealing)に、あるいは硬膜外もしくは脊椎の穿刺の後に、脳脊髄液の漏出を抑止するために適用され得る。処方物は、創傷の縫合または接着時、またはその後に放出されるときに投与されるように、縫合糸または接着剤内に分散させてもよく、それにより、出血、組織液または肝臓、膵臓および胃腸管などの実質組織によって生成されるものなどの他の液の損失が制限される。処方物は、任意の出血部位に、包帯、ガーゼ、スポンジもしくは直接出血を抑制するための他の材料において適用され得るか、または縫合もしくは圧迫などの初期処置が不充分な場合は、出血を抑制するために後で放出させ得る。該処方物を含む乾燥布、脱水気泡もしくはヒドロゲルまたは包帯は、例えば、戦争において、事故現場で、または迅速な処置が必要とされ得、保存空間が制限される臨床現場での負傷の処置のための応急処置用品(kid)の一部であり得る。
【0068】
ある一部の実施形態において、自己集合性薬剤を含む組成物は、外科用スポンジに付随し得る。例えば、液状組成物を、その使用前または使用中に市販のスポンジ内に吸入させ得る。研究により、止血は、伝統的なスポンジなしで満足に達成され得るが、自己集合性薬剤を含有する組成物を含めることが有益な場合があり得る(例えば、患者が著しい出血を起こしている場合、または処置の目的が一時的な安定化である場合)ことが示されている。使用される組成物は、本明細書に記載の任意の非線維性因子を含むものであり得る。スポンジは、当該技術分野で知られた任意のものであり得、例えば、織布スポンジおよび不織布スポンジならびに歯科または眼科手術のために特別に設計されたものが挙げられる。例えば、米国特許第4,098,728号;同第4,211,227号;同第4,636,208号;同第5,180,375号;および同第6,711,879号を参照のこと。
【0069】
包帯または被覆材を特徴とする実施形態において、包帯または被覆材は、創傷またはその実質的な部分(例えば、最も負傷した組織部分または最もひどい出血領域)を覆うのに充分な形状および大きさの第1の層を含むものであり得る。第1の層は、上面、底面、および任意選択で接着剤により全体または一部が覆われた境界部を有し得る。包帯または被覆材の第2の層は、着脱可能に第1の層の底面に固定し、任意選択で、接着剤を有する境界部または該境界部の任意の部分を除いてもよく、自己集合性ペプチドを含む液状または非液状の組成物(例えば、ゲル、ペースト、気泡、クリーム、軟膏もしくは粉末状組成物)を含んでいてもよい。該組成物は、包帯または被覆材が適用されると創傷と接触し、第1の層または第1および第2の層が除かれると、包帯または被覆材から創傷部位に移行可能である。より簡単な構成では、自己集合性薬剤(例えば、ペプチド)を含む組成物は、第1の層の底部(例えば、接着剤境界部に対して内部)に結合させ、第2の層を省略し得る。いずれの場合も、第1および/または第2の層のいずれかが透明な窓を含み得、それを通しても下側にある創傷の一部または全部が見える。自己集合性薬剤(1種類または複数種)を含む組成物は包帯に、包装される前、または使用直前に添加され得る。別の実施形態において、該処方物は、さらなる物理的バリア、例えば、液の活発な流れが処方物の適用によって抑止された後の乾燥による液の損失を抑制するためのシリコン膜の層などを含むものであり得る。
【0070】
また、処方物は、即時放出または制御放出処方物として投与され得る。遅延放出投薬形態は、薬物(1種類または複数種)を、投与直後である以外の時点で放出するものである。持続放出投薬形態は、慣用的な投薬形態として(例えば、溶液または速放性薬物放出の慣用的な固形投薬形態として)提示される薬物と比べ、投薬頻度の少なくとも2分の1にすることを可能にする。調節放出投薬形態は、その時間、経過および/または位置という薬物放出特性が、慣用的な投薬形態(例えば、液体、軟膏または速やかに溶解する投薬形態など)ではもたらされない治療的または簡便性の目的を果たすように選択されるものである。遅延放出投薬形態および持続放出投薬形態ならびにその組合せは、調節放出投薬形態の型である。
【0071】
マトリクス形成性物質は、水和すると強力な粘性のゲルを形成し、薬物の拡散および放出の制御をもたらす物質である。親水性マトリクス系では、マトリクス形成性物質は、錠剤全体に均一に組み込まれる。水と接触すると、外側の錠剤層が部分的に水和され、ゲル層を形成する。ゲル層からの薬物(1種類または複数種)の拡散速度およびゲル層の侵食速度によって、錠剤全体としての溶解速度および薬物送達速度が決定される。マトリクス形成性物質の例としては、水溶性であるセルロースエーテル、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0072】
処方物は、安全で有効とみなされ、かつ個体に対して望ましくない生物学的副作用または望ましくない相互作用を引き起こすことなく投与され得る物質で構成された薬学的に許容され得る「担体」を用いて調製される。「担体」は、医薬用処方物中に存在する活性成分(1種類または複数種)以外のあらゆる成分である。用語「担体」には、限定されないが、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、充填剤、マトリクス形成性組成物およびコーティング組成物が含まれる。
【0073】
また、「担体」にはコーティング組成物のあらゆる成分(可塑剤、顔料、着色剤、安定化剤および流動促進剤が挙げられ得る)が含まれる。遅延放出投薬処方物は、錠剤およびカプセルならびに錠剤、カプセルおよび顆粒の遅延放出投薬形態を作製するための担体、物質、機器および方法に関する情報が示された「Pharmaceutical dosage form tablets」Libermanら編(New York,Marcel Dekker,Inc.,1989)、「Remington−−The science and practice of pharmacy」第20版,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,Md.,2000、および「Pharmaceutical dosage forms and
drug delivery systems」第6版,Anselら,(Media,Pa.:Williams and Wilkins,1995)などの参考文献に記載のようにして調製され得る。
【0074】
好適なコーティング材料の例としては、限定されないが、セルロースポリマー、例えば、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよび酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど;ポリ酢酸フタル酸ビニル、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、ならびにメタクリル系樹脂(商標名EudragitTM(Roth Pharma,Westerstadt,ドイツ)で市販されている)、ゼイン、セラックならびに多糖類が挙げられる。さらに、コーティング材料には、慣用的な担体、例えば、可塑剤、顔料、着色剤、流動促進剤、安定化薬剤、細孔形成剤および界面活性剤などが含まれていてもよい。薬物含有錠剤、ビーズ、顆粒または粒子中に存在する任意選択の薬学的に許容され得る賦形剤としては、限定されないが、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定剤および界面活性剤が挙げられる。
【0075】
希釈剤(「充填剤」ともいう)は、典型的には、錠剤の圧縮またはビーズおよび顆粒の形成のための粒子径が提供されるように固形投薬形態の嵩を増大させるのに必要である。好適な希釈剤としては、限定されないが、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微晶質セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解されたデンプン、アルファー化デンプン、二酸化ケイ素(silicone)、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウムおよび粉糖が挙げられる。
【0076】
結合剤は、粘着凝集特性を固形投薬処方物に付与し、したがって、錠剤またはビーズまたは顆粒が、投薬形態の形成後も無傷な状態で維持されることを確実にするために使用される。好適な結合剤物質としては、限定されないが、デンプン、アルファー化デンプン、ゼラチン、糖類(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトースおよびソルビトール)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然および合成ゴム(例えば、アカシア、トラガカントなど)、アルギン酸ナトリウム、セルロース、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、およびビーガム、ならびに合成ポリマー、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸アミノアルキルコポリマー、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸ならびにポリビニルピロリドンが挙げられる。結合剤として好適な物質の一部は、マトリクス形成性物質としても使用され得る(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロースおよび微晶質セルロースなど)。
【0077】
滑沢剤は、錠剤またはオブラートの製造を容易にするために使用される。好適な滑沢剤の例としては、限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルクおよび鉱油が挙げられる。
【0078】
崩壊剤は、投与後の投薬形態の崩壊すなわち「解体」を助長するために使用され、一般的に、限定されないが、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファー化デンプン、クレイ、セルロース、アルギニン、ゴムまたは架橋ポリマー(例えば、架橋PVP(PolyplasdoneTM XL、GAF Chemical Corp製)など)が挙げられる。
【0079】
安定化剤は、薬物分解反応(一例として、酸化性反応が挙げられる)を抑制または遅滞させるために使用される。
【0080】
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性表面活性剤であり得る。好適なアニオン性界面活性剤としては、限定されないが、カルボン酸、スルホン酸および硫酸イオンを含有するものが挙げられる。アニオン性界面活性剤の例としては、長鎖アルキルスルホン酸およびアルキルアリールスルホン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウム塩、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム;スルホコハク酸ジアルキルナトリウム(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど);スルホコハク酸ジアルキルナトリウム(ビス−(2−エチルチオキシル)−スルホコハク酸ナトリウムなど);およびアルキル硫酸塩(ラウリル硫酸ナトリウムなど)が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、限定されないが、第4級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレンおよびココナッツアミンなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、エチレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールミリステート、グリセリルモノステアレート、ステアリン酸グリセリル、ポリグリセリル−4−オレエート、アシル化(acylate)ソルビタン、アシル化スクロース、PEG−150ラウレート、PEG−400モノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコール ブチルエーテル、PoloxamerTM 401、ステアロイルモノイソプロパノールアミドおよびポリオキシエチレン水素添加獣脂アミドが挙げられる。両性界面活性剤の例としては、N−ドデシル−β−アラニンナトリウム、N−ラウリル−β−イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンフォアセテート(myristoamphoacetate)、ラウリルベタインおよびラウリルスルホベタインが挙げられる。
【0081】
また、所望により、錠剤、ビーズ、顆粒または粒子には、少量の無毒性の補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、染料、pH緩衝剤および保存剤などを含めてもよい。
【0082】
持続放出処方物は、一般的に、例えば、「Remington −− The science and practice of pharmacy」(第20版,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,2000)に記載のような拡散系または浸透系として作製される。拡散系は、典型的には、2つの型のデバイス:リザーバおよびマトリクスからなり、当該技術分野でよく知られ、報告されている。マトリクスデバイスは、一般的に、薬物を低速溶解性ポリマー担体とともに圧縮して錠剤形態にすることにより作製される。マトリクスデバイスの作製に使用される主な3つの型の物質は、不溶性プラスチック、親水性ポリマーおよび脂肪族化合物である。プラスチック系マトリクスとしては、アクリル酸メチル−メタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニルおよびポリエチレンが挙げられる。親水性ポリマーとしては、セルロース系ポリマー、例えば、メチルおよびエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、例えば、ヒドロキシプロピル−セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ならびにCarbopolTM 934、ポリエチレンオキシドならびにその混合物が挙げられる。脂肪族化合物としては、限定されないが、種々のワックス、例えば、カルナバワックスおよびトリステアリン酸グリセリルならびにワックス型物質、例えば、水素添加ヒマシ油もしくは水素添加植物油またはその混合物が挙げられる。ある特定の実施形態において、プラスチック系材料は薬学的に許容され得るアクリル系ポリマーであり、限定されないが、アクリル酸およびメタクリル酸のコポリマー、メタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸シアノエチル、メタクリル酸アミノアルキルコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミンコポリマーポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸)(無水物)、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸無水物)、およびグリシジルメタクリレートコポリマーが挙げられる。ある特定の実施形態において、アクリル系ポリマーは、1種類以上のアンモニオメタクリレートコポリマーで構成されたものである。アンモニオメタクリレートコポリマーは当該技術分野でよく知られており、NF XVIIに、低含量の第4級アンモニウム基を有するアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの完全に重合されたコポリマーとして記載されている。
【0083】
あるいはまた、持続放出処方物は、浸透系を用いて、または投薬形態に半透過性コーティングを施すことにより調製され得る。後者の場合、所望の薬物放出プロフィールは、低透過性コーティング材料と高透過性コーティング材料を適当な割合で組み合わせることにより達成され得る。
【0084】
即時放出部分は持続放出系に、即時放出層を持続放出コアの上面にコーティングプロセスもしくは圧縮プロセスを用いて適用すること、または多重単位系(例えば、持続放出ビーズおよび即時放出ビーズを含有するカプセルなど)にてのいずれかによって添加され得る。親水性ポリマーを含有する持続放出錠剤は、一般に当該技術分野で知られた手法、例えば、直接圧縮、湿式造粒または乾式造粒などによって調製される。その処方物には、通常、医薬活性成分に加えてポリマー、希釈剤、結合剤および滑沢剤が組み込まれる。通常の希釈剤としては、不活性な粉末状物質、例えば、デンプン、粉末セルロース、特に、結晶質および微晶質セルロース、糖類(例えば、フルクトース、マンニトールおよびスクロースなど)、穀類粉ならびに同様の食用の粉末などが挙げられる。典型的な希釈剤としては、例えば、種々の型のデンプン、ラクトース、マンニトール、カオリン、カルシウムのリン酸塩または硫酸塩、無機塩(例えば、塩化ナトリウムなど)および粉糖が挙げられる。粉末セルロース誘導体もまた有用である。典型的な錠剤結合剤としては、デンプン、ゼラチンならびに糖類(例えば、ラクトース、フルクトースおよびグルコース)などの物質が挙げられる。天然および合成ゴム、例えば、アカシア、アルギン酸塩、メチルセルロースおよびポリビニルピロリドンもまた使用され得る。ポリエチレングリコール、親水性ポリマー、エチルセルロースおよびワックスもまた、結合剤として供され得る。滑沢剤は、錠剤処方物において、錠剤およびパンチがダイ内に固着するのを抑制するために必要である。滑沢剤は、タルク、マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ならびに水素添加植物油などの滑性固形物から選択される。ワックス材料を含有する持続放出錠剤は、一般的に、当該技術分野で知られた方法、例えば、直接ブレンド法、凝固法および水性分散法などを用いて調製される。凝固法では、薬物をワックス材料と混合し、噴霧凝固または凝固のいずれかを行ない、選別し、加工処理する。
【0085】
特定のコーティング材料に好ましいコーティング重量は、当業者によって、種々の量の種々のコーティング材料を用いて調製した錠剤、ビーズおよび顆粒について個々の放出プロフィールを評価することにより容易に決定され得る。所望の放出特性をもたらすのは、材料、適用方法および適用形態の組合せであり、これは、臨床試験からのみ決定され得る。コーティング組成物には、慣用的な添加剤、例えば、可塑剤、顔料、着色剤、安定化剤、流動促進剤などが含まれていてもよい。可塑剤は、通常、コーティングの脆性を低減するために存在させ、一般的に、該ポリマーの乾燥重量に対して約10重量%〜50重量%に相当する。典型的な可塑剤の例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチルアセチル、ヒマシ油およびアセチル化モノグリセリドが挙げられる。安定化剤は、好ましくは、分散液中で粒子を安定化させるために使用される。典型的な安定化剤は非イオン性乳化剤、例えば、ソルビタンエステル、ポリソルベートおよびポリビニルピロリドンなどである。流動促進剤は、膜形成および乾燥時の固着効果を低減するのに推奨され、一般的に、コーティング溶液中のポリマー重量のほぼ25重量%〜100重量%に相当する。有効な流動促進剤の一例はタルクである。他の流動促進剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびグリセロールモノステアレートなどもまた使用され得る。二酸化チタンなどの顔料もまた使用され得る。また、少量の泡消剤、例えば、シリコーン(例えば、シメチコン)をコーティング組成物に添加してもよい。
【0086】
ポリマーマトリクス
非生分解性マトリクスおよび生分解性マトリクスの両方が自己集合性ペプチドの送達に使用され得るが、生分解性マトリクスが好ましい。これらは天然または合成のポリマーであり得るが、分解および放出プロフィールの特性がより良好なため、合成ポリマーが好ましい。ポリマーは、放出が所望される期間に基づいて選択される。ある場合では線形放出が最も有用であり得るが、別の場合では、パルス放出または「バルク放出」がより有効な成績をもたらし得る。ポリマーはヒドロゲル(典型的には、約90重量%までの水分を吸収する形態)の形態であり得、任意選択で、多価イオンまたはポリマーにより架橋されたものである得る。
【0087】
送達のために使用され得る代表的な合成ポリマーとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリハロゲン化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそのコポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル系エステルとメタクリル系エステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレンならびにポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0088】
非生分解性ポリマーの例としては、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、コポリマーおよびその混合物が挙げられる。生分解性ポリマーの例としては、合成ポリマー、例えば、乳酸とグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪(butic)酸)、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド−コ−カプロラクトン)など、ならびに天然ポリマー、例えば、アルギン酸塩ならびに他の多糖類、例えば、デキストランおよびセルロース、コラーゲン、その化学誘導体(化学基、例えば、アルキル、アルキレンの置換、付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって常套的に行われる他の修飾)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミンンおよび疎水性タンパク質、コポリマーならびにその混合物などが挙げられる。一般に、これらの物質は、酵素的加水分解またはインビボでの水分への曝露のいずれかによって、表面侵食または全体(bulk)侵食により分解される。
【0089】
特に重要な生体接着性ポリマーとしては、H.S.Sawhney、C.P.PathakおよびJ.A.HubellによるMacromolecules,1993,26,581−587に記載された生体侵食性ヒドロゲル、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、およびポリ(アクリル酸オクタデシル)が挙げられる。
【0090】
マトリクスはミクロスフィアなどの微粒子の形態であり得、この場合、ペプチドは固形ポリマーマトリクスまたはマイクロカプセルの内部に分散されており、そのコアはポリマー殻と異なる物質で構成され、ペプチドはコア(自然状態で液状もしくは固形であり得る)内に分散または懸濁されている。本明細書において特に規定の限り、微粒子、ミクロスフィアおよびマイクロカプセルは互換的に使用する。あるいはまた、該ポリマーは、薄板もしくは薄膜(ナノメートルから4センチメートルの範囲に及ぶ)として注型されたもの、磨砕もしくは他の標準的な手法によって作製される粉末、さらにはヒドロゲルなどのゲルであり得る。ポリマーはまた、ステントもしくはカテーテル、代用血管または他のプロテーゼデバイスのコーティングまたは一部分の形態であり得る。
【0091】
マトリクスは、溶媒エバポレーション、噴霧乾燥、溶媒抽出および当業者に知られた他の方法によって形成され得る。生体侵食性ミクロスフィアは、例えば、MathiowitzおよびLanger,J.Controlled Release 5:3−22(1987);Mathiowitzら,Reactive Polymers 6:275−283(1987);ならびにMathiowitzら,J.Appl.Polymer Sci.35:755−774(1988)に記載のような、薬物送達用ミクロスフィア作製のために開発された任意の方法を用いて調製され得る。方法の選択は、ポリマーの選択、大きさ、外観形態ならびに、例えば、Mathiowitzら.,Scanning Microscopy 4:329−340(1990);Mathiowitzら,J.Appl.Polymer Sci.45:125−134(1992);およびBenitaら.,J.Pharm.Sci.73:1721−1724(1984)に記載のような望ましい結晶化度に依存する。溶媒エバポレーションでは、例えば、Mathiowitzら,(1990),Benitaら.(1984)およびJaffeに対する米国特許第4,272,398号に記載のように、ポリマーを揮発性有機溶媒に溶解させる。可溶性形態または微粒子分散状態のいずれかであるペプチドをポリマー溶液に添加し、混合物を、ポリ(ビニルアルコール)などの表面活性剤を含有する水相中に懸濁する。得られたエマルジョンを、大部分の有機溶媒が蒸発して固形のミクロスフィアが残るまで攪拌する。一般に、ポリマーは塩化メチレンに溶解させるのがよい。種々の大きさ(1〜1000ミクロン)および形態を有するミクロスフィアが、比較的安定なポリマー(例えば、ポリエステルおよびポリスチレンなど)に有用なこの方法によって得られ得る。しかしながら、ポリ無水物などの不安定性ポリマーは水分への曝露によって分解され得る。このようなポリマーでは、ホットメルトカプセル封入および溶媒除去が好ましいことがあり得る。
【0092】
ホットメルトカプセル封入では、まず、ポリマーを溶融し、次いで、固形粒子のペプチドと混合する。混合物を、シリコン油などの非混和性溶媒中に連続攪拌しながら懸濁し、ポリマーの融点の5℃上まで加熱する。エマルジョンが安定化されたら、ポリマー粒子が固化するまで冷却する。得られたミクロスフィアを石油エーテルでのデカンテーションによって洗浄し、流動性の粉末を得る。1〜1000ミクロンの直径を有するミクロスフィアがこの方法に得られ得る。この手法で調製される球体の外側表面は、通常、平滑で緻密である。この手順は、水不安定ポリマーでは有用であるが、1000〜50000の分子量を有するポリマーを伴う使用に対しては限定的である。溶媒除去は、主に、ポリ無水物での使用のために設計された。この方法では、薬物を、選択されたポリマーの揮発性有機溶媒(塩化メチレンなど)の溶液中に分散または溶解させる。次いで、混合物を攪拌することによりシリコーン(silicon)油などの油に懸濁させ、エマルジョンを形成する。24時間以内に、溶媒は油相中に拡散し、エマルジョン液滴が硬化して固形のポリマーミクロスフィアとなる。溶媒エバポレーションとは異なり、この方法は、高融点および広範な分子量を有するポリマーからミクロスフィアを作製するために使用され得る。1〜300ミクロンの直径を有するミクロスフィアがこの手順で得られ得る。該球体の外観形態は、使用されるポリマーの型への依存性が高い。噴霧乾燥では、ポリマーを塩化メチレン(0.04g/ml)に溶解させる。既知量の活性薬物を、ポリマー溶液に懸濁(不溶性の場合)または共溶解(可溶性の場合)させる。次いで、溶液または分散液を噴霧乾燥する。二重壁型ミクロスフィアは、Mathiowitzに対する米国特許第4,861,627号に従って調製され得る。
【0093】
ゲル型ポリマー(例えば、アルギン酸塩もしくはポリホスファジンまたは他のジカルボン酸系ポリマーで作製されたヒドロゲルミクロスフィアは、ポリマーを水溶液中に溶解し、該物質を懸濁させて混合物中に組み込み、ポリマー混合物を、窒素ガス噴出口を備えた微小液滴形成装置に通して押出成形することにより調製され得る。得られるミクロスフィアは、例えば、Salibら,Pharmazeutische Industrie 40−11A,1230(1978)に記載のような、低速攪拌イオン硬化浴中で落下する。キトサンミクロスフィアは、ポリマーを酸性溶液に溶解し、トリポリホスフェートと架橋することにより調製され得る。例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)ミクロスフィアは、ポリマーを酸溶液に溶解し、鉛イオンでミクロスフィアを沈殿させることにより調製され得る。アルギネート/ポリエチレンイミド(PEI)を調製すると、アルギネートマイクロカプセルのカルボキシル基の量が低減され得る。
【0094】
他の送達系、例えば、膜、コーティング、ペレット、板状体(slab)およびデバイスは、溶媒または溶融体流延法および押出成形、ならびに複合材料の標準的な作製方法を用いて作製され得る。ポリマーは、まず、モノマーとSawhneyら.に記載のPEPTIDESを混合し、モノマーをUV光で重合させることにより作製され得る。重合は、インビトロでもインビボでも行なわれ得る。
【0095】
D.投与用デバイス
液状処方物は、自己集合性ペプチドを含む組成物を入れたバレルと、該組成物をシリンジまたはピペット開口先端から噴出させるための手段(例えば、プランジャーまたは弁)とを有するシリンジまたはピペットにて提供され得る。シリンジは、自己集合性ペプチドと1種類以上他の薬剤の混合が適用時に行なわれるように1つ以上の区画(例えば、シリンジバレルの長軸に沿って対称または非対称に延在する分割部によって作出される)からなるものであり得る。また、該区画は、賦形剤、例えば、ヒドロゲルまたは接着剤を形成する材料などを第1の区画内に、および自己集合性ペプチドを第2の区画内に含み得る。別の実施形態において、第1の区画は、凍結乾燥された自己集合性ペプチドまたは自己集合性ペプチド粒子を入れたものであり得、第2の区画は、該ペプチドまたは乾燥適用される粉末を溶解または水和させるための溶液を入れたものであり得る。バレル内の組成物は、本発明に記載の任意の他の非線維性因子(例えば、血管収縮薬、着色剤、麻酔剤もしくは鎮痛剤、抗菌薬(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤もしくは抗真菌剤)または他の治療薬、コラーゲン、抗炎症剤、増殖因子または栄養素の1種類以上)をさらに含むものであり得る。また別の実施形態において、該物質はゲル化され、スパチュラなどの器具を用いて適用され得る。
【0096】
II.投与方法
本明細書に記載の任意の薬剤、例えば、細胞、治療用、予防用または診断用化合物(例えば、抗生物質および増殖因子など)は、インビトロまたはインビボで自己集合する前にペプチド溶液中に導入するのがよく、成形前(pre−molded)構造体は、これらの薬剤の1種類以上を含むものであり得、任意選択で、滅菌物質中に包装され得る、および/または使用のための取扱い説明書が備えられ得る。該物質は予防的に、またはさらなる薬剤の非存在下での処置として使用され得る。該生物活性薬剤は、骨格全体にほぼ均一に分布させてもよく、一領域または別の領域に濃縮してもよい(例えば、表面上もしくは表面付近、コア領域内、骨格もしくはその一領域全体に勾配的に、または内部に層状に(例えば、層状で濃縮または均一もしくは不均一に分布))。構造体内での物質のほぼ均一な分布を達成するため、前駆物質含有溶液と該物質(これはまた、自己集合開始前の溶液状であり得る)を混合してもよい。
【0097】
A.投与部位
該物質はさまざまな異なる表面に、液の通過を抑制もしくは制御するため(例えば、止血を促進するため)、またはバリアとしての機能を果たすため(例えば、汚染を低減するため)に適用され得る。自己集合性薬剤の量は、一部、液の流量の制御における該物質の機能、ならびに自己集合性ペプチドと関連する任意の他の物質または構造体(単独もしくは他の生物活性物質との組合せ)の特性によって決定される。
【0098】
第1の実施形態において、該物質は、出血を抑制または制御するために使用される。該物質は、液体、ゲルとして、または包帯もしくは膜などの基材の一部として適用され得る。したがって、処方物は血管に、管腔内(例えば、血管形成術の際にステントもしくはカテーテル上にコーティングすることによって、もしくは上面のコーティングとして投与)、または血管の外面、典型的には吻合部位のいずれかに適用され得る。該物質は組織に、手術前、手術中または手術後に、出血を抑制するため(出血は、肝臓、腎臓もしくは脾臓などの組織、または輸血が指示されるリスクが高い他の手術では特に問題である)、または組織(例えば、移植のために選択もしくは採取された組織、または再付着に適した組織(例えば、切断された指))を密閉および保護するために適用され得る。
【0099】
該物質はまた、硝子体液中での出血(hemorrhage/bleeding)を抑制するため(すなわち、止血を促進するため)の目における使用に特に充分に適している。該物質が有益なはずである他の手術としては、角膜移植、結膜の手術および緑内障手術が挙げられる。該物質は、透明であり、外科医が手術の際に該物質を通しても見えるため、手術の際に特に好都合である。
【0100】
該物質は、血液以外の液の流れを抑止または妨害するために使用され得る。該物質は、間質液の漏出を抑止または妨害するために火傷に適用され得る。該物質は硬膜または肺に、硬膜または肺用シーラントとして適用され得る。
【0101】
また、該物質は、一般的な口腔手術、歯周病処置(periodontistry)、および一般的な歯学的処置において、バリアとして、および出血の制御または抑制のための両方に利用され得る。
【0102】
凝固障害(血友病、フォン・ヴィレブランド病、ビタミンK、プロテインSまたはプロテインC欠損症、劇症肝炎、播種性血管内凝固症候群(「DIC」)、溶血性尿毒症症候群(「HUS」))個体における該物質の使用もまた、その作用機序が通常の凝固経路とは独立しているため、重要な利用である。
【0103】
別の実施形態において、該物質は腫瘍などの組織の外面に、手術時の破断または転移を抑制するために適用される。該物質の利点の1つは、所定に注射されるとゲル化し得ることである。その結果、該物質は、必要に応じて、手術中に適用および再適用され得る。
【0104】
さらに別の実施形態において、該物質は、例えば、腸の手術の際に、組織に対する、またはある1つの組織から別の組織へのいずれかの汚染を抑制または低減するバリアとしての機能を果たすことに特に充分に適している。該物質は、手術前もしくは手術中に内部部位、特に洞腔などの部位を作製するため、経尿道手術および経膣手術などの手術のため、ならびに予防薬および/または治療薬として適用され得る。また、該物質は、心血管系手術において特に有用なはずであり、この場合、バリア特性および止血特性の両方が、有害な結果、例えば、弁輪状膿瘍(弁にコーティングする、抗生物質を添加する)、心内膜炎(弁をコーティングする)、動脈根解離(即時の止血を提供する)などになる傾向がある心臓弁患者に価値があり得る。
【0105】
該物質は銀などの金属との組合せで抗癒着特性を有し、血管形成を阻害し得る。したがって、これは、外科処置後に起こる傾向にあるものなどの瘢痕形成および癒着の低減に有用であり得る。該物質は、手術後または火傷などの損傷に、瘢痕形成および/または液の損失を低減するため、ならびに感染または感染リスクを抑えるために適用され得る。これは形成外科手術において、例えば、腹壁形成術、顔のしわとり、皮弁ドナー部位(flap donor site)、乳房再構成のための広背筋において、閉鎖または皮膚移植の前に、特に清浄および創面切除される領域を保護するためのさらなる適用用途を有する。
【0106】
さらに別の実施形態において、該物質は、患者が飲用し得るスラリーとして、胃の出血(例えば、潰瘍からの)を低減するため、または酸性度を低下させるため、または食道の静脈瘤からの出血を抑えるために投与される。あるいはまた、該物質は、痔を処置するため、または憩室内に充填するための注腸剤として提供され得る。
【0107】
また別の実施形態において、該物質は、不妊治療、卵の保存および瘢痕が形成されたファローピウス管の修復のために使用され得る。
【0108】
該物質はまた、血液安定剤または臓器保存物質として使用され得る。
【0109】
該集合は不可逆的でないため、内包された物質は放出され得る。例えば、分子または細胞は、構造体からインビボで放出され得る(例えば、小さな分子は拡散放出され得、大きな分子および細胞は、構造体が分解されると放出され得る)。
【0110】
さらに別の実施形態において、該物質(非線維性および/または治療用薬剤もしくは細胞を含有する処方物を含む)は、神経損傷後の損傷および瘢痕形成を最小限にするための神経保護薬として使用される。ペプチド系構造体は、神経組織の修復および再生を促進する(例えば、U.S.S.N.10/968,790に記載のように、自己集合性ペプチドが脳内の病変に適用される場合)。該骨格内の線維のサイズが小さいこと、および/または該物質が開口「織り合わせ」構造であることにより、細胞プロセスの拡張が可能になり、栄養素および老廃物の充分な拡散が、神経組織の再生に特有の利点が提供される様式で可能になる。
【0111】
ペプチド系構造体(非線維性および/または治療用薬剤もしくは細胞を含有するものを含む)は、損傷領域に適用される場合、非神経組織(例えば、皮膚などの上皮組織)の修復を増強することができる(実施例5参照)。したがって、該組成物は、中枢神経系の外面;脳の外面;または頭蓋腔もしくは脊髄もしくは脊柱の外面の組織に適用され得る。修復により、損傷または悪化(例えば、疾患と関連する悪化)前の組織と類似する状態への組織の解剖学的または機能的回復が構成され得る。修復は、本発明の組成物での処置の非存在下で予測され得るものより優れているはずである。例えば、修復としては、外傷、悪化または他の損傷によって分離された組織の2つの部分間の身体的連続性の復元が挙げられ得る。好ましくは、復元された身体的結合は、不均一な組織(例えば、瘢痕組織など)による認識可能な分離のない組織の部分間の再付着または再結合を含む。
【0112】
創傷修復の促進の過程において、該組成物は、最終結果を改善し得る(例えば、瘢痕形成を低減し、元の組織とよりよく似た結果をもたらす)だけでなく、治癒に要する時間を低減し得る。このような結果は、神経組織と非神経組織間の相当な差を考慮すると、損傷した中枢神経系への適用後に得られる結果に基づいては予測し得なかった。
【0113】
B.有効投薬量
一般に、必要とされる物質の量は種々の要素、例えば、損傷の大きさもしくは程度(これは、同様に切開の長さ、損傷血管の内径もしくは数、火傷の程度、潰瘍の大きさおよび深さ、擦傷または他の損傷に置き換えて表示され得る)などに応じて異なる。この量は、例えば、数マイクロリットル〜数ミリリットル以上(例えば、数十または数百ミリリットル)まで種々であり得る。該物質を送達するために使用されるデバイスは、この量に従って異なる。例えば、シリンジは、少量を送達するのに簡便に使用され得、一方、チューブまたはスクイーズボトルは量が多い場合により適当であり得る。有効量(骨格、その前駆物質、または処方物中に存在する別の生物活性分子のいずれに関しても)は、改善された、または所望の生物学的応答を誘発するのに必要な量を意味する。
【0114】
当業者には認識されるように、薬剤の有効量は、所望の生物学的エンドポイント、送達される薬剤、薬剤が送達される部位の性質、および薬剤の投与対象の状態の性質などの要素に応じて種々であり得る。例えば、止血を加速させるための組成物の有効量は、出血開始時と出血停止時の間の血液損失量を、低温生理食塩水での処置後または処置なしでの血液損失量と比べて少なくとも25%低減するのに充分な量であり得る。止血を加速させるための組成物の有効量はまた、明白な出血の停止が達成されるのに要する時間を、低温生理食塩水での処置後または処置なしで要する時間と比べて少なくとも25%低減するのに充分な量であり得る。創傷治癒を促進するための組成物の有効量は、病変の大きさの所定の割合の縮小が達成されるのに要する時間を、かかる処置の非存在下で要する時間と比べて少なくとも25%低減するのに充分な量であり得る。
【0115】
提供される組成物の量は、被験体の状態の重症度に応じて種々であり得、望ましくない移動を被験体に有益な程度まで抑制するのに充分であるのがよい。生体物質は、血液、脳脊髄液、膿、漿液性滲出液、胆汁、膵液、または胃腸管(例えば、胃もしくは腸)あるいは尿路内に通常存在する内容物であり得る。
【0116】
C.投与方法
該組成物は、被験体の身体の表面上に提供され得る、および/または力によって(例えば、不測の外傷または外科的処置によって)生成される腔内に提供され得る。このようにして、望ましくない生体物質の移動は、広範な状況、例えば、外傷性の損傷、病状(例えば、出血と関連する慢性もしくは長期の病状)、または外科的処置(例えば、整形外科手術、歯科手術、心臓手術、眼科手術、または整形外科もしくは再構築手術)において抑制され得る。例えば、望ましくない生体物質の移動が外傷の結果である場合、被験体は、一部もしくは完全に切断された身体部分、裂傷、擦傷、刺創または火傷を有する被験体であり得る。該組成物が身体表面に適用される場合、これは、望ましくない生体物質の移動を抑制し得るだけでなく、汚染からの被験体の保護を補助し得る。例えば、自己集合性薬剤を皮膚に適用することで、創傷内への皮膚または毛髪上の望ましくない異物の移動が妨げられる。望ましくない生体物質の移動が慢性の病状に起因する場合、被験体には、再発性の出血が起こり得る。例えば、被験体は、静脈瘤、例えば、毛細血管拡張症、痔、肺内の出血(例えば、肺癌、気管支炎、または細菌性もしくはウイルス性疾患、例えば、肺炎もしくはインフルエンザによる)、または食道の静脈瘤と関連する出血が起こっている被験体であり得る。再発性の出血と関連する病状は、本明細書に記載の組成物、例えば、自己集合性ペプチドおよび血管収縮薬(例えば、フェニレフリン、これは組成物の約0.25〜0.5%を構成し得る)を含有するもので処置され得る。出血が口腔咽頭内(oropharnyx)または肺内で起こる場合、該組成物は定量吸入器により投与され得る。患者の状態が人工換気が必要とされる程度まで悪化している場合、該組成物は、レスピレータにより、または洗浄によって投与され得る。
【0117】
また、望ましくない生体物質の移動は外科的処置の際にも起こり得、その外科的処置は、被験体の神経系、目、耳、鼻、口、咽頭、呼吸器系、心血管系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、筋骨格系、肝臓または外皮内での切開を伴うものであり得る。該方法は、生体物質の移動が意図的であったか否かに関係なく行なわれ得る。本明細書に記載の組成物は、望ましくない移動が起こる前または後に適用され得る(例えば、血管の意図的な横方向の切開前または血管の意図的でない横方向の切開後の外科的処置中)。例えば、外科的処置は、動脈瘤を修復する、脳内の出血を妨げる、食道の静脈瘤を処置する、潰瘍を処置する、または胃内容物もしくは腸内容物の損失(例えば、腫脹もしくは破裂した虫垂から)を抑制する意図を伴って行なわれ得る。外科的処置は、被験体の腸の一部の切除を伴うものであり得る。自己集合性薬剤を含む組成物の補助を伴って行なわれ得る他の処置としては、動脈造影、心臓カテーテル法、ステントの挿入、自然分娩もしくは帝王切開による分娩、子宮摘出術、臓器移植、関節置換での補助、または椎間円板の切除(もしくは他の操作)が挙げられる。これらの処置は代表的なものである。外科的処置は内視鏡または腹腔鏡の補助を伴って行なわれ得、該組成物は独立して送達され得るか、またはこれらの器具内に配置され、遠心端部と接続されたチャンバから被験体の組織上への放出のための通路によって送達され得る。患者が潰瘍を有する場合、その潰瘍は、食道、胃、十二指腸、糖尿病性または褥瘡性の潰瘍であり得る。より一般的には、該組成物は、破壊された任意の皮膚領域に適用され得、本明細書に記載の任意の方法は、処置を必要とする患者を同定する工程を含み得る。
【0118】
自己集合性ペプチドナノ繊維骨格(SAPNS)は、手術野に透明な環境を提供する一方、生成した液体およびゲルミックスを通しても手術が可能である光学的に透明な液体も作出し得る。手術野は多くの場合、手術中、血液および残屑でよく見えない。また、残屑を手術野から取り除くことは、通常、生理食塩水による該部位の灌注を必要とする。生理食塩水は一時的な溶液にすぎず、手術野を透明に維持するには連続的に適用する必要がある。これは、いくつかの問題点を呈する:汚染が存在すれば容易に広がる;開口部が小さいことにより、灌注と手術を交互に行なう必要がある;および腸の手術中では、生理食塩水の使用により大量感染がもたらされ、術後に合併症が引き起こされ得る。SAPNSを生体限局部に使用することで、内視鏡および直視下での外科的処置における術後の合併症が低減される。有効性は、脳、脊髄、胃腸管、肝臓、筋肉、動脈および静脈で実証された。
【0119】
例えば、部分切除は、現在、以下のようにして行なわれている。外科医は、前癌性領域を除去するために腸の部分切除を行なう。切開を行ない、腸を腹腔から静かに取り出し、患者の横の台の上に置く。障害部分を切除し、次いで、腸の両端を結紮して合わせる。腸を体内に戻す前に結腸瘻バッグを腸の上端に装着し、手術野を消毒する。腸を腹部内に戻し、縫合する。漏出または出血がないことを確認するため、排液管を腹部内に配置する。対照的に、自己集合性ペプチド物質を用いると、部分切除は、以下のようにして行なわれる。医師は腹部を開き、腸の障害部分を見つけ出す。これは、腹腔内に注入されるさらなる液体により、腹腔の他の部分から分離される。外科医は、該液体によって形成されたゲルを通して該腸部分に手を伸ばし(reach)、切除する。両端を結紮して合わせ、該領域を色の変化があるかについて確認する(ゲルはまた、胃液の漏出または細菌があれば色変化を起こす(例えば、青に)指示薬色素を有するものであり得る)。着色された物質を除去する(例えば、吸引により)。さらに少量の物質を、腹部を縫合する前に該修復領域の周囲に噴霧してもよい。まとめると、自己集合性ペプチド物質は、手術を行なうためのより清浄な局所環境を作出するため;構造体を分離し、汚染物質の移動を妨げるため;外科的処置の構造体(例えば、腸)を膨張させるため;除去対象で漏出を起こし得る構造体(例えば、虫垂)を覆うため;体内の孔を繕うため;汚れた環境でのより良好な外科処置結果を可能にするため;漏出を伴い得る手術の前に臓器を覆う内視鏡(scope)使用処置を容易にするため;腹部手術を行なう際に癒着を抑制または妨げるバリアを作出するために使用され得、内視鏡と該内視鏡の挿入点との間にパッキング(gasket)を形成するために使用され得る。有益性としては、以下:該物質は、光学的に透明である、室温で長い貯蔵寿命を有する、これを通しても手術が可能である、準備時間が短縮される、スポンジの計数(counting sponge)が排除される、手術野内で各構造体が分離される、手術室の清掃時間が短縮される、外科手術時間が短縮される、他の灌注物によって引き起こされる交差汚染が低減もしくは排除される、の1つ以上が挙げられ得る。さらに、該物質は生体適合性であり、その分解生成物は、自然なままであり得、体内に吸収され得る。該物質はまた、操作が簡単である、必要な位置に注射され得る、ブドウ球菌感染もしくは感染リスクを低減する、外科の現場の消耗品(例えば、紙など)のコストを削減し得る、および該物質は、手術後、滅菌のために煮沸して蒸気とし得るため、バイオハザードバッグを少なくし得るものである。該物質は透明であるため、手術野に血液がないことから外科医がより速やかに手術を行なうのを可能にするはずである。出血を抑制するための創傷パッキングの排除により、手術時間は複雑な場合において50%も低減され得る。二次感染による術後感染は、術中および術後に創傷がコーティングされており、したがって、異物による汚染が低減され得るため、該物質の使用によって低減され得る。術後ケアでは、該物質は、腹部または胸部の腔内での微粒状物質の拡散を遅滞させることにより望ましくない排液による感染を低減するために使用され得る。
【0120】
該組成物は、適用部位(例えば、出血している血管)から任意の時点で除去され得るが、医師は、所望により、当初の止血促進の目的が達成された後であっても(例えば、創傷治癒を促進させるため)、所定の位置に残したままにすることがあり得る。
【0121】
該組成物が自己集合性ペプチドを含む場合、該ペプチドは、記載のような天然に存在し体内に吸収され得るアミノ酸残基を含有するものであり得、該組成物は、操作が困難でなく、随時容易に調剤され得る。その特徴(例えば、剛性)は、内包された成分の濃度を変えることにより(例えば、所与の組成物中の自己集合性ペプチド濃度を変えることにより)容易に改変され得る。得られる集合構造体は、下側にある組織の視界を有意に損なわず、処置を行なう前後で除去する必要がないため、該物質を通しても創傷の評価を行なうことができる。例えば、医師は、本明細書に記載の組成物で処置済みの火傷または該領域内の他の表面外傷の評価を行なうことができる。手術室において、外科医は、最初に該物質を通して切開を行ない、標準的な機器(例えば、メスおよび鉗子など)、またはより現代的な手段(例えば、レーザーなど)を用いて内部領域(ここにも該組成物が既に適用されていることがあり得る)で手術を継続することができる。該組成物は、切開部位の周囲に適用され、感染性因子から保護するコーティングを形成し得るため、患者の皮膚の剃毛、無菌布の適用、および消毒薬の適用を行なう必要性が低くなる。
【0122】
集合した骨格の構造的完全性を考慮すると、所望により、これを、形成された領域から除去することができる。したがって、集合体骨格は、例えば、吸引によって、または器具(例えば、鉗子など)を用いて除去すること、もしくは綿棒あるいはガーゼで拭き取ることにより除去され得る。例えば、該骨格は、止血達成後、または創傷清浄化の過程で除去され得る。これまでの研究に基づくと、該骨格またはその大部分は、下側にある組織を損傷することなく除去され得る。集合体骨格をエキソビボで形成させた場合、これは、鋳型から取り出すことができ、続けて使用(例えば、組織または組織間隙内に埋入)することができる。該組成物により、後に廃棄または清浄を必要とする材料(例えば、外科用無菌布、スポンジおよび他のバイオハザード材料)の量が低減されるはずである。「ナノ無菌布」は、例えば、患者または外科的切開部周囲にスプレーあるいは塗布することにより、患者に直接適用後の感染を抑制することにより、伝統的な紙または布の無菌布の代用として使用され得る。現在、患者は、手術台上に寝かせた後、剃毛、洗浄、消毒および無菌布で覆うことにより手術の準備がなされる。次いで、殺菌薬およびテープが、手術が行なわれる領域に適用される。自己集合性組成物は、液状の処方物(加温してもよい)を身体上に噴霧することにより無菌布の代わりに適用され得、身体上で該処方物が自己集合して薄膜コーティング(すなわち「第2の皮膚」)となる。好ましくは、該物質は、任意の細菌(例えば、Staphylococcus aureus)より小さい孔径(または平均孔径)を有する。該孔径により、汚染、例えば、患者の皮膚または創傷に達することによる空気媒介汚染が妨げられる。コーティングまたは第2の皮膚は、少なくともまたは約1ミリメートル厚であり得、該物質は抗菌剤(例えば、低刺激性の抗殺菌薬)を含有し得る。皮膚に適用されるものである場合はいつでも、該物質はまた、皮膚に対して水和性の成分を含むものであり得、そのため乾燥しない。
【0123】
該骨格(例えば、ナノスケール構造体物質)は、被験体(例えば、ヒト患者)に該骨格の前駆物質を、該骨格が所望される位置またはその位置付近(例えば、生体物質の移動もしくは漏出を制御するため、創傷を保護するため、または組織修復を促進するため)に導入することにより提供され得る。前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)は、標的領域(例えば、出血している血管、消化管の疾患部分または皮膚の火傷部分)に充分近い位置に提供される場合、標的領域に有効量で到達する位置付近に提供される。前駆物質は、均一でも不均一でもよく(例えば、単一の型の自己集合性ペプチドまたは2種類以上の異なるかかるペプチドの混合物として適用され得る)、組成物内に内包され得、生理学的条件で接触すると、集合して該骨格(例えば、ナノスケール構造体物質)を形成する。したがって、前駆物質は原位置(すなわち、被験体の体内の投与位置またはその付近)で集合するものであり得る。
【0124】
ナノスケール構造体物質またはその集合体は、原位置に存在するさらなる成分(例えば、イオン)を含み得る。したがって、自己集合性ペプチドなどの前駆物質は、実質的にイオンを含まない(例えば、実質的に1価のカチオンを含まない)溶液で適用され、体内(例えば、血液、胃腸内容物などの生体物質中)のかかるイオンと接触すると、自己集合して巨視的構造体を形成し得る。例えば、前駆物質を含有する溶液は、胃または腸の穿孔部位または外科的切開が行なわれた、もしくは行なわれる部位またはその付近に適用され得る。
【0125】
また、該骨格はゲルの形態で提供され得、前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)は、組成物を標的領域(例えば、外科的処置のための切開が行なわれる部位)に導入する前に集合させ得る。集合させた構造体は任意の簡便な形状をとり得る。
【0126】
また、該骨格は、乾燥粉末の形態の前駆物質を提供することにより提供され得る。「乾燥」粉末は、比較的低い液状分を有する(例えば、内部の粒子が容易に分散可能であるのに充分に低い)。乾燥粉末の形態で提供される自己集合性ペプチドは、1価のカチオンを含有する体液と接触すると集合し、所望により、該骨格が形成される速度またはその剛性を改変するために、かかるイオンを含有する溶液が添加され得る。自己集合性ペプチドは、エマルジョンとして提供され得るか、または上記のように事前に形成される形状に注型され得、これは、外科用スポンジが現在使用されている様式と同様の様式で体腔内または創傷部位に挿入され得る。所望により、結合剤を乾燥粉末に添加してもよく、次いで、これを所望の形状に形成させ得る。該骨格を集合させる厳密な様式に関係なく、(例えば、前駆物質を含有する液状処方物を身体と接触させようが、乾燥粉末をイオン含有溶液とエキソビボで接触させようが)、形成される骨格は、所望の形状をとり得る。大きさおよび形状が、骨格が血管腔を満たすようなものである場合、該骨格は血管栓として使用され得る。
【0127】
予防的手段は、被験体が望ましくない事象を起こす前(例えば、損傷が起こる前もしくは出血が始まる前)に行なわれ得る。したがって、投与部位は、潜在的な移動または潜在的な漏出の部位であり得、適用は、かかる移動または漏出を予防するため、または起こった場合は最小限にするために行なわれ得る。治療的手順または処置の状況で使用される場合、該組成物は、状態(例えば、段階(state)、症候群、疾患、またはその徴候、症状もしくは発現)の進行を逆転、軽減または抑制し得る。被験体の処置方法は、いったん被験体が処置に反応し易い状態を有すると認識されたら、一般的に行なわれ、本明細書に記載の任意の方法は(最良に記載されたものが予防としてであれ、治療としてであれ)、反応し易い被験体(例えば、指示され、後に行なわれる処置または手順を必要とするとみなされる被験体(例えば、出血しているか、または外科的処置の実施が計画されている患者))を同定する工程を含み得る。
【0128】
本明細書に記載の組成物は、被験体内での生体物質の移動、例えば、表皮内もしくは表皮からの移動を抑制するために使用され得るため、該組成物は、手術を行なう状況で使用され得、手術を行なうため、または手術野を作出するための新しい方法と言える。該方法は、行なわれるのが手術の状況であれ、そうでなかれ、処置を必要とする被験体を同定する工程、およびナノスケール構造体物質またはその前駆物質を、望ましくない移動が起こった部位もしくは起こると予想される部位またはその付近に提供する工程を含み得る。投与される組成物の量および内包される自己集合性ペプチドの濃度は、望ましくない生体物質の移動を抑制するのに充分なものであり得る。例えば、外科的処置間近の患者が同定され得、自己集合性ペプチドおよび血管収縮薬、着色剤または局所麻酔剤を含有する生体適合性組成物が、切開または他の侵襲的操作が行なわれる部位もしくは行なわれた部位に提供され得る。罹患される生体物質は、血液または血液製品、漿液性滲出液(大部分が血漿で構成される炎症関連滲出液、これは、典型的には透明または琥珀色の液の外観である)、膿、胃液、尿、胆汁、脳脊髄液(CSF)、膵液などの液であり得る。生体物質は、粘性、泥様または半固形であり得るが、一般的に、流動または移動する能力を示す。この性質の物質としては、胃腸管の内容物が挙げられる。該組成物は、適用後(例えば、止血が達成された後、または腸に対する手術が終了後)除去してもよく、所定の位置に放置してもよい。例えば、該組成物は手術の際に止血を加速させるため、または腸内容物の移動を抑制するために適用され得、該骨格の一部または全部が、手術が終了すると、所定の位置に放置され得る。これにより、閉鎖前に除去しなければならないスポンジおよび他の物質の使用と比べて相当な利点が提供される。該組成物は、さまざまな方法で(例えば、拭き取りまたは吸引によって)除去され得る。
【0129】
また、該組成物は、基底領域(underlying area)(例えば、火傷あるいは損傷した皮膚または他の組織の一領域)を保護するために適用され得、したがって、汚染(例えば、異物)が該領域と接触するのを妨げるのを補助し得る(すなわち、該組成物は、バリアまたは保護体として使用され得る)。医師または他の医療サービス提供者は、該物質を通しても創傷を検査することができ、外科医は、該物質が所定の位置にある状態で、これを通しても手術することができる。次いで、処置中に該物質に負荷された汚染性物質は、該物質を除去することにより除去され得る。
【0130】
該組成物は、最終処置の前に(例えば、罹病者が病院への搬送の待機中または転院(transit)時)、創傷を安定化させるために投与され得る。該組成物は、手術が最適な滅菌に満たない条件下(例えば、野戦病院または滅菌手術室の利用手段が限定的である世界の地域)で行なわれる場合、同様に有用である。該組成物および方法は、このような場合などにおける汚染の可能性が有意に低減される潜在性を有する。
【0131】
また、自己集合性ペプチド物質は麻酔薬との組合せで、処置が行なわれる局所領域に局所適用され得、手術の際、臓器の移動を低減するために、より高い濃度で適用され得る。これにより、全身麻酔薬の負荷が減ることによって、高齢患者に対して認知障害が低減され得る。薄層は、外科医が手術を行なっている組織または皮膚上に噴霧され得る。これは、別々または一緒に適用され得、特定の臓器に対して特定の麻酔薬が投与され得る。皮膚は腸と異なる受容体を有し、特定の麻酔薬の必要性が、各臓器に対して必要である。腸は、手術の際に移動するのを止める必要があるが、血液および血管収縮は一定に維持する必要がある。
【0132】
出血の処置および予防:望ましくない出血(これは、過度または直接生死にかかわるものである場合もあり、そうでない場合もある)に罹患するリスクが増大した任意の個体は、本明細書に記載の組成物で処置され得る。このような個体としては、血友病などの血液凝固障害を有する患者、抗凝固療法を受けている患者、再発性の鼻血に罹患する患者、および手術、特に、動脈への接近を伴う大きな手術または処置を受けている個体が挙げられる。限定されないが、手術または処置は、神経系、目、耳、鼻、口、咽頭、呼吸器系、心血管系、消化器系、泌尿器系、筋骨格系、外皮(皮膚)系または生殖器系に対する手術であり得る。記載のように、該組成物はまた、中枢神経系を規定するもの(すなわち、脳および脊髄)を除く組織に適用され得る。該組成物が使用され得る手術および処置の具体例としては、動脈造影、血管心臓造影、心臓カテーテル法、分娩裂傷の修復、冠動脈閉塞の除去、ステントの挿入、帝王切開、子宮摘出術、骨折の低減、冠動脈バイパスグラフト術、胆嚢切除術、臓器移植、関節(例えば、膝、股関節、足首、肩)全置換、虫垂切除術、椎間円板の切除もしくは破壊、大腸の部分切除、乳房切除術、または前立腺切除術が挙げられる。外科的処置は、血管の意図的もしくは意図的でない横方向の切開または血液以外の生体物質の放出の誘導を伴うものであり得る。
【0133】
事故の犠牲者、戦闘に従事する個体および出産予定の女性もまた、相当な失血が起こるリスクがある。該組成物は、分娩出血の部位(例えば、子宮、膣または隣接組織内)に、止血を加速させるために適用され得る。例えば、該組成物は、胎盤の裂傷に適用され得るか、または子宮を覆って出血を抑制するために使用され得る。他の適応症の場合と同様、生殖器官に適用される組成物は、除去され得るか、または所定の位置に放置され得る。自然出血、動脈瘤破裂、食道の静脈瘤、胃潰瘍、腸の上側部分の潰瘍(例えば、十二指腸潰瘍)もまた、相当な出血が起こり得る病状であり、これらの個体もまた、本明細書に記載のようにして処置され得る。
【0134】
出血の正確な供給源は種々であり得、動脈系または静脈系の任意の血管(例えば、動脈、細動脈、毛細血管または毛細血管床、小静脈または静脈)由来であり得る。血管の大きさは大きいもの(例えば、該組成物は、大動脈、腸骨もしくは大腿の動脈、または門静脈からの出血を抑制し得る)から小さいもの(例えば、毛細血管)に及び得、血管は、体内の任意の場所(例えば、肝臓、胃、腸、皮膚、筋肉、骨、肺または生殖器系などの固形臓器)に位置するものであり得る。
【0135】
血液凝固に通常必要とされる時間は、凝固因子および/または血小板の血漿レベルが低い場合、あるいは個体が抗凝固薬(例えば、ワルファリンもしくはヘパリン)を受けた場合、長くなり得る。出血は、多くの場合、血管完全性に対する損傷が最低限よりも大きい場合、平均凝固時間より相当長い期間持続する。研究に基づき、該組成物は、平均血液凝固時間より短い、少なくともある一部の場合ではもっと短い期間で、止血をもたらすことが期待される。該組成物は任意の所与の時間で止血が達成される(およびある領域を汚染から保護する使用、または組織治癒を促進する使用がこの機能と独立している)ものに限定されないが、該組成物は、出血被験体に対し、適用後5秒以内という短時間で有益性をもたらすものであり得る。他の組成物は、適用後、約10、15または20秒で効果を発揮し得る。有効期間は、絶対時間以外の様式で特徴付けられ得る。例えば、組成物は、止血を達成するのに要する時間を、氷冷生理食塩水を適用した場合に要する時間と比べて25%〜50%;50%〜75%;または75%〜100%低減するものであり得る。止血を達成するのに要する時間は、氷冷生理食塩水を適用した場合に要する時間と比べてほぼ2分の1、3分の1、4分の1または5分の1になり得る。
【0136】
該ペプチド濃度は、血管の内径、その損傷の程度および血液が流失する(または損傷時に流失し得る)力などの可変量を参照して選択され得る。より高いペプチド濃度は、主要血管(例えば、大動脈、腕頭、頚、鎖骨下、腹腔、上腸間膜、腎、腸管、大腿または膝窩動脈)からの止血を促進するために望ましい。使用される濃度は、ほぼ0.1〜10%(例えば、1〜10%;0.5〜5%;1〜4%;0.1〜2%;0.1〜3%;0.1〜4%;0.1〜5%;および1〜8%(例えば、約1、1.5、2、2.5、3、4、5、6または7%)の範囲であり得る。任意の下位範囲または上記の任意の範囲内の任意の具体値が使用され得る。また、上記の任意の濃度が、本明細書に記載の他の適応症に使用され得る。
【0137】
記載のように、出血は、多数の異なる原因のいずれかによるものであり得、内因性または外因性であり得る。該組成物は、原因または原因の性質(例えば、疾患過程によって引き起こされたものであれ、意図的または偶発的外傷であれ)に関係なく適用され得る。該組成物は、止血を達成するために、限られた空間内(例えば、中空臓器内部)、または身体の表面もしくはその付近に使用され得る。例えば、該組成物は、一部または完全に切断された身体部分(例えば、肢部または指など)に適用され得る。その場合、該組成物は、多くの機能を果たし得る;該組成物は、止血を促進するだけでなく、創傷のある組織を汚染から保護し、組織治癒を促進する。より具体的には、該組成物は、創傷に適用され、所定の位置に、止血が達成され血液凝固が起こるのに充分な期間放置され、次いで、除去され得る。ペプチドゲルに付着した微粒状物質および感染性因子などの汚染性物質は、該ゲルとともに除去され得る。次いで、滅菌被覆材が適用され得る。もちろん、該組成物は、止血が達成された後、または止血の加速が必要でない場合であっても、創傷の清浄、汚染の抑制または組織治癒の促進の目的のために適用され得る。
【0138】
鼻血を処置するために使用される場合は、該組成物を適切に鼻腔内に挿入し、出血がおさまるまで所定の位置に放置し得る。該組成物は、吸引によって(例えば、点眼容器もしくはシリンジを用いて)容易に除去され得るか、または他の物理的手段、例えば、単に鼻をかむことにより除去され得る。所望により、該組成物は鼻に、1つ以上の表面がある鼻血栓を含めることにより投与され得る。
【0139】
該組成物はまた、創傷上の所定の位置に放置され得、被覆材が該組成物上面に適用され得る。該組成物自体は容易に除去されるため、被覆材下のその存在により、被覆材が損傷組織に固着するのを妨げることが補助され得る。所望により、透明な部分を有する包帯が使用され得、そのため、包帯の透明な部分およびその下のペプチド構造体を通しても損傷部位を見ることができる。これにより、医師が、被覆材を除去せずに治癒の経過をモニターすることが可能となり得る。包帯の変形例は、以下にさらに記載し、本発明の範囲に含まれる。
【0140】
多くの医療処置は、後に有意な出血が起こり得る血管穿刺を伴う。自己集合性ペプチド組成物は、穿刺された血管壁に、例えば、血管の穿刺に使用した器具の抜去中に適用され得る。自己集合性ペプチドで形成された血管栓は、既存の血管栓および米国特許第5,192,302号;同第5,222,974号;同第5,645,565号;および同第6,663,655号に記載のものなどの器具の代用物を提供する。血管栓は、原位置で(例えば、血管穿刺部位で)形成させてもよく、または予備形成し、該部位に適用してもよい。
【0141】
より一般的には、ナノ構造体物質またはその前駆物質(例えば、自己集合性ペプチド)を含む組成物は、組織内を通る任意の通路を閉鎖するために使用され得る。したがって、本発明の方法は、ナノスケール構造体物質(例えば、自己集合性両親媒性ペプチド)を含む組成物を、該通路またはその内部の一端または両端に適用することにより、組織内を通る通路を閉鎖する方法を含む。組織は、例えば、血管壁、臓器の壁、皮下組織または脂肪組織であり得る。該通路の閉鎖は止血をもたらし得る。該通路はまた、瘻孔(すなわち、2つの臓器間もしくは2つの体内構造体間、または臓器および構造体と外界間の異常な連結)であり得る。所望により、外科医は該組成物を、管状構造体(例えば、腸または血管など)の内部に適用し、腸または血管を該ゲル内で切除および結紮し、該ゲルを該構造体の内部から除き、該構造体の連続性を回復させ、血液または他の体内物質出の該領域の再灌流を可能にすることができる。
【0142】
外科的適用では、創傷または手術野の任意の部分を、自己集合性ペプチドを含む組成物で密閉することができる。このアプローチは、手術の際に慣用的に行なわれるような創傷密閉の代わりに使用され得る。該組成物は、生体適合性で生分解性の物質を含有するため、所定の位置に放置され得、それにより、該処置の最後での除去の必要性が回避され得、この目的のためのその後の手術の必要性が回避され得る。生分解性物質は物理的および/または化学的に、細胞内または被験体の体内で(例えば、生理学的条件加水分解によって、もしくは天然の生物学的過程、例えば、細胞内もしくは体内に存在する酵素の作用などによって)分解され、より小さな化学種が形成され得、これは、代謝、任意選択で再利用および/または排出あるいは廃棄され得る。好ましくは、生分解性化合物は生体適合性である。
【0143】
胃腸の出血は、潰瘍または血管異形成の結果として起こり得、比較的よく見られ、処置せずに放置されると致死的であり得る重篤な状態である。食道静脈瘤の出血および胃または十二指腸の潰瘍の出血は、特に重症であり得る。止血を達成するためのいくつかの内視鏡的治療アプローチ、例えば、硬化剤の注射、機械的止血器具の装着、および接触型電気焼灼器手法が開発されている。該組成物は、潰瘍または食道、胃、小腸もしくは大腸内の出血部位またはその付近に投与され得る。大腸の遠位部分、直腸または肛門での出血(例えば、痔)もまた、このようにして処置され得る。
【0144】
動脈瘤の破裂は、急速な致死性の結果を伴う破局的な事象を提示し得る。破裂した大動脈瘤は、速やかな医療処置にもかかわらず、急速に放血をもたらし得る。破裂した頭蓋内の動脈瘤は、多くの場合、破壊的な結果を有する。本発明の組成物および方法は、他の原因による出血を処置するのに使用される方法と本質的に同様の様式で(例えば、自己集合性前駆物質または予備形成され構造体を出血部位に適用することによって)、破裂した動脈瘤からの出血を処置するために使用され得る。多くの場合、動脈瘤破裂が重症な結果であることを考慮すると、多くの場合、外科的修復が試みられる。該組成物は、任意の試行的修復の状況で(例えば、切開術または血管内修復中(例えば、グラフトおよび/またはステントの留置を伴う))適用され得る。より具体的には、本発明の方法は、ナノスケール構造体物質またはその前駆物質(例えば、自己集合性ペプチドを含む組成物)を含む組成物を、動脈瘤内(例えば、動脈瘤嚢内)に導入することにより動脈瘤を処置することを含む。出血がより良好に制御された状態になったら、次いで、動脈瘤を、任意の適当な手法を用いて修復し得る。動脈瘤嚢内の該ペプチド構造体の存在により、このような他の処置前または処置中での漏出または破裂の機会が低減される。該骨格は、所定の位置に放置してもよい。
【0145】
脳脊髄液(CSF)の移動または漏出の抑制: 硬膜は、脳および脊髄を覆う硬くて最も外側の線維性の膜であり、頭蓋骨の内側表面を覆っている。CSFの漏出は、損傷、手術、または硬膜を貫通する他の処置(硬膜外空間への麻酔薬の投与過程での不注意な貫通を含む)後の重大な合併症である。かかる漏出は、重篤な続発症、例えば、重症な頭痛、感染および髄膜炎などをもたらし得る。該組成物は、適用後、CSFの望ましくない移動もしくは漏出部位またはその付近で、その必要がある被験体においてCSFの移動または漏出を抑制するものであり得る。該組成物は、CSFが切開部位から漏出することを妨げるのを補助するため、硬膜手術後に縫合糸を覆うように適用され得る。
【0146】
該組成物はまた、鼓膜からの液の移動または漏出を抑制するために使用され得る。
【0147】
胃腸管の内容物の漏出の抑制:該組成物は、胃腸内容物の移動を抑制するものであり得る。例えば、該構造体は、胃もしくは腸の穿孔後または手術の際の胃腸内容物の漏出を抑制し得る(実施例4参照)。該構造体は、かかる生体物質を分離してそれが腹膜腔内に拡散するのを抑制し、それにより、汚染あるいはその後の化学性腹膜炎および/または感染のリスクを最小限にするために使用され得る。胃内容物は、主に塩酸、ムチンならびにペプシンおよびリパーゼなどの酵素からなる胃腺の消化分泌液を含有し、腹膜腔内に放出されると、損傷および/または感染を引き起こし得る。腹膜腔内への腸内容物の放出は、手術の際に、腸に対して高頻度の事象で提示され、また、腸の穿孔または破裂した虫垂の場合にも起こり得る。該組成物は、腹膜腔内への胃腸内容物の漏出を抑制するために使用され得る。移動部位は、疾患過程または外科的切開によって引き起こされた胃または腸の損傷部位であり得る。該組成物は、消化器系の任意の臓器(例えば、胃、または小腸もしくは大腸)の外面に適用され得るか、またはその内部に注射あるいは導入され得る。該組成物は、腸の一部分を切除する過程で投与され得る。例えば、腸の第1の点から第2の点に延在する一部分に本発明の組成物を充填し、第1の点と第の2の点の間に存在する腸部分を切除する。
【0148】
関連する方法において、該組成物は、腹膜腔内に放出された腸内容物を除去するために使用され得る。該方法は、液状組成物を、放出された腸内容物に適用すること、液状組成物に相転移を行なわせること、次いで、そのゲル様または半固形組成物を除去することを含む。これらの工程は、外科医が、腹膜腔から除去された腸内容物の量に満足するまで、1回以上反復され得る。
【0149】
同様に、他の内臓(例えば、胆管系または泌尿器系の臓器)の内容物の移動が抑制され得る。該組成物のその部位への適用およびその後の除去によって、例えば、胆汁、膵液(すなわち、消化酵素を含有する膵臓の外分泌腺部分の分泌物)、あるいは尿の移動が抑制され得る、および/または胆汁、膵液または尿が放出された領域が汚染除去もしくは清浄化され得る。したがって、該方法は、腸、胆管系および/または泌尿器系の欠陥を修復あるいは処置するための手術に対して広範な適用用途を有する。本発明に記載のように、該組成物は、皮膚または皮膚もしくはその下の創傷組織の切開部に、細菌などの微生物による汚染の可能性を低減するために適用され得る。該方法を用い、後の時点で(例えば、外科的処置終了時に)該組成物を除去することにより、適用部位が汚染除去され得る。
【0150】
創傷治癒:また、研究により、該組成物は、治癒、特に上皮層または筋肉の治癒を増強する能力を有し、したがって、組織損傷部位を処置するために投与され得ることが示された。例えば、自己集合性ペプチドを含む組成物が、組織損傷部位に適用され得る。該組成物は、組織修復速度を増大させると同時に、瘢痕組織の形成を抑制するようである。該組成物は、急性または慢性いずれかの創傷のケアに使用され得る。例えば、該組成物は、任意の様式の(例えば、裂創または火傷した)創傷皮膚ならびに病変(例えば、糖尿病性潰瘍および床ずれなど)に適用され得る。
【0151】
送達方法、デバイスおよびキット:さまざまなデバイスが、該組成物を身体の標的領域に導入するために使用され得る。デバイスは、シリンジなどの簡単なものであり得、かかるデバイスは、該組成物とともにキットにて提供され得る。該組成物は、体内の標的領域またはその付近に、注射によって(例えば、ニードルおよびシリンジを用いて)、またはカテーテル、カニューレにより、または任意の適当な大きさの容器から施与(例えば、注入)することにより局所に送達され得る。該組成物は、必要により、イメージング誘導(例えば、定位固定的誘導)の補助を伴って送達され得る。あるいはまた、ある物質を該組成物で湿らせ、次いで、組成物を組織領域に適用するために使用してもよい。
【0152】
保存および輸送のため、自己集合性ペプチドを適当な溶媒に溶解させ得る(例えば、滅菌水などの水性媒体に、および使用前に長期間保存し得る)。ペプチド含有溶液は、実質的な活性の低下なく2年まで保存された。部分自己集合が長期間後に起こる場合、投与前に、物理的攪拌(例えば、超音波処理)を用い、該物質を、より液状の状態に回復させ得る。あるいはまた、該物質はゲルとして適用され得る。所望により、少量のイオン(例えば、1価のカチオン)を、溶液に適用前に添加してもよい。これにより、ゲル形成過程が加速され得る。あるいはまた、1価のカチオンは、溶液を投与した後に適用され得る。
【0153】
種々の容量のシリンジまたは液状組成物をオリフィスから絞り出すことができる変形可能な側面を有する容器(例えば、プラスチック容器またはプラスチック側面容器)を備えるキットが提供される。一実施形態において、シリンジまたは容器は多数の区画を含み、1つには1価のイオンを入れ、他方には自己集合性ペプチドが入れてあり、これらは、共通のニードルを通して投与時に混合される。内視鏡は、中空臓器(例えば、食道、胃、腸など)または体腔の処置のための組成物を送達するために使用され得る(例えば、低侵襲手術中)。低侵襲手術は、小さな切開または自然のままの体の開口部を介して挿入されるように設計された特別な器具を用いて行なわれる手術に対するアプローチをいい、多くの場合、内視鏡映像化を伴って行なわれる。例としては、腹腔鏡手術、関節鏡視下手術および血管内手術が挙げられる。内視鏡は、典型的には、長くて柔軟性のチューブ様器具である。内部の構造の可視化を可能にすることに加え、多くの内視鏡は、特別な通路を介して、さらなる診断能力(例えば、生検)および治療能力(例えば、治療用薬剤の送達)を有する。結腸鏡、S状結腸鏡、気管支鏡、膀胱鏡および腹腔鏡は、ある特定の臓器、構造または腔を見るのに特に充分に適したものとする特徴を有する内視鏡の異型である。このような任意のデバイスが、該組成物を送達するのに使用され得る。キットは、内視鏡、および自己集合性ペプチドを含む溶液を入れた容器を含むように包装されたものであり得る。好適な内視鏡は当該技術分野で知られており、広く入手可能である。内視鏡は、現在、硬化剤を食道の出血部位に送達するために使用されている。
【0154】
キットは、自己集合性ペプチドならびにシリンジ、ニードル、糸、ガーゼ、包帯、消毒薬、抗生物質、局所麻酔薬、鎮痛剤薬剤、外科用糸、ハサミ、メス、滅菌液および滅菌容器の1つ以上を含むものであり得る。該ペプチドは、溶液状または乾燥状(例えば、乾燥粉末として)であり得る。キットの構成要素は、個々に包装され得、滅菌されたものであり得る。キットは、一般的に、市販用に適した容器、例えば、プラスチック、厚紙または金属容器にて提供される。キットは、「応急処置用品」としての形式であり得、この場合、典型的には、外面上に赤い十字などの記号を有する。任意のキットに、使用のための取扱い説明書を含め得る、
【実施例】
【0155】
実施例1:自己集合性ペプチド物質は、脳内において止血を加速させる
ラットおよびハムスターの脳内の上矢状静脈洞の分枝の完全な横方向の切開を、横方向に切開した組織の上部にある頭蓋骨の一部を除去した後に行なった。動物を、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)のi.p.注射にて麻酔した。すべての外科的処置は手術用顕微鏡下で行なった。10匹の成体ハムスターおよび12匹の幼若成体雌Spraque−Dawleyラット(200〜250g)を含む22匹の動物を、氷冷生理食塩水または20μlの1%ペプチド溶液のいずれかで、洞分枝の横方向切開部位において処置した。該物質は、RADA16−I(n−RADARADARADARADA−c;配列番号:1)ペプチドを滅菌水に溶解することにより調製し、該ペプチド含有溶液を損傷組織に、2cc容シリンジに取り付けた31ゲージニードルを用いて適用した。
【0156】
実験をタイムスタンプを伴ってビデオテープに録画し、ペプチド溶液がゲルを形成し、それにより出血が有効に妨げられるのに要した時間の長さを評価するときに1フレーム再生した。止血は目視により評価し、「完全な止血」は、創傷部位からの血液の移動の完全な欠如と規定した。すべての場合で、完全な止血はペプチド溶液の適用から10秒以内に達成された。
【0157】
上層の頭蓋骨の一部を除去し、上矢状静脈洞の静脈の1つを横方向に切開し、次いでペプチド含有溶液で処置した成体ラットの一連の写真を撮影した。最初の写真は、上矢状静脈洞の露出された脳および静脈を示す;次の写真は、静脈の切開部を示す;次の写真は、破裂した静脈からの出血を示す;および最後の写真は、ペプチド溶液を適用して5秒後の同じ領域を示す。完全な止血が達成された。
【0158】
図2は、すぐ上の実施例1に記載の状況において、ペプチド溶液(左バー)対生理食塩水対照(右バー)での処置後、完全な止血が達成されるのに要した時間を比較するグラフである。持続時間は、ペプチド溶液の適用開始から、成体ラットの脳に洞(sinus)をもたらす静脈の横方向の切開後の止血の終了までを測定した。各バーは、一群の6つのペプチド処置例および6つの対照試験の平均時間(秒)を示す。完全な止血は平均8.3秒間で達成された。生理食塩水対照では、出血の停止は全く達成されなかった。*は、動物が出血により死亡するのを回避するため、生理食塩水対照実験を表示した時点で終了したことを示す。
【0159】
同様の結果が、上矢状静脈洞の完全な横方向の切開後に得られた。後半の実験では、止血を達成するため、より高い濃度のペプチド(例えば、約3%〜4%)を用いた。3つの生理食塩水対照例は、20秒後、出血が継続していた。対照動物において氷冷生理食塩水を除去し、ペプチド溶液を適用すると、ほぼ直後に完全な止血がもたらされた。
【0160】
合計22匹のラットおよび64匹のハムスターを実験に供し、このとき、ペプチド含有溶液により、頭蓋内の出血部位への適用後、10秒以内に有効に止血が達成された。
【0161】
実施例2:自己集合性ペプチド物質は、大腿動脈の横方向の切開後の止血を加速させる
成体ラットにおいて、坐骨神経および隣接する大腿動脈を露出させ、大腿動脈を横方向に切開した。12匹のラットを、RADA16−Iペプチドの1%溶液20μlを横方向切開部位に、シリンジ本体に取り付けたガラスピペットを用いて適用することによって処置し、一方、対照は、低温生理食塩水を横方向切開部位に適用することにより処置した。すべての処置例において、止血は10秒以内に達成された。生理食塩水対照例は、実験を110秒間で終了するまで出血が継続した。これらの対照動物において、続いて低温生理食塩水をペプチド溶液に交換すると、ほぼ直後に完全な止血の達成がもたらされた。
【0162】
大腿動脈を横方向に切開した成体ラットの一連の写真を撮影した。最初に撮影された写真では、坐骨神経および大腿動脈が露出されている。次の写真は動脈の切開部を示し、次の写真は出血を示す。約5秒後、血液および血漿の存在下、集合したペプチドによって形成された透明なゲル領域において完全な止血が観察された。集合した物質は、所望により、該部位から容易に吸引除去され得る。完全な止血は、試験の持続時間中(1時間)維持された。
【0163】
図3は、ペプチド溶液の適用開始から大腿動脈の横方向の切開後止血の終了まで測定された、生理食塩水処置対照(左バー)およびペプチド(右)処置例の出血持続時間を示すグラフである。処置群を要約するバーは6例のハムスターの時間(秒)の平均を示し、この場合、完全な止血は10秒以内に達成された。生理食塩水対照では、止血は決して達成されなかった。*は、動物が出血により死亡しないように、実験を終了したことを示す。
【0164】
筋肉外傷実験では、ラットの背部の筋肉に1〜2cmの切開を行なった後、速やかな止血が示された。ラットの背部の脊柱僧帽筋を露出させ、筋肉内に深い切り傷を作製した後、1%ペプチド溶液(RADA16−I)をその切り傷内に適用した。10秒以内に、出血はすべて停止した。氷冷生理食塩水単独の適用では、対照動物は、20秒後、出血が継続していた。
【0165】
この手順を後肢の筋肉(頭側脛骨筋の後尾側(porteocaudalis and musculus tibialis cranialis))において繰返し、同様の結果が得られた。1%〜100%のペプチド(RADA16−I)を肢部創傷に適用し、止血はすべての場合で達成された。しかしながら、動脈または静脈を横方向に切開すると、止血をもたらすのに2%以上の物質が必要であった。氷冷生理食塩水単独の適用では、対照動物は、20秒後、出血が継続していた。
【0166】
実施例3:自己集合性ペプチド物質は、肝臓において止血を加速させる
ペプチド含有構造体が、比較的低い圧力を有する血管の出血を停止させる能力をさらに実証するため、成体ラットの腹腔を開き、肝臓を曝露させ、左外側葉(lobus sinister lateralis)に、吻側(rostral)から尾側(caudal)まで肝臓の一部を完全に離断する切開を行なった。大量の出血が起こった。1%ペプチド溶液(RADA16−I)を該切開部およびその付近に、27ゲージニードルおよび4cc容シリンジを用いて適用した。出血はすべて10秒以内に停止した。一連の写真を取得した。最初のものは、肝臓の露出を示す;第2のものでは、肝臓が分離され、大量の出血が明らかである;第3のものでは、肝臓の2つの部分を元に戻して一緒にし、出血は継続している。1%ペプチド溶液での該部位の処置後(経表面的に該切開部内に適用)、出血はすべて10秒以内に停止した。透明な領域が、左外側葉の両半分間に観察された。この手順を数回繰返し、同じ結果となった。
【0167】
同様の実験により、ペプチド構造体は、肝臓内のより高い圧力を有する血管の出血を停止させる能力が示された。一連の写真は実験を示す。第1のものは、開かれた腹腔および露出させた肝臓を示す;第2のものでは、左外側葉は、肝臓の一部と門脈の主要な分枝とを完全に離断する横方向の切開が行なわれている;第3のものは、損傷部位からの大量の出血を示す。切開部を、経表面的に該切開部内に適用した4%ペプチド溶液で処置した。出血はすべて10秒以内に停止した。左外側葉の下側部分を、該ペプチド構造体が切開部内にあることが示されるまで下側に引いた。該部位は、このような物理的応力に供した場合であっても出血しなかった。10分後、依然として出血は見られなかった。したがって、4%ペプチド溶液の適用は、高圧出血環境において10秒以内に完全な止血をもたらす。
【0168】
2%または3%ペプチド溶液での処置を同じ型の実験において試験すると、やはり完全な止血が達成された。1%溶液での処置では、出血の一部停止がもたらされた。また、処置の30秒後、過剰のペプチド構造体を損傷部位から拭き取ると、止血は維持されていた。この手順を数回繰返し、同じ結果となった。
【0169】
他の実験において、左外側葉(lobus sinistras laterialis)の右下四分円の4分の1葉を取り出し、縁部を損傷部位への2%ペプチド(RADA16−I)の経表面的適用により処置した。出血は、10秒以内に停止した。1分後に該ペプチドを除去すると、完全な止血が該肝臓縁部で達成されていた。
【0170】
実施例4:自己集合性ペプチド物質
成体ラットの腸に、十二指腸の位置に小さな切り傷により孔を開け、腹腔内への胃液の漏出をもたらした。該部位を2%ペプチド(RADA16−I)溶液で処置すると、腸からの胃液の漏出はすべて停止した。さらなる容量の2%ペプチド溶液を十二指腸の損傷の位置に注射した。これにより、腸からの漏出はすべて1時間(手順の持続時間中)抑制された。十二指腸の位置の対照切開部では腸壁を裏返し、未処置で放置すると、胃液は損傷部位から漏出し続けた。損傷後、該部位を該ペプチド溶液で15分間処置すると、やはりペプチド処置によって、この損傷部位からの漏出はすべて停止した。また、該処置により、腸の壁の反転の進行が停止した。
【0171】
実施例5:自己集合性ペプチド物質は、皮膚創傷の治癒を加速する
自己集合性ペプチドが創傷治癒を増強する能力を実証するため、動物を、皮膚および皮下組織のパンチ生検に供した。生検材料を採取した領域を、自己集合性ペプチド(RADA16−I)溶液の単回適用によって処置するか、または未処置で放置するかのいずれかとした。創傷には包帯をしないで放置した。損傷させた動物を自己集合性ペプチドで処置し、処置なしの対応する例と比較した4mmパンチ生検治癒試験の一連の写真に結果が示される。創傷は、第0日、第1日、第4日、および第7日に写真撮影した。処置された創傷は、早くも第1日での創傷部位の収縮によって示されるように、3つの穿孔すべてにおいてずっと速く治癒した。該ペプチドでの処置により、治癒は、場合によっては5日間も加速されるようであった。すべての例において、創傷部位の収縮は処置例で速く起こった。
【0172】
実施例6:リドカイン含有組成物
RADA16(モジュラスI)をリドカイン(5%)と混合し、ピン痛覚を与える前に混合物を成体ラットの皮膚に適用した。自己集合性ペプチドと混合した場合、ピン痛覚に対する応答は、リドカイン単独を用いた応答の減弱よりも4倍長く減弱された。また、腸の手術を行なう際に、2匹のラットの腸に自己集合性ペプチドとリドカインの溶液を適用した。該溶液により、手術の持続時間中、動物に対する明白な副作用なく蠕動が低減された。
【0173】
前述の記載は、代表的なものにすぎず、限定的であることは意図されないと理解されたい。組成物およびデバイスを作製および使用するため、ならびに本発明の方法を実施するための択一的な系および手法は当業者に自明であり、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−168623(P2011−168623A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−126793(P2011−126793)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【分割の表示】特願2008−509090(P2008−509090)の分割
【原出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】