説明

正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法

【課題】二次電池のサイクル特性を向上させる正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の作製方法を提供する。
【解決手段】二次電池用の正極活物質115であって、主に粒子状の金属酸化物とその表面に分布した粒子状の硫黄とからなる。これにより、金属酸化物の表面に分布した硫黄が、陽イオンの酸素への接触を妨げ、放電時に陽イオンと酸素との強固な結合を阻害できる。その結果、陽イオンの離脱による充電を容易にし、二次電池100のサイクル特性を向上させることができる。正極活物質115は、金属酸化物と硫黄とが、いずれも電気化学的に活性であることが好ましい。これにより、金属酸化物と硫黄とが電気化学的に化学反応するため、二次電池の放電、充電が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池の正極活物質として金属酸化物と硫黄との混合物が知られている(たとえば、特許文献1〜4参照)。特許文献1記載の複合電極は、有機ジスルフィド化合物を2−ピロリドン誘導体に溶解し、さらにポリアニリンを添加して均一な液体とし、その液体から2−ピロリドン誘導体の全部または一部を除去して有機ジスルフィド化合物とポリアニリンの均一に混合されたものである。
【0003】
特許文献2記載の複合カソードは、酸化状態において式−Sm−のポリスルフィド部分を含む電気活性な硫黄含有カソード物質および電気活性な遷移金属カルコゲニド組成物を含む。特許文献3記載のリチウム−硫黄電池用正極は、無機硫黄(S)、硫黄系列化合物およびこれらの混合物からなる正極活物質を含む。特許文献4記載のリチウム電池用正極材料は、酸化バナジウム等の遷移金属酸化物とその表面上に配置された、カルコゲニド複合化合物またはそれらの酸化物を含んでなる吸着質層とを有し、遷移金属酸化物と吸着質層はいずれも電気化学的に活性である。
【0004】
一方、マグネシウムまたはその合金を負極活物質とする電池が知られている(たとえば、特許文献5、6および非特許文献1、2参照)。これらの電池では、マグネシウム化合物等を含有させた正極活物質が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−211310号公報
【特許文献2】特開2000−511342号公報
【特許文献3】特開2004−179160号公報
【特許文献4】国際公開第2003/103078号パンフレット
【特許文献5】特開2001−76720号公報
【特許文献6】特開2002−25555号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P. Novak and J. Desilvestro, J. Electrochem. Soc. 1993, 140, 140.
【非特許文献2】Y. Long, X. Zhang, J. Colloid Int. Sci. 2004, 278, 160.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、二次電池の正極活物質として、金属酸化物と硫黄との混合物が使われているが、硫化物は硫黄化合物として電解液中に溶解しやすく、構造が不安定である。一方、酸化物は構造が安定しているが、陽イオンと酸素との結合が強いため、放電後の金属酸化物と陽イオンの結合体から陽イオンを脱離することが困難で充電し難い。これを無理に高電圧で充電すると、結晶構造が崩れかねない。このような作用が生じる結果、二次電池のサイクル特性は低くなる。また、特にマグネシウム二次電池で、金属酸化物と硫黄との混合物を正極活物質としたときには、Mg−Sの結合が強く、硫黄化合物として電解液中に溶解しやすい。その結果、サイクル特性が著しく低下する。
【0008】
一方で、正極活物質を構成する金属酸化物は、還元しやすく、硫黄は酸化、揮発しやすい。いずれも還元または酸化すると電気化学的活性を失う。したがって、硫黄の溶解を抑制するには、金属酸化物が還元せず、硫黄が酸化しないようにすることが重要であり、焼成が必要である。しかし、低温で酸素濃度を高度に制御して焼成する方法では、硫黄が酸化または金属酸化物が還元してしまう。このように、二次電池のサイクル特性を高めるのは容易ではない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、二次電池のサイクル特性を向上させる正極活物質、マグネシウム二次電池および正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る正極活物質は、二次電池用の正極活物質であって、粒子状の金属酸化物とその表面に分布した粒子状の硫黄とからなることを特徴としている。これにより、金属酸化物の表面に分布した硫黄が、陽イオンの酸素への接触を妨げ、放電時に陽イオンと酸素との強固な結合を阻害できる。その結果、陽イオンの離脱による充電を容易にし、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0011】
(2)また、本発明に係る正極活物質は、前記金属酸化物およびその表面に分布した硫黄が、いずれも電気化学的に活性であることを特徴としている。これにより、金属酸化物と硫黄とが電気化学的に化学反応するため、二次電池の放電、充電が容易になる。なお、電気化学的に活性とは、電子の受け渡しを伴う化学反応をすることをいう。
【0012】
(3)また、本発明に係る正極活物質は、金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加し、焼成することにより生成されることを特徴としている。これにより、焼成時に温度が上がりすぎず、酸化と還元が水の沸騰された状態により制御されるため、金属酸化物の表面に硫黄を分布させた正極活物質が形成される。
【0013】
(4)また、本発明に係るマグネシウム二次電池は、上記の正極活物質を用いたことを特徴としている。特にマグネシウム二次電池では、硫黄がマグネシウムと結合しやすく、マグネシウムの脱離が容易になり、そのサイクル特性が向上する。
【0014】
(5)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、二次電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、金属酸化物と硫黄とを混合するステップと、前記金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加するステップと、前記水を添加した混合物を焼成するステップとを含むことを特徴としている。このように、金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加することで、焼成時に温度が上がりすぎず、酸化と還元が水の沸騰された状態により制御されるため、金属酸化物の表面に硫黄を分布させた正極活物質が形成される。
【0015】
(6)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、前記焼成が、マイクロ波で水を加熱することにより行うことを特徴としている。このように、マイクロ波による内部加熱で粒子を均等に加熱することができ、短時間で簡易にサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。
【0016】
(7)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、前記焼成が、水プラズマにより行うことを特徴としている。このように、水プラズマで混合物を焼成するため、硫黄の酸化および金属酸化物の還元をさらに抑制することができ、短時間でサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。
【0017】
(8)また、本発明に係る正極活物質の製造方法は、前記水プラズマが、減圧下でのカーボンフェルトピース間に保持された水をマイクロ波放電させて生成することを特徴としている。これにより、均等に水分子を分布させることができ、均等な焼成を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属酸化物の表面に分布した硫黄が、陽イオンによる酸素への接触を妨げ、放電時に陽イオンと酸素との強固な結合を阻害できる。その結果、陽イオンの離脱による充電を容易にし、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】水プラズマを生じさせるための装置を示す斜視図である。
【図3】マイクロ波照射時の発光スペクトルを示すグラフである。
【図4A】処理前の金属酸化物のXRDプロファイルである。
【図4B】作製された正極活物質のXRDプロファイルである。
【図5A】比較例の二次電池の放電曲線を示す図である。
【図5B】実施例の二次電池の放電曲線を示す図である。
【図6A】比較例の二次電池の放電曲線を示す図である。
【図6B】実施例の二次電池の放電曲線を示す図である。
【図7A】比較例の二次電池の充電曲線および放電曲線を示す図である。
【図7B】実施例の二次電池の充電曲線および放電曲線を示す図である。
【図8】硫黄の添加量に対する二次電池の容量を示すグラフである。
【図9A】マイクロ波照射により作製した二次電池の充放電曲線を示す図である。
【図9B】電気炉による水の加熱により作製した二次電池の充放電曲線を示す図である。
【図10】焼成しない場合の放電曲線を示す図である。
【図11】200℃で焼成する場合の放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(二次電池の構成)
図1は、本発明の二次電池100の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の二次電池100は、正極110、セパレータ120および負極130を備えている。
正極110は、正極集電体(図示せず)および正極活物質115を有している。正極集電体は、正極活物質とともに正極を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。正極活物質115は、粒子状の金属酸化物とその表面に分布した粒子状の硫黄とからなる。
【0022】
正極活物質115を構成する金属酸化物と硫黄とは、いずれも電気化学的に活性である。これにより、金属酸化物と硫黄とが電気化学的に化学反応するため、二次電池の放電、充電が容易になる。その結果、正極活物質115は、放電時に電解液中の陽イオンにより還元される。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンが金属酸化物と陽イオンの結合体となることで電化バランスがとられる。
【0023】
その際には、正極活物質115の表面の硫黄の存在により陽イオンと酸素の直接の接触が妨げられ、陽イオンと酸素の結合が阻害される。そして、充電時には正極活物質115から陽イオンを離脱でき、充電が容易となる。その結果、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。これは、金属酸化物の表面に配置されている硫黄により、硫黄が邪魔して陽イオンが酸素と結合できず、整った結晶構造を形成するまで陽イオンが金属酸化物の表面に近寄れない構造が形成されているためと推測できる。
【0024】
金属酸化物は、V,MnO、MoO等であることが好ましい。金属酸化物の表面に分布する硫黄は、主にS等のS−S結合を有する電気活性な状態で存在し、SO、SOは少ないことが好ましい。したがって、正極活物質115の作製時には硫黄の酸化が抑制されることが必要である。
【0025】
正極活物質115を構成する金属酸化物と硫黄の比率は、モル比で5:1〜3:2の範囲にあることが好ましい。この範囲よりも硫黄の比率が小さい場合には、硫黄で金属酸化物の表面を覆いきれないため、サイクル特性が低下する。一方、この範囲よりも硫黄の比率が大きい場合には、硫黄が過剰となり、二次電池の電気抵抗が高くなる。そして、二次電池は、電気化学的に不活性になるのでサイクル特性が低下する。
【0026】
セパレータ120は、正極110と負極130とを隔離し、かつ電解液125を保持して正極110と負極130との間のイオン伝導性を維持する。セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。電解液125は、陽イオンを含んでいる。電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能となっている。陽イオンには、マグネシウムイオンやリチウムイオンが挙げられる。
【0027】
電解液125には、ほとんどの水系電池または非水系電池に一般に用いられている溶液を用いることができる。負極130は、放電時に酸化反応を生じさせる。負極130には、たとえばマグネシウムやリチウムを用いることができる。負極130は、正極活物質115の機能を妨げないものであれば特に限定されないが、マグネシウムで構成されることが好ましい。特にマグネシウム二次電池では、硫黄がマグネシウムと結合しやすく、マグネシウムの脱離が容易となり、サイクル特性が向上する。
【0028】
(二次電池の製造方法)
次に、二次電池の製造方法を説明する。まず、正極活物質を作製する。金属酸化物と硫黄とを5:1〜3:2の範囲の所定のモル比で混合し、混合物に水を添加する。水の添加量は、焼成時間の間に蒸発して焼失する量以上であればよく、焼成終了時に混合物の粉が湿っている程度が好適である。水が完全に消失すると、金属酸化物の還元、硫黄の揮発が生じるためである。2gの正極活物質を作製するために、1g入れる程度が目安である。
【0029】
次に、水を添加した混合物を焼成する。焼成方法には、(1)電気や燃焼により水を加熱する方法、(2)マイクロ波で水を加熱する方法、(3)水プラズマにより行う方法が挙げられる。水の添加により、焼成時に温度が上がりすぎず、酸化と還元が水の沸騰された状態により制御されるため、金属酸化物の表面に硫黄を分布させた正極活物質が形成される。
【0030】
(1)電気や燃焼により水を加熱する方法は、炉による通常焼成により実施可能である。金属酸化物と硫黄の混合物に水を添加したものを100℃以上で1時間以上加熱することで、金属酸化物の表面を賦活させ、硫黄を焼成する。
【0031】
(2)マイクロ波で水を加熱する方法では、マイクロ波により100℃以上に加熱し、数分間水を沸騰させる。マイクロ波による内部加熱で粒子を均等に加熱することができ、短時間で簡易にサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。このように、水を加熱する場合には、大気圧下では100℃以上とすることが好ましい。
【0032】
(3)水プラズマで行う方法では、たとえば、減圧下でのカーボンフェルトピース間に保持された水をマイクロ波放電させて、水プラズマを生成することができる。水の沸騰が必要になるが、減圧する分低温で行うことができる。数分間で処理を行うことができ、低温なので、硫黄の酸化や金属酸化物の還元を抑制することができる。
【0033】
図2は、カーボンフェルトピース215間に水プラズマを生じさせるための装置を示す斜視図である。図2に示すように、マイクロ波照射室210内に真空室220を設け、その中に2枚のカーボンフェルトピース215に原料218を挟んだものを設置する。これにより、均等に水分子を分布させることができ、均等な焼成を行うことができる。原料218は、金属酸化物と硫黄とを混合し、適量の水を加えたものである。なお、図2では、マイクロ波照射室210を破線で、真空室220を実線で描き、その中のカーボンフェルトピース215および原料218を透視可能に記載している。
【0034】
このような装置構成で、真空室220内を0.01MPa以下に減圧し、原料218にマイクロ波を照射して放電させ、水プラズマを生じさせることで、正極活物質115を作製することができる。このように、水プラズマで焼成するため、硫黄の酸化および金属酸化物の還元をさらに抑制することができ、短時間でサイクル特性の優れた正極活物質を形成することができる。
【0035】
このようにして、得られた正極活物質115を正極集電体に接触させて正極110を作製する。次に、Mg金属等を用いて負極130を用意し、電解液125として水系または非水系の溶液を用いて二次電池を作製する。
【実施例】
【0036】
以下に、正極活物質の作製およびこれを用いた二次電池の充放電の実験について説明する。
【0037】
(S−MnOの作製)
MnOとSとを5:1〜3:2の範囲の所定のモル比で混合し、混合物に水を添加して焼成した。焼成は、混合物をカーボンフェルトピースに挟み500Wの電子レンジで行った。水プラズマにより行った。水プラズマは、0.001MPaまで真空室を減圧し、その減圧下でカーボンフェルトピース間に保持された混合物にマイクロ波放電させて生成した。マイクロ波照射は40秒間、2回行った。
【0038】
図3は、マイクロ波照射時の発光スペクトルを示すグラフである。図3に示すように、OH、HOおよびHのピークが表れており、水プラズマが生成されていることが分かった。このようにして作製された正極活物質について、銅Kα線を用いてX線回折測定(XRD)を行った。
【0039】
図4Aは、処理前の金属酸化物のXRDプロファイルである。図4Bは、作製された正極活物質のXRDプロファイルである。図4Bおよび図4AのいずれにもMnOのプロファイルは現れているが、図4Bに、図4Aには無い硫黄のピークが現れており、作製された正極活物質が硫黄を含んでいることが確認された。
【0040】
(S−MnOのサイクル特性)
上記で作製されたS−MnOの正極活物質を用いて正極を構成し、実施例としてMgを負極とする二次電池を作製した。また、比較例としてMnOを正極活物質としMgを負極とした二次電池を作製した。そして、比較例および実施例の各二次電池100について、充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。図5Aは、比較例の二次電池の放電曲線を示す図、図5Bは、実施例の二次電池の放電曲線を示す図である。図中の中抜きの矢印は、充放電回数の増加に対するおよその充放電曲線の遷移方向を示している(以下、同様)。
【0041】
図5Aに示すように、比較例では最初の放電時には80mAhg−1の容量まで起電力が維持されたが、第5回の放電時には、容量が20mAhg−1を超える範囲では、電圧が著しく低下し、容量が40mAhg−1の付近では、ほぼ0Vとなった。また、図5Bに示すように、実施例では容量が140mAhg−1より小さい範囲で約1Vの電圧が維持され、特に容量が70mAhg−1より小さい範囲では約1.6Vが維持された。また、繰り返しで放電しても、高い電圧が維持されることが分かった。このように、硫黄のドープにより放電容量が増大し、二次電池のサイクル特性が向上した。なお、上記の約1Vの電圧が維持されている範囲では、主に硫黄が活物質として作用しており、約1.6Vが維持されている範囲では、主にMnOが活物質として作用していると考えられる。
【0042】
(S−MoOのサイクル特性)
上記のMnOおよびS−MnOの各正極活物質と同様に、MoOおよびS−MoOの正極活物質を作製し、実施例としてMgを負極とする二次電池を作製した。また、比較例としてMoOを正極活物質としMgを負極とした二次電池を作製した。そして、比較例および実施例の各二次電池について、充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。図6Aは、比較例の二次電池の放電曲線を示す図、図6Bは、実施例の二次電池の放電曲線を示す図である。
【0043】
図6Aに示すように、比較例では第1回または第2回の放電時には150mAhg−1の容量まで起電力が維持されたが、第4〜6回の放電時には、0mAhg−1の容量から電圧が著しく低下し、容量が40mAhg−1の付近では、ほぼ0Vとなった。また、図6Bに示すように、実施例では容量が100mAhg−1より小さい範囲で高い電圧が維持され、特に容量が50mAhg−1より小さい範囲では1V以上が維持された。また、繰り返しで放電しても、高い電圧が維持されることが分かった。このように、硫黄のドープにより放電容量が最大で300mAhg−1に至るまで増大し、二次電池のサイクル特性が向上した。
【0044】
(S−Vのサイクル特性)
上記のMnOおよびS−MnOの各正極活物質と同様に、VおよびS−Vの正極活物質を作製し、実施例としてMgを負極とする二次電池を作製した。また、比較例としてVを正極活物質としMgを負極とした二次電池を作製した。そして、比較例および実施例の各二次電池について、充放電を繰り返し、サイクル特性を測定した。図7Aは、比較例の二次電池の充電曲線および放電曲線を示す図、図7Bは、実施例の二次電池の充電曲線および放電曲線を示す図である。
【0045】
図7Aに示すように、比較例では第1回の放電時には100mAhg−1の容量まで起電力が維持されたが、第2〜6回の放電時には、50mAhg−1の容量から電圧が著しく低下し、容量が70mAhg−1の付近では、ほぼ0Vとなった。また、第2〜6回の充電時は、十分な容量を充電できなかった。一方、図7Bに示すように、実施例では容量が100mAhg−1より小さい範囲で、1.3V程度の高い電圧が維持された。また、繰り返しで充放電しても、十分な容量の充放電が可能であり、高い電圧での放電が維持されることが分かった。このように、硫黄のドープにより放電容量が200mAhg−1に至るまで増大し、二次電池のサイクル特性が向上した。
【0046】
(硫黄添加量との関係)
硫黄の添加量に対するS−Vの正極活物質の特性について実験を行った。硫黄の添加量を変えたS−Vを正極活物質とする二次電池を作製し、5回充放電を繰り返したときの平均容量を測定した。図8は、硫黄の添加量に対する二次電池の容量を示すグラフである。図8に示すように、Vに対する硫黄の添加量が、20mol%以上66mol%以下の範囲で5回充放電を繰り返したときの平均容量が150mAhg−1を超えており、サイクル特性が高いことが示された。なお、硫黄を添加しない場合には、平均容量が100mAhg−1より低くなり、サイクル特性が低下していることが分かった。この実験では、金属酸化物としてVを用いているが、他の金属酸化物についても硫黄が陽イオンと酸素との結合を阻害するメカニズムは同様なので、他の金属酸化物についても上記の範囲で効果がある。
【0047】
(正極活物質の製造方法による相違)
上記で実験に用いたS−Vの正極活物質は、水プラズマにより混合物を焼成して作製したが、マイクロ波照射や電気炉で焼成したものであっても同様の効果が得られる。図9Aは、マイクロ波照射により作製したS−Vを正極活物質とした二次電池の充放電曲線を示す図である。図9Bは、電気炉による水の加熱により作製したS−Vを正極活物質とした二次電池の充放電曲線を示す図である。図9Aおよび図9Bに示すように、いずれの方法で作製した正極活物質を用いた二次電池に対して繰り返し充放電を行っても容量が大きく変化しないことが実証された。
【0048】
(正極活物質の製造方法による相違)
上記の実験では、焼成方法の違いによるサイクル特性への影響を実験したが、焼成条件によってもサイクル特性は変化する。単に硫黄とVとを混合しただけで、焼成せずに作製した正極活物質を用いた二次電池について、容量に対する電圧を計測した。図10は、焼成しない場合の放電曲線を示す図である。その結果、最初の放電の際には、容量の変化に対して電圧を維持できることが確認されたが、第2回、第3回の放電の際には、高い電圧を維持できず、十分なサイクル特性を得られなかった。
【0049】
また、硫黄とVとを混合し、200℃で焼成して作製した正極活物質を用いて、容量に対する電圧を計測した。図11は、200℃で焼成する場合の放電曲線を示す図である。この場合には、図10に示すような焼成しない場合に比べれば、比較的に発生電圧は高く維持されているものの、第3〜6回の電圧は小さくなった。このように、焼成しない場合や200℃以上の高温で焼成した場合には、硫黄を混合した正極活物質であっても、サイクル特性が低下することが実証された。
【符号の説明】
【0050】
100 二次電池
110 正極
115 正極活物質
120 セパレータ
125 電解液
130 負極
210 マイクロ波照射室
215 カーボンフェルトピース
218 原料
220 真空室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の正極活物質であって、
粒子状の金属酸化物とその表面に分布した粒子状の硫黄とからなることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
前記金属酸化物およびその表面に分布した硫黄は、いずれも電気化学的に活性であることを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加し、焼成することにより生成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の正極活物質を用いたことを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項5】
二次電池に用いられる正極活物質の製造方法であって、
金属酸化物と硫黄とを混合するステップと、
前記金属酸化物と硫黄との混合物に水を添加するステップと、
前記水を添加した混合物を焼成するステップとを含むことを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記焼成は、マイクロ波で水を加熱することにより行うことを特徴とする請求項5記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記焼成は、水プラズマにより行うことを特徴とする請求項5記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記水プラズマは、減圧下でのカーボンフェルトピース間に保持された水をマイクロ波放電させて生成することを特徴とする請求項7記載の正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図8】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−108478(P2011−108478A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261903(P2009−261903)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 粉体粉末冶金協会 平成21年度秋季大会、社団法人粉体粉末冶金協会、平成21年10月27日〜平成21年10月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/カーボンフェルト電極マイクロ波放電を利用したマグネシウム二次電池正極活物質の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】