説明

正極活物質及びこれを備えるリチウム電池

【課題】高温保存特性及び安定性が向上した正極活物質及びこれを備えるリチウム電池を提供する。
【解決手段】リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、この遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質及びこれを備えるリチウム電池である。これによれば、充電時に発生する酸素を抑制することによって、高温保存特性及び安定性が向上したリチウム電池を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質及びこれを備えるリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
PDA、移動電話、ノート型パソコンのような情報通信のための携帯用電子機器や、電気自転車、電気自動車などに二次電池の需要が急増しており、電子機器の小型化及び軽量化の趨勢によって、小型軽量化及び高容量に充放電可能なリチウム電池が実用化されている。
【0003】
リチウム電池は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な活物質を含む正極と陰極との間に、有機電解液またはポリマー電解液を充填させた状態で、リチウムイオンが正極及び負極で吸蔵/放出されるときの酸化反応、還元反応によって電気エネルギーを生産する。
【0004】
このリチウム電池は、既存の電池に比べて電圧が高く、エネルギー密度が大きいという長所がある。
【0005】
しかし、現在商用化されているリチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、またはリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(Li[NiCoMn]O、Li[Ni1−x−yCo]O)などの正極活物質を採用したリチウム電池の場合、充放電時に高い発熱量を示す問題があり、安定性を十分に得られないことがある。
【0006】
これに対し、LiCoO正極活物質に、TiO及びベンゼン化合物のような添加剤を添加し、過充電電流及びそれによる熱暴走現象を防止したり、芳香族化合物を少量添加して電池の安定性を向上させる方法がある。
【0007】
しかし、これら方法は、寿命劣化の問題や充放電時に電解質などの分解によるガス発生の問題を完全に解決するものではなく、一定領域での温度または電圧でのみ安定性を向上させるだけであり、究極的に電池の発火現象及び爆発現象のような安定性低下を防止することができないが、その改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第2007−0032358号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2003−0033913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的としては、高温保存特性及び安定性が向上した正極活物質を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的としては、高温保存特性及び安定性が向上した正極活物質を備えるリチウム電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としては、リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、前記遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質である。
【0012】
前記遷移金属酸化物が、前記リチウム複合酸化物との混合物として存在しうる。
【0013】
前記リチウム複合酸化物表面の少なくとも一部が、前記遷移金属酸化物でコーティングされうる。
【0014】
前記遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属の酸化数が2+ないし5+でありうる。
【0015】
前記遷移金属酸化物は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Mo、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの金属の酸化物でありうる。
【0016】
前記遷移金属酸化物は、Ti、TiO、VO、V、VO、Mn、MnO、FeO、Co、CoO、Co、Mo、MoO、Mo、MoO、W、WO、W及びNiOからなる群から選択される少なくとも一つでありうる。
【0017】
前記遷移金属酸化物は、MoO、WO、Co、またはそれらの混合物でありうる。
【0018】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.05ないし15重量部でありうる。
【0019】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.1ないし10重量部でありうる。
【0020】
本発明の他の側面としては、上記した正極活物質を含む正極と、負極と、電解液とを備えるリチウム電池である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、この遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質、特に、この遷移金属酸化物が、リチウム複合酸化物との混合物として存在するか、またはリチウム複合酸化物表面の少なくとも一部が、この遷移金属酸化物でコーティングされた正極活物質、及びこれを備えるリチウム電池を提供することができる。これによれば、充電時に発生する酸素を抑制することによって、高温保存特性及び安定性が向上したリチウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】MoO、MoO遷移金属酸化物のX線回折(XRD)結果を示したグラフクである。
【図2】充電後、実施例1,3,4及び比較例1の示差走査熱量測定(DSC)測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。それらは例示として提示されるものであり、それによって本発明は制限されず、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、この遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質を提供する。
【0025】
上記遷移金属酸化物は、1個またはそれ以下の酸素が除去され、酸素欠損が形成された酸素欠乏遷移金属酸化物である。
【0026】
遷移金属は、一般的に濃厚な色を有しており、触媒及び錯塩を形成する特性があるだけではなく、d−subshellの完全に充填されていない電子が化学反応に参与するために、多様な酸化数を有する特性がある。
【0027】
遷移金属は、一般的に、例えば、Ti(4+、3+、2+)、V(5+、4+、3+、2+)、Mn(7+、6+、5+、4+、3+、2+)、Fe(5+、3+、2+)、Co(4+、3+、2+)、Mo(6+、5+、4+、3+、2+)、W(6+、5+、4+、3+)、Ni(3+、2+)などの酸化数状態を有することができる。
【0028】
そして、上記遷移金属を含む酸化物は、例えば、TiO、V、MnO、Fe、CoO、MoO、WO、Niなどである場合、最も安定した状態でありうる。
【0029】
上記遷移金属酸化物は、上記最も安定した状態の遷移金属酸化物を還元雰囲気下で熱処理し、脱酸化反応を進めることによって製造されうる。
【0030】
例えば、上記遷移金属酸化物は、最も安定した状態の遷移金属酸化物を、Hガス、H/Nガス(5体積%Hと95体積%Nとの混合ガス)またはNHガスの還元雰囲気下で、10ないし20時間、1,000ないし1,500℃の温度で熱処理する還元反応を利用して製造することができるが、水素化ホウ素、ヒドラジン、NaPHのような還元剤を利用して製造することもできる。
【0031】
上記正極活物質は、上記遷移金属酸化物によって発生する酸素を吸着し、正極での酸素発生を抑制することができる。
【0032】
従って、このような遷移金属酸化物を含む正極活物質を採用した電池は、熱露出、燃焼または過充電などの条件でも、優秀な熱的安定性及びサイクル特性を確保することができる。
【0033】
上記遷移金属酸化物は、リチウム複合酸化物との混合物として存在することができる。
【0034】
また、リチウム複合酸化物表面の少なくとも一部は、上記遷移金属酸化物でコーティングされることができる。
【0035】
コーティング法については、コーティング液にリチウム複合酸化物を単に添加して混合する浸漬法以外に、その非制限的な例として、溶媒蒸発法、共沈法、ゾルゲル法、吸着後フィルタ法、スパッタ、CVDなどがある。
【0036】
上記遷移金属酸化物が、リチウム複合酸化物との混合物として存在するか、またはリチウム複合酸化物表面の少なくとも一部が、上記遷移金属酸化物でコーティングされた正極活物質は、充電時に発生する酸素を抑制することによって、高温保存特性及び安定性が向上しうる。
【0037】
上記遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属の酸化数、例えば、2+ないし5+とすることができる。
【0038】
上記遷移金属酸化物は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Mo、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの金属の酸化物とすることができる。
【0039】
上記遷移金属酸化物の金属は、2種以上の混合物、合金などをいずれも含むことができる。
【0040】
上記遷移金属酸化物は、例えば、酸化数が、Ti(3+、2+)、V(4+、3+、2+)、Mn(3+、2+)、Fe(2+)、Co(3+、2+)、Mo(5+、4+、3+、2+)、W(5+、4+、3+)、Ni(2+)の酸化数状態を有することができる。
【0041】
そして、上記遷移金属酸化物は、Ti、TiO、VO、V、VO、Mn、MnO、FeO、Co、CoO、Co、Mo、MoO、Mo、MoO、W、WO、W、NiOからなる群から選択される少なくとも一つとすることができる。
【0042】
上記遷移金属酸化物は、例えば、TiO、V、MnO、FeO、Co、MoO、WO、NiOとすることができ、特に、MoO、WO、Coとすることができる。
【0043】
上記遷移金属酸化物は、リチウム複合酸化物100重量部に対して、例えば、0.05ないし15重量部であり、特に、0.1ないし10重量部であり、さらには0.1ないし5重量部でありうる。
【0044】
上記遷移金属酸化物の含有量がこの範囲内である場合、Li吸蔵電位上昇があっても、電池の容量においても、最適の容量を有することができ、充放電特性を低下させず、熱的安定性にもすぐれ、高容量の電池を得ることができる。
【0045】
他の実施形態によれば、リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、この遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える、リチウム電池を提供することができる。
【0046】
上記正極は、集電体及び正極活物質層を含むことができる。
【0047】
上記正極活物質層は、リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、この遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質を含むことができる。
【0048】
これに係わる詳細な説明は、上述のところを参照する。
【0049】
一方、上記正極活物質層は、リチウム複合酸化物及び上記遷移金属酸化物が含まれる正極活物質以外に、リチウムの可逆的な吸蔵及び放出の可能な第1化合物(リチウム化吸蔵化合物)をさらに含むことができる。上記第1化合物の具体的な例としては、下記化学式のうちいずれか一つで表現される化合物を挙げることができる:
【0050】
Li1−b(この式で、0.95≦a≦1.1及び0≦b≦0.5である);Li1−b2−c(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2−b4−c(この式で、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1−b−cCoα(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1−b−cCo2−αα(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1−b−cCo2−α(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1−b−cMnα(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1−b−cMn2−αα(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1−b−cMn2−α(この式で、0.95≦a≦1.1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(この式で、0.90≦a≦1.1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1である。);LiNiCoMnGeO(この式で、0.90≦a≦1.1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0≦e≦0.1である);LiNiG(この式で、0.90≦a≦1.1、0.001≦b≦0.1である);LiCoG(この式で、0.90≦a≦1.1、0.001≦b≦0.1である);LiMnG(この式で、0.90≦a≦1.1、0.001≦b≦0.1である);LiMn(この式で、0.90≦a≦1.1、0≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiZO;LiNiVO;Li3−f(PO(0≦f≦2);Li3−fFe(PO(0≦f≦2);LiFePO;チタン酸リチウム。
【0051】
上記化学式において、Aは、Ni、Co、Mn及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Xは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Dは、O、F、S、P及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Eは、Co、Mn及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Mは、F、S、P及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Qは、Ti、Mo、Mn及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Zは、Cr、V、Fe、Sc、Y及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びそれらの組み合わせからなる群から選択されうるが、それらに限定されるものではない。
【0052】
上記正極活物質層は、さらにバインダを含むことができる。
【0053】
上記バインダは、正極活物質粒子を互いに良好に付着させ、また正極活物質を集電体に良好に付着させる役割を行い、その代表的な例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシ化ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、酸化エチレンを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエンラバー、アクリル化スチレン−ブタジエンラバー、エポキシ樹脂、ナイロンなどを使用することができるが、これらに限定されない。
【0054】
上記集電体としては、Al、Cuを使用することができるが、これらに限定されない。
【0055】
上記正極活物質層は、正極活物質及び任意にバインダ(選択的に、導電材も含まれる)を溶媒中で混合し、正極活物質層形成用組成物を製造し、この組成物を集電体に塗布して製造することができる。かような正極製造方法は、当分野に周知の内容であるから、本明細書で詳細な説明は省略する。上記溶媒としては、N−メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されない。
【0056】
上記負極は、負極活物質層及び集電体を含むことができる。
【0057】
上記遷移金属酸化物は、負極活物質にも使われうる。
【0058】
上記負極活物質としては、天然黒鉛、シリコン/炭素複合体(SiC)、シリコン金属、シリコン薄膜、リチウム金属、リチウム合金、炭素材またはグラファイトを使用することができる。上記リチウム合金の例として、チタン酸リチウムを挙げることができる。上記チタン酸リチウムは、結晶構造によって、スピネル型チタン酸リチウム、アナターゼ型チタン酸リチウム、ラムズデライト型チタン酸リチウムなどを含むことができる。具体的には、上記負極活物質は、Li4−xTi12(0≦x≦3)で表示されうる。例えば、上記負極活物質は、LiTi12であるが、これに限定されない。
【0059】
負極活物質層形成用組成物で、バインダ及び溶媒は、上記正極の場合と同じものを使用することができる。負極活物質層形成用組成物に選択的に含まれうる導電材は、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛、銅粉末、ニッケル粉末、アルミニウム粉末、銀粉末及びポリフェニレンからなる群から選択される一つ以上であるが、これらに限定されない。
【0060】
上記正極活物質層形成用組成物及び負極活物質層形成用組成物に可塑剤をさらに付加し、電極板内部に気孔を形成してもよい。
【0061】
上記電解液は、非水系有機溶媒とリチウム塩とを含むことができる。
【0062】
上記非水系有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を行うことができる。
【0063】
このような非水系有機溶媒としては、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系または非プロトン性溶媒を使用することができる。上記カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが使われ、上記エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ジメチル、プロピオン酸メチルE、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、デカノライド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトンなどが使われうる。上記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグライム、ジグライム、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどが使われ、上記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどが使われうる。また、上記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが使われ、上記非プロトン性溶媒としては、R−CN(Rは、C−C20直鎖状、分枝状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類スルホラン類などが使われうる。
【0064】
上記非水系有機溶媒は、単独でまたは一つ以上混合して使用でき、一つ以上混合して使用する場合の混合比率は、目的とする電池性能によって適切に調節され、これは、当分野に従事する当業者には周知である。
【0065】
上記リチウム塩は、有機溶媒に溶解され、電池内でリチウムイオンの供給源として作用し、基本的なリチウム電池の作動を可能にし、正極と負極との間のリチウムイオンの移動を促進する役割を行う物質である。このようなリチウム塩の例としては、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiN(SO、Li(CFSON、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ここで、x及びyは自然数である)、LiCl、LiI及びLiB(C(リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)からなる群から選択される一つまたは二つ以上を、支持電解塩として含むことができる。リチウム塩の濃度は、0.1ないし2.0M範囲内で使用することができる。リチウム塩の濃度がこの範囲に含まれれば、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するので、優秀な電解質性能を示し、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0066】
リチウム電池の種類によって、正極と負極との間にセパレータが存在することもできる。このようなセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンまたはそれらの2層以上の多層膜が使われ、ポリエチレン/ポリプロピレン2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータのような混合多層膜が使われうることはいうまでもない。
【0067】
リチウム電池は、使用するセパレータと電解質との種類によって、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池及びリチウムポリマー電池に分類され、形態によって、円筒形、角形、コイン型、ポーチ型などに分類され、サイズによって、バルクタイプと薄膜タイプとに分けられる。併せて、上記リチウム電池は、一次電池または二次電池のいずれにも使用可能である。それら電池の製造方法は、この分野に周知であるので、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。しかし、下記実施例は、本発明の一実施例であるだけであり、本発明は下記実施例に限定されない。
【0069】
(製造例1:遷移金属酸化物の製造)
MoO遷移金属酸化物を1,000〜1,500℃で、H/Nの還元雰囲気(5体積%H、95体積%Nの混合ガス)下で10時間熱処理し、MoO遷移金属酸化物を形成した。
【0070】
6価の酸化数を有するMoO遷移金属酸化物で、上記還元反応を介して、4価の酸化数を有するMoO遷移金属酸化物を形成したところをX−ray回折分析を介して観察し、その結果を図1に示した。
【0071】
(実施例1:リチウム電池の製造)
LiCoOの100重量部に、上記製造例1で得たMoO遷移金属酸化物1重量部を混合して、正極活物質を製造した。この収得した正極活物質94重量%に、Super Pカーボンブラック3重量%及びPVDF3重量%を混合して、正極活物質スラリ組成物を製造した後、このスラリ組成物を、アルミニウムホイルの電流集電体に塗布した後、乾燥させて正極を製造した。そして、黒鉛粉末約3重量%と、バインダとしてPVDF3重量%とを、N−メチル−2−ピロリドンに添加して負極活物質スラリを形成し、負極集電体である銅箔に塗布して負極を製造した。この正極と負極との中間に、ポリプロピレンからなる分離膜を介在させ、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネートを3:7の割合で混合して作った混合溶媒に、LiPFが1.50モル/Lの濃度で溶解された非水電解質を注入して、コイン型リチウム電池を製造した。
【0072】
(実施例2:リチウム電池の製造)
LiCoOの100重量部に、上記製造例1で得たMoO遷移金属酸化物5重量部を混合することを除いては、実施例1と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0073】
(実施例3:リチウム電池の製造)
LiCoOの100重量部に、上記製造例1で得たMoO遷移金属酸化物10重量部を混合することを除いては、実施例1と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0074】
(実施例4:リチウム電池の製造)
1重量部のMoOを100mlの水に溶かしてコーティング液を製造した。このコーティング液に、平均粒径が20μmである100重量部のLiCoO正極活物質と、1重量部の酢酸とを投入して反応させてコーティングした。コーティングされたLiCoOを室温で24時間乾燥させた後、400℃で10時間熱処理して正極活物質を製造したことを除いては、実施例1と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0075】
(実施例5:リチウム電池の製造)
LiCoOとLiNiOとの混合物(LiCoO:LiNiO=70:30重量比)100重量部に、上記製造例1で得たMoO遷移金属酸化物5重量部を混合することを除いては、実施例1と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0076】
(比較例1:遷移金属酸化物が含まれていない正極活物質を含むリチウム電池の製造)
正極活物質として、遷移金属酸化物が含まれず、LiCoO正極活物質だけを使用したことを除いては、上記実施例1と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0077】
(比較例2:遷移金属酸化物が含まれていない正極活物質を含むリチウム電池の製造)
正極活物質として、遷移金属酸化物が含まれず、LiCoOとLiNiOとの混合正極活物質(LiCoO:LiNiO=70:30重量比)だけを利用して正極を製造したことを除いては、上記実施例5と同じ方法でリチウム電池を製造した。
【0078】
(実験例1:DSC(示差走査熱量測定)測定結果)
実施例1、2、3及び4で製造されたコイン型リチウム電池を4.4Vまで充電した後、充電された電池を解体して正極活物質を得た。そこから収得された正極活物質を、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネートを3:7の割合で混合して作った混合溶媒にLiPFが1.50モル/Lの濃度で溶解された非水電解質と共に、サンプリングした。このようにサンプリングされた正極活物質に対して、50℃から375℃まで、N雰囲気下で10℃/minの昇温速度で設定された示差走査熱量計(DSC、TA Instruments社製)を利用して発熱量変化を測定した。
【0079】
発熱量変化の結果を表1に示し、実施例2で製造されたコイン型リチウム電池を除いて、示差走査熱量測定の結果を図2に示した。
【0080】
(実験例2:ガス発生量の測定結果)
実施例5及び比較例2で製造された正極活物質に対し、4.4Vまで充電後、60℃で100時間保存して電池内で発生したガス発生量を測定した。その結果を表1に表した。
【0081】
(実験例3:充放電容量の測定結果)
実施例1〜5、比較例1及び2によって製造されたリチウム電池を利用し、定電流160mA/1Cで、電圧が4.4Vになるまで充電し、その後定電圧4.4Vで、電流が1/20Cになるまで充電して充電容量を測定した。その後、定電流160mA/1Cで、電圧が4.4Vになるまで放電して放電容量を測定し、効率を求めた。その結果を表1に表した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示す通り、実施例1〜4の発熱量変化は、比較例1の発熱量変化と比較するとき、約2倍以上低減するということが分かる。
【0084】
また、図2を参照すれば、比較例1の場合、実施例1,3,4の場合と比較するとき、250℃以上の高温で熱フロー変化が約3倍ないし16倍ほど高いということが分かる。
【0085】
一方、LiNiOが含まれたリチウム複合酸化物である実施例5の場合、発熱量変化の代わりにOガス発生量を測定した。
【0086】
その結果、実施例5のOガス発生量は、比較例2のOガス発生量と比較するとき、約30倍以上低減するということが分かる。
【0087】
これより、本発明の一実施例によるリチウム電池用正極を採用したリチウム電池は、高温保存特性及び熱的安定性にすぐれることが分かる。
【0088】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、それらに限定されるものではなく、特許請求の範囲内で、さまざまに変形して実施することが可能であり、それもまた、本発明の範囲に属することはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、
前記遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する、正極活物質。
【請求項2】
前記遷移金属酸化物が、前記リチウム複合酸化物との混合物として存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物表面の少なくとも一部が、前記遷移金属酸化物でコーティングされた、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属の酸化数が、2+ないし5+である、請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記遷移金属酸化物は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Mo、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの金属の酸化物である、請求項1から4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記遷移金属酸化物は、Ti、TiO、VO、V、VO、Mn、MnO、FeO、Co、CoO、Co、Mo、MoO、Mo、MoO、W、WO、W及びNiOからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1から4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物は、MoO、WO、Coまたはそれらの混合物である、請求項1から4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.05ないし15重量部である、請求項1から7のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.1ないし10重量部である、請求項1から7のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記遷移金属酸化物は、MoOであり、前記リチウム複合酸化物は、LiCoO及びLiNiOのうち一つ以上である、請求項1から9のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項11】
リチウム複合酸化物及び遷移金属酸化物を含み、前記遷移金属酸化物は、遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属が最も安定した状態での酸化数より小さい値の酸化数を有する正極活物質を含む正極と、
負極と、
電解質と、を備える、リチウム電池。
【請求項12】
前記遷移金属酸化物が、前記リチウム複合酸化物との混合物として存在する、請求項11に記載のリチウム電池。
【請求項13】
前記リチウム複合酸化物表面の少なくとも一部が、前記遷移金属酸化物でコーティングされた、請求項11に記載のリチウム電池。
【請求項14】
前記遷移金属酸化物内に含まれた遷移金属の酸化数が、2+ないし5+である、請求項11から13のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項15】
前記遷移金属酸化物は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Mo、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1つの金属の酸化物である、請求項11から14のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項16】
前記遷移金属酸化物は、Ti、TiO、VO、V、VO、Mn、MnO、FeO、Co、CoO、Co、Mo、MoO、Mo、MoO、W、WO、W及びNiOからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項11から14のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項17】
前記遷移金属酸化物は、MoO、WO、Coまたはそれらの混合物である、請求項11から14のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項18】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.05ないし15重量部である、請求項11から17のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項19】
前記遷移金属酸化物は、前記リチウム複合酸化物100重量部に対して、0.1ないし10重量部である、請求項11から17のいずれか1項に記載のリチウム電池。
【請求項20】
前記遷移金属酸化物は、MoOであり、前記リチウム複合酸化物は、LiCoO及びLiNiOのうち一つ以上である、請求項11から19のいずれか1項に記載のリチウム電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−43787(P2012−43787A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174545(P2011−174545)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】