説明

歩数計及び歩数計数方法

【課題】歩数の計数精度を向上させる。
【解決手段】加速度ベクトル取得部10は、歩行体の加速度ベクトルを取得する。加速度ベクトル分離部20は、この加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと、歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する。内積計算部30は、加速度ベクトル分離部20により分離された重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する。歩数計数部40は、内積計算部30により算出された内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で述べる実施態様は、人間等の、歩行を行う歩行体が歩行したときの歩数を計数する歩数計の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行体が歩行したときの歩数を計数する歩数計が広く知られている。この歩数の計数について、幾つかの技術が知られている。
この技術のひとつに、鉛直線方向の振動を検出するセンサの検出結果に基づいて歩数を計数するというものがある。この技術では、歩行体へ取り付けるセンサの向きを、様々な手法を用いて制限することで、センサが検出する振動が鉛直線方向のものとなるようにしている。
【0003】
また、この技術の別のひとつに、X、Y、Z方向の加速度を検出する三軸加速度センサにより検出された加速度データを処理して歩数を計数するようにして、センサの歩行体への取り付けの自由度を向上させるというものがある。
【0004】
また、この技術の更に別のひとつに、加速度センサで検出した加速度の指標値を積分して算出した歩行エネルギーと、所定の閾値との比較結果に基づいて歩数を計数するというものがある。この技術では、瞬間的な振動と歩行による振動とを区別できるので、歩数の計数精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−156361号公報
【特許文献2】特開2003−308511号公報
【特許文献3】特開2003−242477号公報
【特許文献4】特開2008−171347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
三軸加速度センサにより検出される3方向の加速度成分から得られる加速度ベクトルには、縦方向の加速度成分と横方向の加速度成分とを含んでいる。このうちの縦方向の加速度成分は、歩行による縦方向(鉛直線方向)の振動によって生じるものであり、横方向の加速度成分は、歩行による横方向(歩行の進行方向に対する前後左右各方向)の振動によって生じるものである。この加速度ベクトルに基づいて歩数の計数を行う場合、この横方向の振動に起因する加速度成分の存在は、歩行の計数誤差を生じさせる要因となる。
【0007】
また、昨今は、歩数計の機能を装備した、携帯電話機や腕時計などの電子機器が市販されている。このような電子機器では、専用の歩数計よりも一般的には自重が大きいため、上述した歩行による横方向の振動の振幅を更に増大させる結果、歩行の計数誤差を拡大させる。
【0008】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、歩数の計数精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で後述する歩数計のひとつには、加速度ベクトル取得手段と、加速度ベクトル分離手段と、内積値算出手段と、歩数計数手段と、を有するというものがある。
ここで、加速度ベクトル取得手段は、歩行体の加速度ベクトルを取得する。加速度ベクトル分離手段は、この加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと当該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する。内積値算出手段は、加速度ベクトル分解手段が分解した重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する。そして、歩数計数手段は、この内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う。
【0010】
重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトルとの内積値は、歩行によって歩行体に生じる鉛直線方向の振動における鉛直線方向の加速度を表す指標値と見ることができる。従って、この内積値の時間変化から、歩数の計数を行うことができる。また、このようにして歩数の計数を行う場合には、横方向の振動に起因する加速度成分は、歩数の計数において無視される。従って、高い計数精度での歩行の計数が可能となる。また、この歩数計では、歩数計の自重により横方向の振動の振幅が増大しても、この横方向の振動に起因する加速度成分が歩数の計数において以上のようにして無視されるので、歩行の計数誤差の拡大が抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明で後述する歩数計は、高い歩数の計数精度を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】歩数計の全体構成図である。
【図2】歩数計のハードウェア構成図である。
【図3】制御処理の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず図1について説明する。図1は、歩数計1の機能構成が図解されている。この歩数計1は、加速度ベクトル取得部10と、加速度ベクトル分離部20と、内積計算部30と、歩数計数部40とを有している。
【0014】
図1において、加速度ベクトル取得部10は、この歩数計1による歩数計数の対象である歩行体の加速度ベクトルを取得する。この加速度ベクトル取得部10は、本実施形態では、三軸加速度センサ11を有している。
【0015】
三軸加速度センサ11は、互いに異なる方向を向く3つの軸の各々の加速度成分を検出する。本実施形態では、加速度ベクトル取得部10は、この三軸加速度センサ11による歩行体についての上記の各加速度成分の検出結果を加速度ベクトルとして取得する。
【0016】
なお、加速度ベクトル取得部10は、他のセンサを用いて歩行体の加速度ベクトルを取得するようしてもよい。
以下、加速度ベクトル取得部10が取得した歩行体の加速度ベクトルを、単に「加速度ベクトル」と称することとする。
【0017】
加速度ベクトル分離部20は、加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと、歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する。この加速度ベクトル分離部20は、本実施形態では、ローパスフィルタ21、ハイパスフィルタ22、及びノイズ除去フィルタ23を有している。
【0018】
ローパスフィルタ21は、加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による歩行体の鉛直線方向の振動(「歩行振動」と称することとする。)の周波数成分よりも低い成分を通過させる。なお、例えば、歩行体が人間である場合における歩行振動は、1ヘルツ([Hz])〜3ヘルツ程度の周波数成分を有している。従って、この場合、ローパスフィルタ21の遮断周波数は1ヘルツ程度に設定される。
【0019】
このローパスフィルタ21を通過する成分は、その振幅がほぼ一定の成分(直流成分)である。ところで、加速度ベクトルにおいて、振幅が一定の成分とは、重力加速度ベクトルであることは明らかである。従って、加速度ベクトル分離部20は、加速度ベクトルのうち、このローパスフィルタ21を通過した成分を、当該加速度ベクトルから分離された重力加速度ベクトルとする。
【0020】
ハイパスフィルタ22は、加速度ベクトルの周波数成分のうち、前述した歩行振動の周波数成分よりも低い成分を減衰させて、その残りの成分を通過させる。例えば、歩行体が人間である場合における歩行振動は前述した周波数成分を有しているので、この場合、ハイパスフィルタ22の遮断周波数は1ヘルツ程度に設定される。
【0021】
このように、ハイパスフィルタ22は、加速度ベクトルの周波数成分のうち、ローパスフィルタ21が通過させる成分を減衰させ、ローパスフィルタ21が減衰させる成分を通過させる。従って、このハイパスフィルタ22を通過する成分は、加速度ベクトルの周波数成分のうちの重力加速度ベクトル以外の成分であり、これはすなわち、歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルである。従って、加速度ベクトル分離部20は、加速度ベクトルのうち、このハイパスフィルタ22を通過した成分を、当該加速度ベクトルから分離された歩行加速度ベクトルとする。
【0022】
なお、加速度ベクトル分離部20は、加速度ベクトルからの重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトルとの分離を、他の構成により行うようにしてもよい。
ノイズ除去フィルタ23は、加速度ベクトルの周波数成分のうち、前述した歩行振動の周波数成分よりも高い成分を、ノイズ成分とみなして減衰させるローパスフィルタである。例えば、歩行体が人間である場合における歩行振動は前述した周波数成分を有しているので、この場合、ノイズ除去フィルタ23であるローパスフィルタの遮断周波数は3ヘルツ程度に設定される。
【0023】
加速度ベクトル分離部20は、このノイズ除去フィルタ23を備えなくてもよいが、ノイズ除去フィルタ23を備えて上記のノイズ成分を除去することで、当該ノイズ成分に起因する歩数の誤計数が抑制されるので、歩数の計数精度が向上する。なお、ノイズ除去フィルタ23を備える場合には、加速度ベクトル分離部20は、加速度ベクトルのうち、ハイパスフィルタ22及びノイズ除去フィルタ23の両者を通過した成分を、当該加速度ベクトルから分離された歩行加速度ベクトルとする。
【0024】
内積計算部30は、加速度ベクトルから加速度ベクトル分離部20により分離された重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する。ここで、重力加速度ベクトルは、歩行体の歩行する範囲においては向きも大きさも一定と見れば、この内積値は、歩行振動における鉛直線方向の加速度を表す指標値と見ることができる。
【0025】
歩数計数部40は、内積計算部30が算出した内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う。この歩数計数部40は、本実施形態では、反転検出部41、積分計算部42、及び歩数算出部43を有している。
【0026】
反転検出部41は、内積計算部30が算出した内積値の符号の反転、すなわち、歩行振動における鉛直線方向の加速度の符号の反転を検出する。
積分計算部42は、反転検出部41が内積値の符号の反転を一旦検出してから当該反転検出部41が当該内積値の当該反転前の符号への反転を次に検出するまでの期間における当該内積値の積分値を、当該該期間毎に算出する。つまり、積分計算部42は、歩行振動における鉛直線方向の加速度の符号の反転を反転検出部41が一旦検出してから、当該加速度の当該反転前の符号への反転を次に検出するまでの期間における当該加速度の積分値を、当該該期間毎に算出する。
【0027】
歩数算出部43は、上記の期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数から、歩行体の歩数を算出する。
一般に、物体の運動エネルギーは、速度の二乗に比例定数(物体の質量×1/2)を乗じたものである。従って、物体の質量が不変であれば、その運動エネルギーは、速度の二乗値により表すことができる。ここで、速度は、加速度を時間積分したものであるので、運動エネルギーは、加速度の二乗を、所定時間積分したものにより表すこともできる。更に、運動エネルギーと所定のエネルギー値との大小判定を行うのみであれば、加速度が余り大きく変化しないのであれば、加速度を所定時間積分したものと所定値との比較によって近似的に当該判定を下すことが可能である。
【0028】
積分計算部42は、歩行振動における加速度の符号が同一の期間における当該加速度の積分値を算出し、歩数算出部43は、この積分値が所定の閾値以上である場合の数を計数する。従って、閾値を適切な値としておくことで、例えば歩数計1を落下させてしまった場合のような瞬間的な加速度の変化が発生しても、この変化を歩数として誤計数することがないので、精度良く歩数を計数することができる。
【0029】
なお、歩行体による歩行において、1歩の歩行は歩行振動の1周期に対応する。この1周期において、歩行振動における鉛直線方向の加速度の符号は2回反転して元の符号に戻る。つまり、積分計算部42が積分値の計算を行う期間は、1歩の歩行について2つ発生する。従って、歩数算出部43は、上記の期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数の1/2を、歩行体の歩数の算出結果とする。ここで、この歩数の算出結果が整数とならない場合には、小数点以下を切り上げ若しくは切り捨てて、整数値としてもよい。
【0030】
なお、歩数計数部40は、内積計算部30が算出した内積値の時間変化に基づいた歩数の計数、すなわち、歩行振動における鉛直線方向の加速度の時間変化に基づいた歩数の計数を、他の構成により行うようにしてもよい。
【0031】
次に図2について説明する。図2は、歩数計1のハードウェア構成図である。この図2の構成は、図1に提示した歩数計1の各構成要素が有している機能を、MPU51が提供するようにして構成した一例である。
【0032】
図2において、この歩数計1は、MPU51、ROM52、RAM53、入力部54、表示部55、及びインタフェース部56を備えている。これらはバス57に接続されており、MPU51の管理の下で各種のデータを相互に授受することができる。また、前述した三軸加速度センサ11がインタフェース部56に接続されている。
【0033】
MPU(Micro Processing Unit)51は、この歩数計1全体の動作を制御する演算処理装置である。
ROM(Read Only Memory)52は、所定の制御プログラムが予め記録されている読み出し専用半導体メモリである。この制御プログラムは、後述する制御処理の処理内容をMPU51に行わせるためのものである。MPU51は、この制御プログラムを歩数計1の起動時に読み出して実行することにより、この歩数計1の各構成要素の動作制御が可能になる。その結果、加速度ベクトル取得部10、加速度ベクトル分離部20、内積計算部30、及び歩数計数部40が有している各機能を、MPU51が提供できるようになる。
【0034】
RAM(Random Access Memory)53は、MPU51が各種の制御プログラムを実行する際に、必要に応じて作業用記憶領域として使用する、随時書き込み読み出し可能な半導体メモリである。
【0035】
入力部54は、例えば歩数計時リセットスイッチ等の操作子であり、歩数計1の使用者により操作されると、その操作内容に対応付けられている使用者からの各種情報の入力を取得し、取得した入力情報をMPU51に送付する。
【0036】
表示部55は例えば液晶ディスプレイであり、MPU51から送付される表示データに応じ、歩数の計数結果等の各種のテキストや画像を表示する。
インタフェース部56は、例えばアナログ−デジタル変換器(AD変換器)であり、三軸加速度センサ11により検出された各加速度成分の検出結果を示すアナログ電気信号を、当該検出結果を示すデジタルデータに変換してMPU51に送付する。なお、MPU51自身がAD変換機能を備えている場合には、三軸加速度センサ11が出力する上記のアナログ電気信号を、MPU51が直接受け取ってデジタルデータに変換するようにしてもよい。
【0037】
次に図3について説明する。図3は、MPU51によって行われる制御処理の処理内容を示すフローチャートである。MPU51は、この処理を繰り返し実行する。
図3において、まず、S101において、MPU51は、インタフェース部56を制御して、三軸加速度センサ11の検出結果である3方向の加速度成分データを、歩行体の加速度ベクトルとして取得する処理を行う。このS101の処理を行うことで、MPU51は、加速度ベクトル取得部10の機能を提供する。
【0038】
次に、S102において、MPU51は、S101の処理で取得した加速度ベクトルから、重力加速度ベクトルを算出する処理を行う。そして、続くS103において、MPU51は、S101の処理で取得した加速度ベクトルから、前述した歩行加速度ベクトルを算出する処理を行う。このS102及びS103の処理を行うことで、MPU51は、加速度ベクトル分離部20の機能を提供する。
【0039】
このS102及びS103の処理について、更に説明する。
S102の処理では、MPU51は、S101の処理で取得した加速度ベクトルのベクトル成分に対し、歩行振動の周波数成分よりも低い成分を通過させるローパスフィルタ21の特性を有するデジタルフィルタ演算を実行する。また、S103の処理では、MPU51は、S101の処理で取得した加速度ベクトルのベクトル成分に対し、歩行振動の周波数成分よりも低い成分を減衰させるハイパスフィルタ22の特性を有するデジタルフィルタ演算を実行する。このS102及びS103のデジタルフィルタ演算では、例えば、下記の式の値を、ベクトル成分毎に算出するようにする。
【数1】

【0040】
この[数1]式において、yn はn番目のフィルタ出力値であり、xj はj番目のフィルタ入力値であり、aj は定数(フィルタ係数)であり、m(>0)は、このフィルタ演算に使用するフィルタ入力値の個数(「窓幅」などとも称される)である。なお、この[数1]式は、一般的なFIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)を表している。この式におけるaj 及びmの値を適切な値に予め設定しておくことで、上述したローパスフィルタ21やハイパイフィルタ22の特性を有するデジタルフィルタをMPU51で構成することができる。
【0041】
なお、フィルタの特性の精度が許容できる場合には、[数1]式の値を算出する代わりに、式の形が[数1]式に類似している、下記の式の値をMPU51が算出するようにしてもよい。
【数2】

【数3】

【0042】
上記の式のうち、[数2]式は、加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力することを表現しており、ローパスフィルタ21の特性を有するデジタルフィルタをMPU51で構成する場合の計算式である。また、[数3]式は、加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を、最直近の成分値から減算した結果を出力することを表現しており、ハイパスフィルタ22の特性を有するデジタルフィルタをMPU51で構成する場合の計算式である。
【0043】
なお、上記の[数2]式及び[数3]式において、yn はn番目のフィルタ出力値であり、xj はj番目のフィルタ入力値であり、m(>0)は、このフィルタ演算に使用するフィルタ入力値の個数である。
【0044】
[数1]式におけるaj は、その多くが1未満の値となる。このため、例えばMPU51が整数演算しか扱えないような場合であると、[数1]式を適用することは難しく、また、適用した場合の計算量も膨大なものになる。これに対し、デジタルフィルタを[数2]式や[数3]式を用いて構成するのであれば、2バイト整数演算をサポートする程度のMPU51であっても、これらの式の適用は容易である。また、加速度ベクトル分離部20としての用途であれば、[数2]式や[数3]式を用いて構成するデジタルフィルタであっても、mの値を吟味して適切な値に予め設定しておくことで、上述したフィルタ特性を十分な精度で提供することができる。
【0045】
なお、S103の処理において、ハイパスフィルタ22の特性を有するデジタルフィルタ演算を実行し、続いて、ノイズ除去フィルタ23の特性を有するデジタルフィルタ演算の実行も行うようにしてもよい。この場合のフィルタ演算も、例えば、前掲した[数1]式のaj 及びmの値を適切な値に予め設定しておき、この式の値を算出するようにするようにすればよい。また、前述したように、ノイズ除去フィルタ23は、加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行振動の周波数成分よりも高い成分を、ノイズ成分とみなして減衰させるローパスフィルタである。従って、加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力することを表現している式である、前掲した[数2]式のmの値を吟味して適切な値に予め設定しておく。そして、MPU51が、この式の値を算出するようにして、ノイズ除去フィルタ23の機能を提供するようにしてもよい。
【0046】
次に、S104において、MPU51は、S102の処理により算出された重力加速度ベクトルと、S103の処理により算出された歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する処理を行う。このS104の処理を行うことで、MPU51は、内積計算部30の機能を提供する。
【0047】
次に、S105において、MPU51は、内積値の零点を通過したか否か、すなわち、直近のS104の処理により算出された内積値の符号が、図3の制御処理の前回の実行時に算出されたものから反転したか否かを判定する処理を行う。ここで、内積値の符号が反転したと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、MPU51は、S107に処理を進める。一方、内積値の符号が反転していないと判定したとき(判定結果がNoのとき)には、MPU51は、S106に処理を進める。MPU51は、このS105の処理を行うことで、反転検出部41の機能を提供する。
【0048】
S106において、MPU51は、S104の処理の実行の度に算出された内積値を累積加算して、その結果の値を所定の格納場所(MPU51内の所定のレジスタ若しくはRAM53の所定の格納位置)に格納しておく処理を行う。そして、この処理後、MPU51は、三軸加速度センサ11の検出結果を直近に取得してから所定の時間が経過したときに、S101以降の処理の実行を改めて開始する。この処理の繰り返しにより、MPU51は、内積値の積分値の計算を行い、積分計算部42の機能を提供する。
【0049】
一方、S107では、MPU51は、S106の処理による累積加算の結果、すなわち、内積値の積分値を、前述した所定の格納場所から取得する処理を行う。この積分値は、S105の処理によってMPU51が内積値の符号の反転を一旦検出してから当該反転前の符号への反転を次に検出するまでの期間における内積値の積分値である。
【0050】
次に、S108において、MPU51は、この積分値が所定の閾値以上の値であるか否かを判定する処理を行う。ここで、積分値が所定の値以上であると判定した場合(判定結果がYesのとき)には、MPU51は、S109において、歩数係数用のカウンタの値を「1」だけカウントアップする処理を行い、その後はS110に処理を進める。一方、ここで、積分値が所定の値未満であると判定した場合(判定結果かNoのとき)には、MPU51は、S109の処理を行わずに、S110に処理を進める。この歩数係数用のカウンタは、例えば、MPU51内の所定のレジスタを利用する。
【0051】
次に、S110では、MPU51は、上述したカウンタの値を1/2倍して歩数を算出し、算出された歩数を、表示部55に表示して出力する処理を行う。
MPU51は、以上のS107からS110にかけての処理を行うことで、歩数算出部43の機能を提供する。従って、反転検出部41、積分計算部42、及び歩数算出部43の各機能をこのように提供することで、MPU51は、重力加速度ベクトルと歩行加速度ベクトル内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う歩数計数部40の機能を提供する。
【0052】
上述したS110の処理を終えると、MPU51は、図3の制御処理を一旦終了する。その後、MPU51は、三軸加速度センサ11の検出結果を直近に取得してから所定の時間が経過したときに、前述した所定の格納場所に格納されている内積値の積分値を「0」に初期化した上で、S101以降の処理の実行を改めて開始する。
【0053】
以上のように、図3に提示した制御処理をMPU51が行うことで、図2に提示した構成の歩数計1による歩行体の歩数の係数が可能になる。
なお、本発明は、これまでに説明した実施の形態に限定されるものではなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。
【0054】
なお、以上までに説明した実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
歩行体の加速度ベクトルを取得する加速度ベクトル取得手段と、
該加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する加速度ベクトル分離手段と、
該重力加速度ベクトルと該歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する内積計算手段と、
該内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う歩数計数手段と、
を有することを特徴とする歩数計。
(付記2)
該加速度ベクトル分離手段は、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも低い成分を通過させるローパスフィルタを含み、該ローパスフィルタを通過した成分を該重力加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
(付記3)
該ローパスフィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項2に記載の歩数計。
(付記4)
該加速度ベクトル分離手段は、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも低い成分を減衰させるハイパスフィルタを含み、該ハイパスフィルタを通過した成分を該歩行加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
(付記5)
該ハイパスフィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を、最直近の成分値から減算した結果を出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項4に記載の歩数計。
(付記6)
該加速度ベクトル分離手段は、更に、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも高い成分を、ノイズ成分とみなして減衰させるローパスフィルタであるノイズ除去フィルタを含み、該ハイパスフィルタ及び該ノイズ除去フィルタの両者を通過した成分を、該歩行加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項4に記載の歩数計。
(付記7)
該ノイズ除去フィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項6に記載の歩数計。
(付記8)
該歩数計数手段は、
該内積値の符号の反転を検出する反転検出手段と、
該反転検出手段が該内積値の符号の反転を一旦検出してから該反転検出手段が該内積値の該反転前の符号への反転を次に検出するまでの期間における該内積値の積分値を、該期間毎に算出する積分計算手段と、
該期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数から、該歩数を算出する歩数算出手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
(付記9)
該歩数算出手段は、該期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数の1/2を該歩数の算出結果とすることを特徴とする請求項8に記載の歩数計。
(付記10)
該加速度ベクトル取得手段は、互いに異なる方向を向く3つの軸の各々の加速度成分を検出する三軸加速度センサを含み、該三軸加速度センサによる該歩行体についての検出結果を該加速度ベクトルとして取得することを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
(付記11)
歩数計の有する加速度ベクトル取得手段が、歩行体の加速度ベクトルを取得し、
該歩数計の有する加速度ベクトル分離手段が、該加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離し、
該歩数計の有する内積計算手段が、該重力加速度ベクトルと該歩行加速度ベクトルとの内積値を算出し、
該歩数計の有する歩数計数手段が、該内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う、
ことを特徴とする歩数計数方法。
(付記12)
互いに異なる方向を向く3つの軸の各々の加速度成分を検出する三軸加速度センサの検出結果を、歩行体の加速度ベクトルとして取得する加速度ベクトル取得処理と、
該加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する加速度ベクトル分離処理と、
該重力加速度ベクトルと該歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する内積計算処理と、
該内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う歩数計数処理と、
を演算処理装置に行わせるためのプログラム。
【符号の説明】
【0055】
1 歩数計
10 加速度ベクトル取得部
11 三軸加速度センサ
20 加速度ベクトル分離部
21 ローパスフィルタ
22 ハイパスフィルタ
23 ノイズ除去フィルタ
30 内積計算部
40 歩数計数部
41 反転検出部
42 積分計算部
43 歩数算出部
51 MPU
52 ROM
53 RAM
54 入力部
55 表示部
56 インタフェース部
57 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行体の加速度ベクトルを取得する加速度ベクトル取得手段と、
該加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離する加速度ベクトル分離手段と、
該重力加速度ベクトルと該歩行加速度ベクトルとの内積値を算出する内積計算手段と、
該内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う歩数計数手段と、
を有することを特徴とする歩数計。
【請求項2】
該加速度ベクトル分離手段は、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも低い成分を通過させるローパスフィルタを含み、該ローパスフィルタを通過した成分を該重力加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
【請求項3】
該ローパスフィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項2に記載の歩数計。
【請求項4】
該加速度ベクトル分離手段は、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも低い成分を減衰させるハイパスフィルタを含み、該ハイパスフィルタを通過した成分を該歩行加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
【請求項5】
該ハイパスフィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を、最直近の成分値から減算した結果を出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項4に記載の歩数計。
【請求項6】
該加速度ベクトル分離手段は、更に、該加速度ベクトルの周波数成分のうち、歩行による該歩行体の鉛直線方向の振動である歩行振動の周波数成分よりも高い成分を、ノイズ成分とみなして減衰させるローパスフィルタであるノイズ除去フィルタを含み、該ハイパスフィルタ及び該ノイズ除去フィルタの両者を通過した成分を、該歩行加速度ベクトルとすることを特徴とする請求項4に記載の歩数計。
【請求項7】
該ノイズ除去フィルタは、該加速度ベクトルの成分毎に、直近の複数個の成分値の加算平均値を算出して出力するデジタルフィルタであることを特徴とする請求項6に記載の歩数計。
【請求項8】
該歩数計数手段は、
該内積値の符号の反転を検出する反転検出手段と、
該反転検出手段が該内積値の符号の反転を一旦検出してから該反転検出手段が該内積値の該反転前の符号への反転を次に検出するまでの期間における該内積値の積分値を、該期間毎に算出する積分計算手段と、
該期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数から、該歩数を算出する歩数算出手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の歩数計。
【請求項9】
該歩数算出手段は、該期間毎の積分値のうち所定の閾値以上であるものの数の1/2を該歩数の算出結果とすることを特徴とする請求項8に記載の歩数計。
【請求項10】
歩数計の有する加速度ベクトル取得手段が、歩行体の加速度ベクトルを取得し、
該歩数計の有する加速度ベクトル分離手段が、該加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルと該歩行体の歩行により生じている歩行加速度ベクトルとに分離し、
該歩数計の有する内積計算手段が、該重力加速度ベクトルと該歩行加速度ベクトルとの内積値を算出し、
該歩数計の有する歩数計数手段が、該内積値の時間変化に基づいて歩数の計数を行う、
ことを特徴とする歩数計数方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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