説明

歩行状態解析システム、情報処理装置及び情報処理方法

【課題】重心動揺計により得られたデータを用いて、被検者の歩行状態を定量的に評価するシステムを提供する。
【解決手段】被検者の右足荷重データと左足荷重データとが、それぞれ時刻情報と対応付けられて格納された記憶部330より、右足荷重データ及び左足荷重データを取得する重心動揺計210と、取得された右足荷重データ及び左足荷重データから、両足支持状態における荷重データを抽出する両足支持状態データ抽出部301と、両足支持状態データ抽出部301において抽出された荷重データの各時刻における重心位置を2次元座標上にプロットした場合の直線性を解析する重心移動直線性解析部302とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の歩行状態を解析する歩行状態解析システム及び該システムを構成する情報処理装置、ならびに該情報処理装置における情報処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高齢になるに従い、歩行時の転倒リスクは高まる傾向にある。そして、高齢者の場合、転倒による骨折等をきっかけとして寝たきりの状態となるケースも多い。このため、高齢者の歩行時の転倒リスクを定量的に管理することは、転倒を未然に回避するうえで有効である。
【0003】
一方で、近年、重心動揺計による静止立位時の重心動揺データ(重心位置の変動の軌跡を示すデータ)が、転倒リスクの評価に利用できることがわかってきている。そこで、このような知見を歩行時の転倒リスクの評価にも適用させるためには、静止立位時のデータに加え(あるいは静止立位時のデータに変わって)、動的状況下でのデータを解析することが重要になってくるものと考えられる。
【0004】
具体的には、重心動揺計の上で、被検者が足踏み動作を行うことで歩行状態を擬似的につくりだし、そのときの重心動揺データを取得することで、当該被検者の歩行時の転倒リスクが評価できるようになるものと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−024911号公報
【特許文献2】特開2009−056223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被検者が足踏み動作を行った際に重心動揺計により取得される重心動揺データは、例えば、図13に示すように、複雑な形状となっており、解析が困難である。このため、当該重心動揺データから、被検者の歩行時の転倒リスクを予測することは必ずしも容易ではない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、重心動揺計により得られたデータを用いて、被検者の歩行状態を定量的に評価するシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る情報処理装置は以下のような構成を備える。即ち、
被検者の右足が載置される右足載置部において検出された第1の荷重データと、該被検者の左足が載置される左足載置部において検出された第2の荷重データとが、それぞれ時刻情報と対応付けられて格納された記憶部より、該第1の荷重データ及び第2の荷重データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された第1の荷重データ及び第2の荷重データから、前記被検者の両足がそれぞれ前記右足載置部及び前記左足載置部に接地している両足支持状態における荷重データを抽出する抽出手段と、
前記抽出手段において抽出された荷重データの各時刻における重心位置を算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により算出された重心位置を2次元座標上にプロットした場合の直線性を解析する第1の解析手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重心動揺計により得られたデータを用いて、被検者の歩行状態を定量的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】歩行状態を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる歩行状態解析システムの外観構成を示す図である。
【図3】歩行状態解析システムを構成する情報処理装置の機能構成を示す図である。
【図4】歩行状態解析システムにおける解析処理の流れを示す図である。
【図5】重心動揺計の各ストレンゲージの出力を、時系列表示したグラフである。
【図6】足踏み動作時の両足支持状態のデータを抽出する処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】重心移動の直線性を解析するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】重心移動の直線性を解析するための処理による処理結果を示す図である。
【図9】着地位置の再現性を解析するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】着地位置の再現性を解析するための処理による処理結果を示す図である。
【図11】歩行状態解析システムを構成する情報処理装置の機能構成を示す図である。
【図12】総軌跡長を解析するための処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】重心動揺計を用いて得られた足踏み動作時の重心動揺データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
<1.歩行状態を定量的に評価するための指標>
はじめに、歩行状態を定量的に評価するための指標について図1を用いて説明する。図1は、人が歩行する際の歩行動作と、各歩行動作における右足及び左足の状態とを対応付けて示した図である。
【0013】
図1に示すように、人の歩行動作は、例えば、左足の踵が着地することで両足支持状態(状態I)となってから右足が上がることで、左足の足裏のみが地面に接地している片足支持状態へと遷移する(状態II)。
【0014】
そして、右足の踵が左足よりも前の位置に着地することで、再び、右足の足裏及び左足の足裏が地面に接地した両足支持状態となる(状態III)。その後、左足が上がることで、右足の足裏のみが地面に接地している片足支持状態へと遷移し(状態IV)、左足の踵が、右足よりも前の位置に着地することで、再び左足の足裏及び右足の足裏が地面に接地した両足支持状態となる(状態V)。このようにして、1歩行周期が完了する。
【0015】
ここで、本願出願人は、重心動揺計により得られたデータを用いて歩行時の転倒リスクを評価するにあたり、これら1歩行周期における一連の歩行動作のうち、両足支持状態に着目した。両足支持状態とは、例えば、図1の矢印100で示す期間であり、一方の足(期間100の例では、右足)の踵が地面に接地することで開始され、他方の足(期間100の例では、左足)にあった重心が、当該接地した一方の足(期間100の例では、右足)へと徐々に移動し、完全に重心が一方の足(期間100の例では、右足)に移動し終えてから、他方の足(期間100の例では、左足)が地面から離れることで完了する。
【0016】
つまり、当該期間における重心動揺データには、歩行時の足の着地位置に関する情報と、重心の移動過程に関する情報が含まれていることとなる。このため、当該期間に着目して重心動揺計により得られたデータを解析することで、歩行時の足の着地位置及び重心の移動状態を定量化することができるものと考えられる。
【0017】
更に、歩行時の足の着地位置及び重心の移動状態を定量化した結果、着地位置が一定であり、かつ重心の移動が滑らかで再現性があると判定されれば、当該被検者の転倒リスクは低いと評価することができる。反対に、着地位置のばらつきが大きく、重心の移動が不安定で再現性も低いと判定されれば、当該被検者の転倒リスクは高いと評価することができる。
【0018】
以上のことから、本実施形態に係る歩行状態解析システムでは、重心動揺計により得られたデータのうち、両足支持状態におけるデータを解析し、歩行時の足の着地位置及び重心の移動状態を定量化することで、歩行時の転倒リスクを評価していくこととする。
【0019】
<2.歩行状態解析システムの外観構成>
図2は、本実施形態に係る歩行状態解析システム200の外観構成の一例を示す図である。
【0020】
図2において、210は重心動揺計(センサ部)であり、複数のストレンゲージ(本実施形態では、8つ)が、右足載置板211及び左足載置板212の端部近傍にそれぞれ1つずつ取り付けられており、被検者の右足及び左足の荷重をそれぞれ検出するよう構成されている。かかる構成により、歩行状態解析システム200では、被検者の各足の重心位置をそれぞれ独立して算出することができる。
【0021】
240は重心動揺計210のA−A断面を示している。断面図(240)に示すように、ストレンゲージ211a、211bは、右足載置板211の下面側に設けられており、右足載置部を形成している。また、ストレンゲージ212a、212bは、左足載置板212の下面側に設けられており、左足載置部を形成している。なお、ストレンゲージ(211a、211b・・・等)から出力された信号は、ケーブル230を介して情報処理装置220に入力される。
【0022】
情報処理装置220では、重心動揺計210の各ストレンゲージから出力された信号を用いて、被検者の歩行状態について解析を行う。
【0023】
<3.歩行状態解析システムの情報処理装置の機能構成>
図3は、歩行状態解析システム200を構成する情報処理装置220の機能構成を示す図である。図3に示すように、情報処理装置220は、制御部300と、表示部310と、入力部320と、記憶部330と、オペアンプ及びA/D変換部340とを備える。
【0024】
オペアンプ及びA/D変換部340は、ストレンゲージ211a、211b、211c、211d、212a、212b、212c、212dから出力されたアナログ信号を増幅し、ディジタル信号に変換した後に、荷重データとして制御部300に入力する。
【0025】
制御部300は、オペアンプ及びA/D変換部340より入力された荷重データから、両足支持状態のデータを抽出する両足支持状態データ抽出部301を備えている。
【0026】
また、両足支持状態データ抽出部301において抽出された両足支持状態データに基づいて、被検者の各時刻における重心位置を算出し、重心移動の直線性を解析する重心移動直線性解析部302を備えている。
【0027】
更に、両足支持状態データの中から、いずれか一方の足が着地した際の着地位置を算出するためのデータ(着地位置算出用データ)が両足支持状態データ抽出部301にて抽出された場合に、当該着地位置算出用データに基づいて、着地位置を算出することで、着地位置の再現性を解析する着地位置再現性解析部303を備えている。
【0028】
なお、制御部300に配された各部301〜303の機能は、専用のハードウェアを用いて実現されてもよいし、これらの機能を実現するためのプログラムがCPU(コンピュータ)により実行されることにより実現されてもよい。
【0029】
表示部310は、重心移動直線性解析部302において解析された解析結果や、着地位置再現性解析部303において解析された解析結果を表示したりする。入力部320は、制御部300の各部が処理を実行するにあたり、必要なデータや指示を入力したりする。
【0030】
記憶部330は、制御部300に入力された荷重データを時刻情報と対応付けて格納したり、制御部300内の各部で処理された各種データを格納したりする。また、重心移動直線性解析部302及び着地位置再現性解析部303において解析された解析結果を記憶する。なお、制御部300に含まれる各部の機能が、CPU(コンピュータ)によるプログラムが実行されることによって実現する場合にあっては、当該プログラムは記憶部330に読み出し可能に格納されるものとする。
【0031】
<4.歩行状態解析システムによる解析処理の流れ>
次に、歩行状態解析システム200を用いて、被検者の歩行状態を解析するための解析処理の流れについて説明する。図4は、歩行状態解析システム200を用いて、被検者の歩行状態を解析するための解析処理の流れを示すフローチャートである。
【0032】
ステップS401では、被検者が重心動揺計210の上に乘る。このとき、被検者は、右足を重心動揺計210の右足載置板211に、左足を重心動揺計210の左足載置板212にそれぞれ載せる。
【0033】
ステップS402では、被検者が重心動揺計210上で足踏み動作を開始する。これにより、情報処理装置220では、被検者の擬似的な歩行状態における荷重データを取得することができる。
【0034】
被検者の足踏み動作が開始されると、ステップS403では、情報処理装置220が重心動揺計210より出力された信号の取得し、時刻情報と対応付けて記憶部330に格納していく。
【0035】
ステップS404では、記憶部330に格納された荷重データを用いて、情報処理装置220の各部301〜303が処理(両足支持状態データ抽出処理、重心移動直線性解析処理及び着地位置再現性解析処理)を実行する。なお、各部における処理の詳細は後述する。
【0036】
ステップS405では、転倒リスクを評価するのに必要なデータ量を取得したか(所定時間が経過したか)否かを判定し、所定時間が経過したと判定された場合には、ステップS406に進む。
【0037】
ステップS406では、情報処理装置220による荷重データの取得を終了し、ステップS407では、被検者が足踏み動作を終了する。
【0038】
ステップS408では、ステップS404において各部が実行した処理の結果を、表示部310に表示する。
【0039】
<5.両足支持状態データ抽出処理の流れ>
次に、両足支持状態データ抽出部301における両足支持状態データ抽出処理の流れについて図5及び図6を用いて説明する。
【0040】
図5は、記憶部330に時刻情報と対応付けて格納された、重心動揺計210の各ストレンゲージ(211a〜211d、212a〜212d)の出力(荷重データ)を、時系列表示したグラフである。図5において、横軸は荷重データの取得開始からの経過時間を示しており、縦軸は各ストレンゲージの出力に基づく荷重データを示している。なお、図5の例では、はじめに両足支持状態にあった被検者が、足踏み動作を開始することで、右足を離地した後、右足を着地し、一旦両足支持状態となった後、左足を離地し、更に左足を着地し、再び両足支持状態になった様子を示している。
【0041】
図6は、図5に示す荷重データから両足支持状態におけるデータを抽出する、両足支持状態データ抽出部301における両足支持状態データ抽出処理の流れを示すフローチャートである。
【0042】
ステップS601では、記憶部330に格納されている荷重データを時刻情報ごとに、順次読み出す。ステップS602では、ステップS601で読み出された同時刻の荷重データについて、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データが所定の閾値以上あり、かつ、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データが所定の閾値以上あるか否かを判定する。
【0043】
ステップS602において、いずれかのストレンゲージからの出力に基づく荷重データが、所定の閾値以上ないと判定された場合には、ステップS601に戻り、次の時刻情報の荷重データを読み出す。
【0044】
一方、ステップS602において、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データが所定の閾値以上あり、かつ、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データが所定の閾値以上あると判定された場合には、ステップS603に進み、当該荷重データを、両足支持状態データとして抽出する。
【0045】
ステップS604では、記憶部330に格納されている荷重データ全てについて読み出しが完了したか否かを判定する。ステップS604において、読み出しが完了していない荷重データがあると判定された場合には、ステップS601に戻り、次の時刻情報の荷重データを読み出す。
【0046】
一方、ステップS604において、記憶部330に格納されている荷重データ全てについて読み出しが完了したと判定された場合には、ステップS605に進む。これにより、記憶部330に格納されている、足踏み動作中の荷重データのうち、両足支持状態の各時間帯の荷重データ(図5の501、502、503に示す荷重データ(両足支持状態データ)参照)が抽出されることとなる。
【0047】
ステップS605では、ステップS603において抽出された、両足支持状態の各時間帯の荷重データの中から、最初の荷重データを抽出する。
【0048】
ステップS606では、ステップS605で両足支持状態の各時間帯よりそれぞれ抽出された荷重データについて、各ストレンゲージ間において対比する。対比の結果、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データの方が、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データより小さい値を示していた場合には、ステップS607に進む。
【0049】
ステップS607では、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データは、右足が着地した際の荷重データであると判断し、当該荷重データを右足着地位置算出用データとして抽出する(図5参照)。
【0050】
一方、対比の結果、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データの方が、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データより小さい値を示していた場合には、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データは、左足が着地した際の荷重データであると判断し、当該荷重データを左足着地位置算出用データとして抽出する(図5参照)。
【0051】
<6.重心移動直線性解析処理の流れ>
次に、重心移動直線性解析部302における重心移動直線性解析処理の流れについて、図5及び図8を参照しながら、図7を用いて説明する。
【0052】
ステップS701では、両足支持状態データ抽出部301において抽出された、両足支持状態における荷重データ(例えば、図5の501〜503の時間帯に対応する荷重データ(両足支持状態データ))を読み出す。
【0053】
ステップS702では、ステップS701において読み出された両足支持状態データの各時刻における被検者の重心位置を算出する。
【0054】
ステップS703では、ステップS702において算出された各時刻の重心位置を、2次元座標上にプロットしていく。図8(a)は、年齢が20代の被検者についてステップS702において算出された各時刻の重心位置をプロットしたグラフである。また、図8(b)は、年齢が60代の被検者についてステップS702において算出された各時刻の重心位置をプロットしたグラフである。
【0055】
ステップS704では、ステップS703でプロットされた各時刻の重心位置について回帰直線を算出する。図8(a)の801及び図8(b)の811は、それぞれのグラフについて算出された回帰直線を示している。
【0056】
ステップS705では、ステップS703でプロットされた各重心位置について、ステップS704で算出された回帰直線に対する相関係数を算出する。図8(a)の802は及び図8(b)の812は、それぞれの被検者について算出された相関係数を示している。
【0057】
ステップS706では、ステップS805で算出された相関係数に基づいて転倒リスクを評価する。図8(a)及び図8(b)の比較から明らかなように、高齢者ほど両足支持状態における重心の移動が滑らかでないため、プロットされた重心位置の直線性及び再現性が低い(すなわち、相関係数が低い)。つまり、ステップS704において算出された回帰直線に対してステップS705において算出された相関係数が、転倒リスクを表しているということができることから、算出された相関係数が所定の閾値以下であった場合に、当該被検者の転倒リスクが高いと判断する。
【0058】
ステップS707では、重心位置がプロットされ、回帰直線及び相関係数の値が重畳されたグラフを解析結果として生成する。また、ステップS706において転倒リスクが高いと判断された場合には、当該グラフに警告メッセージを付加する。
【0059】
<7.着地位置再現性解析処理の流れ>
次に、着地位置再現性解析部303における着地位置再現性解析処理の流れについて、図5及び図10を参照しながら、図9を用いて説明する。
【0060】
ステップS901では、両足支持状態データ抽出部301において抽出された、着地位置算出用データ(図5参照)を読み出す。
【0061】
ステップS902では、ステップS901において着地位置算出用データとして読み出された荷重データに基づいて、左足着地時の着地位置(または右足着地時の着地位置)を算出する。
【0062】
ステップS903では、両足支持状態における各時間帯(例えば、図5の503の時間帯)においてそれぞれ算出された左足着地時の各着地位置を2次元座標上にプロットしていく。図10(a)は、年齢が20代の被検者についてステップS902において算出された各時間帯の左足の着地位置をプロットしたグラフである。また、図10(b)は、年齢が60代の被検者についてステップS902において算出された各時間帯の左足の着地位置をプロットしたグラフである。
【0063】
ステップS904では、ステップS903でプロットされた着地位置について、ばらつき(横方向(足幅方向)のばらつき及び縦方向(足長方向)のばらつき)を算出する。図10(a)の1001及び図10(b)の1011は、それぞれのグラフについて算出された横方向のばらつき及び縦方向のばらつきを示している。
【0064】
ステップS905では、ステップS904において算出されたばらつきに基づいて転倒リスクを評価する。図10(a)及び図10(b)の比較から明らかなように、高齢者ほど着地位置のばらつきが大きい。つまり、ステップS904において算出されたばらつきが、転倒リスクを表しているということができることから、算出されたばらつきが所定の閾値以上であった場合に、当該被検者の転倒リスクが高いと判断する。
【0065】
ステップS906では、着地位置がプロットされ、ばらつきの値が重畳されたグラフを解析結果として生成する。また、ステップS905において転倒リスクが高いと判断された場合には当該グラフに警告メッセージを付加する。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本実施形態では、重心動揺計により得られた荷重データを用いて、被検者の歩行状態を定量的に評価するにあたり、両足支持状態における荷重データに着目し、両足支持状態における荷重データを抽出する構成とした。
【0067】
また、両足支持状態における荷重データに基づいて、各時刻における重心位置を2次元座標上にプロットし、回帰直線及び相関係数を算出する構成とした。これにより、被検者の歩行時の重心の移動の滑らかさ及び再現性を定量的に評価することが可能となった。
【0068】
更に、両足支持状態における荷重データに基づいて着地位置を算出し、当該着地位置を2次元座標上にプロットすることで、ばらつきを算出する構成とした。これにより、被検者の歩行時の着地位置の安定性を定量的に評価することが可能となった。
【0069】
この結果、重心動揺計により得られた荷重データを用いて、被検者の歩行時の転倒リスクを判断することが可能となった。
【0070】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、両足支持状態における荷重データに基づいて算出された、重心位置の相関係数及び着地位置のばらつきそれぞれについて、転倒リスクを判断する構成としたが、本発明はこれに限定されず、例えば、重心位置の相関係数及び着地位置のばらつきに所定の重み係数をかけて和算することで統合し、当該統合した値に基づいて、転倒リスクを判断するように構成してもよい。
【0071】
また、上記第1の実施形態では、重心位置の相関係数及び着地位置のばらつきそれぞれについて、1つずつの閾値を用いて転倒リスクを判断する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、年齢に応じて、それぞれ閾値を用意しておき、被検者の年齢に応じた閾値と比較することで、転倒リスクを判断するように構成してもよい。
【0072】
[第3の実施形態]
上記第1及び第2の実施形態では、両足支持状態における荷重データに着目し、両足支持状態における荷重データに基づいて算出された各種指標により、歩行時の転倒リスクを判断する構成としたが、本発明はこれに限定されない。
【0073】
例えば、両足支持状態における荷重データに基づいて算出された各種指標に加え、1歩行周期内の両足支持状態以外の荷重データについて算出される総軌跡長を新たな指標として加えるようしてもよい。以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0074】
<1.歩行状態解析システムの情報処理装置の機能構成>
図11は、歩行状態解析システム200を構成する情報処理装置220の機能構成を示す図である。なお、図3と対応する機能については同じ参照番号を付すことで説明を省略し、ここでは図3と相違する点についてのみ説明する。
【0075】
図11の制御部1100において、1104は総軌跡長解析部であり、オペアンプ及びA/D変換部340より入力された荷重データから、1歩行周期分の片足支持状態の荷重データを抽出し、右足及び左足それぞれについて、総軌跡長を算出する。
【0076】
なお、1歩行周期分の片足支持状態の荷重データのうち、各時刻における重心位置を(x,y)とすると、総軌跡長は以下の式で算出される。
【0077】
【数1】

【0078】
<2.総軌跡長解析処理の流れ>
次に、総軌跡長解析部1104における総軌跡長解析処理の流れについて図5及び図12を用いて説明する。
【0079】
図12は、1歩行周期内の右足及び左足の総軌跡長をそれぞれ算出する総軌跡長解析処理の流れを示すフローチャートである。
【0080】
ステップS1201では、記憶部330に格納されている荷重データのうち、ストレンゲージ211a〜211dからの出力に基づく荷重データ(右足の荷重データ)であって、1歩行周期分の右足荷重データを抽出する。1歩行周期分の右足荷重データとは、例えば、左足の離地から左足の着地までの時間帯に対応する右足の荷重データをいう。
【0081】
ステップS1202では、記憶部330に格納されている荷重データのうち、ストレンゲージ212a〜212dからの出力に基づく荷重データ(左足の荷重データ)であって、1歩行周期分の左足荷重データを抽出する。1歩行周期分の左足荷重データとは、例えば、右足の離地から右足の着地までの時間帯に対応する左足の荷重データをいう。
【0082】
ステップS1203では、ステップS1201において抽出された右足の荷重データについて、各時刻における重心位置を算出し、総軌跡長を算出する。このように、片足支持状態における右足の総軌跡長を算出することで、歩行動作中の片足(右足)支持状態における被検者の安定性を定量的に評価することが可能となる。
【0083】
ステップS1204では、ステップS1202において抽出された左足の荷重データについて、各時刻における重心位置を算出し、総軌跡長を算出する。このように、片足支持状態における左足の総軌跡長を算出することで、歩行動作中の片足(左足)支持状態における被検者の安定性を定量的に評価することが可能となる。
【0084】
ステップS1205では、右足の軌跡線及び左足の軌跡線を2次元座標上に描画し、ステップS1203及び1204で算出された総軌跡長とともに、解析結果としてのグラフを生成する。
【0085】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、両足支持状態における荷重データに基づいて算出された各種指標に加え、1歩行周期内の両足支持状態以外の荷重データに基づいて算出される総軌跡長もあわせて表示する構成とした。
【0086】
これにより、被検者の片足支持状態における安定性を定量的に評価することが可能となった。この結果、重心動揺計により得られた荷重データを用いて、被検者の歩行時の転倒リスクをより精度よく判断することが可能となった。
【符号の説明】
【0087】
200:歩行状態解析システム、210:重心動揺計、211:右足載置板、212:左足載置板、211a〜211d:ストレンゲージ、212a〜212d:ストレンゲージ、220:情報処理装置、230:ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の右足が載置される右足載置部において検出された第1の荷重データと、該被検者の左足が載置される左足載置部において検出された第2の荷重データとが、それぞれ時刻情報と対応付けられて格納された記憶部より、該第1の荷重データ及び第2の荷重データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された第1の荷重データ及び第2の荷重データから、前記被検者の両足がそれぞれ前記右足載置部及び前記左足載置部に接地している両足支持状態における荷重データを抽出する抽出手段と、
前記抽出手段において抽出された荷重データの各時刻における重心位置を算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段により算出された重心位置を2次元座標上にプロットした場合の直線性を解析する第1の解析手段と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記第1の解析手段は、前記第1の算出手段により算出された重心位置を前記2次元座標上にプロットした場合の回帰直線を算出し、該算出した回帰直線と各重心位置とから相関係数を算出することにより、前記直線性を解析することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記抽出手段において抽出された荷重データから、右足または左足の着地時の荷重データを抽出することで、右足または左足の着地位置を算出する第2の算出手段と、
前記第2の算出手段により算出された前記右足または左足の着地位置を2次元座標上にプロットした場合のばらつきを解析する第2の解析手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第2の解析手段は、前記第2の算出手段により算出された前記右足または左足の着地位置を前記2次元座標上にプロットした場合の、足長方向のばらつき及び足幅方向のばらつきを算出することを特徴とする請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記取得手段により取得された第1の荷重データから、前記被検者の右足のみが前記右足載置部に接地している片足支持状態における荷重データを抽出し、該抽出した荷重データに基づいて算出された各時刻の重心位置から、1歩行周期分の右足の総軌跡長を算出する第3の算出手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記取得手段により取得された第2の荷重データから、前記被検者の左足のみが前記左足載置部に接地している片足支持状態における荷重データを抽出し、該抽出した荷重データに基づいて算出された各時刻の重心位置から、1歩行周期分の左足の総軌跡長を算出する第3の算出手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
被検者の右足が載置される右足載置部と、該被検者の左足が載置される左足載置部とを有し、前記右足載置部における荷重と、前記左足載置部における荷重とをそれぞれ検出するセンサ部と、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置と
を備えることを特徴とする歩行状態解析システム。
【請求項8】
情報処理装置における情報処理方法であって、
被検者の右足が載置される右足載置部において検出された第1の荷重データと、該被検者の左足が載置される左足載置部において検出された第2の荷重データとが、それぞれ時刻情報と対応付けられて格納された記憶部より、該第1の荷重データ及び第2の荷重データを取得する取得工程と、
前記取得工程において取得された第1の荷重データ及び第2の荷重データから、前記被検者の両足がそれぞれ前記右足載置部及び前記左足載置部に接地している両足支持状態における荷重データを抽出する抽出工程と、
前記抽出工程において抽出された荷重データの各時刻における重心位置を算出する算出工程と、
前記算出工程において算出された重心位置を2次元座標上にプロットした場合の直線性を解析する解析工程と
を備えることを特徴とする情報処理装置の情報処理方法。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−59507(P2013−59507A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199916(P2011−199916)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】