説明

歩行者シミュレーション装置、交通シミュレーション装置、歩行者シミュレーション方法

【課題】計算負荷の増大を抑制しながら、現実世界により近い態様で歩行者が進行可能な歩行者シミュレーション装置、交通シミュレーション装置及び歩行者シミュレーション方法を提供すること。
【解決手段】歩行者の移動態様を模倣させた擬人モデル60に、2点間を結ぶリンク上を進行させる歩行者シミュレーション装置200であって、擬人モデル60間の間隔を確保するパーソナルスペース、を規定するモデル情報が記憶されたモデル情報記憶手段36と、モデル情報に基づき、擬人モデルのパーソナルスペースを形成するパーソナルスペース形成手段31と、パーソナルスペース同士の重複を検出する重複検出手段33と、パーソナルスペース同士の重複が検出された場合、リンク上から離れた擬人モデルの回避方向位置を決定する回避方向位置決定手段34と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機上で歩行者の移動態様を模擬する歩行者シミュレーション装置、交通シミュレーション装置及び歩行者シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者の移動態様を数値化して歩行者の移動を計算機上で再現したり、移動態様を定量化し評価する試みが行われることがある。例えば、施設内における歩行者の移動のしやすさを考慮した交通設計のため、所定のエリアにおける移動と滞留をシミュレートする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、複数のノード間にルートを設定し、2つ以上のノードを通過する移動人数を指定して、他の全てのノードを通過する移動人数を算出し、ルートの全ての1日の移動率を算出する交通シミュレーションシステムが記載されている。
【0003】
また、例えば、所定の空間における歩行者の歩きやすさを評価する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、所定空間における複数の歩行者の移動方向を移動ベクトルで表し、各歩行者の移動ベクトルの内積の総和から所定空間の歩きやすさを評価する評価装置が記載されている。
【0004】
ところで、着座した被験者に運転席を視点とする疑似光景を表示し、被験者がこの疑似光景を見ながらハンドル等を操作して仮想の車両を運転する交通シミュレーション装置が実用化されている。交通シミュレーション装置は、実機の車両を運転した際に起こりうる急停車などの走行状況を映像で再現し、そのイベントに対する被験者の運転操作を評価する。このような交通シミュレーション装置では、モニターに歩道の歩行者や信号待ちする歩行者が表示される場合があるが、歩行者の歩行する様子なども計算機により再現され、歩行者らしい挙動が得られるようになっている。
【0005】
図16は、従来の交通シミュレーション装置における複数の歩行者の移動態様を表す図の一例である。交通シミュレーション装置における歩行者は、歩速や移動方向がプログラミングされているが、各歩行者に複雑な移動態様を設定すること(例えば、流体モデルを適用する)は計算負荷が大きく、また、車両から見た歩行者にはそれほど複雑な移動態様は必要とされない。このため、歩行者の移動態様には次のような制約が課される場合がある。
・歩行者を歩行させる経路にノードを設定
・ノードとノードを結ぶリンク上を歩行者が進行する
・歩行者はノード間を一列に並んで進行する
このため歩行者は、図16に示すように、ノードにより指定された歩道や横断歩道を表すリンク上をそれぞれの速度で一列に進行する。
【特許文献1】特開平10−293896号公報
【特許文献2】特開2005−316535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リンク上を進行するように定めると走行経路が1本しかないため、次のような問題が生じる。
・対向する方向から進行してきた歩行者とすれ違うことができない、
・同じ方向に進行する歩行者に一人でも歩速の遅い歩行者がいると、後続の歩行者は追い越すことができない
・横断歩道で信号待ちする複数の歩行者は進行方向に一列に並んだまま停止する
このような、歩行者の移動態様は現実世界では起こりにくく、歩行者と車両との実際の関係をシミュレーションすることを困難にしている。また、歩行者の移動態様に被験者が違和感を感じるため、シミュレーション結果にも影響が生じることがあった。
【0007】
かかる問題を解消するため、ノード数や経路を増やすことが考えられるが、設定が煩雑で処理負荷が増大するという問題が生じる。また、進行方向の左右にオフセットを持たせることができればすれ違い等が実現できるが、これまでかかる構成について詳細に検討されていなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、計算負荷の増大を抑制しながら、現実世界により近い態様で歩行者が進行可能な歩行者シミュレーション装置、交通シミュレーション装置及び歩行者シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、歩行者を模擬した擬人モデルに、2点間を結ぶリンク上を進行させる歩行者シミュレーション装置であって、擬人モデル間の間隔を確保するパーソナルスペース、を規定するモデル情報が記憶されたモデル情報記憶手段と、モデル情報に基づき、擬人モデルのパーソナルスペースを形成するパーソナルスペース形成手段と、パーソナルスペース同士の重複を検出する重複検出手段と、パーソナルスペース同士の重複が検出された場合、リンク上から離れた擬人モデルの回避方向位置を決定する回避方向位置決定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
計算負荷の増大を抑制しながら、現実世界により近い態様で歩行者が進行可能な歩行者シミュレーション装置、交通シミュレーション装置及び歩行者シミュレーション方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本実施形態の交通シミュレーション装置100における擬人モデル60と、擬人モデル60が有するパーソナルスペース50の平面視の一例をそれぞれ示す図である。
【0012】
擬人モデル60は、現実世界における歩行者の躰に相当する部分である。図示するように、擬人モデル60のパーソナルスペース50を進行方向に凸な涙形又は楔(くさび)形とする(以下、単に涙形という)。このパーソナルスペース50は、他の擬人モデル60のパーソナルスペース50との重複を禁止する領域であるので、言い換えればパーソナルスペース50が隣接した場合に、擬人モデル60間の間隔となる。
【0013】
擬人モデル60はノード間を進行するが、本実施形態では擬人モデル60は進行方向に垂直な方向(以下、回避方向という)に移動することができる。図1(b)(c)は擬人モデル60による障害物70の回避を模式的に示す図の一例である。擬人モデル60はノード間を結ぶリンク上を進行する。なお、障害物70は停止しているとする。
【0014】
擬人モデル60が進行しパーソナルスペース50に障害物70が侵入すると擬人モデル60は回避方向に移動する。パーソナルスペース50は進行方向に凸な涙形なので進行すると、再度、障害物70がパーソナルスペース50に侵入することになるが、擬人モデル60は同様に回避方向に移動する。このように、擬人モデル60が進行方向に進行する毎に、徐々に回避方向に移動するので、パーソナルスペース50に障害物70が存在しても、擬人モデル60はリンクに平行にノード間を進行することができる。
【0015】
したがって、本実施形態の交通シミュレーション装置100は、擬人モデル60が進行方向に垂直な方向に障害物を回避することで、「擬人モデルはノード間を進行する」という計算負荷の少ない移動態様を適用したまま、2以上の擬人モデル60が1つの経路を並列に進行することを可能にする。
【0016】
また、パーソナルスペース50の大きさは、歩速vに応じて可変であり遅いほど小さくなるように形成される。これにより、信号待ち等のように擬人モデル60が停止した状態では擬人モデル60間の前後及び左右の間隔が少なくなるので、擬人モデル60の密度を高くすることができる。このため、現実世界で信号待ちしている歩行者と交通シミュレーション装置100の擬人モデル60の違いを低減し、被験者に与える違和感を少なくすることができる。
【0017】
図2(a)は、交通シミュレーション装置100の概略斜視図を、図2(b)は被験者が視認する疑似光景の一例を示す。交通シミュレーション装置100は、実機のボディの一部又は実機の外観を模倣し、ハンドル等は実際と同等の位置に、同等の形状で設けられている。車両のボディは車輪の位置で車外の台座と連結されており、台座が備える油圧発生源とそれをサーボ制御するコントローラとにより、4輪部分が独立に上下運動される。これにより、被験者の操作に応じて車両の運動状態を再現し被験者に体感させることができる。
【0018】
車両はドーム内に設置され、ドーム内を覆う半球面状のスクリーン全体(360度)に疑似光景が表示される。疑似光景は、プロジェクタによりスクリーンに投影されてもよいし、湾曲した有機ELディスプレイやプラズマディスプレイに表示してもよい。このスクリーンが表示装置22に相当する。スクリーンへ疑似光景を投影するのでなく、ヘッドマウントディスプレイを用いて疑似光景を提供してもよい。
【0019】
運転席には、ハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、ウィンカレバー、シフトレバー等が通常の車両と同様に配置されており、被験者がこれらを操作すると、操作情報が交通シミュレーション装置100に入力される。交通シミュレーション装置100は、例えば二輪モデルに基づき仮想の車両の運動状態を定めるパラメータ(前後方向速度、前後方向加速度、横方向速度、横方向加速度、ヨーレート、ヨー角、タイヤ角等)を決定する。
【0020】
交通シミュレーション装置100が表示する疑似光景に従い、被験者はアクセルペダル等を操作して走行するが、交通シミュレーション装置100は、被験者に課題を与えるため、シナリオに沿ったイベント(回避に困難を伴う操作を被験者に要求する疑似光景)を表示する。例えば、歩行者の飛び出し、右左折、車線変更、先行車両の急停車、信号待ち、等である。被験者はこれらの課題に対しハンドル等を操作し、交通シミュレーション装置100は、運動状態に応じて疑似光景の進行速度や表示範囲を調整したり、他車両などの障害物を相対距離や相対速度に応じて疑似光景に登場させる。
【0021】
また、交通シミュレーション装置100は、課題に対し適切な操作であったか否かを、ハンドルなどの操作対象、操作のタイミング、操作量等から評価する。したがって、交通シミュレーション装置100を用いることで、現実世界の車両を運転しなくても、被験者は種々の走行状況を疑似体験でき、その評価を受けることができる。
【0022】
図3は、交通シミュレーション装置100の機能ブロック図の一例を示す。交通シミュレーション装置100は、歩行者の移動態様を模擬する歩行者シミュレーション部200を有する。
【0023】
交通シミュレーション装置100は、CPU、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、RAM、ROM、不揮発メモリ及び入出力インターフェイス等が内部バスを介して接続されたコンピュータを実体とする制御部20により制御される。不揮発メモリ又はROMにはプログラムが記憶されており、このプログラムをCPUが実行するかASICにより、パーソナルスペース形成部31、進行方向位置決定部32、重複検出部33、回避方向位置決定部34、信号判定部35、映像生成部38及び運転評価部39を実現する。また、不揮発メモリには、モデル情報記憶部36及び経路情報記憶部37が実装されている。
【0024】
なお、プログラムは、DVD、CD又はメモリーカードの記憶媒体に記憶して配布されるか、又は、ネットワークを介してサーバからダウンロードされる。このため、交通シミュレーション装置100は、記憶媒体を装着してプログラムを読み出し及び書き込む記憶媒体装着部、ネットワークに接続してサーバと通信する通信装置を備えることが好ましい。
【0025】
入力装置21は、上記のハンドル等、被験者の操作情報を入力するための各種装置である。表示装置22は、交通シミュレーション装置100が提供する疑似光景を表示するための装置であり、例えば液晶ディスプレイ、プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等である。
【0026】
なお、映像生成部38は、歩行者シミュレーション部が決定した歩行者の位置を、各種の運転課題を含む疑似光景に反映させて表示装置22に表示する。また、運転評価部39は、疑似光景と入力装置21から入力された操作情報を比較して運転者の運転を評価する。
【0027】
〔パーソナルスペース50〕
パーソナルスペース50について説明する。図4(a)は、パーソナルスペース50を模式的に説明する図の一例である。パーソナルスペース50は、擬人モデル60を中心とした円41と、互いに左右対称な2つの三角形42,43が一部重複して形成される。擬人モデル60を表す円の大きさは予め定められており、全ての擬人モデル60に共通である。擬人モデル60の形状は円でなくても、正方形、長方形、三角形等であってもよい。
【0028】
円41は、擬人モデル60を表す円の中心44を中心とする半径rの円である。また、三角形42は、中心44から進行方向に距離dだけ離れた頂点45から円41に引いた接線、中心44から接点に降ろした垂線、及び、頂点45と中心44を結ぶ線、を3辺とする三角形である。したがって、半径r及び距離dによりパーソナルスペース50を一意に決定することができる。
【0029】
なお、パーソナルスペース50は他のパーソナルスペース50と信号待ち等の停止直前において一時的に重複することがあり得るが、擬人モデル60が占めるスペース同士が重複することは常に禁止される。
【0030】
半径r及び距離dは、全擬人モデル60に共通であってもよいし、擬人モデル60毎に設定可能であってもよい。擬人モデル60毎に設定する場合、モデル情報記憶部36に擬人モデル60毎に半径r及び距離dが設定されている。
【0031】
図5(a)はモデル情報記憶部36に記憶されたモデル情報の一例を示す。モデル情報記憶部36には擬人モデル60を識別する擬人モデル番号に対応づけて、各擬人モデル60のパーソナルスペース50を決定する半径r0及び距離d0が登録されている。半径r0及び距離d0は初期値であって、例えば歩速v=ゼロの時の半径r及び距離dを表す。
【0032】
半径r0及び距離d0は、例えば、子供と大人、男性と女性等、又は、自転車を想定して予め登録されている。したがって、パーソナルスペース形成部31は、モデル情報を読み出すことで擬人モデル60毎にパーソナルスペース50を形成することができる。
【0033】
また、擬人モデル60毎に歩速vが設定可能であるので、モデル情報記憶部36には擬人モデル番号に対応づけて、各擬人モデル60の歩速vが登録されている。これらの歩速vは、予め登録されていてもよいし、被験者が交通シミュレーション装置100を使用する前に設定可能となっていてもよい。
【0034】
交通シミュレーション装置100における擬人モデル60の歩速vは、例えば、なんら障害物がなく信号待ち等もなければ、モデル情報記憶部36に設定された歩速vで進行するとしてよい。しかし、信号待ちやすれ違い、追い越し等があると、現実世界では歩速vが小さくなるのが一般的であるので、交通シミュレーション装置100においても擬人モデル60の歩速vは可変となるようにプログラムされている。交通シミュレーション装置100は、例えば、停止した場合には歩速vをゼロにし、追い越しやすれ違い(回避方向に移動したことか検出される)が生じた場合には、歩速を低減させる。
【0035】
ところで現実世界では、歩行者間の間隔が短くなると衝突や接近を避けるため、歩速vも小さくなることが多い。逆に言えば、歩速vが小さい場合には歩行者間の間隔は短い。そこで、交通シミュレーション装置100においても、歩速vに応じてパーソナルスペース50の大きさを決定する。
【0036】
図4(b)は、歩速vが小さい場合のパーソナルスペース50を模式的に説明する図の一例である。歩速vが小さくなることで、図4(a)よりも図4(b)の方がパーソナルスペース50が小さくなっている。パーソナルスペース50の大きさは、上記の半径r及び距離dにより規定される。パーソナルスペース50の形状を規定する半径r及び距離dを歩速vに応じて規定することで、歩速vに応じてパーソナルスペース50の大きさを可変とすることができる。なお、パーソナルスペース50の大きさが変わる結果として、同じ擬人モデル60のパーソナルスペース50であっても、それらの形状は相似形を保たない。
【0037】
図6(a)は歩速vと半径rの関係を、図6(b)は歩速vと距離dの関係をそれぞれ示す。半径rと距離dはいずれも歩速vが大きくなるほど、大きくなるように定められている。歩速vと半径rの関係、歩速vと距離dの関係は、それぞれグラフの傾きにより決定される。
【0038】
したがって、図6(a)(b)のような関係が、傾きar、adとして与えられていれば、モデル情報記憶部36に記憶されている半径r0及び距離d0から、任意の歩速vにおける半径r及び距離dを求めることができる。
【0039】
半径r= r0 + ar・v …(1)
距離d= d0 + ad・v …(2)
モデル情報記憶部36の半径r0及び距離d0は、図6(a)(b)のY切片に相当する。図6(a)(b)から明らかなように、半径r0は擬人モデル60が停止した際の半径rであり、距離d0は擬人モデル60が停止した際の距離dである。
【0040】
歩速vに対する半径rと距離dの依存性(傾きar、ad)は、現実世界では歩行者毎に異なるとしてよい。このため、交通シミュレーション装置100においても、擬人モデル60毎に傾きar、adが予め登録されている。図5(a)に示すように、モデル情報記憶部36には、擬人モデル番号に対応づけて傾きar、adがそれぞれ登録されている。このように、h徐行者情報記憶部には、パーソナルスペース50を決定するための種々の情報が登録されている。
【0041】
なお、図6(a)及び(b)に示す半径r及び距離dの歩速vに対する依存性は一例であって、歩速vに対し指数関数的に増大してもよいし(歩速vが大きいほど傾きが大きくなる)、歩速vが増大すると所定値に漸近するように半径r及び距離dを定めてもよい。
【0042】
また、涙型のパーソナルスペース50は一例であって、例えば、進行方向に長軸を有する二等辺三角形、逆T字、円41を矩形で置き換えた形状、これらを組み合わせた形状等であってもよい。
【0043】
〔経路について〕
続いて、各擬人モデル60が進行する経路について説明する。各擬人モデル60は、ノードを連結したリンクを進行するよう設定される。図5(b)は経路情報記憶部37に記憶されたノード情報の一例を、図5(c)はリンク情報の一例をそれぞれ示す。
【0044】
ノード情報には、ノードを識別するノード番号にそのノードの位置情報(X座標、Y座標)を対応づけて登録されている。位置情報は、例えばシミュレーション装置100において車両が走行する疑似空間の所定点を原点とした座標系におけるX座標とY座標である。
【0045】
なお、リンク情報には、回避可能量Wがリンク毎に設定されている。回避可能量Wは、回避方向に移動可能な上限の移動量を規定した値であって、道幅に相当するものである。初期状態の擬人モデル60は道の中央(リンク上)を進行するので、実際には右又は左に回避可能量Wの半分まで移動できることになる。
【0046】
回避可能量Wは、2つ以上の擬人モデル60が1つのリンクですれ違い又は追い越せるように、最も大きい半径rの2倍以上に設定されている。回避可能量Wを適切に設定することで、2つの擬人モデル60がすれ違い又は追い越せるようになり、また、3つ以上の擬人モデル60がすれ違い又は追い越せるようになる。
【0047】
図7は、ノード及びリンクの一例を示す図である。図7では、四つ角の交差点において一方のブロックから他方のブロックに横断歩道が路面標示されている。各ブロックにノードn1〜n12を示した。例えばノードn1とn2を相互に結ぶ線分がリンクであって、ノードn1とn2を結ぶリンクL1、ノードn2とn4を結ぶリンクL2、ノードn4とn3を結ぶリンクL3、ノードn3とn1を結ぶリンクL4、のように各リンクを指定できるようになっている。
【0048】
擬人モデル60は、回避方向を除けばリンクに平行に進行する。したがって、各議人モデル毎に複数のノード番号を、「n2、n4、n10…」のように指定すれば、指定されたノード番号により特定される経路(多くの場合、複数のリンクから構成される)に沿って、擬人モデル60が進行することができる。「n2、n4、n10…」を以下、経路指定情報という。経路指定情報は、時系列に通過するノードを指定しているので、この経路指定情報を指定された擬人モデは、リンクL1を進行した後、横断歩道に相当するリンクL10を渡ることになる。経路指定情報は、擬人モデル60毎に、予め経路情報記憶部37に記憶されている。
【0049】
なお、経路指定情報には、擬人モデル60の初期位置を示す初期位置情報が定められていることが好ましい。初期位置はノードであってもよいので、この場合、「n2、n4、n10…」の経路指定情報に初期位置情報が含まれていることになる。また、初期位置をリンク上の所定位置に定めてもよい。この場合、所定のノード番号とノードからの離隔量を、例えばそのリンク上の座標で指定する。
【0050】
〔擬人モデル60の進行方向位置の決定方法〕
これまで説明したように、擬人モデル60の位置は、リンクに平行な進行方向位置か、又は、進行方向位置からリンクに対し垂直な方向に乖離した回避方向位置により決定できる。まず、擬人モデル60の進行方向位置の決定について説明する。図3の進行方向位置決定部32は、モデル情報に基づき、各擬人モデル60がリンクに沿って(平行に)進行する際の進行方向位置を決定する。
【0051】
図8(a)は、進行歩行位置の決定を模式的に説明する図である。図8(a)では、進行方向位置をP(x、y)で示した。擬人モデル60はノード間を進行するので、擬人モデル60の位置はノードを基準とした座標で表すことができる。例えば、2つのノードの一方のノードの座標を原点(nx、ny)にして、X軸方向を回避方向に、Y軸方向を進行方向にそれぞれ定めておく。
【0052】
モデル情報により歩速vは擬人モデル60毎に既知なので、例えば、所定時間経過後の進行方向位置Pは次のようにして求めることができる。図8(a)では擬人モデル60の速度ベクトルをv=(v、v)で示した。このベクトルvに直交する方向が回避方向である。
P(x、y) = (n+v・t、n+v・t)
なお、v、vは、出発位置のノードを原点とした座標における歩速vのx成分とy成分である。進行方向をY軸と等しくした場合は、v=0、v=vである。また、tは出発位置のノードを出発してから経過した時間を表す。擬人モデル60の位置は所定のサイクル時間毎に更新されるので、サイクル時間をΔtとすれば、進行方向位置P(x、y)は次のように書き直すことができる。
P(x、y) = P(x+v・Δt、y+v・Δt) …(3)
【0053】
<進行の制約がある場合>
上述したように、交通シミュレーション装置100では、例えば信号で擬人モデル60の進行を妨げる場合がある。従って、歩行者用の信号の現表示(赤、青、黄のいずれか)により、決定された進行方向位置に進行できない場合がある。例えば、信号のあるノードの手前に信号停止エリアがもうけられている。
【0054】
信号判定部35は、式(3)により決定された進行方向位置が信号停止エリアに入っていると、現表示に基づき進行してよいか否かを判定する。信号判定部35が、進行できないと判定した場合、擬人モデル60は信号停止エリアで少なくとも一時的に停止することになる。
【0055】
〔パーソナルスペース50の重複の判定〕
2つのパーソナルスペース50の重複について説明する。交通シミュレーション装置100は、パーソナルスペース50同士が空間を共有することを排除する。このため図3の重複検出部33は、式(3)で決定された進行方向位置において、一方のパーソナルスペース50が他方のパーソナルスペース50と重複するか、言い換えれば、着目しているパーソナルスペース50が他方のパーソナルスペース50に侵入したか否かを判定する。判定の結果、重複していれば、着目している擬人モデル60を回避方向に移動する。
【0056】
重複検出部33は、例えば、着目している擬人モデル60と、同じリンクを進行している他の全ての擬人モデル60、のパーソナルスペース50を適当な順番に抽出する。なお、そのリンクを進行している擬人モデル60は、進行方向位置Pから明らかである。
【0057】
重複検出部33は、抽出した2つのパーソナルスペース50を図8(a)のようなリンク平面に投影し、両者の重複を判定する。図9(a)(b)は両者のパーソナルスペース50A、50Bをそれぞれ独立にリンク平面に投影したビットマップの一例を示す。リンク平面をメッシュ状に区切ったビットマップにパーソナルスペース50を投影し、パーソナルスペース50が存在する領域のみ「1」のビットを立てることで、パーソナルスペース50をマス目を示す番号等で管理することができる。
【0058】
そして、重複検出部33は2つのパーソナルスペース50をメッシュ毎にXor演算する。図9(c)(d)は、パーソナルスペース50が重複しない場合のXorの演算結果と、パーソナルスペース50が重複する場合のXorの演算結果をそれぞれ示す図である。Xor演算は、入力される1と0の組み合わせのうち、その値が一致しないときに「1」を出力する。したがって、2つのパーソナルスペース50が重複しない場合は、もとのパーソナルスペース50のメッシュは「1」のままである。これに対し、2つのパーソナルスペース50が重複する場合は、もとのパーソナルスペース50のメッシュの重複したメッシュは「0」になる。したがって、重複検出部33は、Xorの演算結果、パーソナルスペース50の一部に「0」が現れるか否かにより、2つのパーソナルスペース50が重複したか否かを判定することができる。
【0059】
<左右のいずれの方向に他方のパーソナルスペース50があるかの判定>
2つのパーソナルスペース50が重複する場合、いずれか(又は両方)の擬人モデル60が回避方向位置に移動するが、両者が同じ方向に移動してしまうと重複の解消が困難になる。そこで、パーソナルスペース50をリンクに平行に半分に区切り、進行方向に対し一方を右領域、他方を左領域に区分する。そして、原則として、右領域に他のパーソナルスペース50が侵入している場合は左方向に回避し、左領域に他のパーソナルスペース50が侵入した場合は右方向に回避する。
【0060】
図10(a)はすれ違う場合のパーソナルスペース50の重複の例を、図10(b)は追い越す場合のパーソナルスペース50の重複の例をそれぞれ示す。図10(a)において、下側のパーソナルスペース50Bが進行する場合、パーソナルスペース50Bの先端部で重複が検出されるが、右領域と左領域のどちらで重複した面積が大きいかを比較すると左領域の方が多く重複していることがわかる。したがって、パーソナルスペース50Bは進行方向に対し右側に回避する。
【0061】
また、図10(b)においても同様である。下側のパーソナルスペース50Bが進行する場合、パーソナルスペース50Bの先端部における重複面積は左領域の方が多いので、パーソナルスペース50Bは進行方向に対し右側に回避する。図10(b)のように追い越す場合、右領域と左領域の重複面積は大きな差を示さない場合があるが、パーソナルスペース50Bが進行するにつれその差は大きくなるので、いずれは右領域と左領域の重複面積の差に応じて、どちらに回避すればよいか正確に判定できるようになる。
【0062】
一方、すれ違い当初及び追い越し当初は、右領域と左領域の重複面積が全く同一にある場合がある。図10(c)はすれ違う場合のパーソナルスペース50の重複の例を、図10(d)は追い越す場合のパーソナルスペース50の重複の例をそれぞれ示す。図10(c)(d)のいずれの場合も、右領域と左領域の重複面積はほぼ同一である。このような場合、例えば、進行方向に対し右側に回避すると定めておく。一度、左右のいずれかに回避することで、次回の重複の判定時には、必ず、右領域と左領域の重複面積を異ならせることができる。例えば、日本では歩行者は進行方向の右側を通行することが推奨されている。
【0063】
すれ違いの場合には、両方のパーソナルスペース50が進行方向に対し右方向に移動することで、互いに必ず逆方向に回避することになる。また、追い越しの場合、両方のパーソナルスペース50が進行方向に対し右方向に移動しても(実際には次のターンで他方のパーソナルスペース50Aが逆方向に回避するので、同じ方向に回避することはない)、追い越しする場合は2つのパーソナルスペース50の歩速vが異なっているはずなので、次述するように回避量が異なる。このため、追い越しの場合には、時間が経過するほど右領域と左領域の重複面積の差が大きくなる。
【0064】
したがって、パーソナルスペース50をリンクに平行に半分に区切り、右領域と左領域の重複面積を比較することで、回避方向を決定することができる。
【0065】
〔擬人モデル60の回避方向位置の決定方法〕
2つのパーソナルスペース50が重複した場合、回避方向位置決定部34は、回避方向に擬人モデル60の位置を決定する。これまで説明したように回避方向は、進行方向すなわちリンクに垂直な方向である。
【0066】
図8(b)は、回避方向位置の決定を模式的に説明する図である。現実世界では歩速vが大きいほど回避方向への移動速度も早いとしてよい。また、回避方向はリンクに垂直な方向と決まっているので、速度ベクトルvから回避方向を求めることができる。まず、回避方向位置決定部34は、進行方向に対する単位法線ベクトルuを求める。
【0067】
速度ベクトルv(v、v)に対し右に垂直なベクトルは(v、−v)であり、左に垂直なベクトルは(−v、v)である。速度ベクトルvの長さは√(v+v)である。したがって、進行方向にたいする単位法線ベクトルuは、次のようになる。
右方向に回避する場合:u={1/√(v+v)}(v、−v) …(4)
左方向に回避する場合:u={1/√(v+v)}(−v、v) …(5)
したがって、回避方向に移動した後の回避方向位置P’は、進行方向位置Pを利用して次のように表すことができる。ここで、回避量の大きさを指定する定数αをR(実数)とした。
P’(x‘、y’)=P(x、y)+α・u … (6)
以上により、回避方向位置決定部34は擬人モデル60毎に回避方向位置を決定することができた。
【0068】
また、このように回避方向位置を決定しても、歩道の幅を超えてしまうと被験者に擬人モデル60が車道にはみ出したように見えるおそれがあるため、リンク情報にて説明したようにリンク毎に回避可能量Wが指定されている。したがって、回避方向位置決定部34は、回避方向位置P’と回避可能量Wの半分であるW/2を比較し、回避方向位置P’<W/2の場合にのみ、回避方向位置P’を更新する。
【0069】
ところで、このように回避方向位置に移動した場合、擬人モデル60はパーソナルスペース50の重複が終わった後も回避方向位置をリンクに平行に進行することになる。回避方向位置のままリンクを進行してもよいが、すれ違いや追い越しが終了してパーソナルスペース50の重複が終了した後、リンク上を進行するように回避量をゼロにしてもよい。この場合、例えば、更新後の進行方向位置においてパーソナルスペース50が重複しない場合、例えば、単位法線ベクトルuと同距離かつ逆方向にリンク方向に移動する(戻る)。そして、再度、パーソナルスペース50が重複するか否かを判定し、重複しなければ単位法線ベクトルuと同距離戻った位置を回避方向位置として、重複する場合には戻ることを取りやめる。進行方向位置及び回避方向位置を演算する度にリンク方向に戻れるか否かを判定することで、徐々にリンクに戻ることができる。
【0070】
〔回避の具体例〕
パーソナルスペース50が重複した場合の回避の具体例について説明する。2つのパーソナルスペース50が重複するのは、主にすれ違う場合と追い越す場合である。まず、2つの擬人モデル60がすれ違う場合について説明する。
【0071】
図11は、左右から進行した擬人モデル60がすれ違う際のパーソナルスペース50の進行と回避を示す図の一例である。図11(a)において2つのパーソナルスペース50が重複しており、右側のパーソナルスペース50Bが進行方向位置及び回避方向位置を決定するターンであるとする。
【0072】
2つのパーソナルスペース50A,50Bが重複している場合、回避方向位置決定部34は式(6)によりパーソナルスペース50Bの回避方向位置を決定するが、侵入当初はパーソナルスペース50Bの右領域と左領域の重複面積が等しいので、擬人モデル60Bは予め定められた進行方向の右側に回避する。これにより、図11(b)に示すようにいったん2つのパーソナルスペース50A、50Bの重複が回避される。
【0073】
ついで、擬人モデル60Aのターンになるが、式(3)に基づき決定した擬人モデル60Aの進行方向位置において、2つのパーソナルスペース50が重複したものとする(図11(c))。回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Aの回避方向位置を決定するが、パーソナルスペース50Aの左領域が重複しているので、擬人モデル60Aは進行方向の右側に回避する。これにより、図11(d)に示すように再度2つのパーソナルスペース50A、50Bの重複が回避される。
【0074】
図11では1回の回避で、それぞれのパーソナルスペース50がリンクを跨ぐことがなくなったので、以降は両者が進行しても2つのパーソナルスペース50が重複することがない。したがって、図11(e)に示すように、2つのパーソナルスペース50がすれ違うことができる。
【0075】
続いて、一方の擬人モデル60Aが他方の擬人モデル60Bを追い越す場合について説明する。図12は、左から進行した後方の擬人モデル60Aが前方の擬人モデル60Bを追い越す際のパーソナルスペース50A、50Bの進行と回避を示す図の一例である。図12では、擬人モデル60Aの歩速vの方が擬人モデル60Bよりも速い。
【0076】
図12(a)において2つのパーソナルスペース50A、50Bが重複しており、左側の擬人モデル60Aが進行方向位置及び回避方向位置を決定するターンであるとする。2つのパーソナルスペース50A、50Bが重複している場合、回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Aの回避方向位置を決定するが、侵入当初はパーソナルスペース50Aの右領域と左領域の重複面積が等しいので、擬人モデル60Aは予め定められた進行方向の右側に回避する。これにより、図12(b)に示すようにいったん2つのパーソナルスペース50の重複が回避される。
【0077】
次に、擬人モデル60Bのターンになり、擬人モデル60Bの進行方向位置が式(3)に基づき決定されるが、両者は同じ方向に進行しているので、図12(c)に示すようにこの進行方向位置では2つのパーソナルスペース50A、50Bに重複は生じない。
【0078】
次に、擬人モデル60Bのターンになり、擬人モデル60Aの進行方向位置が式(3)に基づき決定され、2つのパーソナルスペース50A、50Bが重複したものとする(図12(d))。この場合、回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60aAの回避方向位置を決定するが、パーソナルスペース50Aの左領域が多く重複しているので、擬人モデル60Aは進行方向の右側に回避する。この場合、新たな回避方向位置が回避可能量W/2以下であれば、回避方向位置に移動すればよい。
【0079】
新たな回避方向位置が回避可能量W/2以下でない場合、擬人モデル60Aは回避方向位置に移動できないので回避しない。そして、擬人モデル60Bのターンになると、擬人モデル60Bが進行方向位置及び回避方向が決定される際に重複が検出され、回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Bの回避方向位置を決定する。この場合、パーソナルスペース50Bの右領域に重複しているので、擬人モデル60Bは進行方向の左側に回避する。
【0080】
これにより、図12(e)に示すように再度2つのパーソナルスペース50の重複が回避される。したがって、後方の擬人モデル60Aが前方の擬人モデル60Bを追い越すことができた。
【0081】
〔信号における停止の具体例〕
図13は、左から進行した複数の擬人モデル60が信号において停止する際のパーソナルスペース50の進行と移動を示す図の一例である。図13では、擬人モデル60Cは既に停止しており、擬人モデル60B、擬人モデル60Aの順に信号のノードに到着するものとする。
【0082】
図13(a)に示す状態から、擬人モデル60Bが信号に到着すると、パーソナルスペース50Bとパーソナルスペース50Cが重複する。回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Bの回避位置を決定し、進行方向に対し右側に回避する(図13(b))。
【0083】
図13(b)のように回避しても、再度、2つのパーソナルスペース50が重複する場合、回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Bの回避方向位置を決定し、左領域の重複面積が多いので進行方向に対し右側に回避する。このとき、式(3)により決定される擬人モデル60Bの進行方向位置は、信号停止エリアに到達するので、擬人モデル60Bは決定された進行方向位置で停止する。そして、停止により歩速vがゼロになるので、パーソナルスペース50Bはパーソナルスペース50Cと同程度の大きさになる(図13(c))。
【0084】
続いて、パーソナルスペース50Aと50Cが重複する。回避方向位置決定部34は式(6)により擬人モデル60Aの回避方向位置を決定するが、侵入当初はパーソナルスペース50Aの右領域と左領域の重複面積が等しいので、擬人モデル60Aは予め定められた進行方向の右側に回避する(図13(d))。
【0085】
ついで、擬人モデル60B又は60Cの進行方向位置及び回避方向位置を決定するターンとなるが、すでに停止しているため擬人モデル60B、60Cが移動することは困難になっている。
【0086】
このため、以降は、交通シミュレーション装置100は、擬人モデル60Aを移動させる。移動の仕方は、パーソナルスペース50Aと、パーソナルスペース50B又は50Cとの重複の仕方や回避可能量Wによって異なる。
【0087】
図13(d)において、パーソナルスペース50Aの左領域の方が多く重複している場合、擬人モデル60Aは右側に回避する。この場合、回避可能量Wの制約を受けなければ、パーソナルスペース50Bの更に右側に回避して、信号停止エリアに到達する。これにより擬人モデル60Aは停止して歩速vがゼロになるので、パーソナルスペース50Aはパーソナルスペース50Cと同程度の大きさになる。
【0088】
一方、回避可能量Wの制約を受けた場合は、パーソナルスペース50Bの右側に回避できず、重複面積の判定結果から左に回避することはない。このため、擬人モデル60Aは、進行方向位置まで進行した後、パーソナルスペース50Aとパーソナルスペース50Bと重複しないように、パーソナルスペース50Bの後方で停止する(図13(e))。パーソナルスペース50Aの大きさは歩速vにより変わるので、パーソナルスペース50Aの停止により、パーソナルスペース50Bとの間に間隔があるように見える場合がある。この場合(進行方向及び回避方向のいずれにも移動できない場合)、パーソナルスペース50Bを歩速vがゼロの時の大きさにしてから、進行方向位置に進行してもよいし、停止後に他方のパーソナルスペース50Bとの間隔が大きければ、次のターンで間隔を詰めてもよい。いずれにしても擬人モデル60Aと60Bの間隔を詰めることができる。
【0089】
図13(d)において、パーソナルスペース50Aの右領域の方が多く重複している場合、図13(f)に示すように擬人モデル60Aは進行方向の左側に回避する。ここで、パーソナルスペース50Aと50Cが再度、重複する。なお、擬人モデル60Aでなくパーソナルスペース50Aが信号位置を超えることは許容される。
【0090】
図13(f)では、パーソナルスペース50Aの右領域と左領域の重複面積が等しくなる可能性があるが、この場合、連続してパーソナルスペース50が重複しているので、擬人モデル60Aは進行方向及び回避方向に移動できず、パーソナルスペース50B又は50Cの後方で停止する(図13(g))。
【0091】
また、現実世界では、歩行者は空いている空間を探すので、連続してパーソナルスペース50が重複した場合、再度、同じ方向に回避方向位置を決定することが自然である。この場合、擬人モデル60Aは左に回避し、信号停止エリアの制約を受けて停止することになる(図13(h))。
【0092】
図13(e)(g)(h)に示すように、停止によりパーソナルスペース50が小さくなり、また、左右に回避することで並列に並ぶことができるので、現実世界の歩行者の信号待ちのように、狭い空間に擬人モデル60を滞留させることができる。
【0093】
〔交通シミュレーション装置100における擬人モデル60の進行手順〕
図14は、交通シミュレーション装置100が擬人モデル60を進行させる手順を示すフローチャート図の一例である。図14のフローチャート図は、各擬人モデル60毎に繰り返し実行される。なお、擬人モデル60のパーソナルスペース50は、歩速vに応じて既に形成されている。
【0094】
まず、進行方向位置決定部32は、式(3)を用いて擬人モデル60の進行方向位置を決定する(S10)。そして、重複検出部33は、その進行方向位置において当該擬人モデル60のパーソナルスペース50が他のパーソナルスペース50と重複するか否かを判定する(S20)。
【0095】
パーソナルスペース50が重複していない場合(S20のNo)、右方向又は左方向に回避する必要はないので、ステップS50に進む。
【0096】
パーソナルスペース50が重複している場合(S20のYes)、重複検出部33が検出した右領域又は左領域の重複面積に応じて、回避方向位置決定部34が回避方向を決定する(S30)。すなわち、右領域の重複面積の方が左領域よりも多い場合、回避方向は右方向であり、左領域の重複面積の方が右領域よりも多い場合、回避方向は左方向であり、右領域と左領域の重複面積が同じ場合、回避方向は予め定められた方向(例えば進行方向に対し右方向である)である。
【0097】
そして、回避方向位置決定部34は式(6)を用いて回避方向位置を決定する(S40)。回避方向位置が回避可能量Wの半分より大である場合には、ここで決定された回避方向位置を破棄する。
【0098】
ついで、その進行方向位置が信号停止エリアに入っているか否かを判定する(S50)。信号停止エリアに入っている場合(S40のYes)、信号判定部35は現表示が赤か否かを判定する(S60)。
【0099】
現表示が赤の場合(S60のYes)、擬人モデル60はそれ以上進行できないので、パーソナルスペース形成部31は歩速v=ゼロのパーソナルスペース50を形成し、ステップS40で決定した回避方向位置に移動させる(S70)。
【0100】
進行方向位置が信号停止エリアに入っていない場合(S50のNo)又は現表示が赤の場合(S60のNo)、進行方向位置決定部32又は回避方向位置決定部34は、元のパーソナルスペース50を進行法位置又は回避方向位置に進行させる(S80)。
【0101】
図14に示す処理を全ての擬人モデル60について施すことで、各擬人モデル60はすれ違いや追い越ししながら進行することができる。
【0102】
図15は、図16と同様の交差点において、本実施形態の交通シミュレーション装置100を擬人モデル60の進行に適用した場合の各擬人モデル60の移動態様の一例を示す。図示するように、横断歩道では擬人モデル60同士がすれ違いったり、追い越しすることが可能になっている。また、信号待ちでは待機場所に複数の擬人モデル60を前後左右に密集させて滞留させることができる。
【0103】
本実施形態の交通シミュレーション装置100は、リンクに対し法線方向に擬人モデル60を移動できるようにしたことで、擬人モデル60のすれ違いや追い越しなど現実世界の歩行者に近い挙動を再現できる。パーソナルスペース50の大きさを歩速vに応じて可変としたことで、複数の擬人モデル60が信号待ちする様子を再現しやすくできる。歩行者と車両との実際の関係をシミュレーションしやすくできる。また、擬人モデル60の移動態様に被験者が感じる違和感を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本実施形態の交通シミュレーション装置の概略を模式的に説明する図の一例である。
【図2】交通シミュレーション装置の概略斜視図、被験者の着座位置における視界の一例をそれぞれ示す図である。
【図3】交通シミュレーション装置の機能ブロック図の一例である。
【図4】パーソナルスペースを説明する図の一例である。
【図5】モデル情報、ノード情報、リンク情報のそれぞれ一例を示す図である。
【図6】歩速vと半径rの関係、歩速vと距離dの関係の一例をそれぞれ示す図である。
【図7】ノード及びリンクの一例を示す図である。
【図8】進行歩行位置及び回避方向位置の決定を模式的に説明する図の一例である。
【図9】2つのパーソナルスペースの重複の検出について説明する図の一例である。
【図10】すれ違う場合のパーソナルスペースの重複の例を、追い越す場合のパーソナルスペースの重複の例をそれぞれ示す図である。
【図11】左右から進行した擬人モデルがすれ違う際のパーソナルスペースの進行と移動を示す図の一例である。
【図12】左から進行した後方の擬人モデルが前方の擬人モデルを追い越す際のパーソナルスペースの進行と移動を示す図の一例である。
【図13】左から進行した複数の擬人モデルが信号において停止する際のパーソナルスペースの進行と移動を示す図の一例である。
【図14】交通シミュレーション装置が擬人モデルを移動させる手順を示すフローチャート図の一例である。
【図15】本実施形態の交通シミュレーション装置を擬人モデルの移動に適用した場合の各擬人モデルの移動態様の一例を示す図である。
【図16】従来の交通シミュレーション装置における複数の歩行者の移動態様を表す図の一例である。
【符号の説明】
【0105】
20 制御部
21 入力装置
22 表示装置
31 パーソナルスペース形成部
32 進行方向位置決定部
33 重複検出部
34 回避方向位置決定部
35 信号判定部
36 モデル情報記憶部
37 経路情報記憶部
50 パーソナルスペース
60 擬人モデル
100 交通シミュレーション装置
200 歩行者シミュレーション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の移動態様を模倣させた擬人モデルに、2点間を結ぶリンク上を進行させる歩行者シミュレーション装置であって、
前記擬人モデル間の間隔を確保するパーソナルスペース、を規定するモデル情報が記憶されたモデル情報記憶手段と、
前記モデル情報に基づき、前記擬人モデルのパーソナルスペースを形成するパーソナルスペース形成手段と、
パーソナルスペース同士の重複を検出する重複検出手段と、
パーソナルスペース同士の重複が検出された場合、前記リンク上から離れた前記擬人モデルの回避方向位置を決定する回避方向位置決定手段と、
を有することを特徴とする歩行者シミュレーション装置。
【請求項2】
パーソナルスペースは進行方向に長軸を有し、進行方向に垂直な方向に短軸を有する、平面視が涙型の形状であって、
長軸又は短軸の長さは、前記擬人モデルの歩速に応じて可変である、
ことを特徴とする請求項1記載の歩行者シミュレーション装置。
【請求項3】
パーソナルスペースの短軸及び長軸の長さは、前記擬人モデルの歩速がゼロの場合に最小となる、
ことを特徴とする請求項2記載の歩行者シミュレーション装置。
【請求項4】
前記パーソナルスペース同士の重複が検出された場合、
前記重複検出手段は、擬人モデルの進行方向に対し左右のいずれの方向から他方のパーソナルスペースと重複したかを判定し、
前記回避方向位置決定手段は、重複した方向と反対方向に前記擬人モデルの前記回避方向位置を決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の歩行者シミュレーション装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載の歩行者シミュレーション装置と、
運転席を視点とする疑似光景を被験者に提供する表示装置と、
加速、減速、操舵等の操作情報を入力する入力装置と、を有し、
前記操作情報に応じて前記疑似光景を制御する、
ことを特徴とする交通シミュレーション装置。
【請求項6】
歩行者の移動態様を模倣させた擬人モデルに、2点間を結ぶリンク上を進行させる歩行者シミュレーション方法であって、
前記擬人モデル間の間隔を確保するパーソナルスペース、を規定するモデル情報が記憶されたモデル情報記憶手段を参照して、パーソナルスペース形成手段が、前記擬人モデルのパーソナルスペースを形成するステップと、
重複検出手段が、パーソナルスペース同士の重複を検出するステップと、
回避方向位置決定手段が、パーソナルスペース同士の重複が検出された場合、前記リンクに対し進行方向右又は進行方向左に移動させた前記擬人モデルの回避方向位置を決定するステップと、
を有することを特徴とする歩行者シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−301295(P2009−301295A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154596(P2008−154596)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】