説明

歪検出用光ファイバコード

【課題】歪みの測定対象物の種類を大幅に拡大することができる歪検出用光ファイバコードを提供する。
【解決手段】測定対象物2の歪み2Aを検出する歪検出センサとして用いられる歪検出用光ファイバコード1であって、光ファイバ10と、この光ファイバ10を有する光ファイバ素線13の周囲を被覆し、この光ファイバ10の引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部11とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の歪みを測定の際に歪検出センサとして用いる歪検出用光ファイバコードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート、地盤等の頑強な測定対象物の歪みを測定する際に、測定対象物に埋め込まれる歪検出センサとして光ファイバを用いる場合、光ファイバの周囲にFRP(繊維強化プラスチック:Fiber Reinforced Plastics)等による強化被覆層を形成し、測定対象物による圧力や圧力変動から光ファイバを保護する構成にされることが一般的である(特許文献1)。また、非特許文献1には、金属製の板状部材の両面に光ファイバをそれぞれ固定し、これら光ファイバと板状部材とを歪検出センサとして測定対象物に埋め込んで、歪みを測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3954777号公報
【非特許文献1】坪川将丈、「光ファイバを用いた空港アスファルト舗装のひずみ計測手法の検討」、平成22年度港湾空港技術講演会講演集、国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人港湾空港技術研究所、平成22年年10月8日、p.61−73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の構成において、コンクリートのような頑強な測定対象物である場合は、高い精度で歪みを測定することができるが、軟弱地盤やアスファルト等の測定対象物である場合は、測定対象物の環境温度によって歪みの測定精度が低下するという問題が判明した。即ち、従来の構成では、光ファイバを歪検出部として用いることが可能な測定対象物の種類が相当に限定されているという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑みてされたものであり、歪みの測定対象物の種類を大幅に拡大することができる歪検出用光ファイバコード及び歪検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歪検出用光ファイバコードに用いられる強化被覆層は、歪検出用光ファイバを保護する必要があるため、光ファイバよりも大きな引張弾性係数により変形し難いようにすることが必須であるとの一般的な認識が、上記の問題を引き起こしていることに気付いた。
【0007】
即ち、本発明者は、測定対象物が、この測定対象物の歪みに追従して強化被覆層を歪ませることができる程度の引張弾性係数を有するコンクリート等である場合は、光ファイバが強化被覆層の歪みに追従するために高い精度での測定が可能であるというメカニズムの存在を見出した。また、本発明者は、測定対象物がコンクリートよりも引張弾性係数が小さい軟弱地盤や温度によって引張弾性係数が変動するアスファルト等である場合は、測定対象物の歪みに追従して強化被覆層を歪ませることができない可能性があり、その結果として光ファイバの歪みが阻害され、測定の精度を低下させるというメカニズムの存在を見出した。
【0008】
上記知見に基づいて、本発明者は、埋め込み等の外力がある環境下に置かれる光ファイバコードに対して当業者が慣用するFRP等の強化被覆層を用いず、光ファイバを保護する被覆部を、光ファイバの引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数とすることで、従来よりも測定対象物の種類を大幅に拡大することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、測定対象物の歪みを検出する歪検出センサとして用いられる歪検出用光ファイバコードであって、光ファイバと、前記光ファイバを有する光ファイバ素線または光ファイバ心線の周囲を被覆し、前記光ファイバの引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部とを有している。
【0010】
上記構成によれば、光ファイバコードは、光ファイバの引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部により周囲が被覆されている。これにより、光ファイバを保護する被覆部が、この光ファイバよりも歪み易くなっている。従って、測定対象物が光ファイバを歪ませることができる程度の引張弾性係数を有していれば、被覆部を測定対象物に追従させて歪ませることができる。一般的に、光ファイバは断面積が被覆部に対して相当に小さいため、光ファイバを歪ませるための力は小さい。従って、被覆部の引張弾性係数が光ファイバよりも小さくても光ファイバに対して被覆部に追従する歪みを生じさせることができる。この結果、歪検出用光ファイバコードは測定対象物の歪みに正確に追従することができる。従って、従来よりも歪みの測定対象物の種類を大幅に拡大することができる。
【0011】
また、本発明の歪検出用光ファイバコードは、前記光ファイバの断面積S1と引張弾性係数E1とを乗算した第1乗算値F1と、少なくとも前記被覆部を含む光ファイバの被覆の断面積S2と引張弾性係数E2とを乗算した第2乗算値F2との関係について、F1/F2=0.05〜18.0の条件を満たすことが好ましい。
【0012】
また、本発明の前記被覆部は、異なる引張弾性係数を有した複数の被覆部材により形成されている構成であってもよい。
【0013】
上記構成によれば、被覆部は、引張弾性係数が異なる多層構造で形成されている。これにより、被覆部材毎に引張弾性係数の異なる被覆を適材適所で使用すれば、光ファイバに対して測定対象物に追従する正確な歪みを付与するための力を充分に確保することができ、センシング精度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の前記複数の被覆部材は、前記光ファイバ側から外周側にかけて、前記引張弾性係数が小さくなる材料によりそれぞれ形成されている構成であってもよい。
【0015】
一般的に、樹脂等は引張弾性係数が小さいほど、比較的低い温度(例えば60℃)であっても軟化し易い傾向にあるため、被覆部を引張弾性係数の小さい単一の材料のみから形成すると、そのような軟化温度を超える使用環境下では、光ファイバを歪ませる力が不足する。そこで、被覆部を複層構造とし、外周側の被覆部材には引張弾性係数の小さい材料を使用した上で、光ファイバ側の被覆部材を比較的引張弾性係数の大きい材料で形成すれば、被覆部の引張弾性係数を測定対象物に応じた小さな値としつつ、光ファイバを歪ませるための力を確保できるため、歪検出用光ファイバコードを適用する測定対象物の上限温度をより高めることができる。
【0016】
また、本発明の前記被覆部は、前記歪検出用光ファイバが180度で曲折されたときに、前記光ファイバが折れない厚みに設定されていることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、歪検出用光ファイバの取り扱いを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、従来よりも歪の測定対象物の種類を大幅に拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る歪検出用光ファイバコードの説明図である。
【図2】歪検出用光ファイバコードの曲折状態を示す説明図である。
【図3】歪検出用光ファイバコードの歪状態を示す説明図である。
【図4】本実施形態の変形例に係る歪検出用光ファイバコードの説明図である。
【図5】本実施形態の変形例に係る歪検出用光ファイバコードの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(歪検出用光ファイバコードの概要)
図1に示すように、本実施形態に係る歪検出用光ファイバコード1は、測定対象物の歪みを検出する歪検出センサとして用いられるものである。例えば、飛行場や道路の舗装状態、堤体や斜面等を測定する歪検出装置の歪検出センサとして用いられる。
【0022】
歪検出用光ファイバコード1は、光ファイバ10と、この光ファイバ10を有する光ファイバ素線13(または光ファイバ心線)の周囲を被覆し、光ファイバ10の引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部11とを有している。換言すれば、歪検出用光ファイバコード1は、光ファイバ10の引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部11により周囲が被覆されている。光ファイバ10を保護する被覆部11は、この光ファイバ10よりも歪み易い状態に形成されている。
【0023】
従って、歪検出用光ファイバコード1は、測定対象物2が光ファイバ10を歪ませることができる程度の引張弾性係数を有していれば、被覆部11を測定対象物に追従させて歪ませることができる。一般的に、光ファイバ10は断面積が被覆部11に対して相当に小さいため、光ファイバ10を歪ませるための力は小さい。従って、被覆部11の引張弾性係数が光ファイバ10よりも小さくても光ファイバ10に対して被覆部11に追従する歪みを生じさせることができる。この結果、歪検出用光ファイバコード1は測定対象物2の歪みに正確に追従することができる。従って、従来よりも歪みの測定対象物の種類を大幅に拡大することができる。
【0024】
ここで、光ファイバとは、石英ガラスで形成される光導波部のみを示す。一般的に、光ファイバは、外径が0.125mmに形成される。
また、光ファイバ素線とは、上記のような光ファイバに単層もしくは2層の保護膜を被覆したものである。一般的に、光ファイバ素線は、保護膜にUV(紫外線)硬化型ウレタンアクリレートが用いられる。また、光ファイバ素線は、外径が0.25mmに形成される。
また、光ファイバ心線とは、上記のような光ファイバ素線にさらに被覆層を形成したものである。即ち、光ファイバ心線の被覆層は、被覆部11の一部(後述の第1被覆部材11a)となる。一般的に、光ファイバ心線は、この被覆層にナイロンや東レ・デュポン社製「ハイトレル(登録商標)」が用いられる。また、光ファイバ心線は、外径が0.9mmに形成される。
【0025】
光ファイバ10を保護膜12で被覆した光ファイバ素線13は、さらに被覆部11で被覆される。換言すれば、歪検出用光ファイバコード1は、光ファイバ10に対して、保護膜12および被覆部11を有した光ファイバの被覆14を被覆して形成されたものである。
【0026】
(測定対象物)
測定対象物2としては、コンクリートや軟弱地盤、アスファルト等を用いることができる。
【0027】
ここで、軟弱地盤とは、JIS A 1219の標準貫入試験によるN値が4以下の粘性土であるものを示す。本実施形態では、このような軟弱地盤の引張弾性係数を100MPa以下のものとするがこれに限定されるものではない。
【0028】
また、アスファルトは、アスファルトと骨材とを混合して生成したアスファルト混合物であり、表1のように、例えば、40℃で0.9MPaの引張弾性係数を示すものとするが、これに限定されるものではない。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、このような測定対象物2に埋め込まれる歪検出用光ファイバコード1の各構成について具体的に説明する。
【0031】
(光ファイバ)
本実施形態の光ファイバ10は、ガラス導波路である光ファイバであり、約70GPaの引張弾性係数を有している。尚、光ファイバはガラスに限定されずプラスチック製を用いるものであってもよい。また、光ファイバ10は、外径が0.125mmに形成された一般的な光ファイバであるがこれに限定されない。
【0032】
(光ファイバ素線)
光ファイバ素線13は、光ファイバ10と、この光ファイバ10を保護する保護膜12とを有している。保護膜12は、光ファイバ10の周囲を被覆するように形成されている。これにより、歪検出用光ファイバコードの製造時等に光ファイバが傷付くことを防止することができる。尚、製品としての光ファイバは、ガラス導波路である光ファイバの周囲に、樹脂等による保護膜を形成した光ファイバ素線や、この光ファイバ素線に被覆部の一部となる被覆層を形成した光ファイバ心線として光ファイバメーカから提供されることが一般的である。従って、光ファイバメーカから提供される光ファイバ素線や光ファイバ心線に対し、被覆部11を形成して、歪検出用光ファイバコード1を製造すればよいため効率的である。
【0033】
(被覆部)
上述のとおり、被覆部11は、光ファイバ素線13の周囲を被覆し、引張弾性係数が光ファイバ10よりも小さくされている。これにより、被覆部11は、光ファイバ10を保護するとともに、測定対象物2に追従して光ファイバ10に正確に歪みを伝え、精度の高いセンシングが可能になるようにされている。
【0034】
先ず、光ファイバ10の保護材としての被覆部11の機能について説明する。
被覆部11は、光ファイバ10の保護のために、外径が3mm以上となるように形成されることが好ましい。これにより、被覆部11が緩衝材となり、外力から光ファイバ10を保護することができる。
【0035】
被覆部11は、歪検出用光ファイバコード1が180度で曲折されたときに、光ファイバ10が折れない厚みに設定されていることが好ましい。即ち、図2に示すように、歪検出用光ファイバコード1が、被覆部11同士が接触するように180度で曲折された際に、被覆部11及び保護膜12に被覆される光ファイバ10が折れないことが好ましい。例えば、歪検出用光ファイバコード1(被覆部11)の外径を3mmで形成すれば、歪検出用光ファイバコード1の曲率半径を1.5mm以上に確保することができ、光ファイバ10が折れることを防止することができる。
【0036】
換言すれば、被覆部11(歪検出用光ファイバコード1)は、光ファイバの外径(0.125mm)に対して24倍程度の外径(3mm)となるように設定されている。また、被覆部11は引張弾性係数の小さい材料からなるので、歪検出用光ファイバコード1の可とう性を確保しつつ、その取り扱いを容易にすることができる。
その一方で、FRP等の引張弾性係数の大きい材料を強化被覆層として用いた場合、歪検出用光ファイバコード1は非常に曲がりにくくなり、取扱性は悪化する。
【0037】
次に、センシングの精度を向上させる被覆部11の機能について説明する。
上述のとおり、被覆部11は、引張弾性係数が10MPa〜870MPaの樹脂で形成され、光ファイバ10よりも小さい。
【0038】
被覆部11の引張弾性係数を光ファイバ10の引張弾性係数より小さくすることで、被覆部11は、歪検出用光ファイバコード1を測定対象物2に埋設した際に、測定対象物2の有する凹凸が被覆部11に食い込み、歪検出用光ファイバコード1と測定対象物2との密着度を高めることができる。従って、測定対象物2に歪みが生じた際に、歪検出用光ファイバコード1が測定対象物2に追従して歪みが生じ易くなり、センシングの精度を向上させることができる。
【0039】
即ち、図3に示すように、測定対象物2が被覆部11に食い込む凸部21を有し、測定対象物2に歪検出用光ファイバコード1の長手方向へ歪み2Aが発生した場合、測定対象物2に接触する被覆部11は歪み2Aの歪方向へ引っ張られて歪み11Aを生じる。このとき、凸部21が被覆部11に食い込んだ状態となっているため、被覆部11の歪み11Aは歪み2Aにより正確に追従したものとなる。
【0040】
また、被覆部11の引張弾性係数を10MPa以上とすることで、光ファイバ10を有する光ファイバ素線13の歪み13Aは、被覆部11の歪み11Aに正確に追従したものとなる。具体的に、図3に示すように、光ファイバ素線13は、歪み11Aに追従した歪み13Aを生じる。ここで、被覆部11の引張弾性係数を10MPa以上とすることで、被覆部11が光ファイバ素線13に与える力(光ファイバ素線13を歪ませる力)を充分に確保することができるため、光ファイバ素線13の歪み13Aは、被覆部11の歪み11Aに正確に追従したものとなる。
【0041】
これらの結果、光ファイバ素線13における光ファイバ10の歪みは、測定対象物2の歪み2Aに正確に追従したものとなり、センシングの精度が向上される。
【0042】
また、歪検出用光ファイバコード1と測定対象物2との密着度を高めてセンシングの精度を向上させるために、被覆部11に熱可塑性の樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン社 Hytrelシリーズ等)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン・エチルアクリレート共重合体(日本ユニカー社 EEA NUC-6940等)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(DuPont社 Elvaloy 12024EACS等)、エチレン・ビニルアセテート共重合体を例示することができる。これにより、歪検出用光ファイバコード1を施工時に高温(例:180℃)となる測定対象物2(アスファルト等)に埋設する際に、被覆部11が接着剤の働きをするため、測定対象物2との密着度をより高めることができる。
【0043】
図1に示すように、被覆部11は、第1被覆部材11aと、第2被覆部材11bとを有している。光ファイバ素線13の周囲には、第1被覆部材11aが被覆されている。第1被覆部材11aの周囲には、第2被覆部材11bが被覆されている。第1被覆部材11aと第2被覆部材11bとは、異なる引張弾性係数を有している。
【0044】
このように、被覆部11は、異なる引張弾性係数を有した複数の被覆部材11a・11bにより形成されている。換言すれば、被覆部11は、引張弾性係数の異なる多層構造で形成されている。一般的に、樹脂等は引張弾性係数が小さいほど、比較的低い温度(例えば60℃)であっても軟化し易い傾向にあるため、被覆部11を引張弾性係数の小さい単一の材料のみから形成すると、そのような軟化温度を超える使用環境下では、光ファイバ10を歪ませる力が不足する。そこで、上記のように被覆部11を2層構造とし、第2被覆部材11bには引張弾性係数の小さい材料を使用した上で、第1被覆部材11aを比較的引張弾性係数の大きい材料で形成すれば、被覆部11の引張弾性係数を測定対象物に応じた小さな値としつつ、光ファイバ10を歪ませるための力を確保できるため、歪検出用光ファイバコードを適用する測定対象物の上限温度をより高めることができる。
【0045】
例えば、本実施形態では、第1被覆部材11aよりも第2被覆部材11bが、引張弾性係数が小さくなるように形成されている。即ち、被覆部11が有する複数の被覆部材が、光ファイバ10側から外周側にかけて、引張弾性係数が小さくなる材料によりそれぞれ形成されている。
【0046】
一般的に、樹脂等の素材は比較的低い温度であっても引張弾性係数が小さいほど軟化し易い傾向にある。上記のような構成にすることにより、高い温度により引張弾性係数が低下するようなアスファルト等の測定対象物2であっても、被覆部11の保護材としての機能を確保しつつ、被覆部11を測定対象物2に応じた引張弾性係数とすることができる。尚、被覆部11は2層構造に限定されるものではなく、単層であってもよいし、3層以上であってよい。
【0047】
(光ファイバと被覆部との関係)
このような被覆部11と光ファイバ10との関係について説明する。
上述のとおり、被覆部11は、光ファイバ10よりも引張弾性係数が小さくされている。光ファイバ10の引張弾性係数は70GPa程度であり、被覆部11の引張弾性係数は少なくともこれよりも小さい必要がある。
【0048】
具体的に、被覆部11と光ファイバ10との関係を、被覆部11と光ファイバ10に単位歪み(100%の歪み)を与えるために必要な力の関係で示す。光ファイバ10の第1乗算値F1は、下記の式(1)に示すように、光ファイバ10の引張弾性係数E1と、光ファイバ10の縦断面積S1との積となる。
【0049】
【数1】

【0050】
また、少なくとも被覆部11を含む光ファイバの被覆14の第2乗算値F2は、下記の式(2)に示すように、光ファイバの被覆14の被覆層(本実施形態では、保護膜12、被覆部材11a・11b)毎の単位歪みを与えるための力(被覆層の引張弾性係数E2と被覆部材の縦断面積S2との積)の和となる。尚、E2及びS2の添え字は、光ファイバの被覆14の光ファイバ側からx番目の被覆層を示す。第2乗算値F2は、少なくとも被覆部11の単位歪みを与えるための力が含まれていればよく、例えば被覆部11のみの単位歪みを与えるための力を示すものであってもよい。
【0051】
【数2】

【0052】
このような、光ファイバ10の単位歪みを与えるための力F1を、光ファイバの被覆14の単位歪みに必要な力F2で割った値が、下記式(3)に示すように、0.05〜18.0であることが好ましい。具体的には、F1/F2の下限値は、0.05が好ましく、0.1がより好ましく、1.0がさらに好ましい。また、F1/F2の上限値は、18.0が好ましく、10.0がより好ましく、3.0がさらに好ましい。
【0053】
【数3】

【0054】
(変形例)
以上のように、本実施形態の歪検出用光ファイバコード1について、図1に示すように、光ファイバ素線13の周囲を被覆部11が被覆され、被覆部11が第1被覆部材11a及び第2被覆部材11bを有する構成として説明したが、これに限定されるものではない。
【0055】
例えば、図4に示すように、被覆部11が単一の被覆部材で構成される歪検出用光ファイバコード201であってもよい。
また、例えば、図5に示すように、光ファイバ素線13の周囲を被覆するように被覆層15が形成された光ファイバ心線16に、第2被覆部材11bを被覆した歪検出用光ファイバコード301であってもよい。この場合、光ファイバ心線16の被覆層15は、第1被覆部材11aとなる。換言すれば、被覆部11は、第1被覆部材11aとしての被覆層15と、第2被覆部材11bとで構成される。
【0056】
また、本実施形態において、歪検出用光ファイバコード1は、測定対象物2に埋め込まれて測定されるものであるがこれに限定されない。例えば、歪検出用光ファイバコード1は、測定対象物2に貼り付けて設置されるものであってもよい。
【0057】
(歪検出装置)
図1に示すように、上記のように構成された歪検出用光ファイバコード1は、歪検出装置3に用いられる。歪検出装置3としては、例えば、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectmetry)方式のものを挙げることができる。本実施形態では、このBOTDR方式を用いて、歪検出装置3から歪検出用光ファイバコード1に光パルスを入射し、歪検出用光ファイバコード1から戻る散乱光のうちブルリアン散乱光を検出し、ブルリアン散乱光の周波数により歪みの大きさを特定すると共に、ブルリアン散乱光が戻る時間に基づいて歪みの生じている場所を特定する。尚、歪検出としてBOTDR方式に限定されるものではなく、歪検出装置3に歪検出用光ファイバコード1の両端を接続してポンプ光とプローブ光とを夫々入射し、両光の干渉を利用して歪みを検出するBOCDA(Brillouin Optical Correlation-Domain Analysis)方式等であってもよい。
【0058】
尚、検出にBOCDA方式を用いる場合、上記のとおりポンプ光とプローブ光との干渉を利用するため、互いの偏波状態がセンシング精度に影響を及ぼす。従って、歪検出用光ファイバコード1には、偏波保持型の光ファイバを用いることが好ましい。
【0059】
(歪検出装置の使用方法)
また、歪検出用光ファイバコード1は、測定対象物2に埋め込まれて設置される。これにより、測定対象物2に歪み2Aが生じた場合に、この歪み2Aに追従して歪検出用光ファイバコード1に歪み1Aが発生する。歪検出用光ファイバコード1にパルス波を入射し、歪検出用光ファイバコード1から戻ってくるブルリアン散乱光の周波数分布を解析することで歪み1Aを特定し、歪み1Aを特定することで、測定対象物2の歪み2Aを測定することができる。
【0060】
以上の詳細な説明では、本発明をより容易に理解できるように、特徴的部分を中心に説明したが、本発明は、以上の詳細な説明に記載する実施形態に限定されず、その他の実施形態にも適用することができ、その適用範囲は可能な限り広く解釈されるべきである。また、本明細書において用いた用語及び語法は、本発明を的確に説明するために用いたものであり、本発明の解釈を制限するために用いたものではない。また、当業者であれば、本明細書に記載された発明の概念から、本発明の概念に含まれる他の構成、システム、方法等を推考することは容易であると思われる。従って、請求の範囲の記載は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で均等な構成を含むものであるとみなされるべきである。また、本発明の目的及び本発明の効果を充分に理解するために、すでに開示されている文献等を充分に参酌することが望まれる。
【実施例1】
【0061】
歪検出用光ファイバコードの耐曲げ性について、歪検出用光ファイバコードの外径を表2に示すように複数変更して、図2に示すように歪検出用光ファイバコードを180度曲折して光ファイバの破断の有無を調べた。尚、外径が0.125mmの光ファイバを有する歪検出用光ファイバコードを用いた。
【0062】
【表2】

【0063】
上記測定結果によれば、歪検出用光ファイバコードの外径が2.9mm以上である場合は、歪検出用光ファイバコードを180度曲折しても光ファイバは破断しないことが判明した。
【実施例2】
【0064】
光ファイバ素線13の周囲に光ファイバ10よりも小さい引張弾性係数を有する被覆部11を備えた歪検出用光ファイバコード1の歪センシング感度について、実施例1〜9、比較例1・2として測定すると共に、光ファイバ10よりも大きい引張弾性係数を有する強化被覆層を備えた歪検出用光ファイバコードを比較例3として測定した。
【0065】
尚、比較例1・2は、光ファイバ10よりも小さい引張弾性係数を有する被覆部11を備えるものであるが、引張弾性係数として好ましい10MPa〜870MPaの範囲外であるため比較例とした。
【0066】
実施例1〜9、及び、比較例1〜3に共通する事項として、引張弾性係数が70GPa、外径が0.125mm(断面積が約0.0123mm)の光ファイバを用いた。即ち、この光ファイバのF1の理論値は、約859Nとなる。尚、実施例5の光ファイバのみシングルモード型を用いて、他は偏波保持型の光ファイバを用いた。
【0067】
この光ファイバには、周囲を被覆する保護膜が形成されている。保護膜は、材質がUV硬化型ウレタンアクリレートからなっている。保護膜は、引張弾性係数が1MPa、外径が0.25mm(断面積が約0.0368mm)であり、F2のうちこの保護膜が分担する割合は約0.0368Nとなる。
【0068】
歪センシング感度は、表1に記載のアスファルト混合物に図1に示すように歪検出用光ファイバコードを埋設し、アスファルト混合物に所定の歪みを加え、温度を変化(0℃、20℃、40℃)させ、印加した歪みと比較して精度を調べた。また、耐曲げ性について、実施例1と同様に、歪検出用光ファイバコードを180度曲折して光ファイバの折れの有無を調べた。
【0069】
実施例1〜7及び比較例1・2では、保護膜の周囲に単一の被覆部材で構成される被覆部(第1被覆部材)を設けた。また、実施例8・9は、保護膜の周囲に第1被覆部材及び第2被覆部材で構成される被覆部を設けた。また、比較例3は、保護膜の周囲に、第1被覆部材と、第2被覆部材と、第1被覆部材及び第2被覆部材に挟まれる強化被覆層とを設けた。
【0070】
第1被覆部材、第2被覆部材、及び、強化被覆層については、表3に示す条件とした。尚、光ファイバの被覆の単位歪みに必要な力F2の理論値は、保護膜、第1被覆部材、第2被覆部材、及び、強化被覆層の夫々の単位歪みに必要な力の和から算出される値となる。
【0071】
【表3】

【0072】
(実施例1〜9と比較例1〜3の測定結果)
上記のようにして、歪センシング感度及び耐曲げ性について測定した結果を表4に示す。尚、歪センシング感度欄の“○”は、ノギスにより実測した測定対象物2(アスファルト混合物供試体)の歪みと、歪検出用光ファイバコード1を用いた歪検出システムによる計測歪みが、ほぼ比例定数1の比例関係にあり良好であることを示す。“×”は歪検出用光ファイバコード1を用いた歪検出システムによって歪みを計測できない、または、これら2種類の歪計測値間に比例関係がない、等の問題があることを示している。また、耐曲げ性欄の“○”は歪検出用光ファイバを180度曲折しても5秒以内に光ファイバが折れなかったことを示し、“×”は歪検出用光ファイバを180度曲折した結果、5秒以内に光ファイバが折れたことを示している。
【0073】
また、総合評価欄の“◎”は全ての温度において歪センシング感度(ノギスにより実測したアスファルト混合物供試体2の歪みと、歪検出用光ファイバコード1を用いた歪検出システムによる計測歪み間の比例定数)が一定で、かつ、耐曲げ性が良いことを示し、“○”は全ての温度において歪センシング感度が一定だが、耐曲げ性が劣っていたことを示し、“×”は一部の温度において歪みを計測できなかった、もしくは歪センシング感度が低下したことを示している。
【0074】
【表4】

【0075】
上記の測定結果によれば、F1/F2が0.05〜18.0の範囲外である比較例1〜3は、アスファルトが40℃での歪センシング感度が悪いことが判明した。即ち、アスファルトは高温になる程軟化して40℃ではコンクリート等に比較して相当に小さい0.9MPaとなるが、F1/F2が0.05〜18.0の範囲内となるように被覆部11を設定した場合は安定した歪センシング感度を得られることが明らかになった。なお、最も好ましいF1/F2の範囲(1.0≦F1/F2≦3.0)内に構成された実施例8について、アスファルトが60℃である条件で同様の測定を行ったところ、アスファルトが40℃の時と同様の良好な歪センシング感度が得られた。
【0076】
また、比較例1及び実施例4では、歪検出用光ファイバコードの外径が3mmより小さい2.5mmであり、歪検出用光ファイバコードを180度曲折することで光ファイバが破断した。即ち、光ファイバが一般的な外径0.125mmのものを使用する場合、歪検出用光ファイバコードの外径が少なくとも3mm以上となるように被覆部を設定することが好ましいことが明らかになった。
【符号の説明】
【0077】
1・201・301 歪検出用光ファイバコード
2 測定対象物
3 歪検出装置
10 光ファイバ
11 被覆部
11a 第1被覆部材
11b 第2被覆部材
12 保護膜
13 光ファイバ素線
14 光ファイバの被覆
15 被覆層
16 光ファイバ心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の歪みを検出する歪検出センサとして用いられる歪検出用光ファイバコードであって、
光ファイバと、
前記光ファイバを有する光ファイバ素線または光ファイバ心線の周囲を被覆し、前記光ファイバの引張弾性係数よりも小さな引張弾性係数の被覆部と
を有することを特徴とする歪検出用光ファイバコード。
【請求項2】
前記光ファイバの縦断面積S1と引張弾性係数E1とを乗算した第1乗算値F1と、少なくとも前記被覆部を含む光ファイバの被覆の縦断面積S2と引張弾性係数E2とを乗算した第2乗算値F2との関係について、F1/F2=0.05〜18.0の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の歪検出用光ファイバ。
【請求項3】
前記被覆部は、異なる引張弾性係数を有した複数の被覆部材により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歪検出用光ファイバ。
【請求項4】
前記複数の被覆部材は、前記光ファイバ側から外周側にかけて、前記引張弾性係数が小さくなる材料によりそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項3に記載の歪検出用光ファイバ。
【請求項5】
前記被覆部は、前記歪検出用光ファイバが180度で曲折されたときに、前記光ファイバが折れない厚みに設定されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の歪検出用光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−229992(P2012−229992A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98479(P2011−98479)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】