説明

歪検出装置

【課題】本発明は、過大な荷重が加わった場合における起歪体からの絶縁層の剥離を確実に防止することができ、これにより、出力信号を安定化させることができる歪検出装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】この目的を達成するために、本発明の歪検出装置は、起歪体11の外表面に設けられた穴13を球形状に構成するとともに、この球形状の穴13における前記起歪体11の外表面の近傍部分に幅狭部13aを設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に荷重が加わることによって発生する歪を検出する歪検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の歪検出装置は、図10、図11に示すように構成されていた。
【0003】
図10は従来の歪検出装置の上面図、図11は同歪検出装置の側断面図である。
【0004】
図10、図11において、1は板状のフェライト系ステンレスからなる起歪体で、この起歪体1は上面から下面にわたって3つの孔2を設けている。3はガラスからなる絶縁層で、この絶縁層3は前記起歪体1の上面に設けている。4はAgからなる回路パターンで、この回路パターン4は前記絶縁層3の上面に設けられている。5は4つの歪抵抗素子で、この歪抵抗素子5は前記絶縁層3の上面に前記回路パターン4と電気的に接続されるように設けられている。また、前記歪抵抗素子5は、Agからなる電源電極6、出力電極7およびGND電極8を回路パターン4によって電気的に接続することによりブリッジ回路を構成している。9は保護層で、この保護層9は前記起歪体1の上面に設けた絶縁層3、回路パターン4および歪抵抗素子5を覆うように設けられている。
【0005】
以上のように構成された従来の歪検出装置について、次にその動作を説明する。
【0006】
歪検出装置における起歪体1の外側に設けた一対の孔2を固定した状態で、内側の孔2に上方から下方に向かって荷重が加わると、4つの歪抵抗素子5の抵抗値が変化する。そしてこの4つの歪抵抗素子5の抵抗値の変化をブリッジ回路の出力として検出することにより、歪検出装置に加わる荷重を検出するものである。
【0007】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2000−180255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の構成においては、歪検出装置に過大な荷重が加わった場合、起歪体1が大きく撓むため、起歪体1と絶縁層3との境界面が剥離することになり、そしてこの剥離により、荷重によって起歪体1に発生する歪が歪抵抗素子5に伝わらなくなって、歪検出装置からの出力信号が不安定になってしまうという課題を有していた。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、過大な荷重が加わった場合における起歪体からの絶縁層の剥離を確実に防止することができ、これにより、出力信号を安定化させることができる歪検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
【0011】
本発明の請求項1に記載の発明は、外表面に複数の穴を有する金属製の起歪体と、この起歪体の外表面から穴の内側にわたって設けられたガラスからなる絶縁層と、この絶縁層の外表面に設けられた少なくとも2つの歪抵抗素子と、前記絶縁層の外表面に設けられた電極と、前記絶縁層の外表面に設けられるとともに前記歪抵抗素子および電極と電気的に接続されることによりブリッジ回路を構成する回路パターンとを有し、前記起歪体の外表面に設けられた穴を球形状に構成するとともに、この球形状の穴における前記起歪体の外表面の近傍部分に幅狭部を設けたもので、この構成によれば、起歪体の外表面に設けられた穴を球形状に構成するとともに、この球形状の穴における前記起歪体の外表面の近傍部分に幅狭部を設けているため、歪検出装置に過大な荷重が加わって起歪体が大きく撓み、そして起歪体から絶縁層が剥離しそうになったとしても、穴に入り込んだガラスからなる球形状の絶縁層が幅狭部に引っ掛かることになり、これにより、起歪体からの絶縁層の剥離を確実に防止することができるため、歪検出装置からの出力信号を安定化させることができるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明の歪検出装置は、外表面に複数の穴を有する金属製の起歪体と、この起歪体の外表面から穴の内側にわたって設けられたガラスからなる絶縁層と、この絶縁層の外表面に設けられた少なくとも2つの歪抵抗素子と、前記絶縁層の外表面に設けられた電極と、前記絶縁層の外表面に設けられるとともに前記歪抵抗素子および電極と電気的に接続されることによりブリッジ回路を構成する回路パターンとを有し、前記起歪体の外表面に設けられた穴を球形状に構成するとともに、この球形状の穴における前記起歪体の外表面の近傍部分に幅狭部を設けているため、歪検出装置に過大な荷重が加わって起歪体が大きく撓み、そして起歪体から絶縁層が剥離しそうになったとしても、穴に入りこんだガラスからなる球形状の絶縁層が幅狭部に引っ掛かることになり、これにより、起歪体からの絶縁層の剥離を確実に防止することができるため、歪検出装置からの出力信号を安定化させることができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態における歪検出装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施の形態における歪検出装置の斜視図、図2は同歪検出装置における起歪体の側断面図、図3は同歪検出装置の側断面図、図4は同歪検出装置の上面図、図5は同歪検出装置の下面図、図6は同歪検出装置における起歪体を展開した状態を示す展開図である。
【0015】
図1〜図6において、11はフェライト系ステンレスにより円筒形状に構成された起歪体で、この起歪体11は水平方向に設置されるとともに、図3に示すように両端に開口部12を設けている。また、前記起歪体11の外表面には、外表面から中に入るに従い径が大きくなる直径約20μmの球形状の穴13が複数設けられており、そしてこれらの穴13における起歪体11の外表面の近傍部分に約10μmの幅狭部13aを設けている。14はPbO、SiO2、B23およびAl23の混合物のガラスからなる絶縁層で、この絶縁層14は、前記起歪体11の外表面に設けられるとともに、前記起歪体11における穴13にも充填されているものである。
【0016】
そして、この絶縁層14の外側面には、図1に示すように上側歪抵抗素子15を設けている。また、この絶縁層14は下側にも図1に示すように下側歪抵抗素子16を設けており、そして銀からなる電源電極17、出力電極18およびGND電極19を回路パターン20によって電気的に接続することによりハーフブリッジ回路を構成している。21はSUS430により構成された第1の取付部材で、この第1の取付部材21は前記起歪体11の一端側の開口部12を閉塞するとともに、外側面にネジ部22を設けている。23は第1の取付部材21と同様にSUS430により構成された第2の取付部材で、この第2の取付部材23は前記起歪体11の他端側の開口部12を閉塞するとともに、外側面にネジ部22を設けている。
【0017】
以上のように構成された本発明の一実施の形態における歪検出装置について、次にその組立方法について説明する。
【0018】
まず、起歪体11の一端側に第1の取付部材21を当接させた後、溶接により起歪体11の一端側開口部12に第1の取付部材21を固着する。
【0019】
次に、起歪体11の他端側に第2の取付部材23を当接させた後、溶接により起歪体11の他端側開口部12に第2の取付部材23を固着する。
【0020】
次に、起歪体11の外表面をアルカリ脱脂剤で洗浄する。
【0021】
次に、図7、図8に示すように、電解槽24の内側に、純水にFeCl3を混合して作成した濃度4%のFeCl3水溶液25を満たした後、電解槽24の内底面に負電極26を設置し、さらに、定電流源27により、電解槽24の上方に設けられた一対の正電極28に3mA/mm2の定電流を約10秒流すことにより、起歪体11からステンレス成分のうちの+イオン成分を析出させて、起歪体11の外表面に穴13を形成する。
【0022】
この時、第1の取付部材21および第2の取付部材23を正電極28に当接させながら転がすことにより、起歪体11の外側面の全体にわたってFeCl3水溶液25を接触させ、複数の穴13を形成する。
【0023】
次に、HCl水溶液により、起歪体11の外表面を洗浄した後、この起歪体11における外表面のHClをNaOHで中和させることにより除去する。
【0024】
次に、起歪体11の上面にガラスペースト(図示せず)を印刷した後、約130℃で10分間乾燥する。
【0025】
次に、約550℃で約10分間焼成することにより、起歪体11の外表面および穴13における内側に絶縁層14を形成する。
【0026】
次に、前記起歪体11における絶縁層14の外表面に位置して銀のペースト(図示せず)を印刷した後、約130℃で約10分間乾燥する。
【0027】
次に、約550℃で約10分間焼成することにより、前記起歪体11の外表面に電源電極17、出力電極18、GND電極19および回路パターン20を形成する。
【0028】
次に、前記起歪体11の上面における上側歪抵抗素子15を設ける位置と、起歪体11の下面における下側歪抵抗素子16を設ける位置にメタルグレーズ系ペースト(図示せず)を印刷した後、約130℃で約10分間乾燥し、その後、前記起歪体11を約550℃で約10分間焼成することにより、起歪体11に引張応力が発生する上側歪抵抗素子15と、圧縮応力が発生する下側歪抵抗素子16を形成する。
【0029】
以上のようにして構成され、かつ組み立てられた本発明の一実施の形態における歪検出装置について、次に、その動作を説明する。
【0030】
まず、本発明の一実施の形態における歪検出装置が水平方向になるように、第1の取付部材21を第1の相手側取付部材(図示せず)に取り付けるとともに、第2の取付部材23を第2の相手側取付部材(図示せず)に取り付ける。
【0031】
そして、この状態において、第1の相手側取付部材(図示せず)に、上方より荷重が加えられると、上側歪抵抗素子15に引張応力が発生するとともに、下側歪抵抗素子16に圧縮応力が発生する。このようにして、上側歪抵抗素子15および下側歪抵抗素子16に歪が発生すると、この上側歪抵抗素子15および下側歪抵抗素子16の抵抗値が変化するため、この抵抗値の変化を出力電極18から出力信号として外部のコンピュータ(図示せず)に出力し、起歪体11に加わる荷重を測定するものである。
【0032】
ここで、歪検出装置に過大な荷重が加えられた場合を考えてみると、本発明の一実施の形態における歪検出装置においては、起歪体11に設けられた穴13を球形状に構成するとともに、この球形状の穴13における前記起歪体11の外表面の近傍部分に幅狭部13aを設けているため、この歪検出装置に過大な荷重が加えられて起歪体11が大きく撓み、そして起歪体11から絶縁層14が剥離しそうになったとしても、穴13に入りこんだガラスからなる球形状の絶縁層14が幅狭部13aに引っ掛かることになり、これにより、起歪体11からの絶縁層14の剥離を確実に防止することができるものである。
【0033】
次に、起歪体11に穴13が有る場合と、無い場合とで、起歪体11と絶縁層14との剥離強度を測定してみた。図9に示すように、起歪体11の上面に設けた4mm角の絶縁層14の上面に同形状の回路パターン20を設け、そしてこの回路パターン20に銅線29を半田30によって接続し、この接続状態において、起歪体11を固定し、そして銅線29を上方に向って引き上げることにより、起歪体11と絶縁層14との剥離強度を測定した。その測定結果は、(表1)に示すように、起歪体11に穴13を設けた方が設けない場合に比較して、剥離強度が約2倍大きくなった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る歪検出装置は、出力信号を安定化させることができるという効果を有するものであり、特に自動車のシート重量を検出する用途に適用して有用となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態における歪検出装置の斜視図
【図2】同歪検出装置における起歪体の側断面図
【図3】同歪検出装置の側断面図
【図4】同歪検出装置の上面図
【図5】同歪検出装置の下面図
【図6】同歪検出装置における起歪体を展開した状態を示す展開図
【図7】同歪検出装置を電解槽に設置して起歪体に穴を形成する状態を示す斜視図
【図8】同歪検出装置を電解槽に設置して起歪体に穴を形成する状態を示す側断面図
【図9】起歪体と絶縁層との剥離強度を測定する状態を示す側面図
【図10】従来の歪検出装置の上面図
【図11】同歪検出装置における起歪体の側断面図
【符号の説明】
【0037】
11 起歪体
13 穴
13a 幅狭部
14 絶縁層
15 上側歪抵抗素子
16 下側歪抵抗素子
17 電源電極
18 出力電極
19 GND電極
20 回路パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に複数の穴を有する金属製の起歪体と、この起歪体の外表面から穴の内側にわたって設けられたガラスからなる絶縁層と、この絶縁層の外表面に設けられた少なくとも2つの歪抵抗素子と、前記絶縁層の外表面に設けられた電極と、前記絶縁層の外表面に設けられるとともに前記歪抵抗素子および電極と電気的に接続されることによりブリッジ回路を構成する回路パターンとを有し、前記起歪体の外表面に設けられた穴を球形状に構成するとともに、この球形状の穴における前記起歪体の外表面の近傍部分に幅狭部を設けた歪検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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