説明

歯の美白方法

【課題】優れた美白効果を有する歯の美白手段の提供。
【解決手段】歯の表面を、モノフルオロリン酸又はその塩とpH4〜5.5で緩衝作用を有する酸とで同時又は交互に処理することを特徴とする歯の美白方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の美白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯を白くする手段としては、物理的研磨、酸化剤による化学的漂白、美白作用を有する成分の配合等が行なわれている。このうち、物理的研磨及び化学的漂白は、歯科医師又は歯科衛生士により行なわれるため、日常的に家庭でできるものではなく、場合によっては歯に対する影響も大きい。一方、美白作用を有する成分を配合した口腔用組成物としては、ポリエチレングリコールやフィチン酸を配合した歯磨剤(特許文献1、2)、アスコルビン酸またはその塩を配合した美白用貼付材(特許文献3)、水溶性ポリリン酸塩を配合した歯磨剤(特許文献4〜6)等が知られている。
【特許文献1】特開昭56−18911号公報
【特許文献2】特開昭56−18913号公報
【特許文献3】特開平10−17448号公報
【特許文献4】特開平9−175966号公報
【特許文献5】特開平10−182389号公報
【特許文献6】特開平9−175966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これら美白作用を有する成分を配合した歯磨剤や、美白用貼付材等の使用による美白効果は十分でなく、また耐酸性等歯の質を強くする効果も低く、より優れた美白効果を有する歯の美白手段が望まれていた。
従って、本発明の課題は優れた美白効果と歯質強化効果を有する新たな歯の美白手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、歯の再石灰促進効果や歯へのフッ素取り込み効果等について種々検討してきたところ、モノフルオロリン酸又はその塩は、単独での歯へのフッ素取り込み効果はあまり強くないものの、これをpH4〜5.5で緩衝能を有する酸とともに、又は交互に歯の表面を処理すると、全く意外にも、歯を内部から白くする効果に優れていること、更に歯の質を強くする効果をも付与できることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、歯の表面を、モノフルオロリン酸又はその塩とpH4〜5.5で緩衝作用を有する酸とで同時又は交互に処理することを特徴とする歯の美白方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明方法によれば、歯が内面から白くなり、歯の表面のつやを失わずに歯質本来の透明感のある美しい白い歯になり、かつ歯質も強化され虫歯になりにくい歯を得ることができる。また、本発明方法は、家庭でも実施が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の歯の美白方法は、モノフルオロリン酸又はその塩(以下、MFP等とする)と、pH4〜5.5の領域で緩衝作用を有する酸とで、同時に又は交互に処理することにより行なわれる。ここで、「同時に処理する」場合には、MFP等を含有するpH4〜5.5の組成物で処理するのが好ましい。一方、「交互に処理する」場合には、MFP等を含有する組成物と、pH4〜5.5の領域で緩衝作用を有する酸を含有する組成物とを、順番に使用することで処理するのが好ましい。なお、MFP等を含有するpH6以上の組成物では、かかる効果は得られない。またpH4未満の組成物を用いた場合は、酸による歯の溶解が優先され、むし歯の進行を誘発する環境になりやすい傾向があり、歯の白さを得るものの歯質のツヤを損なう傾向がある。
【0008】
モノフルオロリン酸の塩としては、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸マグネシウム、モノフルオロリン酸カルシウム等が挙げられるが、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸カルシウムが特に好ましい。
【0009】
pH4〜5.5の領域で緩衝作用が得られる酸としては、pKaが2.5−6である有機酸が好ましく、特にpKaが3−5.5であるものが好ましい。例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸等の一塩基酸;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等の二塩基酸;グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸等のヒドロキシカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;レブリン酸等のケト酸;安息香酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。このうち、乳酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸及びアジピン酸から選ばれる1種以上が好ましく、カルシウム源として作用する点から乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸が特に好ましい。
また、リン酸は歯の構成成分であり、リン酸およびその塩を加えることにより美白効果の制御が容易になるので、前述の酸と併用することが好ましい。リン酸の塩としては、ナトリウム、カリウム塩が好ましい。また、リン酸のほか、グリセロリン酸やグルコース−1−リン酸及びその塩も使用できる。
【0010】
本発明の美白方法において、「同時に処理する」ために使用する組成物は、MFP等と前記のpKa2.5−6の酸とを配合し、その組成物のpHが4〜5.5である組成物が好ましい。
【0011】
組成物中のMFP等の含有量は、美白効果及び歯質の強化の点から、0.01〜20質量%、さらに0.1〜5質量%、特に0.3〜1質量%が好ましい。また組成物中のpKa2.5−6の酸の含有量は、美白効果の点から、0.1〜30質量%、さらに0.2から10質量%、特に0.5〜5質量%が好ましい。
【0012】
本発明の組成物には、本発明の効果、すなわちMFP等による美白効果および歯質の強化に影響しない範囲で、フッ化ナトリウム等のフッ素供給化合物(MFP等以外)を含むことができる。フッ素供給化合物の配合量は、MFP等の歯への浸透を阻害しない観点から、MFP等に対しモル比で1/2以下であることが好ましい。フッ素供給化合物の配合量は、具体的には、同時に処理するため(MFP等と酸が共存)の組成物や、交互に処理する場合のMFP等を含む組成物では、MFP等に対しモル比で1/2以下であることが好ましく、また交互に処理する場合の酸を含む組成物では0.025mol/l以下であることが好ましい。フッ素供給化合物がフッ化ナトリウム等の特にフッ化カルシウム層を形成しやすい化合物である場合、MFP等の浸透とフッ化カルシウム層の形成との関係から、MFP等と一緒にフッ素供給化合物を配合しないことが好ましい。本発明においては、MFP等を含む組成物には、一緒にフッ素供給化合物の配合量しないことが好ましい。
【0013】
また、前記各組成物には、他の美白成分、カルシウム源、湿潤剤、粘結剤、糖アルコール、香味剤、甘味剤、保存剤、殺菌剤、界面活性剤、水等を配合することができる。ここで他の美白成分としては、アスコルビン酸又はその塩、水溶性ポリリン酸、ポリエチレングリコール等が挙げられる。カルシウム源としては、塩酸、硝酸、硫酸等のカルシウム塩が含まれ、特に本発明の緩衝作用が得られる酸の使用下で併用することが好ましい。
【0014】
湿潤剤としては、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、マルチトール、ラクチトールなどが挙げられ、その1種又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0015】
粘結剤としては、例えば、カラギーナン、ペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルカリ金属アルギネート、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン等の合成粘結剤などから選ばれる水溶性高分子や、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル等の無機粘結剤が挙げられる。これらの粘結剤は、単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0016】
糖アルコールとしては、湿潤剤として記載した成分の他、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0017】
香味剤としては、l−メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、ペパーミント油、スペアミント油、オシメン、n−アミルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、サリチル酸メチル、メチルアセテート、シトロネオールアセテート、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、シソ油、丁子油、ユーカリ油、ハッカ油、アニス油、冬緑油等が挙げられる。
【0018】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、デキストロース、アセスルファーム等が挙げられる。
【0019】
本発明方法において、歯の表面の処理手段には、前記各組成物を歯の表面に塗布する手段が挙げられる。また、優れた歯の美白効果を得る観点から、MFP等と前記の酸とは、歯の表面上に5秒〜10時間、さらに30秒〜5時間存在せしめるのが好ましい。
ここで、MFP等は歯の表面に付着した場合、水で洗口しても歯の表面に存在するので5秒〜30分の処理でよいが、前記の酸は水で洗口すると歯の表面から流出しやすいので、10分〜10時間、さらに30分〜5時間存在させるのが好ましい。このような時間歯の表面にこれらの成分を留めておくためには、前記各組成物の粘度を500〜10000dPa・s、さらに1000〜5000dPa・sとするのが好ましい。また、粘度が100dPa・s以下の場合は、脱脂綿、不織布、スポンジなどの吸水性のものに染み込ませて歯の表面に作用させることができる。
【0020】
歯の表面に前記各組成物を塗布する手段としては、組成物を綿球、指、はけなどで塗布する方法の他、歯に適用するためのトレー(歯型のトレー)に前記各組成物を入れ、該トレーを歯に装着する手段等が挙げられる。
【0021】
また、MFP等と前記の酸とで交互に処理する場合、MFP等による処理を10秒〜30分行い、次いで酸による処理を10分〜10時間、特に30分〜5時間行うのが好ましい。
【0022】
また、前記各組成物の塗布量は、1回あたり0.5〜20gが好ましい。さらに、本発明による処理は、1日1回、2〜30日間継続するのが好ましい。
【実施例】
【0023】
実施例1、比較例1
普通にハミガキを行い、歯に付着した汚れや歯垢を取り除く。その後、表1記載のジェル状組成物1を歯に適応するためのトレー(図1)に加え、空気が入らないように歯に装着し(図2)、2時間保持する。トレーを取り外し、歯の表面に残ったジェルを洗口により取り除く。これを1回/1日、10日間行い、試験前後の歯の表面を観察する。比較例として、表1の処方においてpHを6.0に調整した比較のジェル状組成物1(pH6)を用いて、同様の処理を行う。
ジェル状組成物1にて処理した歯の表面は、歯が白く、透明感が高く、内部から白くなっていた。一方、比較のジェル状組成物1(pH6)で処理した歯の表面はには十分な歯の美白効果は得られない。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2、比較例2
ジェル状組成物2−1(表2)を1g以上歯ブラシに取り、2分間前歯を中心にまんべんなく塗布する。軽く水で洗口した後、図1のトレーにジェル状組成物2−2(表3)を入れ空気が入らないように歯に装着し、2時間保持する。トレーを取り外し、歯の表面に残ったジェルを洗口により取り除く。これを1回/1日、10日間行、試験前後の歯の表面を観察する。比較例として、ジェル状組成物2−1の後に、表3の処方でpH7.0に調整した比較のジェル状組成物2−2(pH7)を用いて同様の処理を行う。
ジェル状組成物2−2を用いて処理をした歯の表面は、歯が白く、透明感が高く、内部から白くなった。一方、比較のジェル状組成物2−2(pH7)を用いて同様の処理を行っても十分な歯の美白効果は得られない。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

実施例3
歯質強化作用を確認するため、歯質の溶解性(耐酸性)を測定した。
牛の歯各6本を用意し、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2と同様の処理を行った。処理を行っていない時間は、進行唾液(サリベート、帝人製)に浸漬した。その後、未処理の対照群を加えた5種類のサンプルについて、pH4.5の0.1M乳酸緩衝液に2日間浸漬した。試験後の歯を400ミクロンの切片に加工し、レントゲン撮影を行った。写真より定法により歯のミネラル溶出量(Z(vol%*μm))を算出し、未処理品との差ポリオキシエチレンC14−C18アルキルリン酸エステルZ(vol%*μm)を得た。ΔZは値の小さいほど歯の溶出が抑制され、歯質が強化されていると判断できる。ΔZは次の文献に準じて求めた。
(Angmar B, Carlstrom D, Glas JE: Studies on the ultrastructure of dental enamel. IV The mineralization of normal human enamel. J Ultrastructure Res 8:12-33, 1963、Gelhard TB, Arends J: Microradiography of in vivo remineralized lesions in human enamel. II.J Biol Buccale. 12(1): 59-65, 1984)。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
表4から明らかなように、本発明方法により処理した歯は歯からのミネラル溶出量が抑制されており、歯質が顕著に強化されていた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】歯装着用トレーの一例を示す図である。
【図2】トレーを歯に装着した状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の表面を、モノフルオロリン酸又はその塩とpH4〜5.5で緩衝作用を有する酸とで同時又は交互に処理することを特徴とする歯の美白方法。
【請求項2】
歯の表面を、モノフルオロリン酸又はその塩とpKa2.5−6の酸とを含有するpH4〜5.5の組成物で処理するものである請求項1記載の美白方法。
【請求項3】
歯の表面を、モノフルオロリン酸又はその塩を含有する組成物と、pKa2.5−6の酸を含有するpH4〜5.5の組成物で交互に処理するものである請求項1記載の歯の美白方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37802(P2008−37802A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214702(P2006−214702)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】