歯ブラシ
毛束を高密度植毛した平線植毛式の歯ブラシでありながら、植毛時にヘッド部に亀裂や白化、反り、平線抜けなどの植毛不良の発生がなく、しかも、しなやかで当たり心地がよく、細かな隙間への進入性にも優れた高品質な歯ブラシを提供する。複数本の刷毛(6)を束ねた毛束(5)を、平線(4)を用いてヘッド部(1)の植毛面(2)の植毛穴(3)に2つ折りにして植毛した歯ブラシにおいて、平線(4)の厚さ(t)を0.10mm以上、0.22mm未満、かつ、幅(h)を0.9mm以上、2.5mm以下とし、植毛された毛束(5)の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛(6)の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した平線植毛式の歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯ブラシは、生産効率や植毛のしやすさを考慮して、歯ブラシヘッド部の植毛面に1.0mm以上の間隔で形成された植毛穴に、1穴当たり16〜60本、折り返しで32〜120本、刷毛断面の総和が1.0mm2以上となるように刷毛を束ねた太い毛束を、平線により打ち込むことで固定している。このような歯ブラシの場合、毛束が太くて剛性が高くなるため、特に平滑面や咬合面の歯垢除去力が高いという特徴があった。
【0003】
しかし、毛束が太いために毛束を構成する刷毛同士が支えあってしまい、刷毛単体が持つ本来のしなやかな動きが発揮できず、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部とされる狭い部位に毛先が届き難いばかりでなく、毛束が太くて硬くなりがちで、歯肉などの軟組織に対しては刺激が大きいという問題があった。
【0004】
また、これまでヘッド部やハンドル部に関しては形状、材質、色などを工夫することにより製品間の差別化を図っていたが、植毛部に関しては毛束の太さや間隔はどれも類似の仕様であり、外観差別性が低く、歯ブラシとしての新奇性に乏しかった。
【0005】
平線植毛式の歯ブラシにおける平線は、植毛穴の直径よりも僅かに長い寸法とされており、植毛穴に打ち込んだときにその両端部分が穴周辺のヘッド部樹脂に食い込むことにより、毛束を2つ折りにして植毛穴内に固定するものである。これによって、毛束は植毛穴から抜け出すことなくヘッド部植毛面に固定される。通常、平線は、長さが1.9mm〜2.3mm、上下幅すなわち打ち込み深さ方向の幅が1.3〜2.0mm、厚さが0.25mm程度であり、材質としては真鍮が一般的である。
【0006】
平線植毛による歯ブラシの場合、薄壁植毛穴のように隣り合う毛束の間隔が狭くなって平線が密集したり、平線の打ち込み方向が揃っていて平線が一直線上に並んだりすると、隣接する平線間のヘッド部樹脂に亀裂や白化が生じたり、平線打ち込み時の応力変形によるヘッド部の反りなどを生じ、歯ブラシとしての外観を損ねるおそれがある。また、植毛時にヘッド部にひびが入ったり、割れたりした場合には、製品の歩留まりの低下を招き、生産効率上も好ましくない。また、長期使用時の素材の疲労によるヘッド部の折損などの問題を生じるおそれがあり、ブラッシング中に歯ブラシが折れた場合には、手指や口腔内を傷つけるおそれがあり危険である。
【0007】
これらを防止するため、ヘッド部の厚さに対する植毛穴底面からヘッド部下面までの長さの割合を規定したもの(特許文献1:特開平8−19423号公報参照)、平線の打ち込み角度を工夫したもの(特許文献2:特開2001−314231号公報参照)、平線植毛による毛束と接着植毛による毛束を交互に配列したもの(特許文献3:特開2002−360343号公報参照)、平線の最も近接する部分の植毛面に隆起部を形成したもの(特許文献4:特開平10−257922号公報参照)などが提案されている。
【0008】
一方、歯周疾患およびう蝕の2大歯科疾患予防のためには歯垢除去が重要であり、口腔内の隅々まで磨くことができ、口腔疾患好発部位の歯垢除去効果に優れ、歯牙を損傷することなしに当り心地よくブラッシングできる歯ブラシが強く望まれている。
【0009】
一般に、平線植毛式の歯ブラシにおいて植毛される毛束数が少ないと、毛束間隔が広がり、歯垢除去が充分に行なえず、逆に毛束数が多いと、毛束間隔が狭まり、毛束の柔軟な動きが阻害されて歯間への進入性が急激に低下する。また、毛束が太い場合には毛束の剛性が高くなりすぎ、歯間部や細かな隙間へ入り込みにくくなるばかりでなく、歯牙や歯肉への為害性も高くなる。逆に毛束を細くすると毛腰強度が弱くなって刷掃実感が低下し、う蝕好発部位での歯垢除去機能が低下するばかりでなく、歯ブラシとしての耐久性も低下する。したがって、従来においては直径約1.6〜2.0mm程度の太さからなる毛束を単位植毛面積当たりの毛束数20束/cm2前後で植毛していた。
【0010】
そこで、当り心地がよく、口腔内の隅々まで丁寧に磨くための歯ブラシとして、刷毛本数の少ない細い毛束を植毛した歯ブラシ(特許文献5:特表平11−500946号公報、特許文献6:特開2000−342334号公報参照)や、歯ブラシ長手方向の毛束の径を短くして、毛束による刷掃力を適度に調節した歯ブラシ(特許文献7:登録実用新案第2549935号公報、特許文献8:特開平10−327930号公報、特許文献9:特開平10−327931号公報参照)などが提案されている。
【0011】
近年は電動歯ブラシに見られるように1.0mmφ程度の小さな植毛穴を有する歯ブラシも知られている。電動歯ブラシは、植毛台が小さいため、毛束の径を小さくしてできる限り多数の用毛を植毛する仕様が検討されている(特許文献10:特表平11−508168号公報参照)。
【0012】
また、近年の口腔衛生意識の向上に伴い、奥歯など口腔内の隅々まで磨けることが望まれる傾向が強く、そのためにポリアセタールを用いてヘッドの薄肉化を図った歯ブラシ(特許文献11:特開平7−143914号公報参照)なども提案されている。
【特許文献1】特開平8−19423号公報(全頁、全図)
【特許文献2】特開2001−314231号公報(全頁、全図)
【特許文献3】特開2002−360343号公報(全頁、全図)
【特許文献4】特開平10−257922号公報(全頁、全図)
【特許文献5】特表平11−500946号公報(全頁、全図)
【特許文献6】特開2000−342334号公報(全頁、全図)
【特許文献7】登録実用新案第2549935号公報(全頁、全図)
【特許文献8】特開平10−327930号公報(全頁、全図)
【特許文献9】特開平10−327931号公報(全頁、全図)
【特許文献10】特表平11−508168号公報(全頁、全図)
【特許文献11】特開平7−143914号公報(全頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の歯ブラシは、毛束が太く、咬合面の歯垢除去力が高いものの、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達は必ずしも十分ではなかった。そこで、細い毛束を高密度で植設することによりこれらの問題を解決する試みが行なわれたが、最適な毛束の太さや間隔に関する知見はほとんど知られていない。
【0014】
また、毛束を高密度で植設することで平線の間隔が狭くなり、ヘッド部に亀裂や白化、反りなどが発生するという課題が残されていた。一方、亀裂や白化の発生を防ぐことを目的として平線を短くした場合は、毛束強度や一本毛抜け強度が低下してしまうなどの課題が発生した。
【0015】
前述したように、亀裂や白化の発生、ヘッド部の反りなどを防止するために、種々の歯ブラシが提案されているが、ヘッド部形状、植毛穴形状、平線角度などに制約が生じ、必ずしも目的とする歯ブラシに応用できるものではなかった。
【0016】
亀裂や白化の解決方法としては、毛束間の間隔を広げたり、樹脂の種類を変更するなどの方法もあるが、毛束間隔を広げると歯ブラシとしての十分な機能が得られず、樹脂の変更もヘッド部の耐薬品性やコストを考慮した場合、賢明な選択肢とは成り得なかった。
【0017】
一方、歯ブラシの基本的性能として、口腔内の隅々まで磨くことができ、しかも歯牙の損傷や歯肉への為害性がなく、当り心地のよい歯ブラシの実現への強い要請があり、これを実現するために、小本数の刷毛からなる毛束を高密度で植毛する方法や、ヘッド部の厚さを薄くする方法などが採られているものの、植毛時に隣接する平線の間のヘッド部樹脂に亀裂や白化が生じたり、ヘッド部が反ったりするなどの課題が残されていた。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、植毛時にヘッド部に亀裂や白化、反り、平線抜けなどの植毛不良の発生することのない高品質な歯ブラシを提供することを目的とするものである。
【0019】
さらに、本発明は、毛束を高密度植毛した平線植毛式の歯ブラシでありながら、植毛時にヘッド部に亀裂や白化、反り、平線抜けなどの植毛不良が発生することがなく、しかも、しなやかで歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、細かな隙間への進入性にも優れた高品質な歯ブラシを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、請求項1に係る歯ブラシは、複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した歯ブラシにおいて、前記平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたことを特徴とする。
【0021】
請求項2に係る歯ブラシは、請求項1記載の発明において、前記平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0022】
請求項3に係る歯ブラシは、請求項1または2記載の発明において、前記植毛された毛束の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたものである。
【0023】
なお、単位植毛面積当たりの毛束の数とは、ヘッド部植毛面に植毛された毛束の総数(=植毛穴の総数)を植毛面積(cm2)で割った値である。また、植毛面積とは、JIS S3016の規定に基づくものであって、図1(a)に示されるように、ヘッド部1の植毛面2の外周に並ぶ植毛穴3の外側を直線で結んだ部分の内側の面積S(点線で囲まれた部分)である。
【0024】
請求項4に係る歯ブラシは、請求項1または2記載の発明において、前記ヘッド部が樹脂製であって、前記植毛穴の少なくとも一部について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたものである。
【0025】
本発明の歯ブラシのように平線を用いて毛束を固定する場合、平線はその打ち込み時に植毛穴近傍の樹脂を破壊してしまうため、樹脂には応力が発生する。従来、平線は厚さ0.25mm程度以上のものを用いていたが、薄壁植毛穴や単位植毛面積当たりの毛束の数が多い場合には平線が密集してしまうため、植毛穴周囲の樹脂に大きな応力が発生し、隣り合う平線の間のヘッド部樹脂に亀裂や白化を生じてしまうことがあった。また、平線が一直線上に並ぶ場合も亀裂や白化を生じることがあった。
【0026】
0.25mm程度以上の厚さの平線を用いると、ヘッド部の反りや白化、亀裂などが発生しやすい。例えば、曲げ強度が600kg/cm2以上、750kg/cm2以下の硬くて比較的曲がりにくい樹脂をヘッド部材質として用いた場合、厚さが0.25mmの平線を用いた植毛ではヘッド部に反りが生じた。そこで、本発明で採用している厚さ0.10〜0.22mmの平線を用いて植毛を行なったところ、ヘッド部の反りが低減化され、実使用上ほとんど問題がなくなった。
【0027】
一方、樹脂の曲げ強度が150kg/cm2以上、600kg/cm2以下の柔らかくて比較的曲がりやすい樹脂、例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂をヘッド部材質として用いた場合、厚さが0.25mmの平線を用いると、ヘッド部に極端に大きな反りが発生して植毛穴が正規の位置からずれてしまうため、平線を連続的に打ち込むことすら不可能であった。そこで、本発明で採用している厚さ0.10〜0.22mmの平線を用いたところ、植毛時のヘッドの反りもほとんど見られなくなり、平線の打ちこみもスムーズに行なうことができた。このように、ポリオレフィン樹脂のような曲げ強度が150kg/cm2以上、600kg/cm2以下の比較的曲がりやすい樹脂の場合には、平線の薄肉化による反りの低減化の効果が特に著しいことが判明した。なお、ここでいう曲げ強度とは、JIS K6758に基づいて測定した値である。
【0028】
また、平線厚さが0.10mm未満になるとヘッド部樹脂に対する剛性が不足し、植毛時に平線に変形が生じて植毛自体が困難になることが判明した。
【0029】
さらに、口腔内での操作性を向上させるにはヘッド部の厚さを薄くすることが望ましいが、ヘッド部の厚さが5.0mmよりも厚くなると、口腔内での操作性が低下する。ヘッド部を薄くした場合、操作性は向上するものの、毛束を支える樹脂量が少なくなり、必然的にヘッド部の強度が低下するため、通常の厚さの平線では反り、割れ、白化などが発生する場合があった。また、ヘッド部が薄すぎると植毛穴が浅くなり、植毛が困難となる。そこで、ヘッド部の厚さが2.5mm以上、5.0mm以下の場合において、種々の厚さの平線を用いて植毛実験を行なったところ、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満、好ましくは0.13mm以上0.22mm未満の厚さの平線を用いれば、反りや亀裂、白化などが発生しにくくなることが明らかとなった。
【0030】
本発明は、上述した種々の実験結果に基づき、平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満、好ましくは0.13mm以上0.22mm未満としたものである。
【0031】
平線の打ち込み深さ方向の幅については、幅を大きくするとヘッド部樹脂に対する平線の接触面積が増すため、平線の掛かり代を長くすることなく植毛強度を上げることが可能である。そのため、ヘッド部材質がポリプロピレン樹脂(PP)などの比較的柔らかくて植毛強度の低い樹脂の場合には、平線の幅をできるだけ大きくすることが植毛強度上有効である。しかし、本発明者らの実験によれば、平線の幅が2.5mmよりも大きい場合には、平線が植毛面から外部へ突出してしまったり、ヘッド部先端側から植毛面を見たときに平線が見えたりして、外観上好ましくない結果を招くことが多いことが判明した。
【0032】
一方、ヘッド部材質がポリアセタール樹脂(POM)や飽和ポリエステル樹脂(例えば酸変成ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートコポリマー(PCTA),グリコール変成ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートコポリマー(PCTG))などの比較的硬くて植毛強度の高い樹脂の場合には、平線の幅を小さくしても十分な植毛強度が得られる。そのため、平線の幅を小さくし、植毛穴の深さも浅くすれば、ヘッド部の厚さを薄くすることが可能となり、操作性も向上させることができる。しかし、平線の幅をあまりに小さくすると植毛強度が低下し、実用上問題を生じる。本発明者らの実験によれば、平線の幅が0.9mm未満では植毛強度が著しく低下することが判明した。そこで、本発明では、平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0033】
通常、平線植毛式の歯ブラシの場合、単位植毛面積当たりの毛束の数は20束/cm2前後、刷毛の断面積の総和は1.1〜2.5mm2程度であるが、本発明者らの実験によれば、単位植毛面積当たりの毛束の数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、かつ、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での刷毛断面積の総和を1.0mm2以下とすれば、歯牙や歯肉への当り心地がよく、歯間進入性や歯垢除去機能にも優れていることが判明した。
【0034】
1つの植毛穴に植毛された折り返された状態での刷毛断面積の総和は1.0mm2以下が好ましいが、より好ましくは0.10から0.70mm2の範囲である。この時、刷毛断面形状が円形の場合を例に取ると、7mil(0.178mm)用毛では1穴当たりおよそ5〜14本、折り返しで10〜28本に相当するが、これらは設計上の目安であって、この本数は設計上の歯ブラシ仕様と刷毛径、断面形状などにより任意に設定できる。
【0035】
植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での刷毛断面積の総和が1.0mm2よりも大きい場合、毛束のしなやかさが失われ、細かな隙間への毛束の到達性が悪くなり、十分な口腔内清掃を達成できなくなる。また、刷毛断面積の総和が1.0mm2以下であっても、単位植毛面積当たりの毛束の数が80束/cm2より多い場合は、毛束間の隙間が非常に狭くなり、歯間進入性が著しく劣るばかりでなく、毛束が自由に動く範囲が制限されるため、歯頚部などの細かな刷掃部位の清掃が困難となる。また、歯磨が毛束間に残留したり、使用後の乾燥性が極端に悪くなるなど、衛生上大きな問題も生じる。また、刷毛断面積の総和が1.0mm2以下であっても、単位植毛面積当たりの毛束の数が25束/cm2より少ない場合は、外観上の見栄えが非常に貧相となってしまうばかりでなく、毛腰強度が弱く、歯面の清掃が困難となり、歯ブラシとしての耐久性も低くなってしまう。
【0036】
また、平線式植毛機によって毛束を植毛する場合、平線式植毛機の補助器の中で2つ折りにされた毛束に直線状に戻ろうとする復元力が生じ、平線に対して大きな反発力を与える。本発明者らの実験によれば、直径が1.6〜2.0mm(断面積2.0〜3.1cm2)の毛束の場合、通常の0.25mm程度の厚さの平線では毛束を打ち込めるものの、本発明で採用している厚さ0.10mm以上、0.22mm未満という薄型の平線の場合、平線が毛束の復元力に耐えることができず、平線が毛束から外れたり、ずれたりするなど、植毛不良の発生率が非常に高くなる場合があった。この場合は、平線材質をステンレス鋼などの硬質の金属にすることにより、薄型平線の剛性が高まり、植毛不良の発生率などを低減できることを明らかにした。
【0037】
一方、本発明者らは、刷掃性能と薄型平線の両方を満足する毛束太さの条件を追求した結果、折り返された状態での刷毛の断面積の総和が1.0mm2以下、より好ましくは0.1mm2以上、0.7mm2以下の毛束とすることで、高密度植毛歯ブラシとしての高い刷掃性能を維持しながら植毛時における毛束の復元力にも十分に耐え得る歯ブラシとしたものである。
【0038】
また、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)は1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.25mm以上、0.75mm以下の範囲である。毛束の間隔が狭すぎると歯間に刷毛が入らず、歯間進入性が低下する。一方、間隔が広がると、外観差別性、刷掃実感が低下する。また、間隔が広がると、ブラッシング運動に伴う毛束の反発作用が強くなり、刷掃時に毛束のゴツゴツとした感触が加わり、使用感が低下するばかりでなく、刷毛1本1本の滑らかな運動が発揮されず、歯垢除去効果も低下する。
【0039】
従来の主な平線植毛歯ブラシでは、JIS規格で規定されている植毛強度を確保するために、直径1.5〜2.2mm程度の円形断面の植毛穴を用いるとともに、植毛穴の穴縁に対する平線の掛かり代として0.25mm程度を設定している。少数毛束の植毛穴を多数有する歯ブラシにおいても平線の厚さや掛かり代を増やすことにより、ある程度の植毛強度は確保できるが、亀裂や白化の原因となるため限界がある。
【0040】
そこで、本発明者らは鋭意実験・研究を進めた結果、少数毛束植毛においては、植毛強度はパッキングファクターPF=(刷毛の断面積の総和)/(植毛穴面積−植毛穴にかかっている平線の断面積)×100[%](=1穴当たりの植毛穴に対する毛束の密度)、平線の長さ、ハンドル樹脂の種類には依存せず、平線がハンドル樹脂を破壊する体積(樹脂破壊体積)と密接な関係があることを見い出した。そして、さらに検討を重ねた結果、最適な樹脂破壊体積の範囲は0.1〜0.4mm3の範囲であり、より好ましくは0.15〜0.3mm3の範囲であることが判明した。0.1mm3未満では歯ブラシとしての必須物性である植毛強度が十分に得られず、また、0.4mm3を越える場合にはヘッド部の反りやヘッド部樹脂の白化などといった課題が発生することが分かった。
【0041】
ヘッド部を含む歯ブラシハンドルの材質としては、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂(CP)、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、飽和ポリエステル樹脂(PCTA,PCTGなど)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの素材を単独または混合して用いることができる。また、熱可塑性エラストマーなどと組み合わせた多色成形ハンドルとすることも可能である。なお、ハンドル材料は上記樹脂に限定されるものではない。また、ヘッド部を含む歯ブラシハンドルの形状、大きさ、デザインも何ら制限を受けない。
【0042】
平線の材質は、強度に優れる真鍮やステンレス鋼などの金属が好ましい。そのほか、生分解性プラスチックをはじめとする硬質プラスチックなども使用可能である。平線の打ち込み方向に対して垂直となるように平線の外表面に溝をつけ、植毛強度を向上させてもよい。
【0043】
前述したように、通常の歯ブラシでは約0.25mm程度の厚さの平線を用いているが、従来、金属製の平線としてはこれよりも薄いものを製造することが技術上非常に困難であった。すなわち、平線は丸線と呼ばれる金属線をロールで圧延して製造するが、通常、太い丸線を炉で加熱しながら一段階で細い丸線まで延伸しており、薄型平線に用いる丸線は通常よりも細いために1度の工程では均一な細さにすることができなかった。
【0044】
しかしながら、近時、平線の製造技術が改良され、延伸工程を多段階に分けて徐々に延伸することにより、必要となる細さの丸線を得ることが可能となった。さらに、丸線を圧延する際、通常の大きさのロールでは丸線を挟み込む力が強すぎ、平線が波打つなどの植毛不良の原因となる不具合が生じるが、ロールの径を小さくして適度な押し付け力で圧延することにより、薄型の平線を製造することが可能となった。したがって、本発明で用いる、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満、幅0.9mm以上、2.5mm以下という薄型の平線は製造可能である。
【0045】
平線の厚さと長さは、平線によって破壊されるヘッド部樹脂の体積に直接関与するものであるから、植毛穴の形状と大きさ、穴縁に対する平線の掛かり代、平線の打ち込み深さなどとの関係に基づいて、前記樹脂破壊体積が0.1mm3以上、0.4mm3以下となるような厚さと長さに設定するのが好ましい。
【0046】
植毛穴の形状は、通常の円形や正方形などの正多角形が好ましいが、楕円形、小判形、長方形など、長径(長辺)と短径(短辺)を有する形状としてもよい。また、穴の向きを組み合わせることにより、目的とする歯間進入性、毛の当たり心地、刷掃実感に応じた仕様が可能である。また、長径(長辺)と短径(短辺)を有する植毛穴の場合、短径(短辺)がヘッド部外縁と平行に並ぶように配列すると、ヘッド部を側面から見たとき、植毛された毛束の幅の狭い短径(短辺)側が見えるようになり、同じ刷毛本数からなる円形の毛束と比較して細く見え、外観差別性も向上できる。
【0047】
植毛穴の穴配置は、格子状配置が一般的であるが、隣り合う平線同士の干渉を避けながらより高密度な穴配置を行うため、千鳥状に配列してもよい。また、場所によって平線の打ち込み方向を変えることにより、ヘッド部最外側の毛束が細く見えるようにすることもでき、外観差別性を向上させることができる。
【0048】
植毛穴の長径方向に平線を打ち込む際は、平線に沿って刷毛が並ぶために植毛強度が向上する。この際の植毛穴形状は、毛束と植毛穴との隙間を減らすために略長方形が好ましい。また、短径方向に平線を打つ際には、毛束断面に対する外接円の短径方向と植毛穴の短径方向を合致させることにより、植毛穴と毛束との間の空間を少なくすることが可能となり、毛立ちの優れた植毛部を作成することができる。この際、使用する刷毛の断面が円形の場合には、植毛穴の形状を略楕円形、略長円形とすることが好ましい。
【0049】
毛束を構成する刷毛(フィラメント)の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、ナイロン6−10,ナイロン6−12,ナイロン12などのポリアミド、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、およびポリフッ化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニルなど、溶融紡糸できる素材が利用されるが、使用感、耐久性などの点で、ナイロン、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、これらの樹脂を用いて2重芯鞘構造の刷毛とし、内側と外側で材質や面状態を異ならしめるなど、目的に応じて組み合わせることも可能である。
【0050】
刷毛の太さとしては、3〜10mil(0.076〜0.254mm)、好ましくは5〜8mil(0.125〜0.203mm)のものがよく、使用性、刷掃感、清掃効果、耐久性など考慮してこれらの範囲内で太さの異なる刷毛を組み合わせて利用することも好ましい。特に多数の植毛穴を配置した高密度仕様の場合は、外側の毛束から中央の毛束に向かって刷毛の毛腰を強くしていったり、刷毛の太さ、材質、長さ、色、断面形状などを変化させたりすることは、使用感や外観差別上からも好ましい。
【0051】
刷毛の種類としては、ラウンド用毛(毛先を丸めた刷毛)、テーパー用毛(先細にされた刷毛)、ダイヤモンド用毛(断面が菱形の刷毛)、フェザー用毛(毛先が羽毛状に分割された刷毛)、その他の異形断面用毛(断面形状が円形ではない刷毛)、グレイニー用毛(研磨剤を練り込んだ刷毛)、スパイラルキャッチ用毛(螺旋状の溝が形成された刷毛)、インジケータ用毛(外層が着色された二重芯鞘構造を有し外層の摩耗により交換時期を知らせる刷毛)など、種々の刷毛を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0052】
刷毛先端面の毛切り形状(プロファイル)としては、単一平面形状、山切り形状、凹凸形状など、任意の形状を採用することができる。さらに、ヘッド部植毛面の外側と内側、先端側と後端側で異なった毛切り形状としてもよい。
【0053】
なお、本発明にいう歯ブラシの範疇には、手動式の歯ブラシのみならず、電動式の歯ブラシも含むものである。
【発明の効果】
【0054】
請求項1に係る歯ブラシは、平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたので、平線の打ち込み時に植毛穴の周りのヘッド部樹脂に亀裂や白化を生じたり、ヘッド部に反りが生じたりするようなことがなくなる。
【0055】
請求項2に係る歯ブラシは、平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたので、厚さの薄い平線を用いながら、植毛部の外観を損なうことなく十分な植毛強度を確保することができる。
【0056】
請求項3に係る歯ブラシは、単位植毛面積当たりの毛束の数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、かつ、植毛穴1穴当たりに植毛される刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたので、しなやかで歯牙や歯肉への当り心地がよく、しかも歯間進入性や歯垢除去機能に優れた歯ブラシとなる。また、平線の厚さは0.10mm以上、0.22mm未満としているので、単位植毛面積当たりの毛束の数が25束/cm2以上、80束/cm2という高密度植毛の歯ブラシでありながら、平線の打ち込み時に植毛穴の周りに亀裂や白化を生じたり、ヘッド部に反りが生じたりするようなことがなくなり、高品質な歯ブラシを提供することができる。さらに、1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたので、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満という極めて薄い平線を用いて毛束を植毛しても、2つ折りにして打ち込まれる毛束の弾性復元力にも耐えることができ、平線が毛束から外れたり、位置ずれを起こしたりするようなことがなくなり、植毛不良の発生率を低減することができる。
【0057】
請求項4に係る歯ブラシは、少なくとも一部の植毛穴について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたので、歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達性に優れ、ヘッド部の反り、樹脂の白化や亀裂が発生することがなく、十分な植毛強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(a)〜図1(c)は、本発明に係る歯ブラシの第1の実施の形態を示すもので、図1(a)はヘッド部の略示平面図、図1(b)は毛束を打ち込む平線の略示斜視図、図1(c)は毛束を平線を用いて2つ折りにして打ち込んだ状態の模式説明図である。
【図2】図2は、本発明に係る歯ブラシの第2の実施の形態を示すもので、電動式歯ブラシのヘッド部の略示平面図である。
【図3】図3(a)〜図3(f)は、植毛穴と刷毛の断面形状の他の例をそれぞれ示す平面図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は、本発明に係る歯ブラシの第3の実施の形態を示すもので、図4(a)は毛束と平線の関係を示す略示斜視図、図4(b)はその略示平面図、図4(c)はヘッド部の植毛穴の部分拡大平面図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は本発明における樹脂破壊体積を説明するための図で、図5(a)は植毛穴に植毛された毛束と平線の略示平面図、図5(b)はその縦断面図であり、図5(c)は側断面図である。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、評価試験に用いた歯ブラシのヘッド部形状を示すもので、図6(a)はAタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図、図6(b)はBタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図、図6(c)はCタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図である。
【図7】図7(a)〜図7(c)は、ヘッド部の反りと厚さの模式説明図である。
【図8】図8は、本発明に係る歯ブラシの一実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図9】図9は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図10】図10は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図11】図11は、本発明に係る歯ブラシの別の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図12】図12は、本発明に係る歯ブラシの更に別の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図13】図13は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図14】図14は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図15】図15(a)および図15(b)は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すもので、図15(a)は植毛穴を省略した歯ブラシハンドル全体の平面図、図15(b)はヘッド部の拡大平面図である。
【図16】図16(a)および図16(b)は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すもので、図16(a)は植毛穴を省略した歯ブラシハンドル全体の平面図、図16(b)はヘッド部の拡大平面図である。
【図17】図17は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1(a)ないし図1(c)に、本発明に係る歯ブラシの第1の実施の形態を示す。この第1の実施の形態は、本発明を手動式の歯ブラシに適用した場合の例を示すもので、図1(a)はヘッド部の平面図、図1(b)は平線の拡大斜視図、図1(c)は平線を用いて毛束を2つ折りに打ち込んだ状態の模式説明図である。なお、見やすくするため、図1(a)においては植毛穴に植毛された刷毛については図示を省略した。
【0060】
図において、1は歯ブラシのヘッド部、2はヘッド部1の植毛面、3は植毛面2に形成された植毛穴、4は毛束5を植毛穴3に2つ折りに打ち込むための平線、6は毛束5を構成する刷毛であって、ヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に植毛された毛束5の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下とするとともに、植毛穴3に植毛された刷毛6の折り返された状態での1穴当たりの断面積の総和を1.0mm2以下、平線4の厚さtを0.10mm以上、0.22mm未満、平線4の幅(平線4を植毛面2に打ち込む際の打ち込み深さ方向の幅)hを0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。なお、図中符号Lは平線4の長さを示している。
【0061】
上記のような植毛仕様に設定すると、毛束5を平線4によって植毛穴3に2つ折りにして打ち込んでも、平線4が薄いためにその打ち込み衝撃によってヘッド部1の植毛穴3のまわりの樹脂に亀裂や白化を生じるようなことがなくなる。また、ヘッド部1が反ったりするようなこともなくなる。さらに、2つ折りにして打ち込む際、直線状に復元しようとする毛束5の弾性復元力によって平線4が毛束5から外れたり、位置ずれを起こしたりするようなこともなくなる。
【0062】
図2に、本発明に係る歯ブラシの第2の実施の形態を示す。この第2の実施の形態は、本発明を電動式の歯ブラシに適用した場合の例を示すものであって、図は電動式歯ブラシのヘッド部を示すものである。この電動式歯ブラシの場合も、前記手動式歯ブラシの場合と同様に、ヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に植毛された毛束5の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下とするとともに、植毛穴3に植毛された刷毛6の折り返された状態での1穴当たりの断面積の総和を1.0mm2以下とし、さらに平線4の厚さtを0.10mm以上、0.22mm未満、幅hを0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0063】
なお、本発明で用いる植毛穴3と刷毛6の形状は、図示例のものに限らず、例えば図3(a)ないし図3(f)に示すように、種々の形状を採用することができる。図3(a)は円形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(b)は円形の植毛穴と矩形断面の刷毛の例、図3(c)および図3(d)は長円形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(e)は長方形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(f)はアール付き長方形の植毛穴とダイヤモンド断面(菱形断面)の刷毛の例をそれぞれ示すものである。
【0064】
図4(a)ないし図5(c)に本発明の第3の実施の形態を示す。
この第3の実施の形態では、複数本の刷毛6を束ねた毛束5を平線4を用いてヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に2つ折りにして植設した歯ブラシにおいて、植毛穴3に植設された毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和を1.0mm2以下とし、また、最近接する任意の植毛穴3との距離(最近接植毛穴間距離)Dminを1.0mm以下とし、さらに、平線4によって破壊されるヘッド部1の樹脂の体積Vを0.1mm3以上、0.4mm3以下に設定したものである。
【0065】
ここにおいて、「毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和」とは、図4(b)に示すように、毛束5、すなわち植毛穴3に植毛されたすべての刷毛6の断面積を足した値である。また、「最近接する任意の植毛穴3との距離(最近接植毛穴間距離)Dmin」とは、図4(c)に示すように、複数個の植毛穴3のうち、最も距離の近い植毛穴同士の間の距離を指すものである。
【0066】
また、「平線4によって破壊される樹脂の体積V」とは、例えば図5(a)ないし図5(c)に示すように、円形断面の植毛穴3の場合、V(mm3)≒平線の厚さt(mm)×平線の打ち込み深さB(mm)×平線の掛かり代C(mm)×2の式で与えられる値である。
【0067】
なお、図5(a)ないし図5(c)に示した円形の植毛穴3の場合、平線4の掛かり代Cの部分は植毛穴3の円弧状の穴壁で区画されるため、樹脂破壊体積V(mm3)の値は上記式では近似値となるが、図4(b)のように、長円形状の植毛穴3の短径方向に平線4を打ち込んだ場合には、平線4の掛かり代部分は植毛穴3の直線状の壁部分で区画されるので、樹脂破壊体積V(mm3)=平線の厚さt(mm)×平線の打ち込み深さB(mm)×平線の掛かり代C(mm)×2として正確に求めることができる。他の断面形状になる植毛穴の場合も同様にして近似値または正確な値として求めることができる。
【0068】
上記実施の形態によれば、植毛穴3に植設された毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和を1.0mm2以下としたので、柔軟で歯牙や口腔内軟組織への当たり心地のよい毛束となる。また、最近接する任意の植毛穴3との距離Dminを1.0mm以下としたので、適度な毛束密度を有し、歯間進入性と刷掃実感の優れたものとなる。さらに、平線4によって破壊されるヘッド部1の樹脂の体積Vを0.1mm3以上、0.4mm3以下となるように設定したので、適度な植毛強度を得ることができ、ヘッド部の反り、ヘッド部樹脂の白化や割れなどを防止することができる。この結果、上記各効果が相俟って、歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達性に優れ、ヘッド部の反り、樹脂の白化や亀裂が発生することがなく、十分な植毛強度を有する歯ブラシとすることができる。
【0069】
1.品質特性評価試験
本発明の第1および第2の実施の形態に係る歯ブラシと従来仕様の歯ブラシを用いて品質特性の評価試験を行なった。その結果を表1に示す。なお、表1中のA〜Cタイプの歯ブラシとは、それぞれ次のような形状ならびに仕様からなる歯ブラシである。
【0070】
(i)Aタイプ
ヘッド部形状:図6(a)
植毛穴形状:長方形(短辺1.35mm×長辺1.8mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:19束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:1.52mm2
平線の長さL:2.2mm
(ii)Bタイプ
ヘッド部形状:図6(b)
植毛穴形状:円形(直径1.3mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:28束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.78mm2
平線の長さL:1.8mm
(iii)Cタイプ
ヘッド部形状:図6(c)
植毛穴形状:長円形(短軸0.64mm×長軸1.52mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:44束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.39mm2
平線の長さL:1.8mm
【0071】
表1の試験結果から明らかなように、本発明の歯ブラシ(実施例1〜22)は、従来仕様の歯ブラシ(比較例1〜12)に比べ、植毛状態、ヘッド部の反り、亀裂・白化、植毛強度のいずれにおいても優れていることが確認された。
【0072】
【表1】
【0073】
表1中、反りとは、図7(a)に示すように、植毛前におけるパーティングラインmとヘッド部1の先端との交点をPとするとき、図7(b)に示すように、植毛後におけるパーティングラインmの延長線と前記交点Pとの間の距離nを指すものである。また、ヘッド部厚さとは、図7(c)に示すように、ヘッド部1の最も薄い部分の厚さTを指すものである(以下の各試験においても同様)。
【0074】
なお、表1中の各評価は次の基準によった。
(1) 植毛状態
◎:刷毛のバラケがない
○:刷毛のバラケも少なく外観良好
△:刷毛のバラケあるが限度以内
×:刷毛のバラケ程度が大きく外観不良
(2) ヘッド部の反り
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
(3) 亀裂・白化(平線周囲のヘッド部樹脂の変色)
◎:亀裂や白化がまったくない
○:亀裂や白化がほとんどない
△:やや白化がある
×:亀裂や白化がある
(4) 植毛強度
植毛強度の測定は、JIS S3016に規定の方法に基づいて行なった。
◎:平均25N以上
○:平均15N以上、25N未満
△:平均8N以上、15N未満
×:平均8N未満
(5) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0075】
2.官能評価試験
本発明の歯ブラシの官能評価試験を出願人の会社内の専門パネラー30名により行なった。専門パネラー30名による評価の平均値を評価結果とした。その結果を表2に示す。表2から明らかなように、本発明の歯ブラシ(実施例23〜26)は、従来の歯ブラシ(比較例13〜16)に比べ、当たり心地の良さ、歯間進入性、刷掃実感のいずれにおいても優れることが確認された。
【0076】
【表2】
【0077】
なお、上記官能評価は次の基準によった。
(1) 当たり心地の良さ
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(2) 歯間進入性
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(3) 刷掃実感
◎:非常に感じる ○:感じる △:どちらとも言えない ×:感じない
(4) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0078】
3.使用樹脂の違いによるヘッド部の反り試験
使用樹脂の違いによるヘッド部の反り試験を行なった。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、PP樹脂、PCTA樹脂のいずれの場合でも、本発明仕様(平線厚さ0.15mm、0.20mm)の歯ブラシは従来仕様(平線厚さ0.25mm)の歯ブラシよりもヘッド部の反りが発生しにくいことが確認された。
【0079】
【表3】
【0080】
なお、ヘッド部の反りの評価は次の基準によった。
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
【0081】
4.ヘッド部厚さの違いによるヘッド部の反り試験
本発明仕様の場合と従来仕様の場合におけるヘッド部の厚さと反りとの関係について試験を行なった。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、本発明仕様の歯ブラシの場合、従来仕様の歯ブラシに比べ、広範囲のヘッド部の厚さに対して反りが小さいことが確認された。
【0082】
【表4】
【0083】
なお、ヘッド部の反りの評価は次の基準によった。
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
【0084】
また、本発明の第3の実施形態に係る歯ブラシ(実験例27〜38)と従来仕様の歯ブラシ(比較実験例17〜24)を作製し、植毛強度、1本抜け強度、ヘッド部の反り、亀裂・白化の品質特性の評価、および当たり心地の良さ、歯間進入性、刷掃実感の官能評価についての比較実験を行なった。その結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明仕様の歯ブラシは、総合評価においていずれも従来仕様の歯ブラシよりも優れていることが確認された。
【0085】
【表5】
【0086】
なお、表5中の各評価は次の基準によった。
1.品質特性評価試験
(1) 植毛強度
植毛強度の測定は、JIS S3016に規定の方法によった。
◎:平均25N以上
○:平均15N以上、25N未満
△:平均8N以上、15N未満
×:平均8N未満
(2) 1本抜け強度
◎:平均5N以上
○:平均3N以上、5N未満
△:平均1.5N以上、3N未満
×:平均1.5N未満
(3) ヘッド部の反り
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
(4) 亀裂・白化(平線周囲のヘッド部樹脂の変色)
◎:亀裂や白化がまったくない
○:亀裂や白化がほとんどない
△:やや白化がある
×:亀裂や白化がある
【0087】
2.官能評価試験
社内専門パネラー30名による評価の平均値を評価結果とした。
(1) 当たり心地の良さ
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(2) 歯間進入性
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(3) 刷掃実感
◎:非常に感じる ○:感じる △:どちらとも言えない ×:感じない
(4) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0088】
次に、本発明に係る歯ブラシの具体的な設計例を以下に示す。
図8は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例39を示す。この実施例39は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0089】
ヘッド部の材質:ポリプロピレン(PP)+サントプレン(商標「サントプレン」でアドバンスト・エラストマー・システムズ社により製造販売されているオレフィン系エラストマー)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.32mm×深さ3.8mm)、71穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:41束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:真鍮(厚さ0.17mm×長さ1.6mm×幅1.5mm)
【0090】
図9は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例40を示す。この実施例40は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0091】
ヘッド部の材質:飽和ポリエステル(PCTA)
植毛穴:長円形穴(短軸0.64mm×長軸1.52mm×深さ3.0mm)、79穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:44束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:真鍮(厚さ0.15mm×長さ1.8mm×幅1.3mm)
【0092】
図10は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例41を示す。この実施例41は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0093】
ヘッド部の材質:ポリアセタール(POM)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.32mm×深さ2.5mm)、64穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:45束/cm2
刷毛:ポリブチレンテレフタレート(PBT)のテーパー毛、基部直径:8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:溝付きステンレス鋼(厚さ0.2mm×長さ1.8mm×幅1.5mm)
【0094】
図11は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例42を示す。この実施例42は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0095】
ヘッド部の材質:ポリアセタール(POM)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.52mm×深さ2.0mm)、74穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:41束/cm2
刷毛:ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のテーパー毛、基部直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:外側=凹凸付き真鍮(厚さ0.2mm×長さ1.8mm×幅2.0mm)
内側=凹凸付き真鍮(厚さ0.2mm×長さ0.8mm×幅2.0mm)
【0096】
図12は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例43を示す。この実施例43は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0097】
ヘッド部の材質:飽和ポリエステル(PCTA)+プリマロイ(商標「プリマロイ」で三菱化学株式会社により製造販売されているポリエステル系エラストマー)
植毛穴:穴総数72穴
(1) 円形穴(直径0.8mm×深さ3.5mm)、2穴
(2) 円形穴(直径1.0mm×深さ3.5mm)、24穴
(3) 略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.30mm×深さ3.80mm)、46穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:42束/cm2
刷毛:(1) ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、4本/1穴(折返し後の本数で8本/1穴)
(2) ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、7本/1穴(折返し後の本数で14本/1穴)
(3) ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のストレート毛、直径6mil(0.152mm)、19本/1穴(折返し後の本数で38本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.259mm2
(2) 0.454mm2
(3) 0.693mm2
平線:(1) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ1.2mm×幅1.3mm)
(2) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ1.4mm×幅1.5mm)
(3) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ0.8mm×幅1.5mm)
【0098】
図13は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例44を示す。この実施例44は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0099】
ヘッド部の材質:ポリプロピレン(PP)+ミラストマー(商標「ミラストマー」で三井化学株式会社により製造販売されているオレフィン系エラストマー)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.65mm×長辺1.30mm×深さ3.2mm)、69穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:40束/cm2
刷毛:ナイロンのスパイラルキャッチ毛
(1) ヘッド先端部=直径9mil(0.229mm)、5本/1穴(折返し後の本数で10本/1穴)
(2) その他の部分=直径7mil(0.178mm)、7本/1穴(折返し後の本数で14本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.412mm2
(2) 0.348mm2
平線:ステンレス鋼(厚さ0.2mm×長さ1.5mm×幅2.3mm)
【0100】
図14は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例45を示す。この実施例45は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0101】
ヘッド部の材質:ポリエチレンナフタレート(PEN)+メッキ処理
植毛穴:(1) 円形穴(直径1.0mm×深さ3.0mm)、2穴
(2) 略長方形穴(短辺0.65mm×長辺1.30mm×深さ3.2mm)、39穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:26束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛
(1) 直径6mil(0.152mm)、13本/1穴(折返し後の本数で26本/1穴)
(2) 直径6mil(0.152mm)、25本/1穴(折返し後の本数で50本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.472mm2
(2) 0.901mm2
平線:(1) ステンレス鋼(厚さ0.14mm×長さ1.3mm×幅2.3mm)
(2) ステンレス鋼(厚さ0.14mm×長さ1.3mm×幅2.3mm)
【0102】
図15(a)および図15(b)は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例46を示し、各部の具体的な寸法を例示したものである。
【0103】
図16(a)および図16(b)は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例47を示し、各部の具体的な寸法を例示したものである。
【0104】
表6に、本発明に係る歯ブラシの更に他の具体的な実施例を示す。
表中、実施例48〜54は手動式の歯ブラシの例、実施例55は電動歯ブラシの例をそれぞれ示すものである。これら歯ブラシは、いずれも前述した本発明の条件、すなわち、植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和が1.0mm2以下、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)Dminが1.0mm以下、平線によって破壊される樹脂の体積(樹脂破壊体積)Vが0.1mm3以上、0.4mm3以下となるように、各部の仕様を設定したものである。
【0105】
【表6】
【符号の説明】
【0106】
1 ヘッド部
2 植毛面
3 植毛穴
4 平線
5 毛束
6 刷毛
B 平線の打ち込み深さ
C 平線の掛かり代
Dmin 最近接する任意の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)
h 平線の幅
L 平線の長さ
m パーティングライン
n ヘッド部の反り
P 交点
S 植毛面積
t 平線の厚さ
T ヘッド部厚さ
V 平線によって破壊されるヘッド部の樹脂の体積(樹脂破壊体積)
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した平線植毛式の歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の歯ブラシは、生産効率や植毛のしやすさを考慮して、歯ブラシヘッド部の植毛面に1.0mm以上の間隔で形成された植毛穴に、1穴当たり16〜60本、折り返しで32〜120本、刷毛断面の総和が1.0mm2以上となるように刷毛を束ねた太い毛束を、平線により打ち込むことで固定している。このような歯ブラシの場合、毛束が太くて剛性が高くなるため、特に平滑面や咬合面の歯垢除去力が高いという特徴があった。
【0003】
しかし、毛束が太いために毛束を構成する刷毛同士が支えあってしまい、刷毛単体が持つ本来のしなやかな動きが発揮できず、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部とされる狭い部位に毛先が届き難いばかりでなく、毛束が太くて硬くなりがちで、歯肉などの軟組織に対しては刺激が大きいという問題があった。
【0004】
また、これまでヘッド部やハンドル部に関しては形状、材質、色などを工夫することにより製品間の差別化を図っていたが、植毛部に関しては毛束の太さや間隔はどれも類似の仕様であり、外観差別性が低く、歯ブラシとしての新奇性に乏しかった。
【0005】
平線植毛式の歯ブラシにおける平線は、植毛穴の直径よりも僅かに長い寸法とされており、植毛穴に打ち込んだときにその両端部分が穴周辺のヘッド部樹脂に食い込むことにより、毛束を2つ折りにして植毛穴内に固定するものである。これによって、毛束は植毛穴から抜け出すことなくヘッド部植毛面に固定される。通常、平線は、長さが1.9mm〜2.3mm、上下幅すなわち打ち込み深さ方向の幅が1.3〜2.0mm、厚さが0.25mm程度であり、材質としては真鍮が一般的である。
【0006】
平線植毛による歯ブラシの場合、薄壁植毛穴のように隣り合う毛束の間隔が狭くなって平線が密集したり、平線の打ち込み方向が揃っていて平線が一直線上に並んだりすると、隣接する平線間のヘッド部樹脂に亀裂や白化が生じたり、平線打ち込み時の応力変形によるヘッド部の反りなどを生じ、歯ブラシとしての外観を損ねるおそれがある。また、植毛時にヘッド部にひびが入ったり、割れたりした場合には、製品の歩留まりの低下を招き、生産効率上も好ましくない。また、長期使用時の素材の疲労によるヘッド部の折損などの問題を生じるおそれがあり、ブラッシング中に歯ブラシが折れた場合には、手指や口腔内を傷つけるおそれがあり危険である。
【0007】
これらを防止するため、ヘッド部の厚さに対する植毛穴底面からヘッド部下面までの長さの割合を規定したもの(特許文献1:特開平8−19423号公報参照)、平線の打ち込み角度を工夫したもの(特許文献2:特開2001−314231号公報参照)、平線植毛による毛束と接着植毛による毛束を交互に配列したもの(特許文献3:特開2002−360343号公報参照)、平線の最も近接する部分の植毛面に隆起部を形成したもの(特許文献4:特開平10−257922号公報参照)などが提案されている。
【0008】
一方、歯周疾患およびう蝕の2大歯科疾患予防のためには歯垢除去が重要であり、口腔内の隅々まで磨くことができ、口腔疾患好発部位の歯垢除去効果に優れ、歯牙を損傷することなしに当り心地よくブラッシングできる歯ブラシが強く望まれている。
【0009】
一般に、平線植毛式の歯ブラシにおいて植毛される毛束数が少ないと、毛束間隔が広がり、歯垢除去が充分に行なえず、逆に毛束数が多いと、毛束間隔が狭まり、毛束の柔軟な動きが阻害されて歯間への進入性が急激に低下する。また、毛束が太い場合には毛束の剛性が高くなりすぎ、歯間部や細かな隙間へ入り込みにくくなるばかりでなく、歯牙や歯肉への為害性も高くなる。逆に毛束を細くすると毛腰強度が弱くなって刷掃実感が低下し、う蝕好発部位での歯垢除去機能が低下するばかりでなく、歯ブラシとしての耐久性も低下する。したがって、従来においては直径約1.6〜2.0mm程度の太さからなる毛束を単位植毛面積当たりの毛束数20束/cm2前後で植毛していた。
【0010】
そこで、当り心地がよく、口腔内の隅々まで丁寧に磨くための歯ブラシとして、刷毛本数の少ない細い毛束を植毛した歯ブラシ(特許文献5:特表平11−500946号公報、特許文献6:特開2000−342334号公報参照)や、歯ブラシ長手方向の毛束の径を短くして、毛束による刷掃力を適度に調節した歯ブラシ(特許文献7:登録実用新案第2549935号公報、特許文献8:特開平10−327930号公報、特許文献9:特開平10−327931号公報参照)などが提案されている。
【0011】
近年は電動歯ブラシに見られるように1.0mmφ程度の小さな植毛穴を有する歯ブラシも知られている。電動歯ブラシは、植毛台が小さいため、毛束の径を小さくしてできる限り多数の用毛を植毛する仕様が検討されている(特許文献10:特表平11−508168号公報参照)。
【0012】
また、近年の口腔衛生意識の向上に伴い、奥歯など口腔内の隅々まで磨けることが望まれる傾向が強く、そのためにポリアセタールを用いてヘッドの薄肉化を図った歯ブラシ(特許文献11:特開平7−143914号公報参照)なども提案されている。
【特許文献1】特開平8−19423号公報(全頁、全図)
【特許文献2】特開2001−314231号公報(全頁、全図)
【特許文献3】特開2002−360343号公報(全頁、全図)
【特許文献4】特開平10−257922号公報(全頁、全図)
【特許文献5】特表平11−500946号公報(全頁、全図)
【特許文献6】特開2000−342334号公報(全頁、全図)
【特許文献7】登録実用新案第2549935号公報(全頁、全図)
【特許文献8】特開平10−327930号公報(全頁、全図)
【特許文献9】特開平10−327931号公報(全頁、全図)
【特許文献10】特表平11−508168号公報(全頁、全図)
【特許文献11】特開平7−143914号公報(全頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の歯ブラシは、毛束が太く、咬合面の歯垢除去力が高いものの、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達は必ずしも十分ではなかった。そこで、細い毛束を高密度で植設することによりこれらの問題を解決する試みが行なわれたが、最適な毛束の太さや間隔に関する知見はほとんど知られていない。
【0014】
また、毛束を高密度で植設することで平線の間隔が狭くなり、ヘッド部に亀裂や白化、反りなどが発生するという課題が残されていた。一方、亀裂や白化の発生を防ぐことを目的として平線を短くした場合は、毛束強度や一本毛抜け強度が低下してしまうなどの課題が発生した。
【0015】
前述したように、亀裂や白化の発生、ヘッド部の反りなどを防止するために、種々の歯ブラシが提案されているが、ヘッド部形状、植毛穴形状、平線角度などに制約が生じ、必ずしも目的とする歯ブラシに応用できるものではなかった。
【0016】
亀裂や白化の解決方法としては、毛束間の間隔を広げたり、樹脂の種類を変更するなどの方法もあるが、毛束間隔を広げると歯ブラシとしての十分な機能が得られず、樹脂の変更もヘッド部の耐薬品性やコストを考慮した場合、賢明な選択肢とは成り得なかった。
【0017】
一方、歯ブラシの基本的性能として、口腔内の隅々まで磨くことができ、しかも歯牙の損傷や歯肉への為害性がなく、当り心地のよい歯ブラシの実現への強い要請があり、これを実現するために、小本数の刷毛からなる毛束を高密度で植毛する方法や、ヘッド部の厚さを薄くする方法などが採られているものの、植毛時に隣接する平線の間のヘッド部樹脂に亀裂や白化が生じたり、ヘッド部が反ったりするなどの課題が残されていた。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、植毛時にヘッド部に亀裂や白化、反り、平線抜けなどの植毛不良の発生することのない高品質な歯ブラシを提供することを目的とするものである。
【0019】
さらに、本発明は、毛束を高密度植毛した平線植毛式の歯ブラシでありながら、植毛時にヘッド部に亀裂や白化、反り、平線抜けなどの植毛不良が発生することがなく、しかも、しなやかで歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、細かな隙間への進入性にも優れた高品質な歯ブラシを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、請求項1に係る歯ブラシは、複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した歯ブラシにおいて、前記平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたことを特徴とする。
【0021】
請求項2に係る歯ブラシは、請求項1記載の発明において、前記平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0022】
請求項3に係る歯ブラシは、請求項1または2記載の発明において、前記植毛された毛束の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたものである。
【0023】
なお、単位植毛面積当たりの毛束の数とは、ヘッド部植毛面に植毛された毛束の総数(=植毛穴の総数)を植毛面積(cm2)で割った値である。また、植毛面積とは、JIS S3016の規定に基づくものであって、図1(a)に示されるように、ヘッド部1の植毛面2の外周に並ぶ植毛穴3の外側を直線で結んだ部分の内側の面積S(点線で囲まれた部分)である。
【0024】
請求項4に係る歯ブラシは、請求項1または2記載の発明において、前記ヘッド部が樹脂製であって、前記植毛穴の少なくとも一部について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたものである。
【0025】
本発明の歯ブラシのように平線を用いて毛束を固定する場合、平線はその打ち込み時に植毛穴近傍の樹脂を破壊してしまうため、樹脂には応力が発生する。従来、平線は厚さ0.25mm程度以上のものを用いていたが、薄壁植毛穴や単位植毛面積当たりの毛束の数が多い場合には平線が密集してしまうため、植毛穴周囲の樹脂に大きな応力が発生し、隣り合う平線の間のヘッド部樹脂に亀裂や白化を生じてしまうことがあった。また、平線が一直線上に並ぶ場合も亀裂や白化を生じることがあった。
【0026】
0.25mm程度以上の厚さの平線を用いると、ヘッド部の反りや白化、亀裂などが発生しやすい。例えば、曲げ強度が600kg/cm2以上、750kg/cm2以下の硬くて比較的曲がりにくい樹脂をヘッド部材質として用いた場合、厚さが0.25mmの平線を用いた植毛ではヘッド部に反りが生じた。そこで、本発明で採用している厚さ0.10〜0.22mmの平線を用いて植毛を行なったところ、ヘッド部の反りが低減化され、実使用上ほとんど問題がなくなった。
【0027】
一方、樹脂の曲げ強度が150kg/cm2以上、600kg/cm2以下の柔らかくて比較的曲がりやすい樹脂、例えばポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂をヘッド部材質として用いた場合、厚さが0.25mmの平線を用いると、ヘッド部に極端に大きな反りが発生して植毛穴が正規の位置からずれてしまうため、平線を連続的に打ち込むことすら不可能であった。そこで、本発明で採用している厚さ0.10〜0.22mmの平線を用いたところ、植毛時のヘッドの反りもほとんど見られなくなり、平線の打ちこみもスムーズに行なうことができた。このように、ポリオレフィン樹脂のような曲げ強度が150kg/cm2以上、600kg/cm2以下の比較的曲がりやすい樹脂の場合には、平線の薄肉化による反りの低減化の効果が特に著しいことが判明した。なお、ここでいう曲げ強度とは、JIS K6758に基づいて測定した値である。
【0028】
また、平線厚さが0.10mm未満になるとヘッド部樹脂に対する剛性が不足し、植毛時に平線に変形が生じて植毛自体が困難になることが判明した。
【0029】
さらに、口腔内での操作性を向上させるにはヘッド部の厚さを薄くすることが望ましいが、ヘッド部の厚さが5.0mmよりも厚くなると、口腔内での操作性が低下する。ヘッド部を薄くした場合、操作性は向上するものの、毛束を支える樹脂量が少なくなり、必然的にヘッド部の強度が低下するため、通常の厚さの平線では反り、割れ、白化などが発生する場合があった。また、ヘッド部が薄すぎると植毛穴が浅くなり、植毛が困難となる。そこで、ヘッド部の厚さが2.5mm以上、5.0mm以下の場合において、種々の厚さの平線を用いて植毛実験を行なったところ、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満、好ましくは0.13mm以上0.22mm未満の厚さの平線を用いれば、反りや亀裂、白化などが発生しにくくなることが明らかとなった。
【0030】
本発明は、上述した種々の実験結果に基づき、平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満、好ましくは0.13mm以上0.22mm未満としたものである。
【0031】
平線の打ち込み深さ方向の幅については、幅を大きくするとヘッド部樹脂に対する平線の接触面積が増すため、平線の掛かり代を長くすることなく植毛強度を上げることが可能である。そのため、ヘッド部材質がポリプロピレン樹脂(PP)などの比較的柔らかくて植毛強度の低い樹脂の場合には、平線の幅をできるだけ大きくすることが植毛強度上有効である。しかし、本発明者らの実験によれば、平線の幅が2.5mmよりも大きい場合には、平線が植毛面から外部へ突出してしまったり、ヘッド部先端側から植毛面を見たときに平線が見えたりして、外観上好ましくない結果を招くことが多いことが判明した。
【0032】
一方、ヘッド部材質がポリアセタール樹脂(POM)や飽和ポリエステル樹脂(例えば酸変成ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートコポリマー(PCTA),グリコール変成ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートコポリマー(PCTG))などの比較的硬くて植毛強度の高い樹脂の場合には、平線の幅を小さくしても十分な植毛強度が得られる。そのため、平線の幅を小さくし、植毛穴の深さも浅くすれば、ヘッド部の厚さを薄くすることが可能となり、操作性も向上させることができる。しかし、平線の幅をあまりに小さくすると植毛強度が低下し、実用上問題を生じる。本発明者らの実験によれば、平線の幅が0.9mm未満では植毛強度が著しく低下することが判明した。そこで、本発明では、平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0033】
通常、平線植毛式の歯ブラシの場合、単位植毛面積当たりの毛束の数は20束/cm2前後、刷毛の断面積の総和は1.1〜2.5mm2程度であるが、本発明者らの実験によれば、単位植毛面積当たりの毛束の数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、かつ、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での刷毛断面積の総和を1.0mm2以下とすれば、歯牙や歯肉への当り心地がよく、歯間進入性や歯垢除去機能にも優れていることが判明した。
【0034】
1つの植毛穴に植毛された折り返された状態での刷毛断面積の総和は1.0mm2以下が好ましいが、より好ましくは0.10から0.70mm2の範囲である。この時、刷毛断面形状が円形の場合を例に取ると、7mil(0.178mm)用毛では1穴当たりおよそ5〜14本、折り返しで10〜28本に相当するが、これらは設計上の目安であって、この本数は設計上の歯ブラシ仕様と刷毛径、断面形状などにより任意に設定できる。
【0035】
植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での刷毛断面積の総和が1.0mm2よりも大きい場合、毛束のしなやかさが失われ、細かな隙間への毛束の到達性が悪くなり、十分な口腔内清掃を達成できなくなる。また、刷毛断面積の総和が1.0mm2以下であっても、単位植毛面積当たりの毛束の数が80束/cm2より多い場合は、毛束間の隙間が非常に狭くなり、歯間進入性が著しく劣るばかりでなく、毛束が自由に動く範囲が制限されるため、歯頚部などの細かな刷掃部位の清掃が困難となる。また、歯磨が毛束間に残留したり、使用後の乾燥性が極端に悪くなるなど、衛生上大きな問題も生じる。また、刷毛断面積の総和が1.0mm2以下であっても、単位植毛面積当たりの毛束の数が25束/cm2より少ない場合は、外観上の見栄えが非常に貧相となってしまうばかりでなく、毛腰強度が弱く、歯面の清掃が困難となり、歯ブラシとしての耐久性も低くなってしまう。
【0036】
また、平線式植毛機によって毛束を植毛する場合、平線式植毛機の補助器の中で2つ折りにされた毛束に直線状に戻ろうとする復元力が生じ、平線に対して大きな反発力を与える。本発明者らの実験によれば、直径が1.6〜2.0mm(断面積2.0〜3.1cm2)の毛束の場合、通常の0.25mm程度の厚さの平線では毛束を打ち込めるものの、本発明で採用している厚さ0.10mm以上、0.22mm未満という薄型の平線の場合、平線が毛束の復元力に耐えることができず、平線が毛束から外れたり、ずれたりするなど、植毛不良の発生率が非常に高くなる場合があった。この場合は、平線材質をステンレス鋼などの硬質の金属にすることにより、薄型平線の剛性が高まり、植毛不良の発生率などを低減できることを明らかにした。
【0037】
一方、本発明者らは、刷掃性能と薄型平線の両方を満足する毛束太さの条件を追求した結果、折り返された状態での刷毛の断面積の総和が1.0mm2以下、より好ましくは0.1mm2以上、0.7mm2以下の毛束とすることで、高密度植毛歯ブラシとしての高い刷掃性能を維持しながら植毛時における毛束の復元力にも十分に耐え得る歯ブラシとしたものである。
【0038】
また、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)は1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.25mm以上、0.75mm以下の範囲である。毛束の間隔が狭すぎると歯間に刷毛が入らず、歯間進入性が低下する。一方、間隔が広がると、外観差別性、刷掃実感が低下する。また、間隔が広がると、ブラッシング運動に伴う毛束の反発作用が強くなり、刷掃時に毛束のゴツゴツとした感触が加わり、使用感が低下するばかりでなく、刷毛1本1本の滑らかな運動が発揮されず、歯垢除去効果も低下する。
【0039】
従来の主な平線植毛歯ブラシでは、JIS規格で規定されている植毛強度を確保するために、直径1.5〜2.2mm程度の円形断面の植毛穴を用いるとともに、植毛穴の穴縁に対する平線の掛かり代として0.25mm程度を設定している。少数毛束の植毛穴を多数有する歯ブラシにおいても平線の厚さや掛かり代を増やすことにより、ある程度の植毛強度は確保できるが、亀裂や白化の原因となるため限界がある。
【0040】
そこで、本発明者らは鋭意実験・研究を進めた結果、少数毛束植毛においては、植毛強度はパッキングファクターPF=(刷毛の断面積の総和)/(植毛穴面積−植毛穴にかかっている平線の断面積)×100[%](=1穴当たりの植毛穴に対する毛束の密度)、平線の長さ、ハンドル樹脂の種類には依存せず、平線がハンドル樹脂を破壊する体積(樹脂破壊体積)と密接な関係があることを見い出した。そして、さらに検討を重ねた結果、最適な樹脂破壊体積の範囲は0.1〜0.4mm3の範囲であり、より好ましくは0.15〜0.3mm3の範囲であることが判明した。0.1mm3未満では歯ブラシとしての必須物性である植毛強度が十分に得られず、また、0.4mm3を越える場合にはヘッド部の反りやヘッド部樹脂の白化などといった課題が発生することが分かった。
【0041】
ヘッド部を含む歯ブラシハンドルの材質としては、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂(CP)、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、飽和ポリエステル樹脂(PCTA,PCTGなど)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの素材を単独または混合して用いることができる。また、熱可塑性エラストマーなどと組み合わせた多色成形ハンドルとすることも可能である。なお、ハンドル材料は上記樹脂に限定されるものではない。また、ヘッド部を含む歯ブラシハンドルの形状、大きさ、デザインも何ら制限を受けない。
【0042】
平線の材質は、強度に優れる真鍮やステンレス鋼などの金属が好ましい。そのほか、生分解性プラスチックをはじめとする硬質プラスチックなども使用可能である。平線の打ち込み方向に対して垂直となるように平線の外表面に溝をつけ、植毛強度を向上させてもよい。
【0043】
前述したように、通常の歯ブラシでは約0.25mm程度の厚さの平線を用いているが、従来、金属製の平線としてはこれよりも薄いものを製造することが技術上非常に困難であった。すなわち、平線は丸線と呼ばれる金属線をロールで圧延して製造するが、通常、太い丸線を炉で加熱しながら一段階で細い丸線まで延伸しており、薄型平線に用いる丸線は通常よりも細いために1度の工程では均一な細さにすることができなかった。
【0044】
しかしながら、近時、平線の製造技術が改良され、延伸工程を多段階に分けて徐々に延伸することにより、必要となる細さの丸線を得ることが可能となった。さらに、丸線を圧延する際、通常の大きさのロールでは丸線を挟み込む力が強すぎ、平線が波打つなどの植毛不良の原因となる不具合が生じるが、ロールの径を小さくして適度な押し付け力で圧延することにより、薄型の平線を製造することが可能となった。したがって、本発明で用いる、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満、幅0.9mm以上、2.5mm以下という薄型の平線は製造可能である。
【0045】
平線の厚さと長さは、平線によって破壊されるヘッド部樹脂の体積に直接関与するものであるから、植毛穴の形状と大きさ、穴縁に対する平線の掛かり代、平線の打ち込み深さなどとの関係に基づいて、前記樹脂破壊体積が0.1mm3以上、0.4mm3以下となるような厚さと長さに設定するのが好ましい。
【0046】
植毛穴の形状は、通常の円形や正方形などの正多角形が好ましいが、楕円形、小判形、長方形など、長径(長辺)と短径(短辺)を有する形状としてもよい。また、穴の向きを組み合わせることにより、目的とする歯間進入性、毛の当たり心地、刷掃実感に応じた仕様が可能である。また、長径(長辺)と短径(短辺)を有する植毛穴の場合、短径(短辺)がヘッド部外縁と平行に並ぶように配列すると、ヘッド部を側面から見たとき、植毛された毛束の幅の狭い短径(短辺)側が見えるようになり、同じ刷毛本数からなる円形の毛束と比較して細く見え、外観差別性も向上できる。
【0047】
植毛穴の穴配置は、格子状配置が一般的であるが、隣り合う平線同士の干渉を避けながらより高密度な穴配置を行うため、千鳥状に配列してもよい。また、場所によって平線の打ち込み方向を変えることにより、ヘッド部最外側の毛束が細く見えるようにすることもでき、外観差別性を向上させることができる。
【0048】
植毛穴の長径方向に平線を打ち込む際は、平線に沿って刷毛が並ぶために植毛強度が向上する。この際の植毛穴形状は、毛束と植毛穴との隙間を減らすために略長方形が好ましい。また、短径方向に平線を打つ際には、毛束断面に対する外接円の短径方向と植毛穴の短径方向を合致させることにより、植毛穴と毛束との間の空間を少なくすることが可能となり、毛立ちの優れた植毛部を作成することができる。この際、使用する刷毛の断面が円形の場合には、植毛穴の形状を略楕円形、略長円形とすることが好ましい。
【0049】
毛束を構成する刷毛(フィラメント)の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、ナイロン6−10,ナイロン6−12,ナイロン12などのポリアミド、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、およびポリフッ化ビニリデンなどのポリハロゲン化ビニルなど、溶融紡糸できる素材が利用されるが、使用感、耐久性などの点で、ナイロン、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、これらの樹脂を用いて2重芯鞘構造の刷毛とし、内側と外側で材質や面状態を異ならしめるなど、目的に応じて組み合わせることも可能である。
【0050】
刷毛の太さとしては、3〜10mil(0.076〜0.254mm)、好ましくは5〜8mil(0.125〜0.203mm)のものがよく、使用性、刷掃感、清掃効果、耐久性など考慮してこれらの範囲内で太さの異なる刷毛を組み合わせて利用することも好ましい。特に多数の植毛穴を配置した高密度仕様の場合は、外側の毛束から中央の毛束に向かって刷毛の毛腰を強くしていったり、刷毛の太さ、材質、長さ、色、断面形状などを変化させたりすることは、使用感や外観差別上からも好ましい。
【0051】
刷毛の種類としては、ラウンド用毛(毛先を丸めた刷毛)、テーパー用毛(先細にされた刷毛)、ダイヤモンド用毛(断面が菱形の刷毛)、フェザー用毛(毛先が羽毛状に分割された刷毛)、その他の異形断面用毛(断面形状が円形ではない刷毛)、グレイニー用毛(研磨剤を練り込んだ刷毛)、スパイラルキャッチ用毛(螺旋状の溝が形成された刷毛)、インジケータ用毛(外層が着色された二重芯鞘構造を有し外層の摩耗により交換時期を知らせる刷毛)など、種々の刷毛を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0052】
刷毛先端面の毛切り形状(プロファイル)としては、単一平面形状、山切り形状、凹凸形状など、任意の形状を採用することができる。さらに、ヘッド部植毛面の外側と内側、先端側と後端側で異なった毛切り形状としてもよい。
【0053】
なお、本発明にいう歯ブラシの範疇には、手動式の歯ブラシのみならず、電動式の歯ブラシも含むものである。
【発明の効果】
【0054】
請求項1に係る歯ブラシは、平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたので、平線の打ち込み時に植毛穴の周りのヘッド部樹脂に亀裂や白化を生じたり、ヘッド部に反りが生じたりするようなことがなくなる。
【0055】
請求項2に係る歯ブラシは、平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたので、厚さの薄い平線を用いながら、植毛部の外観を損なうことなく十分な植毛強度を確保することができる。
【0056】
請求項3に係る歯ブラシは、単位植毛面積当たりの毛束の数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、かつ、植毛穴1穴当たりに植毛される刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたので、しなやかで歯牙や歯肉への当り心地がよく、しかも歯間進入性や歯垢除去機能に優れた歯ブラシとなる。また、平線の厚さは0.10mm以上、0.22mm未満としているので、単位植毛面積当たりの毛束の数が25束/cm2以上、80束/cm2という高密度植毛の歯ブラシでありながら、平線の打ち込み時に植毛穴の周りに亀裂や白化を生じたり、ヘッド部に反りが生じたりするようなことがなくなり、高品質な歯ブラシを提供することができる。さらに、1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたので、厚さ0.10mm以上、0.22mm未満という極めて薄い平線を用いて毛束を植毛しても、2つ折りにして打ち込まれる毛束の弾性復元力にも耐えることができ、平線が毛束から外れたり、位置ずれを起こしたりするようなことがなくなり、植毛不良の発生率を低減することができる。
【0057】
請求項4に係る歯ブラシは、少なくとも一部の植毛穴について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたので、歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達性に優れ、ヘッド部の反り、樹脂の白化や亀裂が発生することがなく、十分な植毛強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(a)〜図1(c)は、本発明に係る歯ブラシの第1の実施の形態を示すもので、図1(a)はヘッド部の略示平面図、図1(b)は毛束を打ち込む平線の略示斜視図、図1(c)は毛束を平線を用いて2つ折りにして打ち込んだ状態の模式説明図である。
【図2】図2は、本発明に係る歯ブラシの第2の実施の形態を示すもので、電動式歯ブラシのヘッド部の略示平面図である。
【図3】図3(a)〜図3(f)は、植毛穴と刷毛の断面形状の他の例をそれぞれ示す平面図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は、本発明に係る歯ブラシの第3の実施の形態を示すもので、図4(a)は毛束と平線の関係を示す略示斜視図、図4(b)はその略示平面図、図4(c)はヘッド部の植毛穴の部分拡大平面図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は本発明における樹脂破壊体積を説明するための図で、図5(a)は植毛穴に植毛された毛束と平線の略示平面図、図5(b)はその縦断面図であり、図5(c)は側断面図である。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、評価試験に用いた歯ブラシのヘッド部形状を示すもので、図6(a)はAタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図、図6(b)はBタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図、図6(c)はCタイプの歯ブラシのヘッド部略示平面図である。
【図7】図7(a)〜図7(c)は、ヘッド部の反りと厚さの模式説明図である。
【図8】図8は、本発明に係る歯ブラシの一実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図9】図9は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図10】図10は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図11】図11は、本発明に係る歯ブラシの別の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図12】図12は、本発明に係る歯ブラシの更に別の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図13】図13は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図14】図14は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【図15】図15(a)および図15(b)は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すもので、図15(a)は植毛穴を省略した歯ブラシハンドル全体の平面図、図15(b)はヘッド部の拡大平面図である。
【図16】図16(a)および図16(b)は、本発明に係る歯ブラシの更に他の実施例を示すもので、図16(a)は植毛穴を省略した歯ブラシハンドル全体の平面図、図16(b)はヘッド部の拡大平面図である。
【図17】図17は、本発明に係る歯ブラシの他の実施例を示すヘッド部略示平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1(a)ないし図1(c)に、本発明に係る歯ブラシの第1の実施の形態を示す。この第1の実施の形態は、本発明を手動式の歯ブラシに適用した場合の例を示すもので、図1(a)はヘッド部の平面図、図1(b)は平線の拡大斜視図、図1(c)は平線を用いて毛束を2つ折りに打ち込んだ状態の模式説明図である。なお、見やすくするため、図1(a)においては植毛穴に植毛された刷毛については図示を省略した。
【0060】
図において、1は歯ブラシのヘッド部、2はヘッド部1の植毛面、3は植毛面2に形成された植毛穴、4は毛束5を植毛穴3に2つ折りに打ち込むための平線、6は毛束5を構成する刷毛であって、ヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に植毛された毛束5の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下とするとともに、植毛穴3に植毛された刷毛6の折り返された状態での1穴当たりの断面積の総和を1.0mm2以下、平線4の厚さtを0.10mm以上、0.22mm未満、平線4の幅(平線4を植毛面2に打ち込む際の打ち込み深さ方向の幅)hを0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。なお、図中符号Lは平線4の長さを示している。
【0061】
上記のような植毛仕様に設定すると、毛束5を平線4によって植毛穴3に2つ折りにして打ち込んでも、平線4が薄いためにその打ち込み衝撃によってヘッド部1の植毛穴3のまわりの樹脂に亀裂や白化を生じるようなことがなくなる。また、ヘッド部1が反ったりするようなこともなくなる。さらに、2つ折りにして打ち込む際、直線状に復元しようとする毛束5の弾性復元力によって平線4が毛束5から外れたり、位置ずれを起こしたりするようなこともなくなる。
【0062】
図2に、本発明に係る歯ブラシの第2の実施の形態を示す。この第2の実施の形態は、本発明を電動式の歯ブラシに適用した場合の例を示すものであって、図は電動式歯ブラシのヘッド部を示すものである。この電動式歯ブラシの場合も、前記手動式歯ブラシの場合と同様に、ヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に植毛された毛束5の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下とするとともに、植毛穴3に植毛された刷毛6の折り返された状態での1穴当たりの断面積の総和を1.0mm2以下とし、さらに平線4の厚さtを0.10mm以上、0.22mm未満、幅hを0.9mm以上、2.5mm以下としたものである。
【0063】
なお、本発明で用いる植毛穴3と刷毛6の形状は、図示例のものに限らず、例えば図3(a)ないし図3(f)に示すように、種々の形状を採用することができる。図3(a)は円形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(b)は円形の植毛穴と矩形断面の刷毛の例、図3(c)および図3(d)は長円形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(e)は長方形の植毛穴と円形断面の刷毛の例、図3(f)はアール付き長方形の植毛穴とダイヤモンド断面(菱形断面)の刷毛の例をそれぞれ示すものである。
【0064】
図4(a)ないし図5(c)に本発明の第3の実施の形態を示す。
この第3の実施の形態では、複数本の刷毛6を束ねた毛束5を平線4を用いてヘッド部1の植毛面2の植毛穴3に2つ折りにして植設した歯ブラシにおいて、植毛穴3に植設された毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和を1.0mm2以下とし、また、最近接する任意の植毛穴3との距離(最近接植毛穴間距離)Dminを1.0mm以下とし、さらに、平線4によって破壊されるヘッド部1の樹脂の体積Vを0.1mm3以上、0.4mm3以下に設定したものである。
【0065】
ここにおいて、「毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和」とは、図4(b)に示すように、毛束5、すなわち植毛穴3に植毛されたすべての刷毛6の断面積を足した値である。また、「最近接する任意の植毛穴3との距離(最近接植毛穴間距離)Dmin」とは、図4(c)に示すように、複数個の植毛穴3のうち、最も距離の近い植毛穴同士の間の距離を指すものである。
【0066】
また、「平線4によって破壊される樹脂の体積V」とは、例えば図5(a)ないし図5(c)に示すように、円形断面の植毛穴3の場合、V(mm3)≒平線の厚さt(mm)×平線の打ち込み深さB(mm)×平線の掛かり代C(mm)×2の式で与えられる値である。
【0067】
なお、図5(a)ないし図5(c)に示した円形の植毛穴3の場合、平線4の掛かり代Cの部分は植毛穴3の円弧状の穴壁で区画されるため、樹脂破壊体積V(mm3)の値は上記式では近似値となるが、図4(b)のように、長円形状の植毛穴3の短径方向に平線4を打ち込んだ場合には、平線4の掛かり代部分は植毛穴3の直線状の壁部分で区画されるので、樹脂破壊体積V(mm3)=平線の厚さt(mm)×平線の打ち込み深さB(mm)×平線の掛かり代C(mm)×2として正確に求めることができる。他の断面形状になる植毛穴の場合も同様にして近似値または正確な値として求めることができる。
【0068】
上記実施の形態によれば、植毛穴3に植設された毛束5を構成する刷毛6の断面積の総和を1.0mm2以下としたので、柔軟で歯牙や口腔内軟組織への当たり心地のよい毛束となる。また、最近接する任意の植毛穴3との距離Dminを1.0mm以下としたので、適度な毛束密度を有し、歯間進入性と刷掃実感の優れたものとなる。さらに、平線4によって破壊されるヘッド部1の樹脂の体積Vを0.1mm3以上、0.4mm3以下となるように設定したので、適度な植毛強度を得ることができ、ヘッド部の反り、ヘッド部樹脂の白化や割れなどを防止することができる。この結果、上記各効果が相俟って、歯牙や口腔内軟組織への当たり心地がよく、歯頚部や歯間部、歯間三角などの口腔疾患好発部への毛先の到達性に優れ、ヘッド部の反り、樹脂の白化や亀裂が発生することがなく、十分な植毛強度を有する歯ブラシとすることができる。
【0069】
1.品質特性評価試験
本発明の第1および第2の実施の形態に係る歯ブラシと従来仕様の歯ブラシを用いて品質特性の評価試験を行なった。その結果を表1に示す。なお、表1中のA〜Cタイプの歯ブラシとは、それぞれ次のような形状ならびに仕様からなる歯ブラシである。
【0070】
(i)Aタイプ
ヘッド部形状:図6(a)
植毛穴形状:長方形(短辺1.35mm×長辺1.8mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:19束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:1.52mm2
平線の長さL:2.2mm
(ii)Bタイプ
ヘッド部形状:図6(b)
植毛穴形状:円形(直径1.3mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:28束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.78mm2
平線の長さL:1.8mm
(iii)Cタイプ
ヘッド部形状:図6(c)
植毛穴形状:長円形(短軸0.64mm×長軸1.52mm)
単位植毛面積当たりの毛束の数:44束/cm2
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.39mm2
平線の長さL:1.8mm
【0071】
表1の試験結果から明らかなように、本発明の歯ブラシ(実施例1〜22)は、従来仕様の歯ブラシ(比較例1〜12)に比べ、植毛状態、ヘッド部の反り、亀裂・白化、植毛強度のいずれにおいても優れていることが確認された。
【0072】
【表1】
【0073】
表1中、反りとは、図7(a)に示すように、植毛前におけるパーティングラインmとヘッド部1の先端との交点をPとするとき、図7(b)に示すように、植毛後におけるパーティングラインmの延長線と前記交点Pとの間の距離nを指すものである。また、ヘッド部厚さとは、図7(c)に示すように、ヘッド部1の最も薄い部分の厚さTを指すものである(以下の各試験においても同様)。
【0074】
なお、表1中の各評価は次の基準によった。
(1) 植毛状態
◎:刷毛のバラケがない
○:刷毛のバラケも少なく外観良好
△:刷毛のバラケあるが限度以内
×:刷毛のバラケ程度が大きく外観不良
(2) ヘッド部の反り
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
(3) 亀裂・白化(平線周囲のヘッド部樹脂の変色)
◎:亀裂や白化がまったくない
○:亀裂や白化がほとんどない
△:やや白化がある
×:亀裂や白化がある
(4) 植毛強度
植毛強度の測定は、JIS S3016に規定の方法に基づいて行なった。
◎:平均25N以上
○:平均15N以上、25N未満
△:平均8N以上、15N未満
×:平均8N未満
(5) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0075】
2.官能評価試験
本発明の歯ブラシの官能評価試験を出願人の会社内の専門パネラー30名により行なった。専門パネラー30名による評価の平均値を評価結果とした。その結果を表2に示す。表2から明らかなように、本発明の歯ブラシ(実施例23〜26)は、従来の歯ブラシ(比較例13〜16)に比べ、当たり心地の良さ、歯間進入性、刷掃実感のいずれにおいても優れることが確認された。
【0076】
【表2】
【0077】
なお、上記官能評価は次の基準によった。
(1) 当たり心地の良さ
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(2) 歯間進入性
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(3) 刷掃実感
◎:非常に感じる ○:感じる △:どちらとも言えない ×:感じない
(4) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0078】
3.使用樹脂の違いによるヘッド部の反り試験
使用樹脂の違いによるヘッド部の反り試験を行なった。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、PP樹脂、PCTA樹脂のいずれの場合でも、本発明仕様(平線厚さ0.15mm、0.20mm)の歯ブラシは従来仕様(平線厚さ0.25mm)の歯ブラシよりもヘッド部の反りが発生しにくいことが確認された。
【0079】
【表3】
【0080】
なお、ヘッド部の反りの評価は次の基準によった。
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
【0081】
4.ヘッド部厚さの違いによるヘッド部の反り試験
本発明仕様の場合と従来仕様の場合におけるヘッド部の厚さと反りとの関係について試験を行なった。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、本発明仕様の歯ブラシの場合、従来仕様の歯ブラシに比べ、広範囲のヘッド部の厚さに対して反りが小さいことが確認された。
【0082】
【表4】
【0083】
なお、ヘッド部の反りの評価は次の基準によった。
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
【0084】
また、本発明の第3の実施形態に係る歯ブラシ(実験例27〜38)と従来仕様の歯ブラシ(比較実験例17〜24)を作製し、植毛強度、1本抜け強度、ヘッド部の反り、亀裂・白化の品質特性の評価、および当たり心地の良さ、歯間進入性、刷掃実感の官能評価についての比較実験を行なった。その結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明仕様の歯ブラシは、総合評価においていずれも従来仕様の歯ブラシよりも優れていることが確認された。
【0085】
【表5】
【0086】
なお、表5中の各評価は次の基準によった。
1.品質特性評価試験
(1) 植毛強度
植毛強度の測定は、JIS S3016に規定の方法によった。
◎:平均25N以上
○:平均15N以上、25N未満
△:平均8N以上、15N未満
×:平均8N未満
(2) 1本抜け強度
◎:平均5N以上
○:平均3N以上、5N未満
△:平均1.5N以上、3N未満
×:平均1.5N未満
(3) ヘッド部の反り
◎:反りなし(n=0mm)
○:0mmより大きく、0.1mm未満
△:0.1mm以上、0.5mm未満
×:0.5mm以上
(4) 亀裂・白化(平線周囲のヘッド部樹脂の変色)
◎:亀裂や白化がまったくない
○:亀裂や白化がほとんどない
△:やや白化がある
×:亀裂や白化がある
【0087】
2.官能評価試験
社内専門パネラー30名による評価の平均値を評価結果とした。
(1) 当たり心地の良さ
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(2) 歯間進入性
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
(3) 刷掃実感
◎:非常に感じる ○:感じる △:どちらとも言えない ×:感じない
(4) 総合評価
◎:非常に良い ○:良い △:どちらとも言えない ×:良くない
【0088】
次に、本発明に係る歯ブラシの具体的な設計例を以下に示す。
図8は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例39を示す。この実施例39は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0089】
ヘッド部の材質:ポリプロピレン(PP)+サントプレン(商標「サントプレン」でアドバンスト・エラストマー・システムズ社により製造販売されているオレフィン系エラストマー)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.32mm×深さ3.8mm)、71穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:41束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:真鍮(厚さ0.17mm×長さ1.6mm×幅1.5mm)
【0090】
図9は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例40を示す。この実施例40は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0091】
ヘッド部の材質:飽和ポリエステル(PCTA)
植毛穴:長円形穴(短軸0.64mm×長軸1.52mm×深さ3.0mm)、79穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:44束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:真鍮(厚さ0.15mm×長さ1.8mm×幅1.3mm)
【0092】
図10は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例41を示す。この実施例41は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0093】
ヘッド部の材質:ポリアセタール(POM)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.32mm×深さ2.5mm)、64穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:45束/cm2
刷毛:ポリブチレンテレフタレート(PBT)のテーパー毛、基部直径:8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:溝付きステンレス鋼(厚さ0.2mm×長さ1.8mm×幅1.5mm)
【0094】
図11は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例42を示す。この実施例42は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0095】
ヘッド部の材質:ポリアセタール(POM)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.52mm×深さ2.0mm)、74穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:41束/cm2
刷毛:ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のテーパー毛、基部直径8mil(0.203mm)、6本/1穴(折返し後の本数で12本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:0.388mm2
平線:外側=凹凸付き真鍮(厚さ0.2mm×長さ1.8mm×幅2.0mm)
内側=凹凸付き真鍮(厚さ0.2mm×長さ0.8mm×幅2.0mm)
【0096】
図12は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例43を示す。この実施例43は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0097】
ヘッド部の材質:飽和ポリエステル(PCTA)+プリマロイ(商標「プリマロイ」で三菱化学株式会社により製造販売されているポリエステル系エラストマー)
植毛穴:穴総数72穴
(1) 円形穴(直径0.8mm×深さ3.5mm)、2穴
(2) 円形穴(直径1.0mm×深さ3.5mm)、24穴
(3) 略長方形穴(短辺0.64mm×長辺1.30mm×深さ3.80mm)、46穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:42束/cm2
刷毛:(1) ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、4本/1穴(折返し後の本数で8本/1穴)
(2) ナイロンのストレート毛、直径8mil(0.203mm)、7本/1穴(折返し後の本数で14本/1穴)
(3) ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のストレート毛、直径6mil(0.152mm)、19本/1穴(折返し後の本数で38本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.259mm2
(2) 0.454mm2
(3) 0.693mm2
平線:(1) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ1.2mm×幅1.3mm)
(2) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ1.4mm×幅1.5mm)
(3) 溝付きステンレス鋼(厚さ0.13mm×長さ0.8mm×幅1.5mm)
【0098】
図13は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例44を示す。この実施例44は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0099】
ヘッド部の材質:ポリプロピレン(PP)+ミラストマー(商標「ミラストマー」で三井化学株式会社により製造販売されているオレフィン系エラストマー)
植毛穴:略長方形穴(短辺0.65mm×長辺1.30mm×深さ3.2mm)、69穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:40束/cm2
刷毛:ナイロンのスパイラルキャッチ毛
(1) ヘッド先端部=直径9mil(0.229mm)、5本/1穴(折返し後の本数で10本/1穴)
(2) その他の部分=直径7mil(0.178mm)、7本/1穴(折返し後の本数で14本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.412mm2
(2) 0.348mm2
平線:ステンレス鋼(厚さ0.2mm×長さ1.5mm×幅2.3mm)
【0100】
図14は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例45を示す。この実施例45は、各部の仕様を以下のように設定したものである。
【0101】
ヘッド部の材質:ポリエチレンナフタレート(PEN)+メッキ処理
植毛穴:(1) 円形穴(直径1.0mm×深さ3.0mm)、2穴
(2) 略長方形穴(短辺0.65mm×長辺1.30mm×深さ3.2mm)、39穴
単位植毛面積当たりの毛束の数:26束/cm2
刷毛:ナイロンのストレート毛
(1) 直径6mil(0.152mm)、13本/1穴(折返し後の本数で26本/1穴)
(2) 直径6mil(0.152mm)、25本/1穴(折返し後の本数で50本/1穴)
1穴当たりの刷毛の断面積の総和:(1) 0.472mm2
(2) 0.901mm2
平線:(1) ステンレス鋼(厚さ0.14mm×長さ1.3mm×幅2.3mm)
(2) ステンレス鋼(厚さ0.14mm×長さ1.3mm×幅2.3mm)
【0102】
図15(a)および図15(b)は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例46を示し、各部の具体的な寸法を例示したものである。
【0103】
図16(a)および図16(b)は、本発明に係る歯ブラシの具体例である実施例47を示し、各部の具体的な寸法を例示したものである。
【0104】
表6に、本発明に係る歯ブラシの更に他の具体的な実施例を示す。
表中、実施例48〜54は手動式の歯ブラシの例、実施例55は電動歯ブラシの例をそれぞれ示すものである。これら歯ブラシは、いずれも前述した本発明の条件、すなわち、植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和が1.0mm2以下、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)Dminが1.0mm以下、平線によって破壊される樹脂の体積(樹脂破壊体積)Vが0.1mm3以上、0.4mm3以下となるように、各部の仕様を設定したものである。
【0105】
【表6】
【符号の説明】
【0106】
1 ヘッド部
2 植毛面
3 植毛穴
4 平線
5 毛束
6 刷毛
B 平線の打ち込み深さ
C 平線の掛かり代
Dmin 最近接する任意の植毛穴との距離(最近接植毛穴間距離)
h 平線の幅
L 平線の長さ
m パーティングライン
n ヘッド部の反り
P 交点
S 植毛面積
t 平線の厚さ
T ヘッド部厚さ
V 平線によって破壊されるヘッド部の樹脂の体積(樹脂破壊体積)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した歯ブラシにおいて、
前記平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
請求項1記載の歯ブラシにおいて、
前記平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項3】
請求項1または2記載の歯ブラシにおいて、
前記植毛された毛束の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項4】
請求項1または2記載の歯ブラシにおいて、
前記ヘッド部が樹脂製であって、前記植毛穴の少なくとも一部について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項1】
複数本の刷毛を束ねた毛束を、平線を用いてヘッド部植毛面の植毛穴に2つ折りにして植毛した歯ブラシにおいて、
前記平線の厚さを0.10mm以上、0.22mm未満としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
請求項1記載の歯ブラシにおいて、
前記平線の幅を0.9mm以上、2.5mm以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項3】
請求項1または2記載の歯ブラシにおいて、
前記植毛された毛束の単位植毛面積当たりの数を25束/cm2以上、80束/cm2以下、植毛穴1穴当たりに植毛された刷毛の折り返された状態での断面積の総和を1.0mm2以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項4】
請求項1または2記載の歯ブラシにおいて、
前記ヘッド部が樹脂製であって、前記植毛穴の少なくとも一部について、該植毛穴に植設された毛束を構成する刷毛の断面積の総和を1.0mm2以下とするとともに、少なくともいずれか1つの植毛穴について最近接する他の植毛穴との距離を1.0mm以下としたことを特徴とする歯ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際公開番号】WO2005/060788
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516495(P2005−516495)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019095
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019095
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】
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