歯付きベルトホイール
【課題】運動力学的な咬合効率に優れた湿式ベルト用の歯付きベルトホイールの提供。
【解決手段】端面(4)に歯付きベルトに対する歯(6)を含む咬合構造(5)を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間に歯溝底部(12)を含む歯溝(7)が画定されているホイール本体(2)と、あるいは、軸方向に見てホイール本体(2)の側方に配置され、半径方向に咬合構造(5)を越えて張出している少なくとも1つのフランジ(3)を含む湿式ベルト用の歯付きベルトホイール(1)であって、歯溝底部の領域および/または咬合構造に対向するフランジの内面(8)に潤滑剤を排出するための切り込み溝(9)を形成した。
【図面】図1
【解決手段】端面(4)に歯付きベルトに対する歯(6)を含む咬合構造(5)を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間に歯溝底部(12)を含む歯溝(7)が画定されているホイール本体(2)と、あるいは、軸方向に見てホイール本体(2)の側方に配置され、半径方向に咬合構造(5)を越えて張出している少なくとも1つのフランジ(3)を含む湿式ベルト用の歯付きベルトホイール(1)であって、歯溝底部の領域および/または咬合構造に対向するフランジの内面(8)に潤滑剤を排出するための切り込み溝(9)を形成した。
【図面】図1
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は端面に歯付きベルトに対する歯を含む咬合構造を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間に歯溝底部を含む歯溝が画定されているホイール本体と、場合によっては、軸方向に見てホイール本体の側方に配置され、半径方向に咬合構造を越えて張出している少なくとも1つのフランジを含む湿式ベルト用の歯付きベルトホイールに係わる。
【背景技術】
【0002】
歯付きベルトホイール駆動機構は互いに距離を隔てる複数のシャフトを歯付きベルトを介して同期的に連動させるため、より概念的には、1つのシャフトからこれとは独立のシャフトへ駆動エネルギーを伝達するため、エンジンに採用される。これによって、1つのエンジンで複数の互いに独立のシャフトを駆動することができる。2つ以上のシャフトを、これと対応する数の歯付きベルトホイールを介して案内される歯付きベルトによって駆動することが可能になる。但し、この歯付きベルト駆動機構をカスケード配列に構成し、それぞれ1対のシャフトごとに別々の歯付きベルトを設けることもできる。
【0003】
多くの場合、歯付けベルトホイールには、運転中に歯付きベルトが歯付きベルトホイールから側方へスリップするのを防止するため、いわゆるフランジを設ける。
【0004】
今日使用されている歯付きベルト駆動装置の多くは乾式運転、即ち、潤滑油なしの歯付きベルト駆動装置であるが、エンジン業界の発展に伴い、今後、例えば制御伝動装置、補償シャフトまたは補助伝動装置がいわゆる湿式歯付きベルトによって駆動される場合が多くなることは眼に見えている。潤滑油で湿潤される歯付きベルトは云うまでもなく、このような湿式歯付きベルトが、磨耗軽減のため潤滑油が使用される従来型の歯付きベルト駆動装置と組み合わせて使用されるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は運動力学的な咬合効率に優れた湿式ベルト用の歯付きベルトホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は歯溝底部の領域および/または咬合構造と対向するフランジの内面に潤滑剤を排出するための切り込み溝を形成した頭書の歯付きベルトホイールによって達成される。この切り込み溝が、歯付きベルトによって歯付きベルトホイールに移されるか、または歯付きベルトホイールが潤滑剤槽に浸ることによって歯付きベルトホイールに移される潤滑剤の排出路として作用する限り、切り込み溝の存在によって、湿式駆動される歯付きベルトシステムの流体力学的特性を改善することができ、その結果、この潤滑剤、具体的には、潤滑油を、歯付きベルトが歯付きベルトホイールと咬合することで起こる絞り作用によって押しのけることができ、従って、歯付きベルトと歯付きベルトホイール、即ち、咬合構造との咬合を円滑化できる一方、オイルミストに起因する摩擦を軽減することもできる。
【0007】
本発明の他の実施態様として、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間の歯溝底部の中央に切り込み溝を形成し、具体的には、この切り込み溝を歯溝底部の最深部に形成することによってオイルの移動および排除を容易にすることができる。
【0008】
歯溝底部に形成されている切り込み溝の領域において、単数もしくは複数のフランジに軸方向へ貫通する切り欠きを設けることにより、単数もしくは複数のフランジに形成されているこれらの切り欠きを介してオイルの少なくとも一部を歯付きベルトと歯付きベルトホイールとの咬合域から排除することができる。
【0009】
貫通する切り欠きをスリット状に形成することにより、この咬合域において単数もしくは複数のフランジをほぼ扇形に形成することができる。このように形成することで、スリット状切り欠きの領域において潤滑剤に作用する遠心力の作用下に比較的多量の潤滑剤を排除することができる。
【0010】
単数または複数のフランジに設けた切り込み溝を円弧状に形成し、具体的には、単数もしくは複数のフランジの端面領域における切り込み溝の開口端を組み込み状態における歯付きベルトホイールの回転方向に向けることによって、ここでも潤滑剤の排除に遠心力を利用することができ、回転方向に向いた切り込み溝の開口端から潤滑剤を歯付きベルトの外面へ排出することによって歯付きベルトの潤滑をも行なうことができる。
【0011】
端面の領域において、単数もしくは複数のフランジの、咬合構造と対向する側を傾斜させることによって、歯付きベルトと歯付きベルトホイールとの咬合域からの潤滑剤の排出を促進することができる。
【0012】
切り込み溝のエッジを分断することによって切り込み溝への潤滑剤流入を円滑化することができる。
【0013】
例えばダイカストによる鋳造物のような未加工鋳造物が必要とするような補足的な事後加工無しで切り込み溝を簡単に形成できるから、ホイール本体および/または単数もしくは複数のフランジを特に焼結材料から形成する。
【0014】
本発明の詳細を添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【0015】
図面はいずれも極力簡略化して示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
説明に先立って、以下に列記する種々の実施態様において同じ部分には同じ参照番号もしくは同じ部品番号を付し、明細書全体に含まれる開示内容のうち、意味上同じ部分には同じ参照番号もしくは同じ部品番号を付したことを諒解されたい。明細書中に選択されている位置指定、例えば、上、下、横などは直接記述され且つ指摘された図を基準とする位置指定であり、位置変更の場合には、意味上新しい位置への移行である。図示され且つ記述されている種々の実施例からの個別の特徴または特徴の組み合わせはそれ自体本発明の独立の解決策を示すものである。
【0017】
本明細書における数値領域の指定はすべて、任意の且つすべての部分領域を含むものであり、例えば、1から10までという指定は下限1および上限10から始まるすべての部分領域を含む。即ち、すべての部分領域は下限1またはそれ以上で始まり、上限10またはそれ以下で終わる。例えば、1から1.7迄、または3.2から8.1迄、または5.5から10迄、などである。
【0018】
図1には歯付きベルトホイール1を斜視図で示した。この歯付きベルトホイール1はホイール本体2とこの実施態様ではフランジディスクとして構成されているフランジ3を含む。フランジ3はホイール本体2の側面に設けられている。
【0019】
ホイール本体2はその端面4に咬合構造5を有する。この咬合構造は歯溝7間に画定される歯6によって構成される。歯6の形状および歯溝7の形状は歯付きベルトと咬合できるように構成されている。歯付きベルトホイール1の幾何的形態、特にチェーン伝動もしくは歯車伝動のためのチェーンホイールは歯車との相違点は公知であるからここではその説明を割愛するが、当業者は好適な文献、例えば、“Dubbel, Tashenbuch fur den Maschinenbau, 15, Auflage, 1983, Springer Verlag”を参照されたい。
【0020】
本発明の歯付きベルトホイール1のこの実施態様では、歯溝7の領域におけるフランジ3の内面に切り込み溝9が形成される。具体的には、歯溝7ごとに1つずつ切り込み溝9が形成される。これらの切り込み溝9はこの実施態様においては、半径方向に延び、フランジ3の端面10に向かって端部11が開口している。
【0021】
ホイール本体2およびフランジ3は燒結部品として製造されたものであることが好ましく、周知のように、燒結技術は燒結粉末に滑剤のような種々の添加物を混合して燒結部品の型抜きを容易にし、燒結粉末をプレス型に圧入して未加工成形体とし、これを、使用される金属粉末もしくは金属質粉末に応じて異なる温度で燒結するステップを含む。燒結粉末は多くの場合、金属粉末もしくは燒結合金のための金属質粉末であり、既に合金化された粉末であってもよい。燒結後、必要に応じて測定精度を高めるため燒結部品の校正が行なわれる。
【0022】
焼結粉末もしくは焼結金属粉末としては、例えば、規格SINT E35、SINT E36、SINT E39に規定の焼結鉄または燒結鋼もしくは粉末、またはその他の公知燒結(合金)粉末を使用することができる。
【0023】
フランジ3を歯付きベルトホイール1と一体に構成し、熔接点もしくは熔接、またはネジ止めなどのような補助手段を介してフランジ3をホイール本体2に固定する必要のない実施態様も可能である。
【0024】
歯付きベルトホイール1は焼結技術を利用して製造することが好ましいが、原理的には、例えば、鋳造またはダイカスト技術のような他の製法でこの歯付きベルトホイール1を製造することも可能である。しかし、焼結技術は歯付きベルトホイール1を簡単に製造する可能性、具体的には、切り込み溝9を形成するための機械的な事後加工またはその掃除を全く必要とせずに切り込み溝9を形成する可能性を提供する。
【0025】
図2は図1の歯付きベルトホイール1とは異なる実施態様を示し、切り込み溝9をフランジ3の内面8にではなく、歯溝底部12に形成している。具体的には、ここでも隣接する2つの歯の間の歯溝底部12にそれぞれ1つの切り込み溝9を設ける。この切り込み溝9はホイール本体2の端面4の幅全体に亘って延びていることが好ましい。
【0026】
図示しないが、歯付きベルトホイール1にフランジ3を備えることなく、歯溝底部12に切り込み溝9を設ける態様も考えられる。
【0027】
図3の実施態様では、切り込み溝9がフランジ3、即ち、咬合構造5と対向するその内面に形成すると共にホイール本体2の歯溝底部12にも形成されている。歯溝底部12に形成された切り込み溝9から排除すべきオイルをフランジ3に形成した切り込み溝9へ流入させ、これを介して歯付きベルトと歯付きベルトホイール1との咬合域から排出させることができるようにフランジ3の切り込み溝9を歯溝底部12の切り込み溝9と連通させることが好ましい。但し、本発明の好ましい実施態様とは云えないが、フランジ3の切り込み溝9が歯溝底部12の切り込み溝9と食い違うように構成することも可能である。
【0028】
図1乃至図3から明らかなように、ホイール本体2の側面13には、歯付きベルト駆動装置のための締付け工具を嵌入するための、半径方向に互いに対向する2つの凹部14が形成されている。これら2つの凹部14を互いに異なる形状の凹部とすることによってそれぞれの凹部に該当の工具を正しく嵌入することができ、面13に3つ以上の凹部14を設けることによって歯付きベルトを緊張させることもできる。
【0029】
ホイール本体2の端面4の幅は歯付きベルトホイール1上を走行する歯付きベルトが所定の限度内で横移動できるように、歯付きベルトの端面の幅よりも広くなるように寸法設定することが好ましい。
【0030】
図1から図3までの実施態様では、フランジ3、即ち、フランジディスクが端面7の領域に図6に詳細に示すような傾斜15(図3)を有する。即ち、フランジ3の端面10の領域におけるエッジは分断されている。この場合、傾斜15はフランジ3の断面が端面10に向かってテーパーするように形成されている。この傾斜15によって、鋭利なエッジによる歯付きベルトの損傷を回避する一方、これによって切り込み溝9からの潤滑剤排出を促進することができる。
【0031】
傾斜15と端面10もしくは傾斜15と半径方向にその下方に位置するフランジ3の領域との間のエッジもしくは過渡域にも丸みを持たせることによっても上記の効果を高めることができる。
【0032】
切り込み溝9が傾斜した、または分散された、または丸みを持たせたエッジを有するように形成することも可能であり、こうすることによって、歯付きベルトの損傷を回避し、切り込み溝9への潤滑剤の流入を容易にすることができる。
【0033】
切り込み溝9は任意の断面形状、例えば、矩形、正方形、三角形などを呈するように形成することができるが、丸みのある断面形状を呈することが好ましく、この溝の底部の丸みはフランジの内面から切り込み溝9への過渡領域における丸み半径よりも大きい丸み半径を有することが好ましい。このことは歯溝底部12における切り込み溝9についても同様である。
【0034】
フランジ3の切り込み溝9は図1から図3までの実施例においてはフランジ3の端面10にまで達している。
【0035】
これとは異なり、図4に示すフランジ3の実施態様では、切り込み溝9がフランジ3の端面10の領域には達していない。図4ではホイール本体2を破線で示してある。これらの切り込み溝9は歯味噌底部12を起点として半径方向に端面12に向かって延び、この端面10から距離16を置いた位置で終わっている。従って、潤滑剤は完全に歯付けベルトと歯付きベルトホイール1との咬合域には達せず、図4にその一部17を破線で示す歯付きベルトの上方からこの歯付きベルトに供給されて、これを補足的に潤滑する。距離16は端部11が歯付きベルトの上方に来るように、即ち、歯付きベルトとフランジ3の端面10との間の距離18よりも短くなるように設定される。
【0036】
図5に側面図で示すフランジ3の実施態様では、切り込み溝9が湾曲した経路を辿っている。この湾曲した切り込み溝9の構成はタービン羽根が切り込み溝9に相当するタービンホイールを連想させる。切り込み溝9の端部11は取り付けられた状態の歯付きベルトホイール1の回転方向(矢印19)に向かって傾斜している。この湾曲によって、歯付きベルトホイール1の回転によって潤滑剤に作用する遠心力により潤滑剤の排出が促進され、その際に潤滑剤が後続の歯付きベルト部分の面へ“投下”されて再びこの歯付きベルトを補足的に潤滑する。
【0037】
図6に示すフランジ3の実施態様において、切り込み溝9は湾曲を有し、この湾曲は切り込み溝9がその経路に亘ってフランジ3の材料の異なる深さを辿ることで起こる湾曲である。切り込み溝9を、例えば、円弧状に形成することができる。これによって、この切り込み溝9中に存在する潤滑剤をフランジ3の内面8に向かって方向転換させ、切り込み溝9から出る際にホイール本体2の端面よりも上方へ(図1)現れて再び歯付きベルトの外面に達することで歯付きベルトを潤滑することができる。
【0038】
図7に示す実施態様も湾曲した切り込み溝9を有するが、これは歯付きベルトホイール1のホイール本体2における切り込み溝である。この構成によっても歯付きベルトと歯付きベルトホイール1もしくは咬合構造5との咬合域からの潤滑剤排除を円滑化することができる。この実施態様において、切り込み溝9はホイール本体2の面13と平行に延びる中央横断面20にその最深点を有する。
【0039】
これまでに述べた実施態様では歯溝7ごとに1つずつ切り込み溝9を形成した。図8および9が上記の態様と明確に異なる点として、歯溝7ごとに歯溝底部12の領域に複数の、例えば、図8の場合では2条の切り込み溝9を設けることができ、しかも、上記実施態様のように咬合構造5の隣接する2つの歯6の間の中央にではなく、中央位置からずれた位置にこれらの切り込み溝9を形成する。図9はさらに異なる実施態様を示し、ここでは歯溝12ごとにフランジ3に、具体的にはフランジ3の内面8に2条の切り込み溝9を形成している。云うまでもなく、ホイール本体2にもフランジ3にも3条以上の切り込み溝9を形成してもよい。
【0040】
尚、ホイール本体2および/またはフランジ3における切り込み溝9が1条だけの場合、切り込み溝9を中央に形成することは、好ましい態様ではあるが必須条件ではなく、咬合構造の隣接する2つの歯の間の中央からずれた位置に形成することが好都合な場合もある。
【0041】
図10に示す歯付きベルトホイール1の実施態様においては、ホイール本体2が軸方向の両側がそれぞれフランジ3、即ち、フランジディスクと境を接している。両フランジ3はそれぞれの内面8に切り込み溝9を有し、ホイール本体2は互いに隣接する2つの歯6の間の歯溝底部12に切り込み溝9を有する。この実施態様においても、フランジ3とホイール本体2を別々に製造し、熔接などのような補足的な手段によってフランジ3をホイール本体2に固定するか、もしくは少なくとも1枚のフランジ3をホイール本体2と一体的に製造し、第2のフランジ3を、例えば、熔接点(図10においてXで表わしている)を介してホイール本体2と結合することができる。さらにまた、横方向に(歯付きベルトホイール1の半径方向)移動させることができる型半体を有する所要の形態のプレス型を利用して両フランジ3をホイール本体2と一体形成することも可能である。
【0042】
図10に示す第2フランジ3の、ホイール本体2の面13(図7)に設けた凹部14と符合する領域に、これらの凹部に対応する切り欠きを形成することによって、これらのフランジ3を別途に製造し、その上でホイール本体2に結合する場合、凹部14へのアクセスを可能にする。
【0043】
図11は複数の歯付きベルトと協働する歯付きベルトホイール1を設ける実施態様を示し、この実施態様では、2つの外側フランジ3とその中間に位置するフランジ3の合計3つのフランジを設け、2条の歯付きベルトとそれぞれの歯付きベルトホイール1との2つの咬合域が互いに分離されている。この実施態様においても、フランジ3の内面8および/または咬合構造5の歯溝底部12の領域に切り込み溝9が配置され、両外側フランジ3の間に位置する内側フランジ3には全く切り込み溝9を設けないか、もしくは内側フランジ3の少なくとも片方の面、好ましくは両面にこれらの切り込み溝9を配置することができる。
【0044】
切り込み溝9の代わりに孔21を設けた図12に示す実施態様では、これらの孔21がフランジ3を貫通するように形成されている。この実施態様においても、歯溝7ごとに少なくとも1つの、または2つ以上の孔21が存在するように構成することが好ましい−ホイール本体2および歯付きベルト部分17を破線で示してある。結果として、この実施態様の場合、潤滑剤はフランジ3の内面の切り込み溝9を介してではなく、これらの孔21を介して歯付きベルトホイール1の外側域へ排出される(図1)。孔21は切り込み溝9の領域における歯溝底部12の高さに設けることが好ましい。
【0045】
最後に、図13に示す実施態様においては、端面10の領域においてフランジ3が扇形を呈するように、フランジ3に形成されるこれらの切り欠きをスリット22によって、もしくはスリット状に形成する。これらのスリット22は端面10からホイール本体2の歯6(図1)の間に画定される歯溝底部12(例えば、図8)の領域に達することが好ましい。
【0046】
ほかにも種々の実施態様が可能であり、例えば、切り込み溝9と孔21またはフランジ3の孔21またはスリット22とを組み合わせる場合、切り込み溝9を、ホイール本体2を越える所定の高さにおいて孔21またはスリット22に移行させる。歯付きベルト/コウゴウ構造5咬合領域における潤滑剤の排出に関しても他の実施態様が可能である。
【0047】
単数もしくは複数のフランジ3を有する歯付きベルトホイール1をそれぞれ異なる製法で製造された部品で構成することも可能であり、例えば、ホイール本体2を燒結材料から、フランジを深絞り方法で、またはホイール本体2をフランジ3と共にもしくはフランジ3および他のフランジ3を深絞り部品から、それぞれ製造することができる。
【0048】
本発明の歯付きベルトホイール1は特に自動車分野もしくはエンジン分野における制御伝動装置、補助伝動装置および補償シャフトに利用することができる。
【0049】
実施例は歯付きベルトホイール1もしくはホイール本体2もしくはフランジ3の可能な実施態様を示すものであり、本発明は特定の図示実施態様に制限されるものではなく、個々の実施態様を多様な形で組み合わせることが可能であり、このような組み合わせの可能性は本発明の技術的開示内容に照らして当業者がよく知るところである。即ち、図面を参照して説明した実施態様の個々の細部を組み合わせることによって得られる実施態様はすべて特許請求の範囲に含まれる。
【0050】
最後に、念のため、歯付きベルトホイール1もしくはホイール本体2もしくはフランジ3の構造を理解し易くするため、これらの部品を一部縮尺を無視および/または拡大および/または縮小して図示したことを諒解されたい。
【0051】
本発明のそれぞれ独立の解決策の拠って来たる課題は明細書から明らかである。
【0052】
図1;2;3;4;5;6;7;8;9;10;11;12にそれぞれ示した実施態様は独立の、本発明の解決策を構成する。これに関連して、本発明の課題とその解決策をこれらの図面を参照した詳細な説明から理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】溝が切り込まれているフランジを有する歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図2】歯溝底部に溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図3】フランジおよび歯溝底部に溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図4】溝が切り込まれているフランジの実施態様を示す側面図である。
【図5】円弧状の溝が切り込まれているフランジの側面図である。
【図6】湾曲溝が切り込まれているフランジの側断面図である。
【図7】湾曲溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの端面図である。
【図8】歯溝底部に2条の溝が切り込まれているフランジのある歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図9】それぞれの歯溝ごとにフランジに2条の溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図10】2つのフランジを有する歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図11】2条の歯付きベルトに対応できるように複数のフランジを有する歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図12】溝の代わりに穴を設けた態様を示す図である。
【図13】フランジが扇形を呈するようにスリット状の切り欠きを設けた態様を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 歯付きベルトホイール
2 ホイール本体
3 つば
4 前端面
5 咬合構造
6 歯
7 歯溝
8 表面
9 切り込み溝
10 前端面
11 端部
12 歯溝底面
13 表面
14 凹部
15 傾斜面
16 距離
17 歯付きベルト部分
18 距離
19 回転方向
20 切断面
21 孔
22 スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は端面に歯付きベルトに対する歯を含む咬合構造を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間に歯溝底部を含む歯溝が画定されているホイール本体と、場合によっては、軸方向に見てホイール本体の側方に配置され、半径方向に咬合構造を越えて張出している少なくとも1つのフランジを含む湿式ベルト用の歯付きベルトホイールに係わる。
【背景技術】
【0002】
歯付きベルトホイール駆動機構は互いに距離を隔てる複数のシャフトを歯付きベルトを介して同期的に連動させるため、より概念的には、1つのシャフトからこれとは独立のシャフトへ駆動エネルギーを伝達するため、エンジンに採用される。これによって、1つのエンジンで複数の互いに独立のシャフトを駆動することができる。2つ以上のシャフトを、これと対応する数の歯付きベルトホイールを介して案内される歯付きベルトによって駆動することが可能になる。但し、この歯付きベルト駆動機構をカスケード配列に構成し、それぞれ1対のシャフトごとに別々の歯付きベルトを設けることもできる。
【0003】
多くの場合、歯付けベルトホイールには、運転中に歯付きベルトが歯付きベルトホイールから側方へスリップするのを防止するため、いわゆるフランジを設ける。
【0004】
今日使用されている歯付きベルト駆動装置の多くは乾式運転、即ち、潤滑油なしの歯付きベルト駆動装置であるが、エンジン業界の発展に伴い、今後、例えば制御伝動装置、補償シャフトまたは補助伝動装置がいわゆる湿式歯付きベルトによって駆動される場合が多くなることは眼に見えている。潤滑油で湿潤される歯付きベルトは云うまでもなく、このような湿式歯付きベルトが、磨耗軽減のため潤滑油が使用される従来型の歯付きベルト駆動装置と組み合わせて使用されるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は運動力学的な咬合効率に優れた湿式ベルト用の歯付きベルトホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は歯溝底部の領域および/または咬合構造と対向するフランジの内面に潤滑剤を排出するための切り込み溝を形成した頭書の歯付きベルトホイールによって達成される。この切り込み溝が、歯付きベルトによって歯付きベルトホイールに移されるか、または歯付きベルトホイールが潤滑剤槽に浸ることによって歯付きベルトホイールに移される潤滑剤の排出路として作用する限り、切り込み溝の存在によって、湿式駆動される歯付きベルトシステムの流体力学的特性を改善することができ、その結果、この潤滑剤、具体的には、潤滑油を、歯付きベルトが歯付きベルトホイールと咬合することで起こる絞り作用によって押しのけることができ、従って、歯付きベルトと歯付きベルトホイール、即ち、咬合構造との咬合を円滑化できる一方、オイルミストに起因する摩擦を軽減することもできる。
【0007】
本発明の他の実施態様として、互いに隣接するそれぞれ2つの歯の間の歯溝底部の中央に切り込み溝を形成し、具体的には、この切り込み溝を歯溝底部の最深部に形成することによってオイルの移動および排除を容易にすることができる。
【0008】
歯溝底部に形成されている切り込み溝の領域において、単数もしくは複数のフランジに軸方向へ貫通する切り欠きを設けることにより、単数もしくは複数のフランジに形成されているこれらの切り欠きを介してオイルの少なくとも一部を歯付きベルトと歯付きベルトホイールとの咬合域から排除することができる。
【0009】
貫通する切り欠きをスリット状に形成することにより、この咬合域において単数もしくは複数のフランジをほぼ扇形に形成することができる。このように形成することで、スリット状切り欠きの領域において潤滑剤に作用する遠心力の作用下に比較的多量の潤滑剤を排除することができる。
【0010】
単数または複数のフランジに設けた切り込み溝を円弧状に形成し、具体的には、単数もしくは複数のフランジの端面領域における切り込み溝の開口端を組み込み状態における歯付きベルトホイールの回転方向に向けることによって、ここでも潤滑剤の排除に遠心力を利用することができ、回転方向に向いた切り込み溝の開口端から潤滑剤を歯付きベルトの外面へ排出することによって歯付きベルトの潤滑をも行なうことができる。
【0011】
端面の領域において、単数もしくは複数のフランジの、咬合構造と対向する側を傾斜させることによって、歯付きベルトと歯付きベルトホイールとの咬合域からの潤滑剤の排出を促進することができる。
【0012】
切り込み溝のエッジを分断することによって切り込み溝への潤滑剤流入を円滑化することができる。
【0013】
例えばダイカストによる鋳造物のような未加工鋳造物が必要とするような補足的な事後加工無しで切り込み溝を簡単に形成できるから、ホイール本体および/または単数もしくは複数のフランジを特に焼結材料から形成する。
【0014】
本発明の詳細を添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【0015】
図面はいずれも極力簡略化して示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
説明に先立って、以下に列記する種々の実施態様において同じ部分には同じ参照番号もしくは同じ部品番号を付し、明細書全体に含まれる開示内容のうち、意味上同じ部分には同じ参照番号もしくは同じ部品番号を付したことを諒解されたい。明細書中に選択されている位置指定、例えば、上、下、横などは直接記述され且つ指摘された図を基準とする位置指定であり、位置変更の場合には、意味上新しい位置への移行である。図示され且つ記述されている種々の実施例からの個別の特徴または特徴の組み合わせはそれ自体本発明の独立の解決策を示すものである。
【0017】
本明細書における数値領域の指定はすべて、任意の且つすべての部分領域を含むものであり、例えば、1から10までという指定は下限1および上限10から始まるすべての部分領域を含む。即ち、すべての部分領域は下限1またはそれ以上で始まり、上限10またはそれ以下で終わる。例えば、1から1.7迄、または3.2から8.1迄、または5.5から10迄、などである。
【0018】
図1には歯付きベルトホイール1を斜視図で示した。この歯付きベルトホイール1はホイール本体2とこの実施態様ではフランジディスクとして構成されているフランジ3を含む。フランジ3はホイール本体2の側面に設けられている。
【0019】
ホイール本体2はその端面4に咬合構造5を有する。この咬合構造は歯溝7間に画定される歯6によって構成される。歯6の形状および歯溝7の形状は歯付きベルトと咬合できるように構成されている。歯付きベルトホイール1の幾何的形態、特にチェーン伝動もしくは歯車伝動のためのチェーンホイールは歯車との相違点は公知であるからここではその説明を割愛するが、当業者は好適な文献、例えば、“Dubbel, Tashenbuch fur den Maschinenbau, 15, Auflage, 1983, Springer Verlag”を参照されたい。
【0020】
本発明の歯付きベルトホイール1のこの実施態様では、歯溝7の領域におけるフランジ3の内面に切り込み溝9が形成される。具体的には、歯溝7ごとに1つずつ切り込み溝9が形成される。これらの切り込み溝9はこの実施態様においては、半径方向に延び、フランジ3の端面10に向かって端部11が開口している。
【0021】
ホイール本体2およびフランジ3は燒結部品として製造されたものであることが好ましく、周知のように、燒結技術は燒結粉末に滑剤のような種々の添加物を混合して燒結部品の型抜きを容易にし、燒結粉末をプレス型に圧入して未加工成形体とし、これを、使用される金属粉末もしくは金属質粉末に応じて異なる温度で燒結するステップを含む。燒結粉末は多くの場合、金属粉末もしくは燒結合金のための金属質粉末であり、既に合金化された粉末であってもよい。燒結後、必要に応じて測定精度を高めるため燒結部品の校正が行なわれる。
【0022】
焼結粉末もしくは焼結金属粉末としては、例えば、規格SINT E35、SINT E36、SINT E39に規定の焼結鉄または燒結鋼もしくは粉末、またはその他の公知燒結(合金)粉末を使用することができる。
【0023】
フランジ3を歯付きベルトホイール1と一体に構成し、熔接点もしくは熔接、またはネジ止めなどのような補助手段を介してフランジ3をホイール本体2に固定する必要のない実施態様も可能である。
【0024】
歯付きベルトホイール1は焼結技術を利用して製造することが好ましいが、原理的には、例えば、鋳造またはダイカスト技術のような他の製法でこの歯付きベルトホイール1を製造することも可能である。しかし、焼結技術は歯付きベルトホイール1を簡単に製造する可能性、具体的には、切り込み溝9を形成するための機械的な事後加工またはその掃除を全く必要とせずに切り込み溝9を形成する可能性を提供する。
【0025】
図2は図1の歯付きベルトホイール1とは異なる実施態様を示し、切り込み溝9をフランジ3の内面8にではなく、歯溝底部12に形成している。具体的には、ここでも隣接する2つの歯の間の歯溝底部12にそれぞれ1つの切り込み溝9を設ける。この切り込み溝9はホイール本体2の端面4の幅全体に亘って延びていることが好ましい。
【0026】
図示しないが、歯付きベルトホイール1にフランジ3を備えることなく、歯溝底部12に切り込み溝9を設ける態様も考えられる。
【0027】
図3の実施態様では、切り込み溝9がフランジ3、即ち、咬合構造5と対向するその内面に形成すると共にホイール本体2の歯溝底部12にも形成されている。歯溝底部12に形成された切り込み溝9から排除すべきオイルをフランジ3に形成した切り込み溝9へ流入させ、これを介して歯付きベルトと歯付きベルトホイール1との咬合域から排出させることができるようにフランジ3の切り込み溝9を歯溝底部12の切り込み溝9と連通させることが好ましい。但し、本発明の好ましい実施態様とは云えないが、フランジ3の切り込み溝9が歯溝底部12の切り込み溝9と食い違うように構成することも可能である。
【0028】
図1乃至図3から明らかなように、ホイール本体2の側面13には、歯付きベルト駆動装置のための締付け工具を嵌入するための、半径方向に互いに対向する2つの凹部14が形成されている。これら2つの凹部14を互いに異なる形状の凹部とすることによってそれぞれの凹部に該当の工具を正しく嵌入することができ、面13に3つ以上の凹部14を設けることによって歯付きベルトを緊張させることもできる。
【0029】
ホイール本体2の端面4の幅は歯付きベルトホイール1上を走行する歯付きベルトが所定の限度内で横移動できるように、歯付きベルトの端面の幅よりも広くなるように寸法設定することが好ましい。
【0030】
図1から図3までの実施態様では、フランジ3、即ち、フランジディスクが端面7の領域に図6に詳細に示すような傾斜15(図3)を有する。即ち、フランジ3の端面10の領域におけるエッジは分断されている。この場合、傾斜15はフランジ3の断面が端面10に向かってテーパーするように形成されている。この傾斜15によって、鋭利なエッジによる歯付きベルトの損傷を回避する一方、これによって切り込み溝9からの潤滑剤排出を促進することができる。
【0031】
傾斜15と端面10もしくは傾斜15と半径方向にその下方に位置するフランジ3の領域との間のエッジもしくは過渡域にも丸みを持たせることによっても上記の効果を高めることができる。
【0032】
切り込み溝9が傾斜した、または分散された、または丸みを持たせたエッジを有するように形成することも可能であり、こうすることによって、歯付きベルトの損傷を回避し、切り込み溝9への潤滑剤の流入を容易にすることができる。
【0033】
切り込み溝9は任意の断面形状、例えば、矩形、正方形、三角形などを呈するように形成することができるが、丸みのある断面形状を呈することが好ましく、この溝の底部の丸みはフランジの内面から切り込み溝9への過渡領域における丸み半径よりも大きい丸み半径を有することが好ましい。このことは歯溝底部12における切り込み溝9についても同様である。
【0034】
フランジ3の切り込み溝9は図1から図3までの実施例においてはフランジ3の端面10にまで達している。
【0035】
これとは異なり、図4に示すフランジ3の実施態様では、切り込み溝9がフランジ3の端面10の領域には達していない。図4ではホイール本体2を破線で示してある。これらの切り込み溝9は歯味噌底部12を起点として半径方向に端面12に向かって延び、この端面10から距離16を置いた位置で終わっている。従って、潤滑剤は完全に歯付けベルトと歯付きベルトホイール1との咬合域には達せず、図4にその一部17を破線で示す歯付きベルトの上方からこの歯付きベルトに供給されて、これを補足的に潤滑する。距離16は端部11が歯付きベルトの上方に来るように、即ち、歯付きベルトとフランジ3の端面10との間の距離18よりも短くなるように設定される。
【0036】
図5に側面図で示すフランジ3の実施態様では、切り込み溝9が湾曲した経路を辿っている。この湾曲した切り込み溝9の構成はタービン羽根が切り込み溝9に相当するタービンホイールを連想させる。切り込み溝9の端部11は取り付けられた状態の歯付きベルトホイール1の回転方向(矢印19)に向かって傾斜している。この湾曲によって、歯付きベルトホイール1の回転によって潤滑剤に作用する遠心力により潤滑剤の排出が促進され、その際に潤滑剤が後続の歯付きベルト部分の面へ“投下”されて再びこの歯付きベルトを補足的に潤滑する。
【0037】
図6に示すフランジ3の実施態様において、切り込み溝9は湾曲を有し、この湾曲は切り込み溝9がその経路に亘ってフランジ3の材料の異なる深さを辿ることで起こる湾曲である。切り込み溝9を、例えば、円弧状に形成することができる。これによって、この切り込み溝9中に存在する潤滑剤をフランジ3の内面8に向かって方向転換させ、切り込み溝9から出る際にホイール本体2の端面よりも上方へ(図1)現れて再び歯付きベルトの外面に達することで歯付きベルトを潤滑することができる。
【0038】
図7に示す実施態様も湾曲した切り込み溝9を有するが、これは歯付きベルトホイール1のホイール本体2における切り込み溝である。この構成によっても歯付きベルトと歯付きベルトホイール1もしくは咬合構造5との咬合域からの潤滑剤排除を円滑化することができる。この実施態様において、切り込み溝9はホイール本体2の面13と平行に延びる中央横断面20にその最深点を有する。
【0039】
これまでに述べた実施態様では歯溝7ごとに1つずつ切り込み溝9を形成した。図8および9が上記の態様と明確に異なる点として、歯溝7ごとに歯溝底部12の領域に複数の、例えば、図8の場合では2条の切り込み溝9を設けることができ、しかも、上記実施態様のように咬合構造5の隣接する2つの歯6の間の中央にではなく、中央位置からずれた位置にこれらの切り込み溝9を形成する。図9はさらに異なる実施態様を示し、ここでは歯溝12ごとにフランジ3に、具体的にはフランジ3の内面8に2条の切り込み溝9を形成している。云うまでもなく、ホイール本体2にもフランジ3にも3条以上の切り込み溝9を形成してもよい。
【0040】
尚、ホイール本体2および/またはフランジ3における切り込み溝9が1条だけの場合、切り込み溝9を中央に形成することは、好ましい態様ではあるが必須条件ではなく、咬合構造の隣接する2つの歯の間の中央からずれた位置に形成することが好都合な場合もある。
【0041】
図10に示す歯付きベルトホイール1の実施態様においては、ホイール本体2が軸方向の両側がそれぞれフランジ3、即ち、フランジディスクと境を接している。両フランジ3はそれぞれの内面8に切り込み溝9を有し、ホイール本体2は互いに隣接する2つの歯6の間の歯溝底部12に切り込み溝9を有する。この実施態様においても、フランジ3とホイール本体2を別々に製造し、熔接などのような補足的な手段によってフランジ3をホイール本体2に固定するか、もしくは少なくとも1枚のフランジ3をホイール本体2と一体的に製造し、第2のフランジ3を、例えば、熔接点(図10においてXで表わしている)を介してホイール本体2と結合することができる。さらにまた、横方向に(歯付きベルトホイール1の半径方向)移動させることができる型半体を有する所要の形態のプレス型を利用して両フランジ3をホイール本体2と一体形成することも可能である。
【0042】
図10に示す第2フランジ3の、ホイール本体2の面13(図7)に設けた凹部14と符合する領域に、これらの凹部に対応する切り欠きを形成することによって、これらのフランジ3を別途に製造し、その上でホイール本体2に結合する場合、凹部14へのアクセスを可能にする。
【0043】
図11は複数の歯付きベルトと協働する歯付きベルトホイール1を設ける実施態様を示し、この実施態様では、2つの外側フランジ3とその中間に位置するフランジ3の合計3つのフランジを設け、2条の歯付きベルトとそれぞれの歯付きベルトホイール1との2つの咬合域が互いに分離されている。この実施態様においても、フランジ3の内面8および/または咬合構造5の歯溝底部12の領域に切り込み溝9が配置され、両外側フランジ3の間に位置する内側フランジ3には全く切り込み溝9を設けないか、もしくは内側フランジ3の少なくとも片方の面、好ましくは両面にこれらの切り込み溝9を配置することができる。
【0044】
切り込み溝9の代わりに孔21を設けた図12に示す実施態様では、これらの孔21がフランジ3を貫通するように形成されている。この実施態様においても、歯溝7ごとに少なくとも1つの、または2つ以上の孔21が存在するように構成することが好ましい−ホイール本体2および歯付きベルト部分17を破線で示してある。結果として、この実施態様の場合、潤滑剤はフランジ3の内面の切り込み溝9を介してではなく、これらの孔21を介して歯付きベルトホイール1の外側域へ排出される(図1)。孔21は切り込み溝9の領域における歯溝底部12の高さに設けることが好ましい。
【0045】
最後に、図13に示す実施態様においては、端面10の領域においてフランジ3が扇形を呈するように、フランジ3に形成されるこれらの切り欠きをスリット22によって、もしくはスリット状に形成する。これらのスリット22は端面10からホイール本体2の歯6(図1)の間に画定される歯溝底部12(例えば、図8)の領域に達することが好ましい。
【0046】
ほかにも種々の実施態様が可能であり、例えば、切り込み溝9と孔21またはフランジ3の孔21またはスリット22とを組み合わせる場合、切り込み溝9を、ホイール本体2を越える所定の高さにおいて孔21またはスリット22に移行させる。歯付きベルト/コウゴウ構造5咬合領域における潤滑剤の排出に関しても他の実施態様が可能である。
【0047】
単数もしくは複数のフランジ3を有する歯付きベルトホイール1をそれぞれ異なる製法で製造された部品で構成することも可能であり、例えば、ホイール本体2を燒結材料から、フランジを深絞り方法で、またはホイール本体2をフランジ3と共にもしくはフランジ3および他のフランジ3を深絞り部品から、それぞれ製造することができる。
【0048】
本発明の歯付きベルトホイール1は特に自動車分野もしくはエンジン分野における制御伝動装置、補助伝動装置および補償シャフトに利用することができる。
【0049】
実施例は歯付きベルトホイール1もしくはホイール本体2もしくはフランジ3の可能な実施態様を示すものであり、本発明は特定の図示実施態様に制限されるものではなく、個々の実施態様を多様な形で組み合わせることが可能であり、このような組み合わせの可能性は本発明の技術的開示内容に照らして当業者がよく知るところである。即ち、図面を参照して説明した実施態様の個々の細部を組み合わせることによって得られる実施態様はすべて特許請求の範囲に含まれる。
【0050】
最後に、念のため、歯付きベルトホイール1もしくはホイール本体2もしくはフランジ3の構造を理解し易くするため、これらの部品を一部縮尺を無視および/または拡大および/または縮小して図示したことを諒解されたい。
【0051】
本発明のそれぞれ独立の解決策の拠って来たる課題は明細書から明らかである。
【0052】
図1;2;3;4;5;6;7;8;9;10;11;12にそれぞれ示した実施態様は独立の、本発明の解決策を構成する。これに関連して、本発明の課題とその解決策をこれらの図面を参照した詳細な説明から理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】溝が切り込まれているフランジを有する歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図2】歯溝底部に溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図3】フランジおよび歯溝底部に溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図4】溝が切り込まれているフランジの実施態様を示す側面図である。
【図5】円弧状の溝が切り込まれているフランジの側面図である。
【図6】湾曲溝が切り込まれているフランジの側断面図である。
【図7】湾曲溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの端面図である。
【図8】歯溝底部に2条の溝が切り込まれているフランジのある歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図9】それぞれの歯溝ごとにフランジに2条の溝が切り込まれている歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図10】2つのフランジを有する歯付きベルトホイールの斜視図である。
【図11】2条の歯付きベルトに対応できるように複数のフランジを有する歯付きベルトホイールの実施態様を示す。
【図12】溝の代わりに穴を設けた態様を示す図である。
【図13】フランジが扇形を呈するようにスリット状の切り欠きを設けた態様を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 歯付きベルトホイール
2 ホイール本体
3 つば
4 前端面
5 咬合構造
6 歯
7 歯溝
8 表面
9 切り込み溝
10 前端面
11 端部
12 歯溝底面
13 表面
14 凹部
15 傾斜面
16 距離
17 歯付きベルト部分
18 距離
19 回転方向
20 切断面
21 孔
22 スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式ベルト用の歯付きベルトホイール(1)であって、
端面(4)に歯付きベルトに対する歯(6)を含む咬合構造(5)を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯(6)の間に歯溝底部(12)を含む歯溝(7)が画定されているホイール本体(2)と、あるいは、さらに、軸方向に見てホイール本体(2)の側方に配置され、半径方向に咬合構造(5)を越えて張出している少なくとも1つのフランジ(3)と、を含むものにおいて、
歯溝底部(12)の領域、および/または、咬合構造(5)と対向するフランジ(3)の内面(8)に潤滑剤を排出するための切り込み溝(9)を形成した、
ことを特徴とする前記歯付きべルトホイール(1)。
【請求項2】
互いに隣接するそれぞれ2つの歯(6)の間の歯溝底部(12)の中央に切り込み溝(9)を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項3】
歯溝底部(12)に形成されている切り込み溝(9)の領域において、フランジ(3)に軸方向へ貫通する切り欠きを設けた、ことを特徴とする請求項1または2に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項4】
貫通する切り欠きをスリット状に形成した、ことを特徴とする請求項3に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項5】
ホイール本体(2)、および/または、フランジ(3)に設けた切り込み溝(9)を円弧状に形成した、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項6】
端面(10)の領域において、フランジ(3)の、咬合構造(5)と対向する側を傾斜させた、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項7】
切り込み溝(9)が分断されたエッジを有する、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項8】
ホイール本体(2)、および/または、フランジ(3)を焼結材料から形成した、ことを特徴とする請求項1または2に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項1】
湿式ベルト用の歯付きベルトホイール(1)であって、
端面(4)に歯付きベルトに対する歯(6)を含む咬合構造(5)を有し、互いに隣接するそれぞれ2つの歯(6)の間に歯溝底部(12)を含む歯溝(7)が画定されているホイール本体(2)と、あるいは、さらに、軸方向に見てホイール本体(2)の側方に配置され、半径方向に咬合構造(5)を越えて張出している少なくとも1つのフランジ(3)と、を含むものにおいて、
歯溝底部(12)の領域、および/または、咬合構造(5)と対向するフランジ(3)の内面(8)に潤滑剤を排出するための切り込み溝(9)を形成した、
ことを特徴とする前記歯付きべルトホイール(1)。
【請求項2】
互いに隣接するそれぞれ2つの歯(6)の間の歯溝底部(12)の中央に切り込み溝(9)を形成した、ことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項3】
歯溝底部(12)に形成されている切り込み溝(9)の領域において、フランジ(3)に軸方向へ貫通する切り欠きを設けた、ことを特徴とする請求項1または2に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項4】
貫通する切り欠きをスリット状に形成した、ことを特徴とする請求項3に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項5】
ホイール本体(2)、および/または、フランジ(3)に設けた切り込み溝(9)を円弧状に形成した、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項6】
端面(10)の領域において、フランジ(3)の、咬合構造(5)と対向する側を傾斜させた、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項7】
切り込み溝(9)が分断されたエッジを有する、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【請求項8】
ホイール本体(2)、および/または、フランジ(3)を焼結材料から形成した、ことを特徴とする請求項1または2に記載の歯付きベルトホイール(1)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−275163(P2008−275163A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119283(P2008−119283)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(508122161)ミーバ ジンター オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(508122161)ミーバ ジンター オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (14)
【Fターム(参考)】
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