説明

歯付きベルト

【課題】ベルト本体への接着性を良好なものとしつつ、摩擦係数を長期にわたって低いものとすることにより、ベルトの耐久性を向上させる。
【解決手段】歯付きベルト10は、一方の面11Aに長手方向に沿って歯部15と歯底部16が交互に設けられ、ゴムから形成されるベルト本体11を備える。ベルト本体11の一方の面11Aを歯布17で被覆する。歯布17は、ゴム成分100重量部に対して15〜40重量部の高密度ポリエチレンを含むゴム糊によって含浸処理が施されている。高密度ポリエチレンの平均分子量は300,000〜400,000である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高負荷環境下、特に自動車の内燃機関等で使用されるベルトであって、歯布に含浸されるゴム糊が改良された歯付きベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関において、クランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達するために、歯付きベルトが広く使用されている。内燃機関で使用される歯付きベルトには一般的に高負荷が作用されるので、歯付きベルトの寿命は比較的短くなる傾向にある。近年、内燃機関は小型化されつつあり、それに伴い歯付きベルトも細幅化されているので、歯付きベルトにはより高い負荷が作用されるようになっている。また、内燃機関は、比較的高温環境下で運転されることが多く、高温環境下における歯付きベルトの耐久性能を向上させる必要がある。
【0003】
ベルト寿命を延ばす1つの方法としては、歯面の摩擦係数を下げて、ベルト歯に作用される負荷を低減させることが考えられる。摩擦係数を下げる具体的な方法としては、例えばポリテトラフロオロエチレン(PTFE)で歯布表面を処理することや、分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粉末等の摩擦係数が低いものを、歯布処理液に添加することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−12818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、PTFEで歯布表面を処理し、或いはUHMWPE粉末を歯布処理液に添加した場合、ベルト本体と歯布との接着性が低下することがある。また、これらはゴムとの相溶性が低く、ベルト運転に伴い歯布表面から離脱するため、ベルト歯面の摩擦係数が時間経過と共に上昇することがある。したがって、PTFEやUHMWPEで摩擦係数が改善されたベルトは、ベルトの寿命を十分に向上させることができない。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、歯布のベルト本体への接着性を良好なものとしつつ、摩擦係数を長期にわたって低いものとし、ベルト寿命、特に高温環境下での寿命を延ばすことができる歯付きベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯付きベルトは、一方の面に長手方向に沿って歯部と歯底部が交互に設けられ、ゴムから形成されるベルト本体と、一方の面に被覆される歯布とを備え、歯布は、ゴム成分100重量部に対して15〜40重量部の高密度ポリエチレンを含むゴム糊によって含浸処理が施されていることを特徴とする。
【0008】
高密度ポリエチレンの平均分子量は、300,000〜400,000であることが好ましい。また、ゴム糊は、HNBR又はNBRを含むことが好ましい。ベルト本体の一部を形成し、かつ歯布に接着されるゴムは、高密度ポリエチレンを含むことが好ましく、より好ましくはさらにHNBRも含む。本発明に係る歯付きベルトは例えば、内燃機関で使用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、歯布に含浸されるゴム糊が、高密度ポリエチレンを所定量含むことにより、高温環境下における歯布と歯ゴム層の接着強度、及び歯面の摩擦係数を良好なものとし、高温環境下におけるベルトの耐久性を向上させることができる。さらに、歯面の摩擦係数を低減することで、異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る歯付ベルトの側面図である。
【図2】歯付ベルトの製造方法を模式的に示す断面図である。
【図3】歯付ベルトの製造方法を模式的に示す断面図である。
【図4】接着強度試験に使用された接着試験サンプルを示す斜視図である。
【図5】接着試験サンプルを引張試験機に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図6】接着強度試験の結果を示すグラフである。
【図7】耐久性能試験で使用される伝動システムのレイアウトを示す模式図である。
【図8】耐久性能試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態における歯付きベルトを示す。歯付きベルト10は、例えば、自動車の内燃機関等で使用される無端状ベルトであって、例えば、クランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達するために使用される動力伝達ベルトである。
【0012】
歯付きベルト10は、ゴムから形成されるベルト本体11と、ベルト本体11に埋設され、ベルトの長手方向に沿って延びる心線要素18とを備える。心線要素18は、例えば一対の心線が歯付きベルト10の長手方向に沿って螺旋状に巻回されることにより幅方向に複数本並べられたものであり、ベルト10の抗張部材となる。ベルト本体11の一方の面(歯面)11Aには、長手方向に沿って歯部15と歯底部16が交互に設けられている。
【0013】
ベルト本体11は、ベルト本体11の歯面11A側に設けられた歯ゴム層12と、ベルト本体11の他方の面(背面)11B側に設けられた背ゴム層13と、これら歯ゴム層12と背ゴム層13の間に設けられる芯ゴム層14とが一体となって形成される。心線要素18は、背ゴム層13と芯ゴム層14との境界面に配置されており、背ゴム層13と芯ゴム層14との境界面は、ベルト10のピッチ面に略一致する。すなわち本実施形態では、心線要素18より背面側のベルト本体11は背ゴム層13によって形成されると共に、心線要素18より歯面側のベルト本体11は、芯ゴム層14に歯ゴム層12が積層されて形成される。
【0014】
芯ゴム層14と歯ゴム層12との境界面は、歯面11Aの形状に応じた形状を呈しており、歯部15のベルト長手方向における中央で最もピッチ面(心線要素18)から遠ざかるとともに、歯底部16に近づくに従ってピッチ面(心線要素18)に近づく。すなわち、芯ゴム層14は、歯部15内部において歯部15の形状に合わせて上側に膨らんでおり、歯部15内部の中心部分を構成する。また、歯部15における歯ゴム層12は、芯ゴム層14の歯面11A側を取り巻くように積層され、歯面11Aに沿って配置される。一方、歯底部16や歯底部16近傍では、芯ゴム層14と歯ゴム層12はともに、相体的に薄い層となっている。
【0015】
芯ゴム層14は、多数の短繊維20が略均等に混入されており、短繊維20が混入されない歯ゴム層12及び背ゴム層13に比べてモジュラスが高くなる。短繊維20としてはモジュラスの比較的高いアラミド短繊維が好適に使用される。本実施形態では、芯ゴム層14のモジュラスを歯ゴム層12より高めることにより、歯部15全体の剛性が低下することを抑制しつつ、歯表面部分を柔らかくすることができる。したがって、歯部表面や歯底部におけるクラックや、ベルト運転時の異音発生等を抑制しつつ、歯部15の耐久性能を向上させることができる。
【0016】
なお、ゴム層のモジュラスとは、そのゴム層と同一のゴム組成物を加硫して得られた試験片を、JIS K6251に従って測定した20%伸びたときの応力をいう。なお、ゴム層に短繊維が混入している場合、試験片では短繊維を一方向に配向させ、その配向方向に試験片を引っ張ったときに測定されたモジュラスをいう。また、試験片はJIS K6251のダンベル状5号形を用いて採取した加硫ゴムである。
【0017】
芯ゴム層14において、短繊維20は規則的に分布させられる。具体的には短繊維20は、歯部15の中央領域では、ほぼベルトの厚さ方向に配向されると共に、その中央領域から歯面に近づくにつれて、歯面に沿うように厚さ方向に対して傾いて配向され、歯部15の頂部近傍や歯底部16近傍ではほぼベルトの長手方向に沿って配向される。
【0018】
歯ゴム層12の外周、すなわちベルト本体11の一方の面11Aには、歯布17が接着・被覆されている。本実施形態における歯布17はポリアリレート繊維を含むことが好ましい。歯布17は例えば、ベルトの幅方向に延びるたて糸と、ベルトの長手方向に延びるよこ糸によって織られた織物で構成され、そのよこ糸にポリアリレートを含むことが好ましい。例えばよこ糸は、ポリアリレート繊維から成る糸と、ポリアリレート繊維よりも伸縮性の高い繊維から成る糸(以下高伸縮性繊維糸という)を含む複合糸である。複合糸は例えば、高伸縮性繊維糸を芯糸として、その周りにポリアリレート繊維糸が巻き回され、さらにポリアリレート繊維糸の周りに、カバー糸が巻き回されて構成されたものである。
【0019】
上記高伸縮性繊維糸としては、例えばウレタン弾性糸等が使用され、カバー糸としては、例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維等で構成される糸が使用される。よこ糸に使用されるポリアリレート繊維は、いわゆる全芳香族ポリエステルからなるものであり、その具体例として、例えばベクトラン(商品名.クラレ社製)が挙げられる。歯布17のたて糸は、その材質が特に限定されるわけではないが、ナイロン繊維またはポリエステル繊維等で構成される。
【0020】
歯布17は歯ゴム層12に接着される前に、ゴム成分及び高密度ポリエチレンを含むゴム糊に浸漬された後乾燥されることにより、ゴム糊含浸処理が施されている。これにより、加硫成型時にゴム糊が加硫され、歯布17は歯ゴム層12に接着されやすくなる。高密度ポリエチレンとしては、例えば、粒子状、繊維状のものが使用され、その表面にOH基及び/またはCOOH基が付加されて表面処理されていても良い。なお、本明細書においては、高密度ポリエチレンとは、比重0.92以上のものをいい、その比重は好ましくは0.92〜0.96である。ゴム糊に添加される高密度ポリエチレンの荷重たわみ温度(ASTM−D648による)は、例えば100〜130℃程度、粘度法(MFR)による平均分子量は、300,000〜400,000程度である。なお、高密度ポリエチレンは、他の分子に架橋可能な部分を有していない。
【0021】
本実施形態では、ゴム糊が上記高密度ポリエチレンを含むことにより、歯布17と歯ゴム層12との接着性を良好にすることができる。また、高密度ポリエチレンによって、歯布表面(すなわち、歯面11A)の摩擦係数を低減させることができるので、ベルト運転時の有効張力を低下させ、ベルトに作用される負荷を低減させることができる。さらに、上記分子量を有する高密度ポリエチレンは、後述する方法でゴム糊のゴム成分に十分に混合・相溶することができるので、ベルト運転に伴い歯布から離脱することが防止される。
【0022】
高密度ポリエチレンは、ゴム糊において、ゴム成分100重量部に対して、15〜40重量部配合される。高密度ポリエチレンを15重量部未満しか配合しないと、ベルトの摩擦係数を低減させる効果は限定的であり、また歯布17の歯ゴム層12に対する接着力も十分に上昇させることができない。また、40重量部より多く配合すると、摩擦係数、特に高温環境下における摩擦係数が、高密度ポリエチレンの軟化による粘着が生じることで上昇し、ベルトの耐久性を十分に向上させることができない。ベルトの高温環境下における耐久性をより高めるために、高密度ポリエチレンは、ゴム糊のゴム成分100重量部に対して好ましくは24〜40重量部配合され、また、摩擦係数を十分に低下させ、かつ歯布17と歯ゴム層12との接着強度を十分に高めるためにより好ましくは24〜32重量部配合される。
【0023】
ゴム糊に使用されるゴム成分としては、HNBR(水素添加ニトリルゴム)、フッ素ゴム、NBR(ニトリルゴム)、これらの混合物、またはこれら1以上のゴムに他の種類のゴムが混合されたもの等が使用されるが、これらゴム成分の中でも、HNBR又はNBRが好適に使用される。ゴム糊のゴム組成物は、ゴム成分及び高密度ポリエチレンに加えて、加硫剤、老化防止剤、加硫助剤、カーボンブラック等の各種添加剤が配合されたものである。
【0024】
本実施形態において、ゴム糊は、以下のように用意される。まず、高密度ポリエチレンを含む、加硫剤以外のゴム組成物の添加剤がゴムと共に混練される(一次練り)。このとき、混練温度は高密度ポリエチレンの荷重たわみ温度以上であり、したがって、高密度ポリエチレンは軟化した状態でゴムに混合され、ゴムに良好に混合・相溶される。一次練りを終えた混合物にはさらに加硫剤が添加され、加硫剤の加硫温度未満(一次練りの混練温度未満)で混練されてゴム組成物が得られる(二次練り)。そして、このゴム組成物に、フェノールレジン等の有機補強剤、および溶媒等が加えられてゴム糊が得られる。なお、上記ゴム組成物は、高密度ポリエチレンが荷重たわみ温度以上の温度でゴム成分と混練されるとともに、加硫剤が加硫温度未満の温度でゴム成分に混練されるのならば、上記方法で混練されなくても良い。例えば、二次練りで加硫剤以外の添加剤が添加されても良い。
【0025】
歯ゴム層12、背ゴム層13、及び芯ゴム層14は、ゴム組成物が加硫して形成されたものである。ゴム層12〜14のゴム成分としては、上記ゴム糊で例示したゴム成分と同様のものが使用されるが、HNBRが好適に使用される。またゴム層12〜14のゴム成分としては、互いに同種のゴムが使用されることが好ましい。さらに歯ゴム層12のゴム成分は、ゴム糊のゴム成分と同種のゴムが使用されることが好ましい。
【0026】
各ゴム層12〜14のゴム組成物には、ゴム成分に加えて、加硫剤、老化防止剤、加硫助剤、カーボンブラック等の各種添加剤が含まれている。また、ゴム層12〜14のゴム組成物には、これらの強度を向上させるために、(メタ)アクリル酸亜鉛等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が含まれていることが好ましい。
【0027】
本実施形態では、歯ゴム層12のゴム組成物には好ましくは、高密度ポリエチレンが含まれる。歯ゴム層12のゴム組成物に添加される高密度ポリエチレンは、ゴム糊に配合される高密度ポリエチレンと同様のものが使用される。歯ゴム層12のゴム組成物に高密度ポリエチレンが含まれる場合、歯ゴム層12のゴム組成物は、ゴム糊のゴム組成物と同様の方法により混練されて得られることが好ましい。
【0028】
歯ゴム層12に上記高密度ポリエチレンが含まれることにより、動的粘弾性測定法により測定された歯ゴム層12の100〜120℃におけるtanδは、0.100〜0.120の範囲内となることが好ましい。なお、tanδとは、弾性に相当する貯蔵弾性率(E’)と粘性に相当する損失弾性率(E”)の比である損失正接(=E”/E’)をいう。本実施形態では歯ゴム層12のtanδが高温環境下で上記範囲となることにより、高温環境下でベルトの噛み合い面(歯面11A)に作用される負荷エネルギーを吸収しやすくなるので、ベルト10を高温環境下で使用しても、噛み合い時等に生じる異音の発生が防止される。また、歯ゴム層12に上記性質の高密度ポリエチレンを含有させることにより、tanδを上記範囲内としつつ歯ゴム層12と歯布17との接着性を高めることができるので、ベルトの耐久性を高めることができる。
【0029】
なお、tanδは、歯ゴム層と同一のゴム組成物を、温度120℃で20分間加硫して得られたサンプルから作製された厚み1.9〜2.7mm、幅6mm、長さ5mmの試料を用いて測定したものをいう。また、測定装置としては、島津製作所社製の粘弾性スペクトロメータ(商品名.粘弾性試験機 トライトン製トライテック2000)を用い、振幅±2.5%、周波数1Hzの測定条件で測定したものとする。
【0030】
高密度ポリエチレンは、歯ゴム層12のゴム組成物において、マトリックスゴム100重量部に対して10重量部以下、好ましくは3〜10重量部、特に好ましくは5〜10重量配合される。高密度ポリエチレンを3重量部未満しか配合しないと、耐久性能や音性能の向上が限定的であるとともに、10重量部より多く配合すると、耐久性能や音性能が実質的に向上しなくなる。また、5〜10重量部配合した場合、耐久性能を特に効果的に向上させることができる。なお、“マトリックスゴム100重量部”とは、ゴム組成物にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されている場合には、ゴムとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩との合計が100重量部であることを示し、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩が配合されていない場合には、ゴム単独で100重量部であることを示す。
【0031】
背ゴム層13には、心線要素18から離間した位置で、ピッチ面(心線要素18)と略平行に配置された中間帆布21が埋設される。中間帆布21は、ベルトの長手方向及び幅方向に沿って面状に広がり、ベルトの長手方向及び幅方向の全体にわたって設けられるものである。中間帆布21は、ベルト幅方向に剛性が高く、ベルト長手方向に伸縮性のある帆布である。中間帆布21としては、好ましくはベルト幅方向における弾性率が100GPa以上の帆布が使用されるが、特に好ましくは当該弾性率が180〜240GPaである帆布が使用される。なお、弾性率は、JIS L1095 9.13の初期引張抵抗度に基づいて測定されたものである。
【0032】
中間帆布21は、ベルト幅方向に延びるたて糸22と、ベルト長手方向に延びるよこ糸23によって織られた織布であって、例えば綾織、平織等で織られたものである。中間帆布21のたて糸22としては、高剛性の非伸縮糸が使用され、例えばアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、カーボン繊維、またはこれらの混合繊維等から構成される糸が使用される。また、よこ糸23としては、伸縮糸が使用され、例えばウーリーナイロン等の捲縮ナイロン糸が使用される。
【0033】
本実施形態では、背ゴム層13にベルト幅方向に剛性の高い中間帆布21が埋設されることにより、歯部15の剛性を上げることなく、歯付きベルト10の捻り剛性が向上し、ベルト運転時の有効張力を低減させることが可能となる。有効張力が低減すると、ベルトに作用される負荷が抑制され、ベルトの耐久性を向上させることができる。また、中間帆布21のベルト長手方向に延びる糸として伸縮糸が使用されることにより、後述する製造工程で中間帆布21が歯付きモールドに容易に取り付けられ、ベルトの成型性を良好なものとすることができる。なお、本実施形態では、中間帆布21は省略されても良い。
【0034】
次に、図2、3を用いて歯付きベルト10の製造工程について説明する。図2は、歯付きモールド31に、予成型ゴム付き歯布32、心線18’、第1の背ゴムシート13A’が貼付された中間帆布21’、及び第2の背ゴムシート13B’を巻き付ける工程を示す。なお、図2における歯ゴムシート12’、芯ゴムシート14’、及び背ゴムシート13A’、13B’は、加硫成型後にそれぞれベルト10において歯ゴム層12、芯ゴム層14、背ゴム層13となるものである。上記各ゴムシートは、未加硫のゴム組成物それぞれがシート状にされたものであり、芯ゴムシート14’には短繊維20が配合されている。また、歯布17’、心線18’、中間帆布21’は、ベルト10において歯布17、心線要素18、及び中間帆布21となるものである。
【0035】
本方法においては、まずゴム糊で含浸処理された歯布17’がコルゲート状に予成型されて、歯布17’に歯部15’と歯底部16’が所定の方向に沿って交互に設けられる。次いで、その予成型された歯布17’に歯ゴムシート12’及び芯ゴムシート14’がこの順で圧着されて一体化され、予成型ゴム付き歯布32が用意される。このとき、歯ゴムシート12’及び芯ゴムシート14’は押圧されることにより、歯布17’の歯部15’に相体的に肉厚に圧着される一方、歯底部16’に相体的に薄く圧着される。また、芯ゴムシート14’において、短繊維20は圧着前上記所定の方向に配向されているが、歯布17’に圧着されるとき、歯部15’内部において歯部形状に沿うように傾けられる。
【0036】
次いで、歯付きベルト10を加硫成型するために使用される歯付きモールド31が用意される。歯付きモールド31は、円筒形状を有するとともに、その外周面がベルト10の歯面の形状に一致する形状を呈し、周方向に沿って凹部33と凸部34が交互に設けられている。歯付きモールド31の外周面には、まず予成型ゴム付き歯布32が、各歯部15’が各凹部33の内部に配置されるようにして巻き付けられる。なお、各歯部15’は、通常、凹部33に完全に一致した形状となっておらず、歯部15’と凹部33の間には隙間がある。
【0037】
次いで、予成型ゴム付き歯布32の芯ゴムシート14’の上に心線18’が螺旋状に巻き付けられる。巻き付けられた心線18’の上には、所定の厚みの第1の背ゴムシート13A’が貼付された中間帆布21’が、背ゴムシート13A’がモールド31の内側(心線18’側)を向くように巻き付けられる。但し、第1の背ゴムシート13A’は、中間帆布21’とは別体とされ、心線18’の上に第1の背ゴムシート13A’、中間帆布21’がこの順で巻き付けられても良い。なお、このとき、たて糸22がモールド31の軸方向に、よこ糸23がモールド31の周方向に沿って配置される。巻き付けられた中間帆布21’の上にはさらに、第2の背ゴムシート13B’が巻き付けられる。これら予成型ゴム付き歯布32等が巻き付けられた歯付きモールド31は、加硫釜(不図示)内に収容される。加硫釜内において、歯付きモールド31に巻き付けられた予成型ゴム付き歯布32等は、例えばスチームにより加熱され、加硫釜内に設けられた加硫バッグ等によって外側から内側に向けて加圧される。
【0038】
上記加圧・加熱により、ゴムシート12’、13A’、13B’、14’は流動性が増した状態で内側に押圧され、第2の背ゴムシート13B’は、中間帆布21’のたて糸22、よこ糸23の隙間から内部に流入し、第1の背ゴムシート13A’に一体化される。これにより、背ゴムシート13A’、13B’の内部に中間帆布21’が埋設される。さらには、心線18’も、背ゴムシート13A’及び芯ゴムシート14’の間に埋設される。また、歯布17’はこれらゴムシートに押されて、モールド31の外周面に一致した形状となり、ベルトの歯面が形成される。ここで、芯ゴムシート内部の短繊維20は、一部がさらに厚さ方向に沿うように配向され、図1の配向を示すようになる。また、上記加圧・加熱により、各ゴムシートが加硫され、各ゴムシート、歯布17’、中間帆布21’、及び心線18’が一体化され図3に示すようなベルトスラブ10’が得られる。ベルトスラブ10’は、歯付きモールド31から取り外され研磨後裁断されることにより、歯付きベルト10(図1参照)となる。
【0039】
以下、本実施形態の具体的な例として実施例を示すが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
歯布としてたて糸とよこ糸が2/2の綾織で織られた織布を用意した。歯布において、たて糸は、110dtexのナイロン66のフィラメント糸であるとともに、よこ糸は、470dtexのウレタン弾性糸から成る芯糸の周りに、280dtexのポリアリレート繊維糸(ベクトラン(商品名.クラレ社製))を巻き回し、そのポリアリレート繊維糸の周りにさらに110dtexのナイロン66から成るカバー糸を巻き回した複合糸であった。次いで、歯布を表1に示すゴム組成物を有するゴム糊に浸漬した後、乾燥(100℃、5分間)して含浸処理を施した。ゴム糊は、加硫剤以外の添加剤及びゴム成分を120℃以上で混練し(一次練り)、その後加硫剤を添加して加硫剤の加硫温度未満で混練してゴム組成物を得て(二次練り)、そのゴム組成物にMEK及びフェノールレジンを加えて作製した。ゴム糊において、ゴム組成物:フェノールレジン:MEKの重量比は、100:33:500であった。
【0041】
【表1】

※ HNBRのゴム成分としてZetpol 2020(商品名.日本ゼオン社製)を、HDPE(高密度ポリエチレン)としてインヘンス(INHANCE)PEFファイバー(商品名.フルオロシール社製)を使用した。表1における各数値は重量部を示す。
【0042】
表2に示すゴム組成物から成る背ゴムシート(第1及び第2の背ゴムシート)、芯ゴムシート、歯ゴムシートを用意した。なお、歯ゴムシートは、ゴム糊と同様の方法で混練されたゴム組成物を、カレンダー処理して得られたものであった。また、芯ゴムシートには繊維長1mmのアラミド短繊維が配合されており、芯ゴムシートのモジュラスは第1及び第2の背ゴムシート及び歯ゴムシートよりも高かった。歯布を予成型し、この歯布に歯ゴムシート及び芯ゴムシートを圧着して、予成型ゴム付き歯布を得た。
【0043】
【表2】

※1 表中において、HNBR/(HNBR+ジメタクリル酸亜鉛)、ジメタクリル酸亜鉛/(HNBR+ジメタクリル酸亜鉛)はこれらの比率を、それ以外は重量部であることを示す。
※2 HNBRポリマーは水素添加率99%のHNBRであった。
※3 ジメタクリル酸亜鉛含有ポリマー(1)は、HNBRとジメタクリル酸亜鉛の配合比が55:45のゴムマトリックスであり、HNBRの水素添加率は99%であった。
※4 ジメタクリル酸亜鉛含有ポリマー(2)は、HNBRとジメタクリル酸亜鉛の配合比が83:17のゴムマトリックスであり、HNBRの水素添加率は96%であった。
※5 HDPEとして、インヘンス(INHANCE)PEFファイバー(商品名.フルオロシール社製)を使用した。
【0044】
次いで、予成型ゴム付き歯布、心線、第1の背ゴムシートを貼付した中間帆布、および第2の背ゴムシートを歯付きモールドにこの順に巻き付けた。中間帆布としては、ナイロン66から成る470dtexのウーリーナイロン糸のよこ糸と、アラミド繊維(商品名.テクノーラHM、帝人テクノプロダクツ社製)の撚り糸から成る440dtexのたて糸が平織された織布を用い、よこ糸をモールドの周方向に沿って配置した。モールドに巻き付けられる前の中間帆布のたて糸方向(ベルトの幅方向に相当)の弾性率は100GPaであった。次いで、モールドに取り付けられたゴムシート等を加硫釜内で、加熱・加圧により加硫成型しベルトスラブを得た。ベルトスラブを研磨・切断し、ベルト幅16mm、周長さ900mm、歯数92のRU型の歯付きベルトを得た。
【0045】
[実施例2〜4]
ゴム糊に配合される高密度ポリエチレンの重量部を表1に示すように変更した点を除いて、実施例1と同様に実施例2〜4を実施した。
【0046】
[実施例5]
ゴム糊のゴム成分として、HNBRの代わりにNBRを使用した点を除いて実施例4と同様に実施した。
【0047】
[比較例1]
ゴム糊に高密度ポリエチレンを配合しなかった点を除いて、実施例1と同様に実施した。
【0048】
[比較例2]
ゴム糊に配合される高密度ポリエチレンを10重量部とした点を除いて、実施例1と同様に実施した。
【0049】
[比較例3]
ゴム糊のゴム成分として、HNBRの代わりにNBRを使用した点を除いて比較例1と同様に実施した。
【0050】
各実施例、比較例のゴム糊含浸処理を施した歯布について、動摩擦係数を新東科学社製の摩擦試験装置TYPE:14FWで測定した。その結果を表3に示す。測定条件は、移動モードがシングルモード、移動速度500mm/分、荷重200gであった。
【表3】

【0051】
実施例1〜5、および比較例1〜3に係る歯布と歯ゴム層間の接着強度を、接着強度試験により評価した。図4に示すように、本試験においては、未加硫ゴムシートの上に歯布を配置し、プレス機により圧力を作用させつつ160℃で20分間加硫して、これらが一体化された接着試験サンプル50を用いた。接着試験サンプル50は、長さ100mm、幅25mm、厚さ4mmであった。本試験における未加硫ゴムシートには、各実施例、比較例の歯ゴム層と同じ配合のゴム組成物を用い、また歯布には各実施例、比較例と同様に含浸処理された歯布を用いた。
【0052】
図5は、接着試験サンプルを引張試験機に取り付けた状態を示す。図5に示すように、接着試験サンプル50において、歯布52とゴムシート51を僅かに剥がし、歯布52の端部をチャック61で挟み、ゴムシート51の端部をチャック62で挟み、両者を50mm/分の速度で引っ張りこれらを剥離した。このときの剥離に要する力を接着強度とした。接着強度試験は、120℃の高温環境下で行った。接着強度試験の結果を図6に示す。
【0053】
図7は、内燃機関における伝動システムの一例を示すレイアウトである。この伝動システムを用いて、上記実施例1〜5、比較例1〜2の歯付きベルトについて耐久性能試験を実施した。伝動システム40は、クランクシャフトに連結される20歯・直径60mmの原動歯付きプーリ41と、カムシャフトに連結される40歯・直径121mmの従動歯付きプーリ42、43と、直径80mmの平テンショナプーリ44を有する。歯付きベルト10をプーリ41〜43に架設し、ベルトの緩み側でテンショナプーリ44によって外周側から張力を付与した状態で、4000rpmで回転させ、ベルトが破損されるまでの時間を測定した。なお、試験は120℃雰囲気下で行われた。各実施例、比較例について、ベルトが破損されたときの時間を図8に示す。但し、実施例2〜5に関しては、ベルトが破損される前に200時間経過した時点でベルト運転を停止した。
【0054】
図8から明らかなように、HNBRのゴム糊に高密度ポリエチレンを配合せず、若しくは10重量部配合した比較例1、2に比べて、高密度ポリエチレンを15〜40重量部配合した実施例1〜4は高温環境下における耐久性が向上したことが理解できる。特に、本評価では表3、図6、8から明らかなように、高密度ポリエチレンを24〜32重量部配合した場合に、接着強度、摩擦係数、耐久性が良好であったことが理解できる。さらに、ゴム糊のゴム成分としてNBRを使用した比較例3、実施例5に関しても、高密度ポリエチレンを添加した実施例5のほうが接着強度、摩擦係数が比較例3に比べて良好になるとともに、実施例5の耐久性は良好になったことが理解できる。
【符号の説明】
【0055】
10 歯付きベルト
11 ベルト本体
12 歯ゴム層
13 背ゴム層
14 芯ゴム層
15 歯部
16 歯底部
17 歯布
18 心線要素
20 短繊維
21 中間帆布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に長手方向に沿って歯部と歯底部が交互に設けられ、ゴムから形成されるベルト本体と、
前記一方の面に被覆される歯布とを備え、
前記歯布は、ゴム成分100重量部に対して15〜40重量部の高密度ポリエチレンを含むゴム糊によって含浸処理が施されていることを特徴とする歯付きベルト。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンの平均分子量が、300,000〜400,000であることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項3】
前記ゴム糊は、HNBR又はNBRを含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項4】
前記ベルト本体の一部を形成し、かつ前記歯布に接着されるゴムは、高密度ポリエチレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項5】
前記ベルト本体の一部を形成し、かつ前記歯布に接着されるゴムは、HNBRを含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項6】
内燃機関で使用されることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−64256(P2011−64256A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214893(P2009−214893)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】