説明

歯切り工具および歯切り加工方法

【課題】加工装置の機械剛性が低い場合や被削歯車自体の剛性が低い場合でも、被削歯車の歯と工具本体の刃部との噛み合い状態を安定させて歯形にうねりが発生したりするのを防ぎ、より高精度の歯を被削歯車に形成する。
【解決手段】被削歯車11の歯12と噛み合う刃部4によって被削歯車11に歯切り加工を行う際に、回転駆動される被削歯車11に対して同期するように駆動されることにより、工具の刃面7,9が被削歯車11の歯面14,15と接触させられて噛み合わされ、かつこうして噛み合わされた状態において、工具の右刃面7が被削歯車11と噛み合う歯面14の数と、工具の左刃面9が被削歯車11と噛み合う歯面15の数が常に同数とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホブカッタやピニオンカッタ、電着ウォーム状工具のように、被削歯車に歯切り加工を施して歯を形成する歯切り工具、およびこのような歯切り工具による歯切り加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような歯切り工具としては、例えば特許文献1に記載されたホブカッタや特許文献2に記載されたピニオンカッタのように切刃を有する刃部を備えたカッタ、あるいは特許文献3に記載されているようなウォーム状の刃部にダイヤモンド砥粒等を電着した電着ウォーム状工具が知られている。これらの歯切り工具においては、ホブカッタや電着ウォーム状工具では、その工具本体の回転軸線を被削歯車の中心軸線に交差する平面上に位置させるようにして、またピニオンカッタでは、その回転軸線を被削歯車の中心軸線と平行となるようにして、いずれも被削歯車を中心軸線回りに強制的に回転駆動するとともに、この被削歯車の回転に同期するように工具本体も被削歯車とは独立して強制的に回転駆動させ、被削歯車の歯の歯面に刃部の刃面が接触するように噛み合わせることにより、この刃部によって被削歯車の歯の歯面を形成してゆく。なお以後本明細書においては被削歯車に関するものを歯(面)、工具に関するものを刃(面)とする。
【特許文献1】特開2003−178015号公報
【特許文献2】特開2004−160645号公報
【特許文献3】特開2003−266241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このようなホブカッタやピニオンカッタ、電着ウォーム状工具等による歯切り加工において歯形成形誤差が生じる場合には、カッタと被削歯車とがそれぞれ独立して互いに同期するように強制的に回転駆動されるため、少なくともいずれか一方の回転軸への取付誤差による影響が大きいと考えられていた。ところが近年では、歯切り加工への一層の高精度化の要求に伴い、このような被削歯車や工具本体の取付誤差以外にも、ホブ盤や歯切り盤等の加工装置において被削歯車が取り付けられる上記回転軸などの装置自体の機械剛性が低い場合や、あるいは被削歯車そのものの剛性が低い場合に、上記刃面と歯面との噛み合い状態が変動することによる誤差の影響が無視できなくなってきており、このような誤差が大きくなると、たとえ回転軸への取付誤差を最小限に抑えても、形成された歯形にうねりが生じるおそれがある。
【0004】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のように加工装置の機械剛性が低い場合や被削歯車自体の剛性が低い場合でも、被削歯車の歯と工具本体の刃部との噛み合い状態を安定させて歯形にうねりが発生したりするのを防ぎ、より高精度の歯を被削歯車に形成することが可能な歯切り工具および歯切り加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の歯切り工具は、被削歯車の歯と噛み合う刃部によって該被削歯車に歯切り加工を行う歯切り工具であって、回転駆動される上記被削歯車に対して同期するように駆動されることにより、上記工具の刃面が上記被削歯車の歯面と接触させられて噛み合わされ、かつこうして噛み合わされた状態において、上記工具の右刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数と、上記工具の左刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数が常に同数とされることを特徴とする。なお、本明細書においては、歯切り工具がホブカッタやピニオンカッタのようにすくい面を有している場合はこの工具をすくい面から山中心に見て右側を右刃面、左側を左刃面とし、歯切り工具が電着ウォーム状工具のようにすくい面を有さない場合は工具の回転方向に対向する方向から山中心に見て右側を右刃面、左側を左刃面とする。また、本発明の歯切り加工方法は、被削歯車の歯に歯切り工具の刃部を噛み合わせて歯切り加工を行う歯切り加工方法であって、回転駆動される上記被削歯車に対して上記歯切り工具を同期させて駆動することにより、上記工具の刃面と上記被削歯車の歯面とを接触させて噛み合わせ、かつこうして噛み合わされた状態において、上記工具の右刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数と、上記工具の左刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数が常に同数となるように接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された歯切り工具および歯切り加工方法において、被削歯車の歯は、その右歯面と左歯面とが歯切り工具の刃部の左刃面と右刃面とに常に互いに等しい数の箇所で接触させられつつ、該刃部と噛み合わされて歯切り加工されるので、この刃部の刃面との接触により被削歯車の歯に作用する応力や抵抗は、右歯面から作用するものと左歯面から作用するものとで互いに相殺されることになる。従って、たとえこの被削歯車が取り付けられる回転軸等の加工装置の剛性や、被削歯車の歯自体の剛性が低い場合であっても、該被削歯車の歯の左右両歯面に作用する圧力や抵抗の不均衡によって歯が左右いずれかの歯面側に偏って強く押し付けられたりするのを防ぐことができ、これにより歯切り工具の刃部との歯面同士の噛み合い状態が変動するのを抑えて、当該歯切り工具によって形成された被削歯車の歯形にうねり等が発生するのを防ぎ、高精度の歯切り加工を促すことが可能となる。本明細書では、工具の右刃面に接触する被削歯車歯面を左歯面、工具の左刃面に接触する被削歯車歯面を右歯面と定義する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1および図2は、本発明の歯切り工具をホブカッタに適用した場合の第1の実施形態、および該第1の実施形態のホブカッタによる本発明の歯切り加工方法の第1の実施形態を示すものである。本実施形態のホブカッタは、図1に示すように軸線O回りに回転方向Tに回転させられる工具本体1の外周に、上記軸線O回りに捩れる螺旋状のネジ状部2と、周方向に間隔をあけてそれぞれ軸線O方向に延びる複数条の溝部3とが互いに交差するように形成されており、これらの溝部3が上記ネジ状部2に交差して形成された刃部4の回転方向T側を向く面がすくい面5とされる。そして、回転方向T側からこのすくい面5に対向して見たときに該すくい面5は外周側に向けて先細りとなる概略等脚台形状とされ、その右側の辺稜部が右切刃6とされてこの右切刃6の回転方向T後方側に連なる刃部4の側面が右刃面7とされ、すくい面5の左側の辺稜部が左切刃8とされてこの左切刃8の回転方向T後方側に連なる刃部4の側面が左刃面9とされる。
【0008】
このようなホブカッタは、歯切り加工装置であるホブ盤の回転軸10に取り付けられて上記軸線O回りに回転方向Tに強制的に回転駆動させられるとともに、被削歯車11の歯すじ方向(被削歯車11が平歯車の場合は図1および図2において図面に直交する方向)に送られて、該被削歯車11に歯12を形成してゆく。すなわち、このホブカッタの工具本体1の回転により、上記ネジ状部2に形成された刃部4が順次歯形を創成する面に現れて、この歯形創成面上における刃部4の軌跡が、図1に符号Aに示す進行方向に直進するラックRとして投影される。一方、被削歯車11も、その中心軸Cが上記軸線Oに対して所定の取付角をなすように上記ホブ盤の他の回転軸13に取り付けられて、上記ラックRの進行方向Aに沿うように上記中心軸C回りに回転方向Bに強制的に回転駆動させられ、この被削歯車11の回転と上記ホブカッタの工具本体1の回転とが、上記ラックRに被削歯車11の歯12が噛み合うように同期させられて駆動される。
【0009】
従って、工具本体1の刃部4は、その右切刃6が歯12の左歯面14を切削して該刃部4の上記右刃面7がこの歯12の左歯面14と接触させられ、また左切刃8が歯12の右歯面15を切削して刃部4の左刃面9が歯12の右歯面15と接触させられることとなる。すなわち、本実施形態では、図1に示すように被削歯車11の歯12と工具本体1の刃部4とが接触する部分を上に、被削歯車11の中心軸Cを下にして、この中心軸Cに沿って工具本体1の回転方向Tに向けて見たときに、この接触部分における歯12の左側の歯面が左歯面14とされるとともに、これと接触する刃部4の右側の刃面が右刃面7とされ、逆に刃部4との接触部分で歯12の右側に位置する歯面が右歯面15とされるとともに、これと接触する刃部4の左側の刃面が左刃面9とされている。そして、こうして噛み合わされて接触させられる刃部4の左右刃面7,9と歯の左右歯面14,15とは、刃部4の右刃面7が歯12の左歯面14に接触する箇所と、刃部4の左刃面9が歯12の右歯面15に接触する箇所とが、同数とされる。
【0010】
ここで、図2(a)〜(l)は、本実施形態において上記ラックRが進行方向Aに刃部4の1ピッチ分だけ直進させられる間の刃部4の左右刃面7,9と歯12の左右歯面14,15との接触状態を順次示すものであり、この図2に示されるように工具本体1と被削歯車11とが同期して回転駆動させられて、ラックRが上記進行方向Aに沿って直線上を前進させられるとともに被削歯車11が円周上を回転方向Bに回転させられるのに伴い、刃部4の左右刃面7,9と歯12の左右歯面14,15とが接触する箇所P,Qも歯12の歯丈方向に沿って変化してゆく。なお、図中に符号Pで示す接触箇所は刃部4の右刃面7が歯12の左歯面14に接触する箇所であり、符号Qで示す接触箇所は刃部4の左刃面9が歯12の右歯面15に接触する箇所である。
【0011】
そして、本実施形態の歯切り工具および歯切り加工方法では、こうして互いに接触する刃部4の右刃面7と歯12の左歯面14との接触箇所Pと、刃部4の左刃面9と歯12の右歯面15との接触箇所Qとが、上述のように歯12の歯丈方向に変化してゆくにも関わらず、同数となるようにされているのである。すなわち、上記ラックRにおける1の刃部4の軌跡が、図2(a)に示すようにこのラックRの進行方向Aに沿った直線と被削歯車11の回転方向Bに沿った円周との接点位置にある状態から、図2(b)〜(f)に示すように進行方向A側に進行するのに伴い、その接触箇所P,Qがそれぞれ歯丈方向に変化しながらも、この1の刃部4の右刃面7と該1の刃部4の1つ進行方向A後方側に軌跡が投影される次の刃部4の右刃面7とがこれらの右刃面7にそれぞれ対向する2つの歯12の左歯面14に各々1つずつの接触箇所Pで接触し、かつこの1の刃部4の左刃面9と該1の刃部4の1つ進行方向A側に軌跡が投影される前の刃部4の左刃面9とがこれらの左刃面9にそれぞれ対向する2つの歯12の右歯面15に、やはり各々1つずつの接触箇所Qで接触する。
【0012】
次いで、ラックRの進行および被削歯車11の回転に伴い、この被削歯車11の1の歯12が上記接点位置に位置すると、図2(g)に示すようにこの1の歯12の左歯面14には該1の歯12の進行方向A後方側に位置する上記次の刃部4の右刃面7が接触箇所Pで、またこの1の歯12の右歯面15には該1の歯12の進行方向A側に位置する上記1の刃部4の左刃面9が接触箇所Qで、それぞれ接触することになり、すなわちこの状態では刃部4の左右刃面7,9と被削歯車11の歯(1の歯)12の左右歯面14,15とが、それぞれ1箇所ずつの接触箇所P,Qで接触することになる。さらに、この状態からラックRが進行するとともに被削歯車11が回転すると、図2(h)〜(l)に示すようにやはり接触箇所P,Qが歯丈方向に変化しながらも、上記1の歯12の左右歯面14,15に上記1の刃部4の左刃面9と上記次の刃部4の右刃面7とがそれぞれ接触させられるとともに、この1の歯12の回転方向B後方側に位置する次の歯12の右歯面15には次の刃部4の左刃面9が、またこの次の歯12の左歯面14には上記次の刃部4のさらに進行方向A後方側に位置する刃部4の右刃面7が、それぞれ接触させられ、この次の刃部4が上記接点位置に達したところで図2(a)の状態に戻ることになる。
【0013】
従って、本実施形態では、図2(g)に示したように1の歯12のみが、その右歯面15を進行方向A側の上記1の刃部4の左刃面9と接触箇所Qで、また左歯面14を進行方向A後方側の上記次の刃部4の右刃面7と接触箇所Pで接触させた状態とされている以外は、2つの歯12の左右歯面14,15が刃部4の右左刃面7,9とそれぞれ1箇所の合計2箇所ずつの接触箇所P,Qで接触した状態とされており、すなわち全ての状態において上述のように刃部4の右刃面7と歯12の左歯面14との接触箇所Pと、刃部4の左刃面9と歯12の右歯面15との接触箇所Qとが、同数となるようにされているのであり、また刃部4と接触している1つの歯12に関しては常にその左右両歯面14,15が1箇所ずつの接触箇所P,Qで隣接する2つの刃部4の右刃面7と左刃面9とに接触しているのである。ただし、本実施形態のようなホブカッタにおいては、この刃部4は上述のようにその軸線O回りの回転軌跡がなすラックRにおいて、その左右刃面7,9が歯12の左右歯面14,15と接触させられることとなる。
【0014】
このように構成された歯切り工具および歯切り加工方法によれば、こうして被削歯車11が、その歯12の左右歯面14,15を工具本体1の刃部4の右左刃面7,9と同数の接触箇所P,Qで接触させつつ加工が行われるため、この加工時に歯12にその左右歯面14,15から作用する切削抵抗や応力が互いに相殺されて接触面圧力が略等しくなる。このため、被削歯車11が取り付けられて回転駆動させられる上記回転軸13などの装置自体の機械剛性が低い場合や、あるいは被削歯車11自体の剛性が低い場合などでも、歯12が左右いずれかの側に偏って強く押し付けられることにより刃部4との噛み合い状態に変動が生じるのを抑えて安定させることができ、加工された被削歯車11の歯面14,15にこのような噛み合い状態の変動によってうねりが生じたりするのを防いで、加工精度の向上を図ることが可能となる。
【0015】
しかも、本実施形態では、1つの歯12に対してその左右歯面14,15が常に一対の刃部4の右刃面7と左刃面9とに接触して加工が行われることになるため、被削歯車11のうちでも特に歯12自体の剛性が低い場合であっても、これら左右歯面14,15に作用する接触面圧力を等しくして、一層確実にうねりの発生等を防ぐことができる。なお、この第1の実施形態では上述のように本発明をホブカッタに適用した場合について説明したが、このようなもの以外にも、本発明は、例えば刃部の軸線回りの回転によって進行方向Aに直進するラックRが形成されることになる電着ウォーム状工具や、被削歯車11の中心軸Cと平行な軸線O回りに互いに同期して回転駆動されつつ該軸線O方向に送り出されるピニオンカッタに本発明を適用することも可能である。
【0016】
ここで、図3は、このような本発明の歯切り工具の第2の実施形態としてのピニオンカッタ、および該ピニオンカッタによる本発明の歯切り加工方法の第2の実施形態を示すものである。このピニオンカッタは、軸線Oを中心として回転方向Tに回転される概略円盤状をなす工具本体21の外周に複数(多数)の刃部22が歯車状をなすように形成されていて、これらの刃部22の軸線O方向先端側(図3(a)、(c)において下側)を向く端面がすくい面23とされるとともに、図3(b)、(d)に示すように該軸線O方向先端側から見たときに、このすくい面23の回転方向T後方側の辺稜部が右切刃24とされてこの右切刃24の後端側に連なる刃部22の側面が右刃面25とされ、すくい面23の回転方向T側の辺稜部が左切刃26とされてこの左切刃26の後端側に連なる刃部22の側面が左刃面27とされる。
【0017】
このようなピニオンカッタによる歯切り加工方法において、工具本体21はその軸線Oが上述のように被削歯車11の中心軸Cと平行になるように配置され、該軸線O回りに回転方向Tに強制的に回転駆動されつつ軸線O方向に往復駆動されて、同じく中心軸C回りの回転方向Bに回転軸13によって強制的に回転駆動させられる被削歯車11の歯12に刃部22が噛み合わされながら、軸線Oと中心軸Cとが接近するように工具本体21と被削歯車11とが相対的に移動させられ、工具本体21が軸線O方向先端側に前進する際に刃部22の左右切刃24,26によって被削歯車11の歯12の左右歯面14,15を切削してゆく。すなわち、本実施形態では、被削歯車11の歯12と工具本体21の刃部22とが接触する部分を上に、工具本体21の軸線Oを下にして、この中心軸Cに沿ってすくい面23に対向する側から見たとき(図3(d)において被削歯車11を上に、工具本体21を下にして見たとき)に、この接触部分における刃部22の右側の刃面が右刃面25とされるとともに、これと接触する歯12の左側の歯面が左歯面14とされ、逆に刃部22の左側の刃面が左刃面27とされるとともに、これと接触する歯12の右側に位置する歯面が右歯面15とされる。
【0018】
そして、このとき、本実施形態においても、刃部22の右刃面25と歯12の左歯面14とが接触する箇所と、刃部22の左刃面27と歯12の右歯面15とが接触する箇所とが、同数となるようにさせられており、従ってこの第2の実施形態でも第1の実施形態のホブカッタの場合と同様に、刃部22と歯12との噛み合い状態に変動が生じるのを抑えて被削歯車11の歯面14,15にうねりが生じるのを防ぐことができ、加工精度の向上を図ることが可能となる。
【0019】
なお、これらの実施形態のように、歯切り工具の刃部の右刃面と被削歯車の歯の左歯面とが接触する箇所と、歯切り工具の刃部の左刃面と被削歯車の歯の右歯面とが接触する箇所とが同数となるように刃部と歯とを接触させるには、第1の実施形態のように歯切り工具がホブカッタであったり、あるいは電着ウォーム状工具であったりする場合には、例えば転位圧力角を調整すればよい。また、第2の実施形態のように歯切り工具がピニオンカッタである場合には、例えば転位係数を調整すればよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。本実施例では、第2の実施形態と同様にピニオンカッタに本発明を適用した場合において、加工された被削歯車の左右歯面について、その歯形のうねりを測定した。この結果を図4に示す。また、この実施例に対する比較例として、本発明を適用しない、すなわち噛み合わされた刃部の右歯面と歯の左歯面とが接触する箇所と、刃部の左歯面と歯の右歯面とが接触する箇所とが同数とならず、互いに異なる数となる状態が存在するようにされた以外は、実施例と同様の条件において被削歯車の歯切り加工を行い、その左右歯面の歯形のうねりを測定した。この結果を図5に示す。
【0021】
なお、これらの実施例および比較例において、被削歯車は、モジュール2.4846mm、歯数13、圧力角19°、捩れ角0°、外径39.9mm、ピッチ円径32.2998mm、歯底径29.65mm、歯幅16.8mm、またぎ歯厚19.808mm、またぎ枚数3枚、転位係数0.599の平歯車であり、13の歯のうち4つ(任意の1歯を1番目として1、4、8、11番目の歯)について、それぞれの歯形のうねりと平均、およびそのバラツキを図4および図5に示す。なお、図4および図5のスケールは、破線の升目の横軸方向の1目盛りが0.625mm、縦軸方向の1目盛りが10μmである。また、これら実施例および比較例において用いたピニオンカッタは、歯数72枚、捩れ角0°、またぎ枚数9枚は共通で、比較例では外径186.3782mm、またぎ歯厚65.2538mmであったのに対し、実施例では外径181.311mm、またぎ歯厚63.524mmとされている。
【0022】
これら、図4および図5の結果から、本発明を適用していない比較例においては、測定した全ての歯について左右両歯面ともうねりが大きく、特に左歯面でこの傾向が顕著であって、JIS B 1702に規定される等級では5〜7程度であった。これに対して、本発明を適用した実施例においては、比較例と比べて左右歯面ともに明らかにうねりが小さく抑えられており、特に左歯面では上記JIS等級が1〜2と、極めて高精度の歯切り加工が施されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の歯切り工具および歯切り加工方法の第1の実施形態を示す図である。
【図2】図1に示す実施形態において、工具本体1の刃部4の左右刃面7,9と被削歯車11の歯12の左右歯面14,15との接触状態を示す図である。
【図3】本発明の歯切り工具および歯切り加工方法の第2の実施形態を示す(a)歯切り工具(ピニオンカッタ)の概略側面図、(b)図(a)に示す歯切り工具の刃部22を軸線O方向先端側(すくい面23側)からみた拡大図、(c)歯切り加工方法を説明する一部破断縦断面図、(d)図(c)を軸線O方向先端側(すくい面23側)から見た図である。
【図4】本発明の実施例による被削歯車の歯面のうねりを示す図である。
【図5】図4に示す実施例に対する比較例による被削歯車の歯面のうねりを示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1,21 工具本体
4,22 刃部
5,23 すくい面
7,25 刃部4,22の右刃面
9,27 刃部4,22の左刃面
11 被削歯車
12 歯
14 歯12の左歯面
15 歯12の右歯面
O 工具本体1,21の軸線
T 工具本体1,21の回転方向
R 刃部4が投影されて形成されるラック
A ラックRの進行方向
C 被削歯車11の中心軸
B 被削歯車11の回転方向
P 刃部4の右刃面7と歯12の左歯面14との接触箇所
Q 刃部4の左刃面9と歯12の右歯面15との接触箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削歯車の歯と噛み合う刃部によって該被削歯車に歯切り加工を行う歯切り工具であって、回転駆動される上記被削歯車に対して同期するように駆動されることにより、上記工具の刃面が上記被削歯車の歯面と接触させられて噛み合わされ、かつこうして噛み合わされた状態において、上記工具の右刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数と、上記工具の左刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数が常に同数とされることを特徴とする歯切り工具。
【請求項2】
被削歯車の歯に歯切り工具の刃部を噛み合わせて歯切り加工を行う歯切り加工方法であって、回転駆動される上記被削歯車に対して上記歯切り工具を同期させて駆動することにより、上記工具の刃面と上記被削歯車の歯面とを接触させて噛み合わせ、かつこうして噛み合わされた状態において、上記工具の右刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数と、上記工具の左刃面が該被削歯車と噛み合う歯面の数が常に同数となるように接触させることを特徴とする歯切り加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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