説明

歯周組織再生用組成物

【解決手段】本発明の歯周組織再生用組成物は、培地を、細胞が通過できる孔を有する多孔性膜を用いて上下に分割し、上部にヒト歯根膜細胞の細胞懸濁液を配置し、下部に濃度1ng/mlの走化性物質を配合した培地を配置した際に、配合しない場合と比較して、22時間後の細胞染色の蛍光強度比で1.5以上の走化性を有する走化性物質である、少なくとも歯根膜細胞を遊走させる因子を含むことを特徴としている。
【効果】本発明の歯周組織再生用組成物によれば、歯周病に罹患した歯周組織を健全な組織へと再生させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周組織再生用材料に関する。さらに詳しくは本発明は歯根膜細胞を患部に遊走させることにより、特に再生の初期段階における歯周組織細胞の再構成に有効な歯周組織再生用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、齲蝕と並ぶ歯科の二大疾患の一つであり、Porphyromonas gingivalisなどを代表とする病原菌の産生するエンドトキシンが、歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨などの歯周組織の炎症反応を惹起し、組織の吸収を引き起こす疾患である。これにより歯の動揺を来たし、重篤化すると歯が脱落する。中等度以上の歯周病患者に対して、失われた歯周組織の回復を目的として臨床的に行われている治療法としては、フラップ術およびGTR(組織誘導再生)法が挙げられる。
【0003】
フラップ術は患部歯肉を一旦剥離し、感染部歯根を手術用器具により切削し、感染軟組織を切除した後に、再度歯肉を縫合するものである。健全な歯周組織は硬組織(歯根、特にセメント質と歯槽骨)と軟組織とが線維性の強固な結合により付着するという特異な構造を有しているが、フラップ術の場合、歯と剥離組織との間の結合様式は、上皮細胞の増殖速度が他の細胞と比較して速いために、接着強度の低い付着となり、歯根膜が再生できないうえ、高頻度に歯肉の退縮が生じることとなる。このため、歯周ポケットが再度形成しやすく、病原菌の温床となりやすいため、歯周病の再罹患の可能性が高くなる。
【0004】
一方、GTR法ではフラップ術で得られる歯牙と軟組織の間に生じる上皮性の付着をさけるため、感染部組織の除去の後に、歯根と軟組織の間に生体吸収性あるいは非吸収性の膜を設置した後に縫合する術式を採る。これにより上皮細胞の歯根部への増殖を膜によって避けることができ、歯根と軟組織とは、間葉系細胞を介して強固に接着される。
【0005】
しかしながら、GTR法による治療においても、歯牙と軟組織の接着が良好で、歯周ポケットの再発が起こりにくいという利点があるものの、歯周組織再生に要する時間が長いために、その間における膜を原因とする感染が問題となっているほか、術者による成功率の差にばらつきがあること、症例による改善程度の差が大きいことが問題とされ、さらには、歯根部において骨性癒着を引き起こしたり、セメント質の再生が非常に遅く、セメント質−歯根膜−歯槽骨を介した歯牙の正常な植立が行われないなど、結果として健全な歯周組織を得られない場合も多いことが問題点として挙げられている。
【0006】
これら問題を解決するための手段として、特許文献1においては活性エナメル物質による歯周組織の再生が提案されているが、由来となる動物に起因する安全性の問題をクリアしているとは言い難い。
【0007】
さらに非特許文献1においては、血小板由来増殖因子を用いた歯周組織の再生が提案されているが、この増殖因子は製造コストが高いこと、あるいは、比較的高濃度でその効果を発揮することから、費用等種々の問題を抱えている。
【特許文献1】特表2002−504520号公報
【非特許文献1】L.A. Boyan et al.Journal of Dental research 73(10):1593−1600
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、歯周病に罹患した歯周組織を健全な状態に、効率的に再生することを可能とする材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
歯周組織において、歯根膜細胞は、様々な種類の細胞集団とされている。この中には、セメント質へと分化する細胞、歯根膜線維を形成する細胞、歯槽骨へと分化する細胞が含まれ、歯周組織の再生において、失われた歯根膜細胞を罹患部局所へと誘導させることが、その後の増殖および分化へとつなげる再生の最初の鍵となるとされている。
【0010】
本発明の歯周組織再生用組成物は、培地を、細胞が通過できる孔を有する多孔性膜にて上下に分割し、上部にヒト歯根膜細胞の細胞懸濁液を配置して、下部に濃度1ng/mlにて走化性物質を配合した培地を配置した際に、配合無き場合と比較して、22時間後の細胞染色の蛍光強度比で1.5以上の走化性を有する走化性物質である、少なくとも歯根膜細胞を遊走させる因子を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明において歯根膜細胞を遊走させる因子であるエノラーゼは、細胞質に存在する解糖系の酵素であり、ニューロン特異的に発現し、例えばアルツハイマー病と関連があるなどの報告があるが、歯周組織細胞との関連は、従来全く知られていない。
【0012】
発明者らが鋭意検討した結果、歯周組織を構成する歯肉細胞、歯槽骨細胞、歯根膜細胞のうち、エノラーゼが、驚くべき低濃度の条件において、歯根膜細胞を高い選択性で特異的に局所への遊走を促す可能性を有していることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯周組織再生用組成物を用いることにより、歯周病に罹患した歯周組織を健全な組織へと再生させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳述する。なお、特別の断りのない限り、「部」あるいは「%」は重量基準を示す。
前記目的を達成するためには、培地を細胞が通過できる孔を有する有孔膜にて上下に分割し、上部にヒト歯根膜細胞を配置して、下部に濃度1ng/mlにて走化性物質を配合した際に、配合無き場合と比較して、22時間後の細胞染色の蛍光強度比〔(走化性物質を配合した際の蛍光強度)/(走化性物質を配合しない際の蛍光強度)、以下この明細書において走化性指数という〕が1.5以上、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.7以上の走化性を有する走化性物質を用いることが肝要である。
【0015】
さらに、歯根膜細胞以外に歯周組織を構成する他の細胞(歯肉線維芽細胞、歯槽骨由来の骨芽細胞、歯肉上皮細胞)に対しての走化性指数は、歯根膜細胞に対する走化性指数との比((歯周組織を構成する歯根膜細胞以外の細胞に対する走化性指数)/(歯根膜細胞に対する走化性指数))が通常は0.75未満、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.67以下である。
【0016】
なお、上記走化性の測定条件としては、当該技術分野の通常の測定方法にて測定できるものであり、特に限定されるものではないが、好適な測定方法を以下に明示する。即ち、孔径8〜12μmの細胞毒性のない多孔性膜を介して、下部に試験物質を含むダルベッコ変法イーグル培地(以下、本明細書においてDMEMと表記する。)、上部に5×104cellsのヒト歯根膜細胞を含むDMEMの懸濁液を配置し、37℃にて22時間培養する。続いて多孔性膜に非特異的に接着した細胞を洗浄の後、細胞を蛍光色素にて染色し、蛍光
強度を測定する。得られた値を試験物質を含まない場合における蛍光強度で除して、走化性を測定することができる。該試験条件はフルオロブロックインサートシステム(商品名、ベクトン・ディキンソン製)を用いることで簡便に再現できる。
【0017】
孔径8〜12μmの細胞毒性のない膜は、走化活性試験物質以外の物質に対する試験細胞の非特異的移動を防ぐため用いるものであり、同等の機能を有するものであるならば、代替可能である。DMEMは、該細胞の培養のため用いるものであり、同等の機能を有するものであるならば、代替可能である。
【0018】
なお、細胞数を計数するための細胞染色は、たとえば、位相差顕微鏡による直接観察、パパニコロ染色、ヘマトキシリンあるいはヘマトキシリン・エオジン重染色等があるが、Calsein−AMによる蛍光染色を好ましく選択することができる。この際、測定光線は当該
蛍光染色試薬の励起および蛍光中心波長から大きく離れないことが好ましい。Calsein−AMの場合は、励起波長として460〜510nm、蛍光波長として490〜540nmを選択
し、励起波長は蛍光波長よりも短波長であることが望ましい。
【0019】
従来、このように活性が高い走化性物質は実用的なものが見いだされてこなかったが、解糖系酵素において、特にエノラーゼが歯根膜細胞特異的に高活性であることが見いだされた。
【0020】
本発明において歯根膜細胞を遊走させる因子として用いるエノラーゼの種類は特に限定しないが、γサブユニットを含むものが好ましい。γサブユニットを含んでいれば、モノマーのまま作用させても、γサブユニットのホモダイマー(γγ型)を形成していても、あるいはα、β等のサブユニットとヘテロダイマー(αγ型、βγ型)を形成しているものでも構わないが、本発明ではγサブユニットのホモダイマー、あるいはαサブユニットとγサブユニットとのヘテロダイマーが特に好ましい。
【0021】
本発明におけるエノラーゼはヒトのアミノ酸配列を有していることが好ましく、ヒトから抽出したもののほか、該アミノ酸配列あるいはcDNA配列は公知である(例えばGenBank/NM_001975)から、これら公知情報を用いて単離したcDNAクローンをin vitro
転写翻訳系や適当な宿主ベクター系で発現させて調製させ、使用することもできる。必要となる遺伝子工学的あるいは分子生物学的手法については、例えば、Sambrook and Russell、Molecular Cloning−A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press
、2001等に記載がある。さらには公知のアミノ酸固相合成法などを用いてペプチドを合成し、使用することもできる。
【0022】
本発明の歯周組織再生用組成物は、通常の製剤技術に従って、有効かつ非毒性量の該エノラーゼを医薬上許容される担体、例えば溶剤、懸濁剤、安定化剤などとあわせて、製剤化することができる。また、該エノラーゼの足場材として、コラーゲン、ゼラチン、あるいは他の天然高分子化合物、さらには合成高分子化合物を配合し、製剤化することもできる。通常、治療される歯周部位の体液1mlあたり該エノラーゼを10fg〜10μg濃度で、歯根面に作用させると、所望の歯周組織再生効果が発現される。
【0023】
エノラーゼを歯根膜細胞に対して適用し、歯周組織を再生させるための用量および期間は、再生される歯周組織の疾患状態によって決定される。適用期間は、通常数時間〜数日であり、それよりも長くすることもできる。
【0024】
ヒト対象に対する正確な有効量は、疾患状態の重傷度、対象の全身の健康状態、対象の年齢、体重および性別、食事、適用時間および頻度、併用薬、反応の感受性、さらには治療に対する忍容性、反応に応じて決まる。
【0025】
この用量は、慣習的実験により決定することができるほか、臨床に用いる場合、医師または歯科医師の判断の範囲内である。一般に、体重当たりの有効量は0.001mg/kg〜50mg/kgである。しかし、エノラーゼが局所に濃縮された形で導入される場合、例えば、膜に担持させた状態で歯周組織内に埋入させる場合などでは、有効量はさらにこれよりも高くても構わない。
【0026】
In vitroにおいて、細胞培養物中では、エノラーゼは10fg/ml〜10μg/ml、好ま
しくは100fg/ml〜5μg/ml、さらに好ましくは1pg/ml〜1μg/mlの範囲で歯根膜細胞に暴露されていても良い。従って、当該走化性物質は、歯周組織再生用組成物中に、好ましくは1×10-6〜1%、より好ましくは1×10-5〜0.5%、さらに好ましくは1×10-4〜0.1%の範囲内の量で含まれる。本発明の歯周組織再生用組成物を適用後、長期間にわたって当該走化性物質を徐放させる目的で調製する場合には、これら上限値はさらに高くても構わないが、有効徐放量は体液1mlあたり10μgを超えないことが好
ましい。
【0027】
本発明の歯周組織再生用組成物の評価に用いる歯根膜細胞としては、従来公知の方法により単離した細胞を継代し、使用することができる。具体的には、以下に述べる方法を挙げることができる。歯科矯正治療などの際に便宜的に抜去した歯牙をアムフォテリシンB、ペニシリンなどの抗生物質およびウシ胎児血清を含むDMEMにて洗浄、歯牙に付着した歯根膜組織を歯科用スケーラなどで剥離し、メスを用いて小片化した後、同様の培地を用いて1日間37℃にて培養する。続いて組織片より周囲に増殖した細胞をトリプシンなどの酵素を用い、培養皿から剥離し、これを初代細胞とする。継代数は一般的に9代程度までを使用することができる。
【0028】
本発明の歯周組織再生用組成物の評価方法としては、従来公知の方法を使用することができる。具体的には、培養皿に試験物質を含む培地を用意し、底面にメンブレンを装着したバスケットを培養皿上に設置し、試験する方法、あるいはいわゆるボイデンチャンバーなどに代表されるin vitro試験法、ブロモデオキシウリジンなどによるin vitro試験法などを挙げることができる。このうち、試験の簡便さなどを理由にin vitro試験法を好ましく選択することができ、in vitro試験法において、細胞を遊走させる時間は一般的に1〜24時間の範囲である。
【0029】
続いて、本発明の歯周組織再生用組成物に用いることが可能な担体について説明する。
ここで溶剤としては、医薬上許容されれば、従来公知のものを使用することができ、具体的には水、生理的食塩水あるいはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、グリセロールなどを挙げることができる。
【0030】
またここで使用されるコラーゲンは、従来公知の物質を使用することができ、これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。具体的にはタイプ1、タイプ2、タイプ3、タイプ4、タイプ5、タイプ6、タイプ7,タイプ8、タイプ9、タイプ10、タイプ11、タイプ12、タイプ13、タイプ14、タイプ15、タイプ16、タイプ17、タイプ18、タイプ19、タイプ20、タイプ21、タイプ23、タイプ24などが挙げられる。由来となる生物はヒト、ウシ、ブタ等のほ乳類、サケ等の魚類、あるいは大腸菌などの菌類による組み替え体など、いずれのものも使用することができる。このうち、人体に対する安全性を考慮し、サケ由来のコラーゲンを使用することが好ましい。また、組織に対する為害性を減少させるため、これらコラーゲンはアテロ化することが好ましい。さらにコラーゲンの強度を増すために、架橋処理を行うことは好ましいことである。架橋方法は従来公知の方法を選択することができ、具体的には紫外線架橋などの物理的架橋、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどを
用いる水溶性カルボジイミド架橋、グルタールアルデハイド架橋などの化学的架橋、トランスグルタミナーゼ架橋などの酵素的架橋が挙げられる。
【0031】
ゼラチンは、従来公知のものを使用しうる。具体的にはブタ皮膚等からアルカリ法もしくは酸性法によって工業的に得られる通常のゼラチン、あるいは従来公知の方法を用いて、上述のコラーゲンを出発物質として製造することにより使用することができる。
【0032】
さらにゼラチンに対して、上述のコラーゲンと同様、強度を増すために、架橋処理を行うことが好ましい。架橋方法は従来公知の方法を選択することができるが、架橋剤を用いた加熱架橋法を好ましく選択することができる。架橋剤には、例えば水溶性エポキシ化合物、水溶性アルデハイド類または水溶性カルボジイミドが使用できる。水溶性エポキシ化合物の例としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルを挙げることができる。水溶性アルデハイドの例として、グルタールアルデハイド、ホルムアルデハイド、グリオキザールを挙げる。水溶性カルボジイミドの例としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を挙げることができる。これらのうちでも水溶性エポキシ化合物が取り扱い容易で、低毒性であるので好ましく、特にグリセロールポリグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0033】
架橋剤の使用量は、架橋剤の種類、ゼラチンの種類等により異なるが、通常ゼラチンの全量に対し1〜20%であり、架橋温度および時間はそれぞれ一般的に80〜150℃、1〜24時間の範囲である。
【0034】
天然高分子化合物としては従来公知の物質を使用することができ、1種のみでも、また、2種以上を組み合わせて使用することもできる。具体的な化合物名としては、セルロース、アミロース、寒天、アルギン酸などを挙げることができる。
【0035】
合成高分子化合物としては、従来公知の物質を使用することができ、1種のみでも、また、2種以上を組み合わせても使用することができる。具体的な化合物名としては、
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸コポリマー、ポリハイドロキシアルカノエート、必須アミノ酸のみから合成されるポリアミノ酸などの生体吸収性合成高分子;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(N−イソプロピル(メタ)アクリルアマイド)(以下、アクリル、メタアクリル、アクリレート、メタアクリレートなどを示す接頭辞として「(メタ)アクリ・・・」と使用する)などの水溶性合成高分子;
ポリ((メタ)アクリル酸アルキル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリビニリデンジフルオライド、などの非水溶性・生体非吸収性合成高分子;
カルボキシメチルセルロース、プロピレングリコールアルジネートなどの上述の天然高分子化合物を出発物質とし、化学修飾を行った化合物などを挙げることができる。
【0036】
これら化合物は生体適合性を有するものを選択して使用することが特に望ましく、組織との適合性などを目的に薄膜に成型したり、多孔性を有する膜状にして使用しても構わない。膜状の形態を有する場合には、膜の操作性および細胞の歯根面への進入を容易にするため、厚さは2mm以下、特に0.1〜1.0mmであることが好ましい。
【0037】
本発明の歯周組織再生用組成物の実施の形態としては、以下のような例を挙げることができる。
(1)使用時にエノラーゼを水等の溶剤に混合し、必要部位に直接塗布する;
(2)予めエノラーゼを溶解させた溶液を充填したシリンジにて直接滴下、あるいは患部に注射する;
(3)担体を用い、エノラーゼを溶解させたゲルを予め作製し、必要部位に直接塗布する(4)エノラーゼと担体とを溶剤の存在下予め混合し、凍結乾燥等により膜状に成形し、GTR膜の一種として使用する
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
<細胞懸濁液の調製>
10%ウシ胎児血清を添加した培地で培養し、対数増殖期にある細胞を0.25%トリプシン/EDTA(インビトロジェン製)で剥離し、フェノールレッド含まないDMEMにてリンス、5×104cells/mlの細胞懸濁液を調製した。
<細胞走化試験>
フルオロブロックインサート(ベクトン・ディッキンソンバイオシステム製)の上部チャンバーに細胞懸濁液を500μリットル、下部チャンバーに試験物質を含むDMEMを500μリットル装入し、37℃で20〜22時間放置した。その後上部チャンバーよりフィルターを取り出し、生理的食塩水にて洗浄の後、Calsein−AM(Molecular Probes製)にて染色し、SpectaFluor Plus(Tecan製)を用いて励起波長485nm、蛍光波長520nmにて蛍光強度を測定した。この方法によって、測定した蛍光強度の大きさから、下部チャンバーの試験物質に誘引され走化した細胞の数を測定することができ、走化活性を評価することができる。下部チャンバーに走化誘因物質を添加しない場合にも、非特異的な細胞移動にために、蛍光強度が測定されることがあることから、下部チャンバーにDMEMのみを添加し、試験を行った際の蛍光強度で除した値(下部チャンバーに試験物質を含んだ状態での蛍光強度/下部チャンバーに試験物質を含まない状態での蛍光強度)により、走化性指数を算出し、評価した。
〔実施例1〕
10%ウシ胎児血清を添加したDMEMにて培養した、ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblast、Cambex)、5〜8継代の細胞を使用し、対数増殖期
にある細胞から上述の通り細胞懸濁液を調製した。
【0039】
試験物質として100pg/ml〜1000ng/mlのヒトγγ−エノラーゼ(Neuron specific enolase、Human brain、Calbiochem製)を溶解させたDMEMを使用し、上述した歯根膜細胞の細胞走化試験を行った。結果を表1に示す。
〔実施例2〕
実施例1において、ヒトγγ−エノラーゼに代えて、ヒトαα−エノラーゼ(Non−neuronal enolase、Biodesign製)を用いた以外は同様にして、歯根膜細胞の細胞走化試験を行った。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の歯周組織再生用組成物を用いることにより、歯周病に罹患した歯周組織を健全な組織へと再生させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を、細胞が通過できる孔を有する多孔性膜を用いて上下に分割し、上部にヒト歯根膜細胞の細胞懸濁液を配置し、下部に濃度1ng/mlの走化性物質を配合した培地を配置した際に、配合しない場合と比較して、22時間後の細胞染色の蛍光強度比で1.5以上の走化性を有する走化性物質である、少なくとも歯根膜細胞を遊走させる因子を含むことを特徴とする歯周組織再生用組成物。
【請求項2】
上記歯根膜細胞を遊走させる因子が解糖系酵素であることを特徴とする請求項1に記載の歯周組織再生用組成物。
【請求項3】
上記歯根膜細胞を遊走させる因子がエノラーゼであることを特徴とする請求項1に記載の歯周組織再生用組成物。
【請求項4】
上記歯根膜細胞を遊走させる因子がγサブユニットを含むエノラーゼであることを特徴とする請求項2に記載の歯周組織再生用組成物。
【請求項5】
上記歯周組織再生組成物が、さらにコラーゲン、ゼラチン、天然高分子化合物および合成高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の歯周組織再生用組成物。