説明

歯牙用漂白剤組成物

【課題】高い安全性と漂白性能を併せ持ちそして汎用性の面からも有用な歯牙用漂白剤組成物を提供すること。
【解決手段】3μm未満の平均粒子径を有しそしてカルシウム化合物と反応して粒径3μm以上の凝集粒子を形成しうる水性エマルジョン成分、水溶性有機酸および/またはその水溶性塩成分(但し、該水溶性有機酸のカルシウム塩は、水不溶性ないし水難溶性である)および/または硫酸塩成分、ならびに過硫酸系漂白剤を含有する歯牙用漂白剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙用漂白剤組成物に関する。さらに詳しくは、安全性と漂白性能が共に高い歯牙用漂白剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔内の審美性に関する意識の向上により、変色歯や着色歯の審美性改善を求める患者が増大している。従来、これらの審美性改善のためには、歯質を一定量削除し、歯冠補綴やラミネートベニア等のテクニックを用いて人工物で置き換える治療が主に行われてきた。
しかしながら、これらの治療法では、審美的な理由のみで多くの歯質を削除することになり、歯牙は再生できない組織でもあることから、近年の歯科治療のトレンドであるミニマルインターベンション(最小限の侵襲)という概念とも相容れない。
その様な状況の中で、全く歯牙を削除しない審美性回復手段として、歯牙漂白法が多く用いられるようになってきた。歯牙漂白法としては、無髄歯に対して、髄腔内に過硼酸ナトリウムと高濃度(30−35%)の過酸化水素水の混合物を封入して漂白するウォーキングブリーチ法、有髄歯に対して高濃度(30−35%)の過酸化水素水を用いて歯科医院内で漂白するオフィスブリーチ法、比較的低濃度(10−22%)の過酸化尿素を用いて患者自身が自宅で漂白するホームブリーチ法などがある。
しかしながら、ウォーキングブリーチ法やオフィスブリーチ法では、劇薬である高濃度の過酸化水素水を口腔内で使用することから、安全性の点が懸念される。また、ホームブリーチ法では、比較的低濃度の過酸化尿素を口腔内の水分により徐々に分解して過酸化水素を発生させることにより漂白するので、実際に歯面に作用する過酸化水素濃度は低く、漂白効果を発揮するまでの処理時間が長く、漂白効果も低いという問題点がある。
【0003】
一方、過酸化水素をはじめとした過酸素漂白剤組成物を用いた漂白法は、衣類の洗浄剤の技術分野においても周知の方法であり、現在の洗剤および洗浄剤に含まれる主成分の一つである。その主要な機能としては、紡績繊維または固体表面から、お茶、紅茶、コーヒーまたは、赤ワインなどの頑固な汚れを取り除くことである。この除去作用は、付着している色素の酸化分解作用により達成されるものであり、これと同時に、付着している微生物が死滅し悪臭物質も分解される(特許文献1参照)。
しかし、衣類を洗濯するための水溶液中で過酸化水素を放出する過酸化化合物は、漂白力が劣り短時間の漂白処置では十分な漂白効果を得ることができず、特に低温に於いて十分な漂白効果を得るためには長時間の処置を要するという欠点を有している。
衣類の洗剤の分野では、低温で使用できる漂白剤にするために、過酸化物を活性化する種々の提案がなされた。一つの提案は、溶液中で過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムのような過酸化物と反応することにより、低温における漂白活性が高い有機パーオキシ酸を形成する、いわゆる有機漂白活性化剤である(特許文献2参照)。
【0004】
歯についても、コーヒーや紅茶等の飲食物に含まれる色素が沈着し、または煙草のヤニ等が沈着することにより変色していると考えられている。現在考えられているウォーキングブリーチ法やオフィスブリーチ法が、処理時間が長く、時として光照射が必要であり、また漂白作用が低いのは、高濃度の過酸化水素あるいは尿素でも、効率的に活性種が生成していないためであると推定される。
過酸化水素から効率よく活性種を生成させる別の方法として、二酸化チタンを使用した方法が開示されているが(特許文献3参照)、過酸化水素の光活性化をするための光源が必要不可欠であり、使用における汎用性の高い方法とは言えない。
過酸化物から効率よく活性種を生成させる別の方法として、遷移金属化合物を使用する例も知られている(特許文献4参照)。しかしながら、このような遷移金属化合物は、人体に対して有害である場合が多く、人の歯に塗布して使用する歯牙用漂白剤として、安全性の面から好ましくない。さらに別の例として、特定の有機過酸化合物とイミニウム塩からなる組成物を使用する歯牙漂白方法(特許文献5参照)が開示されている。しかしながら、この漂白システムでは、その構成上、イミニウム塩に加えて有機過酸化合物の添加が必須であり、製剤化や使用時の取扱いが煩雑にならざるを得ない。
【0005】
一方、低濃度の過酸化水素溶液を用いて行う従来の歯の漂白方法は、前記特許文献2に開示されている。この方法は、濃度3%程度の過酸化水素溶液或いはそのペーストと、光触媒としての二酸化チタン粉末と練り合わせた混合物を用いるものであり、この混合物を歯牙の表面に塗布し、塗布部分に光を照射して漂白を行う。この方法では、光照射に基づいた光エネルギーによって、二酸化チタンが触媒作用を出すため、過酸化水素の分解が促進されて活性酸素が発生し、活性酸素の酸化力によって歯牙表面の漂白を行うことができる。
【特許文献1】特開平6−269676号公報
【特許文献2】特開昭60−237042号公報
【特許文献3】特開平11−092351号公報
【特許文献4】米国特許第5648064号明細書
【特許文献5】米国特許第6165448号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解消し、高い安全性と漂白性能を併せ持ちそして汎用性の面からも有用な歯牙用漂白剤組成物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、歯牙漂白に関し上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の組成物が高い安全性と漂白性能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
(AB)水不溶性、水難溶性乃至は水中にて凝集粒子となるCa塩を形成しうる成分、および
(C)過硫酸系漂白剤、
を含有することを特徴とする歯牙用漂白剤組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯牙用漂白剤組成物は、光照射を必ずしも必要とせず、低濃度過酸化物にて短時間で表面を保護するとともに漂白することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0012】
本発明の歯牙用漂白剤組成物は、
(C)過硫酸系漂白剤と、(AB)水不溶性、水難溶性乃至は水中にて凝集粒子となるCa塩を形成しうる成分とを含有する、歯牙表面に塗布することにより歯牙を漂白する組成物である。
上記(AB)水不溶性、水難溶性乃至は水中にて凝集粒子となるCa塩を形成しうる成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、
(A)3μm未満の平均粒子径を有しそしてカルシウム化合物と反応して粒径3μm以上の凝集粒子を形成しうる水性エマルジョン成分および/または、
(B)水溶性有機酸成分および/またはその水溶性塩成分(但し、該水溶性有機酸のカルシウム塩は、水不溶性ないし水難溶性である)、および/または、
(B’)硫酸塩成分を好ましいものとして挙げることができる。
水不溶性ないし水難溶性の沈殿の目安として、一般的には(B’)成分のカルシウム塩の25℃における水への溶解度が0.5g/100ml未満であることが望ましい。
【0013】
本発明における(AB)成分はカルシウム塩となると、水不溶性あるいは難溶性塩或いは、水中にて沈殿を生じる物質(Ca塩)となるものである。水不溶性または難溶性は、(B)又は(B’)成分を含む溶液とカルシウムイオンを含む溶液を混合した際の沈殿生成の有無で判別される。沈殿生成の有無は、一般的に溶解度積とイオン積の関係で知ることができる。すなわち、(B)又は(B’)成分のカルシウム塩のイオン積が溶解度積と等しい場合、もしくはイオン積が溶解度積よりも大きい場合に水難溶性および水不溶性とすることができる。簡便な沈殿生成の目安として、水溶性有機酸またはその水溶性塩の1〜5重量%の濃度範囲の水溶液と同濃度範囲の塩化カルシウム水溶液を混合した場合に肉眼的に沈殿の生成を確認する方法がある。
【0014】
また、カルシウム塩を形成する前から水不溶性あるいは難溶性を有する物質であって、完全な水溶液を形成できない物質であっても、コロイド等を形成して便宜上、擬似的な均質の液体として扱え、かつ、カルシウムイオンによって塩析等にて凝集粒子が形成されたり、沈殿が生成して、実質的な巨視的な固形物を形成し得る物質ならば、これも本発明の成分(AB)として取り扱うことが可能である。
そのような成分である、本発明における(A)成分は、3μm未満の平均粒子径を有しそしてカルシウム化合物と反応して粒径3μm以上の凝集粒子を形成しうる重合体粒子をエマルジョン粒子として含有する水性エマルジョン成分である。
【0015】
(A)成分は高分子エマルジョン(ラテックスと呼ぶ場合もある)であり、天然樹脂や合成樹脂を水中に乳化または分散させたものである。そして(A)成分は乳化または分散している重合体粒子が3μm未満の粒子径を有するエマルジョン粒子を含み、しかも該エマルジョン粒子がカルシウム化合物と反応することによって3μm以上の粒径の凝集粒子を形成することができることに特徴がある。
歯牙のエナメル質を脱灰から保護するなどの効果を有効に発現させる為には、(A)成分中の重合体のエマルジョン粒子の平均粒径が3μm未満であることが有効であり、、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。これは、前記粒径であることにより、(A)成分より形成された凝集体が、エナメル質表面を堅牢にコーティングしたり、エナメル質のマイクロクラックに深く浸透する為であると推定される。
【0016】
また、歯牙の象牙質についても同様の効果が認められる。つまり、象牙質細管を封鎖するのに十分な深さにまで水性エマルジョンを侵入させるために、重合体のエマルジョン粒子の粒径は象牙質細管の直径よりも小さいことが必要である。象牙細管の直径は、位置や深さ、また個体差があるものの通常1〜3μmの範囲にある。なお、象牙質細管の直径は、通常、抜去した歯牙のエナメル質を削り取って露出した象牙質表面を歯磨剤と歯ブラシを使って1分以上ブラッシングを行った後、水中で超音波洗浄を施し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察することによって計測できる。
【0017】
また、(A)成分のエマルジョン粒子の粒径には分布があり、すべてのエマルジョン粒子の粒径が3μm未満である必要はなく、重量平均粒径が前記数値であれば良い。(A)成分中のエマルジョン粒子のうち、粒径が3μm未満のものが50重量%以上占めることが好ましく、90重量%以上のエマルジョン粒子の粒径が3μm未満であることがより好ましい。上記の条件に加えて、(A)成分のエマルジョン粒子のうち、粒径が1μm以下のものが65重量%以上占めることが特に好ましく、75重量%以上占めることがとりわけ好ましい。エマルジョン粒子が上記のような粒径分布を有することにより本発明の目的が優れて達成される。
上記の(A)成分としては、カルボキシル基、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基およびスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも1種の、カルシウム化合物と反応し得る官能基を有する重合体のエマルジョンであるか、あるいは、共重合体を構成する成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分とスチレンスルホン酸成分を含む共重合体のエマルジョンが好ましく用いられる。
【0018】
前記(A)成分として使用できる重合体としては、ラジカル重合性単量体の単独重合体および/または共重合体を挙げることができる。ラジカル重合性単量体としては、例えばブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体;スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体;(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸とメタクリル酸の総称としてこのように記載する)メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルおよびビニリデン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステルなどを挙げることができる。これらの単量体は単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
【0019】
上記ラジカル重合性単量体から合成される重合体は、カルシウム化合物と反応しうる官能基を有することが好ましい。カルシウム化合物と反応しうる官能基としては、例えばカルボキシル基、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基およびスルホン酸基が挙げられる。上記官能基を導入する方法として、例えばポリスチレンをスルホン化する方法で代表される、ポリマーへ官能基を導入する方法、カルボン酸エステルまたはリン酸エステルを含有するポリマーを加水分解する方法、さらに、上記のラジカル重合性単量体と上記官能基あるいは上記官能基に水中で容易に変換し得る官能基を有するラジカル重合性単量体を共重合させる方法を挙げることができる。上記最後の方法が好ましい。カルシウム化合物と反応しうる官能基を有するラジカル重合性単量体として、以下の化合物を例示することができる。
【0020】
カルボキシル基あるいはカルボキシル基に水中で容易に変換し得る官能基を有するラジカル重合性単量体としては、例えばモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸、これらの塩および無水物を挙げることができる。より具体的には(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のα−不飽和カルボン酸;p−ビニル安息香酸のようにビニル芳香環類が付加したカルボン酸;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)等の、(メタ)アクリロイルオキシ基とカルボン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在するカルボン酸;1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等のさらに芳香環を有するカルボン酸;4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物等の4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸およびその無水物;4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシブチル]トリメリット酸およびその無水物等のさらにアルキル鎖に水酸基等の親水基を有するカルボン酸およびその無水物;2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート等のカルボキシベンゾイルオキシ基を有する化合物;N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等のN−および/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイルオキシアミノ酸;N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸等のN−(メタ)アクリロイルアミノ安息香酸;2または3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物(PMDM)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと不飽和ポリカルボン酸無水物の付加反応物;
2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン等のポリカルボキシベンゾイルオキシと(メタ)アクリロイルオキシを有する化合物;N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。これらのうち、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)および4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)またはその無水物(4−META)が好ましく用いられる。
【0021】
少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基および水中で容易に該基に変換し得る官能基として、例えばリン酸エステル基で水酸基を1個または2個を有する基およびその塩を好ましく例示することができる。このような基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシドホスフェート、ビス{2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}アシドホスフェート等の1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を有するリン酸エステル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェートなどの(メタ)アクリロイルオキシ基とリン酸基の間に直鎖炭化水素基が存在し、かつ芳香族基も有するするリン酸エステルを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基を、チオリン酸基に置き換えた化合物も例示することができる。これらのうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが好ましく用いられる。
【0022】
スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等のヘテロを含む置換基(ハロゲンやアルコキシ等)を有する炭化水素にスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド等のスルホアルキル(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの酸およびそれらの塩を挙げることができる。これらのうち、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸およびこれらの塩が好ましく用いられる。
なお、上記カルシウム化合物と反応しうる官能基あるいは当該官能基に水中で容易に変換し得る官能基は、エマルジョン中に好ましくは0.00001〜0.01モル/g、より好ましくは0.00002〜0.005モル/gにて存する。
【0023】
(A)成分に含まれる重合体の数平均分子量Mnは、GPC法で測定した値として、好ましくは3,000以上であり、より好ましくは7,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。数平均分子量の上限は通常500万である。(A)成分はエマルジョン粒子としての高分子重合体を、好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜40重量%、さらに好ましくは1〜20重量%の範囲で含有することができる。
【0024】
好ましい(A)成分は、乳化剤を使用しない重合法、いわゆるソープフリーエマルジョン重合法によって得られる、炭素数4〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位とスチレンスルホン酸単位をモル比(アクリル酸アルキルエステル単位/スチレンスルホン酸単位[モル/モル])で50/50〜99.5/0.5、より好ましくは80/20〜 98.5/1.5、更に好ましくは90/10〜 98/2で含有する共重合体をエマルジョン粒子として含有するエマルジョンである。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位とスチレンスルホン酸単位よりなる共重合体(ここでは、以下、AA/SS重合体という)以外の単量体の組合せである共重合体(ここでは、以下、他の重合体という)の場合においては、他の重合体の重量に対するカルシウム化合物と反応しうる、他の重合体に含まれる官能基(スルホン酸等)のモル数の比率であるモル重量比[モル/g]の数値範囲が、AA/SS重合体の場合におけるモル比[モル/モル]の数値範囲に対応するモル重量比(但し、AA/SS重合体はアクリル酸メチル/スチレンスルホン酸ソーダとして比を計算)の範囲であることが好ましい。この共重合体のエマルジョンとしては、例えば特開平6−57080号公報に開示されたものを使用することができる。さらに好ましい(A)成分として、例えば該共重合体のエマルジョン粒子を高速ミキサーやホモジナイザーなどの分散・粉砕器で、好ましくは粒径3μm未満、より好ましくは粒径1μm以下、最も好ましくは粒径0.5μm以下のエマルジョン粒子となし、このエマルジョン粒子が(A)成分の中に0.5重量%以上存在するように調製して分散安定性を向上させたものを使用することができる。また、粒径が1.0μm以下の上記共重合体のエマルジョン粒子が、エマルジョン粒子全体の50重量%以上占めることが好ましく、75重量%以上占めることがより好ましく、そしてエマルジョン粒子の全体を占めることが最も好ましい。
【0025】
(A)成分に含まれる粒径3μm未満の粒子径を有するエマルジョン粒子は、カルシウム化合物、例えば塩化カルシウムを(A)成分中に添加したときに、該カルシウム化合物と反応して3μm以上の粒径を有する凝集粒子を形成し得る。
通常、該凝集粒子の粒径は3μmを超え、好ましくは10μm以上、より好ましくは50〜数千μmに達する。
上記カルシウム化合物の添加量は、エマルジョン中の不揮発性成分100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部の範囲である。
このような性質を有する成分(A)を本発明の組成物に用いることにより、歯表面や歯面亀裂部に侵入した小さい径のエマルジョン粒子は、エナメル質中に存在するハイドロキシアパタイトから溶出したカルシウムイオンと反応して、大きな凝集粒子を多数形成する。
【0026】
形成された多数の大きな凝集粒子は、連続的に充填された状態(被膜)を形成する。このような状態が形成されることにより、亀裂が封鎖される。該亀裂部が封鎖された状態は、本発明の(B)成分を使用することにより速やかに形成される。またこの状態は、凝集粒子と象牙質の密着性を長く維持するので、長期間保持されることになる。
(A)成分100重量部中の不揮発成分が、好ましくは0.1〜60重量部、より好ましくは0.5〜40重量部、さらに好ましくは1〜20重量部の量割合にあるのが望ましい。
上記のように、歯牙漂白材中の(B)成分は、(A)成分に含まれる重合体のエマルジョン粒子の凝集速度、すなわち難溶性ゲル(凝集体)の形成速度を調整するとともに、(B)成分が水に不溶性または難溶性のカルシウム塩を形成することによって難溶性ゲルからなる被膜の耐久性を向上させる役割を果たす。
【0027】
また、(B)成分のカルシウム塩は種々の形態を有する結晶であり、一般的には球状、比較的丸みのあるラウンド状、板状および針状などの形態で存在しうる。その大きさは結晶形態によって異なるが、好ましくは、例えば球状あるいはラウンド状では平均直径0.1〜10μmの範囲、板状では平均的な1辺の長さが0.1〜10μmの範囲、針状では太さが0.1〜5μm、長さが1〜10μmの範囲である。このような形状のカルシウム塩は、歯質表面に(A)成分から生成する難溶性凝集体(ゲル)とともに存在し、エナメル質表面の保護や象牙質細管の封鎖を促進し、該難溶性凝集体の形成時あるいは乾燥時の体積収縮量を減少させる役割を果たす。また、前記のとおりの封鎖により、歯面からの刺激の伝達が遮られ、知覚過敏を抑制しうる。
【0028】
歯牙漂白材中の(B)成分は、水溶性有機酸またはその水溶性塩であり、そして該有機酸のカルシウム塩は、水不溶性あるいは難溶性塩である。水不溶性または難溶性は、(B)成分を含む溶液とカルシウムイオンを含む溶液を混合した際の沈殿生成の有無で判別される。沈澱生成の有無は、一般的に溶解度積とイオン積の関係で知ることができる。すなわち、(B)成分のカルシウム塩のイオン積が溶解度積と等しい場合、もしくはイオン積が溶解度積よりも大きい場合に水難溶性および水不溶性とすることができる。簡便な沈澱生成の目安として、水溶性有機酸またはその水溶性塩成分の1〜5重量%の濃度範囲の水溶液と同濃度範囲の塩化カルシウム水溶液を混合した場合に肉眼的に沈澱の生成を確認する方法がある。
歯牙漂白材中の(B)成分としては、例えばシュウ酸、シュウ酸金属塩、シュウ酸アンモニウム塩およびシュウ酸のアミン塩から選択されるシュウ酸または水溶性シュウ酸塩;プロピオン酸、プロピオン酸金属塩、プロピオン酸アンモニウム塩、プロピオン酸のアミン塩から選択されるプロピオン酸または水溶性プロピオン酸塩などを挙げることができる。
【0029】
水溶性の目安は、25℃における水への溶解度が0.5g/100ml以上である。かかる化合物として具体的にシュウ酸、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸水素リチウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸アニリン、シュウ酸亜鉛カリウム、シュウ酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムアンモニウム、シュウ酸アルミニウムナトリウム、シュウ酸アンチモンカリウム、シュウ酸クロムカリウム、シュウ酸水素バリウム、シュウ酸鉄カリウムなどが挙げられる。なかでもシュウ酸、シュウ酸水素カリウムおよびシュウ酸鉄カリウムが好ましい。
【0030】
歯牙漂白剤において、(A)および(B)成分の合計100重量部に対し(A)成分は、好ましくは50〜99.5重量部、より好ましくは70〜99重量部、最も好ましくは90〜98重量部の範囲にある。この範囲にあることにより、本発明の効果が顕著に現れる。
歯牙漂白剤の(B)成分の配合量は、(B)成分のカルシウム塩の大きさと析出量に影響する。上記の濃度範囲から外れた低い濃度では析出量が少なかったり、結晶サイズが小さ過ぎたりするため、期待される効果が十分に発揮されないことがある。一方、(B)成分が上記の範囲から外れた高い濃度では、飽和濃度に達して溶液から析出したり、エマルジョン粒子を著しく凝集させたりする場合がある。
【0031】
本発明における(B’)成分は、カルシウム化合物(D)と反応することによって水不溶性ないし水難溶性の沈殿を生じ得る硫酸塩である。
本発明において(B’)成分は硫酸アルカリ金属化合物および硫酸アンモニウム化合物が用いられる、かかる化合物としては硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸ナトリウムアンモニウム、硫酸カリウムアンモニウムなどを挙げることができる。これらのうち、特に硫酸アンモニウム化合物が好ましい。水溶性の目安としては25℃における水への溶解度が0.5g/100ml以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の組成物は、(D)成分、(A)成分を含有しない場合には、(B’)成分の濃度は、好ましくは1重量%〜飽和濃度までの範囲にある水溶性もしくは水性溶液であることが好ましい。水性とは水および水と混合できる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルフォキサイド(DMSO)などを挙げることができる。これらのうちのエタノール、アセトン及びDMSOが好ましく用いられる。ここで使用できる水としては、例えば蒸留水、イオン交換水または生理食塩水などが挙げられる。ここでは蒸留水およびイオン交換水が好ましく用いられる。歯牙へ用いる場合に生体への毒性や刺激性を考慮して、水単独でも、もしくは水とエタノールやアセトンの混合液として用いることが特に好ましい。
【0033】
また、(B’)成分もしくは(B’)および(D)成分との反応によって歯質上に形成するカルシウム化合物は、種々の形態を有する結晶であり、一般的には球状、比較的丸みのあるラウンド状、板状および針状などの形態を示し、その大きさは結晶形態によって異なるが、球状あるいはラウンド状では平均直径0.1〜10μmの範囲、板状では平均的な1辺の長さが0.1〜10μmの範囲、針状では太さが0.1〜5μm、長さが1〜10μmの範囲である。このような球状のカルシウム塩は歯質表面および象牙質細管内に(B’)成分から生成する水不溶性ないし水難溶性沈殿によって象牙質細管を封鎖する役割を果たす。
【0034】
本発明の(D)成分はカルシウム化合物である。
(D)成分は必ずしも(B’)成分といっしょに使用しなくてもよいが、(B’)成分の水不溶性ないし水難溶性沈殿の生成を促進する作用を有し、また(D)成分自体が象牙質細管を封鎖する役割を有する。従って、(D)成分は好ましくは水または水性溶媒中に溶解もしくは分散していることが望ましい。さらに、(D)成分自体が象牙質細管を封鎖するためには、象牙質細管径よりも小さなサイズであることが好ましい。
象牙質細管の直径は、位置や深さ、また個体差があるものの通常1〜3μmの範囲にある。
なお、象牙質細管の直径は、通常、抜歯した歯牙のエナメル質を削り取って露出した象牙質表面を歯磨剤と歯ブラシを使って1分以上ブラッシングを行った後、水中で超音波洗浄を施し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察することによって計測できる。
(D)成分として、水溶性、水不溶性、水難溶性のカルシウム化合物を使用することができる。水溶性のカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、硝酸カルシウム、水硫化カルシウム、チオシアン化カルシウム、チオ硫酸カルシウム、ヨウ化カルシウムなどを挙げることができる。
【0035】
歯牙漂白剤において、(B’)成分と水溶性の(D)成分と(C)成分のみを使用する場合には、(B’)成分と(D)成分の合計100重量部に対し(B’)成分は、好ましくは50〜99.5重量部、より好ましくは60〜99重量部、最も好ましくは80〜98重量部の範囲が適している。水不溶性のカルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどの無機カルシウム化合物;ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウムなどの有機カルシウム化合物を挙げることができる。(B’)成分と水不溶性または水難溶性の(D)成分と(C)成分のみを使用する場合には、(B’)と(D)の合計の合計100重量部において(B’)成分が0.5〜99.9重量部、好ましくは10〜90重量部、さらに好ましくは20〜80重量部の範囲である。水溶性カルシウム化合物と水不溶性または水難溶性のカルシウム化合物とを組合せて用いることもできる。
【0036】
歯牙漂白剤において、(B’)および(D)および(A)成分の合計100重量部に対し(A)成分は、好ましくは50〜99.5重量部、より好ましくは70〜99重量部、最も好ましくは90〜98重量部の範囲にある。この範囲にあることにより、本発明の効果が顕著に現れる。
歯牙漂白剤において、(B’)、(D)および(A)の成分のすべての成分を使用する場合には、(B’)および(D)および(A)成分の合計100重量部に対して、(A)成分は、好ましくは50〜99.9重量部、より好ましくは70〜99.9重量部、最も好ましくは80〜99.9重量部の範囲となるように、(B’)成分と(D)成分の合計を調整することが好ましい。
ここでも、(B’)成分と(D)成分の割合は、先に記載した比率で使用することができる。また、(A)成分中にあるエマルジョン粒子である重合体が(B’)、(D)および(A)成分の合計100重量部のうち、0.1〜60重量部、好ましくは0.5〜40重量部、さらに好ましくは1〜20重量部の範囲であるのが有利である。
【0037】
本発明の(C)成分において使用する過硫酸系漂白剤としては、好ましくは過硫酸塩やそれと硫酸塩との複塩等が挙げられる。より具体的には、ペルオキシ一硫酸カリウム・硫酸水素カリウム・硫酸カリウムの複塩化合物、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウムを用いることができる。又、場合によっては過スルホン酸類(RSOM;R:有機基、M:水素又は金属原子)を過硫酸系漂白剤に併用することができる。これらの過硫酸系漂白剤は、歯牙漂白剤組成物中に1重量%〜30重量%配合されることが好ましく、さらに好ましくは2重量%〜10重量%配合され得る。配合量が1重量%未満であると漂白効果が薄れる。逆に配合量が30%を超えると歯牙漂白剤の安定性が低下しやすくなる。なお、硫酸類などの非過酸化成分が多すぎて、過硫酸成分が少なくなると漂白効果が薄れるので、過硫酸部分(SO)は、歯牙漂白剤組成物中に好ましくは0.6〜22重量%、より好ましくは1〜10重量%配合される。
上記過硫酸系漂白剤以外に、過酸化水素、或いは過酸化水素を供給する化合物等を併用してもかまわない。なお、前記、過酸化水素を供給する化合物とは、過硫酸類を除く、常温にて容易に水と反応するなどして過酸化水素を生成し得る過酸化物(条件によっては、前記過硫酸類の代替物として利用可能である)などや、過酸化水素が水素結合などの緩い結合にて形成されたアダクト体などである。
【0038】
上記過硫酸系漂白剤以外に、過炭酸塩、過リン酸塩、過酸化塩(過酸化カルシウム、過酸化ナトリウム、過酸化マグネシウム等)、過ホウ酸塩(過ほう酸ナトリウム等)及び過酸化尿素等を加えることが好ましい。
過酸化水素を供給する化合物による過酸化水素の潜在含有量は、該組成物に対して、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%である。前記数値範囲の下限値を下回ると漂白効果が低くなり、上限値を上回ると生体への為害性が懸念されるため、好ましくない。
【0039】
なお、前記の過酸化水素の潜在含有量とは、閉鎖系において所定濃度の前記過酸化水素を供給する化合物が理論的に供給し得る過酸化水素の量によって達成される計算上の本組成物中の過酸化水素含有量である。
又、上記過硫酸系漂白剤以外に用いられる過酸化水素の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%にて歯牙漂白に用いられる。前記数値範囲の下限値を下回ると漂白効果が低くなり、上限値を上回ると生体への為害性が懸念されるため、好ましくない。
【0040】
また、必要に応じて、過酸化物の活性や漂白効果をより高めるためのpH調整剤、歯面への塗布性を高めるための増粘剤、塗布範囲を明確にするための着色剤、上記化合物の保存安定性を向上させるための安定剤等を添加することができる。
上記の組成物には、すべての成分が速やかに混和できるように水混和性溶媒を添加することができる。その溶剤としては、具体的には、エチルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。その中ではエチルアルコール、アセトン、グリセリンが好ましく、さらには、エチルアルコールが特に好ましい。
【0041】
また、本発明の組成物において、水溶液中で過酸化水素を供給する化合物と水性エマルジョン成分や水溶性有機酸を、溶液状態にて共存させて長期間保存すると、反応が進んで、用いる際には既に失活する恐れがある場合は、水溶液中で過酸化水素を供給する化合物を、別途、エマルジョン成分や水溶性有機酸などと隔離して保存することが好ましい。
また、光照射を必ずしも必要としないが、光照射を行ってもかまわない。
歯牙漂白剤には、発明の効果を損なわない濃度範囲において凝集促進剤を添加することができる。凝集促進剤の具体的な例として、塩酸、硝酸などの無機酸;鉄、銅、亜鉛、ストロンチウム、銀、スズなどの塩化物および酸化物;蟻酸、酢酸、乳酸、クエン酸、イタコン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、タンニン酸、トルエンスルホン酸、アジピン酸、酒石酸、アスコルビン酸、有機酸およびその金属塩;さらにはEDTAなどが挙げられる。また、必要に応じてフッ化ナトリウムやフッ化カリウムなどのフッ化物を使用することができる。
【0042】
また、発明の効果を損なわない濃度範囲において、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどの無機カルシウム塩や有機酸カルシウム塩などを使用することができる。
本発明に用いられる水溶エマルジョン成分の金属イオン濃度を低濃度にするために、加水限外濾過法および透析法を用いることができる。なかでも、加水限界濾過法が好ましい。
加水限外濾過法は膜濾過や膜分離手法のひとつとして食料品、医薬をはじめ工業的にも使用されている。限外濾過装置および膜は、編集幹事・清水博、監修・中垣正幸、「膜処理技術大系」(フジテクノシステム出版)において記載されている。
【0043】
本発明においては、上記の書物記載の装置を使用することができ、月刊フードケミカル’90 12月号、日笠勝著「平膜型UF装置の最近の応用」に記載のUF装置および膜を使用することもできる。さらに具体的には、例えば、ローヌ・プーラン製PCカセットシステムを使用することができる。また、カセット状になった膜の素材としては、ポリアクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、スルホン化ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンなどが挙げることができ、特にスルホン化ポリスルホンが好ましく使用できる。
【0044】
歯牙漂白剤において、エマルジョンの分散媒中の金属イオン濃度を減少するために使用できる水として、通常の蒸留水、脱イオン水、精製水などを挙げることができる。さらに、例えば水の電気分解などによって得られる強酸化水や強酸性水などと呼ばれる水も使用することができる。上記の水は、含有する金属イオン濃度が、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、最も好ましくは1ppm以下であることが望ましい。
【0045】
さらに、歯牙漂白剤においては、口腔内で使用される組成物であることを考慮して、日本薬局法の基準に適合した水および食品添加物として認可された水など医療、医薬および食品などの基準に適合した水を使用することが好ましい。
【0046】
歯牙漂白材中の(A)成分は、分散媒中の金属イオン濃度を1,000ppm以下にすることによって、特に加水限外濾過法により該濃度を1,000ppm以下にすることによって微生物の繁殖を抑制でき、さらにカビを混入させても生育しないことが明らかになった。このようなカビなどの微生物の発生および繁殖は、衛生的でないばかりでなく、悪臭の発生やエマルジョン粒子の凝集によってエマルジョンが破壊されやすいので好ましくない。
エマルジョン中の微生物の発生を防ぐために、防腐剤成分を使用することができる。ここで、防腐剤は防ばい剤を含む概念である。
【0047】
使用しうる防腐剤としては、工業的に使用しうる一般的な防腐剤を挙げることができる。しかしながら、本発明の目的に好適な防腐剤としては、人体に対して毒性が低く、衛生的なものであり、エマルジョン粒子を短期的、長期的に著しく凝集させずに知覚過敏抑制効果を損なわないものを選択すべきである。エマルジョン粒子の凝集性は防腐剤の化学構造や使用量によって強く影響を受ける。一方、防腐剤の防腐効果はエマルジョンを構成する重合体の成分や組成、エマルジョン中の種々のカチオンやアニオンなどの溶解成分の濃度およびエマルジョンのpHなどによって強く影響を受ける。従って、人体に対する毒性・衛生、エマルジョン粒子が凝集しないことおよび防腐効果の3要素を満たす組合せを選定する。
【実施例】
【0048】
以下に本発明について実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
【0049】
○漂白性能評価方法
ヒト歯表面の色調を高速分光光度計((株)村上色彩技術研究所製 CMS−35FS/C)を用いてLab値を測定し、調整した漂白剤組成物で一定時間漂白処理することによる漂白の進行に伴うΔEの変化で漂白性能を評価した。
【0050】
(エマルジョン合成例1)
蒸留水50mlを60℃に昇温し、窒素ガスを1時間バブリングした。窒素雰囲気下、メチルメタクリレート(MMA)2.0g、スチレンスルホン酸ソーダ(SSNa)0.54g、過硫酸カリウム30mg、亜硫酸水素ナトリウム10mgを添加し、2.5時間60℃で激しく撹拌した。さらに、MMA1.0g、過硫酸カリウム15mg、亜硫酸水素ナトリウム7mgを30分間隔で4回添加した後、さらに19.5時間激しく撹拌した。室温に冷却後、濃塩酸0.19mlを加えて2時間撹拌し、透析チュ−ブに入れて蒸留水を5日間毎日交換しながら透析を繰り返した。このチュ−ブを常温、常圧下、乾燥して、固形分10.9wt%のエマルジョンを得た。元素分析からこの重合体のMMAユニットの含量は96.9mol%であった。得られた重合体を分子量既知のポリメタクリル酸メチルを標準試料としてGPCを用いて分析したところ数平均分子量(Mn)は1.0×10であった。透過型顕微鏡観察より、この乳化重合体エマルジョン粒子は直径0.1〜0.5μmの範囲にあり、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−910、ホリバ)により全ての重合体のエマルジョン粒子の直径が1μm以下であることが確認された。以下、このエマルジョンをMSEと略記する。
【0051】
上記エマルジョンMSEを蒸留水で希釈して、不揮発性成分5重量%のエマルジョンMSEに、カルシウム化合物としての塩化カルシウムを1重量%溶解する水溶液を等重量添加し、撹拌した後、粒度分布測定装置LA−910にて同様に粒径を測定した。エマルジョンMSEに存在していた重合体エマルジョン粒子は、凝集しており、その粒径は0.1〜700μmの広範囲に分布し、約0.3および約40μmにピークを有していた。エマルジョンMSEを蒸留水で希釈して5重量%の重合体を水中に含むエマルジョンとした。
【0052】
(エマルジョン合成例2)
前記エマルジョン合成例において、透析チューブの代わりに加水限外濾過装置を用いる他は、該合成例を繰返し、エマルジョンを合成した。加水限外濾過装置として限外濾過装置PCカセットシステム(ローヌ・プーラン社製)とスルホン化ポリスルホン膜のIRIS3026を用いて加水倍率5倍まで精製をおこなった。限外濾過装置の膜面積は0.506m、平均操作圧は0.5〜3kgf/cmであった。以下、限外濾過装置および濾過膜は同じ物を使用し実験に供した。該エマルジョンを不揮発成分濃度5重量%まで蒸留水で希釈した。サンプルの一部を取り出して、エマルジョン粒子を限外濾過装置にて濾過して濾液中の金属イオン濃度を卓上型プラズマ発光分光分析装置(SPS7700、セイコー電子工業(株)製)にて行った。以下の実験においても同測定装置を使用した。測定した分散媒中の金属イオンは、モノマーや重合開始剤由来のナトリウムおよびカリウムイオンが大部分を占め、その他の金属はほとんど検出されなかったため、NaとKに限定して定量した。その結果、金属イオン濃度(Na+K)は230ppmであった。該エマルジョンをふた付ポリ容器中に移し、約3ヶ月間室温暗所中で保存した。その結果、カビの発生は認められなかった。該観察に用いた容器は、容器内に付着した微生物の影響をなくするために、あらかじめエタノールにて洗浄し乾燥した物を使用した。以下、容器は同様に洗浄して実験に供した。エマルジョンMSEを蒸留水で希釈して5重量%の重合体を水中に含むエマルジョンとした。
【0053】
《歯牙の漂白試験》
実施例1
6%過酸化水素水2.0gにオキソン(デュポン社製,KHSO・KSO・2KHSO)0.20g、炭酸水素ナトリウム0.004g、炭酸ナトリウム0.004g、380(日本アエロジル(株)製)0.39g、エマルジョン液1.0g、3%シュウ酸水溶液1.0gを混合して均一なペーストとした後、歯牙表面に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが7.4、色差ΔEが11.7に改善し、漂白された。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。
【0054】
実施例2
10%過酸化水素水2.0gにオキソン(デュポン社製,KHSO・KSO・2KHSO)0.20g、炭酸水素ナトリウム0.004g、炭酸ナトリウム0.004g、380(日本アエロジル(株)製) 0.39g、エマルジョン液1.0g、3%シュウ酸水溶液1.0gを混合して均一なペーストとした後、歯牙表面に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが7.5、色差ΔEが12.0に改善し、漂白された。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。
【0055】
比較例1
6%過酸化水素水0.6gに、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005g、380S 0.13g、エマルジョン液0.25g、3%シュウ酸水溶液0.25gを混合して均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが0.9、色差ΔEが1.4とほとんど漂白されなかった。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。
【0056】
実施例3
6%過酸化水素水2.0gにオキソン(デュポン社製,KHSO・KSO・2KHSO)0.20g、炭酸水素ナトリウム0.004g、炭酸ナトリウム0.004g、380(日本アエロジル(株)製)0.39g、2.5重量%の高分子重合体(MSE)および1重量%の硫酸アンモニウムを同時に含む水溶液と0.5重量%の塩化カルシウム水溶液を別の容器に保存し、使用直前に1.0gずつ取り出して十分に混合し、均一なペーストとした後、歯牙表面に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが5.4、色差ΔEが8.5に改善し、漂白された。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。
【0057】
実施例4
10%過酸化水素水2.0gにオキソン(デュポン社製,KHSO・KSO・2KHSO)0.20g、炭酸水素ナトリウム0.004g、炭酸ナトリウム0.004g、380(日本アエロジル(株)製) 0.39g、2.5重量%の高分子重合体(MSE)および1重量%の硫酸アンモニウムを同時に含む水溶液と0.5重量%の塩化カルシウム水溶液を別の容器に保存し、使用直前に1.0gずつ取り出して十分に混合し、均一なペーストとした後、歯牙表面に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが6.3、色差ΔEが8.6に改善し、漂白された。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。
【0058】
比較例2
6%過酸化水素水0.6gに、炭酸水素ナトリウム0.0005g、炭酸ナトリウム0.0005g、380S 0.13g、2.5重量%の高分子重合体(MSE)および1重量%の硫酸アンモニウムを同時に含む水溶液と0.5重量%の塩化カルシウム水溶液を別の容器に保存し、使用直前に0.25gずつ取り出して十分に混合し、
て均一なペーストとした後、歯牙に均一に塗布した。
一回の漂白時間を20分間とし、一回毎に新たな上記漂白剤組成物の塗布を3回繰り返した。その結果、明るさΔLが1.0、色差ΔEが1.4とほとんど漂白されなかった。また、歯表面状態はポリマー膜により保護されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(AB)水不溶性、水難溶性乃至は水中にて凝集粒子となるCa塩を形成しうる成分、および
(C)過硫酸系漂白剤、
を含有することを特徴とする歯牙用漂白剤組成物。
【請求項2】
(AB)水不溶性、水難溶性乃至は水中にて凝集粒子となるCa塩を形成しうる成分が、
(A)3μm未満の平均粒子径を有しそしてカルシウム化合物と反応して粒径3μm以上の凝集粒子を形成しうる水性エマルジョン成分および/または、
(B)水溶性有機酸成分および/またはその水溶性塩成分(但し、該水溶性有機酸のカルシウム塩は、水不溶性ないし水難溶性である)、および/または、
(B’)硫酸塩成分
である請求項1に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項3】
上記(AB)成分が上記(A)成分と(B)成分の組合せである請求項2に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項4】
上記(AB)成分が上記(A)成分と(B’)成分の組合せである請求項2に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、カルボキシル基、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基、およびスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する重合体をエマルジョン粒子とする請求項2〜4のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分とスチレンスルホン酸成分を含む共重合体をエマルジョン粒子とする請求項2〜4のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、シュウ酸、シュウ酸金属塩、シュウ酸アンモニウム塩およびシュウ酸アミン塩よりなる群から選択される少なくとも1種の水溶性シュウ酸化合物である請求項2または3に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項8】
前記成分(C)が、ペルオキシ一硫酸カリウム・硫酸水素カリウム・硫酸カリウムの複塩化合物、過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウムである請求項1〜7のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項9】
過酸化ナトリウム、過ほう酸ナトリウム、過炭酸塩、過リン酸塩、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム及び過酸化尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の過酸化水素を供給できる化合物をさらに含有する請求項1〜8のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項10】
増粘剤およびpH調節剤からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜9のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項11】
前記過酸化水素を供給できる化合物による過酸化水素の潜在含有量が、該組成物に対して0.5重量%以上である請求項9に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項12】
前記過酸化水素の潜在含有量が、該組成物に対して2重量%以上である請求項9に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項13】
過酸化水素をさらに含有する請求項1〜12のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項14】
過酸化水素の量が0.1重量%以上である請求項13に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項15】
過酸化水素の量が1重量%以上である請求項13に記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項16】
リン酸、縮合リン酸、およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜15のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項17】
(D)カルシウム化合物
をさらに含有する請求項1〜16のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項18】
前記水性エマルジョン成分(A)は、分散媒中の金属イオン濃度が1,000ppm以下である請求項1〜17のいずれかに記載の歯牙用漂白剤組成物。
【請求項19】
前記(B’)成分の濃度が1重量%〜飽和濃度までの範囲にあって、水溶性もしくは水性溶液の形態にある請求項2または4に記載の歯科用漂白剤組成物。
【請求項20】
前記(D)成分が、塩化カルシウムである請求項17に記載の歯科用漂白剤組成物。
【請求項21】
前記(D)成分の濃度が0.01重量%〜飽和濃度までの範囲にあって、有機溶媒を含んでいてもよい水溶液または水性溶液の形態にある請求項17または20に記載の歯科用漂白剤組成物。
【請求項22】
前記(A)成分を含む歯科用組成物100重量部において、(A)成分中の重合体が固形物換算で0.1〜60重量部の範囲で含有される請求項2、3または4に記載の歯科用組成物。

【公開番号】特開2007−231012(P2007−231012A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25712(P2007−25712)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】