歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラム
【課題】短時間で簡便に埋入角度の評価を行うことができ、臨床的に実用的な歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラムを提供する。
【解決手段】歯科インプラント1を傾斜埋入する際の、術前の埋入角度評価を行うための埋入角度評価装置であって、矢状面及び前頭面の直交2平面におけるフィクスチャー2の角度θx及びθyを入力し、これら2つの角度θx及びθyに基づいて、簡易な三角関数演算を行うことで、上記埋入角度に対する評価指標IDを演算する。
【解決手段】歯科インプラント1を傾斜埋入する際の、術前の埋入角度評価を行うための埋入角度評価装置であって、矢状面及び前頭面の直交2平面におけるフィクスチャー2の角度θx及びθyを入力し、これら2つの角度θx及びθyに基づいて、簡易な三角関数演算を行うことで、上記埋入角度に対する評価指標IDを演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨に固定する歯科インプラントの埋入角度の評価を行う埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラム関する。
【背景技術】
【0002】
従来、欠損歯を補うために補綴物を顎骨に固定する歯科治療法として、歯科インプラント治療がある(例えば、特許文献1参照)。歯科インプラント治療は、ブリッジ等を用いた治療法に比べて補綴物をより強固に支持することができるため、非常に高い機能回復を望むことができる。
ところが、歯科インプラント治療は、埋入部位の骨量や骨質、解剖学的構造(上顎洞、下顎管など)により適応症に制限がある。適応症をより広範囲にするために、歯科インプラントの埋入角度に傾斜を付与する方法をとる場合がある。このような傾斜埋入法を採用することにより、垂直方向に骨量が不足している場合であっても骨量を確保することができたり、解剖学的構造の問題を回避できたりする。
【0003】
歯科インプラントを傾斜埋入する場合、術後の力学的な負担を術前に解析し評価することで、ベストに近い埋入計画を立案することが望ましい。術前評価方法としては、X線CT画像データから三次元有限要素法モデルを作製し、このモデルにインプラント埋入データを入力した後、力学解析を行って傾斜埋入の角度評価を行う方法が最も有用な方法として研究に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−321392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の三次元有限要素法を用いた力学シミュレーションによる埋入角度評価方法にあっては、結果が得られるまでに時間を要する、力学解析の専門知識を要するなどの問題があり、研究レベルでは実現可能であるが、臨床的には実用的ではない。
そこで、本発明は、短時間で簡便に埋入角度の評価を行うことができ、臨床的に実用的な歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る埋入角度評価装置は、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価装置であって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する評価指標演算手段を備えることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、力学解析の専門知識を必要とすることなく、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行うことができる。
【0007】
また、請求項2に係る埋入角度評価装置は、請求項1に係る発明において、前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの角度であることを特徴としている。
このように、直交2平面上の埋入角度をそれぞれ入力するだけで、埋入角度の評価を行うことができる。直交2平面上の埋入角度は、歯科インプラント埋入術で一般的に用いられるX線CT画像等を用いて設定可能であるため、歯科インプラント埋入術に係る歯科治療の知識があれば、上記埋入角度の評価が可能となる。
【0008】
さらに、請求項3に係る埋入角度評価装置は、請求項1に係る発明において、前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの水平方向及び垂直方向の長さであることを特徴としている。
このように、直交2平面上の水平方向及び垂直方向のフィクスチャーの長さをそれぞれ入力するだけで、埋入角度の評価を行うことができる。直交2平面上の水平方向及び垂直方向のフィクスチャーの長さは、歯科インプラント埋入術で一般的に用いられるX線CT画像等を用いて設定可能であるため、歯科インプラント埋入術に係る歯科治療の知識があれば、上記埋入角度の評価が可能となる。
【0009】
また、請求項4に係る埋入角度評価装置は、請求項2又は3に係る発明において、前記互いに直交する2つの平面は、矢状面と前頭面であることを特徴としている。
このように、解剖学的な基準面である矢状面と前頭面を用いるので、埋入角度を表す状態量の設定を適切に行うことができる。
さらに、請求項5に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜4の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段は、水平方向及び垂直方向の少なくとも一方からの荷重に対する前記フィクスチャーの抵抗力を評価する指標を前記評価指標として演算することを特徴としている。
これにより、フィクスチャーに入力される荷重のうち重視したい方向からの荷重に対する抵抗力が高い埋入角度を採用するようにすることができるなど、目的に応じた評価が可能となる。
【0010】
さらにまた、請求項6に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜5の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段は、前記フィクスチャーの埋入長さ、前記フィクスチャーの太さ、前記フィクスチャーの埋入部位および当該埋入部位の骨質の少なくとも1つに応じて、異なる三角関数演算を行って前記評価指標を演算することを特徴としている。
これにより、歯科インプラントを複数本埋入する場合、インプラントのサイズや埋入部位及び骨質に応じて、目的に合致した算出方法で評価指標を求めることができる。そのため、より高精度な評価が可能となる。
【0011】
また、請求項7に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜6の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段で演算した評価指標を、前記フィクスチャーの埋入長さ及び前記フィクスチャーの太さの少なくとも一方に基づいて補正する補正手段を備えることを特徴としている。
このように、フィクスチャーの埋入長さや太さを考慮して評価指標を求めることができるので、インプラントの維持安定の寄与度を反映させた評価指標とすることができる。そのため、より高精度な評価が可能となる。
【0012】
さらに、請求項8に係る埋入角度評価方法は、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価方法であって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量を入力するステップと、前記状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算するステップと、を備えることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行う評価方法とすることができる。
【0013】
また、請求項9に係る埋入角度評価プログラムは、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する機能をコンピュータに実現させる歯科インプラントの埋入角度評価プログラムであって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する機能をコンピュータに実現させることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行う評価プログラムとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯科インプラントを傾斜埋入する際、術前に歯科インプラントの埋入角度を表す状態量に基づいて簡易な三角関数演算を行うだけで、三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を演算することができる。このように、力学解析の専門知識を必要とすることなく、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行うことができる。したがって、臨床的に実用可能な歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】歯科インプラントを含む歯科治療具を示す分解斜視図である。
【図2】本発明における埋入角度評価装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【図4】埋入角度と評価指標ID1との関係を示す図である。
【図5】埋入角度と評価指標ID2との関係を示す図である。
【図6】埋入角度と評価指標ID3との関係を示す図である。
【図7】埋入角度と評価指標ID4との関係を示す図である。
【図8】埋入角度と評価指標ID5との関係を示す図である。
【図9】第2の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【図10】垂直埋入時と傾斜埋入時におけるフィクスチャーの埋入長さを説明するための図である。
【図11】埋入角度を表す状態量の別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図1は、歯科インプラントを含む歯科治療具の一例を示す分解斜視図である。
図中、符号1は、歯科インプラントである。歯科インプラント1は、歯槽骨に埋入されることで固定されるフィクスチャー2と、フィクスチャー2と係合するアバットメント3とで構成される。フィクスチャー2及びアバットメント3は、何れもチタンなどの金属材料の鋳造や削出加工によって製造される。
【0017】
フィクスチャー2は略円柱形状からなり、その一端21を歯槽骨に形成した穿孔に挿入することで、歯槽骨に固定する。フィクスチャー2の側面にはネジ溝22が形成されており、歯槽骨に挿入する際、フィクスチャー2は雄ねじとして螺入される。また、フィクスチャー2の他端23には、当該フィクスチャー2の軸方向に係合穴24が形成されており、この係合穴24にアバットメント3が着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0018】
アバットメント3は、フィクスチャー2の係合穴24と係合される係合部31と、補綴物(補綴冠)4が装着される装着部32とを備える。装着部32は略円錐台の形状からなり、補綴物4が接着あるいは嵌着されるようになっている。
フィクスチャー2は、歯槽骨に対して垂直埋入されるのが一般的であるが、埋入部位の骨量や骨質、上顎洞や下顎管などの解剖学的構造によっては、埋入角度に傾斜を付与し、フィクスチャー2を垂直方向に対して傾斜した状態で埋入する傾斜埋入が採用される。
【0019】
図2は、本発明における埋入角度評価装置の構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、埋入角度評価装置10は、埋設情報入力部11と、メモリ12と、CPU13と、表示部14とを備える。この埋入角度評価装置10は、歯科インプラント1の傾斜埋入における埋入角度の評価(良否判定)を行うものである。
埋設情報入力部11は、評価対象となる歯科インプラント1の埋設情報をユーザーが入力するためのインターフェースであり、例えばキーボードやマウス等で構成することができる。ここで、埋設情報とは、歯科インプラント1の埋入部位(臼歯部か前歯部か)や、歯科インプラント1の埋入部位の骨質、互いに直交する2平面におけるフィクスチャー2の埋入角度等である。本実施形態では、上記埋入角度として、矢状面視における埋入角度θxと前頭面視における埋入角度θyとを用いる。ここで、0°≦θx≦90°、0°≦θy≦90°であり、各埋入角度θx及びθyはそれぞれ垂直埋入時に0°となる。
メモリ12は、埋設情報入力部11から入力された埋設情報を記憶する。CPU13は、後述する埋入角度評価処理を実行し、評価対象となる埋入角度に対する評価指標を演算することで、当該埋入角度の評価を行う。表示部14は、CPU13で実行した埋入角度評価処理の実行結果を表示する。
【0020】
図3は、CPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS1で、CPU13は、メモリ12に記憶された評価対象となる埋入角度θx,θy等の埋設情報を取得し、ステップS2に移行する。
ステップS2では、CPU13は、前記ステップS1で取得した埋入角度θx,θyに基づいて、次式をもとに当該埋入角度に対する評価指標ID1〜ID5を演算する。このとき、複数の埋設条件が設定されている場合には、それぞれについて評価指標ID1〜ID5を演算する。
ID1=sinθx・sinθy ………(1)
ID2=cosθx・cosθy ………(2)
ID3=sinθx・sinθy・cosθx・cosθy ………(3)
ID4=x・cosθx+y・cosθy ………(4)
ID5=x・cosθx・y・cosθy ………(5)
【0021】
図4は、埋入角度θx,θyと評価指標ID1との関係を示す図である。
この図4に示すように、評価指標ID1は、θx及びθyの少なくとも一方が0°のときに最小値となり、θx及びθyが共に90°のときに最大値となる。このように、歯科インプラント1の傾斜が大きいほど評価値が高くなる評価方法である。
埋入角度θx,θyが大きいほど水平面に投影される歯科インプラント1の部分(投影部分)の面積が広くなることから、評価指標ID1は垂直方向の荷重に対しての抵抗力を評価するインデックスとして有用である。特に、垂直方向の抵抗力を重視する臼歯部などの評価に適している。
【0022】
図5は、埋入角度θx,θyと評価指標ID2との関係を示す図である。
この図5に示すように、評価指標ID2は、θx及びθyの少なくとも一方が90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に0°のときに最大値となる。このように、垂直埋入において評価値が最大となる評価方法である。
埋入角度θx,θyが小さいほど垂直面における歯科インプラント1の投影部分の面積が広くなることから、評価指標ID2は水平方向(側方)の荷重に対しての抵抗力を評価するインデックスとして有用である。特に、側方(前方を含めた水平方向)からの荷重に対する抵抗力を重視する前歯部や犬歯部の評価に適している。
【0023】
図6は、埋入角度θx,θyと評価指標ID3との関係を示す図である。
この図6に示すように、評価指標ID3は、θx及びθyの少なくとも一方が0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID3は、上記評価指標ID1及びID2の双方を考慮しており、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0024】
図7は、埋入角度θx,θyと評価指標ID4との関係を示す図である。
この図7に示すように、評価指標ID4は、θx及びθyが0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID4は、上記評価指標ID3と同様に、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0025】
上述した評価指標ID3が、水平及び垂直方向の角度成分を相乗効果としてその「積」で求めたインデックスであるのに対し、評価指標ID4は、水平面及び垂直面に対する歯科インプラント1の投影面積を求め、さらにそれら面積の「和」で求めたインデックスである。このため、評価指標ID4は、僅かな角度の違いが評価指標ID3よりも顕著な変化として現れる。すなわち、評価指標ID4は評価指標ID3よりも角度の変化に対するID値の感度が高い。
【0026】
図8は、埋入角度θx,θyと評価指標ID5との関係を示す図である。
この図8に示すように、評価指標ID5は、θx及びθyの少なくとも一方が0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID5は、上記評価指標ID3と同様に、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0027】
上述した評価指標ID3が、水平及び垂直方向の角度成分を相乗効果としてその「積」で求めたインデックスであるのに対し、評価指標ID5は、水平面及び垂直面に対する歯科インプラント1の投影面積を求め、さらにそれら面積の「積」で求めたインデックスである。このため、評価指標ID5は、投影面積の「和」で求めた評価指標ID4よりも角度の変化に対するID値の感度は低くなる。
【0028】
すなわち、角度の変化に対するID値の変化が顕著な順に並べると、
ID4≫ID5>ID3
となり、ID4が最も感度が高く、続いてID5、ID3の順に感度が高くなる。
インプラント埋入長さ(または太さ)が十分に確保される場合は、インプラントの維持安定が確保されやすいため、ID値の感度が低くても角度の差はあまり問題にならない。ところが、インプラント埋入長さが短い(または太さが極端に細い)場合は、インプラントの維持安定に対して角度の影響が強く表れる可能性が高いため、安全性を考慮に入れてより感度の高いインデックスを用いると良い。
【0029】
同様に、骨質が良好または骨量が十分にある場合は、インプラントの維持安定が確保されやすいため、ID値の感度が低くても角度の影響は少ないが、逆に骨質や骨量が乏しい場合は、より感度の高いインデックスを用いると維持安定性の面で危険率が小さくなるため良い。
このように、本実施形態では、フィクスチャー2のサイズ(長さ、太さ)、埋入部位(臼歯部か前歯部か)および骨質によって、評価指標ID1〜ID5のうち目的に合致した算出方法で算出した評価指標を選択し、これを最終的な評価指標IDとして採用するものとする。
【0030】
次に、ステップS3では、CPU13は、前記ステップS2で演算した評価指標IDに応じた評価結果を表示部14に表示し、埋入角度評価処理を終了する。評価結果の表示方法としては、評価指標IDをそのまま実数表示する方法のほか、パーセンテージ表示や安全率表示等を用いることができる。
パーセンテージ表示では、標準となる目標の評価指標値を100%とし、標準的な条件に対して評価指標IDがどの程度の割合を示すかを表示する。この場合、例えば、インプラントの長さ8mm、矢状面角度θx=45°、前頭面角度θy=45°の条件を標準的な目標値として100%と予め設定し、この条件に対して、比較したい傾斜埋入角度がどの程度の割合を占めているかをパーセンテージ表示する。
【0031】
また、安全率表示では、比較したい傾斜埋入角度が標準的な条件に対して許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にある場合にはどの程度許容されているかを表現する。例えば、標準的な条件での評価指標値を基準評価指標Is、比較対象である評価指標を比較評価指標Iaとした場合、IsとIaとが以下の関係を満足するか否かを判定する。
Ia≧Is/f
≧Is/2 ………(6)
ここで、fは安全率であり、f=2としている。
【0032】
そして、上記(6)式を満足している場合に、比較評価指標Iaが許容値であると判断する。f=2とした場合、基準評価指標Isの50%以上の評価指標値が許容されることになる。
評価結果の表示方法としては、上記(6)式を満足している場合には「許容範囲内」、「許容値」、「許容内」、「適正」、「可」、「可能」、「○」などの肯定的表記を行い、上記(6)式を満足していない場合には「許容範囲外」、「許容値外」、「不適」、「不可」、「不可能」、「×」などの否定的表記を行う方法を用いることができる。
【0033】
また、別の表示方法として、基準傾斜評価指標Isと比較評価指標Iaとに基づいて、次式をもとに許容外である度合いを示す危険率Iriskを求め、これを表示する方法を用いることもできる。
Irisk=Is/Ia ………(7)
上記(7)式からも明らかなように、危険率Iriskは評価指標Iaが小さい値であるほど大きい値となる。
なお、図3のステップS3が評価指標演算手段に対応している。
【0034】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力され、これらの埋設情報がメモリ12に記憶される。
【0035】
そのため、埋入角度評価装置10のCPU13は、図3に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用され(ステップS2)、これらが表示部14に比較表示される(ステップS3)。そして、その表示結果に基づいて、複数の埋入角度候補の中からベストな埋入角度を選択し、埋入計画を立案する。
【0036】
一方、患者の前歯部に歯牙の欠損がある場合には、歯科インプラント1の埋入部位は前歯部に決定される。したがって、この場合には、上記(2)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID2が評価指標IDとして採用され、その演算結果に基づいてベストな埋入角度を選択することになる。
さらに、患者の歯牙の欠損部位の骨質が乏しい場合には、上記(4)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID4が評価指標IDとして採用され、その演算結果に基づいてベストな埋入角度を選択することになる。
【0037】
このように、歯科インプラント1の埋入部位や当該埋入部位の骨質に応じて、評価指標の算出方法を変更する。これにより、埋入部位が臼歯部である場合には、垂直方向からの荷重に対するフィクスチャー2の抵抗力を重視するものとして、垂直方向の荷重に対する抵抗力を評価する算出方法を選択したり、埋入部位が前歯部である場合には、水平方向からの荷重に対するフィクスチャー2の抵抗力を重視するものとして、水平方向の荷重に対する抵抗力を評価する算出方法を選択したりすることができるなど、目的に合致した評価指標を得ることができる。その結果、より精度の高い評価を行うことができる。
また、直交2平面における2つの埋入角度θx,θxを入力し、上記(1)〜(5)に示すような簡易な三角関数演算を行うだけで、歯科インプラント1の三次元的な傾斜角度に対する評価指標を得ることができ、その大小によって埋入角度の良否を比較、判定することができる。
【0038】
ところで、歯科インプラントの傾斜埋入において、埋入角度の評価を行う方法としては、三次元有限要素法を用いた力学解析による応力解析結果の比較を行う方法が研究分野で採用されている。この評価方法は、術後の力学的な負担を術前に解析して評価することできることから、非常に有用な評価方法である。ところが、この評価方法は、解析結果が得られるまでに時間と手間がかかり、専用のプログラムの導入が必須であり、コスト的にも高価であり、X線CT撮影を行った後すぐに評価結果が得られる方法ではない。また、解析を行える環境や力学解析の専門知識を要するため、一般臨床的に実用的な方法ではなく一部の研究分野で行われているに過ぎない。
これに対して、本実施形態では、上述したように簡易な三角関数演算により埋入角度の評価指標を演算することで、当該埋入角度の評価を行うことができるので、力学解析の専門知識等を必要とせずに、短時間で埋入角度の評価を行うことができる。
【0039】
(効果)
上記第1の実施形態では、直交2平面上の2つの埋入角度を入力し、三角関数演算を行うだけで歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価指標を求めることができる。このように、三角関数演算により評価指標を求めるので、従来の三次元有限要素法を用いた評価のように力学解析の専門知識を必要とせずに、短時間で簡便に埋入角度の評価を行うことができる。また、高機能のPC等の特別な評価実施環境を必要としないので、臨床で、しかもチェアーサイドでの使用が可能である。さらに、数値データとしての指標値を提示するので、評価者の主観的な判断や経験的な判断に頼ることなくより客観的な評価が可能となり、複数の埋入角度候補の比較検討を適切に行うことができる。また、チェアーサイドで結果を得ることができることから、患者の前で術式の説明を行い、インフォームドコンセントを得る治療形態を構築することができ、より患者サイドに立った歯科医療の提供が可能となる。
【0040】
また、直交2平面上の2つの埋入角度に基づいて評価指標が演算可能であるため、歯科インプラント埋入術で一般に用いられるX線CT画像があれば、2方向からの埋入角度を分度器等で計測し、これら埋入角度を評価指標の演算式に入力するだけで埋入角度の評価が可能となる。
さらに、上記直交2平面として、解剖学的な基準面である矢状面と前頭面とを用いるので、評価対象とする埋入角度の設定を比較的容易に行うことができる。
【0041】
また、フィクスチャーの埋入長さや太さ、埋入部位、埋入部位の骨質に応じて、異なる三角関数演算を行って評価指標を演算する。例えば、埋入部位が臼歯部である場合には、垂直方向の荷重に対する抵抗力の評価に適した演算方法を用い、埋入部位が前歯部である場合には、水平方向の荷重に対する抵抗力の評価に適した演算方法を用いて評価指標を求める。また、フィクスチャーの埋入長さや太さ、埋入部位の骨質に応じて、インプラントの維持安定に対して埋入角度の影響が強く現れる可能性が高いほど、埋入角度の変化に対する評価値の感度が高い演算方法を用いる。このように、目的に合致した演算方法を用いて評価指標を求めるので、高精度な評価が可能となる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、フィクスチャー2の長さや太さを考慮して評価指標を演算するようにしたものである。
(構成)
第2の実施形態における埋入角度評価装置10は、CPU13で実行する埋入角度評価処理が異なることを除いては、前述した第1の実施形態における埋入角度評価装置10と同一構成を有する。
図9は、第2の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【0043】
この埋入角度評価処理は、図3のステップS2の後に、フィクスチャー2の長さL及び太さDを考慮して前記ステップS2で演算した評価指標ID1〜ID5を補正するステップS11を追加したことを除いては、図3に示す埋入角度評価処理と同一処理を行う。したがって、図3と同一処理を行う部分には同一ステップ番号を付し、処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS11では、CPU13は、前記ステップS2で求めた最終的な評価指標IDを、フィクスチャー2の長さL及び太さ(直径)Dに応じた重み係数で補正する。
【0044】
すなわち、このステップS11では、次式をもとに評価指標IDを補正する。
ID=PL・PD・ID ………(8)
ここで、PLはフィクスチャー2の長さに対する重み係数、PDはフィクスチャー2の太さに対する重み係数である。重み係数PL,PDは、標準的なフィクスチャー2のサイズをD0×L0(例えば、φ4×8mm)とすると、それぞれ次式によって表される。
PL=(L−ΔL)/L0=(L−D・cosθ)/L0 ………(9)
PD=D/D0 ………(10)
【0045】
すなわち、重み係数PL,PDは、標準サイズに対する比として表される。
歯科インプラント1を垂直埋入させた場合、図10(a)に示すように、フィクスチャー2の長さLがそのまま埋入長さとなるが、歯科インプラント1を角度θで傾斜埋入させた場合、図10(b)に示すように、ネック部分の辺縁は骨内に埋入されずに骨面上に位置する。
したがって、傾斜埋入の場合は、フィクスチャー2の直径Dと埋入角度θによって、実際の埋入長さが異なる。実際の埋入長さは、フィクスチャー2の長さLから、直径Dと埋入角度θとによる長さの減少分ΔLを差し引いた(L−ΔL)=(L−D・cosθ)となる。このため、重み係数PLは上記(9)式で表される。
なお、図9のステップS11が補正手段に対応している。
【0046】
(動作)
次に、本発明の第2の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力される。さらに、このとき埋設情報入力部11では、複数のフィクスチャー2のサイズ候補も入力される。そして、これらの埋設情報はメモリ12に記憶される。
【0047】
埋入角度評価装置10のCPU13は、図9に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補およびサイズ候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用される(ステップS2)。
【0048】
次に、CPU13は、複数のフィクスチャー2のサイズ候補に対応して、それぞれ評価指標IDを補正する。このとき、フィクスチャー2のサイズ候補の1つが、標準サイズとは異なる長さL=10mm、太さD=4mmであるものとすると、上記(8)式をもとにフィクスチャー2のサイズに応じた重み係数が掛けられ、評価指標ID(=ID1)が補正される(ステップS11)。ここで、標準サイズL0=8mm、D0=4mmであるとすると、フィクスチャー2を垂直埋入(θ=90°)する場合には、PL=(10−4・cos90°)/8=1.25、PD=1となる。そのため、補正後の評価指標IDは、補正前の評価指標IDに1.25を重みとして掛けた値となる。
【0049】
なお、フィクスチャー2の太さが比較的細い場合には、上記ΔLが無視できるほど小さい値となるため、PL=1としてもよい。
このように、評価対象となるフィクスチャー2の埋入長さや太さに応じた重み係数PL,PDに基づいて、前記(1)〜(5)式をもとに算出される評価指標を補正する。したがって、埋入角度が同じであってもフィクスチャー2の埋入長さが長いほど(太さが太いほど)評価値を高く算出することができ、フィクスチャー2のサイズの違いに応じた歯科インプラント1の維持安定性の違いを評価指標に適切に反映させることができる。
【0050】
(効果)
上記第2の実施形態では、フィクスチャーの長さや太さを考慮して評価指標を演算するので、より高精度な評価を行うことができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明における第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、三次元有限要素法による力学解析結果を詳細データテーブルとして参照して、評価指標を演算するようにしたものである。
【0051】
(構成)
第3の実施形態における埋入角度評価装置10のCPU13で実行する埋入角度評価処理は、図9のステップS11の処理が異なることを除いては、前述した第2の実施形態における埋入角度評価装置10と同一である。したがって、ここでは処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS11では、CPU13は、先ず、三次元有限要素法による力学解析結果をもとに作成した詳細データテーブルを参照し、埋入角度θx及びθyに対応するテーブル値PTBLを取得する。そして、前記ステップS2で求めた最終的な評価指標IDを、フィクスチャー2の長さL及び太さ(直径)Dに応じた重み係数PL,PDおよびテーブル値PTBLで補正する。
すなわち、このステップS11では、次式をもとに評価指標IDを補正する。
ID=PTBL・PL・PD・ID ………(11)
【0052】
詳細データテーブルは、以下のように作成する。
先ず、矢状面及び前頭面上における埋入角度の代表値を決める。ここでは、例えば、それぞれ5°刻みの角度とする。そして、この代表値の2方向の角度の組み合わせ(例えば、θx=5°とθy=0,5,10,…,90°、θx=10°とθy=0,5,10,…,90°)に対して、それぞれ実際に有限要素法による力学解析を行う。この結果から得られた変位量に基づいて、詳細データテーブルを作成する。この詳細データテーブルは、メモリ12に記憶しておく。
【0053】
CPU13は、埋設情報入力部11から入力された埋入角度θxとθyの組み合わせをもとに、メモリ12に記憶された詳細データテーブルを参照し、入力された埋入角度θx,θyの組み合わせに最も近い代表値の組み合わせに対応するテーブル値PTBLを取得する。
なお、線形回帰法による回帰分析を行って、入力された埋入角度θx,θyの組み合わせに対応するテーブル値PTBLを取得するようにしてもよい。これにより、より等価式に近い評価指標を求めることができる。
【0054】
(動作)
次に、本発明の第3の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力される。さらに、このとき埋設情報入力部11では、複数のフィクスチャー2のサイズ候補も入力される。そして、これらの埋設情報はメモリ12に記憶される。
【0055】
埋入角度評価装置10のCPU13は、図9に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用される(ステップS2)。
【0056】
次に、CPU13は、複数のフィクスチャー2のサイズ候補及び複数の埋入角度候補に対応して、それぞれ評価指標IDを補正する。すなわち、CPU13は、メモリ12に記憶された詳細データテーブルを参照し、埋入角度θx及びθyに対応するテーブル値PTBLを取得する。そして、上記(11)式をもとに、フィクスチャー2のサイズ候補に応じた重み係数PL,PDと、実際の力学解析の結果に応じた重み係数PTBLとが掛けられ、評価指標ID(=ID1)が補正される(ステップS11)。
このように、評価対象となるフィクスチャー2の埋入長さや太さに応じた重み係数PL,PDだけでなく、実際の力学解析結果に応じた重み係数PTBLを用いて、前記(1)〜(5)式をもとに算出される評価指標を補正する。したがって、補正後の評価指標を、三次元有限要素法で求めた力学解析結果と相関のある値とすることができる。
【0057】
(効果)
上記第3の実施形態では、三次元有限要素法による力学解析の結果をもとに作成した詳細データテーブルを参照して評価指標を演算するので、より高精度な評価が可能となる。
(変形例)
なお、上記実施形態においては、直交2平面における埋入角度θx,θyを用いて評価指標を演算する場合について説明したが、埋入角度を三次元的に表す状態量であれば評価指標の演算が可能である。当該状態量としては、埋入角度θx,θyに代えて、直交2平面におけるフィクスチャー2の垂直及び水平の2軸方向の長さや、三次元空間におけるフィクスチャー2の両端の座標値等を用いることができる。
図11は、埋入角度θx,θyに代えて、直交2平面におけるフィクスチャー2の垂直及び水平の2軸方向の長さを用いた場合の図である。
【0058】
この図11に示すように、ある平面におけるフィクスチャー2の垂直方向(縦方向)の長さをx、水平方向(横方向)の長さをy、埋入角度をθ、フィクスチャー2の埋入長さをIPとすると、sinθ及びcosθは以下のように表される。
sinθ=y/IP
=(IP2−x2)1/2/(x2+y2)1/2=(1−x2)1/2 ………(12)
cosθ=x/IP
=(IP2−y2)1/2/(x2+y2)1/2=(1−y2)1/2 ………(13)
なお、上記において、IP=1,x2+y2=IP2=1としている。
【0059】
したがって、矢状面及び前頭面における垂直、水平の2軸方向の長さに基づいて、sinθx、sinθy、cosθx及びcosθyを求めることができる。そのため、埋入角度θx,θyを計測する代わりに、矢状面及び前頭面における垂直、水平の2軸方向の長さをそれぞれ計測することで、評価指標を演算することが可能となる。
また、上記実施形態においては、埋入角度を表す直交2平面として矢状面と前頭面とを用いる場合について説明したが、矢状面及び前頭面以外の直交2平面を用いることもできる。これにより、X線CT撮影データが無い場合や、矢状面及び前頭面の2平面のデータが利用できない場合であっても、埋入角度の評価が可能となる。
【0060】
(応用例)
なお、本発明の埋入角度評価装置10は、X線撮影装置やMRI撮影装置へ組み込むこともできる。傾斜埋入角度は、埋入角度を術前に評価するためと、術後の傾斜の程度を評価するために利用される。歯科インプラント埋入に際しての術前および術後の検査には、X線撮影装置やMRI撮影装置が用いられるのが一般的である。傾斜角度の測定は、X線撮影装置(単純撮影、CT撮影、パノラマ撮影、セファロ撮影など)やMRI撮影装置によって可能であるため、このような装置に本発明を組み込むことで、より利便的に使用できる。
【0061】
また、患者の顎部X線CT画像と、歯牙の欠損部分について用いるべき歯科インプラント画像とを表示画面上で重畳表示し、マウスやキーボード等を操作することで、顎部X線CT画像と歯科インプラント画像との位置と向きとを自由に変更可能な画像表示操作装置に本発明を組み込むこともできる。この場合、マウスやキーボード等の操作に応じて顎部X線CT画像と歯科インプラント画像との位置と向きとが変更されるに伴い、評価指標を自動的に更新表示するようにすることもできる。
さらに、画像診断などを行う際に利用する画像診断プログラムおよび汎用的画像表示プログラムへのプラグイン、アドインプログラムもしくはマクロプログラムなどに本発明を適用することもできる。これにより、撮影後の画像データのみから評価指標による評価が、画像表示と共に汎用PC上で可能となる。
【0062】
また、PDA機能を有するデバイスや携帯電話等の電子機器に本発明を組み込むこともできる。この場合、各種の付加プログラムをインストールして起動させるようにすることで、PCの無い環境下でも評価指標の演算が可能となる。
さらにまた、本発明は、汎用PC及びプログラム作成可能な電卓用の計算プログラムとしても提供可能である。例えば、汎用PCでは表計算ソフトのマクロファイルとして、またはプラグイン、アドインソフトとして利用可能である。また、電卓用としては磁気テープなどの入力デバイスを介して提供可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…歯科インプラント、2…フィクスチャー、3…アバットメント、4…補綴物(補綴冠)、10…埋入角度評価装置、11…埋設情報入力部、12…メモリ、13…CPU、14…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎骨に固定する歯科インプラントの埋入角度の評価を行う埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラム関する。
【背景技術】
【0002】
従来、欠損歯を補うために補綴物を顎骨に固定する歯科治療法として、歯科インプラント治療がある(例えば、特許文献1参照)。歯科インプラント治療は、ブリッジ等を用いた治療法に比べて補綴物をより強固に支持することができるため、非常に高い機能回復を望むことができる。
ところが、歯科インプラント治療は、埋入部位の骨量や骨質、解剖学的構造(上顎洞、下顎管など)により適応症に制限がある。適応症をより広範囲にするために、歯科インプラントの埋入角度に傾斜を付与する方法をとる場合がある。このような傾斜埋入法を採用することにより、垂直方向に骨量が不足している場合であっても骨量を確保することができたり、解剖学的構造の問題を回避できたりする。
【0003】
歯科インプラントを傾斜埋入する場合、術後の力学的な負担を術前に解析し評価することで、ベストに近い埋入計画を立案することが望ましい。術前評価方法としては、X線CT画像データから三次元有限要素法モデルを作製し、このモデルにインプラント埋入データを入力した後、力学解析を行って傾斜埋入の角度評価を行う方法が最も有用な方法として研究に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−321392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の三次元有限要素法を用いた力学シミュレーションによる埋入角度評価方法にあっては、結果が得られるまでに時間を要する、力学解析の専門知識を要するなどの問題があり、研究レベルでは実現可能であるが、臨床的には実用的ではない。
そこで、本発明は、短時間で簡便に埋入角度の評価を行うことができ、臨床的に実用的な歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る埋入角度評価装置は、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価装置であって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する評価指標演算手段を備えることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、力学解析の専門知識を必要とすることなく、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行うことができる。
【0007】
また、請求項2に係る埋入角度評価装置は、請求項1に係る発明において、前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの角度であることを特徴としている。
このように、直交2平面上の埋入角度をそれぞれ入力するだけで、埋入角度の評価を行うことができる。直交2平面上の埋入角度は、歯科インプラント埋入術で一般的に用いられるX線CT画像等を用いて設定可能であるため、歯科インプラント埋入術に係る歯科治療の知識があれば、上記埋入角度の評価が可能となる。
【0008】
さらに、請求項3に係る埋入角度評価装置は、請求項1に係る発明において、前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの水平方向及び垂直方向の長さであることを特徴としている。
このように、直交2平面上の水平方向及び垂直方向のフィクスチャーの長さをそれぞれ入力するだけで、埋入角度の評価を行うことができる。直交2平面上の水平方向及び垂直方向のフィクスチャーの長さは、歯科インプラント埋入術で一般的に用いられるX線CT画像等を用いて設定可能であるため、歯科インプラント埋入術に係る歯科治療の知識があれば、上記埋入角度の評価が可能となる。
【0009】
また、請求項4に係る埋入角度評価装置は、請求項2又は3に係る発明において、前記互いに直交する2つの平面は、矢状面と前頭面であることを特徴としている。
このように、解剖学的な基準面である矢状面と前頭面を用いるので、埋入角度を表す状態量の設定を適切に行うことができる。
さらに、請求項5に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜4の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段は、水平方向及び垂直方向の少なくとも一方からの荷重に対する前記フィクスチャーの抵抗力を評価する指標を前記評価指標として演算することを特徴としている。
これにより、フィクスチャーに入力される荷重のうち重視したい方向からの荷重に対する抵抗力が高い埋入角度を採用するようにすることができるなど、目的に応じた評価が可能となる。
【0010】
さらにまた、請求項6に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜5の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段は、前記フィクスチャーの埋入長さ、前記フィクスチャーの太さ、前記フィクスチャーの埋入部位および当該埋入部位の骨質の少なくとも1つに応じて、異なる三角関数演算を行って前記評価指標を演算することを特徴としている。
これにより、歯科インプラントを複数本埋入する場合、インプラントのサイズや埋入部位及び骨質に応じて、目的に合致した算出方法で評価指標を求めることができる。そのため、より高精度な評価が可能となる。
【0011】
また、請求項7に係る埋入角度評価装置は、請求項1〜6の何れかに係る発明において、前記評価指標演算手段で演算した評価指標を、前記フィクスチャーの埋入長さ及び前記フィクスチャーの太さの少なくとも一方に基づいて補正する補正手段を備えることを特徴としている。
このように、フィクスチャーの埋入長さや太さを考慮して評価指標を求めることができるので、インプラントの維持安定の寄与度を反映させた評価指標とすることができる。そのため、より高精度な評価が可能となる。
【0012】
さらに、請求項8に係る埋入角度評価方法は、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価方法であって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量を入力するステップと、前記状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算するステップと、を備えることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行う評価方法とすることができる。
【0013】
また、請求項9に係る埋入角度評価プログラムは、垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する機能をコンピュータに実現させる歯科インプラントの埋入角度評価プログラムであって、前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する機能をコンピュータに実現させることを特徴としている。
このように、簡易な三角関数演算により三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を得ることができるので、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行う評価プログラムとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯科インプラントを傾斜埋入する際、術前に歯科インプラントの埋入角度を表す状態量に基づいて簡易な三角関数演算を行うだけで、三次元的な傾斜埋入角度の評価指標を演算することができる。このように、力学解析の専門知識を必要とすることなく、短時間で且つ簡便に歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価を行うことができる。したがって、臨床的に実用可能な歯科インプラントの埋入角度評価装置、埋入角度評価方法及び埋入角度評価プログラムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】歯科インプラントを含む歯科治療具を示す分解斜視図である。
【図2】本発明における埋入角度評価装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【図4】埋入角度と評価指標ID1との関係を示す図である。
【図5】埋入角度と評価指標ID2との関係を示す図である。
【図6】埋入角度と評価指標ID3との関係を示す図である。
【図7】埋入角度と評価指標ID4との関係を示す図である。
【図8】埋入角度と評価指標ID5との関係を示す図である。
【図9】第2の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【図10】垂直埋入時と傾斜埋入時におけるフィクスチャーの埋入長さを説明するための図である。
【図11】埋入角度を表す状態量の別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図1は、歯科インプラントを含む歯科治療具の一例を示す分解斜視図である。
図中、符号1は、歯科インプラントである。歯科インプラント1は、歯槽骨に埋入されることで固定されるフィクスチャー2と、フィクスチャー2と係合するアバットメント3とで構成される。フィクスチャー2及びアバットメント3は、何れもチタンなどの金属材料の鋳造や削出加工によって製造される。
【0017】
フィクスチャー2は略円柱形状からなり、その一端21を歯槽骨に形成した穿孔に挿入することで、歯槽骨に固定する。フィクスチャー2の側面にはネジ溝22が形成されており、歯槽骨に挿入する際、フィクスチャー2は雄ねじとして螺入される。また、フィクスチャー2の他端23には、当該フィクスチャー2の軸方向に係合穴24が形成されており、この係合穴24にアバットメント3が着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0018】
アバットメント3は、フィクスチャー2の係合穴24と係合される係合部31と、補綴物(補綴冠)4が装着される装着部32とを備える。装着部32は略円錐台の形状からなり、補綴物4が接着あるいは嵌着されるようになっている。
フィクスチャー2は、歯槽骨に対して垂直埋入されるのが一般的であるが、埋入部位の骨量や骨質、上顎洞や下顎管などの解剖学的構造によっては、埋入角度に傾斜を付与し、フィクスチャー2を垂直方向に対して傾斜した状態で埋入する傾斜埋入が採用される。
【0019】
図2は、本発明における埋入角度評価装置の構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、埋入角度評価装置10は、埋設情報入力部11と、メモリ12と、CPU13と、表示部14とを備える。この埋入角度評価装置10は、歯科インプラント1の傾斜埋入における埋入角度の評価(良否判定)を行うものである。
埋設情報入力部11は、評価対象となる歯科インプラント1の埋設情報をユーザーが入力するためのインターフェースであり、例えばキーボードやマウス等で構成することができる。ここで、埋設情報とは、歯科インプラント1の埋入部位(臼歯部か前歯部か)や、歯科インプラント1の埋入部位の骨質、互いに直交する2平面におけるフィクスチャー2の埋入角度等である。本実施形態では、上記埋入角度として、矢状面視における埋入角度θxと前頭面視における埋入角度θyとを用いる。ここで、0°≦θx≦90°、0°≦θy≦90°であり、各埋入角度θx及びθyはそれぞれ垂直埋入時に0°となる。
メモリ12は、埋設情報入力部11から入力された埋設情報を記憶する。CPU13は、後述する埋入角度評価処理を実行し、評価対象となる埋入角度に対する評価指標を演算することで、当該埋入角度の評価を行う。表示部14は、CPU13で実行した埋入角度評価処理の実行結果を表示する。
【0020】
図3は、CPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS1で、CPU13は、メモリ12に記憶された評価対象となる埋入角度θx,θy等の埋設情報を取得し、ステップS2に移行する。
ステップS2では、CPU13は、前記ステップS1で取得した埋入角度θx,θyに基づいて、次式をもとに当該埋入角度に対する評価指標ID1〜ID5を演算する。このとき、複数の埋設条件が設定されている場合には、それぞれについて評価指標ID1〜ID5を演算する。
ID1=sinθx・sinθy ………(1)
ID2=cosθx・cosθy ………(2)
ID3=sinθx・sinθy・cosθx・cosθy ………(3)
ID4=x・cosθx+y・cosθy ………(4)
ID5=x・cosθx・y・cosθy ………(5)
【0021】
図4は、埋入角度θx,θyと評価指標ID1との関係を示す図である。
この図4に示すように、評価指標ID1は、θx及びθyの少なくとも一方が0°のときに最小値となり、θx及びθyが共に90°のときに最大値となる。このように、歯科インプラント1の傾斜が大きいほど評価値が高くなる評価方法である。
埋入角度θx,θyが大きいほど水平面に投影される歯科インプラント1の部分(投影部分)の面積が広くなることから、評価指標ID1は垂直方向の荷重に対しての抵抗力を評価するインデックスとして有用である。特に、垂直方向の抵抗力を重視する臼歯部などの評価に適している。
【0022】
図5は、埋入角度θx,θyと評価指標ID2との関係を示す図である。
この図5に示すように、評価指標ID2は、θx及びθyの少なくとも一方が90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に0°のときに最大値となる。このように、垂直埋入において評価値が最大となる評価方法である。
埋入角度θx,θyが小さいほど垂直面における歯科インプラント1の投影部分の面積が広くなることから、評価指標ID2は水平方向(側方)の荷重に対しての抵抗力を評価するインデックスとして有用である。特に、側方(前方を含めた水平方向)からの荷重に対する抵抗力を重視する前歯部や犬歯部の評価に適している。
【0023】
図6は、埋入角度θx,θyと評価指標ID3との関係を示す図である。
この図6に示すように、評価指標ID3は、θx及びθyの少なくとも一方が0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID3は、上記評価指標ID1及びID2の双方を考慮しており、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0024】
図7は、埋入角度θx,θyと評価指標ID4との関係を示す図である。
この図7に示すように、評価指標ID4は、θx及びθyが0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID4は、上記評価指標ID3と同様に、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0025】
上述した評価指標ID3が、水平及び垂直方向の角度成分を相乗効果としてその「積」で求めたインデックスであるのに対し、評価指標ID4は、水平面及び垂直面に対する歯科インプラント1の投影面積を求め、さらにそれら面積の「和」で求めたインデックスである。このため、評価指標ID4は、僅かな角度の違いが評価指標ID3よりも顕著な変化として現れる。すなわち、評価指標ID4は評価指標ID3よりも角度の変化に対するID値の感度が高い。
【0026】
図8は、埋入角度θx,θyと評価指標ID5との関係を示す図である。
この図8に示すように、評価指標ID5は、θx及びθyの少なくとも一方が0°又は90°のときに最小値となり、θx及びθyが共に45°のときに最大値となる。
この評価指標ID5は、上記評価指標ID3と同様に、水平面及び垂直面の両方に対する抵抗力を評価するインデックスとして有用である。
【0027】
上述した評価指標ID3が、水平及び垂直方向の角度成分を相乗効果としてその「積」で求めたインデックスであるのに対し、評価指標ID5は、水平面及び垂直面に対する歯科インプラント1の投影面積を求め、さらにそれら面積の「積」で求めたインデックスである。このため、評価指標ID5は、投影面積の「和」で求めた評価指標ID4よりも角度の変化に対するID値の感度は低くなる。
【0028】
すなわち、角度の変化に対するID値の変化が顕著な順に並べると、
ID4≫ID5>ID3
となり、ID4が最も感度が高く、続いてID5、ID3の順に感度が高くなる。
インプラント埋入長さ(または太さ)が十分に確保される場合は、インプラントの維持安定が確保されやすいため、ID値の感度が低くても角度の差はあまり問題にならない。ところが、インプラント埋入長さが短い(または太さが極端に細い)場合は、インプラントの維持安定に対して角度の影響が強く表れる可能性が高いため、安全性を考慮に入れてより感度の高いインデックスを用いると良い。
【0029】
同様に、骨質が良好または骨量が十分にある場合は、インプラントの維持安定が確保されやすいため、ID値の感度が低くても角度の影響は少ないが、逆に骨質や骨量が乏しい場合は、より感度の高いインデックスを用いると維持安定性の面で危険率が小さくなるため良い。
このように、本実施形態では、フィクスチャー2のサイズ(長さ、太さ)、埋入部位(臼歯部か前歯部か)および骨質によって、評価指標ID1〜ID5のうち目的に合致した算出方法で算出した評価指標を選択し、これを最終的な評価指標IDとして採用するものとする。
【0030】
次に、ステップS3では、CPU13は、前記ステップS2で演算した評価指標IDに応じた評価結果を表示部14に表示し、埋入角度評価処理を終了する。評価結果の表示方法としては、評価指標IDをそのまま実数表示する方法のほか、パーセンテージ表示や安全率表示等を用いることができる。
パーセンテージ表示では、標準となる目標の評価指標値を100%とし、標準的な条件に対して評価指標IDがどの程度の割合を示すかを表示する。この場合、例えば、インプラントの長さ8mm、矢状面角度θx=45°、前頭面角度θy=45°の条件を標準的な目標値として100%と予め設定し、この条件に対して、比較したい傾斜埋入角度がどの程度の割合を占めているかをパーセンテージ表示する。
【0031】
また、安全率表示では、比較したい傾斜埋入角度が標準的な条件に対して許容範囲内にあるか否かを判定し、許容範囲内にある場合にはどの程度許容されているかを表現する。例えば、標準的な条件での評価指標値を基準評価指標Is、比較対象である評価指標を比較評価指標Iaとした場合、IsとIaとが以下の関係を満足するか否かを判定する。
Ia≧Is/f
≧Is/2 ………(6)
ここで、fは安全率であり、f=2としている。
【0032】
そして、上記(6)式を満足している場合に、比較評価指標Iaが許容値であると判断する。f=2とした場合、基準評価指標Isの50%以上の評価指標値が許容されることになる。
評価結果の表示方法としては、上記(6)式を満足している場合には「許容範囲内」、「許容値」、「許容内」、「適正」、「可」、「可能」、「○」などの肯定的表記を行い、上記(6)式を満足していない場合には「許容範囲外」、「許容値外」、「不適」、「不可」、「不可能」、「×」などの否定的表記を行う方法を用いることができる。
【0033】
また、別の表示方法として、基準傾斜評価指標Isと比較評価指標Iaとに基づいて、次式をもとに許容外である度合いを示す危険率Iriskを求め、これを表示する方法を用いることもできる。
Irisk=Is/Ia ………(7)
上記(7)式からも明らかなように、危険率Iriskは評価指標Iaが小さい値であるほど大きい値となる。
なお、図3のステップS3が評価指標演算手段に対応している。
【0034】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力され、これらの埋設情報がメモリ12に記憶される。
【0035】
そのため、埋入角度評価装置10のCPU13は、図3に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用され(ステップS2)、これらが表示部14に比較表示される(ステップS3)。そして、その表示結果に基づいて、複数の埋入角度候補の中からベストな埋入角度を選択し、埋入計画を立案する。
【0036】
一方、患者の前歯部に歯牙の欠損がある場合には、歯科インプラント1の埋入部位は前歯部に決定される。したがって、この場合には、上記(2)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID2が評価指標IDとして採用され、その演算結果に基づいてベストな埋入角度を選択することになる。
さらに、患者の歯牙の欠損部位の骨質が乏しい場合には、上記(4)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID4が評価指標IDとして採用され、その演算結果に基づいてベストな埋入角度を選択することになる。
【0037】
このように、歯科インプラント1の埋入部位や当該埋入部位の骨質に応じて、評価指標の算出方法を変更する。これにより、埋入部位が臼歯部である場合には、垂直方向からの荷重に対するフィクスチャー2の抵抗力を重視するものとして、垂直方向の荷重に対する抵抗力を評価する算出方法を選択したり、埋入部位が前歯部である場合には、水平方向からの荷重に対するフィクスチャー2の抵抗力を重視するものとして、水平方向の荷重に対する抵抗力を評価する算出方法を選択したりすることができるなど、目的に合致した評価指標を得ることができる。その結果、より精度の高い評価を行うことができる。
また、直交2平面における2つの埋入角度θx,θxを入力し、上記(1)〜(5)に示すような簡易な三角関数演算を行うだけで、歯科インプラント1の三次元的な傾斜角度に対する評価指標を得ることができ、その大小によって埋入角度の良否を比較、判定することができる。
【0038】
ところで、歯科インプラントの傾斜埋入において、埋入角度の評価を行う方法としては、三次元有限要素法を用いた力学解析による応力解析結果の比較を行う方法が研究分野で採用されている。この評価方法は、術後の力学的な負担を術前に解析して評価することできることから、非常に有用な評価方法である。ところが、この評価方法は、解析結果が得られるまでに時間と手間がかかり、専用のプログラムの導入が必須であり、コスト的にも高価であり、X線CT撮影を行った後すぐに評価結果が得られる方法ではない。また、解析を行える環境や力学解析の専門知識を要するため、一般臨床的に実用的な方法ではなく一部の研究分野で行われているに過ぎない。
これに対して、本実施形態では、上述したように簡易な三角関数演算により埋入角度の評価指標を演算することで、当該埋入角度の評価を行うことができるので、力学解析の専門知識等を必要とせずに、短時間で埋入角度の評価を行うことができる。
【0039】
(効果)
上記第1の実施形態では、直交2平面上の2つの埋入角度を入力し、三角関数演算を行うだけで歯科インプラントの傾斜埋入における埋入角度の評価指標を求めることができる。このように、三角関数演算により評価指標を求めるので、従来の三次元有限要素法を用いた評価のように力学解析の専門知識を必要とせずに、短時間で簡便に埋入角度の評価を行うことができる。また、高機能のPC等の特別な評価実施環境を必要としないので、臨床で、しかもチェアーサイドでの使用が可能である。さらに、数値データとしての指標値を提示するので、評価者の主観的な判断や経験的な判断に頼ることなくより客観的な評価が可能となり、複数の埋入角度候補の比較検討を適切に行うことができる。また、チェアーサイドで結果を得ることができることから、患者の前で術式の説明を行い、インフォームドコンセントを得る治療形態を構築することができ、より患者サイドに立った歯科医療の提供が可能となる。
【0040】
また、直交2平面上の2つの埋入角度に基づいて評価指標が演算可能であるため、歯科インプラント埋入術で一般に用いられるX線CT画像があれば、2方向からの埋入角度を分度器等で計測し、これら埋入角度を評価指標の演算式に入力するだけで埋入角度の評価が可能となる。
さらに、上記直交2平面として、解剖学的な基準面である矢状面と前頭面とを用いるので、評価対象とする埋入角度の設定を比較的容易に行うことができる。
【0041】
また、フィクスチャーの埋入長さや太さ、埋入部位、埋入部位の骨質に応じて、異なる三角関数演算を行って評価指標を演算する。例えば、埋入部位が臼歯部である場合には、垂直方向の荷重に対する抵抗力の評価に適した演算方法を用い、埋入部位が前歯部である場合には、水平方向の荷重に対する抵抗力の評価に適した演算方法を用いて評価指標を求める。また、フィクスチャーの埋入長さや太さ、埋入部位の骨質に応じて、インプラントの維持安定に対して埋入角度の影響が強く現れる可能性が高いほど、埋入角度の変化に対する評価値の感度が高い演算方法を用いる。このように、目的に合致した演算方法を用いて評価指標を求めるので、高精度な評価が可能となる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、フィクスチャー2の長さや太さを考慮して評価指標を演算するようにしたものである。
(構成)
第2の実施形態における埋入角度評価装置10は、CPU13で実行する埋入角度評価処理が異なることを除いては、前述した第1の実施形態における埋入角度評価装置10と同一構成を有する。
図9は、第2の実施形態のCPU13で実行する埋入角度評価処理手順を示すフローチャートである。
【0043】
この埋入角度評価処理は、図3のステップS2の後に、フィクスチャー2の長さL及び太さDを考慮して前記ステップS2で演算した評価指標ID1〜ID5を補正するステップS11を追加したことを除いては、図3に示す埋入角度評価処理と同一処理を行う。したがって、図3と同一処理を行う部分には同一ステップ番号を付し、処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS11では、CPU13は、前記ステップS2で求めた最終的な評価指標IDを、フィクスチャー2の長さL及び太さ(直径)Dに応じた重み係数で補正する。
【0044】
すなわち、このステップS11では、次式をもとに評価指標IDを補正する。
ID=PL・PD・ID ………(8)
ここで、PLはフィクスチャー2の長さに対する重み係数、PDはフィクスチャー2の太さに対する重み係数である。重み係数PL,PDは、標準的なフィクスチャー2のサイズをD0×L0(例えば、φ4×8mm)とすると、それぞれ次式によって表される。
PL=(L−ΔL)/L0=(L−D・cosθ)/L0 ………(9)
PD=D/D0 ………(10)
【0045】
すなわち、重み係数PL,PDは、標準サイズに対する比として表される。
歯科インプラント1を垂直埋入させた場合、図10(a)に示すように、フィクスチャー2の長さLがそのまま埋入長さとなるが、歯科インプラント1を角度θで傾斜埋入させた場合、図10(b)に示すように、ネック部分の辺縁は骨内に埋入されずに骨面上に位置する。
したがって、傾斜埋入の場合は、フィクスチャー2の直径Dと埋入角度θによって、実際の埋入長さが異なる。実際の埋入長さは、フィクスチャー2の長さLから、直径Dと埋入角度θとによる長さの減少分ΔLを差し引いた(L−ΔL)=(L−D・cosθ)となる。このため、重み係数PLは上記(9)式で表される。
なお、図9のステップS11が補正手段に対応している。
【0046】
(動作)
次に、本発明の第2の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力される。さらに、このとき埋設情報入力部11では、複数のフィクスチャー2のサイズ候補も入力される。そして、これらの埋設情報はメモリ12に記憶される。
【0047】
埋入角度評価装置10のCPU13は、図9に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補およびサイズ候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用される(ステップS2)。
【0048】
次に、CPU13は、複数のフィクスチャー2のサイズ候補に対応して、それぞれ評価指標IDを補正する。このとき、フィクスチャー2のサイズ候補の1つが、標準サイズとは異なる長さL=10mm、太さD=4mmであるものとすると、上記(8)式をもとにフィクスチャー2のサイズに応じた重み係数が掛けられ、評価指標ID(=ID1)が補正される(ステップS11)。ここで、標準サイズL0=8mm、D0=4mmであるとすると、フィクスチャー2を垂直埋入(θ=90°)する場合には、PL=(10−4・cos90°)/8=1.25、PD=1となる。そのため、補正後の評価指標IDは、補正前の評価指標IDに1.25を重みとして掛けた値となる。
【0049】
なお、フィクスチャー2の太さが比較的細い場合には、上記ΔLが無視できるほど小さい値となるため、PL=1としてもよい。
このように、評価対象となるフィクスチャー2の埋入長さや太さに応じた重み係数PL,PDに基づいて、前記(1)〜(5)式をもとに算出される評価指標を補正する。したがって、埋入角度が同じであってもフィクスチャー2の埋入長さが長いほど(太さが太いほど)評価値を高く算出することができ、フィクスチャー2のサイズの違いに応じた歯科インプラント1の維持安定性の違いを評価指標に適切に反映させることができる。
【0050】
(効果)
上記第2の実施形態では、フィクスチャーの長さや太さを考慮して評価指標を演算するので、より高精度な評価を行うことができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明における第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、三次元有限要素法による力学解析結果を詳細データテーブルとして参照して、評価指標を演算するようにしたものである。
【0051】
(構成)
第3の実施形態における埋入角度評価装置10のCPU13で実行する埋入角度評価処理は、図9のステップS11の処理が異なることを除いては、前述した第2の実施形態における埋入角度評価装置10と同一である。したがって、ここでは処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS11では、CPU13は、先ず、三次元有限要素法による力学解析結果をもとに作成した詳細データテーブルを参照し、埋入角度θx及びθyに対応するテーブル値PTBLを取得する。そして、前記ステップS2で求めた最終的な評価指標IDを、フィクスチャー2の長さL及び太さ(直径)Dに応じた重み係数PL,PDおよびテーブル値PTBLで補正する。
すなわち、このステップS11では、次式をもとに評価指標IDを補正する。
ID=PTBL・PL・PD・ID ………(11)
【0052】
詳細データテーブルは、以下のように作成する。
先ず、矢状面及び前頭面上における埋入角度の代表値を決める。ここでは、例えば、それぞれ5°刻みの角度とする。そして、この代表値の2方向の角度の組み合わせ(例えば、θx=5°とθy=0,5,10,…,90°、θx=10°とθy=0,5,10,…,90°)に対して、それぞれ実際に有限要素法による力学解析を行う。この結果から得られた変位量に基づいて、詳細データテーブルを作成する。この詳細データテーブルは、メモリ12に記憶しておく。
【0053】
CPU13は、埋設情報入力部11から入力された埋入角度θxとθyの組み合わせをもとに、メモリ12に記憶された詳細データテーブルを参照し、入力された埋入角度θx,θyの組み合わせに最も近い代表値の組み合わせに対応するテーブル値PTBLを取得する。
なお、線形回帰法による回帰分析を行って、入力された埋入角度θx,θyの組み合わせに対応するテーブル値PTBLを取得するようにしてもよい。これにより、より等価式に近い評価指標を求めることができる。
【0054】
(動作)
次に、本発明の第3の実施形態の動作について説明する。
先ず、X線撮影装置で、患者の顎部のX線CT画像を撮影する。そして、その顎部X線CT画像から顎骨の形状や顎骨内の神経位置を把握し、歯科インプラント1の埋入位置や埋入角度の候補を複数決定する。
このとき、患者の臼歯部に歯牙の欠損があるものとすると、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部に決定される。したがって、埋入角度評価装置10の埋設情報入力部11で、歯科インプラント1の埋入部位として臼歯部が入力されると共に、この埋入位置における複数のフィクスチャー2の埋入角度候補が入力される。さらに、このとき埋設情報入力部11では、複数のフィクスチャー2のサイズ候補も入力される。そして、これらの埋設情報はメモリ12に記憶される。
【0055】
埋入角度評価装置10のCPU13は、図9に示す埋入角度評価処理を行い、複数の埋入角度候補に対してそれぞれ評価指標を演算する。このとき、歯科インプラント1の埋入部位は臼歯部であることから、上記(1)式をもとにそれぞれ演算された各埋入角度候補の評価指標ID1が、最終的な評価指標IDとして採用される(ステップS2)。
【0056】
次に、CPU13は、複数のフィクスチャー2のサイズ候補及び複数の埋入角度候補に対応して、それぞれ評価指標IDを補正する。すなわち、CPU13は、メモリ12に記憶された詳細データテーブルを参照し、埋入角度θx及びθyに対応するテーブル値PTBLを取得する。そして、上記(11)式をもとに、フィクスチャー2のサイズ候補に応じた重み係数PL,PDと、実際の力学解析の結果に応じた重み係数PTBLとが掛けられ、評価指標ID(=ID1)が補正される(ステップS11)。
このように、評価対象となるフィクスチャー2の埋入長さや太さに応じた重み係数PL,PDだけでなく、実際の力学解析結果に応じた重み係数PTBLを用いて、前記(1)〜(5)式をもとに算出される評価指標を補正する。したがって、補正後の評価指標を、三次元有限要素法で求めた力学解析結果と相関のある値とすることができる。
【0057】
(効果)
上記第3の実施形態では、三次元有限要素法による力学解析の結果をもとに作成した詳細データテーブルを参照して評価指標を演算するので、より高精度な評価が可能となる。
(変形例)
なお、上記実施形態においては、直交2平面における埋入角度θx,θyを用いて評価指標を演算する場合について説明したが、埋入角度を三次元的に表す状態量であれば評価指標の演算が可能である。当該状態量としては、埋入角度θx,θyに代えて、直交2平面におけるフィクスチャー2の垂直及び水平の2軸方向の長さや、三次元空間におけるフィクスチャー2の両端の座標値等を用いることができる。
図11は、埋入角度θx,θyに代えて、直交2平面におけるフィクスチャー2の垂直及び水平の2軸方向の長さを用いた場合の図である。
【0058】
この図11に示すように、ある平面におけるフィクスチャー2の垂直方向(縦方向)の長さをx、水平方向(横方向)の長さをy、埋入角度をθ、フィクスチャー2の埋入長さをIPとすると、sinθ及びcosθは以下のように表される。
sinθ=y/IP
=(IP2−x2)1/2/(x2+y2)1/2=(1−x2)1/2 ………(12)
cosθ=x/IP
=(IP2−y2)1/2/(x2+y2)1/2=(1−y2)1/2 ………(13)
なお、上記において、IP=1,x2+y2=IP2=1としている。
【0059】
したがって、矢状面及び前頭面における垂直、水平の2軸方向の長さに基づいて、sinθx、sinθy、cosθx及びcosθyを求めることができる。そのため、埋入角度θx,θyを計測する代わりに、矢状面及び前頭面における垂直、水平の2軸方向の長さをそれぞれ計測することで、評価指標を演算することが可能となる。
また、上記実施形態においては、埋入角度を表す直交2平面として矢状面と前頭面とを用いる場合について説明したが、矢状面及び前頭面以外の直交2平面を用いることもできる。これにより、X線CT撮影データが無い場合や、矢状面及び前頭面の2平面のデータが利用できない場合であっても、埋入角度の評価が可能となる。
【0060】
(応用例)
なお、本発明の埋入角度評価装置10は、X線撮影装置やMRI撮影装置へ組み込むこともできる。傾斜埋入角度は、埋入角度を術前に評価するためと、術後の傾斜の程度を評価するために利用される。歯科インプラント埋入に際しての術前および術後の検査には、X線撮影装置やMRI撮影装置が用いられるのが一般的である。傾斜角度の測定は、X線撮影装置(単純撮影、CT撮影、パノラマ撮影、セファロ撮影など)やMRI撮影装置によって可能であるため、このような装置に本発明を組み込むことで、より利便的に使用できる。
【0061】
また、患者の顎部X線CT画像と、歯牙の欠損部分について用いるべき歯科インプラント画像とを表示画面上で重畳表示し、マウスやキーボード等を操作することで、顎部X線CT画像と歯科インプラント画像との位置と向きとを自由に変更可能な画像表示操作装置に本発明を組み込むこともできる。この場合、マウスやキーボード等の操作に応じて顎部X線CT画像と歯科インプラント画像との位置と向きとが変更されるに伴い、評価指標を自動的に更新表示するようにすることもできる。
さらに、画像診断などを行う際に利用する画像診断プログラムおよび汎用的画像表示プログラムへのプラグイン、アドインプログラムもしくはマクロプログラムなどに本発明を適用することもできる。これにより、撮影後の画像データのみから評価指標による評価が、画像表示と共に汎用PC上で可能となる。
【0062】
また、PDA機能を有するデバイスや携帯電話等の電子機器に本発明を組み込むこともできる。この場合、各種の付加プログラムをインストールして起動させるようにすることで、PCの無い環境下でも評価指標の演算が可能となる。
さらにまた、本発明は、汎用PC及びプログラム作成可能な電卓用の計算プログラムとしても提供可能である。例えば、汎用PCでは表計算ソフトのマクロファイルとして、またはプラグイン、アドインソフトとして利用可能である。また、電卓用としては磁気テープなどの入力デバイスを介して提供可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…歯科インプラント、2…フィクスチャー、3…アバットメント、4…補綴物(補綴冠)、10…埋入角度評価装置、11…埋設情報入力部、12…メモリ、13…CPU、14…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価装置であって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する評価指標演算手段を備えることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項2】
前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの角度であることを特徴とする請求項1に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項3】
前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの水平方向及び垂直方向の長さであることを特徴とする請求項1に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項4】
前記互いに直交する2つの平面は、矢状面と前頭面であることを特徴とする請求項2又は3に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項5】
前記評価指標演算手段は、水平方向及び垂直方向の少なくとも一方からの荷重に対する前記フィクスチャーの抵抗力を評価する指標を前記評価指標として演算することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項6】
前記評価指標演算手段は、前記フィクスチャーの埋入長さ、前記フィクスチャーの太さ、前記フィクスチャーの埋入部位および当該埋入部位の骨質の少なくとも1つに応じて、異なる三角関数演算を行って前記評価指標を演算することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項7】
前記評価指標演算手段で演算した評価指標を、前記フィクスチャーの埋入長さ及び前記フィクスチャーの太さの少なくとも一方に基づいて補正する補正手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項8】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価方法であって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量を入力するステップと、
前記状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算するステップと、を備えることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価方法。
【請求項9】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する機能をコンピュータに実現させる歯科インプラントの埋入角度評価プログラムであって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する機能をコンピュータに実現させることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価プログラム。
【請求項1】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価装置であって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する評価指標演算手段を備えることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項2】
前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの角度であることを特徴とする請求項1に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項3】
前記状態量は、互いに直交する2つの平面上における前記フィクスチャーの水平方向及び垂直方向の長さであることを特徴とする請求項1に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項4】
前記互いに直交する2つの平面は、矢状面と前頭面であることを特徴とする請求項2又は3に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項5】
前記評価指標演算手段は、水平方向及び垂直方向の少なくとも一方からの荷重に対する前記フィクスチャーの抵抗力を評価する指標を前記評価指標として演算することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項6】
前記評価指標演算手段は、前記フィクスチャーの埋入長さ、前記フィクスチャーの太さ、前記フィクスチャーの埋入部位および当該埋入部位の骨質の少なくとも1つに応じて、異なる三角関数演算を行って前記評価指標を演算することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項7】
前記評価指標演算手段で演算した評価指標を、前記フィクスチャーの埋入長さ及び前記フィクスチャーの太さの少なくとも一方に基づいて補正する補正手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の歯科インプラントの埋入角度評価装置。
【請求項8】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する歯科インプラントの埋入角度評価方法であって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量を入力するステップと、
前記状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算するステップと、を備えることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価方法。
【請求項9】
垂直方向に対して傾斜した状態で骨に埋入するフィクスチャーを備える歯科インプラントの埋入角度を評価する機能をコンピュータに実現させる歯科インプラントの埋入角度評価プログラムであって、
前記埋入角度を三次元的に表す状態量に基づいて三角関数演算を行うことで、前記埋入角度に対する評価指標を演算する機能をコンピュータに実現させることを特徴とする歯科インプラントの埋入角度評価プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−135484(P2012−135484A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290628(P2010−290628)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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