説明

歯科ペースト、歯科物品、および方法

【課題】歯科ペースト、歯科物品、歯科ペーストの製造法および使用法、並びにそれから調製される組成物の提供。
【解決手段】一実施形態では、歯科ペーストは、(a)シラン処理された表面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーと、(b)非凝集一次シリカ粒子を含むフィラーとを含み、これらのフィラーは、硬化性樹脂中に分散されている。ここで、ペーストは、ペーストの全重量を基準にして、第1および第2のフィラーを合わせて少なくとも約55重量%含む。ペーストは、好ましくは、実質的に非粘着性であり、更に好ましくは、SWD/硬さの値が最大で約0.5である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯科材料には、特別な要件がある。健康上の理由から、歯科材料は、口腔環境で使用す
るのに好適でなければならない。ある用途では、満足のいく性能を確実に得るため、歯科
材料の強度および耐久性は重要である。例えば、一般に咀嚼力が大きい位置での歯科治療
には、高い強度と耐久性が望ましい。他の用途では、審美的特性(例えば、光彩や半透明
性)が望まれる。これは、歯の補修又は修復を比較的近い距離から見ることができる位置
で、歯科治療が実施される場合に多い。
【0002】
歯科材料の強度は、典型的には、フィラーを添加することによって達成される。一般に
、歯科材料は、平均粒子サイズが約0.6マイクロメートルより大きいフィラーを含有す
ると、機械的強度がより大きくなる。このような平均粒子サイズを有するコンポジットの
欠点は、繰返し歯磨きをすると(口腔衛生上、必要である)、硬化した樹脂が磨耗し、表
面は光沢がなく、審美性を損ねた状態になる可能性がある。磨耗した表面は、後で歯垢が
沈積する部位になる可能性がある。
【0003】
また、平均粒子サイズが約0.6マイクロメートルより大きいフィラーを使用すると、
光彩や審美的特性の欠如した歯科材料が得られる傾向がある。このような歯科材料の視覚
的不透明性、従って、審美的特性を改善する手法として、構成成分の屈折率を適合させる
ことが提案されてきた。しかし、このような手法は、歯科材料に使用してもよい材料の選
択を、適合する屈折率を有するものに限定することにより、歯科材料を配合する際の自由
度を制限する。
【0004】
歯科材料の審美的品質を改善するため、より小さい粒子を使用することが歯科技術分野
で知られている。例えば、平均粒子サイズが約200ナノメートル未満の非凝集シリカ粒
子を含む歯科ペーストが報告されている。しかし、硬化時に所望の機械的強度を提供する
ように、このようなフィラーの添加濃度を増大すると(例えば、ペースト中に少なくとも
約70重量%のフィラー)、得られるペーストは、一般に、粘着性を有する。このような
歯科ペーストに粘着性が生じることは、歯科治療には望ましくない。
【0005】
また、異なる平均粒子サイズを有するフィラーの組合せを歯科材料に使用することも開
示されてきた。しかし、一般に、このような組合せでは、1つ以上の望ましい特性が欠如
している歯科材料が得られる。例えば、平均粒子サイズが異なるフィラーの組合せの幾つ
かは、硬化時の機械的強度などの望ましい特性を有する歯科ペーストを提供するのに十分
に高い濃度で、硬化性樹脂に添加することができない。平均粒子サイズが異なるフィラー
の他の組合せでは、硬化時に十分な機械的強度が提供されるが、望ましい審美的品質は欠
如している場合がある。
【0006】
このため、歯科ペーストの技術分野では、望ましい特性のバランスを実現する必要があ
る。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,980,697号明細書
【特許文献2】米国特許第5,694,701号明細書
【特許文献3】国際公開第01/30307号パンフレット
【特許文献4】米国特許第3,066,112号明細書
【特許文献5】米国特許第3,539,533号明細書
【特許文献6】米国特許第3,629,187号明細書
【特許文献7】米国特許第3,709,866号明細書
【特許文献8】米国特許第3,751,399号明細書
【特許文献9】米国特許第3,766,132号明細書
【特許文献10】米国特許第3,860,556号明細書
【特許文献11】米国特許第4,002,669号明細書
【特許文献12】米国特許第4,115,346号明細書
【特許文献13】米国特許第4,259,117号明細書
【特許文献14】米国特許第4,292,029号明細書
【特許文献15】米国特許第4,308,190号明細書
【特許文献16】米国特許第4,327,014号明細書
【特許文献17】米国特許第4,379,695号明細書
【特許文献18】米国特許第4,387,240号明細書
【特許文献19】米国特許第4,404,150号明細書
【特許文献20】米国特許第4,652,274号明細書
【特許文献21】米国特許第4,642,126号明細書
【特許文献22】米国特許第4,071,424号明細書
【特許文献23】米国特許第5,545,676号明細書
【特許文献24】欧州特許出願公開第173,567号明細書
【特許文献25】米国特許第4,737,593号明細書
【特許文献26】米国特許第6,020,528号明細書
【特許文献27】米国特許第4,772,530号明細書
【特許文献28】米国特許第4,954,414号明細書
【特許文献29】米国特許第4,874,450号明細書
【特許文献30】米国特許第5,055,372号明細書
【特許文献31】米国特許第5,057,393号明細書
【特許文献32】米国特許第6,025,406号明細書
【特許文献33】米国特許第5,856,373号明細書
【特許文献34】米国特許第4,250,311号明細書
【特許文献35】米国特許第3,708,296号明細書
【特許文献36】米国特許第4,069,055号明細書
【特許文献37】米国特許第4,216,288号明細書
【特許文献38】米国特許第5,084,586号明細書
【特許文献39】米国特許第5,124,417号明細書
【特許文献40】米国特許第4,985,340号明細書
【特許文献41】米国特許第5,089,536号明細書
【特許文献42】米国特許第5,332,429号明細書
【非特許文献1】カーク−オスマー化学技術百科事典、第四版、21巻、977〜1032頁(1977年)(Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,4th Ed.,Vol.21,pp.977−1032(1977))
【非特許文献2】カーク−オスマー・化学技術コンサイス百科辞典、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ、1054頁(ニューヨーク、1985年)(Kirk−Othmer Concise Encyclopedia of Chemical Technology,John Wiley & Sons,p.1054(New York 1985))
【非特許文献3】「レオロジーの原理、測定、および応用」、C.W.マコスコ著、VCH出版社、ニューヨーク、1994年、92頁(“Rheology Principles,Measurements,and Applications”by C.W.Macosko,VHC Publishers,Inc.,New York,1994,p92)
【非特許文献4】「可視光線硬化材料における重合収縮速度論の決定:方法の開発」(歯科材料、1991年10月、281〜286頁)(“Determination of Polymerization Shrinkage Kinetics in Visible−Light−Cured Materials:Methods Development”(Dental Materials,October 1991,pgs281−286))
【非特許文献5】ISO試験手順4049(1988年)のADA(「米国歯科協会」)規格9番、およびADA規格27番(ADA(“American Dental Association”)specification No.9 and ADA specification No.27 respectively of ISO−test procedure 4049(1988))
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、歯科ペースト、および、それから調製される物品を提供する。
歯科ペーストは、硬化性樹脂、樹脂中に分散される第1のフィラーであって、シラン処理
された表面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを含む第1のフ
ィラー、および、樹脂中に分散される第2のフィラーであって、シラン処理された表面を
有し、平均直径が最大で約200ナノメートルの非凝集一次シリカ粒子を含む第2のフィ
ラーを含み、ここで、ペーストは、ペーストの全重量を基準にして、第1および第2のフ
ィラーを合わせて少なくとも約55重量%含む。ペーストは、好ましくは、実質的に非粘
着性であり、更に好ましくは、SWD/硬さの値が最大で約0.5である。
【0009】
本発明は、例えば、歯科修復材、歯科接着剤、鋳造材料、歯科セメント、歯科シーラン
ト、および歯科コーティングなどの、歯科材料の形成に有用な歯科ペーストを提供する。
好ましくは、歯科ペーストは、硬化時に、例えば、最大で約50のコントラスト比、最大
で約0.4のマクベス(MacBeth)値、最大で約4%の体積収縮、少なくとも約1
5MPaの直径引張り強さ、少なくとも約35MPaの圧縮強さ、および艶保持試験で5
00回ブラッシングした後、最大で約30%の艶の損失などの1つ以上の特性を有する。
好ましくは、歯科ペーストは、硬化時に、歯科物品を形成する。好ましい歯科物品には、
例えば、歯科ミルブランク、歯科補綴物、歯科矯正装置、人工歯冠、前方充填材、後方充
填材、およびキャビティライナーなどが挙げられる。
【0010】
別の態様では、本発明は、シラン処理された表面を有し、重金属を実質的に含まない多
孔質の非熱分解法シリカを含む第1のフィラーを硬化性樹脂中に分散させる段階、および
、シラン処理された表面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメートルの非凝集
一次シリカ粒子を含む第2のフィラーを硬化性樹脂中に分散させる段階を含む、歯科ペー
ストの調製法を提供し、ここで、ペーストは、第1および第2のフィラーを合わせて少な
くとも約55重量%含む。
【0011】
別の態様では、本発明は、硬化性樹脂、硬化性樹脂中に分散されるフィラーであって、
平均粒子サイズが約20ナノメートル〜約120ナノメートルの一次シリカ粒子の凝集体
を含む、多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラー、を含む歯科ペーストを提供し、ここ
で、フィラーは、かさ密度が少なくとも約0.4g/cm3、表面積が最大で約150m2
/gであり、フィラー中の凝集シリカの平均粒子サイズは約1マイクロメートル〜約20
マイクロメートルであり、シリカは、重金属を実質的に含まない。好ましくは、多孔質の
非熱分解法シリカは、シラン処理された表面を備える。
【0012】
別の態様では、本発明は、揮発性液体に分散されている、平均粒子サイズが約20ナノ
メートル〜約120ナノメートルの一次シリカ粒子を含むシリカゾルを乾燥させ、一次シ
リカ粒子の凝集体を含む多孔質の非熱分解法シリカを形成し、ここで、凝集シリカの平均
凝集体サイズが約1マイクロメートル〜約20マイクロメートルであり、シリカが重金属
を実質的に含まない段階、シリカを揮発性液体中に分散させ、多孔質の非熱分解法シリカ
の揮発性液体分散体を形成する段階、揮発性液体に分散されている多孔質の非熱分解法シ
リカの表面をシランで処理し、シラン処理された表面を有する多孔質の非熱分解法シリカ
の揮発性液体分散体を形成する段階、および、揮発性液体分散体を乾燥させ、フィラーを
形成する段階を含む、乾燥粉末の形態のフィラーの調製法を提供する。この方法は、任意
に、シリカを最大で約650℃の温度で仮焼する段階を含む。フィラーは、任意に、歯科
ペーストを形成するため硬化性樹脂に分散されてもよい。
【0013】
定義
本明細書で使用される場合、「ペースト」の用語は、液体中に分散されている固体の柔
軟で、粘性のある塊のことを言う。
【0014】
本明細書で使用される場合、「シリカ」の用語は、化合物、二酸化珪素のことを言う。
(非特許文献1)を参照されたい。
【0015】
本明細書で使用される場合、「一次シリカ粒子」又は「極限シリカ粒子」の用語は、互
換的に使用され、より大きい構造、三次元網目構造、シリカクラスター、又はシリカ粒子
を構成するのに使用される最小単位の粒子のことを言う。一次又は極限シリカ粒子は、典
型的には、完全に高密度化されている。
【0016】
本明細書で使用される場合、「非晶質シリカ」の用語は、X線回折測定で定義される結
晶構造を有していないシリカのことを言う。非晶質シリカの例には、シリカゾル、シリカ
ゲル、沈降法シリカ、熱分解法シリカなどが挙げられる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「多孔質シリカ」の用語は、気孔率を有する、シリカの三
次元網目構造のことを言う。従って、シリカ粒子の直鎖は、気孔率を有していない。多孔
質シリカは、一次シリカ粒子の凝集体で構成されてもよい。多孔質シリカの例には、ヒュ
ームドシリカ、沈降法シリカ、シリカゲル、および本明細書に記載のシリカクラスターな
どが挙げられる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「シリカゾル」の用語は、離散した非晶質シリカ粒子の液
体、典型的には水の中における安定な分散体のことを言う。
【0019】
本明細書で使用される場合、「熱分解法シリカ」および「ヒュームドシリカ」の用語は
、互換的に使用され、蒸気相中で形成された非晶質シリカのことを言う。熱分解法シリカ
は、例えば、溶融されて分岐鎖の三次元凝集体になった数百の一次粒子を含有してもよい
。熱分解法シリカの例には、デグサ社(ドイツ、ハナウ)(DeGussa AG,(H
anau,Germany))から入手可能な、エアロシル(AEROSIL)OX−5
0、エアロシル(AEROSIL)−130、エアロシル(AEROSIL)−150、
およびエアロシル(AEROSIL)−200、並びにカボット社(イリノイ州タスコラ
)(Carbot Corp(Tuscola,IL))から入手可能なカルボシル(C
AB−O−SIL)M5の商標で入手能な製品などが挙げられる。
【0020】
本明細書で使用される場合、「非熱分解法シリカ」は、蒸気相中で形成されない非晶質
シリカのことを言う。非熱分解法シリカの例には、沈降法シリカ、シリカゲル、および本
明細書に記載のシリカクラスターなどが挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「シリカゲル」の用語は、コロイドの寸法(例えば、約1
20ナノメートル以下)のシリカ粒子の三次元網目構造のことを言う。シリカゲルは、多
孔質シリカであり、典型的には、珪酸ナトリウム、又は塩を含まないコロイドシリカの比
較的濃縮されている溶液のゲル化によって製造されるが、シリカゲルはシリコンアルコキ
シドの加水分解および重縮合によって調製されてもよい。シリカゲルの例には、シグマ−
オールドリッチ(ミズーリ州セントルイス)(Sigma−Aldrich(St.Lo
uis,MO))およびアナリティケム社(カリフォルニア州ハーバーシティ)(Ana
lytiChem Corporation(Harbor City,CA))から入
手可能なものが挙げられる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「沈降法シリカ」の用語は、コロイド寸法(例えば、約1
20ナノメートル以下)の一次シリカ粒子の凝集体のことを言う。沈降法シリカは、典型
的には、高い塩濃度又は他の凝析剤の影響下で水性媒体からシリカ粒子を凝析することに
よって得られる粉末である。典型的な条件下では、一次粒子は、4〜5ナノメートルより
大きいサイズに成長し、凝析して凝集体になる。シリカゲルの調製と対照的に、液体相全
体が固体シリカ相に囲まれるのではない。沈降法シリカの例には、ドイツ、デグサ社(D
egussa AF,Germany)からエイスマット(ACEMATT)HK−46
0の商標で入手可能なものが挙げられる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「実質的に球状の」シリカクラスターの用語は、シリカク
ラスターの全体形状のことを言う。実質的に球状のシリカクラスターは、平均アスペクト
比が最大で約4:1、好ましくは最大で約3:1、更に好ましくは最大で約2:1、更に
より好ましくは最大で約1.5:1である。
【0024】
本明細書で使用される場合、「針状」凝集体の用語は、凝集体の全体形状(例えば、細
くて長い針のような)のことを言う。針状凝集体は、好ましくは、アスペクト比が、約5
:1より大きく、更に好ましくは約6:1より大きく、最も好ましくは約7:1より大き
い。針状凝集体の例には、例えば、溶融された、分岐鎖の三次元構造を含むヒュームドシ
リカが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「かさ密度」は、材料の単位体積当りの重量のことを言う
。本明細書で使用される場合、粉末のかさ密度は、自然にパッキングされた状態の純粋な
(neat)乾燥粉末の単位体積当りの重量のことを言う。かさ密度は、例えば、平均粒
子サイズ、粒子サイズ分布、および凝集体のモルフォロジーなどの粉体特性の大まかな尺
度を提供する場合がある。かさ密度を決定する手順は、本出願に包含される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「シラン処理された」は、粒子の表面が、シランの塗布に
より改質されたことを意味する。任意に、シランは、反応性官能基を含むカップリング剤
(例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、A174)であってもよい

【0027】
本明細書で使用される場合、「乾燥粉末」は、揮発性液体を実質的に含まない固体粉末
を意味する。例えば、乾燥粉末は、好ましくは、最大で約5重量%の揮発性液体、更に好
ましくは最大で約2重量%の揮発性液体、最も好ましくは最大で約1重量%の揮発性液体
を含む。
【0028】
本明細書で使用される場合、「フィラー」は、樹脂中に分散させることができる乾燥粉
末の形態の粒子状材料(例えば、無機酸化物)を意味する。例えば、歯科用コンポジット
は、樹脂中に分散されるフィラーを含むことが好ましい。
【0029】
本明細書で使用される場合、「SWD/硬さ」(糸引き仕事量(string wor
k done)と硬さとの比)は、組成物の粘着性の尺度である。具体的には、(例えば
、実施例、試験方法の項の)テクスチャ分析器を使用して、SWD/硬さの値を決定する
ことができ、値が低いほど組成物の粘着性が小さいことを示す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「硬化性」は、例えば、加熱して溶媒を除去する、加熱し
て重合、化学的架橋、又は放射線誘導重合若しくは架橋などを引き起こすことにより、キ
ュア又は固化され得る材料を説明する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「樹脂内に分散される」は、一次粒子、粒子の三次元網目
構造、および/又はクラスターが樹脂中で実質的に分離されるように、フィラーが樹脂と
混合されることを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「集塊」は、通常、電荷又は極性によって一緒に保持され
る一次粒子の弱い連関(association)を説明する。集塊した粒子は、典型的には、例え
ば、集塊した粒子を液体中に分散させる間に受けるせん断力によって、より小さい実体に
分解することができる。
【0033】
一般に、「凝集」又は「凝集体」は、例えば、残存性化学処理(residual c
hemical treatment)、共有化学結合、又はイオン性化学結合によって
一緒に結合されることが多い、一次粒子の強い連関を説明する。凝集体をより小さい実体
に更に分解することは、非常に達成しにくい。典型的には、凝集粒子は、例えば、凝集粒
子を液体中に分散させる間に受けるせん断力では、より小さい実体に分解されない。
【0034】
本明細書で使用される場合、「凝集シリカ」は、例えば、残存性化学処理、共有化学結
合、又はイオン性化学結合によって一緒に結合されることが多い、一次シリカ粒子の連関
を説明する。凝集シリカをより小さい実体に完全に分解することは、達成しにくい場合が
あるが、限定された又は不完全な分解は、例えば、凝集シリカを液体中に分散させる間に
受けるせん断力などの条件下で観察される場合がある。本明細書で使用される場合、「シ
リカクラスター」は、相当量の凝集一次シリカ粒子が緩く結合している、凝集シリカのこ
とを言う。「緩く結合している」は、シリカクラスター中に存在する粒子間の連関の性質
のことを言う。典型的には、粒子は、粒子を一緒に群集させる比較的弱い分子間力によっ
て連関している。幾つかのシリカクラスターは、分散プロセスの間、より小さい構造に破
砕される場合があるが、シリカクラスターの多くは、歯科材料を得るため硬化性樹脂中に
分散させる間、そのままの状態を維持することが好ましい。従って、シリカクラスターは
、典型的には、「緩く結合した凝集シリカ」と言われる。本出願に開示されるシリカクラ
スターは、実質的に球状であることが好ましく、完全には高密度化されていないことが好
ましい。本明細書で使用される場合、「完全に高密度」の用語は、理論密度に近く、B.
E.T.窒素技術(試料を接触させる気体からのN2分子の吸収に基づく)などの標準的
な分析技術によって検出可能な、開口気孔率(open porosity)を実質的に
有していない粒子を説明する。このような測定から、サンプルの単位重量当りの表面積(
例えば、m2/g)についてのデータが得られ、それを、同じサイズの完全な微小球の塊
の単位重量当りの表面積と比較して、開口気孔率を検出することができる。本明細書で使
用される場合、「完全には高密度化していない」の用語は、理論密度未満であり、従って
、開口気孔率を有する粒子を説明する。このような多孔質粒子(例えば、一次粒子のクラ
スター)では、測定される表面積が、同じサイズの固体粒子について計算される表面積よ
り大きい。このような測定は、ニューヨーク州ショーセット(Syossett,NY)
のクォンタクローム社(Quantachrome Corporation)により製
造される、クォントアブソーブ(Quantabsorb)装置で行われてもよい。密度
測定は、空気、ヘリウム、又は水比重瓶を使用して行われてもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「粒子サイズ」は、粒子の最長寸法(例えば、直径)のこ
とを言う。
【0036】
本明細書で使用される場合、「重金属を実質的に含まない」は、シリカクラスターが、
重金属を最大で約20重量%、好ましくは重金属を最大で約10重量%、最も好ましくは
重金属を最大で約5重量%含有することを意味する。本明細書で使用される場合、「重金
属」は、原子番号が約28より大きい、好ましくは約30より大きい金属である。
【0037】
以下で更に十分に検討されるように、本出願で開示されるシリカクラスターは、乾燥、
および、任意に、熱処理および/又は仮焼を含むプロセスで製造されることが多い。熱処
理後の表面積を熱処理前の表面積と比較した比は、好ましくは約50%より大きく、更に
好ましくは約80%より大きい。加熱後の表面積の変化は、好ましくは最大で約10%、
更に好ましくは最大で約5%である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
一態様では、本発明は、硬化性樹脂中に分散される2種類のフィラーを含む歯科ペース
ト、並びに歯科ペーストの製造法および使用法を開示する。第1のフィラーは、シラン処
理された表面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを含む。第2
のフィラーは、シラン処理された表面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメー
トルの非凝集一次シリカ粒子を含む。歯科ペーストは、第1および第2のフィラーを合わ
せて、ペーストの全重量を基準にして少なくとも約55重量%、好ましくは、ペーストの
全重量を基準にして少なくとも約60重量%含む。歯科ペーストは、好ましくは、歯科治
療に優れた特性を有し、硬化して、有用な特性を有する歯科物品(例えば、歯科ミルブラ
ンク、歯科補綴物、歯科矯正装置、人工歯冠、前方充填材、後方充填材、およびキャビテ
ィライナー)を作製することができる。
【0039】
歯科材料中に、平均粒子サイズが異なるフィラーを組み合わせて使用することが当該技
術分野で知られている。しかし、このような組合せでは、一般に、1つ以上の望ましい特
性が欠如している歯科材料が得られる。例えば、平均粒子サイズが異なるフィラーの組合
せの幾つかは、硬化時の機械的強度などの望ましい特性を有する歯科ペーストを提供する
のに十分に高い濃度で、硬化性樹脂に添加することができない。平均粒子サイズが異なる
フィラーの他の組合せでは、硬化時に十分な機械的強度が提供されるが、硬化時の審美的
品質などの他の望ましい特性が欠如する場合がある。
【0040】
当該技術で既知のこのような歯科ペーストとは対照的に、本出願で開示される歯科ペー
ストは、望ましい特性の実用的なバランスを提供する。例えば、本発明で開示される歯科
ペーストは、好ましくは、硬化時に、例えば、最大で約50のコントラスト比、最大で約
0.4のマクベス(MacBeth)値、最大で約4%の体積収縮、少なくとも約15M
Paの直径引張り強さ、少なくとも約35MPaの圧縮強さ、および艶保持試験で500
回ブラッシングした後に最大で約30%の艶の損失などの、1つ以上の特性を提供する。
好ましくは、本発明の歯科ペーストは、構成成分の屈折率の適合を必要とすることなく、
低い視覚的不透明性を示す。これらは、歯科ペースト、および硬化時に得られる歯科物品
に対して当業者が所望する特性である。
【0041】
別の態様では、本出願は、硬化性樹脂と、硬化性樹脂中に分散されるフィラーであって
、平均粒子サイズが約20ナノメートル〜約120ナノメートルの一次シリカ粒子の凝集
体を含む多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーとを含む歯科ペーストを開示する。フ
ィラーは、かさ密度が少なくとも約0.4g/cm3、表面積が最大で約150m2/gで
ある。フィラー中の凝集シリカの平均サイズは約1マイクロメートル〜約20マイクロメ
ートルであり、シリカは、重金属を実質的に含まない。フィラーは、好ましくは、硬化性
樹脂中に分散されて歯科ペーストを形成することができ、ここで、ペーストは、フィラー
を少なくとも約45重量%、更に好ましくは少なくとも約55重量%、更により好ましく
は少なくとも約65重量%、最も好ましくは少なくとも約70重量%含む。フィラーは、
好ましくは、シラン処理された表面を備える。
【0042】
多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラー
多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーは、ヒュームドシリカ又は熱分解法シリカ以
外の非晶質シリカを含む。多孔質の非熱分解法シリカは、典型的には、凝集シリカ(例え
ば、一次シリカ粒子の凝集体)を含む。多孔質の非熱分解法シリカには、例えば、沈降法
シリカ、シリカゲル、および本明細書に記載のシリカクラスターなどが挙げられる。多孔
質の非熱分解法シリカは、好ましくは、シリカゲル、および/又は本明細書に記載のシリ
カクラスターを含む。
【0043】
多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、平均粒子サイズが約5ナノメートル〜約1
20ナノメートルの一次シリカ粒子の凝集体、更に好ましくは緩く結合している凝集体を
含む。幾つかの用途では、一次シリカ粒子の平均粒子サイズは、少なくとも約20ナノメ
ートルであることが好ましく、更に好ましくは少なくとも約50ナノメートル、最も好ま
しくは少なくとも約70ナノメートルである。幾つかの用途では、一次シリカ粒子の平均
粒子サイズは最大で約100ナノメートルであることが好ましい。凝集体は、好ましくは
、平均サイズが少なくとも約1マイクロメートルのシリカクラスターである。凝集体は、
好ましくは、平均サイズが、最大で約20マイクロメートル、更に好ましくは最大で約1
0マイクロメートルのシリカクラスターである。多孔質の非熱分解法シリカは、重金属を
実質的に含まない。多孔質の非熱分解法シリカを含有するフィラーは、凝集シリカを少な
くとも約50重量%、更に好ましくは少なくとも約80重量%、最も好ましくは少なくと
も約90重量%含む。
【0044】
本出願で開示される多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、一次シリカ粒子の実質
的に球状の凝集体を含む。好ましくは、凝集シリカの平均アスペクト比は、最大で約4:
1、好ましくは最大で約3:1、更に好ましくは最大で約2:1、更により好ましくは最
大で約1.5:1である。
【0045】
本出願で開示される多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、シラン処理された表面
を有する。シリカを樹脂に加える前に、シリカを表面処理することができる。「表面処理
」の用語は、表面改質と同意語である。フィラーの表面処理は、以下で詳細に検討する。
【0046】
多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、樹脂相溶化表面処理剤で処理される。特に
好ましい表面処理剤には、樹脂と重合可能なシラン処理剤が挙げられる。好ましいシラン
処理剤には、ウィトコ・OSi・スペシャルティーズ(コネチカット州ダンベリー)(W
itco OSi Specialties(Danbury,CT))からA174の
商標で入手可能なγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ユナイテッド・ケミ
カル・テクノロジーズ(ペンシルバニア州ブリストル)(United Chemica
l Technologies(Bristol,PA))からG6720の商標で入手
可能なγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヴァッカー・シリコーンズ(ドイ
ツ、ミュンヘン)(Wacker Silicones(Munich,Germany
))からヴァッカー・シランGF31の商標で入手可能なメタクリロキシアルキルトリメ
トキシシラン、およびゲレスト社(ペンシルバニア州タリータウン)(Gelest I
nc.(Tullytown,PA))から入手可能なスチリルエチルトリメチロキシシ
ランが挙げられる。
【0047】
或いは、表面処理剤を組合せて使用することができる。任意に、表面処理剤の少なくと
も1つは、硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。例えば、重合性の基は、エチレン
性不飽和官能基、又は開環重合しやすい環状官能基とすることができる。重合性のエチレ
ン性不飽和基は、例えば、アクリレート、メタクリレート、又はビニル基とすることがで
きる。開環重合しやすい環状官能基は、一般に、酸素、イオウ、又は窒素などのヘテロ原
子を含有し、好ましくは、エポキシドなどの酸素を含有する3員環である。分散性又は流
動学的特性を向上させるため、一般に硬化性樹脂と反応しない他の表面改質剤を含むこと
ができる。有用な表面改質剤には、例えば、アルキルポリエーテル、アルキル官能性シラ
ン、ヒドロキシアルキル官能性シラン、ヒドロキシアリール官能性シラン、およびアミノ
アルキル官能性シランが挙げられる。
【0048】
本出願で開示される多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、かさ密度が少なくとも
約0.4g/cm3であり、これは、歯科ペーストに通常使用される非晶質シリカフィラ
ーに対して見い出される密度より、かなり高い。例えば、ヒュームドシリカのかさ密度は
、典型的には0.03g/cm3〜0.12g/cm3であり、沈降法シリカのかさ密度は
、典型的には0.03g/cm3〜0.3g/cm3である。(非特許文献2)を参照され
たい。理論によって裏付けられることを望まないが、かさ密度に対する高い観測値は、例
えば、シリカクラスターが一緒に密にパッキングされる能力、および凝集体モルフォロジ
ーなどの要因によるものと考えられ、これは、気孔率と関係する。
【0049】
本出願で開示される多孔質の非熱分解法シリカは、好ましくは、表面積が最大で約70
0m2/g、更に好ましくは、最大で約500m2/g、更により好ましくは、最大で約2
00m2/g、更により好ましくは、最大で約150m2/g、更により好ましくは、最大
で約100m2/g、最も好ましくは、最大で約75m2/gである。
【0050】
多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーの調製
多孔質の非熱分解法シリカを含む、乾燥粉末の形態のフィラーは、例えば、次の一般的
な方法で調製されてもよい。重金属を実質的に含まない揮発性液体シリカゾルを乾燥させ
て、一次シリカ粒子の緩く結合した凝集体を得てもよい。任意に、凝集体のサイズは、例
えばミル粉砕手順によって小さくされてもよい。次いで、凝集シリカを揮発性液体中に再
分散させ、シランで表面処理して、シラン処理された表面を有する多孔質の非熱分解法シ
リカの揮発性液体分散体を形成してもよい。次いで、分散体を乾燥させ、乾燥粉末を提供
してもよい。
【0051】
多孔質の非熱分解法シリカを調製するのに好ましいシリカゾルは、例えば、ナルコ・ケ
ミカル社(イリノイ州ネイパービル)(Nalco Chemical Co.(Nap
erville,IL))からナルコ・コロイダル・シリカズ(NALCO COLLO
IDAL SILICAS)の商標で市販されている。例えば、ナルコ(Nalco)製
品1040、1042、1050、1060、2327および2329を使用して、好ま
しい多孔質の非熱分解法シリカを調製することができる。硬化性樹脂がカチオン開始系を
含む好ましい実施形態では、出発シリカは、好ましくは、イオン交換された、又は酸性の
非ナトリウム安定化シリカゾル(例えば、ナルコ(Nalco)1042、ナルコ(Na
lco)2326、およびナルコ(Nalco)2327)である。別の好ましい実施形
態では、出発シリカゾルは、ナトリウムで安定化されている(例えば、ナルコ(Nalc
o)2329)。
【0052】
シリカゾルは、好ましくは、平均粒子サイズが約5ナノメートル〜約120ナノメート
ルの一次粒子を含む。幾つかの用途では、一次シリカ粒子の平均粒子サイズは少なくとも
約20ナノメートルであることが好ましく、更に好ましくは、好くなくとも約50ナノメ
ートル、最も好ましくは少なくとも約70ナノメートルである。幾つかの用途では、一次
シリカ粒子の平均粒子サイズは、最大で約100ナノメートルであることが好ましい。
【0053】
シリカゾルは、いずれかの慣用的な方法で乾燥され、凝集シリカを形成してもよい。好
適な乾燥方法には、例えば、噴霧乾燥が挙げられる。次いで、凝集シリカを表面処理して
もよく、又は任意に、表面処理の前に、粉砕又はミル粉砕手順で、平均凝集体サイズを小
さくしてもよい。好都合なミル粉砕手順には、例えば、ボールミルおよびジェットミルな
どが挙げられる。平均凝集体サイズを小さくする場合、約1マイクロメートル〜約10マ
イクロメートルの平均凝集体サイズに小さくすることが好ましい。
【0054】
前述のようにシランで表面処理するため、乾燥状態の凝集シリカを揮発性液体中に再分
散させ、シラン処理された表面を有する多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体分散体を
提供してもよい。シラン処理された表面を有する多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体
分散体を、いずれかの慣用的な方法で乾燥させ、乾燥粉末の形態のフィラーを提供しても
よい。好適な乾燥方法には、例えば、噴霧乾燥およびギャップ乾燥(gap dryin
g)(例えば、(特許文献1)(コルブ(Kolb)ら)および(特許文献2)(ヒュー
ルスマン(Huelsman)ら)に記載の手順による)が挙げられる。
【0055】
任意に、多孔質の非熱分解法シリカを、好ましくは表面処理段階の前に、仮焼してもよ
い。シリカが仮焼される場合、温度は、好ましくは最大で約650℃、更に好ましくは最
大で約600℃、最も好ましくは最大で約550℃である。シリカが仮焼される場合、シ
リカは、好ましくは最大で約12時間、更に好ましくは最大で約6時間、最も好ましくは
最大で約4時間、仮焼される。
【0056】
非凝集シリカ粒子を含むフィラー
本発明の幾つかの実施形態では、歯科ペーストは、硬化性樹脂中に分散される追加のフ
ィラーを含む。追加のフィラーは、シラン処理された表面を有し、好ましくは平均粒子サ
イズが最大で約200ナノメートル、更に好ましくは最大で約150ナノメートル、最も
好ましくは最大で約120ナノメートルの非凝集一次シリカ粒子を含む。非凝集一次シリ
カ粒子は、好ましくは平均粒子サイズが少なくとも約20ナノメートル、更に好ましくは
少なくとも約50ナノメートル、最も好ましくは少なくとも約70ナノメートルである。
これらの測定は、好ましくは、TEM(透過型電子顕微鏡)法に基づき、それによって、
粒子の集団を分析し、平均粒子サイズが得られる。粒子サイズを測定する好ましい方法は
、以下の試験方法の項に記載される。非凝集シリカ粒子の平均表面積は、好ましくは少な
くとも約15m2/gであり、更に好ましくは少なくとも約30m2/gである。非凝集シ
リカ粒子を含む好適なフィラー、およびそのフィラーを調製する方法は、例えば、(特許
文献3)(クレイグ(Craig)ら)に開示されている。
【0057】
本出願で開示される歯科ペーストに使用される非凝集シリカ粒子は、好ましくは、実質
的に球状であり、実質的に非多孔質である。シリカは、好ましくは本質的に純粋であるが
、アンモニウムおよびアルカリ金属イオンなどの安定化イオンを少量含有してもよい。
【0058】
非凝集シリカ粒子の調製に好ましいシリカゾルは、例えば、ナルコ・ケミカル社(イリ
ノイ州ネイパービル)(Nalco Chemical Co.(Naperville
,IL))からナルコ・コロイダル・シリカズ(NALCO COLLOIDAL SI
LICAS)の商標で市販されている。例えば、ナルコ(Nalco)製品1040、1
042、1050、1060、2327および2329を使用して、好ましいシリカ粒子
を得ることができる。硬化性樹脂がカチオン開始系を含む好ましい実施形態では、出発シ
リカは、好ましくは、酸性の非ナトリウム安定化シリカゾル(例えば、ナルコ(Nalc
o)1042)である。別の好ましい実施形態では、出発シリカゾルは、ナルコ(Nal
co)2329である。
【0059】
非凝集シリカ粒子を表面処理することができる。歯科ペーストに添加する前に非凝集シ
リカ粒子を表面処理すると、樹脂中の安定な分散体を提供できる。本明細書で使用される
場合、「安定な」は、標準的な周囲条件(例えば、室温(約20〜22℃)、大気圧、お
よび極度の電磁力がない)で、一定時間、例えば、約24時間放置した後に、粒子が集塊
しない歯科材料を意味する。表面処理は、粒子が硬化性樹脂中に十分に分散され、実質的
に均一な組成物が得られるように、非凝集シリカ粒子を安定化させることが好ましい。更
に、安定化された粒子が、硬化中に硬化性樹脂と共重合できるか、又はその他、反応する
ことができるように、シリカは表面処理剤でその表面の少なくとも一部を改質されること
が好ましい。
【0060】
本出願で開示される非凝集シリカ粒子は、好ましくは、樹脂相溶化表面処理剤で処理さ
れる。特に好ましい表面処理又は表面改質剤には、樹脂と重合することができるシラン処
理剤が挙げられる。好ましいシラン処理剤には、ウィトコ・OSi・スペシャルティーズ
(コネチカット州ダンベリー)(Witco OSi Specialties(Dan
bury,CT))からA−174の商標で入手可能なγ−メタクリロキシプロピルトリ
メトキシシラン、およびユナイテッド・ケミカル・テクノロジーズ(ペンシルバニア州ブ
リストル)(United Chemical Technologies(Brist
ol,PA))からG6720の商標で入手可能なγ−グリシドキシプロピルトリメトキ
シシランが挙げられる。
【0061】
或いは、表面改質剤の組合せが有用となり得る。任意に、表面改質剤の少なくとも1つ
は、硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。例えば、重合性の基は、エチレン性不飽
和官能基、又は開環重合しやすい環状官能基とすることができる。重合性のエチレン性不
飽和基は、例えば、アクリレート、若しくはメタクリレート、又はビニル基とすることが
できる。開環重合しやすい環状官能基は、一般に、酸素、イオウ、又は窒素などのヘテロ
原子を含有し、好ましくは、酸素を含有する3員環(例えば、エポキシド)である。分散
性又は流動学的特性を向上させるため、一般に硬化性樹脂と反応しない他の表面改質剤を
含むことができる。有用な表面改質剤には、例えば、アルキルポリエーテル、アルキル官
能性シラン、ヒドロキシアルキル官能性シラン、ヒドロキシアリール官能性シラン、およ
びアミノアルキル官能性シランが挙げられる。
【0062】
非凝集シリカ粒子は、揮発性液体分散体中で表面処理されることが好ましい。表面処理
後、シリカ粒子を適切な硬化性樹脂組成物と組合せて歯科ペーストを形成することができ
る。例えば、表面処理されたシリカ粒子の揮発性液体分散体を乾燥させて、シラン処理さ
れた表面を有する非凝集シリカ粒子を含む、乾燥粉末の形態のフィラーを提供することが
できる。
【0063】
硬化性樹脂
本発明の歯科ペーストは、硬化性樹脂を含む。これらの樹脂は、好ましくは、一般に、
硬化してポリマーネットワークを形成できる熱硬化性材料、例えば、アクリレート官能性
材料、メタクリレート官能性材料、エポキシ官能性材料、ビニル官能性材料、およびこれ
らの混合物である。硬化性樹脂は、好ましくは、1種類以上のマトリックス形成オリゴマ
ー、モノマー、ポリマー、又はこれらのブレンドから作られる。
【0064】
本出願で開示される歯科ペーストが歯科用コンポジットである好ましい実施形態では、
使用に好適な重合性材料には、それらを口腔環境中で使用するのに好適にする十分な強度
と加水分解安定性があり、且つ、毒性のない硬化性有機材料が含まれる。このような材料
の例には、アクリレート、メタクリレート、ウレタン、カルバモイルイソシアヌレート、
エポキシ(例えば、(特許文献4)(ボーエン(Bowen))、(特許文献5)(リー
II(Lee II)ら)、(特許文献6)(ウォーラー(Waller))、(特許文
献7)(ウォーラー(Waller))、(特許文献8)(リー(Lee)ら)、(特許
文献9)(リー(Lee)ら)、(特許文献10)(テイラー(Taylor))、(特
許文献11)(グロス(Gross)ら)、(特許文献12)(グロス(Gross)ら
)、(特許文献13)(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、(特許文献14)(クレイ
グ(Craig)ら)、(特許文献15)(ウォルコウィアク(Walkowiak)ら
)、(特許文献16)(カワハラ(Kawahara)ら)、(特許文献17)(オーロ
ウスキー(Orlowski)ら)、(特許文献18)(バーグ(Berg))、(特許
文献19)(ツネカワ(Tsunekawa)ら)に示されているもの))、並びにこれ
らの混合物および誘導体が挙げられる。
【0065】
好ましい硬化性材料の1種類には、フリーラジカル活性官能基を有する材料が挙げられ
る。このような材料の例には、1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、1つ以
上のエチレン性不飽和基を有するオリゴマー、1つ以上のエチレン性不飽和基を有するポ
リマー、およびこれらの組合せが挙げられる。或いは、硬化性樹脂は、カチオン活性官能
基を含む材料から選択することができる。別の代替では、カチオン硬化性およびフリーラ
ジカル硬化性材料の両方を含む硬化性樹脂の混合物を、本発明の歯科材料に使用してもよ
い。別の代替では、硬化性樹脂は、カチオン活性およびフリーラジカル活性官能基の両方
を同じ分子中に含む材料の種類からの材料とすることができる。
【0066】
フリーラジカル活性材料。フリーラジカル活性官能基を有する硬化性樹脂の種類で、本
発明で使用するのに好適な材料には、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合があり、付
加重合を経ることができる。このようなフリーラジカル重合性材料には、メチルアクリレ
ート、メチルメタクリルレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n
−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロール
ジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、
ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,
3−プロパンジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、ト
リメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレ
ート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリトリトールトリアク
リレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタ
クリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルメタク
リレート(「ビス−GMA」)、ビス[1−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェ
ニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポ
キシフェニルジメチルメタン、およびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメ
タクリレートなどのモノ−、ジ−、又はポリ−アクリレートおよびメタクリレート、分子
量200〜500のポリエチレングリコールのビス−アクリレートおよびビス−メタクリ
レート、(特許文献20)(ボエッチャー(Boettcher)ら)のものなどのアク
リル化モノマーの共重合性混合物、および(特許文献21)(ザドー(Zador))の
ものなどのアクリル化オリゴマー、並びに、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルス
クシネート、ジビニルアジペート、およびジビニルフタレートなどのビニル化合物が挙げ
られる。必要に応じて、これらのフリーラジカル重合性材料のうち2つ以上の混合物を使
用することができる。
【0067】
フリーラジカル開始系。フリーラジカル重合(例えば、硬化)のため、放射線、熱、又
はレドックス/自己硬化化学反応により重合を開始する系から、開始系を選択することが
できる。フリーラジカル活性官能基の重合を開始できる開始剤の1種類には、フリーラジ
カル生成光開始剤が挙げられ、任意に、光増感剤又は促進剤と組合せられる。このような
開始剤は、典型的には、波長が200〜800ナノメートルの光エネルギーに暴露すると
、フリーラジカルを生成し、付加重合することができる。
【0068】
フリーラジカル重合性材料を光重合させるため、様々な可視又は近赤外光開始剤系を使
用してもよい。例えば、光開始系は、(特許文献22)(ダート(Dart)ら)に記載
のアミンおよびα−ジケトンの2成分系で重合を開始する系から選択することができる。
或いは、材料は、(特許文献23)(パラツォット(Pallazzotto)ら)に記
載されるような3成分光開始剤系と組み合わせることができる。3成分系には、ヨードニ
ウム塩(例えば、ジアリールヨードニウム塩)、増感剤、および供与体が含まれる。各光
開始剤構成成分は、(特許文献23)、コラム2、27行目〜コラム4、45行目に記載
されている。
【0069】
他の有用なフリーラジカル開始剤には、(特許文献24)(イング(Ying))、お
よび(特許文献25)(エルリッチ(Ellrich)ら)および(特許文献26)(レ
パード(Leppard)ら)に記載のアシルホスフィンオキシドの種類が挙げられる。
三級アミン還元剤をアシルホスフィンオキシドと組合せて使用してもよい。
【0070】
本発明の歯科材料に代替として使用され得る別のフリーラジカル開始剤系には、ホウ酸
陰イオンおよび相補的カチオン染料を含むイオン性染料−対イオン錯体開始剤の種類が挙
げられる。ホウ酸塩光開始剤は、例えば、(特許文献27)(ゴットシャルク(Gott
schalk)ら)、(特許文献28)(アデア(Adair)ら)、(特許文献29)
(ゴットシャルク(Gottschalk))、(特許文献30)(シャンクリン(Sh
anklin)ら)、および(特許文献31)(シャンクリン(Shanklin)ら)
に記載されている。
【0071】
硬化性樹脂中のフリーラジカル活性官能基の重合を開始できる開始剤の更に別の代替の
種類には、過酸化物とアミンの組合せなどの慣用的な化学開始剤系が挙げられる。これら
の開始剤は、熱レドックス反応(thermal redox reaction)に依
るものであり、「自己硬化触媒」と呼ばれることが多い。それらは、典型的には、反応体
が互いに別々に保存された後、使用直前に混合される2部式の系として供給される。
【0072】
更なる代替では、フリーラジカル活性基の硬化又は重合を開始するため、熱を使用して
もよい。本発明の歯科材料に好適な熱源の例には、誘導、対流、および放射が挙げられる
。熱源は、標準状態で、又は高圧で、少なくとも約40℃および最大で約150℃の温度
を発生できなければならない。この手順は、口腔環境の外側で起こる材料の重合を開始す
るのに好ましい。
【0073】
硬化性樹脂中のフリーラジカル活性官能基の重合を開始することができる開始剤の更に
別の代替の種類には、フリーラジカル生成熱開始剤を含むものがある。例としては、過酸
化物(例えば、過酸化ベンゾイルおよび過酸化ラウリル)、およびアゾ化合物(例えば、
2,2−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN))が挙げられる。
【0074】
カチオン活性材料。本出願で開示される歯科ペーストに有用な硬化性樹脂の代替の種類
には、カチオン活性官能基を有する材料が挙げられる。カチオン活性官能基を有する材料
には、カチオン重合性エポキシ、ビニルエーテル、オキセタン、スピロ−オルトカーボネ
ート、およびスピロ−オルトエステルなどが挙げられる。カチオン活性官能基を有する好
ましい材料には、例えば、(特許文献32)(オックスマン(Oxman)ら)(例えば
、コラム2、36行目〜コラム4、52行目)およびその中に引用されている文献中に開
示されているものなどの、エポキシ官能性材料がある。
【0075】
好ましくはエポキシ官能性材料である、カチオン活性官能基を有する硬化性樹脂用の連
鎖延長剤として、モノヒドロキシ−およびポリヒドロキシ−アルコールを、任意に、硬化
性樹脂に添加してもよい。本発明で使用されるヒドロキシ含有材料は、少なくとも約1つ
、好ましくは少なくとも約2つのヒドロキシル官能基を有するいずれかの有機材料とする
ことができる。有用なヒドロキシル含有材料は、例えば、(特許文献33)(カイサキ(
Kaisaki)ら)に記載されている。
【0076】
カチオン活性官能基を含む樹脂を硬化させるため、放射線、熱、又はレドックス/自己
硬化化学反応によって重合を開始する系から、開始系を選択することができる。例えば、
エポキシ重合は、例えば、酸無水物およびアミンを含む熱硬化剤の使用によって達成され
てもよい。酸無水物硬化剤の特に有用な例には、シス−1,2−シクロヘキサンジカルボ
ン酸無水物がある。
【0077】
或いは、カチオン活性官能基を含む樹脂用の開始系は、光活性化されるものである。触
媒および光開始剤産業で認識される広範な種類のカチオン光活性基を本発明の実施に使用
してもよい。光活性カチオン核、光活性カチオン部分、および光活性カチオン有機化合物
は、例えば、(特許文献34)(クリベロ(Crivello))、(特許文献35)(
シュレジンガー(Schlesinger))、(特許文献36)(クリベロ(Criv
ello))、(特許文献37)(クリベロ(Crivello))、(特許文献38)
(ファルーク(Farooq))、(特許文献39)(ファルーク(Farooq))、
(特許文献40)(パラツォット(Palazzotto)ら)、(特許文献41)(パ
ラツォット(Palazzotto))、および(特許文献33)(カイサキ(Kais
aki)ら)によって例示されるような、当該技術分野で認識される種類の材料である。
【0078】
カチオン硬化性材料を、前述のように、例えば、ヨードニウム塩、増感剤、および電子
供与体を使用して、3成分又は三元(ternary)光開始剤系と組み合わせることが
できる。カチオン硬化性材料を硬化させるのに有用な芳香族ヨードニウム錯体塩の例が、
(特許文献32)(オックスマン(Oxman)ら)(例えば、コラム5、46行目〜コ
ラム6、9行目)に開示されている。有用な増感剤および電子供与体の例は、(特許文献
32)(例えば、コラム6、43行目〜コラム9、43行目)にも見い出すことができる

【0079】
カチオン重合用の代替の光開始剤系には、(特許文献40)(パラツォット(Pala
zzotto)ら)に記載されるものから選択される、金属水素化物又は金属アルキル官
能基を本質的に含まない、有機金属錯体カチオンの使用が挙げられる。
【0080】
カチオン活性/フリーラジカル活性材料。或いは、硬化性樹脂は、単一の分子内に、カ
チオン活性およびフリーラジカル活性官能基の両方が含まれてもよい。このような分子は
、例えば、ジ−又はポリ−エポキシドをエチレン性不飽和カルボン酸1当量以上と反応さ
せることによって得られてもよい。このような材料の一例は、ユニオン・カーバイド(U
nion Carbide)からUVR−6105の商標で入手可能な材料と、メタクリ
ル酸1当量との反応生成物である。エポキシおよびフリーラジカル活性官能基を有する市
販の材料には、日本のダイセル化学工業(株)からサイクロマー(CYCLOMER)の
商標で入手可能な材料(例えば、サイクロマー(CYCLOMER)M−100、M−1
01、又はA−200)、およびラドキュア・スペシャルティーズ(Radcure S
pecialties)からエベクリル(EBECRYL)−3605の商標で入手可能
な材料が挙げられる。
【0081】
光開始剤化合物は、好ましくは、本出願で開示される歯科ペースト中に、樹脂系のキュ
ア又は硬化を開始する、又はその速度を向上させるのに有効な量で提供される。有用な光
重合性組成物は、安全な光条件で前述の成分を単に混合することによって調製される。こ
の混合物を調製するとき、必要に応じて、好適な不活性溶媒を使用してもよい。本発明の
組成物の構成成分と、認識できる程度には反応しないいずれかの溶媒を使用してもよい。
好適な溶媒の例には、例えば、アセトン、ジクロロメタン、およびアセトニトリルなどが
挙げられる。重合される液体材料を、重合される別の液体又は固体材料用の溶媒として使
用してもよい。例えば、溶解を促進するため穏やかに加熱して、又は加熱することなく、
芳香族ヨードニウム錯体塩および増感剤をエポキシ官能性材料/ポリオール混合物中に単
に溶解させることによって、溶媒を含まない組成物を調製することができる。
【0082】
他の添加剤
本発明の歯科ペーストおよび物品は、任意に、例えば、着色剤、風味料、抗菌剤、香料
、安定化剤、粘度調整剤、およびフッ化物放出材料などの、口腔環境中で使用するのに好
適な添加剤を含んでもよい。例えば、フッ化物放出ガラスを本発明の歯科ペーストに添加
して、例えば、口腔内での使用中に、フッ化物を長期間放出するという利益が提供される
。フルオロアルミノシリケートガラスは、特に好ましい。特に好ましいフルオロアルミノ
シリケートガラスは、例えば、(特許文献42)(マイトラ(Mitra)ら)に記載の
ようにシラノール処理されたものである。他の好適な添加剤には、例えば、蛍光および/
又は乳光を付与する試剤が挙げられる。
【0083】
任意に、本発明の歯科ペースト、歯科物品、および組成物は、また、ヒュームドシリカ
を含んでもよい。好適なヒュームドシリカは、例えば、デグサ社(ドイツ、ハナウ)(D
eGussa AG,(Hanau,Germany))から入手可能な、エアロシル(
AEROSIL)OX−50、エアロシル(AEROSIL)OX−130、エアロシル
(AEROSIL)OX−150、およびエアロシル(AEROSIL)OX−200、
並びにカボット社(イリノイ州タスコラ)(Carbot Corp(Tuscola,
IL))から入手可能なカルボシル(CAB−O−SIL)M5の商標で入手能な製品が
挙げられる。
【0084】
フィラーの樹脂への混入
本出願で開示されるフィラーを、いずれかの好適な手段によって硬化性樹脂中に混入、
分散させて、歯科ペーストを形成してもよい。
【0085】
シラン処理された表面を有する多孔質の熱分解法シリカは、粉末として硬化性樹脂に好
都合に加えられてもよい。或いは、シリカを別のフィラーおよび/又は任意の添加剤と組
み合わせ、後で粉体として硬化性樹脂に加えられる材料を提供してもよい。或いは、シリ
カを液体添加剤と組合せて、分散体として硬化性樹脂に加えてもよい。
【0086】
シラン処理された表面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメートルの非凝集
一次シリカ粒子を含む追加のフィラーを、様々な方法で硬化性樹脂に加えてもよい。例え
ば、溶媒交換手順を使用して、表面改質されたゾルを樹脂に加え、続いて、蒸発により水
と補助溶媒(使用される場合)を除去し、このように、粒子を硬化性樹脂中に分散させて
もよい。蒸発段階は、例えば、蒸留、回転蒸発、又はオーブン乾燥で達成できる。非凝集
一次シリカ粒子を樹脂に組み込む別の方法は、表面改質された粒子を乾燥させて粉末にす
ることを含む。そのとき、粉末を樹脂中に分散させることができる。更に別の方法では、
非凝集一次シリカ粒子をろ過により単離して固体を得ることができ、この固体を乾燥させ
て粉末にすることができる。表面処理と水性媒体との非相溶性のため、表面改質された水
性ゾルの粒子が集塊した場合、この方法が好ましい。次いで、樹脂、およびろ過した乾燥
粒子を合わせる。
【0087】
本出願に開示されるフィラーを、当該技術分野で既知の任意の慣用的な方法で、硬化性
樹脂中に分散させてもよい。
【0088】
歯科ペースト
本出願で開示されるフィラーを硬化性樹脂に混入させ、前述の有用な歯科ペーストを提
供することができる。本発明の歯科ペーストは、化学硬化性、熱硬化性、又は光硬化性組
成物とすることができる。光硬化性材料は、適切な開始剤系を有していなければならない
。化学硬化性材料は、自己硬化(例えば、レドックス開始剤による)することができる。
或いは、本発明の材料は、自己硬化又は光硬化の組合せにより硬化することができる。
【0089】
本出願で開示される歯科ペーストは、硬化性樹脂中に分散されるフィラーを含み、フィ
ラーは、シラン処理された表面を有し、重金属を実質的に含まない、多孔質の非熱分解法
シリカを含む。歯科ペーストは、好ましくは、多孔質の非熱分解法シリカを少なくとも約
10重量%、更に好ましくは、多孔質の非熱分解法シリカを少なくとも約20重量%、最
も好ましくは、多孔質の非熱分解法シリカを少なくとも約30重量%含む。歯科ペースト
は、好ましくは、多孔質の非熱分解法シリカを最大で約70重量%、更に好ましくは、多
孔質の非熱分解法シリカを最大で約50重量%、最も好ましくは、多孔質の非熱分解法シ
リカを最大で約40重量%含む。
【0090】
本発明の幾つかの実施形態では、歯科ペーストは、また、硬化性樹脂中に分散される追
加のフィラーを含んでもよい。追加のフィラーは、シラン処理された表面を有し、平均粒
子サイズが最大で約200ナノメートルの非凝集一次シリカ粒子を含む。このような歯科
ペーストは、好ましくは、非凝集一次シリカ粒子を少なくとも約20重量%、更に好まし
くは、非凝集一次シリカ粒子を少なくとも約30重量%、最も好ましくは、非凝集一次シ
リカ粒子を少なくとも約40重量%含む。このような歯科ペーストは、好ましくは、非凝
集一次シリカ粒子を最大で約70重量%、更に好ましくは、非凝集一次シリカ粒子を最大
で約60重量%、最も好ましくは、非凝集一次シリカ粒子を最大で約50重量%含む。
【0091】
歯科ペーストが、多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーと、非凝集シリカ粒子を含
むフィラーとを含む場合、これらのフィラーは、それぞれ、好ましくは少なくとも約1:
4、更に好ましくは少なくとも約2:4、最も好ましくは少なくとも約3:4の重量比で
ある。歯科ペーストが、多孔質の非熱分解法シリカを含むフィラーと、非凝集シリカ粒子
を含むフィラーとを含む場合、これらのフィラーは、好ましくは最大で約4:1、更に好
ましくは最大で約4:2、最も好ましくは最大で約4:3の重量比である。
【0092】
本出願で開示される歯科ペーストを、例えば、歯科用接着剤、人工歯冠、前方又は後方
充填材、鋳造材料、キャビティライナー、セメント、コーティング組成物、ミルブランク
、歯科矯正装置、修復材、補綴物、およびシーラントとして使用することができる。好ま
しい態様では、歯科ペーストは歯科修復材である。本発明の修復材は、直接口内に配置さ
れ、その場所でキュア(硬化)できるか、或いは、口の外側で補綴物に作製され、その後
、口の内側の所定の位置に接着されてもよい。
【0093】
本発明の歯科ペーストは、比較的高いフィラー濃度で充填されるが、依然として有用な
流動学的特性(例えば、柔軟で非粘着性)を有することが分かった。これらの特性、並び
に強度は、表面改質剤を使用し、粒子の表面を処理することによって向上すると考えられ
る。表面処理(表面改質)によって、多孔質シリカおよびシリカ粒子の分散性、並びにそ
れらのマトリックスに結合する能力が向上する。
【0094】
一般に、開業医は、時間の節約になることが多いため、歯科ペーストに適正な操作性を
所望する。開業医がペーストを口内に配置し、輪郭を形成し(contouring)、
フェザリングする(feathering)ことによりペーストを操作した後、開業医は
、一般に、ペーストが硬化するまで、付与された形状が変わらないことを望むため、例え
ば、歯科修復治療では、歯科ペーストは、垂下(例えば、流動又は形状が変化)しないこ
とが望ましい。十分に高い降伏応力を有し、修復治療に使用されるペーストは、一般に垂
下しない、即ち、重力による応力で流動しない。ペーストの降伏応力は、ペーストの流動
を引き起こすのに必要な最小限の応力であり、(非特許文献3)に記載されている。重力
による応力がペーストの降伏応力より小さい場合は、ペーストは流動しない。しかし、重
力による応力は、配置される歯科ペーストの質量、並びに形状に依存する。
【0095】
「輪郭を形成する(contouring)」は、天然歯の解剖学的構造に類似するよ
うに、(歯科用機器を使用して)ペーストを成形するプロセスのことを言う。輪郭形成が
容易であるためには、ペーストは、歯科用機器で操作した後、その形状を維持するのに十
分高い粘度を有していなければならないが、その粘度は、ペーストの成形が困難であるほ
ど高くてはならない。「フェザリングする(feathering)」は、ペーストが生
歯と調和するように、歯科ペーストを薄いフィルムにするプロセスのことを言う。これは
、操作されるペーストと生歯との境界で歯科用機器を用いて行われる。歯科ペーストは、
配置用の機器に粘着せず、形状又は表面トポグラフィーの更なる変化が最小限になること
も望ましい。
【0096】
本発明の歯科ペーストが修復材である好ましい実施形態では、歯科ペーストは、好まし
くは、垂下がほとんどないか、全くないが、例えば、窩洞形成に容易に適合され、容易に
輪郭が形成され、フェザリングされる。本発明の歯科ペーストは、好ましくは、配置用の
機器に粘着せず、好都合には、例えば、歯の構造体の修復などの歯科手順に使用されるこ
とが、全般に迅速で容易である。
【0097】
本発明は、好ましくは、硬化されて、以下に詳述される望ましい特性のバランス(例え
ば、低い不透明性、低い体積収縮値、高い直径引張り強さ、高い圧縮強さ、および研磨時
の高い光沢保持)を提供することができると同時に、優れた操作性(例えば、柔軟で非粘
着性)を保持する歯科ペーストを提供する。歯科ペーストは、当業者に周知の手順を使用
して操作される時に、非粘着性であることが好ましい。また、粘着性は、例えば、実施例
に記載のテクスチャ分析器を用いて測定することができ、糸引き仕事量/硬さ(SWD/
硬さ)の比の値が低いほど、ペーストの粘着性が小さいことを示す。歯科ペーストは、好
ましくは、SWD/硬さの値が最大で約0.5、更に好ましくは最大で約0.4、最も好
ましくは最大で約0.2である。
【0098】
硬化した歯科組成物
本出願で開示されるフィラーを歯科ペーストに添加すると、強度および半透明性の特性
の望ましい組合せが付与されることが分かった。本出願で開示される多孔質の熱分解法シ
リカフィラー、および非凝集シリカ粒子フィラーを含む歯科ペーストは、未硬化状態では
、特に望ましい操作性(流動学的特性)を有し、硬化した状態では、高強度と合わせて望
ましい審美的特性を有する。
【0099】
強度は、圧縮強さ(CS)および直径引張り強さ(DTS)などの機械測定によって特
徴付けることができる。咀嚼によって歯の補修材、置換材、および修復材上に力がかかる
ため、歯科材料の圧縮強さが高いことは有利である。直径引張り強さは、材料に引張り応
力を生じさせる圧縮力に耐えられる、歯科材料の能力を示す。各強度測定の試験は、下記
の実施例に記載されている。
【0100】
本出願で開示される歯科ペーストは、硬化したとき、好ましくは、圧縮強さが少なくと
も約35MPaであり、更に好ましくは、材料の圧縮強さは少なくとも約200MPaで
あり、最も好ましくは、材料の圧縮強さは少なくとも約350MPaである。本発明の硬
化した歯科ペーストの直径引張り強さは、少なくとも約15MPa、更に好ましくは少な
くとも約40MPa、最も好ましくは少なくとも約60MPaである。
【0101】
本出願で開示される硬化した歯科ペーストは、好ましくは、硬化時に低い収縮を示す。
収縮は、例えば、重合後のサンプルの体積収縮を測定する、以下の手順で測定できる。各
サンプルの120mg部分を計量する。(非特許文献4)に記載の手順を使用し、以下を
例外として、サンプルの調製および試験を行う。厚さ1mmの真鍮環を使用する。出力信
号は、ラボ・ビュー(テキサス州ブリッジビュー、ナショナル・インスツルメンツ)(L
ab View(National Instruments,Bridgeview
TX))自動化ソフトウェアを使用して、マイクロコンピュータ中のアナログからデジタ
ルへの変換器を通して獲得される。各サンプルをビジルクス(Visilux)2(商標
)(ミネソタ州セントポール、3M(3M,St.Paul,MN))で60秒間キュア
し、キュアを行う時にデータ収集を開始し、ポストキュアの5分間、継続する。各サンプ
ルに対して3回の実験を実施する。本発明の歯科ペーストは、好ましくは、キュアを行う
時、最大で約4%、更に好ましくは最大で約3.5%、最も好ましくは最大で約3%の体
積収縮を示す。
【0102】
本出願で開示される硬化した歯科ペーストは、好ましくは、高い半透明性、高い光沢、
および、繰返しの磨耗に曝された後の高い艶保持などの望ましい審美的品質を示す。
【0103】
歯科材料の審美的品質は、幾分主観的な特性であるが(歯科産業で十分に理解されてい
るが)、好ましくは、一態様では、マクベス(MacBeth)値を測定することによっ
て定量化でき、その場合、マクベス(MacBeth)値が低いほど、視覚的不透明性が
低いことを示す。視覚的不透明性は、歯科材料の半透明性のレベルを示す。硬化した歯科
材料が本物のような光彩(luster)を有するように、視覚的不透明性が低いことが
所望される。本出願で開示される歯科材料は、好ましくは、マクベス(MacBeth)
値が、最大で約0.4、更に好ましくは最大で約0.3、最も好ましくは最大で約0.2
である。
【0104】
或いは、硬化したペーストの半透明性は、コントラスト比の測定によって決定されても
よく、その場合、コントラスト比の値が低いほど、視覚的不透明性が低いことを示す。本
出願で開示される歯科材料は、好ましくは、コントラスト比が最大で約50、更に好まし
くは最大で約40、最も好ましくは最大で約30である。
【0105】
硬化した歯科ペーストの高い半透明性は、材料の審美的特性および品質の一因となる。
硬化した歯科ペーストの研摩性も、材料の審美的特性および品質の一因となる。歯科材料
が、研摩時に光沢のある仕上がり、および本物のような光彩を有する能力は、非常に望ま
しい。更に大きい利点は、硬化したペーストが、歯磨きなどの繰返しの磨耗接触の後でさ
えも、その光彩を保持できる能力である。驚くべきことに、本出願で開示される材料(例
えば、多孔質の非熱分解法シリカ、およびシリカ粒子の両方を含む硬化性樹脂)は、好ま
しくは、高い研摩性を有し、繰返し歯磨きした後に艶および光彩を保持できることが分か
った。
【0106】
硬化され、研摩された歯科材料がその艶を保持できる能力を評価するため、本明細書の
実施例に記載されるように、艶保持試験を実施することができる。簡潔には、艶保持は、
研磨後および歯磨き後のサンプル表面から鏡面反射される光を測定することによって決定
できる。例えば、マイクロ−トリ−グロス装置(BYKガードナー、メリーランド州コロ
ンビア(BYK Gardner,Columbia,MD))を使用し、実施例に記載
される手順を使用して、研磨後および歯磨き後のサンプル表面から鏡面反射される光の光
電子測定値を収集できる。本発明の歯科材料が500回の歯磨きサイクルを有する艶保持
試験を経た後、歯科材料の光沢の損失は、好ましくは最大で約30%、更に好ましくは最
大で約20%、最も好ましくは最大で約10%である。
【0107】
歯科物品
本発明のペーストは、硬化されて、例えば、歯科物品を形成してもよい。本出願で開示
される硬化性樹脂およびフィラーを含む歯科ペーストを使用する好ましい方法では、ペー
ストは、歯の表面近くに、又は歯の表面上に配置され、続いて、開業医又は実験室によっ
て操作され、ペーストのトポグラフィーを変化させた後、樹脂を硬化させてもよい。これ
らの段階は、逐次的に、又は異なる順番で行うことができる。例えば、歯科材料がミルブ
ランク又は補綴物である好ましい実施形態では、硬化段階は、一般に、ペーストのトポグ
ラフィーを変化させる前に完了する。ペーストのトポグラフィーの変化は、例えば、手持
ち式の機器を使用する彫刻又は手動操作などの様々な方法で、又は、補綴物およびミルブ
ランクの場合、機械若しくはコンピュータ支援装置(例えば、CAD/CAM研削機)で
達成できる。任意に、仕上げ段階は、研摩する、仕上げ磨きをする、又は歯科材料にコー
ティングを塗布するために実施できる。
【0108】
本発明を以下の実施例によって説明する。特定の実施例、材料、量、および手順は、本
明細書に記載される本発明の範囲および趣旨に従って、広義に解釈されるものと理解され
たい。
【実施例】
【0109】
以下の実施例は、本発明の範囲を説明するために記載されるが、それを限定するもので
はない。別途明記されなければ、部およびパーセンテージは全て重量を基準とし、分子量
は全て重量平均分子量である。
【0110】
【表1】

【0111】
試験方法
平均粒子サイズの決定(TEM):厚さ約80nmのサンプルを、炭素安定化ホルムバ
ール(formvar)基材を有する200メッシュ銅製グリッド(ペンシルバニア州ウ
エストチェスター、ストラクチャー・プローブ社の一部門、SPIサプライズ、(SPI
Supplies,a division of Structure Probe,
Inc.,West Chester,PA))上に置いた。JEOL 200CX装置
(日本、昭島のJEOL社(JEOL,Ltd. of Akishima,Japan
)、JEOL USA社(JEOL USA,Inc.)により販売)を使用して200
Kv.で透過型電子顕微鏡写真(TEM)を撮影した。約50〜100粒子の集団サイズ
を測定し、平均粒子サイズを決定した。
【0112】
クラスターサイズの決定:
コウルターLS 230粒子サイズ分析器(フロリダ州ハイアレア、コウルター社)(
Coulter LS 230 Particle Size Analyzer(Co
ulter Corporation,Hialeah,FL))を使用して、クラスタ
ーサイズの分布(体積パーセントに基づく)を決定した。分析器は、偏光強度示差走査(
PIDS)ソフトウェアを装備した。フィラーのサンプル300mgを、フィラーを全て
濡らすのに十分なマイクロ(MICRO)−90界面活性剤と共に、ガラスバイアル瓶に
加えた。カルゴン(Calgon)溶液(フッ化ナトリウム0.20g、ピロリン酸ナト
リウム4.00g、ヘキサメタリン酸ナトリウム40.00g、マイクロ(MICRO)
−90界面活性剤8.00g、およびDI水3948mlを完全に混合することによって
作られる)の30mlアリコートを加え、得られる混合物を15分間振蕩し、プローブソ
ニケータ(ニューヨーク州ファーミングデール、ヒート・システムズ−ウルトラソニック
ス、モデルW−225ソニケータ(Model W−225 Sonicator,He
at Systems−Ultrasonics,Farmingdale,NY))に
より、出力制御ノブ設定9で6分間、超音波処理した。コウルターLS 230粒子特性
評価ソフトウェア、バージョン3.01(Coulter LS 230 Partic
le Characterization Software Version 3.0
1)を使用して、粒子分析を行った。試験条件は、実施長さ(Run Length)9
0秒、待機長さ0秒であり、PIDS読みが45%〜55%になるまで、試験サンプルを
サンプルオリフィスに一滴ずつ加えた。サンプル1つ当り3つのデータセットを平均し、
平均クラスターサイズが得られた。
【0113】
操作性:
レオナルド・ファーネル・アンド・カンパニー社(英国ハートフォードシア、ハットフ
ィールド)(Leonard Farnell & Co.Ltd.(Hatfield
,Hertfordshire,England))製のスティブンス・メクトリックQ
TS25(Stevens Mechtric QTS Twenty Five)(型
番、7113−25kg)を使用するテクスチャ分析器を用いて、操作性、例えば、ペー
ストサンプルのタッキネス又は粘着性を測定した。上部が平滑化されて平坦な円筒状のプ
ラスチックカップ(内径11mm×深さ6mm)の中にペーストサンプルを入れ、28℃
に設定した加熱プレート上に30分間置いた。カップを加熱プレートのサンプルホルダー
に入れ、「試験実施」をクリックすることによって試験を開始した。使用したプローブは
、4.5mmステンレス鋼シリンダ(45MMSS)であり、ブーム(boom)の停止
を約−8.5に設定し、コンピュータプログラムは、QTSと呼ばれ、設定パラメータは
以下の通りであった。試験数=50、全サイクル=1、保持時間=0秒、回復時間=0秒
、トリガ点=5.0g、試験速度=70mm/分、目標値=3.000mm、目標単位=
距離、および目標試験=圧縮。各ペーストサンプルに対して3つの試験を実施し、硬さ(
グラム(g)単位)および糸引き仕事量(グラム−秒(gs)単位)の3つの測定値の平
均および標準偏差を記録した。次いで、糸引き仕事量と硬さとの比(秒単位)を計算した
が、数値が低いほどペーストの粘着性が小さいことを示す。
【0114】
視覚的不透明性(マクベス(MacBeth)値およびコントラスト比)。ディスク形
(厚さ1mm×直径20mm)のペーストサンプルをビジルクス2キュアライト(ミネソ
タ州セントポール、3M社(3M Co,St.Paul,MN))からの照明に、ディ
スクの各面を60秒間、6mmの距離で暴露させることによりキュアし、続いて、デンタ
カラーXSライトボックス(ドイツ、クルツッアー社)(DENTACOLOR XS
light box(Kulzer,Inc.,Germany))中で、90秒間更に
キュアした。マクベス(ニューヨーク州ニューバーグ、マクベス)(MacBeth(M
acBeth,Newburgh,NY))から入手可能な、可視光線フィルタを装備し
たマクベス透過デンシトメータモデルTD−903(MacBeth transmis
sion densitometer Model TD−903)を使用して、ディス
クの厚さを通る光の透過率を測定することにより、硬化したサンプルの光の正透過を測定
した。マクベス(MacBeth)値が低いほど、材料の視覚的不透明性が低く、半透明
性が大きいことを示す。報告される値は、3つの測定値の平均である。
【0115】
或いは、(前段落に記載のように調製される)硬化したサンプルの半透明性は、以下の
ようにコントラスト比を測定することによって決定できる。ASTM−D2805−95
試験方法を変更して、ディスクのコントラスト比(又は不透明性)を測定した。白色と黒
色の別々のバックグラウンドを使用し、0.953cmの孔を有する、ウルトラスキャン
XE色彩計(バージニア州レストン、ハンター・アソシエーツ・ラボラトリー)(Ult
rascan XE Colorimeter(Hunter Associates
Laboratory,Reston,VA))で、ディスクのY−三刺激値を測定した
。全ての測定に対してフィルタを用いることなく、D65光源(D65 Illumin
ant)を使用した。10°の視角を使用した。コントラスト比又は不透明性、Cは、黒
色基材上の材料を通る反射率と、白色基材上の同一の材料を通る反射率との比として計算
された。反射率は、Y−三刺激値に等しいものと定義される。従って、C=RB/RWで
あり、ここで、RB=黒色基材上のサンプルを通る反射率、およびRW=白色基材上の同
じサンプルを通る反射率である。報告されるコントラスト比の値は、1回の測定から得ら
れ、値が低いと半透明性(即ち、光の透過)が大きいことを示す。
【0116】
艶保持:
次の方法で、硬化したサンプルの艶保持を測定した。長方形の形状のペーストサンプル
(長さ20mm×幅9mm×厚さ3mm)を、ビジルクス(VISILUX)2装置を用
いて、80秒間キュアし、続いて、デンタカラーXSライトボックス(ドイツ、クルツッ
アー社)(DENTACOLOR XS light box(Kulzer,Inc.
,Germany))中で、90秒間更にキュアした。サンプルを、両面接着テープ(ス
コッチ・ブランド・テープ、コア・シリーズ2−1300、ミネソタ州セントポール(S
cotch Brand Tape,Core series 2−1300,St.P
aul,MN)で、ホルダに取り付け、表2に示されるように逐次的に実施される、次の
一連の段階に従って研摩した。オートメット2ポリッシング・ヘッド(AUTOMET
2 Polishing Head)を有するビューラー・エコメット4ポリッシャ(B
uehler ECOMET 4 Polisher)を、時計回りの回転で使用した。
【0117】
【表2】

【0118】
マイクロ−トリ−グロス装置(メリーランド州コロンビア、BYKガードナー)(mi
cro−tri−gloss instrument(BYK Gardner,Col
umbia,MD))を使用して、研磨後および歯磨き後のサンプル表面から鏡面反射さ
れる光の光電子測定値を収集した。60°の幾何学的配置で行われる測定のため、AST
M D523−89(再認可1994年)鏡面光沢の標準試験方法に記載される手順に従
ったが、以下の点を変更した。研磨後の初期光沢(GI)を初期サンプルについて測定し
た。500回の歯磨きサイクル後の最終光沢(GF)を測定した。次式、ΔG=(GF)−
(GI)を用いて、ΔG値を計算した。長方形のサンプルのランダムに選択された領域の
初期および最終光沢を測定した。クレスト・レギュラー・フレーバー(オハイオ州シンシ
ナチ、プロクター・アンド・ギャンブル)(CREST Regular Flavor
(Proctor&Gamble,Cincinnati,OH))歯磨き粉を使用して
、オーラルB40ミディアム・ストレート歯ブラシ(カリフォルニア州ベルモント、オー
ラルBラボラトリーズ)(ORAL B 40 medium Straight to
othbrush(Oral B Laboratories,Belmont,CA)
)で、合計500サイクル、各サンプルをブラッシングした。一人の作業者は、歯磨きの
力と同程度の力を使用して全サンプルをブラッシングした。各サンプルを同じ歯ブラシで
ブラッシングした。1回の歯磨きサイクルは、前方に1回および後方に1回のストローク
であった。
【0119】
圧縮強さ(CS)および直径引張り強さ(DTS):
圧縮強さ(CS)および直径引張り強さ(DTS)試験は全て、それぞれ(非特許文献
5)に従った。具体的には、ペーストサンプルを内径4mmのガラスチューブに詰め込み
、シリコンゴム栓でふたをし、約0.28MPaで15分間軸方向に圧縮した後、反対側
に配置されている2つのVISILUX2(ミネソタ州セントポール、3M社(3M C
o,St.Paul,MN))装置に暴露させることにより、80秒間光キュアした。次
いで、デンタカラーXS装置(ドイツ、クルツッアー社)(Dentacolor XS
unit(Kulzer,Inc.,Germany))を使用して、各サンプルを9
0秒間照射した。キュアされたサンプルをダイヤモンドソーで切断し、CSの測定用に長
さ8mm、DTSの測定用に長さ2mmの円筒状のプラグを形成した。栓を37℃の蒸留
水中に24時間保存した。10kNのロードセルを有するインストロン(INSTRON
)(インストロン4505、マサチューセッツ州カントン、インストロン社(Instr
on 4505,Instron Corp. Canton,MA))を使用して、各
組成物のCSおよびDTS値を測定した。報告されるDTSの結果は、5つの測定値の平
均であり、CSの結果は、3つの測定値の平均である。
【0120】
フィラーのかさ密度:
予め重量を測定した10mlのガラス製メスシリンダーの中に、フィラー材料を10m
lの印まで注き、20〜30回手で軽く叩いた。軽く叩いてフィラーの高さが低下した場
合は、再び、10mlの印に達するように、追加のフィラー材料をシリンダーに加えた。
軽く叩き、フィラーを加える段階を更に3回繰り返し、最後のフィラー添加で、再び正確
に10mlの印に達した。充填されたシリンダーの重量を測定し、追加したフィラーの重
量を差で計算した。フィラー重量(グラム)を体積(10ml)で割ることによって、フ
ィラーのかさ密度を計算した。
【0121】
出発材料
液体樹脂A。表3に列記される構成成分を一緒にブレンドすることによって、液体樹脂
Aを作製した。
【0122】
【表3】

【0123】
フィラーA(シラン処理されたナノサイズのシリカ粒子):
以下の手順に従って、乾燥粉末の形態の、シラン処理されたナノサイズの非凝集シリカ
粒子を調製した。ナルコ(Nalco)2329シリカゾル(400.82g)を1クォ
ートの広口瓶に装填した。メトキシ−2−プロパノール(250.28g)およびA17
4(6.15g)を一緒に混合し、約5分間撹拌しながらシリカゾルに加えた。広口瓶を
密封し、16時間、80℃に加熱した。得られる白色の分散体を、(特許文献1)(コル
ブ(Kolb)ら)、および(特許文献2)(ヒュールスマン(Huelsman)ら)
に記載の手順に従い、分散体コーティング厚さ約35ミル(0.9mm)、および滞留時
間1.6分(加熱プラテン温度143℃、および凝縮プラテン温度21℃)で、ギャップ
乾燥法を使用して乾燥させると、微細な自由流動性の白色粉末が得られ、これをフィラー
Aと称した。フィラーAの公称粒子サイズは、出発ナルコ(Nalco)シリカゾルにお
けるのと同じ、即ち、約75ナノメートルであると仮定された。
【0124】
フィラーB(シラン処理されたシリカ−ジルコニアクラスター):
実質的に非晶質のクラスターとして緩く凝集した、ナノサイズのシラン処理シリカおよ
びジルコニア粒子を、次の手順に従って、乾燥粉末の形態で調製した。希硝酸を使用して
、ナルコ(Nalco)1042シリカゾル5.0kg部分をpH2.5に調節した。p
H調節したゾルを酢酸ジルコニル(2.95kg)にゆっくり添加し、得られる混合物を
1時間撹拌した。次いで、入口温度325℃および出口温度120℃の、91cmナイロ
・スプレー・ドライヤー(メリーランド州コロンビア、ナイロ・モバイル・マイナー・ス
プレー・ドライヤー)(Niro Spray Drier(Niro MOBILE
MINOR Spray Drier))を使用して、この混合物を噴霧乾燥した。得ら
れる固体を550℃で4時間、熱処理(仮焼)した。仮焼した固体を160時間ボールミ
ルで粉砕すると、白色の粉末が得られ、これは、本明細書に記載のクラスターサイズ決定
試験方法に従い、平均サイズ2マイクロメートルのクラスターからなることが決定された

【0125】
磁器撹拌棒で2分間撹拌することによって、白色粉末のサンプル20gを脱イオン(D
I)水(40g)と完全に混合した。得られる均一な混合物を水酸化アンモニウムでpH
8.5に調節した。A174(1.7g)を加え、磁器撹拌棒を使用して、120分間、
内容物を完全に混合し、得られる混合物を最終pH8.25に調節した。次いで、入口温
度200℃および出口温度85℃の、ブチ・スプレー・ドライヤー(ブチ/ブリンクマン
・ミニ・スプレー・ドライヤー、モデル190、ニューヨーク州ウエストベリー、ブリン
クマン・インスツルメンツ社)(Buchi spray dryer(Buchi/B
rinkman Mini Spray Drier,Model 190 Brink
mann Instruments,Inc.,Westbury,NY))を使用して
、混合物を噴霧乾燥した。得られる微細な自由流動性の白色粉末をフィラーBと称した。
【0126】
フィラーC(シラン処理されたヒュームドシリカ):
A174を16.48部、メタノールを10.99部、酢酸を1.49部、脱イオン水
を2.39部、一緒に混合することによって、シラノール溶液を調製した。混合中、シラ
ノール溶液を20〜30℃の温度範囲に保持した。ヒュームドシリカ(OX−50)(6
8.66部)(デグサ社、ニュージャージー州パーシパニー(Degussa Corp
oration,Parsippany,NJ))をVブレンダーに装填し、混合しなが
ら、30分間にわたってシラノール溶液をVブレンダーに加えた。得られる分散体をVブ
レンダーからプラスチックをライニングしたトレイに空け、67℃で3時間45分、乾燥
した後、100℃で1時間15分更に乾燥した。得られる微細で自由流動性の白色粉体を
フィラーCと称した。
【0127】
フィラーD(シラン処理された(3.5%)シリカゲルI):
脱イオン水(75g、水酸化アンモニウムでpH=9.0〜9.5に調節)中でシリカ
ゲルI(15g)を撹拌した分散体の入っている250mlビーカーに、A174(0.
52g)を加え、得られる混合物を室温で14時間撹拌した。得られる混合物を結晶皿に
注ぎ、125℃の強制空気オーブン中で約3時間乾燥させ、フィラーDと称される白色粉
末が得られた。
【0128】
フィラーE(シラン処理された(17.5%)シリカゲルI):
A174を2.63g使用したこと以外、フィラーDと同様の方法でフィラーEを調製
した。
【0129】
フィラーF(シラン処理された(3.5%)シリカゲルII):
シリカゲルI(15g)の替わりにシリカゲルII(20g)使用し、A174を0.
7g使用したこと以外、フィラーDと同様の方法でフィラーFを調製した。
【0130】
フィラーG(シラン処理された(7.0%)沈降法シリカ):
シリカゲルI(15g)の替わりにエースマット(ACEMATT)HK−450沈降
法シリカ(13.45g、ドイツ、デグサ社(Degussa AG,Germany)
)を使用し、A174を1.15g使用したこと以外、フィラーDと同様の方法でフィラ
ーGを調製した。
【0131】
フィラーH(シラン処理された(3.5%)沈降法シリカ):
シリカゲルI(15g)の替わりにエースマット(ACEMATT)HK−460沈降
法シリカ(15.0g、ドイツ、デグサ社(Degussa AG,Germany))
を使用し、A174を0.53g使用したこと以外、フィラーDと同様の方法でフィラー
Hを調製した。
【0132】
[実施例1A]
−シラン処理されたシリカクラスターのフィラー(別途の仮焼段階なし)
シリカクラスターとして緩く凝集した、ナノサイズのシラン処理シリカ粒子を、以下の
手順に従い、自由流動性の乾燥粉末の形態で調製した。入口温度325℃および出口温度
120℃の91cmナイロ・スプレー・ドライヤー(ナイロ・モバイル・マイナー・スプ
レー・ドライヤー、メリーランド州コロンビア)(Niro Spray Drier(
Niro MOBILE MINOR Spray Drier,Colombia,M
D))を使用して、ナルコ(Nalco)2329シリカゾル(1.0kg)を噴霧乾燥
させた。得られる乾燥固体のサンプル330gを5.5リットルのミル用広口瓶に加え、
16時間ボールミルで粉砕すると、白色の粉末が得られ、これは、本明細書に記載のクラ
スターサイズ決定試験方法に従い、平均サイズ5マイクロメートルのシリカクラスターか
らなることが決定された。シリカクラスターを構成する一次シリカ粒子は、出発ナルコ(
Nalco)2329シリカゾルにおけるのと同じサイズ、即ち、約75ナノメートルの
公称粒子サイズを有すると仮定された。
【0133】
磁器撹拌棒で2分間撹拌することによって、白色粉末のサンプル100gを脱イオン水
(300g)と完全に混合した。得られる均一な混合物を水酸化アンモニウムでpH8.
5に調節した。A174(3.5g)を加え、磁器撹拌棒を使用して、120分間、内容
物を完全に混合し、得られる混合物を最終pH8.25に調節した。次いで、入口温度2
00℃および出口温度85℃のブチ・スプレー・ドライヤー(ブチ/ブリンクマン・ミニ
・スプレー・ドライヤー、モデル190、ニューヨーク州ウエストベリー、ブリンクマン
・インスツルメンツ社)(Buchi spray drier(Buchi/Brin
kman Mini Spray Dryer,Model 190 Brinkman
n Instruments,Inc.,Westbury,NY))を使用して、混合
物を噴霧乾燥した。得られる微細な自由流動性の白色粉末を実施例1Aフィラーと称した

【0134】
[実施例1B]
−シラン処理されたシリカクラスターのフィラー(別途の仮焼段階あり)
最初のナイロ噴霧乾燥(Niro Spray Drying)から得られる乾燥固体
を、ボールミル粉砕前に550℃で3時間熱処理(仮焼)し、ボールミル粉砕後に550
℃で6時間熱処理(後仮焼(post−calcined))したこと以外、実施例1A
に記載のように、シリカクラスターとして緩く凝集した、ナノサイズのシラン処理シリカ
粒子を調製した。後仮焼段階後に得られた白色粉末を本明細書に記載のクラスターサイズ
決定試験方法に従い、平均サイズ5マイクロメートルのシリカクラスターからなることが
決定された。シリカクラスターを構成する一次シリカ粒子は、出発ナルコ(Nalco)
2329シリカゾルにおけるのと同じサイズである、即ち、約75ナノメートルの公称粒
子サイズを有すると仮定された。白色粉末をシラン処理し、実施例1Aフィラーに記載の
ように乾燥させ、得られる微細で自由流動性の白色粉末を実施例1Bフィラーと称した。
【0135】
[実施例2並びに比較例1、2および3]
−ペースト材料
ペースト材料は、液体樹脂Aを、フィラーA(シリカ粒子)、フィラーB(シリカ/ジ
ルコニアクラスター)、フィラーC(ヒュームドシリカ)、および実施例1Aフィラー(
シリカクラスター)の様々な組合せと、表4に示される量および添加濃度で完全に混合す
ることによって作製された。歯科用機器でペーストを調べることによって、実施例2およ
び比較例2のペースト(共に、樹脂中に粒子のクラスターを含有する)は、比較例1のペ
ースト(樹脂中に、本質的に離散したシリカ粒子を含有し、シリカクラスターを含有しな
い)よりも、著しくタッキネスが小さく(即ち、粘着性が小さい)、比較例3のペースト
(樹脂中に、ヒュームドシリカを含有する)よりも、著しくタッキネスが小さい(即ち、
粘着性が小さい)ことが分かった。選択されたペーストサンプルは、SWD/硬さ(粘着
性の尺度)を評価し、TEM分析を行った。実施例1Bフィラーを有するペーストの透過
型電子顕微鏡は、平均粒子サイズが約5マイクロメートルの概ね球状のクラスターを含む
粒子を示した。
【0136】
ペーストのサンプルは、標準的な手順(本明細書に記載の試験方法に詳述される)に従
って硬化され、得られる硬化した材料のうち幾つかの視覚的不透明性、艶保持、および機
械的強度を評価した。
【0137】
【表4】

【0138】
[実施例3〜5および比較例4〜5]
−充填された材料
コンポジット材料は、フィラーA(シリカ粒子)とフィラーD〜Hとの様々な組合せを
、液体樹脂Aと、表5に示される量および添加濃度で完全に混合することによって作製さ
れた。歯科用機器で調べることによって、得られる材料のレオロジー(粘着性、柔軟性、
およびテクスチャ)が決定され、観察された結果を表5に報告する。その結果から、フィ
ラー添加の合計が61%であるシリカゲル含有材料(実施例3〜5)は、非粘着性であり
、比較的柔軟で、操作が容易なペーストであったが、一方、フィラー添加の合計がそれぞ
れ55%および60%である沈降法シリカ含有材料(比較例4および5)は、歯科ペース
トとして使用するのには不適当な、非常に硬質のペースト又は粉末であったことが分かる
。ペーストは、好ましくは、シリカフィラーを合計で少なくとも約55%、更に好ましく
は、シリカフィラーを合計で少なくとも約60%含み、硬化時に、硬化した材料が歯科用
途に有用な物理的特性(例えば、低収縮、低摩耗速度)のバランスを有することにも留意
する。
【0139】
【表5】

【0140】
評価および結果
操作性:
実施例2のペーストおよび比較例1Bのペーストの操作性を、本明細書に記載の試験方
法に従ってテクスチャ分析器で測定した。硬さ、糸引き仕事量(SWD)、およびSWD
/硬さの比に関する結果を表6に報告する。SWD/硬さの比はペーストの粘着性の表示
であり、数値が低いほどペーストの粘着性が小さいことを示す。表6に示されるデータか
ら、実施例2のペースト(樹脂A中にシリカ粒子およびシリカクラスターを有する)は、
比較例1のペースト(樹脂A中に本質的にシリカ粒子だけを有する)よりも粘着性が小さ
かったということを結論付けることができる。
【0141】
【表6】

【0142】
視覚的不透明性:
キュアされたペーストサンプルから得られる硬化した材料の半透明性を定量的に評価す
るため、本明細書に記載の試験方法に従って、光の正透過(マクベス・デンシトメータ(
MacBeth Densitometer))およびコントラスト比の測定を行った。
実施例2のペースト、および比較例1および2のペーストから硬化した材料の結果を表7
に報告する。表7に示されるデータから、実施例1のペースト(シリカ粒子およびシリカ
クラスターを有する)、および比較例1のペースト(本質的にシリカ粒子だけを有する)
から硬化した材料の視覚的不透明性は低かった(マクベス(MacBeth)光透過値は
、共に0.20未満であり、コントラスト比は、共に30未満)が、一方、比較例2のペ
ースト(離散したシリカ粒子およびシリカ−ジルコニアクラスターを有する)から硬化し
た材料の視覚的不透明性は、著しく高かった(マクベス(MacBeth)光透過値は、
0.50であり、コントラスト比は、62.3)ことを結論付けることができる。より大
きいサイズのシリカクラスター(平均サイズ約5マイクロメートル)が、比較的高いパー
センテージ(樹脂の合計をベースにして31%)で材料中に存在することを考慮すると、
実施例2のペーストから硬化した材料の半透明性が高いことは、驚くべきことである。
【0143】
【表7】

【0144】
艶保持:
キュアされたペーストサンプルから得られる硬化した材料の艶保持を、本明細書に記載
の試験方法に従って評価した。実施例2のペーストおよび比較例1のペーストから硬化し
た材料の結果を、キュアされた市販の歯科ペースト、サイルクスプラス(SILUX P
LUS)マイクロフィルコンポジット(3M社(3M Company))およびZ25
0−A2ハイブリッド(又はマクロフィル)コンポジット(3M社(3M Compan
y))の結果と共に、表8に報告する。表8に示されるデータから、実施例2のペースト
(シリカ粒子およびシリカクラスターを有する)および比較例1のペースト(本質的にシ
リカ粒子のみを有する)から硬化した材料は、共に、500回のブラッシングの後に非常
に高い艶を保持し、共に、Z250−A2の市販の材料よりも著しく良好に艶を保持した
ことが結論付けられる。硬化した実施例2のペーストと硬化した比較例1のペーストは両
方とも、現在入手可能な艶保持歯科製品の中で最良である、市販のサイルクスプラス(S
ILUX PLUS)マイクロフィルの市販材料と類似の艶保持を示した。より大きいサ
イズのシリカクラスター(平均サイズ約5マイクロメートル)が比較的高いパーセンテー
ジ(樹脂の合計をベースにして31%)で材料中に存在することを考慮すると、実施例2
のペーストから硬化した材料の艶保持の程度が高いことは、驚くべきことである。
【0145】
【表8】

【0146】
機械的強度:
キュアされたペーストサンプルから得られる硬化した材料の機械的強度は、本明細書に
記載の試験方法に従い、直径引張り強さ(DTS)および圧縮強さ(CS)を評価するこ
とにより決定された。実施例2のペースト、比較例1のペースト、およびサイルクス・プ
ラス(SILUX PLUS)コンポジットから硬化した材料の結果を表9に報告する。
試験した硬化材料は全て、優れた機械的強度特性を有したということが、表9に示される
データから結論付けられる。
【0147】
【表9】

【0148】
かさ密度:
次の3種類のフィラー、即ち、実施例1のフィラー(シリカクラスター)、フィラーC
(シラン処理されたヒュームドシリカOX50)、および有機処理されたヒュームドシリ
カR7200(デグサ社(Degussa Corporation))のかさ密度を、
本明細書に記載の試験方法に従って測定した。結果は表10に記載され、シリカクラスタ
ーを含む実施例1のフィラーのかさ密度は、2種類のヒュームドシリカフィラーのかさ密
度よりも著しく高いことが分かる。
【0149】
【表10】

【0150】
実施例1Bのシリカクラスターの乾燥粉末の走査型電子顕微鏡(SEM3,000〜1
0,000倍)は、約5マイクロメートルの平均サイズを有する概ね球状のシリカクラス
ターを示した。対照的に、デグサ社(ドイツ、ハナウ)(DeGussa AG(Han
au,Germany))からOX−50の商標で入手可能なヒュームドシリカの乾燥粉
末の走査型電子顕微鏡(SEM、3,000〜10,000倍)(3,000〜10,0
00倍)は、ヒュームドシリカが、約0.1〜0.2マイクロメートルの公称サイズを有
する粒子の、溶融された、分岐鎖の三次元凝集体を含むことを示した。
【0151】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、および出版物、並びに電子的に利用可能
な資料の完全な開示は全て、参照により組み込まれる。前記で詳述される説明および例は
、明確な理解のためだけに記載されたものである。それらから、不要な限定を理解すべき
ではない。本発明は、示される、および記載される厳密な詳細に限定されるものではなく
、当業者に明らかな変更形態は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に包
含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂、
前記樹脂中に分散される第1のフィラーであって、シラン処理された表面を有し、重金
属を実質的に含まない、多孔質の非熱分解法シリカを含む第1のフィラー、および
前記樹脂中に分散される第2のフィラーであって、シラン処理された表面を有し、平均
直径が最大で約200ナノメートルである非凝集一次シリカ粒子を含む第2のフィラー、
を含む歯科ペーストであって、前記ペーストが、前記第1および第2のフィラーを合計で
少なくとも約55重量%含む、歯科ペースト。
【請求項2】
前記歯科ペーストが、前記第1および第2のフィラーを合計で少なくとも約60重量%
含む、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項3】
前記第1のフィラーと第2のフィラーの重量比が、少なくとも約1:4である、請求項
1に記載の歯科ペースト。
【請求項4】
前記第1のフィラーと第2のフィラーの重量比が、最大で約4:1である、請求項1に
記載の歯科ペースト。
【請求項5】
前記第1のフィラーがシリカゲルを含む、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項6】
前記第1のフィラーがシリカクラスターを含む、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項7】
前記多孔質の非熱分解法シリカが、約5ナノメートル〜約120ナノメートルの平均粒
子サイズを有する一次シリカ粒子の凝集体を含む、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項8】
前記凝集シリカの平均サイズが、少なくとも約1マイクロメートルである、請求項7に
記載の歯科ペースト。
【請求項9】
前記凝集シリカの平均サイズが、約1マイクロメートル〜約10マイクロメートルであ
る、請求項7に記載の歯科ペースト。
【請求項10】
前記凝集シリカの平均アスペクト比が、最大で約4:1である、請求項7に記載の歯科
ペースト。
【請求項11】
前記第1のフィラーのかさ密度が、少なくとも約0.4g/cm3である、請求項1に
記載の歯科ペースト。
【請求項12】
前記硬化性樹脂が、アクリレート、メタクリレート、エポキシおよびこれらの混合物か
らなる群より選択される、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項13】
開始剤を更に含む、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項14】
前記ペーストが、実質的に非粘着性である、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項15】
SWD/硬さの値が、最大で約0.5である、請求項1に記載の歯科ペースト。
【請求項16】
前記ペーストが、歯科補修材、歯科接着剤、鋳造材料、歯科セメント、歯科シーラント
、歯科コーティングからなる群より選択される材料を形成する、請求項1に記載の歯科ペ
ースト。
【請求項17】
前記ペーストは、硬化時に、最大で約50のコントラスト比、最大で約0.4のマクベ
ス値、最大で約4%の体積収縮、少なくとも約15MPaの直径引張り強さ、少なくとも
約35MPaの圧縮強さ、および艶保持試験で500回ブラッシングした後に最大で約3
0%の艶の損失、からなる群より選択される1つ以上の特性を有する、請求項1に記載の
歯科ペースト。
【請求項18】
歯科ペーストの調製法であって、
シラン処理された表面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを
含む第1のフィラーを、硬化性樹脂中に分散させる段階、および
シラン処理された表面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメートルである非
凝集一次シリカ粒子を含む第2のフィラーを、前記硬化性樹脂中に分散させる段階、
を含み、前記ペーストは、前記第1および第2のフィラーを合計で少なくとも約55重量
%含む、方法。
【請求項19】
硬化された樹脂、
前記硬化された樹脂中に分散されている第1のフィラーであって、シラン処理された表
面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを含む第1のフィラー、
および
前記硬化された樹脂中に分散されている第2のフィラーであって、シラン処理された表
面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメートルである非凝集一次シリカ粒子を
含む第2のフィラー、
を含む歯科物品であって、前記物品は、前記第1および第2のフィラーを合計で少なくと
も約55重量%含む、歯科物品。
【請求項20】
前記物品が、歯科ミルブランク、歯科補綴物、歯科矯正装置、人工歯冠、前方充填材、
後方充填材、およびキャビティライナーからなる群より選択される、請求項19に記載の
歯科物品。
【請求項21】
最大で約50のコントラスト比、最大で約0.4のマクベス値、少なくとも約15MP
aの直径引張り強さ、少なくとも約35MPaの圧縮強さ、および艶保持試験で500回
ブラッシングした後に最大で約30%の艶の損失、からなる群より選択される1つ以上の
特性を有する、請求項19に記載の歯科物品。
【請求項22】
歯科物品の調製法であって、
シラン処理された表面を有し、重金属を実質的に含まない多孔質の非熱分解法シリカを
含む第1のフィラーを、硬化性樹脂中に分散させる段階、
シラン処理された表面を有し、平均粒子サイズが最大で約200ナノメートルである非
凝集一次シリカ粒子を含む第2のフィラーを、前記硬化性樹脂中に分散させてペーストを
形成する段階であって、前記ペーストは、前記第1および第2のフィラーを合計で少なく
とも約55重量%含む段階、および
前記ペーストを硬化させ、歯科ミルブランク、歯科補綴物、歯科矯正装置、人工歯冠、
前方充填材、後方充填材、およびキャビティライナーからなる群より選択される歯科物品
を作製する段階、
を含む、方法。
【請求項23】
前記ペーストを硬化させる前に、前記ペーストのトポグラフィーを変化させる段階を更
に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
硬化性樹脂、および
前記樹脂中に分散されるフィラーであって、平均粒子サイズが約20ナノメートル〜約
120ナノメートルである一次シリカ粒子の凝集体を含む多孔質の非熱分解法シリカを含
むフィラーであり、前記フィラーは、かさ密度が少なくとも約0.4g/cm3、表面積
が最大で約150m2/gであり、前記フィラー中の凝集シリカの平均サイズが、約1マ
イクロメートル〜約20マイクロメートルであり、前記シリカが重金属を実質的に含まな
いフィラー、
を含む、歯科ペースト。
【請求項25】
前記多孔質の非熱分解法シリカが、シラン処理された表面を備える、請求項24に記載
の歯科ペースト。
【請求項26】
前記凝集シリカが、最大で約4:1の平均アスペクト比を有するシリカクラスターを含
む、請求項24に記載の歯科ペースト。
【請求項27】
前記フィラーが、前記凝集シリカを少なくとも約50重量%含む、請求項24に記載の
歯科ペースト。
【請求項28】
前記フィラーが、前記凝集シリカを少なくとも約80重量%含む、請求項24に記載の
歯科ペースト。
【請求項29】
前記フィラーが、前記凝集シリカを少なくとも約90重量%含む、請求項24に記載の
歯科ペースト。
【請求項30】
前記フィラーの表面積が最大で約75m2/gである、請求項24に記載の歯科ペース
ト。
【請求項31】
乾燥粉末の形態のフィラーの調製法であって、
揮発性液体中に分散されている、平均粒子サイズが約20ナノメートル〜約120ナノ
メートルの一次シリカ粒子を含むシリカゾルを乾燥させて、一次シリカ粒子の凝集体を含
む多孔質の非熱分解法シリカを形成する段階であって、前記凝集シリカの平均凝集体サイ
ズが、約1マイクロメートル〜約20マイクロメートルであり、前記シリカが重金属を実
質的に含まない段階、
前記凝集シリカを揮発性液体中に分散させ、多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体分
散体を形成する段階、
前記揮発性液体中に分散されている多孔質の非熱分解法シリカの表面をシランで処理し
、シラン処理された表面を有する多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体分散体を形成す
る段階、および
前記揮発性液体分散体を乾燥させて、前記フィラーを形成する段階、
を含む、方法。
【請求項32】
前記凝集シリカの平均サイズが、約1マイクロメートル〜約10マイクロメートルであ
る、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記乾燥されたシリカゾルをミルで粉砕し、凝集シリカを形成する段階を更に含む、請
求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記シリカを最大で約650℃の温度で仮焼する段階を更に含む、請求項31に記載の
方法。
【請求項35】
前記フィラーのかさ密度が、少なくとも約0.4g/cm3である、請求項31に記載
の方法。
【請求項36】
前記フィラーの表面積が、最大で約100m2/gである、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記凝集シリカが、最大で約4:1の平均アスペクト比を有するシリカクラスターを含
む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記シリカゾルが、ナトリウム安定化シリカゾルである、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記シリカゾルが、非ナトリウム安定化シリカゾルである、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
乾燥が、噴霧乾燥又はギャップ乾燥を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
歯科ペーストの調製法であって、
揮発性液体中に分散されている、平均粒子サイズが約20ナノメートル〜約120ナノ
メートルの一次シリカ粒子を含むシリカゾルを乾燥させて、一次シリカ粒子の凝集体を含
む多孔質の非熱分解法シリカを形成する段階であって、前記凝集シリカの平均凝集体サイ
ズが、約1マイクロメートル〜約20マイクロメートルであり、前記シリカが重金属を実
質的に含まない段階、
前記凝集シリカを揮発性液体中に分散させ、多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体分
散体を形成する段階、
前記揮発性液体中に分散されている多孔質の非熱分解法シリカの表面をシランで処理し
、シラン処理された表面を有する、多孔質の非熱分解法シリカの揮発性液体分散体を形成
する段階、
前記揮発性液体分散体を乾燥させて、フィラーを形成する段階、および
前記フィラーを硬化性樹脂中に分散させ、歯科ペーストを形成する段階、
を含む、方法。

【公開番号】特開2011−6429(P2011−6429A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176891(P2010−176891)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2003−563500(P2003−563500)の分割
【原出願日】平成15年1月29日(2003.1.29)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】